('A`)ドクオが一瞬を見るようです

38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:25:31.98 ID:hz5CQBRo0
  

そして、三月一日を迎えた。

卒業。

三年間親しんだ学び舎とも、ついにお別れをする日が来た。

卒業式自体は、あまり良く覚えていない。
ただ、水泳部のメンバーとの最後の会話は、今もはっきりと思い出せる。

ξ;凵G)ξ「……クー……あたしたち……ずっと友達だからね……」

川 ゚ー゚)「ああ、当たり前だ。だからもう泣くな」

ξ;凵G)ξ「……ふぇ〜ん!」

そう言って抱き合うツンとクーは、まるで姉妹のように見えた。

( ;ω;)「ドクオ……僕たちずっと……友達だお……」

(;A;)「……ああ! ずっとずっと……友達さ!!」

( ;ω;)「ありがとう……もし僕が借金を背負うことになったら……真っ先にドクオに保証人を頼むお!」

('A`)ノシ「いや、それは勘弁してくれ」

そう言って抱き合う俺とブーンは、間違っても兄弟には見えなかっただろう。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:26:49.60 ID:hz5CQBRo0
  

教室を去り際、長岡が最後に話しかけてきた。
  _
( ゚∀゚)「ドクオ、お前とは三年間同じクラスだったな。楽しかったぜ!」

('A`)「ああ。俺もお前と友達になれて良かったよ。今まで、ありがとな」
  _
( ;∀;)「そんなこと……言うなよ……もう……会えないみたいじゃないか……」

(;A;)「ごめんよ……絶対……また一緒に……遊ぼうな!」
  _
( ;∀;)「ああ! 一緒に風俗行こうな!!」

('A`)ノシ「いや、それは遠慮しとくわ」
  _
( ゚∀゚)「んも〜、ドクオのいけず〜」

最後の最後まで、俺たち二人はそんな調子だった。
だけど、逆にそれが、俺たちの友情はこれからも続いていくと思わせてくれた。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:28:52.36 ID:hz5CQBRo0
  

( ´∀`)「は〜い、撮るモナよ〜。笑ってモナ〜」

本当に最後の最後。
ブーンとツン、クーと俺の四人は、プールの前で写真を撮ることにした。

通りがかった用務員のおっさんに撮影を頼んだ。
おっさんは、俺とクーを交互に見て、にやりと笑った。
ぶん殴ってやろうかと思ったが、せっかくの卒業式だからと、なんとか耐えた。

( ´∀`)「はい、チーズ! モナ!!」

  _
( ●∀●)( ^ω^)( '∀`) ξ゚ー゚)ξ川 ゚ー゚)「「「「 いえーい♪ 」」」」


おっさんは『チーズ』のところではなく、『モナ』のところでシャッターを切った。
おかげで、あとで現像した写真の中の俺の目は、半開きになっていた。

しかし、そんなことよりも、
海水浴に行ったときのゴーグルをかけた長岡の顔が映りこんでいたことに愕然とした。
  _
(; ゚∀゚)「はあ? そんなの知らねーよ!」

後日、問い詰めた長岡は、本当に知らない素振りを見せた。
きっと、長岡の生霊が映りこんだのだろう。俺たち四人は無理やり納得した。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:31:30.51 ID:hz5CQBRo0
  

一週間ほどして、国立大学の合格発表がなされた。

ツン、ブーン、ともにめでたく地元の国立大学の教育学部に合格した。
長岡は、東京の私立大学にすでに合格を決めていた。

そして、俺は無事、お目当ての県外の国立大学に合格した。

呪文のようなあの試験は半分も正解していないように思えたが、
大学に合格した今となっては、ことさら気にする必要もなかった。

しかし、クーは不合格だった。

クーが行くから第一志望にしたのにと、俺は合格しているにもかかわらず気落ちした。
彼女がいない大学に合格しても、大してうれしくなかった。
大学生活を始める前から目標を失ってしまった。そんな状態だった。

しかし、それも彼女が浪人して来年入ってくるまでの辛抱だと思ったが、
俺は、思いもよらぬ事実を彼女に聞かされることになる。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:33:54.80 ID:hz5CQBRo0
  

彼女は、密かに滑り止めとして受けた東京の私立大学のAO試験に合格していたらしい。
そして、そこに進学するという。

川 ゚ー゚)「私の学力じゃ国立大に受かるとは思えなかったしな。
     人間、妥協も必要だということだ」

そう言って笑う彼女は、彼女らしくないなと思えた。
それが、なによりも残念だった。

『どうして俺に教えてくれなかったのか』と憤りもしたが、
俺だってクーが目指すから彼女と同じ大学を第一志望にしたとは言っておらず、
お互い様だとも思えた。

結局、すべては自己責任。
仲のいい友達。それだけの関係の二人に、同じ道を進む必要性はなかった。

ただ、AO試験に合格した以上、クーは水泳を続けざるを得なかった。

それが彼女にとって幸か不幸かはわからなかったが、
彼女が水泳を続ける、その事実だけが、気落ちした俺の心をわずかに慰めてくれた。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:35:58.60 ID:hz5CQBRo0
  

