('A`)はダークヒーローのようです

8: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:03:21.27 ID:oUYYkgreO
第十六話 背徳者

ツンが遅ればせながら研究室の扉を開けると、ブーンとキバヤシが待ってましたとばかりに駆け寄って来た。

( ^ω^)「おっおっ! やっとツンのご到着だお!」

キバヤシ「ツン、待っていたよ! 今世紀最大にして最高の発見があったんだ!」

まるで世の中を知らない純度100%の悪ガキのような彼らに面食らいながらも、ツンは落ち着き払って二人をあしらう。

ξ゚听)ξ「何? どうせまた新型UFOの発見とか下らないものでしょう?」

大抵の場合、この二人の発見というものは根拠に裏付けされていないフォークロアの焼き増しみたいなものなので、ツンは大して気にも止めずに自分のデスクについた。

( ^ω^)「それが今回は違うんだお! 遂にクリプテリアの原本を発見したんだお!」

ξ゚听)ξキバヤシ「「な、なんだってー!?」」

ξ゚听)ξ「って、何であんたもこっち側にいんのよ」

キバヤシ「いや、職業柄つい、ね」

クリプテリア。ニュー速国の黙示録的戦史。五千年前のニュー速国を統治していたひろゆき王の側近が、邪神と人類の戦いを描いた書物で、この書物に救世主であるドクオの存在が記されていたのだ。



9: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:04:16.49 ID:oUYYkgreO
ξ;゚听)ξ「それは本当なの?」

それが本当なら大変なことになる。
今まで見てきたのが写本で、もし原本と食い違う事が書かれていれば今まで立ててきた仮説が一気にひっくり返されるのだから。

( ^ω^)「本当だお。しかも、原本には今まで僕達が知らなかった幾つもの知識についての記述があったお」

ξ;゚听)ξ「は、早くそれを見せなさいよ」

ブーンを急かして、ツンは立ち上がった。

( ;^ω^)「まぁとりあえずこれでも飲んで落ち着いて欲しいお」

ブーンがツンの前にいつ煎れたのか、ブラックコーヒーを置いた。
それを一口飲み、ツンは乱暴にカップを置いた。

ξ゚听)ξ「さぁ早く!」

( ;^ω^)「全然落ち着いてないお…まぁ待つお。実はまだ原本の解読は全部終わってないお。新しい記述の殆どは、新種の象形文字で書かれていてこれがなかなか厄介なんだお」

ブーンは肩をすくめる。語学に関しては非凡な才能を誇るブーンでも、手こずっているということなのか。

ξ゚听)ξ「いいから解読できたとこだけでも見せなさいよ」

( ^ω^)「把握した。ついてくるお」

そう言って、ブーンは乱雑な研究室内を隅の資料保管庫へ向けて進む。



11: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:05:17.38 ID:oUYYkgreO
資料保管庫には、ブーンとキバヤシが今までのキャンパスライフで収集した古代文献やインタビューテープ、はては極彩色のビー玉や珍獣ロボと名付けられたブリキの玩具など、何に使うのかわからないガラクタまでもが、綺麗に陳列棚に並べられている部屋だ。
ブーンとキバヤシはこの保管庫の事を「アーカイブルーム」と呼んで、大掃除の度にこの部屋に閉じこもる。彼らは一度この部屋に閉じこもると、半日は外に出て来ない。

ブーンが先に立ち、保管庫の扉を開ける。
扉の先には三十畳ほどもある空間に、巨大なアルミの陳列棚が樹海のように林立している光景が広がっていた。
そして部屋の中央、気持ちばかり開けたスペースに研究用の机が二、三配置されている。
ブーンはそこまで歩くと、机の上に広げられた煤だらけの綴じられていない羊皮紙の束を指差した。

( ^ω^)「これがクリプテリアの原本だお。キバヤシがこないだの大雨で崩れたVIP山の断層で発見したんだお」

ツンが知っている写本の方は、黒い表紙に金字の刺繍でニュー速国の国章が描かれた、綴じられたものだったが、これはそれとはまた違っていた。



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:06:32.09 ID:oUYYkgreO
( ^ω^)「そしてこれが僕が解読した文だお」

ブーンはクリプテリアの原本の傍らに積み重ねられたルーズリーフの山を、ツンに差し出した。
ツンはそれをひったくるように掴むと、食い入るようにブーンの下手くそな文字を追う。

