( ^ω^)は駆動兵器を操るようです

35: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:50:36.94 ID:KpIK/YZP0


ドクオ、聞いてるかお?
この駆動兵器の、鼓動を――。


ずっと、ずっと聞いてたお。
ブーンは、ずっと聞いて戦ってたんだお。


駆動兵器には、魂があるお。
でも、もう、この声は、ドクオには届いていない。
届いていないけど、言っておきたくて。



最後に、こう、心の中で、口に出してるんだお。




( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第22話 『命を守って死んだ男、ブーン』



36: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:51:24.31 ID:KpIK/YZP0

霧が晴れてきたスレスト湿地。
多くの原生生物が、もともとは住んでいるこの場所も、すっかり火薬の匂いに染まってしまった。
その中で、クマー、ハインリッヒとの戦闘が、勢いよく封切られた。

泥を撒き散らしながら、ハンマーをVGに打ち上げるクマー。
胸部に直撃し、火花と共にVGは吹き飛ぶ。
痛みではない、痛みなどではない。
ブーンの脳は、悲しみを発していた。

(  ω )『ぐぅぅぅぅっ!!!!』
(・(エ)・)『じっとされていては、こちらとしては、的にもならなくて困るんだがなぁぁぁ!!!!!』

大きく吹き飛ぶブーンを、追いかけ、振り下ろす。
槌による衝撃。地面に叩きつけられた衝撃。バランサーが追いつかないほどの高速攻撃に、ブーンは翻弄される。

そして、このオペラ。体内に第3、4の腕を内蔵している。
その3,4の腕を操るのが、ハインリッヒの役目。



37: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:52:16.89 ID:KpIK/YZP0

从 ゚∀从「クマー殿。私の役目も残しておいてもらわないと」

笑いを含みながら、ハインリッヒは言う。
大きく揺れ、遠心力に振り回されそうになる。

右から。
左から。

およそ1,5倍はあるであろう、その巨体を素早く動かし、VGを殴打していく。
ガードしきれないほどの威力は、一撃一撃ごとに大きく体を反らさせる。

(  ω )『……ぐぅぁっ!!』
(・(エ)・)『……ふん』

クマーはピタリと攻撃を止める。
VGは、大きく振り回され、身動きが取れないようだ。

(・(エ)・)『そうか、戦意が無いのだな』
从 ゚∀从「何を――?」

トリガーの左部分に備え付けてある、青いボタンを押す。
すると、白と黒のコントラストが激しいオペラの腕部から、ブーストが飛び出した。



38: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:53:31.23 ID:KpIK/YZP0

(・(エ)・)『お前を、楽にしてやろう』

槌を握りなおすと、腕部に展開されたブーストが熱を持ち始める。
そう。クマーがしようとしている事、それは、ブーストを威力に変換した、強烈なゴルフスイング。

(  ω )『……くそっ』
(・(エ)・)『少し、待っていなさい』

大きく構えるオペラ。
地面に倒れたまま、動こうともしないVG。

生きる事を、抗うことを止めた人間は、死ぬ。
それは、自然の摂理から言われていること。

種の保存を放棄した生物は、絶滅する。
それと同じ事。

命を守る事を放棄したものにあるのは、死、のみである。

槌がVGに振り下ろされようとした、その時。
ブーンは、フサギコに言われた言葉を思い出した。



40: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:54:52.67 ID:KpIK/YZP0

ミ,,゚Д゚彡『お前たちは、命を賭けて、この国、VIPを守る。これを、君たちはどう解釈しているのだ?』

ミ,,゚Д゚彡『答えろ。ブーン二等兵』


そう、あの時の僕は、口だけだった。
自分の命を棚の上の上へと置いて、人が死ねばそれを悲しみ、泣く。
僕は、軍人では無かった。

今も、だろうか?

今も僕は、軍人ではないのだろうか?
いや、違う。

僕は今、軍人だ。
駆動兵器に出会ってから、確かに僕は、命を燃やしてきていた。

今なら。
今なら、フサギコ少将にだって、胸を張って答えが言える――!!!


( ゜ω゜)『ブーン二等兵!!!軍人たる者!!!命をかけて、国を守るものであります!!!』



41: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:55:47.78 ID:KpIK/YZP0

とっさに出たアイアンクロー。
槌を持つ腕へ左腕を振り下ろし、叩き落す。
そのまま地面へと押さえ込むと、フォルテセスタスを展開し、頭部へとハンマーパンチを叩き込んだ。
急に抗い始めたブーンに、驚きを隠せないクマー、ハインリッヒ。

(#・(エ)・)『……あのまま……。おとなしく死んでればよかったものを……!!!』
从#゚∀从『……行きますよ』

ハインリッヒがトリガーを握ると、背中部分に格納されていた第3・4の腕が姿を現す。
そのまま槌を握ると、VGへ振りぬいた。
しかし、素早く柄の部分を握り、振りぬきはさせないブーン。

