('A`)はダークヒーローのようです
- 3: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:00:54.37 ID:zdWc6QlQO
- 第三十九話 闇
━━決意、愛、不安、絆、約束。
ある者は自らの責務を果たすため。
ある者は愛する者の為。
ある者は友との約束を果たすため。
ある者は理想を叶える為。
それぞれの想いを胸に、彼らはニーソクの地に天を仰ぐ。
かくして役者は舞台に揃い、歯車がかみ合い物語の最終幕は始まる。
楽団が荘厳なる演奏で物語に華を添え、観客が固唾を呑んで見守る中、役者は舞台の中で舞い踊るだろう。
もう誰にも止められない。
結末へ向かって怒涛の勢いで流れる物語は激流。
それが行き着く先は誰にもわからない。
- 4: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:01:50.13 ID:zdWc6QlQO
- そこで読者諸兄に今一度問おう。
貴兄等は闇と聞いて何を想像するだろうか?
地下、棺、曇天、深淵……様々な答えがあるだろう。
だが、そんな中でも最も暗く深い闇が何であるかを私は知っている。
それは人間の心の中に潜む“闇”だ。
いささか抽象的な話だが、これは自信を持って断言出来る。
人の心の闇は他の何よりも深い。
覗き込めども底の見えない黒。それを抱えて人は激流を歩む。
人の心に潜む“闇”。
この言葉を頭に置いて、これから始まる最終幕を見届けて欲しい。
さぁ、開幕の時間だ。
- 6: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:02:48.44 ID:zdWc6QlQO
- ━━目の前を行く男の背を見ながら、ツンの頭はようやく冷静さを取り戻してきていた。
(’e’)「疲れたでしょう?もうじき、安全圏ですよ。頑張って下さい」
奇怪なローブ、巨大な銀のチャクラム。
一撃であの巨大なダゴンを一刀両断した力。
明瞭さを取り戻した思考で考えてみれば、目の前のこの背中がいかに異相な人物のものであるかが伺える。
ξ゚听)ξ「あの、助けて下さって有難うございます。あのままじゃ、間違いなく私は死んでいました……」
(’e’)「いえ、お気になさらず。人類を救うのが私の役目ですから」
ξ゚听)ξ「…あの、それで、そんな命の恩人のあなたにこんな事聞くのも失礼かも知れませんが……あなたは一体何者なんですか?」
ツンの問いに、男の歩みが止まった。
(’e’)「……」
ξ゚听)ξ「見たところ軍の方では無いように見えるんですが……宜しければ、身分証を見せて下さいませんか?」
思案気に俯いた男。
言うべきか否か、迷っているのだろう。
その姿に、ツンの疑惑は更に大きくなった。
- 7: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:04:01.44 ID:zdWc6QlQO
- ξ゚听)ξ「あの、こんな事を言うのは本当に心苦しいんですが、私も素性の知れない方について行くというのはちょっと……」
(’e’)「……」
不穏な空気。
押し黙ったままの男。
ツンの背筋を緊張が走る。
一体彼は何者か。
先に助けてくれたとは言え、これからどうなるのかはわからない。
もしかしたら、次の刹那には男はそのチャクラムを持って踊りかかってくるかも知れないのだ。
そう考えると、油断できない。
- 10: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:05:08.84 ID:zdWc6QlQO
- 逃げ出すべきか。
戦標の一瞬。
突如、間の抜けた電子音が空気を弛緩させた。
(’e’)「……」
音源は男の懐。
彼は黙って懐から携帯通信機を取り出すと、耳に当てた。
(’e’)「ロマネスク様……すいません、ビコーズは見失いました。……なんですか?……」
ξ゚听)ξ「……」
(’e’)「“無貌の園”に侵入者…お言葉ですが、あそこは既に重要では無いのでは?……大学生が一人と……なんですとっ!……分かりました、直ぐに向かいます。えぇ、こちらには人質があります」
そこで通信機を切ると、彼はおもむろに振り返った。
- 11: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:06:02.39 ID:zdWc6QlQO
- (’e’)「レディ、急な任務が入りました。そちらを優先させていただきますが、宜しいですか?」
何があったのか。
