('A`)はダークヒーローのようです

5: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:34:55.27 ID:fN7IzB6qO
第四十一話 意味

━━十字架だった。林立する十字架だった。
いや、墓標だろうか。いや、棺桶だろうか。

あぁ、試験管か。

( ^ω^)「……」

失う言葉が無い自分が、言葉を紡がぬは必定。
しかし、唐突性をもった沈黙がそれには確かに相応しかった。

「変わって…無いわね」

故郷を望み、“声”は何を思うのか。
出来るなら戻ってきたくは無かったと言っていた彼女は、今、何を思うのか。



6: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:35:25.40 ID:fN7IzB6qO
( ^ω^)「……ここで、何が?」

行われていたのか。

疑問は晴らす為に有るならば、それが最も美しいあり方だろう。
彼女もその考えには賛成であった。

「……ジーザスプロジェクト」

一介の学生には耳慣れない響き。

( ^ω^)「それは…?」

「人の力で救世主を作り出そう…そう考えた学者が居たわ」

回想するように、“声”は詠った。

「それはまだ、ほんの一昔前……人類の終焉とまで思われていた戦の最中の事」



8: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:36:44.82 ID:fN7IzB6qO
「億に昇る悪鬼と邪神の群と、矮小な人間が争った戦い」

( ^ω^)「ああ……」

「後にシベリア戦役と呼ばれる戦いに、生有るものは皆が皆絶望していた」

「それは勝ち目の無い戦。死は隣人であり、日常。救いの無い時代」

「だから、求められていたものを彼らは提供したかった。ただ、救いたかった。誰をとは愚問。全てを救うためにその計画は練り上げられた。初めのうちは」

( ^ω^)「……うん」



9: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:37:12.76 ID:fN7IzB6qO
「魔術師達が居た。彼等はそこいらの凡人を連れてきて、体に細工をした。俗っぽく言えば、強化人間を作り出すつもりだった」

( ^ω^)「それは、ひ……」

「非道い、とは言わせないわ。十を救うのに一が切り捨てられるのは当たり前過ぎる事でしょう」

( ^ω^)「……」

「ねぇ?そうでしょう?」

( ^ω^)「…否定は、しないお」

「話を戻すわね。結果から言えば、それは成功しなかった。何故って、たかが魔術強化によって作り出されたモノが、邪神にかなう筈が無いじゃない。芋虫じゃ勝ち目が無いからって蝶になろうと、人間は蝶の羽根をもげない訳が無い」



11: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:38:29.34 ID:fN7IzB6qO
「より強い素体が必要だった。彼等が継承する魔術では超えられ無い、天の向こうに座するモノでなければ邪神には対抗出来ない、と」

( ^ω^)「それは……」

「偶然か、必然か。彼等は望むモノを手に入れた。小さな悲劇の始まりとは彼等は知らなかった」

「手に入れたのはミイラ。五千年前、伝説の救世主と敵対した亜人『マリアの子』の、完全な状態のミイラ。それを彼等は、どこぞの遺跡から見つけてきた」



12: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:39:09.12 ID:fN7IzB6qO
「彼等は喜んだ。これを復活させれば、世は大安。死は遠退くと。何も考えず、ミイラをいじくり回した」

「思わぬ事が判明したのはすぐのことだった。ミイラが、ともすれば彼等が御伽噺に聞いた神の世界の扉を開きうる力を持っているのがわかった」

( ^ω^)「……あ」

「かつて、世界を救った魔術師達は人を信じられなかった故、救世主を封印した。その血がそうさせたのか。先見の明という思い込みで、彼等は新たな志を打ち立てる」

「真の人類の救い。新たな次元への旅立ち」

( ^ω^)「それが……」

「エデン誕生の瞬間よ」



13: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:40:28.78 ID:fN7IzB6qO
「完全な存在は肉体を必要とはしない。何故なら、完全なモノにはその先が無いから」

( ^ω^)「肉体があるのは、その先へ進む為…かお?」

「そうね。素より、先なんて何処にも無いけれど。不完全なものはどうあっても完全になれない。進んでいると思えるのはただの錯覚か、あるいは進む先が死であるというだけ」

( ^ω^)「じゃあ……どうして、僕らは生きてるんだお?」



14: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:41:06.11 ID:fN7IzB6qO
「さぁ、知らないわ、そんな下らない事。そんなものに意味なんて無いし、必要なら勝手に各々が代用品を作ればいいだけの話。手っ取り早いのは宗教じゃないかしら」

