( ^ω^)は駆動兵器を操るようです

5: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:42:56.45 ID:cywTVIMY0

(;´・ω・`)「そ……そんな……。嘘だよね……?」
( ゚∋゚)「……信じるのは難しいだろう。だが、これは事実だ」

(;´・ω・`)「だって……ブーンには母親がいないにしても、父親はいたんだよ!?」

―――
――


――ショボンは、お母さんの温もりを知ってるのかお?
『そんなにってほどは、知らないよ。僕も、戦争で家族を失った身だからさ』

――そうかお……。ブーンは、お母さんを見たことが無いんだお。お父さんも、よく覚えてないくらいで……。

『それは、辛いだろうね。でも、ブーンは僕達仲間を、家族と思ってもいいんだよ?
辛いときや、悲しいとき、そういう時は、分け合おう。ブーンが嬉しいとき、幸せな時は、よかったら少し、分けてね』

――ショボンらしいお。もちろん、ブーンもショボン達が辛いときは分けてくれて構わないお!今からブーン達は、仲間であり、家族だお!

『うん。家族を守るのも、家族の役目さ』

ああ。僕は、ブーンの事を何も知らずに、こんな事を言っていたんだ。
偽りの記憶を持ったブーンに、家族のような、温もりを与えていた。

何も知らないブーンに、仮初の感情を与えていたんだ……。
僕は……。

( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第27話「キメラ」



6: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:44:42.71 ID:cywTVIMY0

( ゚∋゚)『今の五名は……、お前の遺伝子を利用した、
     人間と人間の非生殖行動による……所謂試験管人間といわれている成功例だ』

ミ,,゚Д゚彡『……そこまで、知っているとはな。どのようにして調べたかは知らんが、
      中々いい所までいっておる。そこだけは、褒めてやるぞ。クックル……そう、父親としてな』

突如開き直ったかのように話し始めたフサギコに、シナーは驚いた。
なぜ、今そのようなトップシークレットを認め、そして、南部指令基地全員が聞いていてもおかしくないこの回線を使用して話すのか。
シナーは、フサギコを見る。

もう、そこには、VIP軍少将のフサギコ、という姿は無かった。
そこに座っているのは、悪の塊。

私欲の為に、多くの人間を殺させてきた、間接的大量殺人鬼であった。

ミ,,゚Д゚彡『もう、隠すことはあるまい?』
(#゚∋゚)『……何が、何が父親だ!!私は、お前を父親などと認めたことは無い!!』

ミ,,゚Д゚彡『……ほう。反抗期という奴か?随分遅いものだな』
(#゚∋゚)『……お前!!自分の置かれている状況がわかっているのか!!!』

胸部装甲を開き、砲身を司令塔へと向ける。
徐々に光が集まり、基地からはどよめきと、悲鳴がわずかであるが漏れて聞こえた。
しかし、フサギコは動じない。



7: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:46:06.76 ID:cywTVIMY0

そう、娘が、来るのだ。
フサギコを守りに。
フサギコを脅かすものを、駆逐しに。

(;<●><●>)『クックル!!レーダーに高速反応が!!!』
(;´・ω・`)「なっ……!?」
(;゚∋゚)『なぜそれを先に言わない!!?』

ワカッテマスのレーダーに映った点は、瞬く間にクックルの乗るセパタクロウへと近づく。
半径150kmを映すこのレーダーの端に現れてから、たった10秒ほどでもうここまで詰めてくるなんて……!!!

(;<●><●>)『は……早すぎます!!ど、どうすれば!!』

(;゚∋゚)『……これほどとは、予想外だ!ワカッテマス!!
    例のチャンネルにアクセスしろ。そして作戦通りポイントへ逃げ込め!!!』

(;<●><●>)『わ……わかってます!!』

アクセルを全開にし、土煙を上げながらジープを発進させる。
フサギコに指示されていたのであろうか、すぐにジープを狙いを定めたライフルの弾が、ワカッテマスの頭上、助手席を掠める。



8: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:49:04.77 ID:cywTVIMY0

(;<●><●>)『……っ!!本当に、殺されてしまいそうです……!!』

そして、フサギコの余裕の発言。

ミ,,゚Д゚彡『撃てるものならぁ……撃ってみろ』
(#゚∋゚)『……っ!!!フサギコォォォ!!!!』

トリガーを、これでもかと握り、光粒子カノンの発射ボタンを押そうとする。
が、レーダーを逐一見ているショボンから声が入った。

(;´・ω・`)「クックル!!後ろから、急接近する熱源があるよ!!」
(#゚∋゚)『……ちぃぃっ!!』

待っていた……。
待っていたぞ!!!

この時を!!
私をコケにした息子など……いらぬ。

ミ,,゚Д゚彡「役立たずなど……いらぬ!!シナー!!
      ロケットランチャーを開けさせろ!!全弾……、ぶち込め!!」

(;`ハ´)「りょ……了解!!」

ミ,,゚Д゚彡『クックル!!お前がこの基地を攻略することができるのが先か!!
      お前が死ぬのが先か……根競べといこうか!!』



10: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:50:23.24 ID:cywTVIMY0

(#゚∋゚)『ふざけるのも……大概にしろぉぉ!!!』

地面に大きな皹を立て、勢いよく飛び跳ねるセパタクロウ。
それに合わせるかのように、空に不規則機動を描いたミサイルが、無数発射される。

(#゚∋゚)「……ちっ!!」

胸部砲身から、自分の身を守るために光の塊が発射される。
虹のような美しいともいえる輝きを放ちながら無数のミサイルは光に消えた。
そのまま空中にて体制を建て直し、腕部ミサイルをセットするクックル。

