( ^ω^)は駆動兵器を操るようです

63: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:32:39.10 ID:cywTVIMY0

クーは、悩んでいた。
自分は、VIPにおいて戦うことを、楽しみとしていた。
だが今はどうだ。周りの人間の意志に、心が大きく揺らいでいる。
ブーンの死。クックルの反逆。
色々な事物が、クーを変えていた。

何が起きても、何があっても、動じやしない自分が、弱く、繊細になってきているのだ。
内なるものに、ちょっとした恐怖を覚えていた、変化に、恐怖を覚えていた。

川 ゚ -゚)『……』

戦場に身を放り投げるのが、私の生きがい。
襲い来る敵を、なぎ倒すのが、私の生きがい。

そう思っている。
いや、そう思っていた。




( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第28話 『少女Q』



64: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:34:44.62 ID:cywTVIMY0

さて、どう言い訳をしようものか……。
そうロマネスクは考えていた。あの場にいた責任者として、フサギコに呼び出されたのだ。
いつもとは見慣れぬ基地内を見て周っていたが、そう時間も無いようだ。

南部指令基地の、居住区の最上階層に、フサギコの部屋がある。
自動昇降機を使い、部屋の前まで行き、ノック。そして、ドアを開けた。

( メωФ)『――フサギコ少将殿。ロマネスク、只今参りました』

少将とは思えないほど、簡素な部屋作り。部屋の広さが逆にソレを引き立てているのであろう。
壁に飾られているのは、歴史のある機関銃や、狙撃銃。

あれは……大分前に、ある国で使われていたというM240か。
今となっては、銃弾の経口等が合わなくて、現在は使用されてはいないが、個人的には好きなフォルム。センスが光っている。

……と、そのような場合ではない。
今にも噛み付きそうな目で睨んでいる少将を、納得させる理由を――。

ミ,,゚Д゚彡「なぜあいつを捕らえられなかったのだ」
( メωФ)「……申し訳ありません。次は、必ず全力をもって叩き潰します」

ミ,,゚Д゚彡「お前に、次など……あると思っているのか?
      いくら、有能なお前とはいえ、あのような失態を犯したのだ。死を覚悟して、ここまで来たのであろう?」



66: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:36:34.02 ID:cywTVIMY0

力をいれ、椅子から立ち上がるフサギコ。
そのまま、壁に飾ってあった、年代物の、ウィンチェスターM1897と呼ばれる散弾銃を手にする。

ガチリ、と、弾が入っているのだろうか装填音が聞こえた。
ブーツが、絨毯を踏む音が鳴り、ロマネスクへ一歩、一歩と近づく。

だが、ロマネスクは引かない。
何かあれば、自分が責任を取って、軍を辞めようと決意していたからだ。
辞めるといっても、ただでは辞めない。

背中腰に備えてあるハンドガンに気をかける。
一歩。
また、一歩。

歩を進めるフサギコの目を、真っ直ぐ見る。
また、悪意を含んだ、あの微笑をして、また一歩近づいた。
そして、ゆっくりと散弾銃を、ロマネスクへと近づける――そして、ロマネスクがハンドガンを素早く取り出したその時。

ロマネスクの視界は、気づけば天井を向いており、そしてまた気づくと地面に叩きつけられていた。

ミ,,゚Д゚彡「……いかんな」
(;メωФ)「……っ!!!」

何があったか気付く間もなく、伏せさせられ、背中には銃口が押し当てられた感覚。
そしてフサギコの重圧が押し寄せる。



68: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:38:52.44 ID:cywTVIMY0

ミ,,゚Д゚彡「お前のその右目。それは大きな仇だ。
      素早く肩へ散弾銃の銃身を滑り込ませ、上から下へと、圧をかける。
      瞬間的にかけられた圧力に反応した体は、自然に足へと力を入れる。
      そう、お前が気付くか気付かないかの素早さでな。
      そして私は、お前の右足を引っ掛け、こちら側へと引き寄せる。そしてそのまま銃身にて圧を加えると、お前は倒れる」