( ;^ω^)「……」

「話を逸らさないで。私が語るべきは歴史にして哲学には非ず。続けてもいいかしら?」

( ^ω^)「…うん」

「時間が無いから駆け足でいくわ。彼等の第二の計画は、やはり失敗に終わった」

( ^ω^)「必然、だお」

「ええ、必然ね。不完全なものに完全なものを再現するなんて不可能だった。猿真似は猿真似のまま、見苦しい大鋸屑を撒き散らしただけに終わった」

( ^ω^)「大鋸屑……」



15: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:42:31.43 ID:fN7IzB6qO
その言葉に、彼が抱いたのは悲しみ……だったろうか。
改めて、周囲に林立する試験管の「中身」を見渡す。

ミ,, _ 彡「」

( e )「」

( _ )「」

ホルマリンだかなんだかは知らぬ。
名称はこの際重要では無い。
二メートル弱の試験管の中、満たされた液体の中、漂うは強化人間と呼ばれたかつての勇者達。

勇気有る者を勇者と言うならば、魔術師の手のひらに身を捧げた彼等は間違いなく勇者だ。



16: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:43:01.52 ID:fN7IzB6qO
彼等は知らない。
自らの犠牲の上に足を得た彼等の兄弟達が、「地上」という名の地獄を歩んでいた事を。
「聖騎士団」と呼ばれ、迷い路を歩んでいた事を。

そして、その末路を。……彼等は知らない。

何故なら、不完全の中でも飛び抜けて失敗作であった彼等に、空気は呼吸する事を許さなかったのだから。

「ブーン…?」

( ^ω^)「……お?」

そして、彼もそれは知らない。
彼女は知っている。
だが、言葉にはすまい。
その事実が、残酷だと知っているから。



17: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:44:02.85 ID:fN7IzB6qO
「大鋸屑、よ」

その一言で、彼は失敗作達から目を外す。
大鋸屑とは、勇者達の事では無い。それよりはまだましな方、を言うのだろう。
ならば、大鋸屑以下の彼等は何なのか。
感傷が湧き上がりそうになるのを、彼は必死で堪えた。

( ^ω^)「大鋸屑、かお」

「ええ、大鋸屑よ。出来損ないの人形はそれ以上には成り得ない。彼等が望んだ神の力を、大鋸屑は持ち得なかった。
戦いの道具としても機能しない、無駄な存在。まさに失敗作。ここは、そんな失敗作の投棄場よ」



18: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:44:38.07 ID:fN7IzB6qO
投棄場。
その言葉は、妙にこの場に馴染んだ。
墓とは死者を埋葬する場所。ならば、死してもおらず生きてもいないモノを投げおいておくここは、まさに投棄場であろう。

「そして、その中でも一際彼等が希望を抱き、それでいて一番役に立たなかった失敗作」

( ^ω^)「それが、あんたかお……」

否定する素振りが無いのは、肯定か。
淡々とした言い回しに自虐的な響きがあれば、それは予想のつく事。



20: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:45:42.41 ID:fN7IzB6qO
「私は、彼等が目指した神の国の門を開ける筈だった。何が足りなかったのかはわからない。いえ、何もかもが不足していたのでしょう。
 当然の結果ね。洗礼を受けたとはいえ、ただの人の身であった私を素体にしたところで、何が出来る訳でもないでしょうに……」

( ^ω^)「ん?ちょっと待つお。…ただの、“人の身”?」

「……ああ、ごめんなさい。感情的になって説明の順番を間違えたわ。五賢人が『マリアの子』のミイラから作り上げたのは、ご覧の通り戦闘に特化する筈だった出来損ない。こいつらよ」



21: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:46:25.89 ID:fN7IzB6qO
( ^ω^)「じゃあ、あんたは?」

