('A`)ドクオが一瞬を見るようです
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:14:32.72 ID:q9kjNJAC0
翌日。
疲れた体が眠りたいと悲鳴を上げていたが、
相変わらずしつこい蝉の鳴き声に見送られて、補習を受けるために学校へと向かった。
朝一の補習が終わると、昨夜の恨みを晴らすため、ブーンのクラスへと乗り込む。
(#)ω;)「ごめんなさいごめんなさいよくわからないけどごめんなさい
いや……包丁……だめ……やめてえええええええええええええええええええええええええ」
ブーンは教室の隅でうずくまり、何かをお経のようにぶつぶつと呟いていた。
('A`;)「どうしたんだ? こいつ」
ξ;゚听)ξ「よくわかんないけど、クーにボコボコにされたらしいわ」
すでにクーに半殺しにされていたブーン。
PTSDでも発症しそうな勢いで震えている。
水泳の練習で忙しいはずなのに、わざわざ朝一で学校まで来てブーンをぶん殴ったクー。
そんな彼女に免じて、俺は怒りの矛先を収めることにした。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:19:24.81 ID:q9kjNJAC0
自分のクラスに戻ると、さっきまでいなかったはずの長岡が一人で大笑いしていた。
_
( ゚∀゚)「うひゃひゃひゃwwwww 参った参った! 遅刻しちまったよ!!」
('A`)「なんだ。長岡、来てたのか」
_
( ゚∀゚)「おうよ! お前らも起こしてくれればよかったのによ!
昨日、っていうか今日か? あれから大変だったんだぜwwwwwwww」
('A`)「ブーンが起こしたけど起きなかったって言ってたぞ?」
_
( ゚∀゚)「そうなの? うひゃひゃwwwwwそりゃ悪かったな!!」
詳しく話を聞くと、昨夜(というか今日か?)俺たちに置いてきぼりにされた長岡は、
あのあと、終点まで寝過ごしたらしい。
結局それ以降電車は無く、その旨を駅長に話すと、親切にも駅長室に止めてくれたそうな。
_
( ゚∀゚)「親切な駅長さんでなwwww酒までご馳走してくれたよwwwwww」
図太い神経。愚直なまでの素直さ。人懐っこい笑顔。
こいつならきっと、ヒッチハイクで日本一周できる。俺は確信した。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:23:33.97 ID:q9kjNJAC0
それからも、真夏の日々は矢のように過ぎていった。
油蝉は相変わらずジージーうるさかったし、汗は滝のように全身から溢れて来た。
黒板には文字がいっぱいだったし、シャーペンの換芯は使いきってしまった。
ブーンはのんびりマイペースだったし、ツンはそんなブーンに怒ってばっかりだった。
長岡はおっぱいばっかりだったし、俺もつられておっぱいおっぱい連呼していた。
だけど本当は、頭の中は別のことで一杯だった。
クー。
三日月が優しく照らしていた真夏の深夜、
キスしようと言ってきた、彼女の真意が知りたかった。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:25:50.52 ID:q9kjNJAC0
だけど、あの夜以来、彼女にはあっていない。
水泳で忙しいようで、補習に姿を現さなかったから。
メールで聞いても良かったのだが、全国大会を目前にした彼女を邪魔したくなかったし、
それ以前に、そんな度胸なんて俺には無かった。
そうすれば、今まで彼女と築き上げてきた関係が音を立てて崩れてしまうような気がしたから。
もうすぐ当たり前じゃなくなる今の当たり前を壊してまで、
あの夜のことを彼女に問いただそうなんて思わなかった。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:27:38.67 ID:q9kjNJAC0
日々は流れ、過ぎ去っていく。
あっというまに盆休みが訪れ、さすがの学校も一週間の休日と相成った。
ここに来て、実に久しぶりの持て余した時間。
昼近くまで惰眠をむさぼって、カーちゃんが作ってくれたそうめんを昼飯代わりに平らげると、
学校の課題を済ませようと市立の図書館へ向かった。
高台にある図書館。
普段はバスで行くのだが、暇だったこともあり自転車で行くことにした。
しばらくは快適な道のり。
やがて上り坂が姿を現し、俺の身体はすぐに汗にまみれる。
息を切らしながら登り続けると、道の右手に景色が開けた。
故郷の街並みが見下ろせた。
