('A`)はダークヒーローのようです

6: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:36:40.18 ID:fp6ZTK6pO
第十八話 謝肉祭

( ゚∀゚)「今回は二人一組になって、手当たり次第奴らを無力化する!ヒートとぃよう、兄者と弟者、オレとギコの組に別れるんだ!ドクオは一人でも大丈夫だな!?」

ジョルジュが口速に隊列を叫ぶ。

('A`)「問題ない」

ノパ听)「まっかせろぉぉぉ!」

(=゚ω゚)「了解!」

(,,゚Д゚)「りょ、了解!」

( ´_ゝ`)(´<_` )「イエス、サー」

各自、了解の返事をし自分のパートナーと組んで、邪教徒のカーニバルに突進していく。
邪教徒達は、突然路地裏から現れたギア部隊に、些か同様したのだろう。
手にしたマシンガンや散弾銃を、ジョルジュ小隊の面々に向けて奇声を上げながら乱射する。

(=゚ω゚)「バーロー、そんなん利くかよ!」

飛び交う銃弾を意にも介さず、ぃようは一人の邪教徒の懐に飛び込むとスタンバトンを振り上げ、その首筋に打ち下ろした。

(邪〇ゝ〇)「ギィヤァァァ!?」

強力な電流を体に流され、邪教徒は身を脈打たせその場に倒れた。
彼らが着用する強化装甲服「ギア」は、対魔物用に製造されたもので、民間人が手に入れられる程度の銃では大した傷をつけられないのだ。



7: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:37:45.63 ID:fp6ZTK6pO
ギアの装甲に穴を開けようと思ったら、軍用の対物弾を装填した対物ライフルが必要である。
彼らが安心してテロリストの武装解除任務に付けるのも、ひとえにこのギアの強固さに裏付けされていると言えよう。

ノパ听)「おらおらぁぁ!この腐れ外道共が!観念しろぉい!」

ヒートが麻酔銃を手近の邪教徒達に、手当たり次第に乱射する。
乱戦や白兵戦を最も得意とする彼女は、右手に麻酔銃、左手にスタンバトンを握り、小刻みに立ち位置を変えながら邪教徒達の振るう斧や鎚をかわしつつ、次々と邪教徒達を無力化していく。
この場合一番に恐れるべきは、邪教徒達の振るう斧や鎚といった打撃目的の武装である。
一撃食らっただけでギアが破壊されることは無いが、続けざまに食らえば装甲を持って行かれる。
だから、通常ギアを着用した戦闘では、相手から極力離れた位置から銃器による攻撃が一番望ましい。
だが、ヒートは敢えて敵陣に突っ込んでの乱戦を選択するだけの実力の持ち主なのだ。
それは彼女だけでなく、ジョルジュ小隊の全員が━━ギコを除く━━それだけの実力を持つ手錬なのだから、この小隊がいかにエース揃いかは伺える。



8: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:38:46.09 ID:fp6ZTK6pO
( ´_ゝ`)「こいつはなかなかに面白い」

兄者が、背中に背負った樽から伸びるノズル状の発射機構を、邪教徒達に向けてそのトリガーを引く。
ノズルから無色透明の液体が勢いよく噴射され、邪教徒達の体に絡む。
すると、邪教徒達はその勢いに押し倒され、アスファルトに這いつくばる。
邪教徒達の体に浴びせられた液体は、更にその身の自由を奪うように粘着質を発揮し、彼らを地面へと縛り付けるのだ。

(´<_` )「液体とりもちとは、これまた変態チックな面白装備だな。おk、兄者、段々楽しくなってきた」

弟者も兄者と同様に、ノズルから液体とりもちを噴射し、邪教徒達の体の自由を奪っていく。
互いの背中を守るよう、背中合わせに立った双子は邪教徒達と一定の距離を保ち、近づく邪教徒達に片っ端からその粘着く新兵器を噴射する。

( ´_ゝ`)「だろう?面白すぎて、下の筒からもとりもちを噴射しないように注意しろよ」

いつものジョークとシニカルな笑いを発し、双子は安全に、確実に、邪教徒達を鎮圧していくのだった。



9: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:39:49.13 ID:fp6ZTK6pO
兄者、弟者達から少し離れた位置で、ジョルジュとギコはラバーマシンガンを邪教徒達へと連射していた。
寸断無く速射されるゴムの弾丸は、殺傷能力は無いまでも被弾すれば強烈な痛みを伴う。
苦痛による屈服を相手に促す為製造された、なんとも非人道的な装備であるが、邪教徒達にそのような道徳を用いる程ジョルジュは生易しくなかった。

