( ^ω^)はパンクバンドのベーシストのようです

137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:09:34.92 ID:TA/xXrD20
  

 21世紀初頭。
 何もかもすべてが歪んで見えていた。
 彼の名は内藤ホライゾン。人は皆、彼のことをブーンと呼ぶ。
 トキオシティーに住む22歳、いたって普通の男だ。
 ただひとつ、パンクバンド、the VIPPERSのベーシストであるということを除いては・・・。



 ( ^ω^)はパンクバンドのベーシストのようですパート3
〜IN COLD BLOOD〜



140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:10:34.71 ID:TA/xXrD20
  
 カレンダーはもう12月になっているというのに、今日はやけにあたたかい、そして穏やかな日曜日だった。

( ^ω^)(みんな、幸せいっぱいな顔をしているお・・・)

 ブーンは公園のベンチでひとり煙草を吸いながら、煙とともにそんな思いを吐き出した。
 あの子が消えた翌日から、ブーンの暴走は始まった。
 酒に溺れ、何人かの人を傷つけた。
 安物を手に入れて、その日暮らしを繰り返す。そんな毎日。
 通っていた大学も辞めてしまった。
 アメリカツアーを行うために借金を抱え、帰国後はそれを返すために働く毎日。
 借金はちょっと前に返し終わった。いまは現場仕事をこなしている。
 詳しいことは何も知らない。自分が何を作っているのか。そんなことはどうでもよかった。
 そろそろ帰ろうと思い、ブーンは立ち上がって歩き出した。
 街はこんな時間から、すでに派手に動き出している。

( ^ω^)(きっともう、冬休みになったんだお)



143:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:12:02.65 ID:TA/xXrD20
  

 世間はクリスマスムード一色。そこらじゅうにツリーがかざられ、あたたかそうな歌が流れている。
 街の飾りつけなど、ブーンは別に嫌いではなかったが、あまり興味はなかった。
 ブーンは、安物のジャンパーの襟を立てながら、自分のアパートへと歩いた。

 家の近くまできたころには、すでに日が暮れていた。
 まったく、冬の昼間は短いものだ。
 そんなことを思いながら踏み切りで電車が通り過ぎるのを待つ。
 ふと空を見上げると、大きく白い月が輝いていた。
 ブーンには、その月が自分を見て、嘲笑したように見えた。
 汚れてしまった自分とは対照的な、キレイな月だった。

( ^ω^)(僕も、月みたいにきれいに・・・)

 そう思ったが、それはもはやかなわぬことだと悟ったブーンは、考えるのをやめた。
 それでもせめて、その月の横にある星くらいにはなりたかった。
 そんなブーンの目の前を、電車が勢いよく通り過ぎていく。
 その音は、ブーンが好きなブルースの最初のコードに似ていた・・・。



144:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:13:04.21 ID:TA/xXrD20
  
 the VIPPERSは、先日メジャーレーベルと契約し、CDをリリースしていた。
 ブーンが書いた曲も収録されている。
 そのおかげか、音楽だけで生活することができるようになりそうだ。
 そろそろ、現場の仕事をやめようかと思っていた。
 家に帰ったブーンは、冷蔵庫から白ワインのビンを取り出すと、グラスも使わずに飲みだした。
 部屋には、何本かのエンプティーボトルが転がっている。
 ブーンはBGMにロックンロールを流しながら煙草に火をつけ、詞を書いたりした。
 それが、ブーンの休日だった。



146:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:13:56.89 ID:TA/xXrD20
  
 バンドの活動は順調だった。ライブはいつも満員。
 リリースしたCDも、そこそこ売れている。
 ブーンはビジネスには興味がなかったが、客が増えるのはうれしかった。
 ステージ上では狂ったようにベースを弾き、客にもそれが受けた。
 ブーン自身は特に意識していなかったが、とにかくもう、自分にはこれしかないと思っていた。
 自分を表現する唯一の場所。
 あらゆる感情の捌け口。
 ためていたものを一気に吐き出すように、ライブでのブーンは、暴れ回った。



148:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:15:24.09 ID:TA/xXrD20
  

(´・ω・`)「ブーン、大丈夫か?」

 ショボンが心配してくれたが、ブーンは大丈夫と言って笑った。
 バンドメンバーや、ライブで知り合った仲間たちといるときは楽しかった。

( ^ω^)「もまえら最高だお!」

 ある日の打ち上げで、酔っ払ってそんなことを叫んだこともある。
 この楽しさがずっと続けばいいのに・・・。
 楽しいぶん、その時間が終わってひとりで家に帰るときは、どうしようもない気分になった。

( ^ω^)「僕にはもう、明日はないのかお・・・」

 そんな独り言の混じったため息は真っ白くて、灰色の空に向かっていった。

 しばらくして、ブーンは現場の仕事をやめた。
 これからはバンド一本。
 朝からワインを飲みながら、曲を書いた。
 朝から飲むワインは、なんだかとても反抗的で、とてつもなくうまく感じた。
 調子もよく、いい曲が書ける。
 そんなある日のスタジオにて。



149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:16:02.18 ID:TA/xXrD20
  
 VIPPERSのメンバーは、ブーンの書いた曲を吟味していた。ブーンにとっては自信作だった。

('A`)「しかしお前の詞はくれえな〜」

 自信作だっただけに、ブーンはドクオが発した言葉にカチンときた。

( ^ω^)「これが僕にとってのリアルな歌なんだお」

 ブーンは、ドクオを睨んだ。

( ^ω^)「ドクオには、僕の気持ちなんかわからないんだお」

 その一言がまずかったのかもしれない。

('A`)「あ?なんだよそれ?」

 ドクオの声に、いらついた響きが混じっている。
 ちょっと前のブーンだったら、すぐに謝って、それで終わっていたかもしれない。
 だがしかしどういうわけか、自分の感情を抑えることができない。



150:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:16:56.39 ID:TA/xXrD20
  
( ^ω^)「ドクオみたいにまっとうな人生を送っているやつに、僕のことなんかわかんないお!」

 ブーンは大きな声で言った。
 ドクオは理工系の大学院生になっていた。
 パンクバンドのボーカリストと、研究を行う大学院生。
 二足のわらじをうまくこなしている。
 周囲の期待にも応え、社会的にも認められるだろう。
 それにくらべて自分はどうだ。
 大学も中途半端なまま辞めてしまった。
 ふらふらと毎日を過ごし、酒に溺れ、バンドがなかったら生きていけないような生活。
 劣等感が、ブーンを支配している。



151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:17:31.45 ID:TA/xXrD20
  
( ^ω^)「ドクオはみんなから認められて・・・だけど僕は・・・」
('A`)「おいおい、何言ってんだよ甘ちゃんがよ!」

 ドクオは苛立ちを隠しきれない様子で言った。

('A`)「全部てめえでやってきたことだろうが。てめえでケツふけや」

 そう言われて、ブーンは黙ってしまった。

('A`)「おめーが劣等感から抜け出せねーのはおめーの弱さのせいだろが。そんなもん俺は、知りたくもないね!」

 ドクオは吐き捨てるようにいって、ブーンを見た。
 ブーンは、押し黙っている。それを見て舌打ちすると、ドクオはさらに続けた。

('A`)「そんなんだから女にも捨てられるんだよ、ボクちゃんよ〜!」



153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:18:23.93 ID:TA/xXrD20
  
 そう言われて、ブーンは思わず立ち上がり、ドクオに殴りかかっていた。
 椅子やテーブルが倒れる派手な音がする。
 あわててショボンとジョルジュが止めに入った。
 しかし、ブーンは爆発した感情を止められない。

(´・ω・`)「やめないか!!!!!!!!!!」

 そのとき、ショボンの雷鳴のような声が響き渡って、ブーンは我に返った。
 殴りかかろうとしていた拳が止まる。
 ドクオはブーンを睨んだままだ。
 その視線の鋭さに、ブーンは思わず目をそらした。ジョルジュがドクオからブーンを引き離し、倒れたいすを起こしてそこに座らせた。

