( ^ω^)ブーンがツン達を食べてしまうようです

3:1 :2006/05/22(月) 23:41:53.00 ID:YrEEz0OA0
  
 ―――パチパチ、パチ。パチ・・・パン!


 唐突に、薪が火花を伴って派手に弾けた。
 揺り椅子に座ってうつらうつらしていた僕は、炎の上げた悲鳴に起こされた。寝汗が首を伝っている。
 上着の袖でそれを拭うと、足元の薪を、暖炉の中へ投げ込んだ。

 ゆっくりと揺り椅子から身を起こすと、そっと、妻の眠る隣の部屋を覗き込む。
 ガラス窓の向こうに、静かに横たわる妻の横顔。

 白磁や淡雪のように、白く透き通った素肌。
 カラスの羽にも似た、しっとりと濡れた睫。
 ビロードにも負けないしなやかさと艶やかさを持つ、ブロンドの髪。農作業を営む身であるというのに、彼女は毎日、その髪を綺麗に巻き毛にして作業に勤しんでいたのを思い出す。

 ・・・綺麗だ。本当に、綺麗だ。まるでこの世の物ではないかのように・・・
 ・・・お世辞抜きでそう思う。

 自分のようにトロ臭い人間には、本当にもったいない女性だ。あんなに美しいんだ、それこそ、街の劇団にでも入ればあっという間に看板女優になれただろうに。
 だのに、彼女は僕の元に来てくれた。
 どうして僕を、なんて野暮な質問はしない。しても、彼女は笑わない。
 だけど、僕は、それでも・・・

 ( ´ω`)『―――ツン・・・なんで、神様は君を護ってはくれないんだお・・・?』

 ・・・ツンの首筋に浮かぶ黒点を凝視しながら、そう、神に問わずにはいられない。



4:1 :2006/05/22(月) 23:43:36.53 ID:YrEEz0OA0
  

 ―――遠い冬の日の悲劇から、今日で一年と半分が過ぎる。


 暑い、暑い夏の日だった。

 僕は畑に出て、今日も一人、鍬を振るっては作物の育成に励んでいた。
 地面に打ち込んだ鍬の先端を、力をこめて傾がせて土を掘り返す。何度も、何時間もそれを繰り返す。それは、常人なら気の狂わんばかりの単純作業。
しかし、丈夫な土壌、肥沃な農地を作るには、作り手の魂と、大地に宿る情熱が必要不可欠。僕はそう考えるからこそ、農作業にだけは絶対に手を抜かないようにしている。
 それは、僕が農家を営んでいるからというのもあるし、護りたい、大切な人もいるから。
 
 ξ ^∀^)ξ「お父さーん!こっちこっちー!」 

 そんな当の本人・・・デレは、今日も元気だ。
 どうしたお、と声を返すと、右手に小さなニンジンを持った少女が駆け寄る。

 ξ ^∀^)ξ「ねえねえ見て見てこのニンジン!お父さんの(ピー音)みたいだよ!」

 (;^ω^)「そ、それはさすがに酷いお・・・それに父さんのはもっと、こう・・・」

 両手でジェスチャーをするが、彼女の持つニンジンの放つシュールなオーラに、思わずどもってしまう。本当はもうちょっと・・・いや、でも・・・けどあそこまで粗末じゃないはず・・・
 そんな僕を仰ぎ見ると、デレはにこやかに笑う。

 ξ ^∀^)ξ「お父さんの(ピー音)!お父さんの(ピー音)!」

 振り上げるニンジンが、何度も赤く、太陽に照らされて笑っている。



5:1 :2006/05/22(月) 23:45:19.70 ID:YrEEz0OA0
  

 デレは、今年で13歳になる。僕と、ツンの大事な娘だ。
 
彼女はツンに良く似て、愛らしい顔に滑らかな髪を持っている。お人形のような、というほどではないが、それなりに美人だと思うのは親バカだろうか。
 まあ、性格は僕に似て、若干粗い、というか、天真爛漫というか・・・子供らしいというか。そんな感じ。でも、その無垢な笑顔はまるで天使のように思える。


