('A`)はダークヒーローのようです
- 5: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:04:29.79 ID:P71TyF6QO
- 第二十六話 無慈悲
滅茶苦茶に引き裂かれ、バラバラに分解された蠱達の屍の山々。
その上に仁王立ちする二人の美女。
それを囲むように飛翔する、怪蠱の群れ。
幻想的で摩訶不思議な、印象絵画のようなこの光景。
二人の美女はその蠱の群れの奥、片隅に飛翔している一際大きな怪蠱を睨み付けていた。
川 ゚ -゚)「あれ、だな」
クーが、隣の渡辺に確かめるように囁いた。
渡辺はそれに黙って頷くと、ゆっくりとした動作で両腕を頭上へと掲げる。
周囲の空気が震える。体感温度が急激に下がり、季節外れの霜が彼女達の周りに降り始めた。
シャン達の動きが、妙にざわつく。本能で、これから渡辺が放とうとする禁呪の威力を、知っているのか。
从'ー'从「いっせーのー……でっ!」
気の抜けた掛け声と共に、渡辺が掲げた両腕を一際大きい蠱目掛けて振り下ろす。
急速に凍りつく空気。流れる風はその動きを束縛され、空中でその姿を巨大な氷道へと姿を変える。
それは、まさに氷の道。凄まじいばかりの凍結音と共に、絶対零度の波動がシャン達の群れを襲う。
- 6: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:05:46.44 ID:P71TyF6QO
- 渡辺の振り下ろした腕の先を支点に、巨大な円筒形に放たれたその冷気の波動は、触れるもの全てを氷付けにしてある一点へと駆け抜ける。
その先にあるのは、件の怪蠱だ。
川 ゚ -゚)「私達の勘に間違いが無ければ『招待主』は、その蠱の腹の中に隠れている!」
亜音速とも呼べる程の速度で宙を駆け抜ける冷気の波動は、目標に避ける暇を与えない。
クーがまた口を開く。
川 ゚ -゚)「目的……」
だがその言葉も終わらぬうち、冷気の波動が一際大きい個体へと衝突した。
空気の弾ける音と、眩いばかりのダイヤモンドダストが舞い散り、一瞬の内に視界がホワイトアウトする。
視覚がフラットアウトしそうなぐらいに眩い閃光が次第に収まっていくと、そこには氷のオブジェと化した怪蠱の前衛的な氷柱が数体程起立していた。
川 ゚ -゚)「……やったか?」
そう呟く彼女の頬に、冷たい感触が触れる。
冷気や、氷のとはまた違う、鉄のような感触だ。
「動かないでねぇ。いくら『マリアの子』でも、首をはね飛ばされたら生き返れないんでしょ?大人しくしてれば、殺しはしないから」
陰鬱な声。恐らくは『招待主』だろう。
- 7: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:07:04.52 ID:P71TyF6QO
- まだ些か幼さの残る少年のような声で、彼はクーの首筋に刃物を押し付けていた。
「いくら僕が天才でも、流石にシャンの腹の中には隠れられないなぁ。子供の読む漫画じゃないんだからさぁ」
背後に立つ彼の顔は見えない。だが、恐らくは嬉しそうな笑みを浮かべているのだろう。
くつくつと嘲笑ととれる引きつった声を、その口から垂れ流している。
「もう少し、頭の回転がよかったら、なんとかなったんだろうけどねぇ……」
『招待主』の愉悦に浸るような声。
だが、クーはそれにも至って冷静な返答を返した。
川 ゚ -゚)「あぁ、もう少しお利口さんだったら、君もこんな無様な負け方はしなかっただろうな」
「何を言って……なっ!」
彼もようやく気付いたのだろう。
クーと『招待主』、二人の足元から生え出ているそれに。
川 ゚ -゚)「家を全て破壊し尽くした辺りで、大方君のトリックには気付いていた。
君達の使う量産級の魔術でも、姿ぐらいは消せるみたいだからな。
だが、わざと的外れな推理を披露して、君が私のそばまで迫るのを待つ方が何より確実だと思ってな」
- 9: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:08:18.16 ID:P71TyF6QO