「……」

そこで、声は沈黙する。
何を今更躊躇うのだろうか。
ここまで来たのなら、全てを打ち明けるのが最も美しいことの筈。
なれど、口ごもるはやはり彼女も人の子だからか。

( ^ω^)「……別に、言いたくなければ…」

それでもいい、自分には関係の無い事だから。
そう言いかけた言葉は、彼女の凛とした声に遮られた。

「いいえ、なんら問題ないわ。わかりました、いいでしょう。私は……」



22: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:47:50.39 ID:fN7IzB6qO
そして、その言葉もまた、新たな影の登場で遮られる。

(’e’)「……やれやれ、計画の完了段階においてまさかここが狙われるとはな。全く、歴史はいつもそうだ。肝心な時に邪魔が入る」

試験管の森、その入り口の扉。
薄暗い非常電光の下、巨大なチャクラムを背負ってそいつは立っていた。

( ;^ω^)「あ、あんた何者だお!?」



23: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:48:16.93 ID:fN7IzB6qO
死を覚悟した筈の少年の声が震える。
直感が告げていた。奴は人外だ、と告げていた。
故に、死とは別のところで彼は畏怖に震える。

(’e’)「…おや、相棒からはまだ何も聞いていないのかな?」

おかしげに眉尻を下げ、男は嘲笑う。

(’e’)「私は、君の隣に居る彼等の兄弟だ」

「聖騎士様、ね。今更何をしに現れたのかしら。ここはご覧の通り、ただのゴミ捨て場よ。そんな所に、ご多忙なあなた方が用があるとは思えないけれど」

(’e’)「それはあなたも同じであろう。用があるから訪れる」

「最もね。……それで、用とは?」



24: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:49:30.63 ID:fN7IzB6qO
チャクラムを携えた乱入者は、まるで“声”の主の姿が見えるとでもばかりに会話を進める。

( ;^ω^)「……」

その進行に、割って入る事が出来ぬと悟り、少年は歯がゆさに奥歯を噛み締めた。

(’e’)「ゴミ捨て場でする事とくれば決まっている。ゴミの回収だよ」

「あら、ゴミの回収って言ったってここには再利用出来るものなんて無いんじゃ無くて?」

(’e’)「ああ。だから唯一動くモノだけでも持っていかねばなるまい。そうであろ?」



25: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:50:30.73 ID:fN7IzB6qO
「……つまり、私の事かしら?」

(’e’)「物分かりが良くて助かる。失敗作と言えど、その程度の知恵は有るようだな」

「馬鹿げた事を。あなたは、私を回収すると今言ったのかしら?そんなもの……」

(’e’)「無駄、だと言い切れるのかね?」

「ええ。私は肉体を持たぬ思念。いくら失敗作とは言え、それをあなたがどうこう出来るのかしら、『贋作』さん」

(’e’)「…確かに贋作であろうよ。その言葉、否定はせぬが……これを見れば、先の考えは改めざるを得なくなるだろう」



26: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:51:33.32 ID:fN7IzB6qO
思わせぶりに笑う男。
そのローブがゆっくりとめくられ、下に覆い隠されていたモノが姿を表した時。今まで会話の外に居た少年は声を上げずには居られなかった。

( ;^ω^)「ツン!」

ξ )ξ「……」

何故?
どうして?
わからない。わからない。わからない。
彼女がここに居るはずは無い。
理解不能理解不能理解不能。
脳の許容量をオーバーした出来事に、四肢は弾けたように動き出す。



27: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:52:04.37 ID:fN7IzB6qO
( ;^ω^)「ツン!」

脳の制御を離れた肉体は、真っ直ぐに想い人の下へと飛び出し。

「ダメ!」

(’e’)「おっと、動かないでいただきたい」

命令違反の代償として、流麗な斬撃を一身に浴びる事となった。

( ;゚ω゚)「ぎぃっ!?」

花弁の如く、舞飛ぶ血飛沫。
振るわれた凶器は亜音速。
人の身でそれを避けるのが不可能ならば、それが必殺でなくて何だと言うのか。

( ;゚ω゚)「ああががが……」

だから、彼が呼吸を許されたのもひとえには神の気紛れ故。
否、神の思惑故に彼は生き延びた。



28: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:53:13.87 ID:fN7IzB6qO
(’e’)「どうやらこの少女は彼にとって随分と大切な御仁らしい。ならば丁重に扱いたいものであるが……そこのところはあなた方次第、と言ったところですな」