だが、遂に、空を駆ける一機の青がやってくる。
大きく翼を開き、何かを睨むような威圧感をショボンも感じ取ったのか、背筋が震えた。
鷹に睨まれた、小鳥のような……、圧倒的な力量の違い。

ξ゚听)ξ『クックル……。あなた、何をしているの?』

ツン。
フサギコが生み出した試験管人間の一人。
駆動兵器に乗せることにより”隔離”した、じゃじゃ馬。

( ゚∋゚)『……ツンか。久しぶりだな』

クックル。
この望まない世界に反旗を翻そうと企む男。
この望まない生を与えた全てに、復讐を……目論む男。



11: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:51:57.75 ID:cywTVIMY0

ξ゚听)ξ『あなたこんな事して、ただで済むと思ってるの?
      私が、あなたを殺すのよ?それでもいいの?ねえ?いいの?』

( ゚∋゚)『出来ると思っているのか?
     あの頃から……一度も私はお前に負けたことはないだろう?』

時が止まったかのように、静まり返る。
先ほどまでやかましく響いていた、爆発音、銃声。
その全てが、やんだ。

ξ゚听)ξ『……お父様。もうクックルを…』
ミ,,゚Д゚彡『構わん。やはり、我が子の一番は、ツン。お前だ』

ξ゚听)ξ『……!!ホント!?今言った事はホントなの!?』
ミ,,゚Д゚彡『ああ本当だ。それを示すためにも、今すぐこの役立たずを殺してしまえ』

宵闇が空を覆おうとするその空間に、たたずみ、群青色に反射するその機体。
翼が、音を立てて広がる。
梟のような、威嚇するその幾何学模様が、クックルへと向けられる。

ξ゚听)ξ『今、聞いた?私が、一番なんだって。
      もうクックルより、私の方が上って。お父様がね』

( ゚∋゚)『それがどうした。自分の評価は、自分でするものだ。
     己が極みに立っていると思っているものなら、それが正解だ』



12: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:53:23.68 ID:cywTVIMY0

ξ#゚听)ξ『それって……、何が言いたいの?』

ズズン……。
地面へと降り立ち、脚部の車輪を回すクックル。
やはり、こう虚勢を張ってみたものの、明らかにツンの方のあの機体。
2CH-VBLには性能で劣っているのは揺るぎの無い事実であった。どうすればいい……?

頭に思索をめぐらせる。
そして、出た答えは、ワカッテマスへと通信を指示した人物とのコンタクト。
シラネーヨとの、共同戦線を組む為に、一先ず引くことであった。

( ゚∋゚)「ショボン。ワカッテマスへ通信を」
(´・ω・`)『ワカッテマス!聞こえるかい!?』

( <●><●>)『はい……。少しノイズが酷いですが、
         なんとか目標ポイントへの退路は確保できそうです。もう交渉を始めてもいいんですか?』

( ゚∋゚)『よろしく頼む。こっちも今から退避する』
( <●><●>)『わかってます。では、ポイントでお待ちしています。何かあれば通信して下さい』

ブツリ。
音を立てて回線は切れる。
向こうは砂嵐が厳しそうだ、車輪に絡まなければいいが……。

( ゚∋゚)「じゃあ、ショボン。覚悟を決めろ」

(´・ω・`)「とっくに決まってるさ。向こうについたら、僕も駆動兵器、乗らせてもらおうかな」
( ゚∋゚)「ふっ。止めておけ。いい目は見ない」



13: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:55:10.26 ID:cywTVIMY0

ξ゚听)ξ『クックル。何黙ってるの?お祈りでも、してるのかしら?』
( ゚∋゚)『そうだな。交通安全、というところか』

セパタクロウの右腕が、2CH-VBLの方へ向く。
装填音と共に、ミサイルが2本顔を出す。
それを見たツンも、翼の各関節部分に取り付けられている、細いトゲのような装置を、クックルへと向けた。

ξ゚听)ξ『やる気まんまんって訳ね。いいわ、やってあげる』
( ゚∋゚)『ああ。戦いに身を置くもの同士……』

好きな食べ物も、趣味も、癖も、顔も。
何もかも似ていない。

そんな仮初の兄妹など、どちらかがいなくてもいいだろう?

( ゚∋゚)『敵として、殺しに来い』

ξ゚听)ξ『……そこは、私を殺す、って台詞じゃないの?』
( ゚∋゚)『……。さあ、話している間も無い』

煙を上げ、セパタクロウが駆動し始める。
クックルの耳に、あの鼓動が伝わり、体に染み渡っていく。
やはり、体の一部のように駆動兵器を感じる事ができるのは、試験管人間故か。



14: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 21:58:23.99 ID:cywTVIMY0

( ゚∋゚)「ショボン、捕まっていろ」
(;´・ω・`)「え――!?」

右に、体を大きく振られる。
ショボンは頭を打ちそうになったが、なんとか持ちこたえた。

(;´・ω・`)「うっわ……!!!」

( ゚∋゚)『殺しに来いとは言ったが、簡単にはやらせんぞ!!』
ξ゚听)ξ『そう――こなくっちゃ』

超低姿勢による、瞬間的加速。
地面に装甲がすれそうになる程に胴体を曲げ、地面と背中部分のブーストが平行になるように体勢を持っていく。

ξ;゚听)ξ『!? 逃げるっていうの!?』

すぐさま反応をし、追跡を始めるツン。
VBLにすれば、クックルの速度などたわいもない程度。
それよりも、急に逃げ出した、クックルが気にかかってしょうがなかった。



15: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:01:26.11 ID:cywTVIMY0

あの頃から、人一倍プライドの高かったクックルが、
形振り構わず逃走を図るのは考え辛いものであった。

そこでツンは考える。
何かの可能性が秘められた逃走という事を。
待ち伏せ?
トラップ?