- 蔦。茨。そう呼ばれる植物の触手が、二人のつま先から頭頂部までをがんじがらめにしたのは僅か一瞬の出来事だった。
川 ゚ -゚)「もっとも、飛び道具を使われる危険性も考えられたが、どうやら相手はまだ幼いものと検討がついた。だから、とどめは必ず自分の手で刺しにくると踏んだんだ。まさか、ここまで上手くいくとは思いもしなかったがな……」
絡まる茨に束縛された、男女。
やはり前衛的な印象絵画のような光景だ。
茨は、アルカトラズの檻の如き堅牢さで、二人の身を戒めている。
「くそっ!こんな茨!」
男━━訂正。少年━━は、その魔術の茨から逃れようとクーの背後で身悶えする。が、
川 ゚ -゚)「禁呪で創造した茨だ。その棘は、君の体を縛っているのでは無い。君の『魂』そのものを縛っているんだ。だからこの通り……」
そう言って、クーはその場から一歩前に踏み出す。
不思議な事に、あれだけ複雑に二人の体に絡み合っていた茨は、すんなりと彼女を檻から解放した。
川 ゚ -゚)「私には影響は無い。ただし、君がもがけばもがくほどに君の精神は傷付き、引き裂かれ、魂の苦痛に悶える事になる」
- 11: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:09:27.54 ID:P71TyF6QO
- ゆっくりと言葉を紡ぎながら、言葉と同じ速度でクーは振り返った。
(;-_-)「っ……あぁ、ぅぐぃ……ががぎぎ」
そこには頬がこけ、眼光だけを異常にぎらつかせた15歳程の少年が、奇抜なデザインのローブを身に纏って直立していた。
その身を縛り付けるのは、魂の茨。
川 ゚ -゚)「驚いたな……まさか、ここまで幼いとは」
予想以上に子供子供している少年の顔を、驚きの表情で見つめる。
(;-_-)「…ぁあ…な…め……な、っ!」
少年は、それでも抵抗を止めようとはしない。
悪あがきに悪態にならぬうめき声を上げるが、全くの無力だ。
彼が『招待』したシャン達も、最早完全に統制を失い、今ではただの巨大昆虫の群れと化している。
川 ゚ -゚)「もう、私たちを追うのは止めろ。君達の理想なんてものは、誇大妄想に過ぎない。
その茨は、私が君の目の届かない所まで行ったら解除してやる。人間は殺さないと、誓っているんだ」
そう言い少年に背を向けると、彼女は歩き出した。
人間は殺さない。決して、何があろうとも、自分は彼等に危害は加えない。
それは、遥か昔の約束。
愛する人と交わした、絶対不可侵の誓い。
- 12: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:10:51.86 ID:P71TyF6QO
その、ハズだった。
鈍い、肉を貫く音。
背後からの唐突な異音に、クーは脊髄反射で振り返る。
そこには、
槍によって刺し貫かれたジーザスよろしく胸につららの槍を突き刺された少年と、そのつららの槍を握る渡辺の姿があった。
从'ー'从「驚異の芽はぁ、先に摘み取っておくと楽ですよぉ」
いつものしまらない声色。
浮遊感のある佇まい。
そのどこか箱入り娘然とした渡辺の手に握られた氷の槍を、真っ赤な生命の水が伝い流れる。
川;゚ -゚)「渡辺……お前……」
驚愕の面を、渡辺へと向けるクー。
(;-_-)「あっ……がっ……」
氷槍がその切っ先を引っ込め、崩れ落ちる少年の体。
まるで重さなど無いように、地に沈む。
从'ー'从「敵に情けをかけることは愚かな事ですよぉ。後で騙し討ちされたら、馬鹿を見るのは自分なんですからねぇ」
いつもと変わらない仕草。いつもと変わらない声。いつもと変わらない表情。
渡辺はいつもと全く変わらない様子で、覚める事の無い眠りについた少年の遺体を、見つめていた。
そこに、感情の起伏は見られない。
- 13: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:12:03.08 ID:P71TyF6QO
- 川;゚ -゚)「……お前…」
何か言おうとして、しかし言葉にならず。否、彼女に渡辺を非難する権限が有らず。