把握など出来ない。
出来るわけがない。
ξ;゚听)ξ「へっ?あ、はい、どうぞ……」
流されるままに頷いたツン。
(’e’)「では、失礼します」
その鳩尾を鈍い痛みが襲い。
ξ;゚听)ξ「━━っ!」
彼女の意識は闇に落ちていった。
- 13: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:07:22.06 ID:zdWc6QlQO
- ━━空を駆ける一条の黒光が、兵士達を湧かせた。
「救世主様!救世主様だ!」
「やった!神は…神はオレ達を見捨ててなんかいなかった!」
「万歳!ドクオ様万歳!」
神話の時代より息づく邪神とその下僕。
ニーソクの街を跳梁する化け物達を、黒光は時には薙払い、時には爆殺しながら進む。
暗雲を切り払い、救いの光条を放つそれはまさしく“救世主”。
伝説に謡われる、ダークメサイアそのものだった。
ノパ听)「ドクオ……帰ってきた…やっぱり帰ってきた!」
少女は両手のヘビーマシンガンを投げ捨てると、空を仰ぎ叫ぶ。
ノハ*゚听)「遅過ぎんだよ馬鹿たれぇ!今までどこほっつき歩いてたんだぁぁ!」
その声は果たして彼に届いたのか。
黒光は曇天に弧を描くと、一瞬一際明るく明滅し、再び化け物の群れへと飛び込んでいった。
ノハ*゚听)「へへっ……待たせやがって。紳士失格だぜ」
緩んだ頬をそのままに、再び彼女は銃を取ると周りの兵士達を振り返る。
- 14: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:08:30.27 ID:zdWc6QlQO
- ノパ听)「よっしゃあぁぁ、やる気が出て来たぜぇぇ!てめぇら、ドクオに続けぇ!人類様のしぶとさを、化け物共に思い知らせてやるんだぁぁ!!」
応!
兵士の波が、勇みどよめいた。
━━━━
( ;´_ゝ`)「ドク、オ……帰ってきたのか」
救世主の帰還に鼓舞された兵士達が銃を取る中、兄者はぼんやりと空を見上げていた。
( ´_ゝ`)「やれやれ……流石だよな、救世主様。あんたが戻ってきたってだけで、腰抜け共が粋がってやがる」
皮肉気に口の端を釣り上げ、銃を下ろす。
( ´_ゝ`)「やっぱり、隊長はお前さんみたいだな。器が違うね。その才能に嫉妬、だぜ」
それは自嘲か?
その割に嬉しげな彼の肩を、片割れが叩く。
(´<_` )「何を言ってるんだ兄者。オレ達の隊長はあいつ何かじゃないさ」
( ´_ゝ`)「弟者……」
時間にして半日。
たったそれだけの時間離れていただけなのに、兄者はこの再会に莫大な安心感を得た。
(´<_` )「オレ達地を這う兵隊さん方の隊長は兄者だ。兄者の指揮無しじゃ戦えねえ」
( ´_ゝ`)「お前……」
- 15: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:09:44.05 ID:zdWc6QlQO
- (´<_` )「さぁ、命令してくれ。次の獲物はどいつだ?」
その言葉、それが救い、それが自信となり、兄者の喉を震わす。
( ´_ゝ`)「いいか皆、よーく聞け!これよりオレ達は救世主殿の援護に徹する!お前達の命は全てドクオ殿に捧げろ!
死にたくない奴は引っ込んでろ!そんな腰抜けはここには要らん!全軍、ドクオ殿に続いてニーソク中心部へ前進!死力を尽くしてドクオ殿の活路を開け!」
誰も拒む者はいない。
その瞬間、彼は確かに皆の「隊長」であった。
- 16: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:10:20.51 ID:zdWc6QlQO
- ━━背に壁が当たり、モナーは退路が存在しない事を実感した。
( ;´∀`)「……これは、案外にヤバいかもわからんモナね」
崩れたビルの壁面を背にして展開する、彼の私設部隊「ベルセルク」。
総勢二十名の精鋭達の内、未だ銃を握り地に立っているのはたったの五人。
彼等を取り囲むは、おぞましい悪鬼の群。
未来は、急激な速度で“死”とシンクロしつつあった。
(;θμθ)「モナー様、これ以上は保ちません!ここは引きましょう!」
忠臣の内の一人が、空になったヘビーマシンガンを投げ捨てながら、悲痛な声を上げる。
- 17: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:11:57.89 ID:zdWc6QlQO
- (;θμθ)「モナー様はモナー財閥の頭…こんな所で死んでいいお方ではありません!さぁ、ここは我々に任せて……」