( ゚∀゚)「どうだギコ、初戦闘は?やっていけそうか?」

ゴム弾を十数発、倒れた邪教徒に浴びせると、ジョルジュが顔を上げてギコに尋ねた。

(,;゚Д゚)「な、なんとか…」

まだまだ銃口を人に向ける事に躊躇いがあるのか、ギコのラバーマシンガンは銃身が微かに震えている。

( ゚∀゚)「まぁ初戦はそんなもんだ。誰だって、相手が人間ならトリガーを引く事は躊躇うさ。
だが、こいつらは完全なる外道だ。畜生道に落ちた、けだもの。人類の汚物だ。情けなんかかけてやるな」

そう言い、ジョルジュは近付いてきた邪教徒の頭部に、ゴム弾をありったけ連射した。
ゴムの弾ける乾いた音が立て続けに響き、邪教徒が顔を覆いながら絶叫した。



11: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:40:58.17 ID:fp6ZTK6pO
( ゚∀゚)「こいつらには、糞程も価値が無い。同朋を八つ裂きにして、蹂躙し、略奪する…最早人間じゃあねぇんだ。化け物なんだ。そう思って、撃て」

(,;゚Д゚)「隊長は、本当にそう思っているんですか…?」

ギコが、震える銃身を引きながらジョルジュに尋ねた。

( ゚∀゚)「……とにかく、オレ達の任務は、これ以上奴らに住民を殺させ無いことだ。
今は、考えるな。撃て。そうしなきゃ、お前の隣人の命が奪われる事になるぞ。何も、オレ達はこいつらを殺してるわけじゃあないんだからな」

ジョルジュの顔は、平坦だった。少なくとも、ギコの目にはそう映った。

(,,゚Д゚)「…はい」

ギコはジョルジュの言葉に顔を引き締めると、祈るように、囁くように、呟いた。

(,,゚Д゚)「これは…殺しじゃ、ない」

トリガーを一気に振り絞る。軽い反動と共にゴム弾が連射され、目の前の邪教徒達が痛みに悶えながら仰け反る。

( ゚∀゚)「まだ甘いぞ」

(,;゚Д゚)「うぉぉぉ!」

追い討ちのゴム弾を、倒れ込む邪教徒一人一人に浴びせ、徐々に屈服させていく。

( ゚∀゚)「…それで、いい」

感情を押し殺したジョルジュの声が、ギコの耳に入り込んだ。



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:42:13.22 ID:fp6ZTK6pO
一人、小隊の面々から離れた場所でドクオは、淡々と邪教徒達を無力化していた。
マシンガンや散弾銃が、度々彼の体を貫くが、さして気にも止めずに両手のラバーマシンガンを乱射する。
実際、彼は痛みなど感じていなかった。
足や腹に、何発か大きな傷を負ってはいるが、彼の俊敏な動きには何ら支障は無さそうだ。

('A`)「面倒だな…」

後から後から押し寄せてくる邪教徒達を睥睨して呟き、後ろに大きく跳躍すると、彼は街頭看板の上に飛び乗った。
ここからなら、反撃を受けずにゆっくり魔術が使える。

('A`)「目的、対象の意識喪失。前方10メートルを支点に半径15メートルに展開。開始」

詠唱が終わると、邪教徒達の立つ空間に紫色のガスが湧き出、次々と彼らは地に崩おれ始めた。
一人、また一人とガスを吸い込んでは糸が切れた操り人形のように倒れる。

('A`)「殺さずに無力化するなんて、オレの性分に合わん…が、此処は大人しく眠ってもらおう」

そう吐き捨てると、ドクオはまだ意識がある邪教徒達の群集の中へ目掛け跳躍し、飛び込んでいった。



15: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:43:27.03 ID:fp6ZTK6pO
ミセ ;_;)リ「酷い…酷すぎる…」

物陰に隠れて、目抜き通りの惨状を見つめていたミセリは、邪教徒達が逃げ惑う民衆を捕まえては虐殺していく光景を、嗚咽と吐き気を堪えながら見つめていた。
まるで家畜を屠殺するかのように、手にした斧や鋸で犠牲者の手足を切断する邪教徒達の姿は、見るものの精神を狂気に駆り立てる程に凄惨で、汚らわしかった。