故に、クーは口を噤んだ。
きっと、口を開けば「まだ子供なのに」だとか、「殺さなくてもよかった」などといった他愛もない言葉が紡がれたことだろう。
そして、それに対する渡辺の返事は大方予測できる。
从'ー'从「私は感情がありませんし、何よりクー様の身の安全を確立するのが、私の役目ですからぁ」
彼女は何も悪くは無い。ただ、自分の製造理由を忠実に守っただけ。
ただ、それだけなのだ。
川;- _-)「私の判断は、間違って、いたのか……?」
クーは苦い表情をすると、拳を握りしめた。
- 15: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:13:40.51 ID:P71TyF6QO
- ━━単独行動。
自分は何者の束縛も受けない。
天上天下、唯我独尊。
('A`)「人間なんぞの指示なぞ、聞いてられるか。オレは、救世主だ。人間とは違う」
暗い遺跡の中を、本隊から離れてドクオはただ一人、音のした方へと進む。
('A`)「下らん馴れ合いなぞ、オレの性分には合わない」
簡単には死なない体。強大な魔術を振るう力。邪神を封印する能力。
間違いなく、ドクオは最強だ。
人間の助けなど、いらない。
自分一人でも邪神は封印できる。
('A`)「……オレ一人で、充分だ」
だが、最後の呟きにはどこかしら力強さが欠けていた。
(#'A`)「……クソが!なのに何故こんなにもイライラする!」
怒鳴り、遺跡の壁を殴りつける。
返ってきたのは、拳の痛みと憤り。
- 17: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:14:24.37 ID:P71TyF6QO
- ('A`)「一人で……充分だ……」
誰も聞く者のいない暗闇に、ドクオのか細い呟きは消えた。
ふと、またあの物音がする。
今度ははっきりと、足音の形として聞き取れた。
('A`)「何者だ?」
人間よりも五感が発達しているドクオは、彼にとっての薄闇に目を凝らす。
- 19: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:15:32.01 ID:P71TyF6QO
- 遺跡の通路は、どうやら先が丁字路になっているらしく、足音はその右側からしたようだ。
ドクオは用心深く歩を進めると、右の角の前で一旦立ち止まった。
息を潜めて、相手の気配に耳を傾ける。
息遣いなどは、聞こえない。
時折、擦るような足音がするだけで、それ以外は無音だ。
('A`)「……(呼吸音がしない?いったい……)」
記憶をたどり、該当する化け物を探したが、ドクオの脳には一致する結果は存在しなかった。
('A`)「…(やれやれ)」
考えるのは愚策と判断。
右手のP90を構えると、ドクオは意を決して、角からその身を踊らせた。
('A`)「動くな!…って、化け物に言っても無駄…」
角の先に飛び出したドクオは、突きつけた銃口の先、目の前の「それ」を見つめる。
構えたP90のトリガーに、引かれる気配は無い。
彼の視線の先の「それ」は、風通しの良い人型のシルエット。
その身に肉は無く、骨格だけがどのような原理でか、そこに直立していた。
( ●皿●)『……お前、まさかドクオか?』
屍が、口を開いた。
紡がれるは、古の言葉。
- 21: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:16:51.10 ID:P71TyF6QO
- ('A`)「お前…まさか……」
いや、正確には屍では無い。
「魂の器」と言った方が、正確か。
( ●皿●)『裏切り者が……よくもまぁ、平気な面でここに戻ってこられるな』
虚ろな頭蓋骨から響く古代VIP語は、ドクオへの呪詛に満ち溢れていた。
ふいに、喋る骸骨の足元の乾いた地面が隆起する。
その土は、「魂の器」の骨格に這うように吸着し肉体を形作っていく。
蠢く土が、肉になり、皮になり、やがてそこに裸の長髪癖毛をした男性が形成された。