優しげな面に酷薄な笑みを浮かべる聖騎士。
それは似合わぬ筈の表情の筈なのに、おぞけが立つほどにしっくり来て。

( ;゚ω゚)「…っはぁ…はぁ」

少年の足を竦ませるのに効果を上げた。



29: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:53:39.50 ID:fN7IzB6qO
(’e’)「あなた方が何を企んでいたのかは概ね判る。おおかた、ここを爆破して実験体共の思念体を解放しようとでも企んでいたのでしょう。
 ですが、そんな馬鹿げた事はさせられません。君が動けば私はこの少女の首を跳ねる。そして思念体である“あなた”は現実への干渉能力を持たない。私の言わんとしている事はもうお分かりですかな?」

「詰み……だと。そう言いたいのでしょう」

苦虫を噛み潰して、声は呟く。

(’e’)「えぇ、そういう事です。実体が無いあなたをどうこうする術は私に無い。ですから、あなた方にはここで全てが終わるまでしばし静観していて頂きたい」



30: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:55:02.04 ID:fN7IzB6qO
( ;゚ω゚)「くっ…ぐっ……」

(’e’)「御安心を。全てが終われば、この少女の命も救われる。あなた達の命も救われる。どうです?ここで無闇に動いて全員仲良く首が飛ぶよりも、ずっと建設的でしょう」

全てが終わった後。つまりは終局。
それが何を意味するかを、少年は知っている。

魂の救済。肉体からの解放。新たな世界への旅立ち。

道中、“声”が彼に語った『エデン』唯一にして絶対の目的。
本当にそんな事が可能なのか。眉唾ものの理想。
だが、生き証人が傍らで言葉を紡いでいる以上、それは何も不可能では無いことがわかる。



31: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:55:29.77 ID:fN7IzB6qO
そしてそれが達成されたならば、自分たちはどうなってしまうのか。

(’e’)「悪い事など何一つ有りません。私は、それこそが全人類にとっての幸福だと断言出来る」

(  ω )「……」

本当にそうなのか。
肉体が無くなって、争いが無くなって、欲望が無くなって。
本当にそれで自分は幸せなのか。本当にそれで人間は救われるのか。

(  ω )「……いお」

(’e’)「?」



32: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:56:21.67 ID:fN7IzB6qO
(  ω )「……ないお」

(’e’)「何が言いたいのです?」



( #゚ω゚)「そ ん な わ け な い お !」



地が、揺れた。



33: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:57:25.21 ID:fN7IzB6qO
━━同じ存在。それはどんな存在?

('A`)「同じ存在……」

( ФωФ)「そう、同じ存在です」

同じ存在。それは誰と同じ?

( ФωФ)「あなた達と、同じ存在です」

自分と同じ存在?それはどういう事なのか。

( ФωФ)「わかりませんか、オリジン殿。同じ存在です」

五月蝿い。分かっている。同じ存在であろう。

それはつまり。



34: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:57:58.68 ID:fN7IzB6qO
(;'A`)「全人類が思念体……になるって事か」

ハインリッヒとの最後の語らいで聞かされた、自らの出自。

全てを超越したモノ。

完全無欠の絶対的存在。

其の身を支える脚を持たずとも世界を渡り、其の意志を実現する腕を持たずとも世界を動かす。

其は無にして有。無形にして全ての有形の起源。

故にオリジン。

宇宙開闢の原発の混沌より先に既に存在していた、起源の意思。

彼等が何故誕生したのか。知るものはいない。本人達もそれは知らない。

神の悪戯か?いや、彼等こそが“神”なのか?

知るものはいない。



35: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 02:59:05.12 ID:fN7IzB6qO
ただ一つ確実な事。
それは、彼等は宇宙の始まりから“そこ”に居て、宇宙の最後までを見届けても尚滅びぬ存在であるという事。

目的は無く、その存在に意味は無い。

ただ、全ての時間が行き着く先、『時の墓標』で宇宙を見渡すだけ。

故に超越者。

全てを超えたモノにとって、全てに意味は無い。

有るのは持て余した時間と、意味のない思考。そして。

意味の無い力。

宇宙に存在する万物の身を借り、その意思を他の存在に伝える。



36: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:00:26.77 ID:fN7IzB6qO
物質界において其の言葉は力を持ち、呟き一つで奇蹟すら行う。
ならば古来よりこの地に伝わる神が彼等の中の一人であると言われれば頷けるが、結局彼等にとってそれは無意味な事でしか無かった。

