( 'A`)がポストペットになったようです
- 154: ◆SKMlSPfKqU :01/12(金) 01:12 EaIZcvM0O
ドクオが消えてから一週間が経とうとしていた。
季節も夏から秋へと変わり、新しい毎日が始まろうとしていた。いつの間にか蝉の声は聞こえなくなり、代わりに空には赤いトンボが泳いでいる。
( ゚∀゚)「知ってるか?赤トンボってさ、羽を取ったら油虫なんだぜ…?」
(´・ω・`)「……」
(;゚∀゚)「そ、そんな目で見ないでくれ…悲しくなってくるから……」
ショボンとジョルジュも夏休みを終え、再び高校へと通う日々か始まっていた。
あの日から二人の関係は変わらず、こうして毎日を楽しく過ごしていた。カラオケに行ったり、ボーリングで対決してみたり、とにかく遊び回っていた。
しかしあの日以来、ショボンの生活には大きな変化が起こっていた。
( ゚∀゚)「そうだ、久々にモンハン・オンラインやろうぜ!!俺って結構良い武器作っちゃったんだよwwwww」
(´・ω・`)「ん…遠慮しとくよ……何か気分がのらないから…」
(;゚∀゚)「そ、そうか…ならまた今度だな…あははは……」
ショボンはあの日から、一切パソコンには触っていないのだ。あれ程ネットゲームが好きだったショボンが、パソコンを触らない事に気付いたジョルジュは何度か解決しようと奮闘した。
が、電源をつける様子すらなく、そのままかなりの時間が経っていた。
( ゚∀゚)「…で、何とかならないかな…?」
ξ ゚听)ξ「きっと思い出しちゃうんでしょ…ショボン、落ち込んでたから……」
( ゚∀゚)「確かにな…明るいあいつに戻っただけでも良かったと思ってる…けどな……」
( ^ω^)「時間が解決してくれるまで待つしか無い……ん、なんだお?」
三人はいつものように話し合っていた。
ドクオが消えた日…ショボンは一日中泣いていた。次の日も、また次の日もショボンは泣いていた。三人は見ていられず、ショボンを励まし続けた。
そのお陰でショボンはようやく落ち着きを取り戻し、以前と変わらないまでに回復したのだった。
( ^ω^)「なんかメールが届いて……これは…?」
- 155: ◆SKMlSPfKqU :01/12(金) 01:31 EaIZcvM0O
(´・ω・`)「……」
ショボンは部屋の真ん中に座り、ある物をずっと見ていた。その視線の先には勉強机が、そしてかつて毎日のように触っていたパソコンがあった。
机を見つめては視線をそらし、大きな溜め息をつく…その行為を何回も繰り返していた。
(´・ω・`)「はぁ……もう…いるはず無いのに……」
あの日、ショボンは確かにドクオの声を聞いた。
また俺と一緒に遊ぼうな
その言葉が何度も頭の中をよぎり、その都度パソコンのスイッチを押そうとした。
しかし電源まで手が伸びた時、どうしてもドクオが消えた瞬間の事が頭に浮かび、行動を起こす事を迷わせた。
(´・ω・`)「だって…また消えたら…また辛い別れが来るくらいなら……」
押さない方がマシだ。
そう思ってしまった。
何度もパソコンを触ろうともした。しかし体がそれを拒否し、伸びた指がキーボードに触れる前に固まってしまう。
心の奥にあるドクオの笑顔と、まぶたに焼き付いた消えていくドクオの事を考えると胸が苦しくなってくる。
精神的に深い傷を負ったショボンは、完全には立ち直れてはいなかったのだ。
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「やっぱり…ダメだ……」
今日も一時間ほどかけて電源をつけようとしたが、やはり体が言う事を聞いてくれなかった。
夏休みが終わってからの一ヶ月、その間にショボンは先のステップに進めないでいた。
(´・ω・`)「意気地無しだな…僕は…」
- 156: ◆SKMlSPfKqU :01/12(金) 02:16 EaIZcvM0O
ある日の夕方
ジョルジュは久しぶりにショボンの部屋へと来ていた。
手先が器用で無い彼に変わって、テレビの修理を引き受けたのだ。ジョルジュは元々電気関係には強く、日頃からあらゆる物を分解しては組み直すという変わった趣味を持っている。