ξ゚听)ξ「……」

ブーンの汚い文字では、そこに記されている内容にいささか説得力が欠けてしまうが、その文章に込められた意味はツンの心を捉えて離さなかった。

曰わく、我らと共に歩むは血塗られたさだめを持つ背徳者也。
彼の者達、我らが敵を討ち滅ぼしたる暁には我らの敵として立ちはだかるもの也。
呪われし神の申し子たる彼らは反逆の剣を振りかざし、生けとし生ける者の上に、全ての魂有るもの達の上に君臨するとの予言かくありき。
我らはそれを阻止すべく、彼の者達を奈落の更に奥底に封じて二度と目覚めぬ眠りにつかせる所在。
願わくば、人の世の平安がとこしえのものであることを祈る。
皇歴二千十五年、雨の月第四週。

ξ;゚听)ξ「……呪われし神の…申し子たる…彼『ら』?」



13: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:07:23.29 ID:oUYYkgreO
おそらくこの「血塗られたさだめを持つ背徳者」と「呪われし神の申し子ら」とはドクオの事であろう。
ドクオの最初の言葉からして、彼が完全に自分たち人間の味方でない事はわかっていた。
だが、肝心なのはこの「呪われし神の申し子たる彼ら」という一節である。
呪われし神の申し子とは、つまりドクオは邪神の血が体に流れているという事なのだろうか。

そして「彼ら」。

ξ゚听)ξ「他にも、ドクオのような存在が居るという事なの?」

ツンの声にかかるように、遠くで何かが爆発するような音が響いた。



16: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:08:33.92 ID:oUYYkgreO
━━崩れ落ちる鉄骨を見上げながら、彼女は気だるげにぼやいた。

从゚∀从「あーあ、やっちまったねぇ。事後処理とか大変だろうに」

片目にかかるように伸ばした金髪が、褐色の肌をエキゾチックに彩る。
眼光は黄金をたたえ、鷹のように鋭く輝く。
その黄金の瞳は、目の前を悠然とこちらに歩み寄って来るローブの男を射抜いていた。

ミ,,゚Д゚彡「あなたが心配する事では御座いませんよ、『ザ・フォース』。さぁ、考えを改めて私共と…」

白を基調として、黒と青を織り交ぜた奇怪な形をしたローブの背に、二対の刺又を背負った男が諭すように言葉をかける。が、それが終わらぬうち、女の姿が消えた。

从゚∀从「その名で呼ぶな。呼ぶんだったら、ハインリッヒと呼べ」

ローブの男は首を巡らせ、ハインリッヒと名乗った女を探す。

ミ,;゚Д゚彡「くっ…」

ふと背後で、空気の揺らめきを感じたが既に遅かった。

ハインリッヒの右手が、妖しく紫の淡い光を帯びる。
瞬間、ハインリッヒの開いた右の手の平から毒々しい紫の炎が放たれ、ローブの男の体に邪龍の舌のように絡みつき爆発、炎上した。

从゚∀从「もっとも、お前がその名を呼ぶ機会は…もう、無いがな」



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:09:44.47 ID:oUYYkgreO
ビルとビルの間、狭く暗いニーソクの路地裏を紫炎が毒々しく照らす。
ハインリッヒはその禍々しい炎が、数分前まで自分と敵対していた男を焼き尽くすのを嬉々とした目で見つめていた。

从゚∀从「呪いの炎で焼かれて死、ね」

彼女独特のアクセントをのせて紡ぐ言葉に、思わぬ返事が上がった。

ミ,,゚Д゚彡「申し訳ないですが、そうなる訳にもいきません」

メラメラと沸き立つように燃え盛る紫炎の中から、癖毛気味の長髪を振り乱して件の男が立ち上がった。

从゚∀从「鬱陶しい奴…そんなんじゃ、女に嫌われる、ぞ」

皮肉にもアクセントをつけて吐き捨てるハインリッヒ。

ミ,,゚Д゚彡「一途な性分でしてね…落とすと決めた女性はどこまでも口説きますよ、私は」

語り、男は背中の刺又を一つずつ両手に構える。

从゚∀从「紐付きでも、か?」

対するハインリッヒは、手持ち無沙汰に欠伸をかみ殺している。

ミ,,゚Д゚彡「無論、攻めの方針は変えません」

言葉が終わると同時に、二つの刺又を振り回しながら男がハインリッヒに向けて地面を蹴る。
ローブに舌を這わせていた紫炎が、風圧で一気に鎮火した。



19: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:11:36.51 ID:oUYYkgreO
从゚∀从「残念、私とお前の相性は最悪だ。SとSじゃどっちもイけない」

うそぶき、男の頭の上を曲線的な動きで飛び越す。飛び越し様にハインリッヒは両手から血の色の光弾を、男の背中目掛けて乱射した。

男は急速に体躯を停止させると、その慣性で無理矢理に振り向き、腕を交差させる。
直後、拳大の光弾が男の全身に喰らいつき、皮膚を喰い破る。
男の全身を苛まれるような痛みが襲った。