 ツンを失って、季節が何度も移り変わって。
 今では彼女が、僕の天使。僕と共に暮らす、唯一の人間、


 ξ ^∀^)ξ「ねえお父さん、今日はお風呂でお父さんの(ピー音)とニンジンさんを比べてみようね!」

 (;^ω^)「で、デレはお父さんのアイデンティティを崩壊させる積もりかお」

 苦笑を交えつつ、鍬を垂直に振り下ろす。
 そんな僕の手元を微笑みながらじっと見ているデレだが、その瞳は真剣そのものだ。きっと彼女も、将来立派な農家の娘になるだろう。楽しみだ。本当に。

 汗を拭い、曲げっぱなしだった腰を伸ばす。
 トントンと腰の後ろを叩いていると、遠くの空から、トンビの鳴き声が聞こえた。
 ピー・・・・・・ヒョロロロ〜・・・。
 長く尾を引く鳴き声は、遠く広がる蒼穹に飲み込まれてすぐに聞こえなくなった。

 ぐるりと辺りを見回す。
 地平線の果てに、ポツポツと街の建造物。僕と街を結んだ間くらいに、またポツポツと農家。
 ここは、大地の真ん中。親から受け継いだ、広大な農業地帯の一角。僕の、畑だ。



6:1 :2006/05/22(月) 23:46:49.62 ID:YrEEz0OA0
  
 地平線が見えるから、ホライゾン。
 そう名づけてくれた親に、感謝している。
 僕は、どこまでも続くこの農作物の畑の流れが、ニンジン畑が、ジャガイモ畑が、ライ麦畑が大好きだ。
 日焼けして、肌は真っ黒。農作業で鍛えた筋肉は、そんじょそこらのチンピラには絶対に負けないくらいどっしりとしている。
まあ、多少お腹は緩いけども・・・まあ、37にもなればそんなもんだろう。
 兎も角、僕はそんな、農家の長男として生まれ、育った自分を誇らしげに思う。

 それに、僕がこうやって農家に生まれたから、ツンとも会えたんだし・・・

 知らず知らずのうちに、目線は納屋の方へ向かう。
 数秒間納屋を見つめて、僕はため息をついて、

 ( ^ω^)「さ、デレ。今日はもう帰って、夕食の準備をしようか」

 大分西の空に傾いた太陽を仰ぎ、そうデレに言った。
 左手に鍬を担ぎ、右手にデレの左手を。
 それは、幸福だった。
 少なくとも、今の僕には、かけがえの無い。



9:1 :2006/05/22(月) 23:49:17.71 ID:YrEEz0OA0
  
 
 ξ ^∀^)ξ「よーし、それじゃいっただきまーす!」

 ( ^ω^)「天にまします我らの神よ、父と子と精霊の御名におき・・・今宵の糧を・・・・・・感謝すると共に・・・恵みを・・・」

 元気良くニンジンのスープにスプーンを突っ込むデレ。今日収穫したニンジンをほおばると、もぐもぐとおいしそうに咀嚼する。そしてそれを嚥下するが早いが、高速で次のターゲット・・・チキンのロースト・・・に取り掛かった。
 そんな彼女のいつもの光景を横目で見ながら、僕は食前の祈りを