何故ならば。

('A`)「完成された存在には、全てが無意味だ」

( ФωФ)「……ほう」

('A`)「完全とは何も欠けたものが無いという事。ならば求めるものは無いし、行動する意味も無い。何故なら、ソレは最早何をしようとソレ以上にも以下にも成り得ないからだ」

( ФωФ)「ふむ、でしょうな」



37: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:02:40.56 ID:fN7IzB6qO
('A`)「だから意味が無い。そんなものが存在する意味なんて無い。不要なものだ」

( ФωФ)「…おやおや、それではあなたはあなた自信を否定するという事ですか」

('A`)「戯れ言を抜かす。オレがオレ自信を否定したところで、今はそんな事はどうだっていい。問題は、貴様が言う全人類を“時の墓標”へと導くというその戯けた夢物語であろう」



38: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:03:53.60 ID:fN7IzB6qO
( ФωФ)「夢物語などでは有りませぬ。今、ここに“鍵”と“門”は揃った。ならば、後は“鍵”を“門”に差し込めば、約束の地への扉は開かれる。そうでありましょう、鍵の姫君?」

ぬらり、と老魔術師の双眸がオンナへと向けられる。

川 ゚ -゚)「……」

オンナは、頷きもしなければ否定もしない。
ただ、真っ直ぐに救世主を見つめるだけ。

('A`)「…だとしても、そんなものは救いになどなりはしない。わからんのか?お前が言う救済は、『人間』という生命の全てを否定する事なのだぞ」

( ФωФ)「私が、人間を否定する?確かにそうかも知れない」



39: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:04:55.80 ID:fN7IzB6qO
くつくつと笑う老魔術師。
しかし、その姿など救世主の目には映らないだろう。

('A`)「人間は“求める生き物”だ。その生涯の全てをかけて何かを求め、進む。その先に望むモノが無かろうと、彼等は進む。
 無意味だらけの宇宙で唯一意味があるのなら、結果を求めない“過程”に生きる彼等こそ、意味の有る存在では無かろうか。いや、断言する。それこそが唯一の“意味”だ」

彼の口が意味有る言葉を残す為、その意識は全てを超えて空を突く。



40: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:05:26.18 ID:fN7IzB6qO
('A`)「少し前までのオレなら、貴様の考えには賛成だったろうさ。人類を救うのに、お前達の計画は最も効率的だからな」

('A`)「だがな、この世に目覚めて下らない人間共と下らない日々を過ごしていくうちに、オレは分かったんだ」

『大切な人間が死んで悲しい…という感覚がわからないんだ』

そう口にしたのは、いつかの自分。
それは感情の有無など関係無く、ただ単純にこの世界に意味を感じていなかったからだろう。
記憶が無かったとは言え、その考えは常に胸の深いところで蟠っていた。



41: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:06:48.44 ID:fN7IzB6qO
('A`)「人間というモノは、何かにつけて無駄な事をしたがる。無意味な寄り道をしたがる。最初はそれを馬鹿げた事だと思っていたがな……。
 気がつけば、オレは無駄な事に頭を悩ませ、無意味なモノに涙を流すようになっていた」

ぽつり、ぽつり、と語る救世主。
その様は、『感情』という器から零れる水の流れを見ているようで。

('A`)「そこで悟った。嗚呼、こいつらの生はあまりに“美しい”と」

誰もが目を奪われるだろうと、予想できた。



42: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:07:38.88 ID:fN7IzB6qO
( ФωФ)「美しい?美しいですと!?あなたは、この欲に汚れきった汚らわしい肉体を美しいと言ったのですか?」

そこへ無粋な油の流れが混じる。

( #ФωФ)「自分の欲望の為なら他者をも顧みぬ。争いに続く争いの果てに、得る物はただの虚しさだけ。
 無意味!まさに無駄と不毛の塊!そんな肉体を持つ人間のどこが美しいというのですか!?」

が。

('A`)「全てだ」

そんな異物など初めから付け入る隙などは無かった。



44: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:08:44.59 ID:fN7IzB6qO
( #ФωФ)「…全て、だと?」