(;メωФ)「くっ……」
ミ,,゚Д゚彡「そして、あとは反応できていないお前をひっくり返して、
      散弾銃にて腕を固定し、背中に当てる。これで、お前は、何も出来ずに死ぬことになる。
      どうだ?一度死んで見るというのは」

くそっ……。
どうやっても、まるで体が動かない……。
地面にでも埋められたかのような、全く動くことの出来ない不自由感が、ロマネスクを責め立てた。

(;メωФ)「私は……。正義と真実はどこにあるのか!!
       それが知りたいだけです!!そして……知るまでは、死ねない」

ミ,,゚Д゚彡「この状況で、そのような事が言えるとはな……。だが、私は二度もチャンスはやらん。
      お前、宗教には入っていないのか?祈る時間くらいなら、与えよう」


ロマネスクは、死を覚悟した。



69: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:41:36.94 ID:cywTVIMY0

『……その体を、どけてください。少将殿』

ミ,,゚Д゚彡「お前は――」

声がしたのは、入り口から。
ロマネスクは、かろうじてその方向へと押さえつけられた首をやると、
そこには、いつもどこか不機嫌そうな顔をした、先ほどまで一緒にいた男がいた。

今にも震えでトリガーが引かれてしまいそうな拳銃は、間違いなくフサギコに向いている。

(;メωФ)「……ドクオ二等兵!!」
('A`)「すいません、ロマネスク殿。自分も、真実を知りたいです。
    ブーンの真実を。だから、ロマネスク殿が死ぬのは、僕にとって有益では無いですし、荒巻博士も悲しまれます」

ミ#,,゚Д゚彡「……貴様、何をしているのかわかっているのか。
      この男と同罪、先ほどの出来損ないと同じ、反逆行為なのだぞ」

すると、ドクオはおもむろに襟元と、胸に付いている勲章を千切り、床へ放り投げた。

('A`)「なら……。今をもって、VIP軍から身を引かせていただきます。
   これで……遮るものは何もありません。さあ、ロマネスク”さん”から、どくんだ”フサギコ”」



70: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:43:43.10 ID:cywTVIMY0

……ここまで、ここまで虚仮にされたのは……初めてだ。
フサギコ、だと?

己と、私の力の違いもわからない、何も知らない若造が、
私にそのような口を利くなど、許されていいのか?

否、そのようなことは、あってはならない。

あってはならない……!!!

ミ#,,゚Д゚彡「なめるなよ!!!!小僧!!!!」

ロマネスクの背中から、ドクオへと銃口を移動させる。
瞬時にドクオへ照準を合わせ、トリガーを引く。
銃身から、実砲が吐き出され、釣鐘状の無数の弾丸が、勢いよくドクオへ飛び掛かろうとしたその時、
ロマネスクの足が、フサギコの右手を蹴り、僅か上に軌道がずれた。

ミ;,,゚Д゚彡「……!!」

頬とわき腹を弾丸が霞め、血が吹き出るが、そのような事に目もくれず、
フサギコへ駆け寄り、銃を突きつけた。部屋全体に聞こえる程の、ドクオの荒い息。
目には涙を溜めて、フサギコの額にあてがった。

(;'A`)「はぁっ……!!!はぁっ……!!!」
ミ;,,゚Д゚彡「……ちっ」

そのまま地面に散弾銃を置き、絨毯の上へと転がした。
それを確認すると、ロマネスクはフサギコを振りほどき、散弾銃を回収する。



72: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:45:30.37 ID:cywTVIMY0

(;メωФ)「……あの一瞬で、僕の右肩を外すなんて、大したものです」
ミ,,゚Д゚彡「……ふん。それより貴様ら、ここで私を殺すのか?」

その問いに、人が変わったかのように答える。

('A`)「……殺します。あなたが、ブーンを殺したのなら」

それを聞いたフサギコは、笑い始める。
大きく、相手を罵倒するように。

ミ,,゚Д゚彡「……ふっ。ふははは!!!何を言う!!私は”作った”側だ。殺してなどいない!!」
( A )「……」

( メωФ)「フサギコ少将殿……。もう、口を噤んでください。それ以上は、自分の頭にも血が上ります」
ミ,,゚Д゚彡「元々あやつは、捨て駒のようなもの。今さら死なれても、何も変わらぬわ!!」