( #´∀`)「だまっらっしゃい!財閥ぅ?世界が滅びるかどうかの瀬戸際に何を言ってるんだモナ!」
(;θμθ)「しかし……」
( #´∀`)「いいかモナ、僕はモナー財閥の頭だモナ。僕が正しいモナ。僕がお前達の全てで、神だモナ。
その僕が引かないと言っているのだから、お前達はそれに従えばいいモナ!ほら弾幕薄いモナよ!何やってるモナ!」
何があったのか。
いつもなら、こんな時真っ先に火の粉の外へと逃げ出す筈の、我らが主らしくもない言葉。
忠臣達は首を捻った。
しかし、主は主、忠誠を誓った王。
彼らが思う所はただ一つ。命に代えても、主を守る事。
(;θμθ)「りょ、了解しました!」
銃を構え、修羅となる忠臣達。
その上空を飛びすぎる黒き閃光を見上げて、モナーは不適に笑う。
( ´∀`)「モナ美、見ていてくれモナ……。パパは、今日初めて他人の為になることを成すモナよ」
バイザーを下ろし、対物ライフルを握る。
生き残ったら、家紋を雄々しい獅子の横顔にしよう。
そう、心に決めて。
- 20: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:13:17.84 ID:zdWc6QlQO
- ━━壊滅した、イージス部隊。
その生き残りを引き連れて、オワタは絶望の逃げ道を走っていた。
\(^o^)/「いいか……お前等は絶対に死なさん、絶対に死なさんからな……」
何故だろうか。
化け物に蹂躙され、為す術もなく地に伏していく新兵達を見たとき、彼は直ぐに撤退を指示した。
彼らしくもない、弱気な判断。
いつもなら、死ぬまで闘って、死んでから逃げろなどと激を飛ばすのに。
どうしてか、今回ばかりはオワタは鬼となれなかった。
\(^o^)/「お前等は殺させん……お前等は、殺させん……私の部隊だ……私の…私の…」
譫言のように繰り返しながら、銃を杖にして歩くオワタの胸には巨大な爪で抉られた傷口。
歩いていることも、立っていることすらも出来ぬ筈の負傷を負いながらも新兵達の先頭を行くオワタ。
(兵;'¢')「軍曹殿!もう休みましょう!お体が保ちませんよ!」
(兵;`@´)「そうです軍曹殿!我々の事はもういいのです!逃げ切る事など出来ません!もう諦めましょう!」
\(^o^)/「馬鹿者!諦めたらそこで試合終了だとパパから聞かなかったのか?それともお前のパパは、スラムダンクも読まない学無しか?」
- 21: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:14:39.74 ID:zdWc6QlQO
- 「「「しかし軍曹殿!」」」
オワタの身を気遣い抗議の声を上げる新兵達。
\(;^o^)/「しかしもかかしもな……」
それに一喝を加えようと口を開けたオワタは、しかし、二の句を継げないままによろめき地に伏した。
「「「軍曹殿!」」」
駆け寄る新兵達。
三十余人の雛鳥が彼を囲む中、オワタはぽつりぽつりと語る。
\(;^o^)/「お前達は…まだ若い…こんな所で死ぬには…まだ、若すぎる……お前達は、私達の希望なのだ。
死ぬのは、老いぼれだけで充分……老いぼれが死のうと、若者がおれば、希望は無くならない…からな……」
吐血。
(兵;@ゝ@)「軍曹殿!」
\(^o^)/「いいか、よく聞け……。お前達は…生き残る。生き残って、我々死んでいった者達の…想いを、後生に…語り継ぐのだ。
……戦わなくともいい…ただ、語り継ぐだけで…いい。勝手かも知れんが…そうやって、歴史は紡がれる……」
\(;^o^)/「生き残って…お前達のガキに…教えてやれ…この闘いがあった事を…いけ好かない…クソ爺が居た事を…」
吐血。
(兵;'々`)「軍曹殿!?」
- 23: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:16:45.60 ID:zdWc6QlQO
- 霞む視界。
遠くなる新兵達の声。
ゆっくりと、閉じられる瞼。
それが、完全に世界を覆う寸前。
オワタは、空を駆ける一条の黒光を見る。
\(-o^)/「あれは……」
薄れ行く意識にも、それが希望の光である事が、オワタにはわかった。
\( u )/「救世主殿…後は…頼んだ…ぞ……」
「「「軍曹殿ぉぉぉお!!」」」
雛鳥達の慟哭。
そんな中、オワタは唇に笑みを湛えたまま、逝った。
- 26: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:17:18.17 ID:zdWc6QlQO
- ━━潰えたかにみえた希望。
絶望に沈むかと思われた命。