ミセ うー;)リ「なんで、なんでこんな事が…許されるの?」

溢れる苦痛と嫌悪の涙を拭いながら、ミセリは物陰から立ち上がる。
ふと、その目に驚くべき人物を発見したミセリは、思わず声を上げてその人物の名前を叫んだ。

ミセ;゚ー゚)リ「オ、オリジン様!」



16: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:44:41.37 ID:fp6ZTK6pO
邪教徒達の群集の中でラバーマシンガンを振るっていたドクオの耳に、聞き覚えのあるような、無いような、深層心理の琴線に触れる声が響いた。

('A`)「この感覚…まさか、クーか!?」

焦り、マシンガンを邪教徒の一人に投げつけると、両足に力を溜めて一気に群集の中から声の聞こえた方へと飛び出す。

('A`)「遂に…遂に、オレが何者なのか、分かる時がきたのか?」

呟き、加速する。襲い来る邪教徒達を紙一重でかわしながら、ドクオは自分の全てを知るであろう人物の声を目指して、駆け抜けた。
とにかく、自分が何であるのかを知りたい。その一心で、ドクオは走る。

━━━━━

(,,゚Д゚)「わぁぁぁ!」

邪教徒達を、背徳者達を、裏切り者を、許すな。
そう自分に言い聞かせながら、ギコはラバーマシンガンのトリガーを引き絞る。
迫る背教者をスタンバトンの一撃で薙ぎ倒し、ラバーマシンガンの弾装を交換する。
ガシリと、ギコの決意を代弁するかのようにマガジンが頼もしい音を立ててはまる。

( ゚∀゚)「いいぞギコ、兵士の顔になってきた!その意気だ!」

(,,゚Д゚)「はいっ!」

ジョルジュの賞賛に、ギコは強く返事を返す。



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:46:11.06 ID:fp6ZTK6pO
( ゚∀゚)「……」

ジョルジュは、内心複雑だった。
戦えない兵士はただの重荷だ。そんなものはいないに限る。
だが、同族を痛めつける事に毛ほども感慨を抱かないキリングマシンも、出来る事なら自分の小隊には要らない。
ギコが、そのような戦闘機械になるようには見えない。だが、この男には、この男だけにはそうなって欲しくない。

( ゚∀゚)「もう…あいつのような人間は…奴一人で充分だ…」

胸中の古傷が鈍い痛みを発するのに、ジョルジュは無理矢理蓋をした。

( ゚∀゚)「さぁ、そろそろ数も少なくなってきたぞ!だが油断はするな!」

そう、ジョルジュが叫んだ時である。
戦闘の外に居た邪教徒の一人が、胸を抑えてその場に崩おれた。
その挙動に不吉な違和感を覚え、ジョルジュはその邪教徒に釘付けになった。
悶えながら、苦痛と歓喜の混じった身の毛もよだつ唸り声を上げて、その邪教徒は立ち上がった。
ふらつきながら、ジョルジュ達へと一歩一歩歩み出す。
━━突如、その邪教徒の体が弾けるように爆散すると、人間の皮を突き破って異形の化け物が、その湿気を纏った粘着質の皮膚を外気に晒した。



18: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:47:25.84 ID:fp6ZTK6pO
その頭部には、顔一面にぽっかりと穴のように空いた口腔だけが餌食を求め蠢き、後頭部から尾のように一本突き出した触手が、歓喜と渇きのダンスを踊っている。
黒く、湿り気と粘着質を持った皮膚が覆う体躯は、拒食症患者のように節くれだって痩せ痩けて、見るからに貧弱そうだった。
だが、その残忍に研ぎ澄まされた爪を備えた手が、道路標識を掴み根こそぎ引き抜いた事により、この化け物が常軌を遥かに逸した怪力の持ち主である事を証明された。
化け物は、空を仰ぎ、その後頭部から生えた尾のような触手を天に向けて指すように伸ばすと、汚らわしい口腔をいっぱいに開いて聞くものを狂気に駆り立てるような咆哮を上げた。

( ゚∀゚)「…ナイトメア…だと…ちっ、ついに墜落者がでやがった」

目の前の狂気の光景を見つめ、ジョルジュは吐き捨てた。

( ゚∀゚)「おいギコ!お待ちかねの化け物だ!すぐに指揮車に戻って武装を変更するぞ!奴が一般人を襲わないように、気を引きつけるのも忘れるな!」

(,;゚Д゚)「イ、イエスサー!」

二人はラバーマシンガンを気休めに件の化け物へ向けて連射すると、化け物がこっちを見たのを確認して走り出した。



20: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:48:42.45 ID:fp6ZTK6pO
('A`)「クー!?クーなのか!?」