もう、接近戦では勝ち目が無いように見えた。
ノトーリアスを起動させ、その勢いを利用し思い切りニードロップを放つ。

( ゜ω゜)『敵を……敵を倒すんだお!!!そうすれば、みんな!!!みんな幸せになるんだお!!!!』

何がここまでブーンを動かすのだろうか。
ブーンを、何かが支配していた。



43: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:57:12.83 ID:KpIK/YZP0

( ゜ω゜)『だから!!早く壊れてくれお!!』

馬乗りになり、コクピット部分へ攻撃をする。
一発一発の攻撃の威力が大きいのか、その度に、オペラは電撃が走ったかのようにびくつかせている。
が、こんなところで終わるオペラではなかった。

上体だけを素早く起こし、後ろに手を回し、そのままVGの頭部を掴む。
そして、VGを逆海老反りの形にし、胴体破壊を試みた。

(#・(エ)・)『なめるな!!!小僧がぁぁ!!!』

火花を出し、バキバキと音を立てて”く”の字になるVG。
だが、そんな事、今のブーンは蚊ほども気にはしない。構わずコクピットへフォルテセスタスを叩き込む。装甲が剥がれて行く。

たまらずVGを放り投げ、距離を取るオペラ。
クマーも、ハインリッヒも感じていた、人外の何かと戦う”不安”。
クローンや、エクステンドとは違う、何か独特の圧迫感。

二人が距離を取った、丁度その頃。
上空に、白くまぶしく輝く、大きな光がこちらへと迫ってきていた。



44: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:58:49.34 ID:KpIK/YZP0

(・(エ)・)『……ちっ。もう来たか』
从 ゚∀从『……ひきますか?』

(・(エ)・)『うむ。範囲外に出次第、電波妨害を打ち止め。全軍撤退と伝えろ』
从 ゚∀从『了解』


撤退をしようと、ブーストを起動させ、後退するクマー。
しかし、ブーンがそのままみすみす逃がすわけは無かった。

( ゜ω゜)『どこに行くんだお!!ブーンがいるのに!!どこにいくんだお!!!』

なぜ、ブーンがこのようになってしまったのか。

そのきっかけ。
いや、原因は、ある男にあった。
その男は、最初からこうなることを見通していた。
軍の忠実なる犬。
ただ、ソレを作りたいが為の、ワナ。

ブーンは、立ち上がろうとする。
しかし、先ほどの攻撃で、背中の伝達部分へ不備が起きたのか、思うように動かない。
大声で、叫ぶブーン。

( ゜ω゜)『動けお!!!!動けお!!!!!』

脚が震えるように動き、まるで歩くことができない。
膝をつき、どんどん小さくなっていくオペラを、睨み付ける。獲物を逃した猛獣のように。勝利を逃した選手のように。



45: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/04(水) 23:59:54.00 ID:KpIK/YZP0

そして、天から落ちる光を、遠めに眺めるロマネスク達。
すぐに、核とわかった荒巻は、VGの様に、震えが止まらなかった。

/ ,' 3「……なぜ……」
( メωФ)「……あれは、ミサイルか何かですか?」

そう。
ロマネスク達、若い兵士は、核というものがどういうものか、よく把握していなかったのである。
いくら研究に従事していたとしても、禁忌は禁忌。
荒巻たちは、核の存在は危険、ということを後世に植え込む事に励んできていた。
非常に、言いにくそうに、荒巻は口を開く。

/ ,' 3「ロマネスク。あれが、核じゃ」
( メωФ)「……え?」

/ ,' 3「あれが、あの光が、古の大陸を地獄へと追い込んだ、核じゃ」

冷静なロマネスクも、さすがに動揺は隠せない。
書物程度でしか聞き覚えしていなかった核。それが今、神の裁きのように、天から地へと降り立とうとしている。

(;メωФ)「そ……そんな……。じゃあ、あの光が地面に到達すれば……?」
/ ,' 3「規模はわからんが、この周囲は、吹き飛ぶ。人間も、動物も、植物も、何もかも、じゃ」

ゆっくり、ゆっくりと落ちていく光を見ていた。
だが、それだけではいけない。

そういった感情が、ロマネスクに生まれ始める。
スピーカーへと、出力を切り替え、ロマネスクは大声で叫び始める。



46: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/05(木) 00:01:26.25 ID:/fBWpQ4J0

(;メωФ)『この周囲にいる全軍に告ぐ!!!今すぐ、この場所から退避せよ!!!今すぐ退避せよ!!!』

その一連の動きを見ていた荒巻は、感心した。
凡人であるならば、すぐにでもこの場を立ち去ろうと思うもの。
それなのに、このロマネスクは、危機的状況においても人を助けようという慈愛に満ちた行動へ出た。

( メωФ)「博士。一つ、いいでしょうか」
/ ,' 3「中央へ行って、できるだけ多くの兵士へと伝える、じゃろ?」

(;メωФ)「な……なんでわかったんでしょうか」
/ ,' 3「甥じゃからの。遠くとも私の血は受け継がれている、ということじゃ。時間はあの調子だと、もう少ない。急げ!!!」