ゆっくりと、だが着実に後ろに流れていく風景。
汗だくになっても自転車で来た甲斐があったと、少し笑えた。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:30:10.65 ID:q9kjNJAC0
('A`;)「……休館かよ」
図書館は閉まっていた。
冷静に考えれば、お盆なんだから当たり前だ。
近くの自販機で買った甘ったるいジュースで水分を補給すると、登ってきた坂道を今度は下った。
景色が急速に後ろへと流れる。生ぬるい風が頬を通り抜ける。
汗が引いていく。心地よい感覚。
妙にテンションが上がった。無性に叫びたくなった。
(#'A`)「エイドリア―――ン!!」
とある夏の日。青春の一ページ。
こんな日があったっていい。不思議と、そう思えた。
*('')*「ママー、あのおにいちゃん、じてんしゃにのってさけんでるよー」
('、`*川「見ちゃいけません!」
『黙れ、糞ガキ』なんて、そのときは欠片も思わなかった。
今振り返ってみれば、そう思うけど。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:32:09.50 ID:q9kjNJAC0
坂道を下り終え、街中に戻ってきた。
汗も引いたことだし、改めて課題を済ませようと近くの行きつけの喫茶店に足を運ぶ。
カランカラン。
無機質な、しかし心地よい鐘の音が鳴り響く。
店内を見渡し、空いている席を探していると、
隅のテーブル席に見慣れた後姿が見えた。
ξ゚听)ξ「あら。ドクオじゃない?」
( ^ω^)ノシ「おいすー!」
('A`)「ういっす。二人仲良くお勉強か?」
( ^ω^)「そうなんだお。ツンが一緒に勉強しようってうるさいんだお」
ξ;゚听)ξ「あ、あんたが暇そうにしてたから誘ってあげたんじゃない!」
( ^ω^)「そんなことないお。今日は録りためてた深夜アニメを見るつもりだったんだお!」
ξ゚听)ξ「アニオタ〜」
( ^ω^)「ツンデレ〜」
テーブルを挟んで仲良く口論する二人。
いつもの光景に頬を緩ませながら、俺はブーンの隣に腰掛けた。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:35:05.86 ID:q9kjNJAC0
コツリコツリと足音が聞こえた。
顔を上げれば、マスターが水を片手に立っていた。
(´・ω・`)「やあ、いらっしゃい。いつも楽しそうだね」
('A`)「うるさくてすみません……あ、いつもの頼んます」
(´・ω・`)「アイスコーヒーだね? かしこまりました」
部活帰りによく立ち寄っていたため、店のマスターとは顔なじみだった。
たわわなあごひげに白毛の混じった、中年と壮年の間くらいの紳士。
店内の雰囲気は、マスターの人柄をそのまま反映していた。
静かな、ここだけ時の流れが減速したかのような、
高原の湖の岸辺のような、木漏れ日のさす春の公園のベンチのような、非日常的な空間。
そんな不思議な空間を、俺たちの笑い声がかき乱す。
マスターは、そんな俺たちでも優しく接してくれていた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:36:51.51 ID:q9kjNJAC0
しばらくまじめに課題に取り組んだあと、大きく伸びをした。
店内の古時計に眼をやると、ちょうど三時を指していた。
同時に、三人の腹の虫がなり始める。
自分の腹の虫の音に顔を真っ赤に染めたツンが可愛かった。
休憩がてら軽食をとることにする。
( ^ω^)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」
('∀`)「きめぇwwwwwwwwwww」
ξ゚ー゚)ξ「マスターのチョココロネは最高ね♪」
(´・ω・`)「それはよかった。恐れ入ります」
店のウリのであるチョココロネに舌鼓を打ちながら、他愛も無い話で盛り上がる。
熱々の生地に、とろけるようなチョコレートが絶妙に絡み合う。
会話の良いお供、チョココロさん。
ありがとう、チョココロさん。
俺がチョココロさんに賛辞を送っていると、突然、ブーンが立ち上がった。
( ^ω^)b「うんこしてくるお」
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:39:22.67 ID:q9kjNJAC0
ξ;゚听)ξ (;'A`)「「 ゲホッ! ゴホッ!!」」
あまりにも空気を読めていない発言に、俺とツンは思わず咳き込む。
ξ#゚听)ξ「ちょっとあんた!