 ξ ^∀^)ξ「パパのチキンもーらいっ!」

 ( ^ω^)「ちょまっ!おっ、おっ〜!」

 中断して、デレの突き出すフォークを自らのフォークで叩き落した。
 しかしデレのフォークは蛇の如き執拗さで、今度は違う角度から僕のチキンを狙う。
 
 (;^ω^)「デレ、流石にこれを食べられたら、僕明日から働けなくなるお・・・」

 お腹ペコペコなんだ、という風にジェスチャーすると、イタズラに目を輝かせていたデレも、さすがに反省してフォークを戻す。
 そして僕も、晩餐に取り掛かる。

 ―――既に、外は暗かった。
 漆黒の衣に包まれ、夜は安らかに眠る。
 テーブルの中央と部屋の四隅にある蝋燭が、部屋に優しい明かりを投げかけている。

 そんな平和な時の中で、一年半前の、あの雪の日に死んでしまったツンを、ふと思い出した。



11:1 :2006/05/22(月) 23:51:50.11 ID:YrEEz0OA0
  

 パンを食みながら、僕は明日の予定について考えていた。

明日はまず、朝起きたら太陽が高く上らぬ内にデレと一緒に森へ赴き、食べられるキノコを沢山とって、家に帰ったら今日の作業を続きをして・・・


 ・・・そして、納屋に行って・・・・・・ツンの


 ξ ^∀^)ξ「・・・お父さん、どうしたの?怖い顔だよ?」

 言われて、思わずはっとする。
 ゴホン、と咳をして沈黙を紛らわすと、僕はチキンにかぶりついた。それを見て安心したか、デレはサラダの中からトマトを選び、口に運ぶ。
 天使の唇が、やさしくもぐもぐと動く。ピンクの先端が、上下に揺れていた。

 ( ^ω^)「デレ・・・」

 ξ ^∀^)ξ「なーに?」

 ( ^ω^)「―――もうお前も12歳だし。そろそろ、お母さんの話をしてあげるお」

 
 ひくり、とデレの目が歪む。一年と少し前に死んだという、母の話。それは、僕達の間ではタブーだったのだから。
 ・・・少しだけ躊躇するように瞬きを繰り返すと、デレは静かに頷いた。
 それを確認し、僕は語り出す。
 晩餐は終わり、ただ静かに、蝋燭の炎がチロチロとグラスの水を照らしていた。



12:1 :2006/05/22(月) 23:53:44.94 ID:YrEEz0OA0
  

 ―――ツンがこの家に始めて来たのは、まだ僕が二十歳で、今よりももっと若くて青い頃の事。

 ξ ゚听)ξ「・・・ツンです。よろしくお願いします」

 普段は街に住むツンだが、もともと細菌に敏感な体質で、何かあるとすぐに発熱したり肺を患わせてしまうため、一時的に知人の家・・・つまり、当時の僕の家に静養に来たのだそうだ。
 当時、街では肺炎が流行っていた。とは言っても、感染力は低いし、せいぜいそれで死ぬのは免疫力の低い老人か、赤ちゃんくらいのものだ。ただ、ツンは病弱なため、念をきして田舎へと移ってきたらしい。
 ついでに、その虚弱な体質を農家特有の雄大な自然で治療したい、とも彼女の親は思っていたようだけど。

 まあ、そんな彼女の事情はともかくとして。

 僕が驚いたのは、彼女のその都会っぽい身なりや訛りのない丁寧な言葉遣いもあったんだけど、なによりもその可愛さだった。
 本当に、こんなに可愛い子がこの世に存在するんだろうか、って思うくらい。ツンは可憐で、儚げで、何より輝いていた。
 
 J( ‘-`)し「ブーンや、今日からしばらくの間、お前の妹になる子だよ。可愛いねえ」

 ( ^ω^)「(カワイコチャンktkr!!!!!!!!!111111)あ、あ、えっと、よ、よろしくだお」

 ξ ゚听)ξ「どうも・・・」



14:1 :2006/05/22(月) 23:57:50.30 ID:YrEEz0OA0
  
 
 ただ、ウチに来たからといって、彼女は特に農作業をするわけでもなく、納屋にこしらえたベッドに寝転んでは、枕元の窓から、日がな一日ぼーっと外の景色を見てため息を落とす日々を送っていた。
そりゃそうだ、貧弱な彼女に手伝えるほど、農家の仕事は楽じゃないからね。
 だから、僕は毎晩、彼女の寝泊りしている納屋に向かっては、その日の出来事や思い出なんかを、事細かに語ってあげていた。ウチには、本なんて文化的なものは無かったから。
 ツンは、初めは興味なさげにうんうんと頷くだけだったよ。
 僕が何を言っても、

 ξ ゚听)ξ「興味がないの」

 だの、

 ξ ゚听)ξ「近寄らないで黒豚」

 だの。すごくツンツンしててね、そっけない子だった。
 ・・・でもね、いつか熱意は通じるものだよ。

 あれは、トマトの収穫をした日だった。良く覚えてるだろ?
 だってツンったら、僕の持ってきたトマトを見て、まるで宝石でも見るような目でそれをじっと見つめるんだからさ。

