('A`)はダークヒーローのようです

7: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 22:55:18.89 ID:z64foNE1O
第三十三話 咆哮

━━彼等は目指していた。
一心不乱に、目指していた。
聖地へ、故郷へ、ふるさとへ。親を、母を、母を求めて。
意志を持たない本能だけの存在故に、彼等はどんな存在よりも切迫した欲求に従い、ひたすらに彼の地を目指していた。

朝焼けの予兆が地平線より感じ取れる世界の中、空を、地を、海を埋め尽くすは異形の命。
神に呪われたかの如きその姿は悪鬼羅刹。

原始の記憶が叫ぶ。

帰れ、帰れ、と咆哮する。

彼等が目指すは母の膝元。愛しき母の胸の中。
目覚めの予感が叫ぶから。こっちへおいでと誘う声に導かれ。

一際高い咆哮が、朝焼けの世界を震わす。

聖地は、すぐそこに迫りつつあった。



8: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 22:56:10.35 ID:z64foNE1O
━━戒厳令のしかれた街並みを、軍靴の立てる騒々しい足音が駆け抜ける。
鋼鉄の鎧、強化装甲服━━ギア━━を身に纏った兵士たちは、手に手に仰々しい銃器を握りしめ、配置についていった。
下ろされた面頬の下に各々が浮かべる表情は、一様に恐怖にひきつっている事だろう。
勝ち目など無い。
誰もがそう確信する中では、彼らが握る銃器も酷く頼りない玩具にしか見えなかった。

( ´_ゝ`)「全員、銃の用意はいいか?間もなく、奴らの第一派が到着するハズだ。気を引き締めてかかれよ」

月並みな鼓舞を上げるのは兄者。
小隊長に就任してから初の作戦で既に、彼は自らの死を目前に見据えていた。

(=゚ω゚)「準備は万端です隊長」

(´<_` )「……右に同じ」

ノパ听)「……」

それを知ってか、元ジョルジュ小隊の面々の表情は暗い。

( ´_ゝ`)「……」

どんなに絶望的な戦いの中でも、自分たちは笑いながらそれをくぐり抜けてきた。
死を目前にしても、皮肉を言いながら銃の引き金を引いてきた。



10: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 22:57:03.11 ID:z64foNE1O
だが、それもひとえに隊長であるジョルジュの影響が大きかったのだろう。
彼の言葉が、彼の姿が、彼の存在があったから、自分たちは絶望せずに今まで戦い抜いてきた。
だが、自分にはそんな彼の代わりが務まらないのだろう。
周囲の兵士たちの顔を見渡しながら、兄者は自分の無力さを痛切に感じていた。

( ´_ゝ`)「……くそったれ」

ジレンマの呟きと共に、兄者は空を仰ぐ。
ニーソクの玄関口、第八ロードセクターから見上げる空は薄紫。
それは夜明けの色彩。
そして、死の宣告。

( ´_ゝ`)「……エイメン」

ぽつり。
死んだ神への祈りが兄者の口から零れる。
それは、助けを請う弱音か。

━━━━

(兵'=')「第一から第十七までのイージス部隊、展開完了しました」

若き兵卒の報告を聞きながら、オワタは第三ロードセクターから見える地平線の向こうを見据えていた。

\(^o^)/「こんな大群はシベリア以来だな……」



12: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 22:57:58.56 ID:z64foNE1O
ビルの谷間を突き抜け、荒野へと伸びる長大なハイウェイ。そこにずらりと並ぶ鋼鉄を身に纏いし兵士達。
その遥か向こう、地平線を埋め尽くすのは無数の鬼。
地上に突然現れた大津波の如き呪獣の大軍団は、時速百五十キロという信じられない速度でここニーソクの地を目指していた。
歴史は繰り返す。
総勢七億と二十余り。かつてシベリア戦役と呼ばれる戦いで現れた邪神達の、約五倍に相当する化け物の群れ。
その絶望的な数に人類が用意できたのは、たった一億の駒だった。
しかもその内の一万が、まだ訓練も終えていない雛だというのだから、お笑い草だ。