人がうんこ食ってるときにチョココロネって言うな!!」
(´・ω・`)「ツンさん。逆です」
('A`;)「もうチョココロさんがうんこにしか見えない……」
( ^ω^)「うんこうんこ連呼するなお。マスター、トイレ借りますお」
(´・ω・`)「どうぞ。ごゆっくり」
ブーンは意気揚々とトイレへと向かった。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:41:11.69 ID:q9kjNJAC0
('A`;)「まったく……あいつの空気の読めなさは異常だな」
ξ;゚听)ξ「ホント……あいつ、昔からああなのよ……」
ブーンがうんこマンと化している間、
俺はツンの口から語られるうんこマンの過去を聞いていた。
ξ゚听)ξ「まったく……自分に素直というか、バカ正直というか……
小学校のときね、朝礼で前に立った校長先生のカツラがズレてたの。
みんなさすがに空気を読んで何も言わなかったんだけど、あいつったら……」
('A`;)「どうしたんだ? まさか、カツラがズレてるって叫んだのか?」
ξ゚听)ξ「違うの。それならまだよかったわ。
あいつは朝礼が終わったあと、校長先生のところまで行って……カツラをつかんで……」
('A`;)「……もういい。みなまで言うな」
うんこマンは俺の予想の斜め上を行っていた。
ここまで空気が読めないと、あきれるを通り越して褒めたくなる。
ツンは続ける。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:43:20.97 ID:q9kjNJAC0
ξ゚ー゚)ξ「まあ、悪いところばかりでもないんだけどね。
ほら、中学校じゃ、いじめなんてどうしても起こるよね?
そんなとき、周りのみんなは悪い意味で空気を読んで、いじめられっ子を無視するじゃない?
だけどあいつは空気が読めないから、いじめられっ子とも仲良く遊ぶのよ。
それだけじゃなくて、いじめっ子とも遊ぶもんだから、結局いじめもうやむやになっちゃってねw」
彼女はニッコリと笑った。
ξ゚ー゚)ξ「あいつはきっと、良くも悪くもまっすぐなんだろうね。
自分がやりたいことをやる。あいつはきっとそれだけなんだよ。
それなのに、あいつの周りには自然に人が集まる。
あたしにはとても真似できないから……ちょっと羨ましいかな」
そう言って微笑む彼女は、素直に素敵だと思えた。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:44:23.28 ID:q9kjNJAC0
きっと、俺の知らない頃からふたりは同じ時間を共有し、
少しずつ少しずつ、今の関係を築いてきたのだろう。互いを理解してきたのだろう。
そしてやっぱり、ツンはブーンのことが好きなのだろう。
ブーンのやつは、ツンのことをどう思っているのか今ひとつハッキリしない。
けれども、普通の友達以上には思っているに違いない。
ツンとブーン。
いつも一緒にいる二人。
その関係の進まなさは、はたから見ていてイライラすることもあるけれど、
それがきっと、二人が長年培ってきた、二人だけの自然なリズムなのだろう。
それならば、部外者の俺に言うべきことは何も無い。
俺は荷物を手に取り立ち上がる。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:46:34.25 ID:q9kjNJAC0
ξ゚听)ξ「あれ? 帰っちゃうの?」
('A`)「ああ。仲のよろしいお二人さんのお邪魔はこれ以上したくないんでな」
ξ////)ξ「は、はぁ!? な、なに勘違いしてんのよ! んなわけないじゃない!!」
('∀`)「ふひひwwww ま、頑張んな。マスター、金、置いときます」