乾いた物が、肉を貫くような、そんな生々しい音が響く。
それと同時に、鮮血を腕から噴出す男が、一人。

ドクオが向けたのは、警告の意図を含んだ、一発目。
もう次は無いのか、次はもう片方か、それはドクオの顔を見ればわかる。

('A`)「……いい加減にしろ」

もう、次は、無い。



73: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:47:10.95 ID:cywTVIMY0

ミ#,,゚Д゚彡「いい加減にしろ、だと?その言葉、そっくりそのまま返してやるわ!!
       私の野望の邪魔をしおって……。兵士一人の死と、国全体の平和、どちらに重みがあると思っているのだ!!!」

(#'A`)「っふざけるな!!!俺に取っちゃ、VIPより、VIPより……!!!
    一人の友達、ブーンの方が大事だったんだよ!!!!」

ミ,,゚Д゚彡「そのブーンが、作られた物だとしてもか?者ではない、物だ。
      私は一度たりとも人としてあの5人を扱ったことはない。
      お前は、人ではないモノを、人として、お前の心を揺るがす大いなるモノとして、その胸に置いておくのか?」

(;メωФ)「……もういい。ドクオ二等兵、荒巻博士達を乗せたNRPがもうすぐここへ着艦する。
       事情を話せばきっと博士もわかってくれる、行きなさい」

首で、入り口の方を指しドクオにNRPの出迎えに行くように促すロマネスク。
フサギコは、両手を挙げ、そのまま壁につかせた。
油断は一欠けらも見せてはならない。
この男は、人の心へと滑り込む術を持っている。

多種多様なその言葉を使い、人を操るかのごとく……。

ドクオは、最初こそは、フサギコを殺そうと決意していたのか拒んでいたが、
根負けしたのか、それとも、フサギコに煽られ、いいように動かされるのを恐れたのか、承諾し部屋を走って出て行く。



75: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:49:49.50 ID:cywTVIMY0

壁に押さえつけたフサギコの背中に散弾銃を当てながら、
聞きださねばならぬ事を聞き出すべく、ロマネスクは、口を開く。

( メωФ)「さっきと、逆転だ。いくつか、質問に答えてもらうぞ。フサギコ」
ミ,,゚Д゚彡「ああ、この際だ。答えてやろう」

ドクオは、自動昇降機を待っている間もなく、非常階段を使用し、
NRPが着艦する演習塔へと駆けた。途中何人もの兵士にぶつかったが、目もくれず。

『――NRP。着艦します』

ドクオがフサギコの部屋から飛び出るのと同じ頃、荒巻、そしてバルケンの死体を乗せたNRPが、演習棟に着く。
乗組員はみな、満身創痍状態で、ちゃんと着艦できるか不安であるほどであった。

荒巻も、ため息をつきその場しのぎに作った、弾薬箱の棺桶に入ったバルケンを見る。
今まで一緒に研究してきた仲であった。信頼していた。
なのに、その信頼は、フサギコをおいて次のものであって、危険思想の温床となっていたのだ。

/ ,' 3「……ワタナベ君、だったかね。それに、ここにいるNRPクルーの皆に、聞いておきたい事がある」

そう言うと、着艦作業を終えたクルー達が、荒巻の方を向く。
皆、どのような事を荒巻が口に出すのか、神妙な面持ちで構えていた。



77: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/31(火) 23:51:58.00 ID:cywTVIMY0