そして、春が訪れた。

ほころび始めた桜のつぼみ。徐々に桜前線が北上をはじめ、
まるでそれに続くかのように、長岡、クーは一足先に故郷の町を去っていった。

残された俺も、三月が去った四月の頭、ついに故郷を離れることとなった。

ξ゚ー゚)ξ「頑張りなさい! たまにはこっちに戻ってきなさいよ?」

( ^ω^)「ホームシックになったら僕に電話かけるんだおwwwwww」

('∀`)「ならねーよwwwww」

駅のホームから見送ってくれた二人。
ブーンのからかいに笑って返してみせたが、実際にホームシックにかかった俺は、
四月の一ヶ月間、電話越しのブーンにとても世話になったもんだ。

こうして、俺たちは別々の道を歩み始めた。

生まれて始めて乗った新幹線は恐ろしいほどに速く、
新天地の駅に降り立った俺は、見慣れない街並みを眺めては、

『ここではどんな出来事が待っているのだろう?』

と、ありきたりな感慨に浸ったりもした。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:38:16.97 ID:hz5CQBRo0
  

当たり前のことだが、
大学には知り合いのいない、まったくゼロからのスタートだった。

私服の大学生ひしめくキャンパス内を一人歩き、
道端で活動説明会を開いているサークルのブースに顔を出しては冷やかすを繰り返した。
時には熱心に勧誘されるのだが、今ひとつ入る気になれなかった。

もしクーがいたとすれば、なんだかんだで俺は水泳部に入っていただろう。
だけど、彼女はもういない。

やがて、大学の講義が始まった。
つまらない、退屈な内容。特に期待はしていなかったが、それでも俺はがっくりしたものだ。

サークルにも入らず、友達も出来ず、日々は過ぎ去っていった。

一人でぼんやりと講義を受け、すぐに自分のアパートに戻っては
『大学の授業に必要だろう』と言ってかーちゃんが買ってくれたパソコンの前に座るだけの毎日。

('A`;)「さすがにこんな生活はまずいだろう……」

そう思っては見たものの、特にやりたいことがあるわけでもなく、
大学の始めの二ヶ月を、俺は、怠惰に、無駄に、過ごしてしまった。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:41:21.05 ID:hz5CQBRo0
  

そんな生活を続けているうちに、梅雨の季節がやってきた。
じめじめと、雨だけが降り続く。『まるで俺の毎日のようだ』と自嘲した。

ある梅雨の晴れ間、最近読み始めた小説を買いに行くついでに、散歩をした。
町は蒸し暑かったが、久しぶりの青空に、悪い気はしなかった。

すこし足を伸ばして、普段行かないところまで歩いてみた。
何気なく立ち寄った公園のベンチに座り、小説を読む。
最近覚えたばかりのタバコに火をつける。ゆったりとした時間だった。

キリの良いところまで読み終えて、大きく伸びをした。
周囲を見渡せば、公園の広場は子供とその母親でいっぱいだった。

飛び交う嬌声。居心地が悪いなと、立ち上がって公園の出口へ向かう。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:42:53.43 ID:hz5CQBRo0
  

その途中、一人の老人がカメラを片手に空を見上げていた。
つられて顔を上げた俺の視線の先で、空は、夏の初めの青をしていた。

視線を再び公園に戻せば、老人は、見上げた空をカメラに収めている。


('A`)「……写真か」


もう一年近く前、
夕闇に染まるプールサイドで、俺にだけ向けて笑ってくれたクーの顔。

もし、あの時俺のそばにカメラがあったなら、
二度と来るはずのないあの『一瞬』を、もしかしたら残せていたかもしれない。

今からでも遅くない。いや、遅かったけど、悪くない。

やってみようと思った。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:46:43.41 ID:hz5CQBRo0
  

翌日、写真サークルを覗いてみた。

入部したいと言うと、
時期はずれの新入部員にもかかわらず、みな、快く迎えてくれた。

ブーンや長岡ほどではないが、気を許せる友達も出来た。
バイトもはじめ、三ヵ月後には、初心者ながらそれなりのカメラを買うことが出来た。

年季の入った、中古の一眼レフ。
思えば、こいつが大学時代の、俺の一番の友達だった。

それから、たくさんの写真を撮った。
人、街並み、自然。何でも撮った。

現像した写真を並べてみれば、その中で一番多かったのは、空の写真だった。

一年が過ぎ、新たな町のすべての季節を撮り終えた。
もっと、いろんな風景を撮りたいと思った。

大学二年の冬、先輩がバイクを譲ってくれた。
これで、いろいろなところにいける。道が開けた。
免許を取って、大学三年の夏、日本を旅した。

人、町、海、山、川、道。
日本中の、実に様々な景色を撮った。

旅を終えて、写真を現像してみれば、
やっぱり一番多かったのは、空の写真だった。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:48:47.50 ID:hz5CQBRo0
  

