('A`)はダークヒーローのようです

33: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:07:48.72 ID:9z7E3pgBO
第十二話 ホリデイ

休日。万人が待ち焦がれる自由が許される一日。
それはその時間そのものが財産であり、資源である。

どう活用するかは持ち主の自由。

その休日を、ドクオはニーソクでのショッピングにあてることにした。
ネットの海に潜るようになってから、人間の街には興味があった。
彼らがどのように暮らしているのか、それを実際に目にする事ができるのだ。
またとないチャンスに、ドクオの心は慣れないダンスを踊っていた。



35: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:09:34.20 ID:9z7E3pgBO
('A`)「そう思っていた時期が、オレにもありました」

(*゚ー゚)「あ、あの靴可愛い〜!」

ドクオの手には、荷物、荷物、荷物、荷物の山。
隣のギコの手にも、似たような山。

(*゚ー゚)「買っちゃおっかなぁ、どうしよっかなぁ〜」

VIP中央駅から電車に乗って一時間。
現在、ニュー速国の首都として機能している都市ニーソクの目抜き通りにやって来たドクオ達は、朝から現在進行形でしぃの買い物に付き合わされていた。
現在時刻は十一時と少し。彼らがニーソクに到着したのが八時であるから、大体三時間程しぃの物持ちをさせられている計算になる。

(,,゚Д゚)「しぃ…ちょっといいk」

(*゚ー゚)「ねぇギコ君、この靴私に似合うかなぁ〜?」

(,;゚Д゚)「あ、いや、その……」

(*゚ー゚)「ドクオさんはどう思います?やっぱり私にはちょっと派手すぎますかね?」

('A`)「その、なんだ……言わせてもらうなr」

(*゚ー゚)「あぁん、こっちのも可愛いぃ!」

(*゚ー゚)の買い物は終わらないようです。



36: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:11:12.93 ID:9z7E3pgBO
靴屋の中で目移りしながら忙しなく動くしぃを横目に、ドクオとギコは同時にため息をついた。
店のマヌカンも、あっちへこっちへと目移りするしぃについて行けなくなったのか、先程から諦めたみたいに店の隅の椅子に腰を下ろしている。

('A`)「……いつも、こうなのか?」

ドクオが、呆れたような口調で隣で腰を下ろしているギコに問う。

(,,゚Д゚)「これが、しぃのストレス発散方法なんっすよ。
オペレーターだけじゃなく、お偉いさんの接待なんかもこなしてるからストレスが溜まって仕方ないってよく言ってるっす」

ギコはいつものことで慣れているのだろう。
荷物を下ろし、開いた手で上着の胸ポケットからキャメルを取り出すとくわえた。

(,,゚Д゚)「ドクオさんもどうっすか?」

('A`)「ああ、貰おうか」



37: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:12:11.87 ID:9z7E3pgBO
ギコがジッポを取り出すと、今まで疲れたように椅子に座っていたマヌカンが二人に近付いてきた。

(,,゚Д゚)「あぁ、すまん禁煙だったか」

マヌ´_`)カン「本当に申し訳有りません…と言いたいところですが、僕にも一本いただけます?」

ギコとドクオは顔を見合わせ、次にまだ動き回っているしぃを見、苦笑した。



38: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:13:55.41 ID:9z7E3pgBO
休日。なんと心の休まる言葉か。
数年前までは彼もそう思っていた。
今では、そんな言葉が彼の生活に現れることは無くなってしまった。

事実上この基地の最高責任者であるショボンに、体と精神を休めることのできる日など存在しない。今も辺境警備隊の報告書に目を通していたところだ。
相変わらず戦況は芳しくない。

いつ邪神とその下僕が攻めてくるかわからないこのご時世、軍に休息の時間は無い。
しかも最近では邪神を崇拝する狂人共まで現れる始末だ。
奴らはこの希望の無い世界で生き残る為に、自ら化け物の傘下に寝返りかつての同士達を襲うのだ。
人間同士が争うのは、醜い。それがどんな形であれ、絶対にあってはならない。
そう願った多くの指導者達によって、平和協定が結ばれ数十年程前に地上から人間同士の戦争は一掃された筈だ。