 ξ ゚听)ξ「綺麗ね・・・」

 太陽みたい。ためつすがめつ、彼女はそう感慨深げに言ったんだ。
 嬉しかったよ。だってそれは、僕が苗から育てたトマトだったんだからね。



16:1 :2006/05/23(火) 00:00:18.63 ID:iE2bW50p0
  
 
 ξ ^∀^)ξ「おかあさんって、昔はそんなに怖い人だったの?」

 話の途中で、デレがそう聞いて来た。そうだね、と僕は頷く。
 でもね、そういう人だったからこそ、初めて彼女が笑ってくれた時は、そりゃもう飛び上がらんばかりに嬉しかったのさ。

 ξ ^∀^)ξ「えへへへ、それじゃあたしも少しだけお母さんみたいになろーっとw」

 ( ^ω^)「お、どういう風にだお?」

 ξ ^∀^)ξ「ちかよるなこのくろぶた!」

 ( ^ω^)「おまwwwwwwwそこは見習わなくていいおwww」

 ξ ^∀^)ξ「ちぇー」

 ・・・・・・ま、それはともかく。
 さっき言った、あのトマト事件から、ツン・・・お母さんは、少しずつ、僕に心を開いてくれるようになった。っていっても、それまで黙って話を聞いていたのが、ときたま合いの手を加えるようになった、程度のものだけどね。
 でも、それでも僕はうれしかった。彼女が始めて大笑いした時なんて、有頂天になって朝方まで話し込んじゃったしね。
 
 ・・・それで、えーっと・・・そうだな、アレは、ツンが家に来て、半年が経過した頃だったかな?
 肺炎の流行も収まり、ツンを連れ戻しに来た彼女の父親に、ツンは言ったんだよ。
 
 ξ ゚听)ξ「パパ、私このままこの家にいたい」



17:1 :2006/05/23(火) 00:02:24.71 ID:iE2bW50p0
  
 ・・・・・・このままこの家にいたい、だって?
 彼女の隣でその言葉を聞いて、彼女が帰っちゃう、ってうなだれてた僕は、まるで地獄から天国へと一直線に上る気持ちになったよ。
 
勿論、彼女の両親は反対した。
 ウチの両親は彼女が望むなら、って言ってた。そして、当の本人は、

 ξ ゚听)ξ「お願い、パパ・・・私、農業に興味が湧いてきたの」

 そう言って、わがままを曲げなかったんだ。
 それで、結局・・・学校を一年間休学して、その間だけ、っていう条件で、彼女の父親はそれを許したんだ。彼女、大喜びして僕の両手をとってはしゃいでた。
 


 ( ^ω^)「さて・・・ここからがいいところなんだけど、この続きはまた明日話してあげるおw」

 ここまで語って、僕は眠たそうに目をこするデレにそう、優しく言った。
 デレは残念そうにうー、と唸ると、

 ξ ^∀^)ξ「絶対、また明日お話してね!」

 ( ^ω^)「だおwwwそれじゃ、もうお子様は寝るお」

 ξ ^∀^)ξ「はーい」

 そして僕はダイニングの蝋燭を吹き消すと、寝室へとデレを連れて行った。
 後には、うっすらと闇にたなびく白煙だけが残っていた。



20:1 :2006/05/23(火) 00:04:33.42 ID:iE2bW50p0
  

 ・・・深夜。

 僕は、デレを起こさないように、そっと身を起こす。
 シーツの擦れる音にも細心の注意を払ってベッドを抜けだすと、床板を軋ませないように寝室を後にした。

 後ろ手でドアを閉めると、どっと息を吐く。
 毎晩のことだが、何度繰り返しても、この『行為』には未だに慣れない。

 ( ^ω^)「・・・・・・ツン、こんばんは、だお」

 囁く様にそっと呟くと、納屋の扉を開ける。その闇に身を滑らすと、再びドアを後ろ手で閉めた。
 今度は、躊躇無く床板を鳴らしながら歩く。目的は、かつてツンの寝ていたベッド。
 ―――窓から僕を刺す月明かり。水銀のように白々しいその光の溜まりの中、僕は静かに屈み込み、ベッドの下へ手を伸ばす。指先に神経を集中し・・・
 