その彼からすればテレビの修理など簡単なものだった。
(´・ω・`)「…ありがとう、これでやっとメタルギアの新作が楽しめるよ」
( ゚∀゚)「そのかわり、来週の学食はお前持ちだぜ?」
修理が済み一休みしていたジョルジュは埃を被っているパソコンを見つけた。もう一ヶ月近くも手入れされておらず、静電気のせいか大量のゴミや埃がディスプレイに付着していた。
机の上の風景もあの日のまま、全く変わっていなかった。
( ゚∀゚)「よっと…ちょっとパソコン借りるぜ?」
(´・ω・`)「えっ…あ…」
ショボンに制止の言葉を吐かせる前に、ジョルジュはすでに電源へと指を伸ばしている。
スイッチが押された瞬間、パソコンが起動し懐かしい画面が次々と流れてくる。
夏休みの課題の為に作ったエクセルファイル、ジョルジュが趣味でダウンロードしたグラビアクィーンの壁紙、そして「ポストペット」と題名に書かれたショートカット…何もかもがあの日のままであった。
( ゚∀゚)「実はな…ポストペットはバージョンアップしててな……寿命って概念を廃止するらしいんだよ…」
(´・ω・`)「……」
( ゚∀゚)「もう一回始めようぜ?新しいドクオとの生活を…」
ショボンはうつむき、何も答えなかった。
ただ、やり場のない悲しみが胸一杯に広がっていた。
寿命を廃止?
何故もっと早く出来なかったのだろうか…一ヶ月早ければ、僕達は大切な親友を失わずに済んだのではないのだろうか…?
( ゚∀゚)「お前がどれだけ悩んだのかも、苦しんだのかも知ってる……でもドクオと約束したんだろ?また一緒に遊ぶって……また海に行くって……」
(´・ω・`)「……」
( ゚∀゚)「じゃあ開くぞ…」
(´・ω・`)「待って…」
ショボンの手が、マウスを握っているジョルジュの手首を掴んだ。その手には多少の迷いと、確かな覚悟がみなぎっていた。
(´・ω・`)「僕が…起動させるから……」
- 158: ◆SKMlSPfKqU :01/12(金) 07:44 EaIZcvM0O
ショボンはジョルジュと席を替わり、マウスに手を伸ばした。
カーソルをアイコンの上へと移動させ、あとはクリックするだけだった。しかしそこでショボンの手が止まった。
よく見ると指が微かに震えている。恐怖と喪失感、そして期待…様々な感情がショボンの胸を巡り、ショボンにそれ以上の動きを与えない。
(;´・ω・`)「で、でも…」
( ゚∀゚)「お前…」
(´・ω・`)「約束を…守るんだ!!」
意を決してアイコンをクリックする。
一秒ほど間を置いて画面にタイトルが出てきた。どこか懐かしく、どこか物悲しかった。
画面にはドクオが居た部屋が一面に表示され、そこもあの日から全く更新されていなかった。
布団は敷かれたまま、床には飲みかけのミネラルウォーター、壁にはショボンがメールで送ったいつもの五人の姿が鮮明に残っている。
(´・ω・`)「……」
部屋のあちこちにドクオであったはずのもの、ドクオを構成していた光の粒が、未だに空中を漂っている。
一つ一つが意志を持っているかのように力無く漂い、少しずつその数を減らしていった。
( ゚∀゚)「ショボン……」
(´・ω・`)「大丈夫…その為に来たんだから…」
少しの時間を挟んで、ショボンはカーソルを画面上部のツールバーへ移動させた。
選んだ項目は「終了」では無く「新規作成」だった。少しの拒否感を心の中に押し込め、項目をクリックする。
(´・ω・`)「思えば一番最初も…こんな感じだったかも……」
ショボンとドクオが初めて出会った日、二人の初印象は最悪なものだったが、最後には唯一の友になっていた。
次に生まれる『ドクオ』とも親友でありたい、今日になってその気持ちに気付いたショボンは、ただパソコンに指示される通りに初期登録を済ませた。
すると暖かな光が部屋中を満たし、それがだんだんと形を形成していった。
小さい体、目付きの悪い瞳、癖の悪い手、そしてあの日消えたはずの体が目の前で再構築されていく。
部屋に漂っていた光の粒が、まるで吸い込まれるかのように暖かな光へと向かい吸収されていく。
(´・ω・`)「ドクオ…」
( ゚∀゚)「……」