('A`)「欲望の為に他者を犠牲にする。結構だ。人間らしくて潔い。そして他者を踏みつけるのが欲望なら、他者を救うのもまた欲望だ」

その言葉は、それほどまでに美しく。

('A`)「愛。それは、相手を自分のものにしようとする欲望。思いやり。それは自らに見返りを求めるという欲望。欲望こそが、意味を持つ。欲望こそが、最も美しい」

完成されていた。



45: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:09:33.71 ID:fN7IzB6qO
( #ФωФ)「…認めない。何が美しいだ。反吐が出る。欲望の何処が美しい……醜い…醜いだけ。そんなものは汚物だ。唾棄すべき欠陥だ。…認めん。認めんぞ。……そんなものは、掃き溜めにでも捨ててしまうべきものだ!」

肩を震わせ、怒気を漏らし。
声を荒げる老魔術師。

そこへ。
救世主はかつて別の誰かに口にした言葉を、再び告げる。

('A`)「…価値観の相違だ。お前がオレにその怒りをぶつけたところで、オレはお前が望むような返答は出来ない」

そして身をたわめ。

('A`)「……お喋りは、ここまでにしよう」



47: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:11:27.27 ID:fN7IzB6qO
一筋の黒光と化す。
それが、いと短き戦いの合図。

( #ФωФ)「目的、煉獄の想像。自身を支点に半径十メートルに展開、発動っ!」

応戦に回る老魔術師。
翳した両手が導くは、絶命と責め苦を司りし焔。煮えたぎる漆黒の業火。

しかし。



49: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:12:22.37 ID:fN7IzB6qO
('A`)「遅い」

突き進むは光速の更に上を行く救世主。
ナパーム弾の連射如きで、超新星の激突を止める事がどうして出来よう?

( ;ФωФ)「ぬうぅっ!?」

衝突する焔と黒光。薄手のカーテンは焔。結果は明白。勝敗は自明の理。
ならば、と翳された老魔術師の右手。

( ;ФωФ)「目的、自身の生存!発動!」

弾ける閃光。
鍔迫り合いが放つのに相応しい不協和音を上げ、救世主と老魔術師はぶつかり合う。
長い長い拮抗が続く。
人間一人が行使する防御魔術など、救世主にとってはガラス板一枚に過ぎぬ筈。
だがどうした事か、最大最速最強の一撃はみるみるうちにその勢いを殺し、やがて尻切れトンボに終わる。



51: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:14:46.93 ID:fN7IzB6qO
('A`)「……ほう。因果魔術、か」

因果。過程があり結果が有る。それが世の理。
それをねじ曲げ、結果を強制する。そういった出鱈目な魔術を、五千年前に自らが世に伝えたかは定かでは無いが。
目の前の翁がそれを振るったのならば、きっとそうなのだろう。

( ;ФωФ)「…はぁ…はぁ…はぁ…」

自身の生存、と翁は叫んだ。
ならば、翁に何をしようと魔術の効力が続く限り翁が絶命する事は有り得ぬであろう。



52: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:15:19.63 ID:fN7IzB6qO
('A`)「ならば、殺す必要など無い」

そう。無理に殺す必要は無い。
殺せぬならば。

('A`)「もう、動くな」

一言。それが力有る言葉。

( ;ФωФ)「なっ!?」

老魔術師の足元。
隆起するは、大地の枷。
何で出来ているのか定かでない、それは“茨”の形を取り。

( ;ФωФ)「ぎぃやぁぁぁぁあ!?」

否応無しに翁の身を捉えて、そして。
ずぶり、ずぶりと地の獄へと翁を導く。
逃れる術は最早無い。いくら翁が死なぬといえど、やがては魔術の効力も消える。
ならば向かうは同じ、やはり確定したのは死。



56: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:17:21.62 ID:fN7IzB6qO
( ;ФωФ)「あがっ!がぁっ!無駄な事を!なんと無駄な事を!私を殺しても意味は無い!意味は無いのだ救世主!」

であるから。
翁の言葉は負け惜しみであり、遠吠えであり、断末魔である。

( ;ФωФ)「私を殺して邪魔が居なくなったと思っているだろうが、無意味だ!その選択は間違いだ!
 人類は救われ無い!最早人類に残された選択は一つしか無かったのだ!ぎゃぎ!」