ξ゚听)ξ『……』

いや、待ち伏せは有り得ないわ。
仲間がいる時点で、南部指令基地に強襲をかけているはず。

そして、クックルの目の前に姿を現した時のあの態度。
どう見ても私が来るのを知っていた。

次の可能性。
何らかのトラップ。
駆動兵器に効果のあるトラップは、今のところ戦車用トラバサミ、地対空電子式ネズミトリのみ。
後者は、まだVIPでも開発中のトラップ。

だとすると、トラバサミしか思い浮かばない。
でも、私がVBLに乗っていることを知っているクックルが、なぜトラバサミを?
トラバサミなんて、地面に足をつける事のないVBLに、効くはずが無いじゃない。

という事は、ただの逃走?
何も考えずに、私に殺されるのが嫌で、逃げているだけ?



17: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:02:21.48 ID:cywTVIMY0

ξ゚听)ξ『……それなら、あなたが生きている意味は』

(;゚∋゚)「来るぞ!!」
(;´・ω・`)「!?」

ξ゚听)ξ『無いのよ!!』

その瞬間、セパタクロウの周囲が”消し飛んだ”。
当てる意図が見当たらない、威嚇攻撃。
消し飛ばした原因は、翼の各部から放たれたビーム。

クックルの目で、12本までは確認ができた。
全てが計算された軌道。
もし、さっきの攻撃でツンが”当て”に来ていたら……。
おそらく、避けられはしなかったであろう。

(;´・ω・`)「……逃げられるの、かな」
(;゚∋゚)「正直、わからん……」

ξ゚听)ξ『ほら、どうしたの?さっさと逃げるなら逃げる、戦うなら戦う。きっちりしなさいよ』

( ゚∋゚)「……が、逃げなくてはいかん。ワカッテマスが待っている」
(´・ω・`)「……だね。僕に出来ることがあれば、言ってくれていいから」

トリガーを引く。
右腕に痺れるような感覚と共に、またあの感覚が伝わる。



18: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:04:04.07 ID:cywTVIMY0

( ゚∋゚)「――!」

そうだ。
こちらに向けられた攻撃が――。
読める。
感じ取れる。

トリガーを伝って……。

ξ゚听)ξ『!!』

また、あの加速。
そんな直線的、単純な移動方法で私のビームから逃げられるとでも、思ってるの?

なめてかかるのも、いい加減にして……。
私は、お父様に認められた、一番。

そう、一番。

ξ#゚听)ξ『一番なんだからぁぁぁ!!!!』

――目標、ロック。
『アンブレラ』各部充填100%。

……
………
発射可能。



19: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:07:41.65 ID:cywTVIMY0

ξ#゚听)ξ『粒子の雫を喰らいなさい!!!』

(;゚∋゚)『――!!!!』

2CH-VBLの最大の特徴である、翼。
その細かく分けられた関節部には、小型のビーム装置がつけられており、数は30を超える。
一度にその30を超えるビームを正射するのである。

西司令部研究室長カーチャンと、荒巻スカルチノフが共同で製作をした事もあり、
従来の駆動兵器とは違った切り口での開発が行われたようだ。

カーチャンが名づけたこの装置の名前は『アンブレラ』。
傘に付いた雫を払うかのように、どこへ飛ぶかも予想ができない光を無数に出すところから名づけられた。

そして、その無数のビーム装置をどう制御するのか。
この面が一番の課題となっていた。

装置を作れても、使いこなせるものがいなければ話にならない。
そこで、荒巻がフサギコに装置の説明をすると、フサギコがある少女の起用を提案する。

それが、ツン。

試験管人間というのは、全てフサギコの遺伝子を元に作られているのであるが、
やはり合成するもう一つの遺伝子によって、中身の出来が変わってくる。

データを取っているうちにわかったのが、ツンの演算能力の高さ。
全てを頭の中で具体化して考えるその思考方法、そして用量の良さは、やはり目を見張るものであった。



20: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:10:20.11 ID:cywTVIMY0

ツンを、VIP領地内の某所に隔離していたのであるが、やはりフサギコとしては、有用性のある使い方がしたかった。
そこに、荒巻からの相談があり、ツンを勧めた、といった経緯がある。

―――
――


ミ,,゚Д゚彡「やはり、無駄はいかん。無駄は」
( `ハ´)「そうですな」

フサギコは考えていた。
今、クックルを反逆者として消す事よりも、事後処理の方がはるかに面倒である。

今、こう防戦体制を取らせているが、不満を抱いている者も、少なからずいる。
次の身の振り方を考える必要がある、のかもしれんな。

(;゚∋゚)「うおぉおおぉぉぉ!!!!!」
(;´・ω・`)「おっ……おえぇ」

次々に襲い来る『アンブレラ』を超人的反応でかわしていくクックル。
右。左。上。下。

全方向からの一斉攻撃は、視界に入れるだけでも難しい。
しかし、それをクックルは避けつつ、予定ポイントへと進む。ビームの熱が装甲のすぐ隣を通り、コゲ目をつけていく。
錐揉みの体制で空中へもって行き、VBLの方向へと体を向ける。



21: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:14:38.29 ID:cywTVIMY0

( ゚∋゚)『やられっ放しはさすがに……アレなのでな!!!!』
ξ゚听)ξ『……そのままおとなしくしてればいいのに!!!』

ミサイルが飛び出す。
ツンはそれを視認するとすぐに右へと舞い、軽々とかわす。
ミサイルは行き場を失ったかのようにフラフラと飛び、中空にて爆発。
地面へと着地するセパタクロウを見計らって、VBLが『アンブレラ』を放つ。