 ・・・カサリ。

 ( ^ω^)「・・・・・・・・・」

 あった。
 これを・・・今から・・・・・・畑・・・・・・・・・・・・・明日・・・手・・・・・・・・・



21:1 :2006/05/23(火) 00:07:00.35 ID:iE2bW50p0
  

 ξ ^∀^)ξ「おとうさーん!おきてー!!」

 ( ^ω^)「ムニャムニャ・・・巫女巫女ナースはもう古・・・おがふうっ!」

 明朝。
 僕は、実の娘による股間へのニードロップで爽やかに朝を迎えた。
 
 (;;;^ω^)「お、大人の階段を上るのも辛いお・・・」

 ξ ^∀^)ξ「何言ってるのお父さん!今日は何するの?」

 股間を押さえて悶絶する僕を見て、ワクワクと目を輝かせるデレ。幼さ故、彼女は退屈を知らない。
 激痛から帰還すると、僕は脂汗交じりに苦笑し、パジャマを脱いで枕元に準備しておいたシャツの袖に腕を通した。

 ( ^ω^)「今日は森に行くおwキノコや野草を取りに行くから早く準備するお。」

 ξ ^∀^)ξ「わーい!木苺さがすー!」

 木苺はこの時期は取れないお、と言おうとしたが、その時には既にデレは目の前にいなかった。
 遠くから、彼女が着替える音が聞こえる。一応、彼女には彼女の部屋を与えてあるのだ。寝るのはいつも一緒だが。

 再び僕の部屋に戻ると、彼女は笑顔満面で言った。

 ξ ^∀^)ξ「れっつらごー!」



22:1 :2006/05/23(火) 00:09:23.80 ID:iE2bW50p0
  
 
 ―――見渡す限りの新緑。
 木漏れ日の中を、少女が歩く。

 ( ^ω^)「デレ、そのキノコは食えるから取って欲しいお」

 ξ ^∀^)ξ「ラジャ!」

 敬礼し、足元のキノコを千切るデレ。そのまま自分の持つ籠の中へとそれを突っ込むと、再び次の標的を探してその目を輝かせ始めた。なんとも、この状況を心からエンジョイしている面持ちだ。

 そして、保護者である僕は・・・というと。

 ( ^ω^)「・・・久しぶりの森、かお・・・」

 ちょっとした回想に、ずぶずぶと浸っていた。

 ・・・そうだ、この道から見て、右手にあるブナの林を越えた反対側の小道。そこにはかつて、色とりどりの花と野草が咲き乱れていた。数年前、ツンがまだ元気だった頃の事。



23:1 :2006/05/23(火) 00:11:53.39 ID:iE2bW50p0
  

 ξ*゚听)ξ「すごーい、これ全部食べられるの!?」

 足元に広がる野草の茂みを見て、彼女は驚いていた。

 ( ^ω^)「そうだお。アレはフェンネル、あれはコリアンダー、ワイルドベリー・・・ハーブもあるし果物もあるお」

 ξ*゚听)ξ「すごいすごい!ハーブってこんな風に生えるんだー」

 驚きながら、彼女はモリモリとハーブを引き抜き、ポケットに詰め込む。

 (;^ω^)「ちょwwwポケットから溢れんばかりに植物がwww若干キメエwww」

 ξ ゚听)ξ「持って帰って鉢植えできるかもしれないじゃない」

 見れば、しっかりと根を残した状態でポケットに詰め込んでいるらしい。真っ白な指が土で汚れるのもかまわず、彼女は懸命にハーブを掘り起こしていた。

 結局、数種類のハーブが、その後彼女の部屋である納屋に鉢植えになって並ぶこととなる。彼女は懸命にハーブについて勉強し、僕はその時だけ、彼女の先生だった。



25:1 :2006/05/23(火) 00:14:17.27 ID:iE2bW50p0
  

 二時間後。
 僕達は、意外な収穫にホクホク顔になりながら、家路についていた。

 ξ ^∀^)ξ「お父さん、いっぱいキノコとれたねー」

 色とりどりのキノコの詰まった籠を揺らしながら、デレは嬉しそうに微笑む。僕も微笑むと、その頭をぐりぐりと撫でる。くすぐったそうにすくめる肩が愛らしい。
 ・・・さて、この後は家に帰って、昨日の続きをしなきゃ・・・