(兵'=')「軍曹殿………」

報告を終えても配置に戻ろうとしない兵卒が、オワタの名を呼ぶ。

\(^o^)/「どうした?」

その一万のうちの一羽の雛のさえずりに、オワタは耳を傾けた。

(兵'=')「……」

名も知らないひな鳥は、硬い表情のまま黙している。
彼の目は、眼前のオワタだけを見つめていた。
吸い込まれそうなほど、真っ直ぐな視線。

\(^o^)/「……どうした?用が無いのなら、お前もさっさと所定の位置について……」



13: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 22:58:55.77 ID:z64foNE1O
それを直視出来ず、オワタは会話の終了を告げた。
だが。

(兵'=')「自分は、今までオワタ軍曹の下で訓練を受けられた事を、誇りに思います」

唐突に兵士が吐いた言葉に、オワタは戸惑う。
何故、そんな事を。今までとはどういう意味だ。いや、わかっている。だが……。

\(^o^)/「なんだ、そんな事を言うために……」

様々な言葉が胸の中で荒れ狂った。
が、オワタが口に出来たのは価値のない一文だけだった。
もっと他にかけてやるべき言葉があったのだろう。オワタはそれを自覚していた。
だが、それを言葉にしてしまえば辛い事になる。
何より、自分らしくない。馴れ合いや慰みなど、自分にはふさわしくない。
そんなオワタの内心の葛藤を知ってか知らずか。

(兵'=')「……失礼しました」

短い、本当に短い感謝の言葉。
たったの一言。
そして、今までで一番様になった敬礼。
それだけを残して、兵士はオワタに背を向けた。

\(^o^)/「……」

去り行くひな鶏の背中。
それを見つめながらオワタは、自分が兵士の名前を覚えてないのでは無く、覚えようとしていなかった事に気付いた。



15: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:01:59.66 ID:z64foNE1O
━━見上げれば天を突くばかりに聳える超高層ビルの森。
見下ろせば、アスファルトの敷き詰められた地面。
これから始まる終焉の宴に向けて、人払いが済まされたそこを歩く者は悲劇の主人公達であり、端役でしか無い悲しき道化達。

かつての人類の栄華の縮図のような都市、ニーソク。
虚ろなる都の、悲劇の舞台の、その楽屋裏、地下数千メートルに“その空間”は存在した。

( ФωФ)「……なんと禍々しい姿か」

どのくらいの広さがあるのか想像もつかない、果てなき暗闇。
そこに彼は立っていた。
暗闇の中でもそこだけが浮き彫りになるかのような、毒々しい蒼色のローブを纏い、彼が見上げる視線の先、そこに広がるのもやはり永久の闇ばかり。

( ФωФ)「貴女が全ての源である女神ならば、我々はこの世に存在する全ての辞書から、“神”という言葉を消してみせよう」

闇に向かって語りかけるように、彼は両手を掲げる。
その手が掴むのもまた、闇。

( ФωФ)「だが、その必要ももう無い」

口の端に皺をつくり、笑みの形に歪める。



18: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:03:02.72 ID:z64foNE1O
( ФωФ)「今宵、我々は神の国への門を開き、三千世界の全てを超越した存在へと駆け上がり旅立つ!そう、女神よ!貴女をも超越する!」

掲げられた腕が震えるのは、彼が笑っているから。
身を震わせ、歓喜に酔いしれ彼は笑っていた。

( ФωФ)「この不毛なる大地が欲しければ、どうぞ。喜んで差し上げよう!我々は後ろを顧みない!」

身を折り曲げ、全てを嘲笑うかの如き笑みを闇へと向け、彼はきびすを返す。

( ФωФ)「祝え!人類の新たな門出を!旅人に、祝福を上げよ!」

彼の哄笑が、深淵に響いたのと同時。
闇が、僅かに胎動した。

━━━━

先手を取ったのは意外にも人類だった。

( #´∀`)「高射砲用意━━撃ていっ!」

司令官の合図と共に、要塞化されたニーソクの各所から戦いの狼煙は上げられた。
ビルの屋上、窓、市街地の路上、路地裏、ハイウェイの路面、港の汀、倉庫の屋上━━。
それら様々な場所に配置された兵士達の持つ重火器が、一斉に火を噴いた。