それらは、今ではこのニーソクの地にかけらすら見当たらない。
兵士達の誰もが再び銃を取り、救世主に続くように仇敵へと牙を剥く。
港で、倉庫街で、メインストリートで、路地裏で、倒壊したビルの影で。
雄々しく吠え、華々しく咲くは逆襲の花。
そんな中、前線に立つ兵士達を支援する役目に居る筈のしぃは、ニーソクのメインストリートをギアも着けずに疾走していた。
(;゚ー゚)「はぁ…はぁ…来てくれた…来てくれた……」
- 27: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:18:49.09 ID:zdWc6QlQO
- 『お、おいしぃ!お前何をやって……』
ヘッドセットから聞こえる同僚の声。
立場だとか、義務だとかは、今は鬱陶しいものでしかない。
(;゚ー゚)「ドクオ…さん……待って、待って……」
ヘッドセットをかなぐり捨て、無我夢中で駆け抜ける。
空に輝く黒き星。それを目指して、それを追ってひたすらに、闇雲に、しぃは走る。
(*゚ー゚)「私…まだ…はぁ…はぁ…伝えなきゃいけない事が…ある、の……」
(*゚ー゚)「ドクオさんに…伝えなきゃ…いけない…事が……」
(;゚ー゚)「ドクオさん……!」
差し伸ばした手は、空高く。
ニーソクの雲はまだ、晴れる兆しを見せていなかった。
- 28: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:19:21.76 ID:zdWc6QlQO
- ━━光の洪水が収まり、空間を渡る風が凪いだのがわかり、クーは目を開く。
同時、今まで瞼の裏に閉じ込めていた滴が流れ落ちた。
川 ; -;)「……ショ、ボ…」
やっと再会出来た。
もう会う事も無いと思っていた。
束の間の希望はしかし、余りにも短い夢の残照となり、掌から零れて無くなった。
川 ; -;)「…ぅ…ぅぁあ……」
- 29: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:20:39.51 ID:zdWc6QlQO
- 愛してる。
最後に彼が残した言葉を思い出す。
川 ; -;)「そんな…残酷な言葉……」
どうして。
どうしてあんな言葉を残すのか。
クーの事は全部知っていると言っていたショボン。
それなら。それなら自分のこの気持ちも知っている筈。
それなのに。
川 ; -;)「私は…私はどうしたらいいんだ……私はどうしたらいいのだ!!」
癇癪持ちのように叫ぶ。
解らない。自分が何を為すべきなのかだとか、自分はどうして今ここに立っているのかだとか、何もかもがもう解らなくなっていた。
川 ; -;)「…どうして…どうして君はあんな事を言ったんだ。……当て付けか?突然君達の前から姿を消した私への当て付けなのか!?」
地にへたり込み、足元の砂利を握り締める。
川 ; -;)「ははは……私も、弱くなったものだな。五千年も生きて、成長するどころか心は軟弱な小娘に成り果ててしまっただと…傑作だな」
歯を噛み締める。
川 ; -;)「せめてもう一度会えたなら……君が生きていたなら、こんなに苦しみはしないものを……クソッ!」
握った砂利を、どこへともなく投げ捨てる。
- 31: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:23:17.20 ID:zdWc6QlQO
- 砂利は放物線を描き、水たまりへ落ち水面の静寂を乱した。
川 ; -;)「君の気持ちには……応えられ…ないんだ……」
そのさざ波が落ち着き、水面が水鏡の役割を取り戻した時、彼女はそこに一つの影を見出す。
川 ; -;)「……あれ、は?」
空を映し出す水鏡。
それを駆け抜ける、黒い閃光。
はっとなり、空を見上げれば、そこには邪神をほふる英雄。
川 ; -;)「オリジン……!?」
口をついて出たその名前。
それこそが、彼女が求めたモノ。
彼女がこの地に立つ理由。
川 ; -;)「オリジン……そうだ、オリジンだ…」
ふらふらと立ち上がる。
未だ混乱した胸の中、それでも彼女は黒き光を追うべく足を踏み出した。
とにかく、全てを終わらせる。その一心で。
- 33: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:24:33.30 ID:zdWc6QlQO
- ━━ビヤーキー、宙舞う腐乱死体。
その横面が、湿った音を立てて爆裂した。
('A`)「ギャーギャー喚くんじゃあない、鬱陶しい」
裏拳に突き出した右腕の慣性に身を任せ、上半身を回転。