(´・ω・`)「ブーン、今日は帰れ。ドクオも、もうよすんだ」

 ショボンに言われると、ドクオは舌打ちしてつばを吐いた。
 背を向けて煙草を吸い始める。

(´・ω・`)「ブーン!!」

 呆然としていたブーンは、ショボンの声でハッと顔をあげると、居場所をなくしたかのようにそそくさと荷物をまとめると、スタジオをあとにした。



154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:19:14.54 ID:TA/xXrD20
  
「ブーン!」

 少し歩いてから、うしろから声をかけられ、ブーンは振り返った。ショボンが追いかけてきていた。

( ^ω^)「ショボン・・・」
(´・ω・`)「ブーン、どうしちまったんだ?最近おかしいぞ。大丈夫か?」

 ショボンは、本気で心配してくれているようだ。
 しかし、自分でも原因はよくわからない。

( ^ω^)「さっきは・・・正直スマンかったお・・・」

 気持ちはだいぶ落ち着いていたので、ブーンはさっきのことを後悔していた。

(´・ω・`)「今日は帰ってゆっくり休むんだ。ドクオには俺から言っとくから、心配すんな」
( ^ω^)「うん・・・頼むお」

 ドクオには、悪いことをしたと思った。
 ドクオが苛立つのも無理はなかった。
 今の自分は、自分でも大嫌いだ。



155:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:19:56.56 ID:TA/xXrD20
  
 その日は、眠れなかった。
 寝るために飲んだ。
 しかし、2時間もすれば目が覚めてしまう。
 それでも寝ようとまた飲んだが、結果は同じだった。
 そんな生活が続いた。
 現場の仕事もやめてしまったため、引きこもりがちになり、飲んで曲を書いて、また飲んで寝て、その繰り返し。
 だんだん食欲もなくなり、体重は激減した。



157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:21:02.72 ID:TA/xXrD20
  
 幸いにもドクオとの関係は修復され、ライブも精力的にこなし、バンドは順調。
 しかし、プライベートは最悪だった。
 寝るために飲む。
 しかし、1〜2時間で目が覚める。
 眠れないのでまた飲む・・・。

( ^ω^)(だめだお・・・このままじゃダメだお!!)

 あるときブーンは、さすがにこのままでは廃人になってしまうと思い、飲むのをやめることにした。
 しかしそこには、想像を絶する地獄が待っていた。
 眠れない。2〜3日眠れないなどというのはザラで、ベッドの上で目を閉じると、言葉にできないような恐ろしい夢を見て飛び起きた。
 時計を見ると、まだ10分ほどしかたっていない。
 吐き気をもよおしてトイレに駆け込むが、食べていないので、吐くものもない。
 夏だというのに悪寒がする。耳鳴りがやまなかった。
 部屋の電気の光から聞こえてくる音さえも気になる。
 たまに眠れるのは、ツアーの移動中のバスの中などで、1〜2時間ほど眠れた。
 気分も体調も最悪だったが、ステージ上ではすべてを忘れた。
 いや、忘れたかったのかもしれない。
 最悪の気分から逃れたくて、ブーンは一心不乱に演奏し続けた。



160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:22:17.01 ID:TA/xXrD20
  
 そして狂ったように暑い夏、VIPPERSはライブハウス「2ちゃんねる」でのライブを迎えていた。
 客は満員。
 ステージに上がると、歓声があがる。

(;^ω^)(あれ・・・?なんか、おかしいお・・・)

 1曲目の演奏がはじまり、ブーンは異変を感じていた。
 足がぐらつく。
 ベースがうまく弾けない。
 コーラスを入れるはずだが、声も出ない。
 2曲目が始まる。
 さすがにメンバーも異変に気付いて、演奏しながらこちらを見ている。

(;^ω^)(僕、どうしちゃったんだお・・・)

 3曲目が始まったころ、ブーンは視界が暗く閉ざされていくのを感じた。
 何度も頭を振ってみるが、いっこうに元に戻らない。
 そのうち意識が飛んできてふらふらしはじめ、曲の途中で、ブーンはドラムに突っ込んだ。
 そしてそのまま、ブーンの意識はどこかへ飛んでしまった。
 はじめはパフォーマンスだと思った客も、だんだんと異様な光景にざわつき始める。
 そのままブーンはスタッフによって担ぎ出され、ライブは終幕を迎えた。