邪教徒の振り下ろした斧の柄を、裏拳で砕き、ドクオはビルの角を曲がる。
路地裏に入り辺りを確認すると、前方約に30メートルに女性のシルエットが立ちすくんでいた。
目を凝らし、それが探し人であるかを確かめようとする。

ミセ;゚ー゚)リ「オリジン様!オリジン様なのですね!?」

その人物が声を張り上げる。

違う。クーじゃない。

だが、何故その名で、「オリジン」の名で、自分を呼ぶのか。
ドクオは少々の落胆をも気にせず、その女の元へと駆け出した。

(;'A`)「お前は誰なんだ!?オレの記憶について、何か知っているのか!?」

ふいに、頭上に空気の揺らめきを感じ、反射的にドクオは立ち止まった。
直後、ドクオの目前を鋭い銀光がほとばしり、ドクオが踏みしめる筈だった地面を大きく抉った。

(’e’)「やれやれ…ダイオードが、邪教徒達のカーニバルを手引きすれば、『鍵』も『力』も引き寄せられて来ると言っていましたが…
飛んだ計算違いですね。まさか『ザ・アルバム』の方が引っかかるとは…」



21: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:49:57.26 ID:fp6ZTK6pO
銀光と共に目の前に降り立った、白を基調として青と黒を織り込んだ奇怪な形のローブを着込んだ男は、溜め息をつきながら肩をすくめた。

('A`)「貴様…」

目の前の男から微かに感じられる魔力の片鱗に、ドクオの双眸は細められた。

('A`)「お前が、『魔術師の末裔』か?」

ドクオの言葉にローブの男は、手にした巨大な銀の輪環を頭上で一回転させると、それを腕に通し構えた。

(’e’)「いいえ、と答えておきましょう。おしいですがね。しかし、今はあなたのお相手をしている場合では、有りません。
あなたに死なれては、私達も困りますから」

最も、と付け加え、男は何の前触れも無く輪環を振るった。

(;'A`)「ちっ!」

予備動作無しに両足目掛けて振るわれた輪環を、紙一重でかわした。

少なくとも、ドクオはそう思ったし、事実傍目から見てもドクオの両足に輪環が触れたようには見えなかった。
だが、実際にはそうでなかったようである。
ドクオの両臑は、かまいたちに切り裂かれたようにぱっくりと裂け、そこから少し遅れて滝のように血が流れ出した。



22: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:51:25.95 ID:fp6ZTK6pO
(’e’)「動けなくする事ぐらいならば、我々の崇高なる目的にもなんら支障は出ないでしょう」

そう言い、ローブの男は腕を支点に回転している輪環の動きを止めると、女の方に向き直った。

(’e’)「本命はあなたでは無いのですがね。あなたと救世主殿が接触するのは、極力避けたい。今ここで、その下らない虚像を無に帰させてあげます」

そう言い、ローブの男は女の元へと歩き出した。

('A`)「くそっ…」

ドクオは立ち上がろとするが、思うように足に力が入らない。
腱を切られたのか?
しかし、アキレス腱は踝の裏側にあるのだ。切られたのは臑だけの筈。そう思い、アキレス腱に指を伸ばしたドクオは、驚愕した。
見事にアキレス腱も断ち切られ、そこからも血が流れていたのだ。

(;'A`)「なんなんだ…あの、輪環は…」

常識の遥か外側に位置するローブの男の力に、ドクオは内心の焦りを隠せなかった。
そうしている間にも、ローブの男は女へと迫る。銀の輪環が、死を呼ぶ宝石のごとく鋭い光を反射する。
迫り来る死の使者から後退りながら、女がドクオへ向けて声を張り上げた。



23: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:52:42.69 ID:fp6ZTK6pO
ミセ;゚ー゚)リ「オリジン様!聞こえますか!私は、ミセリと言います!あなたにとって、とても大切なn」