 未だ南中に停滞する太陽を感じながら、僕はそんなことを考えていた。



27:1 :2006/05/23(火) 00:16:04.97 ID:iE2bW50p0
  

 夜。
 今日は大分風が強いので、窓を締め切り、カーテンをキッチリと閉めている。
 
 蝋燭の明かりに照らされたテーブルの上には、今日も、既にあらかた片付けられた夕食の跡。グラスを照らす蝋燭の明かりも、昨日と同じだ。ただ違うのは、デレが期待の眼差しで僕を見つめていること。

 ( ^ω^)「わかったわかった、まあちょっと一服させるお」

 ξ ^∀^)ξ「早くー!お母さんの話聞くー!」

 仕方ないな、そう肩をすくめると、僕は口を開く。
 さて、今日はどの話をしようか―――。


 ・・・よし、それじゃ僕と母さんの、馴れ初めの話をしようか。



28:1 :2006/05/23(火) 00:18:26.49 ID:iE2bW50p0
  

 ξ ゚听)ξ「・・・え?」

 ツンの驚く顔。今でもまざまざと瞼の裏に浮かぶ。
 あれは、僕達が21歳になって・・・だから、ツンがウチに来て一年が経過した頃かな。冬だった。

 雪の降りしきる中、僕は強く、彼女を抱きしめてた。

 その瞬間だけ、時間が過ぎるのがすっごく遅く感じられて。感覚といえば、肩に積もる雪の重さと、彼女の吐息の音。それだけ。
 空気は硬く、雪は白く・・・無垢の世界の中、僕はツンを、抱きしめたんだ。

 ( ^ω^)「・・・好きだお」

 つい数十秒前に言った事を、僕はもう一度繰り返した。
 僕の両親に、暖炉にくべるための薪を貯蔵庫から取ってくるように言われて二人で家を出たときのことだったから、正直そんなに時間は無かったんだ。
 だから、僕は直球勝負に出た。

 ξ ゚听)ξ「・・・そんな・・・」

 カタカタ、と震える彼女の肩。それが寒さのせいじゃないって事くらいはわかってた。
 けど、怖くて、僕はツンの顔を見ることが出来なかった。ただ、ツンの体をきつく抱いて、好きだ、って。それだけ。

 少しして、ツンも僕の体を、ゆっくりと抱き返してくれた。その時になって、やっと彼女の顔を見ることが出来た。

 ツン、泣いてた。



29:1 :2006/05/23(火) 00:20:23.94 ID:iE2bW50p0
  

 初めて見たときから、僕はずっとツンのことが好きだったんだ、って。
 納屋に戻ってからそう打ち明けると、目を赤く腫らした彼女は驚いたようにその双眸を大きく見開いた。

 ξ ゚听)ξ「でも、私あの時、いろいろブーンに言っちゃって・・・」

 ( ^ω^)「ううん、気にしてないお。僕はもう、その時にはツンのことが好きになってたんだお」

 ξ////)ξ「そ、そんなに好き好き繰り返されると恥ずかしくなるじゃない・・・」

 普段はツンツンしてる彼女が、このときだけはすごく素直で、心から愛しく思えた。
 そしてツンも、言ってくれたんだ。

 初めて喋りかけてくれたときは、なんだコイツ、キモッ!って思ったんだって。でも、会話を交わすうち、次第に嫌悪感は消えていってたんだって。
 そして・・・本当は、もう半年くらい前から・・・だから、ウチにとどまりたいって言ってくれたあの時から、僕のことを、好いてくれてたんだって。