振り返ると同時、開いた左掌を正面の夜鬼の顔面へと叩きつける。
('A`)「目障りだ、死ね」
左掌蹄が触れる瞬間、夜鬼の顔面が破裂。
管制を失った夜鬼は、地面へ向かって最後の紐無しバンジーを決行した。
('A`)「ったく…どいつもこいつも……」
地上五百メートルに漂うドクオ。
周りには夜鬼やビヤーキー、その他諸々の群れが舞い飛んでいる。
先程まで威勢良く滑空していた軍の戦闘機やヘリは、一つも見当たらない。
まさに四面楚歌、孤立無援。
そんな中、制空権を保ち続けるドクオの力は一騎当千、エーシズハイの境地か。
ハインリッヒが最後にドクオに残したモノ。
それが今のドクオに、予想以上の力を与えているのが彼自身にも分かった。
腕を、脚を振るうだけで魔力は四肢の表面を伝い思うように具現化する。
無詠唱魔術。ドクオがハインリッヒから受け取ったものの一つが、それだった。
- 34: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:25:34.75 ID:zdWc6QlQO
- ('A`)「数だけ一端に揃えやがって……。確かに、オレを苛立たせるっつう点ではお前らの作戦は成功してる」
そして、もう一つのギフト。
それは……。
('A`)「マンドクセエったらありゃしない……っ!?」
不意にドクオの姿勢が崩れる。
見れば、彼の体を深紅の光条が幾重にも貫いているではないか。
だが。
('A`)「ったく……。それが鬱陶しいっていうんだよ、カラス共……がっ!」
蜂の巣になった胴を気にする事もなく、彼は辺りを見回す。
その余裕が、更なる悲劇を招いた。
滑空する夜鬼がドクオの背後に迫り、瞬間、閃いた爪が彼の顔面の右半分を根こそぎ抉りとる。
しかし。
/A`)「……もう、我慢の限界だ。お前ら縦一列に並べ。一匹残らず消し炭にしてやんよ」
何事も無かったように言葉を紡ぐ口。
その口が言葉を紡ぎ終える合間に、赤黒い断面をさらけ出していた傷口の肉が盛り上がり、ドクオの顔面は元通りの形へと修復されていた。
('A`)「さぁて、それじゃあいくぜ、準備はいいか?」
- 35: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:26:35.67 ID:zdWc6QlQO
- もう一つのギフト。それは、この異常なまでの「再生力」だ。
('A`)「準備が出来てなくとも……」
腰だめに構え、眼前の夜鬼の群れを見据え。
(#'A`)「知ったこっちゃねぇがな!」
空を蹴り飛び出し、黒光となり、突入。
光に接触した夜鬼は、ただ一つの例外も出さず、黒炎に包まれ地に落ちる。
('A`)「燃えろ、燃えて炭になれ。下らない貴様らの生の終幕には、勿体無いぐらいの栄誉だがな」
空の魔物を圧倒するその姿は、さながら極小の隕石か。
夜鬼を蹂躙し尽くした救世主は、その勢いのままにニーソクの中心街を目指す。
('A`)「お次は神様、あんただ」
皮肉気に吐き捨てたドクオの視線の先、屹立するのは巨大な蛆の塊。
高層ビルを超越する熊とも牛ともつかない獣のシルエット。
腐敗と貪爛の化身、ベルゲルド。
以前、基地の映像記録で観た蛆の固まりは、様相を変えずにニーソクの地に顕現していた。
('A`)「あんた確か、核弾頭を積んだ巡航ミサイル四発でも止まらなかったそうだが、オレの一撃ではどうかな?」
- 37: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:27:37.69 ID:zdWc6QlQO
- 旧友に話し掛けるような口振りのドクオ。
彼が掲げた両掌に黒光が収束し始めると同時、腐敗の王は意志無き濁った目を救世主へと向けた。
咆哮。
大気を震わす不吉な大穴。そこから漏れ出るは死体が醸す土の臭い。
('A`)「臭い口開けやがって。今すぐブレスケアしな。女に嫌われるぞ。……最も」
顔をしかめながら、両掌を振りかぶる。
('A`)「オレにはあんたが馬鹿みたいに大口開けてくれてるほうが、やりやすいがな」
振り下ろす両掌。
放り投げたのは、巨大な黒炎、その球塊。
それはドクオの言葉通りベルゲルドの口腔内へと吸い込まれ。
('A`)「特大の臭い消しだ。これでデートの時も安心だな」
轟音。
爆轟。
かつて触手の王ディルゴムを葬った時の、その数十倍にも及ぶ爆発は、ともすれば次元に罅を入れる程に凄まじかった。
後には何も残らない。
灰も、塵も残さず。
ベルゲルドがそこに居た証は、擂り鉢状に抉れた地面のみ。
そこへ、暗黒の救世主がゆったりと降り立つ。
