('A`)はダークヒーローのようです
- 6: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:43:06.97 ID:4BDEm/6uO
- 第四十二話 母
━━かたかた。かたかた。かたかた。
/ ,'3「……」
カタカタ。カタカタ。カタカタ。
/ ,'3「……ぅ」
がたがた。がたがた。がたがた。
/ ,'3「ぁっ……」
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ。
/ ,'3「!」
━━飛び起きると、ベッドの上だった。
/ ,'3「……?」
周りを見渡す。
黄ばんだ白壁とリネンの香り。ああ、医務室かと納得する。
/ ,'3「……ひゅう」
- 7: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:43:43.71 ID:4BDEm/6uO
- 喉が乾いた。
何か手頃なものは無いかと再び首を巡らせ、枕元のサイドボードに水差しを発見。
手に取り、中身を飲み干す。
きんきんに冷えた水が喉を通る度、ぼんやりとした頭にも思考が戻ってきた。
/ ,'3「……はて」
何故医務室なのか。何故自分は医務室に居るのかと考える。
/ ,'3「……むぅ」
頭が痛い。
寝過ぎた為か?目頭を抑え、窓の外を望む。
暗い。
だというのに真闇では無い。
今は何時なのか。壁掛け時計を探す。
午後六時。
ふむ、ならばちょうど夕暮れ時かと合点し。
- 8: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:44:47.17 ID:4BDEm/6uO
- / ,'3「……それは」
おかしいと気がついた。
窓の外に迫る闇を見据える。明らかに陽の残照と異なる色彩。
/ ,'3「これは……」
まるで、臓物のよう。
動物の臓物のような、色。
色だというのに、実体を持たないというのに、それは胎動するかのように震え、のた打ち。
どくん。どくん。どくん。
/ ,'3「ぁっ……!」
そこで、理解した。
これは生き物だと。
- 9: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:45:14.50 ID:4BDEm/6uO
- / ,'3「ああぁ……」
否、神であると。
悠久の年月を地上に君臨し、生きとし生けるもの全ての頭上を覆っていた根源であると。
/ ,'3「ま……」
そうして、自分が今まで眠っていた理由を思い出した。
人類の起源。出生の秘。
のた打つ液状の不定形。
それらがあまりにも冒涜的で。
信じられなくて。
それを忘れようと自分は……。
嗚呼しかし。今ではもう信じるしかない。
それらが全て、目の前の肉塊から生まれ出たものだと。
/ ,'3「マ、リア……」
口をついたのは我らが母の名。
/ ,'3「マリア…!」
それに応えるかの如く、母の咆哮が世界を震わせた。
- 11: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:46:27.31 ID:4BDEm/6uO
- ━━天と地がひっくり返った。
まさにそう表現すべき事象であった。
ニーソクという大地。その全ての絨毯が捲り上げられ、破裂するかのような。
比べるなら、二千トン級のバンカーバスターの破裂をも凌駕するような。
そんな、途方も無く莫大で膨大で絶大な天地爆裂の後、それはこの世に権限した。
( ;´_ゝ`)「━━ぁっ」
天を突き抜け屹立するそれは、伝説に謡われる世界樹の如き様相。
脈打つ幹は、赤黒くただれた臓物。
枝葉は天上遥か高く、雲を突き抜け神の国にすら届かんと。
- 13: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:47:23.43 ID:4BDEm/6uO
- (´<_`; )「か……あ……」
地を這う人々は言葉を失った。
神だからでは無い。其が神だからでは無い。
異形だからでは無い。其が異形だからでは無い。
(;=゚ω゚)「かあ……」
聳える肉幹の中央、縛り付けられるように張り付くは。
ノパ听)「母さん……」
聖母。
それは紛れも無い聖母だった。
ヒトの形などしていない。
一般的価値観から言えば醜悪。
直視すれば発狂するだろう程の禍々しさ。
だのに。
それは紛れも無く我らが母の姿であった。
- 14: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:48:29.19 ID:4BDEm/6uO