しかし現実は違う。

今も辺境の集落では、邪教徒共が哀れな民の家々に火をつけ、その肉を切り刻んで自らの神に供物として捧げているのだろう。
その一方でニーソクのような邪神の被害圏の外にある都市では、自分の周囲五メートル以外に興味の無い輩が無気力な足取りで街を闊歩している。



39: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:15:00.85 ID:9z7E3pgBO
それを思うと、ショボンは時々自分が一体何のために戦っているのか疑問を持たざるを得なくなる。
自分はまだいい。だが邪神の驚異の最前線で命を掛けている兵士達はどうだ。
ここの基地にいるのは、いずれも故郷が邪神の天国になってしまい行き場の無くなってしまった、復讐心に燃える若者ばかりだ。
彼等はニーソクの住人を見てどう思うのだろう。

(´・ω・`)「ふぅ。止めておこう。共食い嫌いの僕が、こんな事を考えていたら元も子もない」

数十分前に秘書が煎れてくれたコーヒーを一気に飲み干すと、ショボンは革張りの椅子から立ち上がった。
窓の外に目をやる。
桜が綺麗だ。

(´・ω・`)「僕も少し、休憩するかな」



41: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:16:33.20 ID:9z7E3pgBO
ノパ听)「ドクオぉぉぉ!!!111」

勢いよくドクオの部屋のドアを蹴り開けると、目の前には主のいない豪華な部屋が広がっていた。

ノパ听)「ありゃ?なんだ、ドクオの奴いねぇのか」

拍子抜けしたヒートは、ドアを開けた時と同じくらい勢いよく閉めると、手持ち無沙汰に歩き始めた。

ノパ听)「どこ行ったんだろ、あいつ」

ドクオの行きそうな場所の見当がつかない為、ヒートはとりあえず虱潰しに基地の中を見て回ることにした。

━━━━━

(-@∀@)「お、ヒートじゃん。どした、こんな所に来て」

ヘリの格納庫では、アサピーがヘリのローターに油をさしていた。

ノパ听)「なぁ、ドクオを見なかったか?」

(-@∀@)「あぁ、ドクオならしぃとギコと一緒にニーソクに『ショッピング』に行ったよ」

ショッピングの部分を強調し、アサピーが額の汗を拭う。

ノハ;゚听)「なんだってぇぇぇぇ!!!???それは本当か、アサピー!!!」

(;-@∀@)「あぁ、ジョルジュさんから聞いたから間違いない。奴は今、ニーソクで物持ちをさせられているハズだ……」

ノハ;゚听)「オレ達は、とんでもない思い違いをしていたようだ……」



44: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:17:35.36 ID:9z7E3pgBO
格納庫を後にしたヒートは、気の抜けた顔を天に向けていた。
今日は久々の休みだから、ドクオを誘って射撃訓練でもしようと思っていたのに。

ノパ听)「つまんねぇの」

ぃようや、流石兄弟を誘う事もできるが、あいつらでは物足りない。

ノパ听)「どうしたもんかねぇぇぇ」

あてもなく、基地の敷地内をぶらつく。
ふと、堤防沿いの桜並木が目にとまった。

ノパ听)「…そうだ、『花見』だぁぁぁぁ!!!!!」

ヒートは水を得た魚のように勢いよく駆け出した。



45: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:19:14.79 ID:9z7E3pgBO
( ゚∀゚)「っつう訳で、オレはここにいるんだな。把握した。だが、何で大将も一緒なんだ?」

(´・ω・`)ノパ听)「話せば長くなr」

( ゚∀゚)「産業で」

(´・ω・`)ノパ听)「
くそみそ
寂しい
腹減った」

( ゚∀゚)「おk、全くもってわからん」

桜吹雪舞い散る堤防。ヒートとジョルジュとショボンは、ビニールシートの上に座り、風に揺れる桜の木々を眺めていた。

(´・ω・`)「いやぁ、やっぱり桜はいいね。風情がある」

( ゚∀゚)「えぇ。今年は案外長く咲いてて、このままいけばもう一度花見ができそうですね」

(´・ω・`)「確かに。時にジョルジュ君」

( ゚∀゚)「何でしょう、大将」



47: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:20:09.23 ID:9z7E3pgBO
ショボンは、ちらとヒートをうかがう。

