('A`)はダークヒーローのようです

5: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:14:54.56 ID:qz1zJIBZO
第二十話 葬列

どんよりと湿った空気が、VIP基地の中を流れる。
空は今にも降り出しそうな曇天。
そんな中、前回の邪神達の侵攻によって戦死した兵士達の葬儀は、行われた。

基地の隅に申し訳程度に建設されている教会に、基地中の人間が階級や部署を問わずに集まり、戦没者達の喪に服す。
従軍シスターの奏でるオルガンから、鎮魂歌が静かに流れ、生き残った兵士達が、目を瞑り祈りを上げた。

(´・ω・`)「我々は、とても多くの勇敢な同士を失った」

大将であるショボンが、祭壇の前に立ち、弔いの言葉を代表して述べる。

(´・ω・`)「散っていった、我らが同士達よ。僕達は、いつまでも君達の雄志を忘れない。
たとえ地が裂け海が割れ、天が落ちてこようとも、僕達は君達と戦った、この輝ける日々を忘れる事はないだろう。今は、君達が安らかに眠れる事を祈る」

一呼吸置く。

(´・ω・`)「勇敢なる同士達に、敬礼!」

祭壇に並ぶ、戦没者の名前が刻まれた、慰霊碑として使われるであろう大理石の塊に向かって、彼は敬礼の動作をとった。
それに続き、教会の中の全員が敬礼をする。
教会の中に、その敬礼の音が大きく響いた。



7: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:16:01.91 ID:qz1zJIBZO
━━静まり返った基地の中で、ドクオはただ一人いつものベンチに腰掛け、どんよりと曇った空を見上げていた。
彼は葬儀には参加せずに、ここで散ってしまった桜の木を眺めていたのだ。

('A`)「一雨、きそうだな」

そう呟いてベンチから立ち上がると、彼はテラスのドアを開けて基地内に引き返す。
何もやることが無いので、自室に戻ろうと思い廊下を歩き出すと、前方に喪服姿の見知った顔を見つけた。

(*゚ー゚)「ドクオさん…葬儀には、出なかったんですか?」

疲れきったような表情をしたしぃは、両手を前で揃えた格好でドクオに近付いてきた。

('A`)「死を悼むなど、無意味だからな」

吐き捨てるように言うと、近くの自販機へ方向転換する。

(*゚ー゚)「そう…ですか」

悲しげに呟き、しぃは自販機の前のベンチに腰を下ろした。

('A`)「あぁ。実に無意味だ。そもそも、『死』そのもの事態、意味が無い」

コーヒーのボタンを押し、紙コップにコーヒーが注がれるのを、自販機に背中を預けて待つ。



8: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:17:03.38 ID:qz1zJIBZO
(*゚ー゚)「…ギコ君の『死』も、ですか?」

しぃの声は、震えている。
前回の邪神侵攻の戦没者達と共に、ギコの名前も、あの大理石に刻まれているのだ。

結局ニーソクでの邪教徒のテロ騒動は、ギコの死後まもなく到着した別小隊達との協力で、なんとか治まった。

('A`)「あぁ、無意味だ」

ドクオはあくまで平坦だった。
いつものような、無感動で何を考えているのかわからないポーカーフェイスのままそう言い切ると、彼は自販機からコーヒーの入った紙コップを取り出し、歩き出す。
もう、しぃには用が無いと言わんばかりの彼の態度に、しぃは思わず立ち上がった。

(;゚ー゚)「ギ、ギコ君は、あなたを庇った為に死んだんですよ!そうしなければ、あなたが死んでいたかもしれない!それでも…それでもあなたは、ギコ君の『死』に意味が無いと言うんですか!」

彼女の声には、訴えるような悲壮な響きがあった。
ドクオは、だがしかし、その訴えにも何ら動じた様子も見せずに、振り返る。

('A`)「オレは、あの程度で死にはしない。奴がオレを庇わずとも、何ら問題はなかった」



11: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:18:10.43 ID:qz1zJIBZO
(;゚ー゚)「で、でも…ギコ君は…あなたを…」

しぃの震える声を遮るように、ドクオがまた口を開く。

('A`)「オレを庇って死ぬなど、無駄死にもいいところだ。オレよりも、自分の身を心配するべきだったな。悲劇の英雄にでもなったつもりなのか?まったく、馬鹿な奴だ」

そうドクオが吐き捨てたのと、パンッ、と乾いた音が廊下に響いたのはほぼ同時だった。

('A`)「……」

ドクオは頬を抑え、しぃを見据えた。

彼女は、ドクオの頬を張った右手を、振り抜いた形のまま握りしめると、怒りを堪えるように、潤んだ瞳に強い光を湛えている。

(*;ー;)「あなたに…あなたにギコ君の、何がわかるというの?」

細く流れる涙が、しぃの頬を濡らす。

(*;ー;)「仮にも、あなたを庇ってギコ君は死んだのよ?たとえ、それが無駄な事だったとしても…あなたに、ギコ君の死を冒涜する権利なんか無いわ!恥を知りなさい!」

涙に塗れているとはいえ、彼女の声には明らかな怒りが込められていた。
裁判官が、被告人に死刑を言い渡す時のような、確固たる響き。



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:19:15.13 ID:qz1zJIBZO
その判決にも、被告人であるドクオは、いつもの平坦な表情を崩すことは無かった。
ただ、ただ、淡々とこの会話の無意味さを言葉にして、紡ぐ。

('A`)「…価値観の相違だ。お前がオレにその怒りをぶつけたところで、オレはお前が望むような返答は出来ない。お喋りはここまでにしよう」

その言葉に、しぃは何を感じたのだろうか。
ドクオをキッと睨みつけると、彼女はドクオに背を向け、肩をいからせながら足早に歩いていってしまった。
後には、ぬるいコーヒーを手に持ったドクオだけが、残されるだけ。