(;゚∋゚)『……ぐぅっ!!』

素早く車輪で切り返し、直撃は避けるも、右肩の装甲を一筋の光が貫いた。
衝撃が走り、バランサーが大きく揺れる。
追撃を恐れ後ろへと大きく跳び、体制を整える。

(;´・ω・`)「よ……よく避けられたね今の!!」
(;゚∋゚)「あ、ああ……」

まだ戦闘中に会話が出来るのは、余裕があるのか。
それとも、どうにかこの状況を笑って打破したい故なのか。

ξ゚听)ξ『今ので、右肩のミサイル供給パイプは断ち切ったわ。
      あなたに残されている攻撃方法、数えるくらいでしょう?』

( ゚∋゚)『……』

夜が、近づいてくる。
太陽が、下へ下へと向かい、一日の終わりを告げようとした。
だが、この男たちの、残りの一日は、とても長く、生き残る事を考える一秒一秒をすごす事になる。



22: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:17:20.89 ID:cywTVIMY0

セパタクロウの駆動音が、またも静かに響く。
CPUが、アラート音と共に、右腕のミサイル供給負荷を告げる。
クックルは、ショボンに残りの武器種類をリストアップするように頼み、ツンの方を睨んだ。

関節も撃ち抜かれてしまったのか、少し動かしてみるが、やはり動作が鈍い。
ゼンマイが切れかけのブリキのおもちゃ、と言えばいいだろうか……。

( ゚∋゚)「……不味い、な」

時を同じくして、ワカッテマスは、クックルから聞いた通信履歴を頼りに、シラネーヨへと通信を繋いでいた。
内容は、フサギコによって作られた試験管人間の搭乗データをラウンジに譲渡する事。

そして、見返りとしての個人的支援の要請であった。
ただ駆動兵器を奪うだけでは、何も始まりはしない。

必要なのは、力。
時間をかけて、国一つを奪える力を蓄えないといけない。
ワカッテマスの尽力を、無駄にはしない。

( <●><●>)『――以上が、私たちの要求、あなたの探究心を見込んでの申し出です。
        お断りなされても、こちらとしては次の候補の方へと頼むだけですが』

( ´ー`)『……ふむ。とりあえず聞きたいのは、その試験管人間というのは、クローン人間、という事かい?』

( <●><●>)『少し変わりますが、人間の欠点を消した、人間の上位種と位置づけていただければ……。
        駆動兵器のような高技術兵器を扱うのに、非常に優れています』

( ´ー`)『……なるほど。とりあえず、その試験管人間に会って見ないと始まらないな。その人はすぐラウンジ領付近へ来れるのかい?』



23: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:18:55.00 ID:cywTVIMY0

ガタガタと振動を続けるジープの車体を気にしながら、ワカッテマスは通信を続けた。
いつ相手が襲ってきてもわからないこの状況で、ブレーキを踏むことは許されず、真っ直ぐポイントへと向かうことしかできない。

シラネーヨの興味はそそる事ができたようで、ワカッテマスは安心する。
今考え直すと、やっぱりこれは無茶が過ぎる作戦だった。

クリアしなければならない点が多すぎるのだ。
大まかに見ても、クックルとショボンによる駆動兵器の奪還。

ワカッテマスの南部指令基地からの脱出。シラネーヨとのコンタクト。
ワカッテマスは思い返して、気が遠くなるような過程をこなしてきた事に気づいたのであった。

ワカッテマスはこの他にも、諸々の情報をデータベースから盗み、クックルに情報を供給していた。

この男が、そこまでして動く理由。
それは、クックルにあった。

――――
―――
――




26:腹痛が僕を襲う ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:28:07.99 ID:cywTVIMY0

二年前、VIPが独立した後、安定した体制を気づけた頃の事。
ワカッテマスは、情報部ではなく、二等兵として国境警備に当たっていた。
そのころの情報部というものは、やはりνのスパイを警視してか、選ばれたものしか所属されることが無かった。

そして、いつものように国境を守り、小銃を肩にかけて周りを警戒していると、
いつもとは違う空気が流れていることに、ワカッテマスは気づいた。

( <●><●>)『……?』

無線を開くも、何も応答が無い。
ここは南部指令基地の中継ポイントのすぐ傍、ここで通信が効かないわけが無い。

勘のいいワカッテマスは、すぐに周囲を見回したが、どうも他の兵士達は気づいていないようだ。
たまたま一番近くにいた二等兵に話しかける。
その男が、クックルであった。

( <●><●>)『すいません。通信、通じますか?』
( ゚∋゚)『……』

聞いても、返事すらしない。
ワカッテマスは、何かおかしいことを言ったのだろうか、などと考えていた。
すると、その無口な男は小さな声でつぶやく。

( ゚∋゚)『2時の方向1km先に……3、いや、4。10時の方向750m先に、6だ。ライフルを構えろ』

(;<●><●>)『……え?』

( ゚∋゚)『構えろ』



32:違和感を抱えて私は帰ってきた ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:38:10.41 ID:cywTVIMY0

訳もわからずライフルを構えるワカッテマス。
クックルは、ライフルを構えずに、腰から少し大きめなククリのような物を取り出していた。

そして、クックルはワカッテマスへ、他の兵士にも伝えるように言う。
相手に気づかれぬように、小声で、との事だった。

( ゚∋゚)『相手は、こちらが気づいてないと考えている。
     となると、こちらが気づいたからには、”気づいてない自分達”を演じる必要がある、わかるな?』

( <●><●>)『……わかってます』

なんだろうか。この圧迫感の中にある、妙な安心感は……。
そう考えつつ、ワカッテマスは付近にいる3人ほどの兵士に旨を伝えた。
国境付近というのは、厚く大きな壁。そして付近にある監視塔。進入する向こうからは、こちらの様子が伺えない。