人間は、二十歳で精神的な人生の折り返しを迎えるという。
まさにその通りで、すぐに大学三年の後半が訪れ、俺は就職活動を向かえた。

カメラマンになろうとは思わなかった。

自分にセンスがあるなんて欠片も思わなかったし、
何より、好きなことは趣味の範疇にとどめておく方が幸せだと、なんとなく気付いていたから。

適当にメーカーを回った。残念ながら内定は一つも出なかった。
気がつけば、四年の四月も半ばに差し掛かっていた。

そんな時、地方新聞社の話を聞いた。
地方新聞社にはカメラマンが少なく、記者が自分で写真を撮ることが多いのだと知った。
故郷の新聞社のホームページを覗いてみた。採用選考まで、まだわずかな時間があった。

エントリーシートを送り、試験を受けた。面接へと進んだ。
自分の大学生活での経験を、感じたことを、すべてをぶつけた。
よくわからないうちに、内定をもらった。

翌年の春、こうして俺は、故郷に戻り、新聞記者になった。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:50:54.74 ID:hz5CQBRo0
  

大学生活四年間。
振り返ってみれば、あっという間だった。

バイトに行って、タバコを吸って、小説を読んで、日本を旅して、写真を撮った。
言葉に表せば、たったそれだけで済む日々。

高校三年の夏、わずかな期間に頻繁に現れた『一瞬』は、
大学四年間ではほとんどその姿を現さなかった。

それはきっと、クー。
彼女がいなかったから。

大学生活のはじめの方では、彼女ともメールのやり取りを交わしていた。
しかし、もともと筆不精、いや、メール不精だった俺たち二人のメールのやり取りは徐々に減り、
やがて、無くなった。

成人式。
地元に帰ったときに会えるかと思ったが、残念ながら彼女は姿を見せなかった。

ξ゚ー゚)ξ「仕方ないわよ。きっと、水泳で忙しいのよ。
    でも、やっぱり……寂しいわね」

晴れ着に身を包んだ、少しだけ大人びた顔のツンが、俺の想いを代弁してくれた。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:52:48.25 ID:hz5CQBRo0
  

そして、瞬く間に三年が過ぎた。

故郷での、地元新聞社の記者としての生活。
はじめはつらかったけど、半年もすれば慣れた。

二年間、役所の記者クラブに常駐して県政の動向を取材した。
幸いなことに県政に大した変革はなく、これといった思い出もなく、俺は異動を命じられた。

運動部。
県内のスポーツを取材する部署だった。

はじめはどうかと思ったか、やってみるとかなり楽しかった。

大会の、特に決勝で優勝が決まった『一瞬』が、他人のものとはいえ、輝いて見えたから。
それを写真に収めることが出来たから。

自分には訪れることの無い『一瞬』を、他人のそれに重ねて見ることが出来たから。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:54:55.46 ID:hz5CQBRo0
  

そして、梅雨が明けたころ、運動部のもとにFAXが届いた。

夏、ここで行われるオリンピック選考を兼ねた水泳の大会の選手名簿だった。
その中に、見知った名前を見つけた俺は、運動部のデスクに向けて叫んでいた。

('A`;)「俺に取材に行かせてください! お願いします!!」

オリンピック選考も兼ねたかなり規模の大きな大会。
そんな大会に、運動部に来てまだ半年もたたない若手記者の俺が通常、行けるわけも無かった。

しかし、熱心に頼み込み、居酒屋でまでその話をする俺に折れたのか、
デスクは仕方ないといった表情で『行って来い』と言ってくれた。

そして、俺はここにいた。

西日の差し込む閑散としたプールの観客席で、クーとともに、プールを見下ろしていた。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/03(木) 22:57:46.40 ID:hz5CQBRo0
  

川 ゚ -゚)「新聞記者になっていたんだな。水泳はもうやっていないのか?」

俺の胸の前で暇そうに揺れる記者証を一瞥した彼女は、
人もまばらなプールを見下ろし、静かに言う。

('A`)「まあな。あれ以来、思い立ったときに軽く泳ぐくらいさ」

川 ゚ -゚)「そうか。それも悪くない。……いや、それが一番なのかもしれない」

就職活動のとき、好きなことは趣味の範疇に留めて置くことが幸せだと、俺は思った。
そして、今まさに彼女は、俺以上にその事実をかみ締めているのだろう。

川 ゚ -゚)「……私も、これで終わりだよ」

('A`)「水泳、やめるのか?」

川 ゚ -゚)「ああ。もう四年後まで待てる歳でもないしな」

七年前、夕闇に堕ちて行くプールサイドのときとは違って、彼女ははっきりと言い放つ。
しかし、西日に赤く染まる彼女の横顔は、あの時とまったく変わってはいなかった。



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