( ^ω^)はパンクバンドのベーシストのようです
- 50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:23:10.26 ID:TA/xXrD20
彼の名は内藤ホライゾン。
いたって普通の男だ。
トキオシティーの大学に通う20歳。
CDショップでアルバイトをしてお小遣いを稼ぐ。
どこにでもいるような大学生だった。
ただひとつ、パンクバンド、the VIPPERSのベーシストであるということを除いては・・・。
( ^ω^)はパンクバンドのベーシストのようです part2
〜TOKIO city is burning!〜
- 53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:24:14.20 ID:TA/xXrD20
- 今日はthe VIPPERSのライブがある。
土曜日の午前中だけバイトして、午後2時くらいにはリハーサルのため、ライブハウスへ向かう予定だった。
( ^ω^)(最近お客さんも増えてきたし、今日も楽しみだお)
ブーンがニヤけていると、同僚の女の子が声をかけてきた。
ξ゚听)ξ「ブーン君、なにニヤニヤしてるの?」
彼女の名はツン。ブーンと同じ20歳の大学生だ。この店でブーンよりも先にバイトをしており、ブーンもやり方を教えてもらったりした。
( ^ω^)「ツン・・・別にニヤニヤなんかしてないお!」
ξ゚听)ξ「してたよ〜。あっ、でも別に、いつもブーン君のこと見てるわけじゃないんだからね!たまたまよ!」
( ^ω^)「何言ってるんだお?」
ときどきおかしなことをいうが、ツンは明るくて話しやすかったので、ブーンにとっては付き合いやすかった。おかげで、バイト中も退屈しないですむ。
ξ゚听)ξ「ブーン君、午後からは何するの?」
( ^ω^)「今日は・・・友達と約束があるんだお」
なんとなく、ブーンはバンドをやっていることを秘密にしていた。なんだか恥ずかしかったのだ。「バンドやってるよ」なんて、なんか自慢しているみたいで、ブーンにはしっくりこなかった。
- 55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:25:23.42 ID:TA/xXrD20
- バイトを済ませ、ブーンはコンビニでおにぎりを買い、軽く昼食を済ませた。
コンビニのおにぎりはひどくまずかったが、自炊する気にはならなかった。
ペットボトルの麦茶を飲む。今日はとても暑い。
まだ5月も半ばだというのに、こんなに暑くなるなんて。
Tシャツにジーパン、そしてコンバースのスニーカーを履いたブーンは、ひとり暮らしをしている部屋まで原付を飛ばした。
家に帰ったブーンは、準備し始める。準備といっても、自分のベースと革ジャンくらいだ。
どちらも安物だったが、生まれて初めて買ったものだったので、ブーンは気に入っていた。
急いでトイレに行こうとしたとき、テーブルで脛をしたたかに打ち、ブーンはうずくまる。
それもこれも、部屋の整理をしないからだ。部屋の中にはレコードやCD、服などが乱雑に積み重なっている。
( ^ω^)「明日にでも掃除するかお・・・」
そんな独り言をつぶやくうちは、掃除などしないものだ。
ただ、自分を納得させたかっただけなのかもしれない。ブーンにとっては、明日の掃除よりも、今日のライブのほうが重要だったのだ。
玄関のドアに鍵をかけ、ブーンは愛車であるホンダの原付にまたがった。
今日も走りは快調。革のジャンパーは少し暑いが、風を切って走るととても気持ちがよかった。
- 56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:26:36.94 ID:TA/xXrD20
- 午後2時ちょうど。ブーンはライブハウスに到着した。
すでに何人か、人の姿がある。おそらく、他の出演者だろう。
ブーンは軽く挨拶を交わしながら、楽屋へと入っていった。
('A`)「おうブーン。相変わらず時間通りだなおめーは」
楽屋に入ると、一人の男が声をかけてきた。彼の名はドクオ。
the VIPPERSのボーカルである。痩身で眼光が鋭く、まるでジョニーロットンのようだと、ブーンはひそかに思っていた。
そのドクオは、編み上げブーツを履いた両足をテーブルに投げ出し、煙草を吸っていた。
( ^ω^)「ドクオがこんな時間にいるなんて珍しいお!いつも遅刻するくせに・・・」
ブーンがそう言うと、ドクオは肩をすくめた。
('A`)「暑くてやってらんなくてさ。地下にもぐってたほうがいいんだよ」
ブーンも、同意するように笑った。
バンド結成以来、もう3年近い付き合いになるが、ブーンは知れば知るほど、ドクオのことをおもしろいと思っていた。
めちゃくちゃに切った髪の毛を金髪に染めて、乱暴に逆立てている。こんなDQNな風貌の男が、理工系の大学に通う学生だとは、とても信じられなかった。
椅子に座って、煙草を取り出した。ラッキーストライク。煙草を吸いだしたのは最近だ。
別にうまいと感じたことはなかったが、何かの儀式のような気がしている。
この銘柄を選んだのは、ストレイキャッツのレコードのジャケットの裏側に、ラッキーストライクの写真が載っていたからという、単純な理由だった。