二人とクックルを、おそらく侵入してくるであろう門口に配置。
壁を乗り越えて入ってくる事を想定して一人壁上を狙撃できるように、ワカッテマスもクックルと同じく待機した。
こんな時に限って監視兵がいないのも、VIPの体制の緩さに関係しているかもしれない。

『本当に来るのか?ただ通信に不備が……』
『そうだ。考えすぎだぞ』

( <●><●>)『向こうの兵士が来ていると、疑う要素には十分だと思われます。向こうは少数精鋭だと思われますし、用心しましょう』
『……本当かよ』

( ゚∋゚)『……足音が小さい。暗殺部隊か?』
(;<●><●>)『き、聞こえるんですか?』



33: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:39:34.04 ID:cywTVIMY0

すると、地面を擦るような音が聞こえてくる。
大きな扉は硬く閉ざされているので、開けば音でわかる。
この門を上ってくるのであれば、一人が狙撃するのでわかる。
ワカッテマスは、クックルの考えた即席の作戦に、詰みを感じた。

( ゚∋゚)(……構えろ……)

誰もが、息を呑む。
すると、カリッという、金属をひっかいたような、何かがぶつかった様な音がした。
すると、クックルが叫ぶ。

(;゚∋゚)『……!!!グレネードだ!!!!飛べ!!!』

飛ぶことも出来ず、その場に伏せた兵士が二人爆発に巻き込まれ、
一人は消し炭のように、もう一人はどうなったかもわからないほど吹き飛んだ。

土の色をした煙が、はじけとんだかのように広がり、周囲が見えなくなる。
ワカッテマスは、後ろに下がることが出来たものの、鼓膜が破れたのか、左右にグラつく世界を体験していた。
何かが詰まったかのように、口を開けて物を言おうとするも、喉が焼けたように痛んで声が出ない。

(;<○><○>)『……ッ!!ぁぁっ』

すると聞こえてくるサイレンサーの音。
残っているのは、狙撃用に待機させていた一人。そして、僕とクックル。
だが、もう僕は駄目みたいだ。

手も、痺れてきた。



34: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:44:02.43 ID:cywTVIMY0

(;゚∋゚)『……!!こんなに派手に入ってくるとはな……』

右手に握ったククリを、体制を低くして握る。
向こうはゴーグルでもつけているだろう、こちらは丸見えだ。
だとすると、しなければいけない事は唯一つ。

爆音の余韻の中に、一つ自分に近い足音を一つ見つける。
すると、その方向へと向かい、霞んだ目に縋り、対象がいると思しき場所へとすぐに駆け寄った。

<ヽ■∀´>『!!!』

気づいてから、銃をクックルへ向ける暇も無く、ν帝国の暗殺部隊と思しき者は、
後ろ手に捕らえられた。瞬時に、左腕を折り、そのまま肩を押さえ首にククリを当てる。

殺そうと思えば一瞬で殺せる状態に持っていった。

そして、暗視ゴーグルを奪い、装着する。
残る9人の内3人がまだ扉の向こう。そして残る6人は周囲に散開していた。
状況から見るに、余り訓練を受けていないようだ。
ただ指示されたように動く、人形のようなもの……だろうか?

すると、クックルに気づいた男たちが、銃を向ける。
発射された弾丸が、容赦なくクックルを襲うも、捕らえた男を使い、壁にする。
防弾ジャケットを着ているようで、何発も防ぐ。
その盾を放り投げ、二人にぶつけると、さっきと同じ要領で、一人の首をかき切り、もう一人の体を盾に使う。



36: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:45:52.73 ID:cywTVIMY0

明らかに、常人では無い立ち振る舞いに、相手は怯えているようであった。

<;ヽ■∀´>『ひっ!!ひぃぃぃぃ!!!!』
( ■∋゚)『黙っていろ』

サクッと、捕らえた暗殺部隊の頬を裂くように刃を入れて、あご部分を切り落とした。
声にならない声を上げる男を盾に、物陰へと下がる。
ライフルの弾丸が、風を切る様に飛んできて、クックル一人に集中させることに成功した。

そして、狙撃用に待機させた兵士が離れたのを確認すると、
そのまま付近にある壁を増築するためのコンクリートの塊へと身を持っていった。

あと7人。
ワカッテマスは、蹲っており、死んでいるように見えた。
自分の浅はかな作戦を責めるも、自分が死んでは意味が無い。

コンクリートを削るように降り注ぐ弾の雨を、防ぎながら思索を巡らせる。
手にある武器は、グレネードが2発。ハンドガン。弾は……12発。
そして手に持つククリ刀。向こうはもうこちらを包囲しようと展開しているようだ。

すると、大きく乾いた音が響き、敵が一人倒れたのを確認した。
先ほど離れた兵士が、物陰から狙撃したのだ。
これで、後6人。



37: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:47:25.59 ID:cywTVIMY0

グレネードを放り投げるクックル。
それに反応して、前列にいた4人が散開する。
爆発を起こし、小規模ながら地面を吹き飛ばすのと同時に、離れた一人の頭部をハンドガンで狙い定め、撃ち抜く。