(´・ω・`)「ああ。ありがとう。またおいで」
カウンターに代金を置いて、俺は店の扉をあけた。
カランカラン。
外に出た俺を、鐘の音が見送る。
高い気温。
強い日差しが肌を刺した。
だけど珍しくカラリと乾いた、そんな夏の午後だった。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:48:38.57 ID:q9kjNJAC0
盆休みはまだまだ続く。
ばあちゃんの家に行ったり、墓参りをしたりと、それなりに忙しかった。
それでも、残り二日間は特に予定も何にも無かった。
無駄に朝早く起きたその日、俺は、暇を持て余していた。
何もすることの無い幸せなんか当時の俺に分かるわけもなく、何気なく学校に立ち寄る。
校門の前で、用務員のおっさんが掃除をしていた。
プールの施錠やらなんやらで顔見知りだったので話しかけたら、教室を開けてくれると言ってくれた。
一言お礼を言って、三階にある自分のクラスで盆休みの課題をこなす。
誰もいない教室は、当然のごとく静かだった。
いつもそこにあるはずの生徒たちの嬌声。
そんな当たり前が無いだけで、世界はこんなにも違うのかと、不思議に思えた。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:49:56.92 ID:q9kjNJAC0
二時間くらい机にかじりついた。
その間、何度かスピーカーからチャイムが鳴り響く。
生徒たちは休みなのに律儀なものだと、スピーカーを褒めてみたりもした。
開け放った窓から入ってくる風に、白いカーテンがひらひらとなびいていた。
風に舞うカーテンの白の先に、夏の深い青空が見えた。
蝉が鳴き、風に木々がそよぐ。
教室にある音は、それだけだった。
なんだか眠たくなってきた。
机に突っ伏して、少しだけぼんやりした。
いつの間にか、意識は眠りの底に落ちていた。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:50:55.05 ID:q9kjNJAC0
キーン・コーン・カーン・ゴェッ!!
('A`;)「おわっ!!」
鳴り響いたチャイムの音に、俺はビクリと痙攣しながら飛び起きた。
これが授業中だったら確実に恥をかいている。
周囲を見渡して誰もいないことを確認すると、『ホッ』とひとつ、ため息が出た。
黒板の上、時計を見上げた。
一時ちょうど。五時限目の始まりのチャイムだったようだ。
('A`)「……腹減った」
かといって、購買部が開いているわけが無い。
しょうがないので自販機で売ってある『カロリーメ伊藤』を買いに行くこうと教室を出る。
廊下の窓からは、誰もいないはずのグラウンドが見えた。
誰もいない、はずだった。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 22:51:49.93 ID:q9kjNJAC0
グラウンドの隅。
おっぱいのごとく盛り上がったマウンドの上。
おっぱいで言えばちょうど乳首の位置に、誰かが立っていた。
学生服でもなければ、野球部のユニフォームでもない、私服の少年。
こちらに背を向けていたので一瞬誰なのか理解しかねたが、
見慣れた後姿に、寝起きの俺の頭もすぐに反応した。
長岡だった。
ジッと、ホームベースをにらみつけるようにたたずんでいる。
なにをするわけでもなく、白く乾いたマウンドの上で、ただ立ち尽くしているだけ。
('A`;)「あいつ……何やってんだ?」
俺の頭に浮かぶのは当然の疑問。
階段を下り、俺はグラウンドへと向かった。
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