/ ,' 3「先程にもあったかのように、君達のリーダーである、バルケンは死んだ。
    正当防衛だ。だが、今のVIPにはそれは通じないやもしれん……、いや、通じないであろう」

从'ー'从「……」
/ ,' 3「ワタナベ君は、そう落ち込む必要は無い。むしろ、誇りに思って欲しい。
    私が命じた事だ、ワタナベ君が責められようものなら、私が身を挺して君を守ろう」

NRPの足場には、先程まで生きていたバルケンの血が、乾きこびり付いている。
それを見ないように、ワタナベは口を開く。

从'ー'从「それは、感謝いたします。でも、そこまでしていただく事はありません。私が正しいと思って従った事ですから」

/ ,' 3「……そうか、すまない。では、話を続けるが、今後君達に与えられるであろう選択肢は、多くない。
    このままVIP軍にいることは可能であろう。だが、NRPにはおそらく残っていられない」

『……』

クルー達は、息を飲む。
正直、この変動にはついていけてない者が多かった。
駆動兵器を扱うこの立場、正義という名の力を振りかざす者達の支援をする役目をまっとうしていただけなのに……。
VIP軍という巨大な人の集合体の、云わば脳に渦巻くエラーが、全体を侵食し始めたのだ。



79: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/08/01(水) 00:00:34.96 ID:Ruob9TtF0

/ ,' 3「そこで、私はある事を考えた。だが、この選択肢は、
    VIPにも、ν帝国にも未練の無いクルーのみしか、厳しいものであろう。
    それは……独立。今このNRPにつまれているVB、VR、VPをこのまま奪還し、ある男とコンタクトを取る」

点が、線へ。
同じ志を持つ者達は、必然と同じ箇所へと集まるもので、何をしなくとも、どう動こうとも、そうなるものである。

/ ,' 3「ラウンジにいるシラネーヨという男。あやつを、私が引き抜く。
    そして、フサギコとクマーに、持てる技術を全て用いて、叩き潰す」

从'ー'从「……そんなことができるのですか?」
/ ,' 3「できるとも。核ミサイルを一人で受け止めた、勇敢な男もいたではないか」

从'ー'从「……そうですね。それに、彼も私たちの戦いも見守ってくれているはずです。
      ……私は、ついて行きます!!」

/ ,' 3「ありがとう。改めて言わせてもらう。この提案は、本当に覚悟がある者だけ、名乗りを上げてくれ。
    私は、どちらにしろとも言わない。ただ、私は、もうフサギコを、クマーを許すことは出来ない」

VIPというのは、何なのだろう。
ν帝国の体制から反発した、同じ志を持つ者達では無かったのだろうか……。
それが、フサギコという男一人の玩具のように、手ごまにされ、好きなように動かされている。



80: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/08/01(水) 00:02:30.42 ID:Ruob9TtF0

(#メωФ)「――本当に言っているのか!!」
ミ,,゚Д゚彡「当たり前だ。さっきも言ったであろう?この際だから、話してやる、とな」

(#メωФ)「くっ……!!そのような理由で、ここまで戦争を拡大させて……!!!」
ミ,,゚Д゚彡「お前には、私の過去なんぞわかるまい。さあ、NRPが着いたようだぞ。ここから出なくてもよいのか?」

――この男なら、大陸をも動かせるのかもしれん。

危険すぎる、その存在。

川 ゚ -゚)「私は、どうすればいいのだ……」

揺れ動く、生まれたての感情。
彼女は、VIPにて、偽りの剣を振るうのか。

”生みの親”へ、復讐の剣を振るうのか。

時は待たない。
時は急がない。
時は遅れない。

淀みなく、絶え間なく、淡々と進む時は、戦争に身を投じる者達に、考える時間を与えようとはしない。



( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第28話 『少女Q』 完



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