ミ,,゚Д゚彡「今すぐ殺してやりたい所だが、生憎貴様を粉々にする鎚が無い。魔法でも使われたら、ただでは済まないしな」
忌々しそうにドクオを睨むと、「それ」は四本しか無い指の右拳を握りしめた。
ミ,,゚Д゚彡「立ち去れ!貴様の同朋の血で汚れた身で、この地に立つことは許されぬ!」
得物を持たずとも、臆することなく振る舞うその姿は、威風堂々とした雄獅子のように力強い。
('A`)「見たところ、お前もオレと同じのようだが……何の事を、言っているんだ?」
同族。本能が、そう告げた。
- 目の前の男が、自分と同じ「人ならざる者」だと、本能がドクオに告げた。
22: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:17:57.44 ID:P71TyF6QO
- 探し求めていた、「自分の起源」に近づきつつある事に、ドクオの心は高鳴っていた。
だが、裏切り者とはどういう事なのか。
ミ,,゚Д゚彡「忘れたとは言わせん!我らが母達を裏切り、人間の側に付きおって……あまつさえ、禁忌とされた魔術まで生み出した!」
('A`)「待て、何を言っているかわからないのだが……。魔術を作ったのが、オレだって?」
記憶が無いのは、盲目なのと変わり無い。
この男の言葉は、まさに暗がりで鼻を摘まれるような、そんな気分にドクオをさせた。
ミ,,゚Д゚彡「聞く耳持たん!さぁ、立ち去れ!」
男の声が、一層大きくなる。
その怒声は、遺跡内に大きく木霊した。
(;'A`)「オレは何も覚えて無いんだ!ただ、本能のままに邪神達を狩るだけで、自分が何者なのかも知らない……教えてくれ!オレはいったい何者なんだ!」
焦燥感から、ドクオの声も次第に大きくなる。
切実なる叫びは、果たして目の前の男に届いたのか。
長髪癖毛の男は、黙ってドクオに背を向けると、暗い遺跡の奥へと歩いていってしまった。
(;'A`)「何なんだ……オレが、裏切り者…だと?」
- 23: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:19:00.27 ID:P71TyF6QO
- 突然、遠くで銃声が響いた。
乾いた火薬の爆ぜる音と、兵士達の怒鳴り声、叫び声。
闇を伝い、空気を伝い、その叫び声はドクオの耳にまで届く。
「くそ!なんだ、こいつは!」
「い、いきなり出やがった!」
「うわぁぁぁぁ!」
奇襲に合ったのだろうか。聞こえてくる叫びに、余裕の有る様子は無かった。
('A`)「ふん、戦闘が始まったか。だがオレには関係の無い事だな。勝手に野垂れ死ぬがいい」
この遺跡内の闇よりも暗い嘲笑を浮かべると、ドクオは長髪癖毛の男の後を追うように、遺跡の奥へと歩き出した。
━━━━━
それは、突然の事だった。
兵士達が階段を下り終え、通路を歩き出そうとした途端に、「それ」は起こった。
彼らが踏みしめていた地面が、まるで今まで眠っていた獣が欠伸をしたかのようにぱっくりと裂け、そこから粘液に湿った、何者かの触手が飛び出してきたのだ。
文字通り、足元を掬われるような奇襲に、兵士達はとっさの判断が利かず、その大半が汚らわしい触手の餌食となり、口を開けた地の底へと引きずり込まれた。
- 24: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:20:14.67 ID:P71TyF6QO
- (;=゚ω゚)「な、何だこいつは!」
地面の裂け目から伸びるそれは、まさに化け物の舌のようで、手近の兵士達に巻き付いてはその体を、開いた地面の裂け目に引きずり込んでいく。
(´<_`; )「これはちょいとまずいぞ兄者。こんなブラクラ、見たことない」
地面は、久々に開いた大口から四本の舌を伸ばし、狭い通路の中を縦横無尽に舐めまわした。
( ;´_ゝ`)「触手レイープフラグか!?だったら、何としても2ちゃんにうpしなければな!」
兵士達は、不足の事態に半ば恐慌状態に陥りながらも、懸命に手にした銃で応戦する。
兄者と弟者にすら、余裕は見られない。
口をついて出る冗談は、最早無意識の癖というものだろう。
ノハ;゚听)「ぬぉぉぉ!」
