('A`)はダークヒーローのようです
- 50: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:01:48.30 ID:q0YZSyUMO
- 第十五話 傷跡
VIP基地の長い一日は終わり、疲弊し切った兵士達を気遣って基地の修復や勝利の酒盛りは翌日以降に延ばされた。
それでも戦死者の埋葬はその日の内に行われる事になり、非戦闘員達は数時間前まで地獄だった夕闇の迫る戦場跡に駆り出された。
肉体的な疲れを感じないドクオも、その中に加わり遺体のギアを脱がせては運んでいた。
('A`)「やはり人間だな。かなりの数がやられたと見える」
遺体が身につけているギアは所々が溶解したり、見事に体の裏側まで貫通した穴が空いていたりと、とにかく酷い。
ドクオが以前起きていた時代の鎧よりも遥かに固く、隙のない作りをしているのにも関わらず、兵士達のギアはまるで玩具のように悉く破壊されていた。
(オ1;-ゝ-)「うっ……」
ドクオの近くで、遺体のギアを脱がせていた若い男のオペレーターが、口を抑えてうずくまった。
やはり、殺し合いを知らない者には堪えるのだろう。
('A`)「下がっておけ。ここはオレが片付ける」
そう言って、男が手を着けていた遺体の傍らにしゃがみ込む。
(オ;´ゝ`)「すいません……」
- 51: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:02:41.87 ID:q0YZSyUMO
- 男の言葉に返事を返さずに、ドクオは手際よく遺体を処理していく。
ふと、何体目かの遺体の処理に取りかかろうとした時、視界の隅に場違いなものを見つけてドクオはそちらの方に目を向けた。
('A`)「これは……」
暗くてよくわからないが、どう見てもギアを着けた兵士のものでは無いその横たわる影に、ドクオの目は釘付けになった。
ゆっくりと腰に下げたライトを取り出すと、スイッチを入れる。
白色ライトの丸い輪の中に照らし出されたのは、ドクオのよく知る人物の冷たくなった姿だった。
('A`)「……何故、ここに?」
*( - -)*「」
名前も知らない少女。
絵本を読んでやった。
魔法使いを捜してやると、約束した。
嬉しそうに駆けていった少女。
何故、彼女がここに? 渦巻く疑問の奔流。憐れみでも、悲しみでもなく、純粋なる疑問。
そこにあるのは、少女が死んだのだという結果だけ。
ふと、ドクオの側で土を踏む音がして、彼は傍らの人物の方を振り向いた。
(*゚ー゚)「ヘリカルちゃん…」
しぃは、少女の遺体に向かって呟いた。おそらくそれがこの少女の名前なのだろう。
- 52: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:04:01.54 ID:q0YZSyUMO
- ドクオは自分が感じていた疑問の答えを求めて、しぃに尋ねた。
('A`)「何故、この子供の遺体がここにある」
しぃはドクオの方をちらと見ると、また少女の遺体の方に目を向けて、ぽつりぽつりと語り始めた。
(*゚ー゚)「ヘリカルちゃんは、三年前に邪神の侵攻によって壊滅させられたサワチカ郡唯一の生き残りなんです。
焼け跡でこの子を見つけた私達が、帰る家のないヘリカルちゃんを引き取って基地に住まわせることにしたんです」
('A`)「そうだったのか。だからこんな人里離れた基地の中に……」
(*゚ー゚)「ヘリカルちゃんと、会ったことがあるんですか?」
しぃがドクオの方に向き直り、尋ねた。
('A`)「あぁ、前に何度かな。せがまれて絵本を読んでやったりもした」