ミ,;゚Д゚彡「ぐっ……ぬぅぅ」

頭痛、火傷、擦過傷、打撲傷、ありとあらゆるこの世の「苦しみ」を凝縮したような痛みに、男の痛覚は遂に屈した。
膝を折り、地面にくずおれる。

从゚∀从「どうだ、『償いの痛み』は? オレが知ってるなかでも相当えげつねぇ術を使ってやったぜ。立ってられねぇだろ。オレってばSだからよwww」

けたけたと顎が外れる程の大口を開けて、ハインリッヒは哄笑した。
黄金の瞳には残忍な色が浮かんでいる。

从゚∀从「さぁて、仕上げは何にすっかな…そうだ、『永劫なる腐敗』なんてどうだ? これも最高にえげつねぇz」

ミ,;゚Д゚彡「…受け入れられぬなら…心中も覚悟…しますよ、私は」



20: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:12:58.62 ID:oUYYkgreO
息も絶え絶えに男が呟くと同時、左手の刺又を全力でハインリッヒの腹に向かって突き刺した。

从゚∀从「何のつもりだ、てめぇ…」

自分の腹部から生える長物を、ハインリッヒは怪訝な目で見つめる。
不意を突かれてかわせなかったその切っ先は、ハインリッヒの腹を貫通し後ろのビルの壁面に突き立っていた。

ミ,#゚Д゚彡「今です、ビコーズ!」

男が叫ぶと同時に、ハインリッヒの脳天目掛けて純白のマントを左腕に巻きつけた細身の男が、ビルの上から飛び降りて来た。

( ∵)「頭上から失礼、『力』の姫君。我らが無礼、お許しを」

男は慇懃無礼な口調で上っ面だけの謝罪を述べると、左腕のマントをハインリッヒの視界を塞ぐように広げた。
一面ミルクの海のように純白の世界が展開し、彼女の視界を埋め尽くす。ハインリッヒはそこに本能的な危機を感じ取った。

从;゚∀从「うおっ!」

腹に突き刺さる刺又の柄から、肉が千切れるのも構わずに無理矢理抜け出すと、ハインリッヒの今まで居た位置に純白のマントを携えた男が、ふわりと降り立った。

( ∵)「やれやれ、お転婆なお方だ。腹の肉を裂くなど……それ程までに、我々の思想が気に入りませんか」



21: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:14:23.02 ID:oUYYkgreO
从゚∀从「ったりめーだ。てめぇらのいかれた救済ごっこになんざ、付き合ってられっかよ。さっさとお家に帰んな、『性』騎士団さんよ」

破れた腹の傷口をも気にせず、ハインリッヒは飄々とした口を叩いた。

( ∵)「愚弄してくれますね。しかし、あなたでも私のマントには歯が立たないのでは?」

そう言い、左腕に下げたマントを振るう。
風切り音がハインリッヒの耳元で聞こえ、彼女の褐色の肌に真っ赤な筋が走る。

从゚∀从「へっ…今は、な。だがいずれはお前も屠ってやるさ。それまで童貞のまま死なねぇよう、その堅物頭を改めとくんだな」

そう言い残すと、ハインリッヒの姿は二人の前から霞のようにかき消えた。
後には、毒々しい紫炎とローブを着込んだ二人の男が残るのみ。
癖毛長髪の男が、後に現れた銀髪の男━━ビコーズと呼んだ━━に向かって口を開いた。

ミ,,゚Д゚彡「すいません、ビコーズ。私が魔術でも使って粘っておけば、彼女を取り押さえられたものを…」

ハインリッヒが去って、彼の体を蝕んでいた「痛み」は消えたのか、額に残る冷や汗を拭いながら彼は立ち上がった。



23: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:15:39.36 ID:oUYYkgreO
( ∵)「いや、あれは仕方が無いですよ。なんたって彼女は『力』だ。禁呪を無詠唱で使う化け物に、私達のつかう二線級の量産魔術で太刀打ちできる筈が無いのです」

現に、あなたでは彼女の魔術を完全に解呪できませんでしたしね、と付け加えてビコーズはいまだ燃え盛る紫炎に目を向けた。
遠耳に民衆が騒ぐ声が聞こえる。

( ∵)「さぁ、そろそろ引き上げ時です。行きますよ、フサギコ」

癖毛長髪の男を振り返り、ビコーズはマントを振るった。
マントの巻き起こした風圧で紫炎は跡形もなく消え、黒く溶けたビルの壁面が残る。
二人の姿も、紫炎同様に消えていた。



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