ドクオは紙コップを口に持っていくと、一口すする。

苦い味が、口の中に広がった。

━━━━━

女は、目の前に広がる殺戮の舞台を前に、かつてのこの地で味わったのと同じ、憤りと後悔の念が蘇るのを感じた。
蹂躙され、宙を舞う数分前まで人間だった「肉片」を目にし、彼女は静かに目を閉じる。

川 - --)「目的、対象の爆散消滅。前方3メートルを支点に、半径1メートルに展開。開始」



13: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:20:28.20 ID:qz1zJIBZO
彼女の言葉と共に、今まで虐殺を続けていた四腕の化け物━━ガグと呼ばれる━━は、断末魔の絶叫を上げると、体の内側から飽和した風船が爆ぜるように、鼓膜を震わせる音と共に膨張し、破裂した。

川;゚ -゚)「くっ…やはり、禁呪は使うものではない。足元がふらふらするな」

頭を抑え、おぼつかない足取りで一歩を踏み出す。
彼女の目の前には、原子レベルに分解され、爆散した化け物の残骸と、死屍累々たる屍の山。
見渡せば、一面が血に染まった山あいの集落には、まったくと言っていい程に人の気配が無かった。
鳥の鳴き声すらも聞こえず、近くで流れる川のせせらぎだけが、不気味な沈黙に不釣り合いな、のどかな色を添えている。

川 ゚ -゚)「これは、酷いな。生き残りは、いないのか?」

たった一匹の化け物に壊滅させられた集落の中を、静かに歩く。
家々の屋根は崩れ、木々はなぎ倒され、地には、抉られたような凹凸ができている。
ふと、奥の崩れかけた民家の方で何か物音がした気がして、彼女は駆け出した。



15: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:21:28.47 ID:qz1zJIBZO
川 ゚ -゚)「誰かいるのか?」

今にも崩れそうな藁葺き屋根の戸口で、彼女は中に向かい久かたぶりの大声で、問いかけた。

「その声は、クー様ですねぇ」

中から返ってきたのは、聞き覚えのあるおっとりとした、あの声だった。

川;゚ -゚)「わ、渡辺か!どうして、ここにいる?」

声の主は確かめるまでもなく、わかっていた。
押し殺したような、だが抑え切れぬ程に肥大な魔力の気配が、崩れかけた民家の中から感じられたのだ。
クーは、慌てた足取りで民家の中に踏みいると、崩れかけた柱の陰に声の主を見つけて近寄った。

川 ゚ -゚)「渡辺…何故、ここに?」

先ほどの疑問を、また口にする。

从'ー'从「ここの集落の方々の中に、身を寄せてしばらくの間、奴らから隠れていましたぁ。木を隠すなら、森の中と言いますよねぇ」

渡辺は、相変わらず間延びした声で話す。

川;゚ -゚)「一緒に…この集落の中で、暮らしていたのか?」

从'ー'从「はいぃ。一カ月くらい前からですか。この山に潜伏していてもぉ、いつかは見つかると思いましてぇ」

自分がクーと呼んだ女の問いに、渡辺はぼんやりと答えた。



16: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:22:28.80 ID:qz1zJIBZO
その場違いな態度に、クーは苛立ったのだろう。
怒りを隠しきれぬ声で、彼女は渡辺に詰め寄った。

川;゚ -゚)「それならば、何故ここの人々を助けなかった!?お前は、あのガグが、集落の人々を襲っているのを、見ていたんだろう!?」

その恫喝にも、渡辺は何ら臆する事なく淡々と返した。

从'ー'从「ですがぁ、人前で『力』を使ってはいけないと私に命令をしたのはぁ、クー様ですよぉ。
私は、クー様の命令を忠実に守っただけですぅ」

その言葉に、クーの握りしめていた拳は、力無く開かれた。
そうだ。自分が、人間に迫害されないよう渡辺に、『力』を振るわないように厳重に、命令していたのだった。
強大なる魔術の力を目にした人間は、恐れを抱いて彼女達を弾圧する。異相なる化け物は、多くの場合人々に受け入れられないのだ。だからそうならないよう、渡辺を作り上げた時に、クーは渡辺に魔術の行使に関する制限をかけたのだ。
無益な争いを生まないようにと思っての行為が、こんなところで犠牲者を出してしまった。
全て、自分が招いた不幸だ。

川;゚ -゚)「くっ…確かに…そうだったな……すまん、私の責任だ」



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/27(水) 02:23:32.73 ID:qz1zJIBZO
歯を噛み締め、もう戻る事の無い魂のために、クーは心の中で謝罪した。
彼らは、何を思い死んでいったのか。
さぞかし、理不尽だっただろう。

从'ー'从「そう気負われる事は無いですよぉ。それより、どうしますぅ?今ここで、『帰結の義』を行っちゃいますぅ?」

クーの自責の念など、気にも止めずに渡辺は、話しを進める。

川 ゚ -゚)「…いや、まだよそう。今はドクオがどこにいるのかを知りたい。渡辺、捜せるか?」

クーの問いに、渡辺はだが予想外の答えを返す。

从'ー'从「やろうと思えば、すぐなんですけどぉ…その前に…」

言葉を言い終わらぬうちに、渡辺がとっさにクーの背後へ向けて、右腕を下からすくうように振り上げる。
クーの背後で、小さな爆音が響いた。

从'ー'从「一山ありそうですよぉ」

クーが振り向くと、戸口の地面に小さな穴が空き、そこに煙を上げた奇妙な形の甲虫が、その屍を横たえていた。



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