(´・ω・`)「彼女は一体何をしているんだい?」

( ゚∀゚)「あしきゆめと戦っているんじゃないでしょうか……」

酒瓶片手に乱舞するその姿は、まさに人類の規格外。

ノハ*゚听)「おらぁぁぁ!!!酒が足りねぇぞぉぉぉ!!!!」

( ゚∀゚)「なんてベタな奴だ……おいヒート、大将の前だ、あまりオレに恥をかかせるな」

(´・ω・`)「まぁいいじゃないか。たまの休日だ、階級なんか忘れて楽しもう」



50: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:21:16.39 ID:9z7E3pgBO
( ゚∀゚)「そうですか。ではお言葉に甘えて…」

そう言うとジョルジュは、ヒートの足元に転がっていた輸入物の焼酎を手に取り、中身をあけた。

( ゚∀゚)「さぁ、大将も飲みましょう。花見酒は旨いですよ」

(´・ω・`)「あぁ、それじゃあ僕も本気を出させてもらうよ」

ショボンはどこから取り出したのか、テキーラをあおると立ち上がった。

(´・ω・`)「一番ショボン、や ら な い か ?」

( ゚∀゚)「だが断る!」



51: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:22:35.44 ID:9z7E3pgBO
━━オープンカフェのイスに座り、街を行き交う人々を眺める。
サラリーマン、流行の最先端を行く若者、座り込んでタバコをふかしているヤンキー、どの顔を見ても今この世界が滅亡の危機に瀕していることなどそこからは想像できない。
一週間前にヘリの窓から眺めたVIPとは大違いだった。
何故、ここまで世界情勢に無関心になれるのか。ドクオの頭の中に、あの疑問が再び沸き起こる。

(*゚ー゚)「享楽的な、街でしょう」

上からの声に顔を上げると、しぃが両手にシェイクを持って立っていた。

('A`)「享楽的?」

ドクオの疑問符がついた言葉に頷くと、しぃは右手に持ったシェイクをドクオに手渡した。

(*゚ー゚)「明日が見えないから、今日を少しでも楽しく生きる。いつ死んでもおかしくないから、毎日が最後の晩餐」

言いながら、ドクオの向かいに腰掛けた。

(*゚ー゚)「この街の人達も、邪神が現れた最初の頃は毎日絶望的な顔をして歩いていたんですよ」

('A`)「しかし今はそんな様子は微塵も無いが」



53: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:23:42.56 ID:9z7E3pgBO
ドクオの言葉にしぃは今度は首を振った。

(*゚ー゚)「疲れたんでしょう、『絶望』することに。いつまで経ってもやってこない『滅亡』。だけどそれは明日やってくるかもしない」

音を立てないで、シェイクを飲むしぃ。ストロベリーのピンクがうねるようにストローの中を進む。

(*゚ー゚)「だから、毎日を一生懸命に生きよう。そう思ったんじゃないんですか?」

ドクオもストローをくわえる。カップの中には紫色の液体と個体の中間の物質。
飲むとさっぱりとした葡萄の味がした。

(*゚ー゚)「まぁ、中には開き直ったり人生捨ててるような人もいますけどね」

(,,゚Д゚)「何の話しをしてるんだ?」

ギコがハンバーガーセットの乗ったトレイを手に、やって来た。

(*゚ー゚)「私の故郷について、ちょっとね」

そう感傷的に呟いて、しぃはトレイの上の包みを手に取った。



55: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:24:54.99 ID:9z7E3pgBO
(,,゚Д゚)「そういえば、しぃはニーソク出身なんだったな」

ギコの言葉を、しぃは肯定も否定もしない。
包みを広げてチキンバーガーにかぶりつき、旨そうに咀嚼し飲み下した。

(*゚ー゚)「さて、午後からはどこ回ろっか?」

(,,゚Д゚)「ちょwwwまだ買うのかwwwww」

ギコが悲痛な声を上げる。

(*゚ー゚)「当たり前でしょー?今日は『ショッピング』に来たんだから。泣き言言わないの」

しぃの言葉に、二人は諦めたように肩をすくめた。

(,,゚Д゚)('A`)「やれやれだぜ」



58: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:26:33.00 ID:9z7E3pgBO
━━知らず知らずのうちに日は傾き、知らず知らずのうちに花見の参加者は増えていた。