火のついていない煙草をくわえながらブーンがベースのチューニングをしていると、2人の男が楽屋に入ってきた。
- 58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:27:17.13 ID:TA/xXrD20
- ( ゚∀゚)「お〜う、おつかれ!」
最初に入ってきたのはジョルジュ。VIPPERSのドラマーだ。
女好きがひどいが、彼のドラムはパワフルで正確。バンドの屋台骨として、そしてバカキャラ担当として、欠かせない存在だった。
(´・ω・`)「こいつず〜っと女の子ばっか見てるんだよ。ナントカしてくれよ〜」
ぼやきながら入ってきたのは、整った顔立ちをした背の高い男。
ギターを担当する、ショボンである。彼は、the VIPPERSのリーダーとも言うべきだった。
バンドの音楽的なことはもちろん、他のバンドとの交流や、ライブハウスとのやりとりも、彼が担当していた。
ブーンとは同じ高校で、バンド結成以前から友達だった。
( ^ω^)「ジョルジュの女好きは何やっても変わらないお!」
笑いながら、ブーンはくわえていたラッキーストライクに火をつけた。
- 59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:28:55.11 ID:TA/xXrD20
それから4人は、リハーサルの順番が来るまで他愛もない話で盛り上がった。
缶コーヒーや煙草やガムが、めちゃくちゃうまいなんていう話だ。
女の話もしたが、ブーンは特に話すようなことはなかったので、そのときは聞き役に徹していた。
やがてブーンたちに順番が回ってきて、リハーサルをはじめる。
ライブというものの一連の流れには、すでに慣れていた。
このトキオシティーで、もう2年にもなる。
最初のころは誰も自分たちのことなど知らなくて、ライブでも客のノリはいまいちだった。
しかしだんだんと自分たちの名前も知られるようになってきて、最近では、VIPPRS目当ての客もちらほらいるようだ。
そつなくリハーサルを終え、4人は近くのラーメン屋でチャーハンを食べた。
本番までまだ時間がある。
4人はいったん解散して、それぞれ好きなことをすることになった。
- 61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:29:51.96 ID:TA/xXrD20
- ブーンは、夕方の街を歩いていた。
昼間は暑かったが、いまは涼しくなってきている。
特にやることはなかったが、街をぶらぶらするのは嫌いじゃない。
いろんな人たちがいて、そこにそれぞれのドラマがある。
のどが渇いたので、ブーンはコーラでも飲もうと、近くのコンビニに入った。
ジュースのコーナーに行き、缶コーラを探す。
( ^ω^)(やっぱ、コカコーラの缶がいちばんうまいお)
幸いなことに、このコンビニにはコカコーラの缶コーラが売っていた。
冷蔵庫から取り出そうとして、取っ手に手をのばす。
そのとき、となりにいた人が同時に手をのばしてきた。
( ^ω^)「あっ、すみま・・・!!!!」
その人を見て、ブーンは驚いて声を詰まらせた。
そこにいたのは、巻き毛のすらりとした女の子・・・バイト仲間のツンだったのだ。
(;^ω^)「ツ、ツン・・・」
- 62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:30:38.56 ID:TA/xXrD20
- 思わず名前を口にしてしまう。ツンはそのことに気付き、怪訝な顔でこちらを見つめ、少し間をおいてから声をあげた。
ξ゚听)ξ「ブーン君!?」
ツンは驚いているようだった。それもそうだろう。
普段特に服装に気を使わないブーンが、革ジャンを着込み、ひざの破けたジーンズ、そして髪の毛も整髪しているのだから。
一瞬、誰なのかわからなかったようだった。
ξ゚听)ξ「どうしたの、その格好?」
(;^ω^)「いや、これは・・・」
なぜかテンパってしまい、ブーンは口ごもった。
- 63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:31:15.89 ID:TA/xXrD20
- ξ゚听)ξ「ブーン君て、そういう格好もするんだね」
あせっているブーンを見ても、ツンは特に気にしていないようだった。
ブーンはなぜかほっとして、落ち着きを取り戻すことができた。
( ^ω^)「それにしても偶然だお!何してるんだお?」
ブーンは、話題を変えた。
ξ゚听)ξ「駅前で買い物とかしてただけだよ。ブーン君は、友達と遊ぶんじゃなかったの?」
(;^ω^)「え、えーと、6時くらいに待ち合わせてるんだお!」
ふーんというと、ツンはコンビニの冷蔵庫を開け、手にもっていたペットボトルのお茶を棚に戻した。
ξ゚听)ξ「ねえ、時間あるんだったらそのへんでなんか飲まない?」
(;^ω^)「えっ」
ブーンは、さらに驚いて、変な声を出してしまった。
ξ゚听)ξ「あ、別に予定あるんだったらいいんだけど」
ツンがそういうので、ブーンはブンブンと首を横に振った。
どうせやることはなかったのだ。それに、初めて女の子に誘われた。ただのお茶とはいえ、素直に嬉しかった。