- 39: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:30:16.43 ID:zdWc6QlQO
- ('A`)「さて。それじゃあ本題に取りかかろうか」
ニーソクに入ってからこっち、彼の第六感は異常なまでにドクオを駆り立て、ある一つの命令を騒ぎ立てていた。
ニーソクの中心街、その高く聳える時計台の下へと向かえ。
誰から言われたでも無い。ただ本能が、直感が、ドクオの身の舵を取り、この地、時計台の下へと彼の身を誘った。
そして、そこに何があるのか。
朧気ながらに彼は解っている。
本能が告げる仇敵。今までのどの邪神よりも、禍々しい気配。
('A`)「居るんだろう?出てこいよ」
虚空への呼びかけ。
「それではお言葉に甘えて」
だが、応えたのは、彼の望まざる者だった。
('A`)「……」
( ФωФ)「ごきげんよう、救世主殿。お初にお目にかかります」
ドクオの眼前、擂り鉢状の大穴の淵ギリギリに聳えるは、魔物の襲撃の中にも未だその威厳を持って天を突く時計台。
その陰から現れたのは男。
毒々しい蒼のローブを着込んだ初老の男は、ぎらついた目をドクオへと向けた。
- 43: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:32:25.42 ID:zdWc6QlQO
- ('A`)「お前はお呼びじゃないんだがな」
( ФωФ)「あなたに用が無くとも我々には大事な用がありましてねぇ」
('A`)「その用事は長くなりそうか?こっちは急いでいるのだが」
( ФωФ)「まぁまぁ、そう言わず、年寄りの話に耳を傾けてやって下さいな」
('A`)「……」
皺だらけの顔に、そこだけ精気の漲った眼が光る男。
奇怪なローブの形から、先に消し炭にしたあの男の仲間であることがドクオには伺えた。
- 44: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:32:54.22 ID:zdWc6QlQO
- ( ФωФ)「先ずは私の自己紹介から」
('A`)「これから死にいくお前にそんなものはいらん」
ドクオの減らず口をも意に介さず、男は続ける。
( ФωФ)「私は“エデン”の五賢人の長、ロマネスク。これでも人類の救済を望む者の一人です」
('A`)「その割には随分と悪人面に見えるがな」
( ФωФ)「ほほほ、面白いお方だ。この顔は生まれつきです」
('A`)「……で、用ってのは何だ?」
( ФωФ)「あなたのお迎えに上がったのですよ、救世主様……いえ、“門”のオリジン様」
迎えに着た。
その言葉に、ドクオの脳の奥深くに閉まってあった言葉がオーバーラップする。
- 46: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:34:10.56 ID:zdWc6QlQO
- (’e’)『あなたが、完全に力と記憶を取り戻した暁には、私どもがお迎えにあがります。我々と一緒に、新しい時代を築こうではありませんか』
力と記憶を取り戻したら。
まさに、今の状況にぴったりと符合する。
新しい時代を築く。彼等と共に歩む道の先に待っているもの。
それは果たしてドクオに取って価値有るものなのか。今は何もわからない。
('A`)「つまり、お前が“魔術師の末裔”ってやつなのか?」
ドクオの問いに、ゆっくりと頷きを返すロマネスク。
それが、彼の決断を決定的なものにした。
('A`)「必要、無いな」
( ФωФ)「……何故、でしょうか?」
ロマネスクは、ドクオの拒絶にも動揺を見せずにただ問う。
('A`)「単純だ。お前達が魔術師の末裔なら、オレはお前達の先祖に裏切られ、封印された事になる。そんな奴らの子孫を、誰が信じられる。笑わせるな」
( ФωФ)「なる程。それは確かに……その事については、私が先祖に変わって非礼を詫びましょう」
('A`)「知ったことか」
- 47: ◆cnH487U/EY :2008/04/03(木) 01:35:39.01 ID:zdWc6QlQO
- ( ФωФ)「オリジン様、そう頑なになられないで下され。あなたも、人類の救済を望んでおられるのでしょう?
ならば、我々が手を結ぶ事のどこにおかしな所がございましょうか?」
差し出された手。
じっとこちらを見つめる双眸。
それに拒絶の意を示そうとドクオが口を開きかけた刹那。
「オリジン!」
彼の背後で、懐かしい声がした。
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