ヒートも叫ぶのが精一杯で、迫り来る触手を避ける事に全神経を注いでいる。
( ;゚∀゚)「くっ!…全員、出来るだけ裂け目から離れろ!引きずり込まれるぞ!」
ジョルジュの怒号が飛ぶ。
(兵1;メ>〃)「あぁぁぁぁ!だずげでぇぇぇぇ!」
だが、遅かったようだ。
また一人、兵士が触手に捕まり地の底へと引きずり込まれる。
- 25: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:21:16.47 ID:P71TyF6QO
- (兵2ЭヾЭ)「くそっ!くそっ!死ね!死ね!」
兵士の一人が、9mmヘビーマシンガンを手当たり次第に乱射するが、狙いをつけない弾丸は、裂け目を挟んで向こう側にいる兵士達の体をも掠める。
(兵3ψωψ)「ぐぉぉわぁぁぁ!?」
戦略を入り口側と奥側に分断された討伐隊は最早、浮き足立つといったものでは無い。
戦場は、混沌と混乱の中で気の触れた喜劇の舞台と化していた。
( ;゚∀゚)「くっ、泥沼だ……ドクオの奴、何をしているんだ…」
思わず、ジョルジュの口からも本音が零れる。
(兵4;¬_¬)「いやだ!死にたくない!死にたくない!死にたくなぁぁぁぁぁあ!」
勝機は、最早なさそうに見えた。
( ;´_ゝ`)「隊長、このままじゃ全滅だ!ここは、一旦引くべきだ!」
兄者がライフルのトリガーを引きながら、後ろのジョルジュに向かって叫ぶ。
( ;゚∀゚)「それしか、無いか」
苦い顔のジョルジュ。
ちょうど触手は通路を二つに分断するようにして、地面から出現している。
運がいいのか悪いのか、ジョルジュ小隊の面々は全員が奥側、つまり逃げ道の無い側にいた。
- 27: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:22:26.66 ID:P71TyF6QO
- ここで入り口側の兵士達に、撤退を命じれば、残った者だけで遺跡の奥へと進まなければならない。
だが、全員でこの触手に攻撃を加えたところで、悪戯に兵士達の命を無駄にするだけだろう。
今のところ、銃撃に触手が怯むような様子は無い。
( ;゚∀゚)「入り口側にいる奴ら、よく聞け!このままこの触手とやり合っても命の無駄だ!
お前達は一旦遺跡の外に撤退して、オレ達の連絡を待て!いいな、命を無駄にするな!後はオレ達に任せるんだ!」
━━━━━
長髪癖毛の男の後を追い、ドクオは走っていた。
一人になると、またあの憤りがこみ上げて来る。
('A`)「ジョルジュ……」
思い出されるのは、ジョルジュの顔。
('A`)「あいつは、他の奴らとは違うと思っていたんだが……所詮は人間か」
そう呟くドクオの表情は、どこか寂しげだ。
思えば、彼と対等な立場で会話ができたのは、ジョルジュだけだった。
('A`)「……下らん」
頭を振ると、ドクオは歩みを早める。
認めたく無い事から、逃げ出すかのように。
事実から逃げ出すかのように。
- 29: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:23:42.77 ID:P71TyF6QO
- 無心になろうと乱暴な足取りで通路を進み続けた彼は、しばらくして通路が途切れて崖となっている場所へと辿り着いた。
('A`)「…っと」
自分の脳内での葛藤に忙しかった彼は、危うく足を踏み外しかけ、なんとか踏みとどまる。
見下ろすと、崖の底はどこまでも続く深淵のように暗く深い口を開け、まるで地獄の入り口のようにも見えた。
左右に首を振ると、その空間が地下にできた巨大な縦穴だという事がわかる。
かつてのVIPドームが、丸ごと入りそうなその巨大な縦穴の底から吹いてくる風が、死んだ魚の発するような生臭い腐臭を運んできた。
('A`)「あの男は、どこだ?」
目の前には、腐臭を放つ大穴。
後ろには、遺跡の通路。
ドクオが追ってきた長髪癖毛の男の姿は、そのどこにも無かった。
('A`)「ちっ、いらいらする事ばかりだ」
吐き捨て、崖の縁に腰を下ろす。
今更、人間達に加勢してやる気分でも無いので、ドクオは手持ち無沙汰に穴の底をぼんやりと見つめた。