頭から、黄色味の混じった血を噴出し、倒れる。
やはり、この手に馴染む感覚は、自分に大きな自信を与える。

全てが、スローモーションの世界。
トリガーを引く寸前。車がゆっくりとブレーキをいれ、速度を減速するようなあの感覚に近いものがやってくる。

弾丸を、滑り込ませるように、こっちへと銃を向けている男一人に放つ。
右に素早く回転しながら、空気を切り刻み進む弾丸は、男の皮膚に到達し、貫通。

頭蓋骨を叩き割り、脳を突きぬけ、再度頭蓋骨を叩き割り、皮膚を突き破る。
突き抜けた、空気穴のような部分から、赤く黒い血と、黄色いカスタードのようなものがドロドロと噴出す。

体を壁に隠し、敵の場所を確認する。
相変わらずライフルが、コンクリートを抉り取り、削り取り、激しい音を立てている。
銃声から大まかな場所を特定し、コンクリートから身を出すと、予想通り直線状に男がいた。

肩に一発弾を掠めてしまったが、男の眼球をぶち抜き、仕留める事に成功。



38: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:49:41.65 ID:cywTVIMY0

<;ヽ■∀´>『やっ…やばいニダ!!これは撤退ニダ!!』

ここである事に気づいた。
こいつ達が、皆同じような顔、同じような体格であるということに。

敵兵士が逃げを選択し、爆発によって皹が入り、
パラパラと欠片が落ちるその門扉を通過しようとするところを、体制を低くして追う。

少し距離をとった所で、ワカッテマスの体へと近寄り、生死を確認した。

(;■∋゚)『……おい!大丈夫か!』
(;<○><○>)『……っ』

かろうじて、息があるのを確認すると、残った兵士一人から、スナイパーライフルを受け取り、
液体燃料を持ってくるように指示。そのまま監視塔へと上り、素早く駆けて行く三人の”同じ人間”を狙う。

素早く三脚を立て、窓にかけると、弾丸をリロード。スコープに目を当て、倍率をあわせた。
相手も、岩陰に隠れながら移動していて、中々弾を当てるチャンスが伺えない。

クックルに、あの感覚が再び訪れる。

( ■∋゚)『……』

全てが一瞬にて計算しつくされる。
相手との距離、移動を想定した弾丸軌道、重力、風向き……。

クックルの頭には、電子計算されたかのような図が一面に広がっていた。
ゆるい放物線を描くようなそれを頼りに、クックルはトリガーを……引く。



40: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:53:04.01 ID:cywTVIMY0

銃口から火を噴出し、飛び出した弾丸は、空気の輪を作りながら、なんてこともないように、男の首元を貫く。
急に考える部分を無くした男の体は、フラフラとさまよい、前かがみに倒れた。

当たったはよしとし、クックルの狙いは頭部であったので、多少の不満が残る。
立て続けにリロードをし、仲間が死んだことにより戸惑いを隠せていない二人の隙を狙い、狙撃銃を構える。


――そして、ワカッテマスの意識がはっきりする頃には、事は終わりを告げていた。


( <●><●>)『……。あれ……』
( ゚∋゚)『気がついたか』

目の前に映ったのは、左肩から胸にかけて包帯を巻いた、クックル。
そして、腕やら耳やらに繋がれている点滴のチューブであった。

( <●><●>)『……あなたが、撃退してくれたのですか?』
( ゚∋゚)『ああ』

( <●><●>)『あの、ありがとうございました』
( ゚∋゚)『……気にするな。それに、俺の稚拙な作戦で3人も死んだ。それに、怪我もさせてしまった』

( <●><●>)『あの……私は、ワカッテマスと言います。名前を聞いてなかったみたいなので……』
( ゚∋゚)『俺は、クックルだ』



41: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:55:10.35 ID:cywTVIMY0

そこからは、同じ地区の警護であったり、作戦参加などで、共にいる時間が増えていた。
そして、そこでクックルの過去、野望を聞く。
驚きはしたが、一度助けられた命の恩、ということが有り、ワカッテマスはクックルの野望の手助けを決意した。

情報部へのコネクションが無いといけないという問題にぶち当たった時には、裏に手を回し、
二等兵ながらも情報2部に配属されることに成功。そこから、VIPとνの人体実験、フサギコの研究の詳細を調べた。

ワカッテマス本人は、至極当然のごとく命をクックルへ譲った気持ちでいる。
右手でいることによって、自分の存在意義を見出しているようにも、見えるほどのもの。

そんな事を、ワカッテマスは、土煙を吐くジープを操縦しながら思い出していた。

―――
――


( <●><●>)「もうすぐ。もうすぐなんです。もうすぐで……」



42: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:56:36.63 ID:cywTVIMY0

(;゚∋゚)「もうすぐで……叶うというのに!!!!」

重力にて、体が大きく右に、左に揺られる。
あの感覚があろうとも、ツンも同じものを持ち合わせている以上、機体の性能差が大きく出てくるのは目に見えている。
ただただ、防御に徹しつつ、ポイントへ向かう他無かった。

ブラブラと右腕を振りながら、回避するセパタクロウを見たツンは、失望以外の何者でもない感情が沸いていた。
あのクックルはどこへ行ったのか。
その感覚は、手の届かない物に、あっさり手が届いてしまったようなもの。

ξ゚听)ξ『……クックル。あんた、本当にそれで終わりなの?』
(;゚∋゚)『……何がだ』

ξ#゚听)ξ『それで終わりかって言ってんのよ!!!!』

翼をたたみ、急降下する要領で、体当たりをする。
胸部に激突し、メキメキと音を立ててセパタクロウは吹き飛ぶ。

(;´・ω・`)(;゚∋゚)『ぐあぁぁぁ!!!』

動かぬ右腕を使い、体当たりを防いだので、右腕は肩から千切れて吹き飛ぶ。
気が飛びそうな程大きな衝撃。
胸部まで圧がかかり、大きく装甲がはがれ、へこむ。

警告音が鳴り響いていたが、そのけたたましい音さえ聞こえぬ程に、クックルは集中していた。
覆いかぶさるような体制へと持っていったVBLは、腰に携えてある巨大ライフルを、剥がれた装甲にあてがい、続けざまに弾丸を撃ち込む。