164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:23:51.22 ID:TA/xXrD20
  
 ブーンが目を覚ますと、真っ白な部屋の中にあるベッドの上で寝ていた。
 すぐに、ここは病院なんだと気付いた。病院のニオイは嫌いだった。
 すぐにわかった。

( ゚∀゚)「よう、起きたか」

 声がしたので見てみると、ジョルジュがいた。
 よく見ると、部屋の隅の椅子にドクオも座っている。いまは寝ているようだ。

(;^ω^)「ジョルジュ・・・僕はいったい・・・」
( ゚∀゚)「肝機能障害で緊急入院だとよ」

 そして、ことの経緯を聞いた。ショボンはいろいろな対応に追われ、いまは病院にはいないらしい。
 ツアーは中止になってしまった。

(;^ω^)(いくら赤字になったんだお・・・)

 ブーンは、そんなことが気になった。ショボンには申し訳ないことをした。

( ゚∀゚)「無茶しやがって。またドクオに怒られるぞ」
( ^ω^)「うん・・・ごめんだお」

 きっと、みんなに心配をかけてしまったのだろう。
 そして、うまくいっていたバンドに、自分のせいで穴をあけてしまった。
 そう思うと、急に泣けてきた。ジョルジュは何も言わずに、そんなブーンの肩を叩くと、医者に知らせてくるといって、病室を出て行った。



165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:24:55.16 ID:TA/xXrD20
  
 結局2週間ほどで退院した。
 精神科のカウンセリングなどが嫌だったが、なんとか我慢した。
 ブーンの退院後、しばらくの療養期間を経て、VIPPERSは新しいアルバムをリリースした。
 ブーンはあることを心に決めていたが、せめて、このアルバムだけは完成させてからにしようと思っていた。
 アルバムがリリースされ、ツアーをこなす。
 以前と変わらないように思えたが、ブーンの中の気持ちは、確実に変わっていた。

( ^ω^)「みんな、話があるお」

 ライブ前の楽屋で、ブーンはほかのメンバー3人に向かって言った。

( ^ω^)「僕、VIPPERSをやめようかと思う」



167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:25:32.98 ID:TA/xXrD20
  
 入院中から考えていたことだった。
 これ以上トキオシティーでやっていくのは無理だと感じていた。
 いちおう入院、療養はしたが、原因はもっと根本的なところにあるような気がした。
 いちど、すべてをリセットしたかった。
 3人はみんな驚いていた。
 だが、すぐに理解してくれた。



169:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:26:16.83 ID:TA/xXrD20
  
(´・ω・`)「すまなかったな、ブーン。お前には無理をさせすぎたかもしれない。俺の夢のせいで・・・」

 ショボンが言った。
 ブーンは首を振ることで、ショボンの言葉をやんわりと否定する。

( ^ω^)「ショボンが謝ることはないお。この5年間、楽しかったお」

 それは本当だった。
 なにもなかった自分がパンクを知り、ベースを弾き始め、パンクバンドのベーシストとしてここまでやってこられた。
 この5年間は、ブーンにとってかけがえのない時間だった。

( ^ω^)「僕がいなくなっても、3人なら大丈夫だお!」
('A`)「あたりめーだろ!調子に乗るなや」
(;^ω^)「それはひどいおwwww」

 そう言って、ブーンが笑うと、3人も声を立てて笑った。



170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2006/05/08(月) 17:27:03.59 ID:TA/xXrD20
  
 生き急ぐように全力で駆け抜けた5年間。
 the VIPPERSのベーシストとして、ブーンは濃密な時間を過ごした。
 パンク、ロックンロール、ベース、青春、友達、恋、壊れた心、絶望、出会い、別れ・・・
 そのすべてを抱いて、ブーンはいま生きている。
 いま、地の底から這い上がろうとしている。
 別に、天まで登ろうなどと考えているわけではない。
 ただみんなのところへ帰りたい。
 それだけだった。



 ( ^ω^)はパンクバンドのベーシストのようですパート3
〜IN COLD BLOOD〜


 完



戻るエピローグ