筈だった。



59: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:18:18.15 ID:fN7IzB6qO
( ;ФωФ)「お前達でもどうしようも無い!今からでも考え直せ!ああぎゅぃぃ!?“アレ”はっ!“彼女”はっ!貴様らの手にも余るっ!」

('A`)「……何を」

( ;ФωФ)「思い出せっ!何故、殺さなかったのかを!ぎぐぐっ?殺さなかったのでは無い!殺せなかったのだ!だからがががががが!!」

それきり。
老魔術師は、無力な翁として地の底へと堕ちていった。

('A`)「何を、言いたかったのだと……」

残ったのは、二つの影。二つの起源。



62: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:20:16.63 ID:fN7IzB6qO
川 ゚ -゚)「……」

沈黙を守るオンナ。
それに、救世主は振り返る。

('A`)「……」

沈黙。
今更、何を語る言葉があろうか?
決定的に分かたれた道に、標は無い。

川 ゚ -゚)「オリジン……」

有るとすれば、それはオンナの未練だけ。

('A`)「……」

救世主は、語らない。
だからオンナが語る。

川 ゚ -゚)「君を、ずっと探していた」

遠い路。

川 ゚ -゚)「五千年の間、ずっと君を探していた」

届かぬと知りながらも。無駄だと知りながらも。



64: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:20:46.64 ID:fN7IzB6qO
川 ゚ -゚)「そして、やっと見つけた」

皮肉か。
それは、先刻彼女が切り捨てたオトコが囁いた言葉と瓜二つ。

川 ゚ -゚)「永かった。本当に……永かった……」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「こんな事、自分で言うのは些か見苦しいが許して欲しい。辛かった。苦しかった。それでも、君と再び会う為に耐えて来た」

川 ゚ー゚)「どんな痛みも、君の為なら我慢出来た」

寂しげな笑み。

川 ゚ -゚)「そうやって…五千年の時を過ごして……」

過ご、し、て。

川 ゚ -゚)「ここで…まさか…君、に……」

後は、言葉には成らなかった。



67: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:21:58.93 ID:fN7IzB6qO
川 ; -;)「否定、されようとはな……」

流れているのは涙だろうか。
目から零れる水分が他に何かあっただろうか。
そう考えて、該当するものが無いのを知り。
涙が流れる理由を考え、悟り。

何故、自分はこんなにも意固地になっているのだろうと、思った。

('A`)「あ……」

気まずげに顔を伏せる。
しかし、俯けど聞こえる嗚咽。

川 ; -;)「君は、欲望を美しいと言った。……ならば、この欲望を持つ私は美しいか?」



71: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:22:44.29 ID:fN7IzB6qO
それは、その言葉は、その問いは、何を求めている?
どんな返答を期待している?
分からない。
分からない。
分からない。
分からない。けれど。

('A`)「美…しい」

気がつけば、そんな言葉を口にしていた。

川 ; -;)「え?」

え?
まさに、「え?」だ。
彼も自分が紡いだ言葉の意味が分からない。いや、意味など元から無いのか。ただ反射的に紡いだ言葉なら、それも頷けるが。しかしこれは難儀なものでいやはや……。

(;'A`)「あ、その……」

正直、彼の理解を超えていた。



72: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:23:56.22 ID:fN7IzB6qO
川 ; -;)「それは……どういう…?」

認めてくれるのか?
すがりつくよう、オンナはオトコを見上げる。

(;'A`)「あ…その……」

何と言ったらいいものか、決めあぐねる。
決めあぐねるうち。
彼は忘れていた。



74: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:24:42.40 ID:fN7IzB6qO



この演目がまだ、幕を下ろしていない事に。



76: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:25:30.03 ID:fN7IzB6qO
川 ; -;)「オリ……ジン…?」

相前後。

地が、揺れた。

(;'A`)「なっ…!?」

天が、揺れた。

川 ; -;)「━━っ!」

海が揺れた。ビルが揺れた。街が揺れた。世界が揺れた。
地が割れた。天が割れた。海が割れた。

そして。



77: ◆cnH487U/EY :2008/07/23(水) 03:26:19.45 ID:fN7IzB6qO



世界が、割れた。



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