20: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:04:14.01 ID:z64foNE1O
連続した射撃音や爆音が断続的に響く。
その様子は、さながら壮大な打ち上げ花火の連発を見ているようだった。

( #´∀`)「全軍、目標はわかっているな?弾の出し惜しみはするな。全力でかかれ!」

司令官の命令に忠実に、兵士達は武器を構える。
居並ぶ戦車や装甲車、戦闘ヘリが鋼鉄の咆哮を上げる。
十八ミリダマスカス弾が、対戦車鉄鋼弾が、四十五ミリ劣化ウラン弾が、白燐弾が、明け方の空を駆け抜ける。
それら人類の刺客達は、絶望色の空気を切り裂きながら短い旅路を辿り、終着駅の魔物達に着弾、紅蓮の絶叫を上げた。
爆風が、爆炎が、衝撃が、邪悪の眷族達をなぶり、蹂躙する。
破壊の使徒にあてられ、千切り飛ぶ魔物達の肢体。
どす黒い血煙と不浄なる肉片が飛び散る中、一筋の咆哮が上がる。
それは天を突き破らんばかりの咆哮。怒りの雄叫び。
途端、まるでそれを合図にするかのようにして昇りきった朝日と共に、化け物達の反撃は始まった。



22: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:05:23.17 ID:z64foNE1O
━━杉材の壁。そこに嵌った窓から、ドクオは昇り行く朝日を眺めていた。

('A`)「……」

月が無慈悲な夜の女王ならば、太陽は優しき朝の皇太子だ。その筈だ。
その筈だった。
だが。

('A`)「…なんて、毒々しい色なんだ」

夜と朝のせめぎ合いが生む薄紫の淡い色彩。
本来なら、それこそが彼を夜の不安から解き放ってくれる筈なのに。

('A`)「嫌な色だ……」

彼の心中は穏やかでは無かった。
それは彼の知らない内に始まろうとする、終焉に対する予感めいたものなのか、それともまた別のものか。

('A`)「……クー」

思わず漏れたその名が示す答えは後者。

ドクオは戸惑っていた。

夜通し続けられた真実の回想録。
そこでハインリッヒから伝えられた内容は、どれも驚愕を隠しきれない程のものだったが、その中の一つが取り分けドクオの胸を抉り、今尚心騒がせるモノの要因となっていた。

━━━━

从゚∀从『あなたが五千年もの間眠っていたのは、人間達があなたを裏切って無理やり封印したからなのです』



23: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:06:34.60 ID:z64foNE1O
('A`)『人間が裏切った?…だとしても、人間如きがオレを封印するだけの力を持っていたのか?』

从゚∀从『…そう、あなたは、オリジン様は超越者。人間が逆立ちしても到底かなわない力の持ち主。そこで、彼女の登場ですよ』

('A`)『彼女…?』

从゚∀从『あなたが、クーと名付けた女です』

(;'A`)『……おい、どういう意味だ』

从゚∀从『もう、わかっているんでしょう?』

(;'A`)『……』

从゚∀从『彼女はあなたを騙し、裏切り、人間の側につき、率先してあなたを封印したうちの一人です』

(;'A`)『何、故……』

从゚∀从『あなたを、利用する為ですよ』

(;'A`)『利用?』

从゚∀从『強力な魔術、邪神を封印する力、ほぼ不死身の肉体、あなたの存在は人間の手には余る程に大きすぎた。
だから、記憶を奪い、“力”に制約をつけ、自分達の都合のいい時に利用出来るように地下深くに封印し、封印を解く方法を後世に残したんですよ』

(;'A`)『だから、どうして彼女がそんな事をする必要が有るんだ!』



24: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:07:27.02 ID:z64foNE1O
从゚∀从『……オリジン様』

(;'A`)『…?』

从゚∀从『どうして、彼女に拘るのです?そんなに彼女が大切なのですか?』

(;'A`)『それは…』

从゚∀从『おかしく無いですか?記憶も定かでない、自分が誰なのかも分からない。そんなあなたが、唯一必死になって追い求めたのはクーという女。彼女を追い求めれば、自分の記憶が戻ると思って。そうでしょう?』