ドクオの言葉に、しぃが目を見開く。
(*゚ー゚)「それ、本当ですか?」
何故このような反応をするのだろう。
('A`)「ん? あぁ、一度な。それがどうかしたのか?」
(*゚ー゚)「ヘリカルちゃんって、基地の大人には誰にも懐かなくて、いっつも一人で遊んでる姿を目にしてたんです。
だから、ヘリカルちゃんが誰かに絵本読んで貰ってるとこなんて、想像できなくて……」
- 53: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:05:03.67 ID:q0YZSyUMO
- ('A`)「そうか」
(*゚ー゚)「えぇ、だからドクオさんに懐いてるとこなんて想像もできなくて……あ、別にドクオさんが無愛想とかそんなんじゃなくて…」
慌ててフォローを入れるしぃ。
(*゚ー゚)「そっかぁ、あのヘリカルちゃんが…じゃあ、ドクオさんがお父さんとかに似てたのかな」
('A`)「オレが父親にか。笑えないジョーk」
そこでドクオの思考は違和感に気付いた。
(*゚ー゚)「? どうしました?」
('A`)「さっきお前は、この子供はサワチカ郡唯一の生き残りと言ったよな?」
(*゚ー゚)「えぇ。ヘリカルちゃん以外の人間はみんな邪神に殺されちゃってて、助けられたのはヘリカルちゃんだk」
('A`)「おかしいんだ。この少女は、以前オレと話している時に今も両親がいるような事を言っていた。
だがお前の話しを聞くと、両親は既に邪神に殺されていないということになっている。本当に生き残ったのはこの少女だけなのか?」
新たな疑問の出現にドクオは考え込む。
(*゚ー゚)「いえ、確かに生き残っていたのはこの子だけでしたよ。ちゃんと焼け跡の隅から隅まで捜したんです。
きっと、ヘリカルちゃんの空想なんじゃないですか?
ほら、子供ってよく空想上の友達と遊んだりしてるじゃないですか」
- 54: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:05:49.68 ID:q0YZSyUMO
- しぃは最もらしい答えを提示した。
だが、本当にそれだけなのだろうか。
あの少女が言う「両親」の存在は、本当に少女の空想の産物なのだろうか。
*(‘‘)*『それでね、それでね、お父さんとお母さんにも相談したんだぁ』
少女の言葉が、脳裏を掠める。
*(‘‘)*『もしかしたら、魔法使いさんが生き返らせてくれるかも知れないって!』
ドクオの胸の中の違和感が、消える事は無かった。
- 55: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:06:56.88 ID:q0YZSyUMO
- 遺体の処理は大方終わり、後はオペレーター達だけでも大丈夫だという事でドクオは自室へと戻って来ていた。
部屋の明かりを点けて、ベッドの上に倒れ込む。肉体的な疲れは無い。ただ、封印の魔術にかなりの精神力を消費していた為、今はあまり頭を働かせたくない。
ゆっくりと目を閉じようとして、机の上に放り出されたままのある物に気付いて、ベッドから起き上がった。
机の上からそれを取り上げ、ぼんやりと見つめる。
それは、あの少女が忘れていった絵本。
('A`)「結局、返すことができなかったな」
ポツリと呟く。
魔法使いを捜していたあの少女。
死んだ猫が可哀想だと言っていた、あの少女。
('A`)「死んでしまって可哀想」
ドクオには、その死者に向けられる「哀れみ」という感情がわからない。
何故、可哀想なのか。
寿命有るものはいつか必ず死ぬ。
その「死」が、残されたものにとって理不尽だから?