- (兵゜ゝ゜)「かあちゃん……」
全ての生きとし生けるものが空を見上げた。
何故、それを母だと認識したのか。
いや、それは分かりきっている事。何を偽ることがあろう。
彼女こそ、全ての生物の母。彼女こそが始まりにして、終わり。
起源にして、故郷。故郷なれば、帰結地点。
だから、彼らの足はゆっくりと動き出した。
里帰りを。母の胸の中に帰ることを。胎内を、目指す為に。
- 15: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:49:06.09 ID:4BDEm/6uO
- (兵゚¢゚)「ま、ま……」
手を前に差し出して。愛しむように、目を細めて。一歩、踏み出す毎に彼等は帰っていく。
母の下へ、原始の記憶へ、生命の揺りかごへ。
大行進、とは第三者の視点からこの光景を眺めた時に漏れる比喩。
事実、人々は明確な流れを持って皆一同に肉の世界樹を目指して歩いている。
虚ろな目、とは第三者から見た彼等の表情。
しかし彼等は知っている。彼等の目は、虚ろなどではない。
彼等の目は、ただ一つを望む。母を、帰るべき場所を、見つめる瞳に浮かぶは、愛、安堵、郷愁。
その光景がどんなに異形でおぞましいものだとしても、それを私は否定する事は出来ない。
だって。
- 17: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:51:08.50 ID:4BDEm/6uO
- ( ・∀・)「かあ、さん……」
私もまた、その一人なのだから。
( ・∀・)「あ…あ……」
自らの責務を放棄してまで、走った目的は最後の暇つぶし。下らない好奇心。
今、この世界で何が起きようとしているのかを、何が終わろうとしているのかを見届けようという、ただの好奇心。
“彼”の影を追い紛れ込んだ裏路地で“彼”を見失い、途方に暮れていた私は思わぬところで母との再会を果たした。
( ・∀・)「……本当に、母さんだ…」
- 18: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:51:52.09 ID:4BDEm/6uO
- 直感が告げていた。彼女が母であると。
本能が告げていた。彼女が自らの起源であると。
だから、帰りたくなった。
全て忘れて、帰りたくなった。
だって、呼んでいる。母さんが、自分を呼んでいる。
何しているの、早く帰ってらっしゃい。まあまあ、こんなに泥だらけになって。幾ら男の子だからって、洗濯する母さんのこと少しは考えなさい。
( ・∀・)「ごめんよ母さん。ただ、ちょっと面白いことがあってさ」
あら、面白いこと?なぁに?それ?お母さんも聞きたいなぁ。
- 19: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:52:53.35 ID:4BDEm/6uO
- ( ・∀・)「うん、僕の友達にショボンって奴がいてね。そいつ、隠してるけど本当はまほうが使えるみたいなんだ!だから…」
あらあら、モララーちゃんがそんなに夢中になるなんて、その子は本当にまほうが使えるのかもしれないわね。
だって、モララーちゃんがこんなに楽しそうにしてるの、お母さん見たことないもの。
( *・∀・)「うん!僕も、こんなにワクワクするのは……」
……どうしたの?モララーちゃん?
( ・∀・)「……」
ねぇ、どうしたの急に黙り込んじゃって。どこか痛いの?
( ・∀・)「行かなきゃ」
え?行くって何処へ?
- 20: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:53:30.00 ID:4BDEm/6uO
- ( ・∀・)「……僕、行かなきゃ」
だから何処へ……。
( ・∀・)「またね、母さん」
━━っ。
…………!
??!っ
っっちゃ…━━!
ぁ━━ん━━
気がつけば。
私の足は止まっていた。
何故だか、無性に泣きたくなった。何でだろうか。
胸を突く虚しさが、痛い。
それで、思い出した。
- 22: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:55:11.52 ID:4BDEm/6uO
- ( ・∀・)「私に、母など……居た、試しが無かったろうに」
そうだ。私に、母など居ない。
いいや、私には親などという当たり前のものすら居なかった。
( ・∀・)「……はは、そうだ」
だから、施設で育った。
だから、こんなにも生きている実感が無かった。
だって、親が居ないというのは自分を生んでくれた者が居ないという事だろう?