(;'A`)『……』

从゚∀从『教えてあげましょう、オリジン様。それは“刷り込み”です。
あなたの深層意識の中に、五千年前の封印の折り、奴らは“クーという女に惹かれる”ように、あらかじめ命令を刷り込んでおいたのですよ』

(;'A`)『嘘、だろ…?』

从゚∀从『事実、五千年の眠りから覚めて盲目だったあなたは、クーと再会してからずっと彼女を探し続けていたのでは無いですか?』

(;'A`)『……』

从゚∀从『違いますか?』

(;'A`)『クーは……』

从゚∀从『あなたは元々人間に非協力的だった。それを、人間に入れ込んでいた彼女はどうしても見過ごせなかった』



25: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:08:23.77 ID:z64foNE1O
从゚∀从『来る日も来る日も、あなた達は言い争った。邪神の恐怖に怯える人間を、どうしても助けたいと主張するクー。自分達が手を下すべきではない、傍らで静観すべきだと主張するあなた。
平行線を辿る話し合いの末、彼女が辿り着いたのはあなたを騙し、油断した隙をついて無理やり人間の元に屈服させる事だった。
結果、あなたは邪神の全てを駆逐し、五千年の眠りに就かされ、目覚めた今も尚邪神を封印する事に異常な執念を燃やしている。そう、本能的に』

(;'A`)『……』

从゚∀从『信じたく無い気持ちは分かります。それでも、これは紛れもない真実です。オリジン様、お気をしっかり持って下さい』

('A`)『……一つ、聞いていいか?』

从゚∀从『はい』

('A`)『お前は、何者だ?』

从゚∀从『私は、あなたの“力”を司る存在。強大過ぎるあなたの魔力の化身。五千年前の封印の際、あなたの体から引き裂かれた半身です』

('A`)『そう…か』

从゚∀从『オリジン様。あなたは私の主です。あなたは私の生みの親です』

('A`)『……あぁ』



26: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:10:09.62 ID:z64foNE1O
从゚∀从『私は、あなたに仕えます。あなたの為なら、この命を捨てる事もいといません』

('A`)『……』

从゚∀从『…真実が……真実を知る事は、きっと辛かった事でしょう。今まで信じていた事が偽りだったというのは、余りにも酷い事です』

('A`)『ハイン……』

从゚∀从『ですが、忘れないで下さい。例えこの世の全てがあなたを裏切ろうと、私は。私だけは、あなたのお側を離れる事はありません。絶対に、絶対に』

('A`)『オレは……』



27: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:10:48.05 ID:z64foNE1O
从゚∀从『…お慕い申しております、オリジン様』

━━━━

咆哮が響いた。
咆哮が聞こえた。
終焉への調べを聞いた。

('A`)「……」

杉材の壁。そこに嵌った窓から、ドクオは昇りきった朝日を見ていた。

('A`)「邪神達、か」

魔獣の雄叫びと、火薬の立てる爆音。
それらが意味するのは、闘い。

('A`)「あの方角は、ニーソクか……」

そう遠くない場所で、人類と邪神達の闘いが始まった。
どんな規模かは分からないが、そこで人類は神に抗っている。



29: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:11:50.48 ID:z64foNE1O
結果などは考えなくともわかる事。
ドクオの不在。
彼の存在を欠いた人類が、邪神にかなうものか。

('A`)「……」

彼らはドクオの助けを必要としているだろう。
邪神を封印出来るのはドクオだけだ。
しかし、彼の足は動こうとはしない。

('A`)「結構じゃあないか。オレにすがり、オレを利用し、オレを弄んだ犬畜生以下の外道には、お似合いの結末だ。
必死に生き残る術を考えたんだろうが、残念だったな。安っぽい猿知恵は案外簡単に看破されたぞ?」

嘲笑を口元に浮かべ窓から視線を外す。
ハインリッヒは二階で眠りに就いている為、彼が見渡す事になったリビングはがらんとしていた。

('A`)「他人がどうなろうが知らん。自分の周囲五メートルの世界が全て。お前達とオレはさして違わない思考体系を持っていたみたいだ」

くつくつ、と笑いながらソファーへと腰掛ける。

('A`)「誰が死のうが構わない。オレには関係無い。何も、関係……」

再び嘲笑しようとして、彼の口元は凍り付いた。



33: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:14:18.08 ID:z64foNE1O
('A`)「死……死ぬ…死んだ…死んで…殺された…殺した……」

