('A`)はダークヒーローのようです

8: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 22:50:41.40 ID:xtb4jr6sO
第二十二話 禁忌

遠くで響く爆音に、ツン達はびくりと肩を震わせた。

ξ;゚听)ξ「何、今の…」

( ;^ω^)「何かが爆発した音みたいだったおけど…」

二人は顔を見合わせ、資料保管庫唯一の窓へと視線を向ける。
そこからは、何が伺えるわけでも無い。
ただ、遠くに見えるVIP山の輪郭がなだらかな稜線を描いているだけ。
爆音はそのVIP山の方でした気がする。確かあそこには、まだ邪神の侵攻にあってない集落が一つあった筈だ、とツンは思い出した。

ξ゚听)ξ「それより、早く解読作業を続けましょう。これだけじゃ、まだ…」

はっとなり、窓からクリプテリアの原本へと視線を戻すツン。
今は、この原本から新しい知識を吸い上げるのが最優先だ。

( ^ω^)「そうだおね。それじゃあ、僕は引き続き解読をしてみるお。ツンも手伝ってくれるかお?
こういうのは、個人のインスピレーションよりも、数人によるディスカッションが重要だお」

そう言うと、ブーンはデスクにつき煤だらけの洋皮紙とにらめっこを開始した。
ツンもブーンの言葉に頷き、彼の傍らに立ち洋皮紙に綴られた奇々怪々な象形文字に込められた意味に挑む。



10: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 22:52:04.90 ID:xtb4jr6sO
度々、ここはこうではないかとか、いや違うなどと自分の意見を言い合いながらも、クリプテリアの解読は進んで行く。
二人が解読に取りかかっしばらくして、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。

/ ,'3「内藤…ツン…今、帰ったよ…」

( ^ω^)ξ゚听)ξ「荒巻教授!」

扉を開けた主は、疲れきったような、憔悴した顔でよろよろと保管庫内に一歩を踏み出すと、そのまま壁にもたれかかり、ずるずるとへたり込んでしまう。
それを見た二人は、何があったのかと慌てて荒巻の元へと駆け寄った。

( ;^ω^)「教授、シベリアでの調査活動はどうしたんですかお?」

ブーンが、恩師の突然の帰還に驚きながら口を開く。
荒巻は、三日ほど前から邪神の起源を探るために単身シベリアへと飛んでいたのだ。

ξ;゚听)ξ「邪神に関係する遺跡を発見したって、聞いていますけど…」

ツンもやはり、ブーン同様に驚いていた。
荒巻が、遺跡の調査をこんなに早く切り上げて戻って来ることなど、前例が無かったのだ。



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 22:53:01.49 ID:xtb4jr6sO
/ ,'3「……これを、見てくれ。話しはそれからじゃ」

そう精一杯に言うと、荒巻は傍らのスーツケースから深緑色の表紙の分厚い古書を取り出し、二人に手渡す。

( ;^ω^)「これは…」

/ ,'3「『ブラインドガーディアン』…盲目の守護者…わしが、シベリア遺跡で見つけた古文書じゃよ。早く、捲ってみろ」

荒巻にせき立てられて、ブーンは慌てて古書のページを捲る。
所々が破れてはいるが、シベリア文字で書かれたそれは、横でブーンの手元を覗き込んでいるツンにも理解できた。

/ ,'3「それの、第六章、一節を読んでみてくれ…」

ブーンは荒巻の指定したページを開くと、そこに書いてある事に目を通す。
シベリア文字は、現在もシベリア国で使われている文字だ。
解読の必要は無い。語学に精通しているブーンは、同時翻訳でそのページに記されている内容を吸収していく。
最初は、普通に小説でも読んでいるような顔だったブーンだったが、次第にその顔が畏怖とも嫌悪ともつかないような形に歪んでいった。



13: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 22:54:03.07 ID:xtb4jr6sO
( ;^ω^)「…ここに書いてある事は、本当なんですかお?」