ノハ*゚听)「がはは!飲めや飲めやぁぁぁ!!!」

ヒートの陽気な声に誘われるように、一人また一人と花見客は増えていった。
今では、四つのシートの上で十数人の男女が宴会に興じている。
中には明らかに一般人と思われる人もおり、いよいよ花見は混沌をきわめてきた。

(´・ω・`)「一体どこからこんなに集まったんだろうね」

誰が持ち込んだかもわからない重箱をつつきながら、ショボンはポツリと呟いた。

( ゚∀゚)「さぁ、どこからでしょうね」

徳利を逆さにしながら、ジョルジュが応える。

(*‘ω‘ *)「ちんぽっぽぉ〜!」

( *´∀`)「よいではないか、よいではないかぁ〜」

(´・ω・`)「それにしてもこのモナー、ノリノリである」

( ゚∀゚)「ははは、まぁいいんじゃないですか。たまの休みなんです、皆騒ぎたいんでしょう」

遠い目をしながら、ジョルジュが呟く。その視線は、集団の中心で不思議な舞を待ってるヒートに向けられていた。



59: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:27:40.00 ID:9z7E3pgBO
ノハ*゚听)「沖の〜かもめぇにぃ、ふかしイモとられてぇ〜ついてねぇ〜♪」

ご機嫌に歌うヒート。ジョルジュの口元が綻ぶ。

本当に元気な奴だ。
元気というよりはやかましいの部類に入るが。

(´・ω・`)「だがそこがいい、だろ?」

ショボンの言葉に、ジョルジュははっとした。

(´・ω・`)「口に出していたぞ」

自分の失態に気付き、思わず苦笑する。

( ゚∀゚)「大将もお人が悪い」

決まりの悪そうな顔で、ショボンにお酌をする。

(´・ω・`)「惚れているんだろう?」

ショボンがニヤニヤ笑いながら、ジョルジュに注いでもらった杯に口をつける。

( ゚∀゚)「強い女です。常に前向きで、挫けない。どんな事も笑い飛ばしてしまう。小さな事は気にしない、大きな器を持っている。
あいつを見てると、自分が悩んでいた事がなんだか馬鹿馬鹿しくなってしまうんですよ」

こんな事を言ってる自分は、きっと酔ってるんだろうなとジョルジュは思った。



62: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:29:31.37 ID:9z7E3pgBO
(´・ω・`)「ほう、君にも悩みがあるのか。実に興味深いね」

ショボンは相変わらずニヤニヤと笑っている。だが憎めないにやけ面だ。

( ゚∀゚)「自分にも悩みの一つや二つ、ありますよ。ただ、隊長という立場上部下には見せませんがね。大将だってそうでしょう」

空になっていないショボンの杯に、ジョルジュは追い討ちをかけるように日本酒を注ぐ。

(´・ω・`)「まぁね。君と違って、恋の悩みは最近無いがね」

( ゚∀゚)「ははは、自分も色恋沙汰なんざご無沙汰ですよ」

苦笑し、自分の杯にも日本酒を注ぐ。

(´・ω・`)「そうか。まぁ頑張りたまえ」

何を、と言いかけてジョルジュは踏みとどまった。

まったく、人を手込めにするのが上手い人だ。



63: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/12(火) 22:32:24.31 ID:9z7E3pgBO
(´・ω・`)「また口に出ているぞ、ジョルジュ君」

( ゚∀゚)「おっと失礼、ささもう一杯」

ショボンの杯から、ついに日本酒が溢れたが気にしない。
何故なら、今日は休日なのだから。

( *´_ゝ`)「脱げ、脱げぇ!!」

(´<_`* )「おk兄者、時に落ち着け。着エロというものが世の中にはあってだな」

\(*^o^)/「わしの若い頃はだなぁ…」(*゚ー゚)「あれ?皆さんお揃いで、お花見ですか?私達も混ぜさせて下さいよ♪」

( *・∀・)「おや、可憐なお嬢さんのご登場だぁ!」

(,,゚Д゚)「酒か、久々にオレも飲ませてもらうか、ゴルァ」

('A`)「やれやれ、騒がしい奴らだ」

ノハ*゚听)「八時丁度のぉぉぉ!!!あずさ二号でぇぇぇぇ!!!」

暮れゆく春の夕日と桜吹雪を背に、VIP基地の休日は更けていくのだった。



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