( ^ω^)「どっか喫茶店でもいくお」
ξ゚听)ξ「そうだね」
ふたりは、そろってコンビニから出て行った。
- 64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:32:41.50 ID:TA/xXrD20
- あらためて見ると、ツンは可愛かった。それに、よく笑う。その笑顔を見ていると、こっちまで明るい気分になってしまうから不思議だ。
別に恋愛感情などはないが、ツンのようなかわいい女の子が土曜の午後にひとりで買い物など、あまり似合わない気がした。
そんなことを考えながら、ストローでコーラを吸う。
ツンはコーヒーを飲みながら、今は窓の外を眺めていた。
ξ゚听)ξ「そういえば・・・」
というツンの声で、ブーンは我に返った。
ξ゚听)ξ「ブーン君て趣味とかないの?休みの日とかさ」
( ^ω^)「趣味かお〜。僕は音楽が好きだお!」
言ってから、ブーンは後悔した。そう言うと、次に来る質問は決まっているからだ。
ブーンはその質問に答えるのが苦手だった。
- 65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:32:57.67 ID:TA/xXrD20
- ξ゚听)ξ「へえ〜!どんなの聴くの?」
やっぱり、と思いながら、ブーンはどう答えようか迷った。
パンクが好きなどといって語りだしても、相手に引かれるだけだ。
だからブーンは普段、音楽の話はしないようにしていた。
(;^ω^)「よ、洋楽とかわりと聴くお・・・」
苦し紛れに、ブーンはそう答えた。
ξ゚听)ξ「アブリルラヴィーンとか?」
(;^ω^)「ま、まあそんなことだお・・・」
CDショップでバイトしているので、アブリルラヴィーンが誰なのかは知っていたが、本当は聴いたこともなかった。
しかし、きょうび普通の女子大生が知っている海外のミュージシャンなど、数少ないのだろう。
ブーンはこれ以上突っ込まれたくなかったので、逆に質問した。
- 67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:33:35.49 ID:TA/xXrD20
- ( ^ω^)「ツンは何が趣味なんだお?」
ξ゚听)ξ「う〜ん、私は旅行とか好きだな〜。近くでも遠くでもいいから、いろんなところにいってみたい。写真を見るのも好きだし」
( ^ω^)「それはいい趣味だお!」
ブーンがいうと、ツンは照れくさそうに笑った。
ξ゚听)ξ「だから私、旅行関係の仕事につきたいんだ」
( ^ω^)(・・・ツンはもうそこまで考えているんだお・・・)
明確な将来のビジョンを描いているツンとは対照的に、ブーンは自分の進むべき道を見出せないでいた。
最近では、大学すらサボりがちだ。いったいこれから先、自分はどうやって生きていくのだろうか。
- 70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:34:21.60 ID:TA/xXrD20
- ξ゚听)ξ「ブーン君は将来どんなことしたいの?」
( ^ω^)「まだわかんないお・・・。もっと考えてみたいお」
ξ゚听)ξ「そっか。まあ、まだ時間あるし、じっくり決めればいいよね」
それ以上突っ込んだことをきいてこなかったツンに、ブーンは感謝した。
ブーンがストローを吸うと、ズズズッという音がした。
いつのまにかコーラはなくなっていたようだ。
ブーンには、自分の進むべき道がまだわからない。
ただひとつわかっていることは、バンドでベースを弾くのだということだけだ。
バンドをやっているときだけは、自分が無敵になれるような気がした。
時間が近づいてきたので、ブーンはツンと喫茶店を出て、その場で別れた。
せっかくなのだからと、携帯の番号とメールアドレスを交換した。
ブーンはあまり携帯を使わなかったが、友達が増えることは単純にうれしい。
- 72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 16:36:00.09 ID:TA/xXrD20
ライブハウスにもどると、すでに中は暗くなっていた。
もうすぐ始まるようだ。客も増えてきている。
超満員というわけにはいかないが、そこそこ入っていた。
ブーンが楽屋にもどると、メンバーの3人はすでに来ていた。
(´・ω・`)「ブーン、何してたんだ?」
何気ないショボンの質問に、ブーンはギクリとする。
(;^ω^)「そのへんブラブラしてたお」
女の子と会っていたなどといったら、何を言われるかわからない。
特にジョルジュなど・・・。焦りを打ち消すために、ブーンはラッキーストライクに火をつけた。
ケースからベースを取り出して、指慣らしをはじめる。
そうこうしているうちに、出番がきた。
('A`)「いくか」
ドクオは缶ビールを一気に飲み干すと、空き缶をゴミ箱に投げつけた。
狙いたがわず、空き缶はゴミ箱に納まる。
ブーンも気合を入れた。この緊張感。高揚。いつだって変わりはしない。
( ^ω^)(これが僕の生きる道だお!!)
ショボンを先頭に、4人はステージへと飛び出した。
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