( メωФ)『了解!!!』

トリガーを全力で握り、ミサイルの着弾点であろうスレスト湿地の中央へと向かう。
その間にも、まだ戦闘を続けていたり、勝利に喜んでいる者たちへ危険を喚起する。

(;メωФ)「時間が……足りない!!」

いや、正確に言うと、この状態から逃げても、間に合わない。
いくらの規模かはわかってはいないが、接近してからわかる、このミサイルの大きさ。

おそらく、この湿地は軽く飲み込んでしまうほどの威力を持つだろう。
そう、荒巻は説明する。



48: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/05(木) 00:03:18.50 ID:/fBWpQ4J0

/ ,' 3「……ロマネスク。これはもう、塞ぎ切れないものなのかもしれん」
(;メωФ)「そんなわけ……無いです!どうにかして、人を遠くへ……!!」

そして、競技場が”あった”地点へと到着する。
さすがにここには人の気配はしない。だが、膝をつき、小刻みに震える駆動兵器が一機、そこに佇んでいた。

( メωФ)「あれは……?」
/ ,' 3「VB。バルケンの南司令部の駆動兵器じゃ」

( メωФ)『こちら2CH-VPのロマネスク。応答願う』
( ゜ω゜)『……ふぅ。……ふぅ』

( メωФ)『(なんだ……?)応答願う、VBのパイロット、応答願う』
( ゜ω゜)『敵じゃ……ないんですかお……』

どうしたんだ?
このパイロット……。どこか、おかしい。

( メωФ)『怪我でもしているのか?上を見てみてくれ、核ミサイルが迫っている』
( ゜ω゜)『……知っていますお』
( メωФ)『そ、そうか!それでは、自分と一緒に周囲に退避を促してくれないか?』

( ゜ω゜)『いえ、その必要はありませんお』



49: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/05(木) 00:04:12.90 ID:AT+gQLYA0

――何を言ってるんだ?

(;メωФ)『必要……ない?』
( ゜ω゜)『そうですお。軍人たる者、命を燃やし、仲間を守るものですお』

/ ,' 3「ロマネスク!!そのVGを止めろ!!」
( メωФ)「――え?」

荒巻へと、どういうことか問い返そうとした瞬間。
目の前の駆動兵器は、はるか上空へとその体を持っていっていた。

(;メωФ)『……なっ!!?』
/ ,' 3「早く!!!!あのパイロット、自分の身をミサイルに衝突させようとしておる!!」

(;メωФ)『……くそっ!!!』

すぐさまブーストを展開し、先を行くVGを追いかける。
が、全くといっていいほど追いつけない。ノトーリアスをフルスロットルで使用しているのか、スピードが衰えることは無かった。

(;メωФ)『……追いつけない……!!!』
/ ,' 3「……」

ああ。
目の前の景色が、流れる水のように変わっていく。
こんなに、空を飛ぶのが気持ちよかっただろうか。

( ゜ω゜)「守る……国を……守るお……」



51: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/05(木) 00:04:54.78 ID:/fBWpQ4J0

今の僕は、僕じゃない。
誰かに作られた、僕。

最後くらいは、自分でいたい。

( ^ω^)「最後……くらいは……」

ギガンテスを、正面から受け止めるブーン。
その瞬間、衝撃でコクピットがぐしゃぐしゃになる。
痛みが、ブーンを襲うも、すぐにその感覚は無くなった。

『もう、右足は千切れたんだろうな。左肩ももう感覚がないや』

暢気にそのような事を考えるブーン。
目標は、ただ一つなのだから、ただ一つを遂行すれば、それで終わりなのだから、何ももう、失うものは無かった。



53: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/05(木) 00:05:45.77 ID:AT+gQLYA0

( ;ω;)「最後くらいは……!!最後くらいは……!!」

波動と共に、VGは、最後の加速を始めた。
ぐんぐんと、ギガンテスを上空へと持っていく。

血にまみれ真っ赤に染まったコクピットも、装甲がはがれ無残な姿になった機体も、
人の命を奪おうとするミサイルも、そして、その命を守ろうとするブーンも。

全て、全て天へと上る。

( ;ω;)「最後k……」

大きな光が、スレスト湿地を覆った。

さらに広がる輝き。
美しくも、儚くも見えた、その輝き。



54: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/05(木) 00:08:21.18 ID:AT+gQLYA0

大きな光が、スレスト湿地を覆った。

広がり、さらに広がる輝き。
美しくも、儚くも見えた、その輝き。

ブーンと共に、散った、その輝きを、各々は、見た。

川 ゚ -゚)「なんだ……?」

从'ー'从「あの光は……」

('A`)「……爆弾?」

(´・ω・`)「……あの閃光は?」
( ゚∋゚)「……なんだろうか」

(;メωФ)「……こんな……。こんなことが……」
/ ,' 3「……」


誰もが、ブーンの燃やした、最後の命の輝きとは知らずに――。


( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第2部『邂逅編』 最終話 『命を守って死んだ男、ブーン』 完


( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第3部『悲愴編』 第0話 『('A`)は墓標を立てるようです』



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