女が最後まで言い切らぬ内、男の輪環が彼女を射程距離内に捉えた。
閃く銀光が、高速で回転する輪環の上と女の衣服の上を駆け抜ける。

ミセ;>ー<)リ「キャッ!」

('A`)「!」

女は悲鳴を上げて、尻餅をついたようだ。ドクオの位置からは遠くてよく見えないが、彼女の衣服が真っ赤な血で染まっているのがちらと、見えた。

(’e’)「お喋りはいけませんよ。死人にくちなし。潔く消えなさい」

男が、もう一度、今度は止めのつもりか大きく輪環を振りかざした。

('A`)「させるか…!目的、対象の爆裂。前方25メートルを支点に2メートル×2メートル×2メートルの空間に展開、開始」

ドクオが早口に唱えた詠唱が終わるのと、男が輪環を振り下ろしたのは同時だった。
強烈な爆発音が路地裏に響き、男の姿が見えなくなる。
立方体の形に不自然に塞がれた空間の中で、ドクオの魔術により発生した爆炎は荒れ狂い、外には一切被害を出さないままにその勢いを沈めた。



25: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:54:09.74 ID:fp6ZTK6pO
(’e’)「くっ…まだ『力』を取り戻していないとはいえ、物凄い魔力です…危うく消し炭になるところでした」

爆炎が残した煙の中から、爆発でボロボロになったローブを脱ぎ捨てつつ、男が立ち上がった。
右手には、輪環が握られ、左手には今まで付けられていなかった、白いグローブが装着されていた。

(’e’)「やれやれ、逃げられましたか」

そう呟く男の視線の先には、先程まで女がへたり込んでいた空間。今そこには血溜まりが生々しく残るばかりだ。

(’e’)「どうしてこうも上手く行きませんかね…少し、自信が無くなりそうですよ」

ローブの下に着込んでいた、黒いボディスーツをはたきながら、男はドクオを振り返った。

(’e’)「一つ、あなたに御進言させていただきます、救世主殿。
人間の下で戦うのが、本来のあなたの姿ではありません。完全なる力を取り戻したいのでしたら、この女をお探しになって下さい」

そう言って、男はポケットから一葉の写真を取り出し、ドクオへ向けて投げた。

('A`)「これは?」

目前に舞い落ちた写真を、ドクオは手に取り見つめる。
写真に写っていたのは、金髪褐色肌に、黄金の瞳を輝かせた、エキゾチックな魅力のある女だった。



26: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:55:44.62 ID:fp6ZTK6pO
(’e’)「その女が、あなたの力を完全に取り戻させ、同時にあなたの記憶も埋めてくれるでしょう。
あなたが、完全に力と記憶を取り戻した暁には、私どもがお迎えにあがります。我々と一緒に、新しい時代を築こうではありませんか」

('A`)「……それは、本当なのか?」

訝しげに、ドクオが尋ねた。

(’e’)「えぇ、真実です。今はあまり多くを語る事は出来ません。ですが、我々と共に歩んでくれるのならば、あなたがお探しの『自分が何者であるのか』という疑問の答えも、自ずと見つかるでしょう」

そこで言葉を切ると、男は後ろを向き、グローブを握りしめた。

(’e’)「とにかく、その写真の女をお探し下さい。私どもも聖騎士団の全勢力を持って捜索にあたっているのですが、ようとして見つかりません」

首だけドクオへとめぐらし、男はまた口を開いた。

(’e’)「先程の女とは、逆に接触しないようにお願いします。彼女は、あなたのアイデンティティを侵そうとする悪魔です。あなたに『死』を呼ぶ女です」



27: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/23(土) 00:57:00.36 ID:fp6ZTK6pO
しばらくドクオは思案するように押し黙った。
この男の言葉を、鵜呑みにしていいのだろうか。
しかし、この男とその仲間━━聖騎士団と言ったか━━も、この写真の女を探していると言う。
男は本当に、自分に敵対するつもりは無いように見える。
ならば、何の手掛かりも無い今はこの男の言葉を、信じてみてもいいのではないか。

('A`)「……わかった」

ドクオは頷くと、力の入らない足に鞭打ってなんとか壁伝いに立ち上がった。
自己治癒能力とも言おうか、ドクオの切れた腱は徐々にその傷口を塞ぎつつあった。

(’e’)「その言葉が聞けて光栄です。最後になりますが、私はセントジョーンズと申します。あなたにお仕えする、聖騎士団の一柱です。以後、お見知りおきを。
それでは、私はこれで失礼させていただきます。旅人に、祝福あれ」

そう言い残し、男はビルの壁面目掛けて跳躍した。
壁面に着地すると、そのまま壁を蹴って三角跳びの要領で、ビルの頂上を目指す。
ドクオがその姿を見守る中、セントジョーンズと名乗った男は、ビルの頂上に到達し、ドクオの視界から消えた。



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