それでも、それは所詮は他人ごとでは無いのか。
何故、他人の為に哀しめるのか。
わからない。
いくら考えても分からなかったので、ドクオは眠ることにした。
- 56: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:08:16.43 ID:q0YZSyUMO
- ━━朝起きるとベッドの上に見知らぬ女が寝ていた。
慌てて何が起こったのかと部屋中を見渡して、出しっぱなしにしてた救急箱を見つけ昨日ブーンが連れてきた女だと思い出した。
ξ゚听)ξ「そういや、私が預かる事になったんだ」
独りごち、ミセリと名乗った女の眠っているベッドの方まで歩く。
ミセリはすやすやと静かな寝息を立てている。その寝顔はとても安らかで、美しかった。
ξ゚听)ξ「一体、何者なのかしらね」
ツンの呟きにミセリが寝返りを打った。毛布がはだけ、傷だらけのローブから生々しい傷痕が露わになる。
昨日手当てした生傷に混じって、一際大きな傷痕が背中を縦一文字に走っていた。傷口はもう塞がり、古傷の部類に入っていた。
昨日は出血のある傷の手当てだけに頭がいっていたのか、この古傷には気付かなかったのだろう。
ξ゚听)ξ「何だろう、この傷…」
怪我の耐えない人生を送っているのだろうか。
そんな間抜けな事を考えながら、ツンは好奇心にかられてミセリの背中に手を伸ばした。
- 57: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:09:52.49 ID:q0YZSyUMO
- ミセ*´ー`)リ「うーん…」
ξ;゚听)ξ「わっ!」
突然ミセリが寝返りを打ったのに驚いて、ツンは慌てて手を引っ込めた。
ミセ*゚ー゚)リ「あれ? もう朝なんですか」
寝ぼけ眼をこすり、ミセリが起き上がる。
ξ;゚听)ξ「お、おはよう」
ぎこちない声色で、朝の挨拶をする。
ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます。どうしたんですか?」
ミセリがきょとんとした顔で尋ねてくる。
ξ;゚听)ξ「え? いや、寝顔が可愛いかったから…あ、その変な意味じゃなくて」
- 58: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:11:34.17 ID:q0YZSyUMO
- 言い訳にしては二流だな、と思った。
ミセ*゚ー゚)リ「あはは、なんだか恥ずかしいですよ」
頬をかきながら、ミセリがベッドから抜け出す。
ξ゚听)ξ「あ、そうだ、朝ご飯の支度しなきゃね。あなたはここで待っててね」
居たたまれなくなり、台所へと走るツン。
それを追ってミセリも駆けてくる。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、私もお手伝いしますね」
こうして概ね平穏な朝は過ぎていった。
- 59: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:12:42.22 ID:q0YZSyUMO
- 朝食を食べ終えると、ツンは大学へ行く準備を始める。
休みを取り戻さないととぼやきながら、彼女はミセリに戸締まりをきちんとするように言って足早に出ていった。
後に残されたミセリは、部屋の中を見回す。
ミセ*゚ー゚)リ「ちゃんとした部屋に暮らすなんて久し振り…」
ツンの部屋は今時の若い女性らしく、可愛いらしい小物があちこちに並べられていた。
ミセ*゚ー゚)リ「あら、これ私を運んで来てくれたあの男の子ね」
ミセリは、ブーンとツンが並んで写っている写真立てを、ぬいぐるみの後ろから見つけた。
まるで隠しているかのように置いてあったそれを、手にとって眺める。
ミセ*゚ー゚)リ「仲がいいのね。幼なじみとかかしら?」
写真立ての中には、沢山のブーンが写っている写真が入っていた。
写真を準々に捲っていくと、幼かったブーンとツンが次第に成長していく様がスライドのように見れた。
━━突然、遠耳に轟音が響いた。
ミセ*>ー<)リ「キャッ!」
驚いて、写真立てを取り落としてしまった。
鋭い音と共に、写真立てにヒビが入る。
ミセ;゚ー゚)リ「あっ……」
- 60: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/19(火) 15:13:33.36 ID:q0YZSyUMO
- 慌てて拾い、表面のガラスを確認する。
そこにはまるで、ブーンとツンを引き裂くかのように大きな亀裂が入っていた。
ミセ;゚ー゚)リ「どうしよう……!?」
ふいに魔力の高鳴りを感じ、ミセリは窓の方を振り向いた。
ミセ*゚ー゚)リ「もう、この街まで来てるのね…」
そう呟くミセリの目は、遠くで狼煙のような赤茶けた煙の柱を見つめていた。
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