 ξ(゚、゚*ξ「わ、私だって・・・その・・・」

 ( ^ω^)「?何だお?」

 ξ////)ξ「い、いいから!もう!恥ずかしいわ!」

 プイッとそっぽを向くツン。怒らせたのか、と思って僕がうろたえたとき、

 ξ(゚、゚*ξ「・・・・・・」

そっと、僕の首筋に、ツンがキスしてくれた。



32:1 :2006/05/23(火) 00:22:11.83 ID:iE2bW50p0
  
 
次の日から、ツンは何かにつけて、動き回るようになった。と言っても、重労働はできなかったけど、夕食の手伝いをしたり、育苗の手伝いをしてくれたり。
そして一ヵ月後には、彼女もついに、外で僕らの農作業の手伝いをしてくれるようになったんだ。その頃には、両親・・・だからデレのおじいちゃんやおばあちゃんにも、僕達の事は伝わってた。勿論、二人はそれを心から祝福してくれたよ?
唯一、ツンのお父さんだけはその知らせを聞いたときに愕然としたらしい。まあ、本当は名家のおぼっちゃまと結婚させる予定だったらしいからね。政略の手ごまになるまえに、彼女が自ら農家の跡取りとくっついちゃうなんて、父親からしたらさぞかし無念だったろうね。
 
 ツンと僕が付き合うようになって数ヶ月が経った。
 彼女は父親と絶縁し、正式にウチの娘に・・・つまり、僕の奥さんになることになったんだ。

 結婚式なんて、農家が挙げれるもんじゃない。ただ、神に二人の未来を誓っただけの、簡単な結婚式を四人で済ませた。ツンは笑ってた。僕は、もっと笑ってた。



 そして・・・晴れて、僕らは一つになったんだ。



35:1 :2006/05/23(火) 00:24:01.34 ID:iE2bW50p0
  

 ξ ^∀^)ξ「すごーい!すごいすごーい!お母さんもお父さんのことが好きだったんだー!」

 ( ^ω^)「そう言われると照れるおww」
 
 さて、今日はココまで!
 僕がそう言うと、はーい、とデレは元気に返事をして、夕食の片付けを始めた。
 僕も続いて食器を下げる。軽く洗い物をしたあとは、昨日と同じく、蝋燭を吹き消して、寝室へデレと一緒に向かった。



39:1 :2006/05/23(火) 00:26:37.21 ID:iE2bW50p0
  

 ―――そして、深夜。
 風が強い中、僕は今日も、昨日と同じ道を・・・畑へと通じる小道を・・・歩いていた。

 パジャマを翻す風。不吉ささえ伴う漆黒の群雲。
 闇に足を取られそうになりながら、ゆっくりと歩く。

 昨日はライ麦の畑だったから、今日はジャガイモの畑。

 右手に鍬、左手に紙袋。
 カサカサ、と音が鳴る。
 カサカサ。カサカサ。紙刷れか、それとも『彼女』が、騒いでるのか。

 ( ^ω^)「・・・ツン・・・僕は・・・間違ってない・・・・・・おね?」

 昼のうちに掘っておいた、小さな穴。
 その淵に立ち、僕は一人ごちる。


 問いに答えたのは、烈しく舞い上がる颶風のみだった。



41:1 :2006/05/23(火) 00:29:08.62 ID:iE2bW50p0
  
 その夜。
 酷い夢を見た。


 ξ   )ξ「・・・−ン・・・ブーン・・・ブー・・・」

 ( ^ω^)「ツン!ツンなのかお!?」

 ξ   )ξ「ブーン・・・助け・・・・・・て」

 声が、聞こえた刹那。
 
轟、と。

あまりにも唐突に、視界が鮮烈な赫に染まった。それは、まるで煉獄の火。
 熱気と迫力に慄き、しかしそれでも僕は懸命にツンを探す。

 そして、頭上にツンの姿を見つける。

 それは、巨大なロザリオだった。
天と水平に浮かぶその十字架に掛けられたツンは、両手足に太いクギを打ち込まれ、苦しそうにその顔を歪ませていた。そして何より気味の悪いことに、そのクギから何かが染み出ているかのように、ツンの両手両足は黒く変色している。
 それは、まるでツンを殺したあの病気の症状に酷似していて、

 赫い炎の熱と彼女の哀れな姿に発狂しそうな僕に、ツンは、
 
 ―――あと、一つだけ、だね。

 微笑みながら、ただ静かに微笑みかけた。



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