ゆっくりとブラインドガーディアンのページを閉じると、ブーンは掠れるような声で荒巻に問いかけた。
いや、すがりついたと言った方が語弊が無い。

/ ,'3「……本当じゃ。わしは、シベリア遺跡で、今まさに進化を終えようとするそれを見てきたのじゃからな…」

荒巻の顔は、三日ほど前よりも大分やつれて、目に輝いていた探求心は、その光を失ってしまっていた。

ξ;゚听)ξ「!」

( ;^ω^)「なっ!じゃあ…これは…」

ブーンとツンが、閉じられたブラインドガーディアンから一歩後ずさる。
書物自体に、何をそんなに恐れる事があろうか。
だが、彼らがこの書物から見知った知識を知れば、誰もがこの書物に触れるのを躊躇うだろう。

何故なら、

/ ,'3「あぁ…わしらは、あの化け物によって…あの忌むべき邪神によって創造されたんじゃよ。奴らは、やはり我々の『神』なのじゃよ…
創造神に、わしらは戦争を挑んでおるんじゃ…
『盲目の守護者』では無い。『盲目は守護者』だ。あれは、人間が見ていいものでは…無い」

荒巻は力無く呟くと、そのまま意識を失った。



14: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 22:56:40.51 ID:xtb4jr6sO
━━VIP基地。前回の邪神とその配下達の急襲によって、基地の至る所が破壊され、軍人達はその修理に駆り出され、あちらこちらで修理活動が行われていた。
金槌や、電動ネジ回しの音が青く乾いた空に響き渡り、現場指揮の上官達の怒鳴り声や、土方仕事に精を出す鉄砲屋の怠惰な愚痴が、基地のあちらこちらで零れる。
モララーは、そんな現場の様子を自室の窓から眺めながら、隣の部屋で何やら電話の相手をしているらしい我らが御大将の声に、聞き耳を立てていた。

(´・ω・`)「…ああ、相変わらずこちらは、何も無いよ。…うんうん。そうか。…何だって?……わかった。急がせよう」

「上役」と何かあったのだろうか。
ショボンの声は、途中から急に切迫した響きを帯びた。

( ・∀・)「…にしても、あの方には秘密が多いな。あの歳で、軍の大将。たまにかかってくる電話も、何か僕たちには計り知れないような内容ばかりだ」

初めは、ただの好奇心だった。
大将の部屋が隣で、その部屋と部屋を隔てる壁が薄い。
必然的に、望まざるとも隣の部屋の声は聞こえてくる。
モララーに言わせれば、彼はそれに耳を傾けてみただけだ。



15: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 22:57:41.10 ID:xtb4jr6sO
もともと、一人部屋に籠もりタバコをふかしながら物思いにふけるのが、モララーの趣味だった。
その怠惰な時間に偶然聞こえてきた、隣人の声。
最早日常の一風景と化したその一コマに、違和感が紛れ込んできたのはいつからだっただろうか。
その違和感に気付いたきっかけは、ある日の早朝に隣の彼にかかってきた電話だった気がする。
睡魔と格闘しながら、何とはなしに隣の声に耳を傾けてみたモララーは、そこにある気がかりな単語を確認して耳を疑った。

(´・ω・`)『ああ。彼らには、対魔処理を施したローブの他にも、僕があなた達に提供した技術の結晶があるだろう。大丈夫だ。
だから、あまり頻繁には連絡を寄越さないでくれないか。……あぁ、それじゃあ切るよ』

( ・∀・)「対魔処理…だって?」

耳慣れない単語に、モララーの好奇心は一気に沸き立った。
一体彼は誰と何を話していたのか。
それが気になって仕方なかった。
自分でも、盗み聞きなんて恥ずべき行為だとはわかっている。
だが、そこは人間の情。わかっていても、好奇心は抑えようがなかった。