43: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 22:58:54.67 ID:cywTVIMY0

ξ#゚听)ξ『答えなさいよっ!!ほらっ!!ほらぁっ!!!』

超巨大経口ライフルから、弾丸がひねり出され、セパタクロウの装甲を削り取っていく。
衝撃に耐えながら、残った左腕を使い、VBLのメインカメラを掴み取る。

(#゚∋゚)『……答えてやろう!!!』

手を払いのけようとするVBLの腕を、脚部によって蹴り弾き、振りほどくと、ミサイル射出口をVBLの頭部へ向ける。

(#゚∋゚)『これで終わりなどでは……!!』

地面に大きく波紋を立てて、VBLのメインカメラを叩きつける。

腰関節が大きく曲がり、くの字にさせられるVBLに追い討ちをかけるように、
腕部からミサイルを装填、ミサイルを放つと同時に手を離し直撃させた。

(#゚∋゚)『無いぞ!!』
ξ# )ξ『……!!』

メインカメラモニター、巻き角の形をしたセンサーを破壊され、
サブモニターへと切り替える間に、セパタクロウはブーストを用いて、立ち上がる。

そして、車輪を全開にし、クラウチングスタートのように構えると、
立ち上がろうとしているVBLへと、思い切り蹴りを叩き込む。



44: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:01:07.31 ID:cywTVIMY0

ξ;゚听)ξ『きゃあぁっ……!!!』

勢いよく吹き飛ぶVBL。
セパタクロウは、蹴りの勢いを維持したまま、体制を低くし、先程と同じように加速体制に入る。

( ゚∋゚)「ショボン!!ワカッテマスに連絡を!!全速力だ!!」
(;´・ω・`)「お……OK!!」

ξ#゚听)ξ『……っく、待ちなさいよ!!!逃げてあんたのプライドが納得すると思ってるの!!?』

ブーストで機体を持ち上げようとする。
だが、CPUによるエラー処理により、200秒のブースト使用を禁じられた。

ξ#゚听)ξ「この役立たず!!!さっさと動かしなさい!!!」

ツンのVBLが立ちすくんでいる間に、セパタクロウはスピードを上げる。
加速を増していくコクピット内で、クックルが、ショボンへと言う。

( ゚∋゚)「ショボン、まだか?」
(´・ω・`)『ちょっと待って……ワカッテマス!応答して!!もうすぐそっちへ行くよ!!』


『……』



45: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:02:52.53 ID:cywTVIMY0

(´・ω・`)『……ワカッテマス?聞こえてる?』
( ゚∋゚)「どうした?繋がらないのか?」

(;´・ω・`)『聞こえる!?ねえ!?』
(;゚∋゚)「……ショボン、回線を切れ」
(;´・ω・`)「え……?なんで?」

(;゚∋゚)「どうしてこうも、運が悪いものだろうか」
(´・ω・`)「――!!!」

セパタクロウの速度が、徐々に落ちていき、停止する。

目の前には、赤、紫。
二体の、駆動兵器が立ちふさがっていた――。

川 ゚ -゚)『ショボン二等兵。直ちに駆動兵器から降りよ。そうすれば、命までは奪わん』
( メωФ)『穏便に、解決、しましょう』

ゴゥン……。
ゴゥン……。

駆動兵器の駆動音が、二人に響いた。
後ろに戻れば、ツンのVBL。正面を突破しようにも、あの赤と紫だ。
四面楚歌、とはこの事であろうか……。



46: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:05:15.41 ID:cywTVIMY0

( ゚∋゚)『……断ると言えば?』
(;´・ω・`)「……クックル……」

川 ゚ -゚)『もちろん、このオオテンタで胴体を叩ききってお前を引き摺り下ろす。死んでも、文句は言えないだろう?』 

荒野に、月夜が照らし輝く一筋の刀。
クーはそれを振り下ろすと、セパタクロウへと向ける。
淡い色味を持つオオテンタは、確実にクックル達を死へと追いやることの出来る物であった。

('A`)「ロマネスク殿。自分に話をさせてもらえないでしょうか?」
( メωФ)「ああ。構わないよ」

出力を後部座席に回し、ロマネスクは前を見る。
左腕が千切れているあたり、駆動兵器と戦ったのであろうか……。
出撃できる駆動兵器は、VBLのみ。ということは、フサギコが贔屓していた、ツンか?

('A`)『……ショボン。聞こえているか?』
(;´・ω・`)『……ドクオ!!』

( ゚∋゚)「……」

('A`)『お前……なんでこんな事したんだ』
(´・ω・`)『……それは……』
('A`)『ブーンが死んだってのに……なんで……』



47: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:07:13.17 ID:cywTVIMY0

え……?
ブーンが、死んだ?