光が弱まっていき、部屋の中心には何かが陣取っている。ふてくされた顔を隠す事無く、その場で三角座りをするその姿は、紛れもなくショボンとジョルジュの…最高の友の姿だった。
- 160: ◆SKMlSPfKqU :01/12(金) 08:35 EaIZcvM0O
( 'A`)「むにゃ……ふわぁ…ッ!!」
彼は目を覚まし、辺りを見渡した。
よほど見慣れぬ世界なのか、周りにあるものがどれも新鮮に感じる事が出来た。体を反らし伸びをする彼は、画面の外にいる二人の存在にようやく気付いた。
そして開口一番、二人に尋ねた。
( 'A`)「…なんだここは…お前らは俺の主人か…?」
( ゚∀゚)「……」
(´・ω・`)「違うよドクオ…、友達…かけがえの無い親友だよ…」
( 'A`)「はあ?…ま、まあよく分からんが…使い方はわかってるよな?」
しかし現れた親友は当然、二人の事を覚えていなかった。彼の頭の中からは、大切な思い出や記憶が抜け落ちていたのだ。
覚悟はしていた。
しかしショボンの目からは嬉しさと悲しさの結晶が溢れだした。
ショボン自身にも涙の理由は分からなかった。だが今までのような悲しみだけの涙ではない。ドクオと再び出会う事の出来た嬉しさ、楽しさ、それが涙を笑顔へと変えていく。
(;'A`)「な…何泣いてんだよ…何か悪い事でもしたかな……」
(´;ω;`)「違うよ…違うんだ……」
( ゚∀゚)「よお、初めましてだな…これからよろしくな!!」
(´・ω・`)「うん…ドクオ、これからずっと…よろしくお願いします…」
( 'A`)「?…変わった奴だな…泣いたり笑ったり……表情豊かと言うか…」
少し呆れた表情で二人を見回す彼は、紛れもなく『ドクオ』そのものだった。
仕草や喋り方、その全てがあの日と同じドクオだった。
友情なんてまた作り直せば良いんだ…僕らには時間も、仲間もいるんだから…
ショボンはそう考えた。
一から始まる、ドクオとショボンの日々がまた始まる。
( 'A`)「ああ…よろしく頼むぜ、ショボン!!」
(´・ω・`)「!!……僕の名前…なんで…」
( 'A`)「…え?」
- 171: ◆SKMlSPfKqU :02/13(火) 01:27 jdaV+fYRO
( ゚∀゚)「なるほどな…どうやらこの灰みたいなやつにデータが入っているらしいな。それが入った影響で潜在意識の奥に、昔の記憶が残ってるんだろうな…」
(´・ω・`)「で、でも…」
( ゚∀゚)「まあ非科学的だよな…でも実際こんな事態になってるんだから、信じるしかないだろ…」
(;'A`)「…?」
よく分からないといった顔で座るドクオ。きちんと正座しているあたり、やはり断片的にしか記憶が残っていないのだろう。
ジョルジュとショボンは考えられる可能性を絞り出してみたが結局結論には至らず、最初に考えていた「灰の中にあるメモリによる影響」が一番有力だと仮定した。
( ゚∀゚)「だとしたら…この灰のような粒子を集めてデータ化すりゃ、以前の記憶が全て残ったドクオが復活するって訳か……余計に非現実的だな。おっぱいと目に見えた物しか信じない俺が…信じるしか無いとはな…」
(´・ω・`)「うん…だったら早速作業に…」
( ゚∀゚)「待て…今始めれば、このドクオはどうなるんだ?」
ジョルジュは冷静にブラウザを指差し、そう尋ねた。少々困惑気味のショボンはゆっくりと考え、そしてその言葉を口にする。
(´・ω・`)「作業を始めるんだからまず一度初期化して、データの集積に……」
(;´・ω・`)「…あッ…」
何かに気付き、言葉を濁す。ドクオを復活させる事しか頭に無かったショボンは、肝心な事を忘れていたのである。
( ゚∀゚)「そう、データの集積の前に初期化する必要がある…なら今いるドクオは一体どうなる?記憶が無いとはいえ、こいつはドクオに違いないんだ。初期化してしまえばこいつは…消えてしまう」
(;´・ω・`)「……」
( ゚∀゚)「また消えてしまうんだ。今度は寿命とかじゃなく、俺達の手によってな…」
沈黙する。
何も考えずに作業しようとしていたショボンは愕然とした。
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