漆黒の深淵は、ドクオの心中を象徴するかのように、暗く黒く果てしなく続いている。
- 31: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:24:43.75 ID:P71TyF6QO
- ('A`)「……」
ボーっと、ただ穴の底を見つめていると、自らの虚ろな記憶が思い出される。
自分は何者なのか。
他人が聞いたら、お笑い草だ。
盲目的に邪神に敵対し、奴らを根絶やしにしてから自分はどうするつもりだったのだろうか。
本能的な敵愾心は消える事は無いが、今ではそれに違和感すら覚える。
('A`)「記憶を……くれ」
不確かな足元を見つめ、眼を閉じようとして、彼はその虚ろな大穴に違和感を発見した。
('A`)「あれは……」
遠くから聞こえてくる滝の落ちる音に似たそれは、ゆっくりと加速度を増しながらドクオの元へと穴の底から近づいてくる。
近づくにつれ、それは何かが、巨大な何かが移動する音だと認識できた。
('A`)「…大物だな」
彼の本能が、サブリミナルな仇敵の接近を察知した瞬間、地下が大きく揺れた。
- 32: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:25:42.14 ID:P71TyF6QO
- ━━━━━
(;=゚ω゚)「はぁ、はぁ…やっと、逃げ切ったか」
ぃようの荒い息は、安堵の色。
ノハ;゚听)「くそっ、逃げるのは性に合わないんだよなぁぁ」
ヒートの顔は、ルービックキューブのように複雑だ。
( ;゚∀゚)「死にたかったら、あそこに居ても良かったんだぞ。最も、お前が残ったら襟首捕まえて引きずってでも連れて来たがな」
ジョルジュ小隊の面々と、その他少数の奥側に居た兵士達は、這いよる不浄の触手から逃げきり、遺跡の奥へ奥へと進んで来た。
今彼等が居るのは、天井が見えない程に広い空間。
遺跡の階段を下りに下った結果、この場所に行き着いたわけだが、地下にしては異常なまでの広大さだ。
サッカーの試合が出来そうな程に広々としたそこは、巨大な縦穴の底ともとれた。
あれ以来、幸運な事に一度も敵からの襲撃は無く、依然として遺跡内は不気味な沈黙を続けている━━わけでも無さそうだった。
突如として響く轟音。
(;=゚ω゚)「な、何だ!?また触手の化け物か!?」
色めき立つ兵士達。
- 34: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:27:02.35 ID:P71TyF6QO
- ( ´_ゝ`)「皮肉なもんだな。逃げるのに必死で、敵の懐に飛び込んで来ちまったってわけか」
そう呟く兄者の視線の先には、ひびの入った地面。
(´<_` )「なぁ、兄者。オレ達は、いつ死亡フラグを立てたんだ?」
ゆっくりと、そのひびが広がる。
( ´_ゝ`)「知るか。立てすぎて、どれが元フラグかわからん」
また、轟音。
ノハ;゚听)「お、おい!今度は何だ!?」
広がる、亀裂。
(兵5#ゞ#)「お、おい、まさか……」
轟く地響き。
(兵6`谷`)「嘘だろ……?」
裂ける、大地。
(兵7;'兪)「あぁ、神様…!」
バンカーバスターの爆発のように、彼等の足元が爆ぜ、そこから滝の逆流の如き勢いで常軌を逸した大質量が立ち上る。
(兵8;゚人゚)「ぎゃあぁぁぁ!」
- 35: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/20(金) 23:27:53.44 ID:P71TyF6QO
- 足元でいきなり竜巻が発生したかのように、兵士達の体は宙へと舞い上がり、玩具のように吹き飛ばされた。
( ;゚∀゚)「総大将の、お出ましか」
その巨大な破壊の柱とも呼べる、神々しいまでの「それ」は、どこまでも続くような穴の天井目掛けて、壮絶な勢いでその身を伸ばす。
無慈悲なる地獄の釜が、今開かれたのだ。
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