(;´・ω・`)『ちょ……ちょっと待って。い、今なんて言ったの?』
(;゚∋゚)「……馬鹿な」

(#'A`)『ブーンが……死んだんだよ!!!!』

怒りに任せて放つ友の声。
ショボンとクックルに、敗北と同等の感情が押し寄せる。

(;´・ω・`)『う……嘘だろ?そんな事、あるわけないじゃないか……。
       あんなに元気な顔をしてたブーンが……』

(#´・ω・`)『死ぬわけ!!!無いじゃないか!!!!』

( ゚∋゚)「……落ち着け。ショボン」
(;´・ω・`)「……ゴメン」

( ゚∋゚)『ドクオ。聞こえるか?クックルだ』
(;'A`)『なっ……。クックルもソレに乗っているのか!!?』

川 ゚ -゚)「……クックル」

( ゚∋゚)『ショボンを、責めてやらないでくれ。この反逆の主導者は俺だ。ショボンは、名前を貸してくれたんだ』
('A`)『だからなんで……』



48: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:09:00.12 ID:cywTVIMY0

( ゚∋゚)『今は詳しく話している時間は、無い。そこを、通してくれ』

川 ゚ -゚)『通すと、思っているのか。クックル』
( メωФ)『君達の野望。そして、僕達が解決しようとしている謎が一致しない限り、通すわけにはいかない』

VPも、腰に備え付けていた、流動充電式大槌矛『ミルニヨル』を構える。

(;´・ω・`)「……どうするのさ?あの青いのよりも厄介だよ」

( ゚∋゚)『お前達が欲している真実、情報は、おそらく俺達が持っている。
     そして、俺達の最終目標は、フサギコ、そしてクマーを殺す事だ。お前達にとっても、俺達は有害では無いはず。
     そして、殺してしまうには惜しい存在だ。そうだろう?』

( メωФ)『……そうだろうな。だが、その情報を持っている確証も得られぬままみすみす逃がすわけにはいかない、と言っているんだ』

( ゚∋゚)『では、ブーンの死の可能性について、一つだけ言おう。
     その情報が確証のあるものかどうかで、判断をしてくれ』

( メωФ)『……いいだろう』

( ゚∋゚)『ブーンは、俺達五人の中で、一番可能性を持っており、一番不安定な人間であった。
     だから故に、作られてすぐに、仮初の記憶を植え込み、その不安定要素を押さえ込もうと、
     家族という形態を取らざるを得なかったのだ』

( メωФ)『……何を言っているんだ?』



49: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:11:01.59 ID:cywTVIMY0

( ゚∋゚)『俺たち試験管人間は、云わば人間と人間のキメラ。
     不安定な生き物だ。だが、その不安定であるが故に、特殊な能力を持っている。俺や、そこのクー。ツンなどにな』

('A`)「一体何を……?」
( メωФ)『……不安定……』

更に、クックルは話を続ける。

( ゚∋゚)『その中でも、ブーンは完成度で言う最低の水準であった。
     作ったフサギコも、妥協で破棄しなかったに違いない。
     だが、フサギコはブーンが学習している内に気づく。
     安定度と反比例して、潜在能力が高いことにな。
     そして、そのブーンの不安定要素というのが、感情的になった際の暴走。
     そうだろう?ブーンは、フサギコを、VIPを守るようにインプットされていたに違いない。
     最後まで、嘘で塗り固められた記憶を信じて、死んでいったに違いない』

ロマネスクは、全てが繋がったように、感じた。
やはり、元凶は全て、フサギコにあった。そして、秘密裏に行われていた研究。
ブーンという男は、感じたことの無い父親のぬくもりを、母親の優しさを、フサギコへの尊敬を、全て植え込まれていたのだ。

( メωФ)『……私は、彼らを通そうと思います』
川 ゚ -゚)『……』

( メωФ)「ドクオ二等兵。君にも、後で全てを、わかるように話そう。だが、真実は君には辛すぎるものかもしれない」
('A`)「はい……お願いします」



50: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:12:51.27 ID:cywTVIMY0

川 ゚ -゚)『クックル。お前は、断ち切ろうとしているんだな』
( ゚∋゚)『……。そのような、誇らしい言葉ではない。ただの、復讐だ』

( メωФ)『さあ。行きなさい。正義は、もうどこにも無い』

VPは、『ミルニヨル』を元に収めると、道を開ける。
ロマネスクの胸中は、非常に複雑なものであった。

今まで守るべきものとして戦ってきたそれが、自分の信じていたそれとは全く異なり、
一つ間違えれば、自分に牙を向けようとしている物であるということ。いや、自分から向けている。

正義とはどこにあるのか、そう考え出した時点で、もうVIPにいるべきではない。
VIPにも、ν帝国にも……。
今、自分達が、偽られた正義を振りかざし、守ろうとしているニーソク国こそ、正義の形では無いのか。
悪に守られる正義など……どれほど滑稽なものであろうか。

( ゚∋゚)『では……仲間が待っているので、通らせてもらう。すまない』
(´・ω・`)『ドクオ……』

('A`)『俺……考えるよ。ブーンの死は、この戦争の裏にある何かの一部なんだろ?考えて……自分なりの答えを出す』

(´・ω・`)『……うん。じゃあ……また』
('A`)『おう。またな』



52: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:13:37.32 ID:cywTVIMY0

セパタクロウが、宵闇の空間に消えた。
クーも、ロマネスクも、ドクオも。考えることは、それぞれ違っていたが、VIPへの疑問は強まることになった。
その中でも、クーは、自らの中に隠していた事実を、認めざるを得なくなる。
自分が、人間とは似て非なるもの。

川 ゚ -゚)『……』

('A`)「……南部指令基地へと、戻りましょう」
( メωФ)「ああ。だがその前に、どうして逃がしたか、という問いの言い訳を考えなくてはな」

こうして、ロマネスク達は、南部指令基地へと戻る。

ξ#゚听)ξ「もう知らない。兄妹だってぶっ殺してやるわ……。コケに……コケにしたこの仮は……絶対……!!!!」

そしてツンも、怒りを表したまま、同じく南部指令基地へ。
どこへぶつければ良いかわからない、この感情を、ツンは歯軋りを立て、紛らわせた。


( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第27話『キメラ』 完



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