心臓が、脈打った。

('A`)「ジョル、ジュ……」

唇が、震えた。

('A`)「…違う、オレじゃ無い。オレは違う。オレには関係無い」

『お前とは…馬が、合ったな…嬉しかった…ぞ』

フラッシュバック。

(;'A`)「知らない!オレは関係無い!お前なんて知らない!」

『親友の…証だ。戦友でも、知人でも無い、紛れも無い…親友の、お前…に…』



34: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:14:45.86 ID:z64foNE1O
(;'A`)「知らない!オレは関係無い!お前なんて知らない!」

『親友の…証だ。戦友でも、知人でも無い、紛れも無い…親友の、お前…に…』

(;'A`)「何が親友だ!人間如きが、下賤な猿が、親友だと!?」

『それに、無責任です!邪神はどうするんですか!?何もかも投げ出して、このまま逃げるつもりですか!?』

(#;A;)「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!関係無いんだよ……」

癇癪、そして絶叫。

(;A;)「死んだんだよ……ジョルジュは、死んだんだ。だからもう、関係無い。人間など、もう関係無いんだ」

何の為に闘う?
記憶を手に入れる為?
本能の為?
欲求の為?
違う。

(;A;)「ジョルジュが死んだんだ。オレの闘う理由は、もう無い」



36: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:15:52.73 ID:z64foNE1O
認めたく無かった。
自分が人間に肩入れし邪神を倒しているのは、ただの気紛れまたは利害の一致だと。ただそれだけなのだと、思いたかった。
だが、違っていた。

本当は、守りたかったのだ。
自らを認めてくれる存在を。
自らを許してくれる存在を。
自らを必要としてくれる存在を。

(;A;)「だが守れなかった!ジョルジュは死んだ!守れなかっただけじゃない!オレが殺したようなものだ!死んじまったんだよ!」

泣いていた。
悲しかった。
どうしようもなく、悲しかった。
苛立った。怒った。癇癪を起こした。泣き喚いた。許しを請いた。自己嫌悪もした。



37: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:16:16.46 ID:z64foNE1O
(;A;)「クソっ…たれ……」

跪いた。涙が床に染みを作った。
そうして、思い出した。

『へへ…人間らしく、なったじゃあ…ねぇか』

あの言葉を、思い出した。

(;A;)「人間らしい…?オレが?」

自嘲の笑みが浮かぶ。
こんな情けない姿が、人間なのか。
そうだ、こんな生き物だ。
人間とは、弱い生き物だ。
誰か無しでは生きられない。
一人では、生きられない。
一人では、立ち上がれない。

(;A;)「人間は、弱い……」



39: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:17:20.34 ID:z64foNE1O
再び、脳髄から声が聞こえてきた。

『人間には変わらない、良さがある』

それはいつかの酒場での会話。
初めて“彼”と交わした会話。

(うA;)「愚かさと」

記憶をなぞるように呟く。
この後、“彼”が言った言葉も勿論覚えている。

『人情だ』

人情。
人は、愚か故に人情を持つ。
相手に与えた温情の分だけ、自分に見返りが返ってくる事など無いと知らないから。
知らないから、他人に情をかける。
果たしてそれは自己満足なのか。
下らない行動なのか。
意味の無い行動なのか。



42: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/25(月) 23:17:58.89 ID:z64foNE1O
━━善。
━━情。
━━人情。

それは無駄な事なのか。無駄ならば、ジョルジュは何の為に死んだのか。自分はジョルジュに取ってどんな存在だったのか。ジョルジュは自分に取ってどんな存在だったのか。

自分は今、何をすべきなのか。

('A`)「ジョルジュ……」

呟かれた名は、親友の銘。
戦友でも、知人でも無い、紛れも無い親友。

('A`)「オレは、お前の為に何が出来るだろう」

答えは、胸の中。
黙示録を告げる咆哮が、遠耳に鳴り響いた。



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