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 22:58:46.70 ID:xtb4jr6sO
それからというもの、彼は事あるごとに部屋に籠もっては、隣のショボンの声に聞き耳を立てた。
やはり彼も大将なのだろう、大抵は軍のお偉いさんからかかってくる作戦や基地運営に関する、退屈な内容だった。
だが、極稀に彼は誰とも知れない人物から、モララーや他の人間には知りようも無い不可解な電話が掛かってくる。
ショボンのその相手への態度から、モララーはその電話の相手を「上役」と呼んでいた。
しかし残念な事に、今まで掛かってきた電話の内容を繋げてみても、彼にはショボンが何を話しているのかはさっぱりわからなかい。

( ・∀・)「もう少し、詳しい話しが聞ければな…」

そう呟くと、彼は壁に押し付けた耳を離し立ち上がる。
一応は現場にも顔を出しておかないと、小将として示しがつかない。
そう思ってドアを開けた所で、彼は隣の部屋から出て来た、件の謎多き貴公子殿と鉢合わせした。

(´・ω・`)「やぁ、モララー小将。君も現場に顔見せかい?」

( ・∀・)「えぇ、まぁそんなとこです」

お互い、素知らぬ顔で挨拶を交わす。



19: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 23:00:01.34 ID:xtb4jr6sO
このまま、表面上は何もなく上官同士当たり障りの無い会話が続くかと思われていた。

だが。

(´・ω・`)「ところでモララー小将。さっき『上役』から電話があってね」

( ;・∀・)「!」

その何気ない一言に、モララーは背筋が凍る感触がはっきりとわかった。
まさか、自分が盗み聞きしていたのがバレたのか。
そんな筈は、と内心で動揺するモララーを置き去りにし、ショボンは言葉を続けた。

(´・ω・`)「どうも…ここ最近、邪神の活動が活発になってきているらしい。近隣の辺境警備軍の報告によると、奴らは一斉にニーソクへ向かって侵略を開始する動きがあるとか」

しかし、モララーが恐れていたような内容では無かった事で、彼は内心で胸をなで下ろす。
そうだ、自分とショボンの間には壁という目隠しがあるのだ。
万が一にも、自分の行動が彼に気づかれる事などありえない。
安心しつつ、彼は適当に相づちを打った。

(´・ω・`)「これは、また近い内に一山ありそうだよ。まったく、こっちはまだ基地の修理も終わって無いというのに…
まぁ、戦争で自分達の事情を相手方がくんでくれるのを期待するのが、間違いなんだけどね」



20: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/01(日) 23:01:05.50 ID:xtb4jr6sO
そう言って、ショボンは苦笑混じりの溜め息をつく。

( ・∀・)「えぇ。特にジョルジュ小隊の兵士達は、他の兵士達よりも出撃回数が多い。彼らが、疲弊しきらなければいいんだが…」

モララーも同じように、溜め息をついてみせる。
できれば、一刻も早くこの場から立ち去りたいと彼は思っていた。

(´・ω・`)「うん。だか彼らは、我が基地の主力部隊だからね。彼等に安易に休暇を出す訳にもいかないんだ。
だからせめて、僕の口から普段から体を休めるよう、言っておくよ」

それではこれでと付け足し、ショボンは廊下の奥へと向かう。
その後ろ姿を見送りながら、彼は肩の荷が降りるのを感じた。

( ;・∀・)「ふぅ…同僚に、圧迫感を覚えるなど…嫌な職場に来てしまったものだな」

力無く呟き、彼もまたショボンとは反対方向へと歩き出す。

その彼の後ろ姿を、ショボンが冷たい眼差しで見つめていた事など、彼には知る由も無かったのだった。

(´・ω・`)「……いけない趣味を、お持ちのようだね。まぁ、聞かれたところで、彼には理解できないものだろうけど…」

ショボンの小さな呟きは、誰にも聞こえる事は無いだろう。
その血のように赤い双眸を細めると、彼はまた歩き出した。



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