そんな状況で、どうして自分が生きているなんて言い切れるのか。
- 25: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:56:08.63 ID:4BDEm/6uO
- 私は、自分が生きているなんて今まで思った事など、一度も無かった。
( ・∀・)「……」
前を見る。人の行進を見る。
ただ、ただ、醜怪に脈打つ巨大な肉塊を目指して進む彼等は、やがてその形をゆっくりと崩していく。
皮がたるみ、垂れ、爛れ堕ち、骨が曲がって、崩れ落ちる。
一歩、また一歩と踏み出す度に原始の、人間本来の姿へと帰っていく彼等を前にし、私は図らずも「羨ましい」とすら思ってしまった。
- 26: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:56:34.92 ID:4BDEm/6uO
- ( ・∀・)「母と子、か……」
列の最前列は今や、不定形でゲル状の灰緑色の何かへと取って変わっている。
自分もあの列に加われば…いや、母の下へと向かうなら、きっとああなるのだろう。
- 27: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:58:35.04 ID:4BDEm/6uO
- ( ・∀・)「……だが」
私には、やるべきことがある。
別に義務や責任では無い。
実のところは途方も無く下らない、取るに足らない目的である。
( ・∀・)「それでも、このチャンスを見逃しておめおめと肉塊になってなどはいられないね」
そう。この世の真理を垣間見る事が出来る千載一遇のチャンスなのだ。
生きている実感が無かった自分が、何物に対しても執着することが無かった自分が、何故かことこの事に関してだけは譲れない。
- 28: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 00:59:10.01 ID:4BDEm/6uO
- ( ・∀・)「…なぁに、生きているのか死んでいるのかさえもあやふやなんだ。急いで“答え”を出さなくてもいいだろうさ」
ヒトと、かつてヒトだったモノの列へと背を向ける。
それは決定的な決別で。
(兵´レ`)「まんまぁ……」
何故だかやはり、泣きたくなった。
- 30: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:00:41.41 ID:4BDEm/6uO
- ━━肉の塊を、見上げていた。
(;'A`)「……あぁ」
超越的な、肉の塊を見上げていた。
それは神代の時。まだ世界が一つだった古の時。まだ人間が幼かった時。
世界の中心に聳えていた、全ての生物の母の姿。
(;'A`)「なんて、でかさだ」
巨大という言葉ですら不釣り合いなそれを、見上げていた。
('A`)「あんなんじゃ、邪神共がガキだってのも頷ける」
事実、邪神達は稚児でしか無かった。
高層ビルから頭を出すほどの彼等を、母は雲の真下から見下ろしている。
世界樹というよりかは、世界を支える柱と呼んだ方が似つかわしい。
- 33: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:02:48.40 ID:4BDEm/6uO
- 大いなる母。救世主とオンナはそれの真下に立っていた。
川 ゚ -゚)「やはり、目覚めてしまったか」
その尊大さに救世主が驚嘆の声を上げている横で、オンナの呟きはどこか諦観じみていた。
- 34: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:03:57.64 ID:4BDEm/6uO
- ('A`)「……だが、どんなにデカかろうが関係ない。なんだろうとやることに変わりは無い」
川 ゚ -゚)「アレを殺すことに変わりは無い……と?」
('A`)「無論だ。オレの目的はさっきも言っただろう。お前が誰でどんな生を送ってきたかには興味があるが、先ずはあいつを叩き潰すのが先だ。話はそれから……」
そう言い、彼は全ての母へと向き直る。
面倒事は早急に済ませるに限る。
ならば、最初から全力を持ってほふるべし。
腰溜めに構え“力”を両掌に集中。最大最高最終出力でそれを解放する。
- 36: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:04:39.96 ID:4BDEm/6uO
- そこまでシミュレートし、彼の裾を掴むものによって思考は中断された。
('A`)「なんだ、話は後だと……」
遮ったのは蒼白な細腕。
オンナの顔は、少女のような繊細さで不安の面持ちだった。
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「言いたい事が有るのは分かるが、今は時間が無い。手短に済ませろ」
だから、仕方なく折れたのだが。
川 ゚ -゚)「アレを倒すのは、今の君でも不可能だ」
少女は、予想外の言葉を口にした。
- 39: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:06:13.44 ID:4BDEm/6uO
- ('A`)「不可能…だと?」
それは救世主にはおよそ聞き慣れない言葉。
絶対存在には相応しからざる事象。
('A`)「何を根拠にそんな事が言える」
だから、思わず聞き返した。
世界を超越した自分に、どんな不可能があるのかと。
川 ゚ -゚)「……ならば逆に問おう。君は何を根拠に奴が倒せると思う」
('A`)「周りくどい奴だな……いいか、オレは━━」
川 ゚ -゚)「超越者だ。超越者に不可能は無い。全てを粉砕し、全てを叩き潰すだけの力が有る…と。それが根拠か?」
- 41: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:06:58.83 ID:4BDEm/6uO
- ('A`)「そういう事だ。奴が全ての生物の起源だか何だかは知らんが、それならオレは全ての“存在”の起源だ。ならば、奴らを創造したのもオレ達。敗れる道理など……」
そこで、自らの言葉の中に彼はこの話の根拠を見つけた。
(;'A`)「……まさか」
川 ゚ -゚)「ああ、そのまさかだ。アレは、我等が一番始めに生み出し、一番始めに寄り代とした文字通り始源の創造神だ」
('A`)「始源の創造神……」
- 42: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:07:55.11 ID:4BDEm/6uO
- 川 ゚ -゚)「私達がこの世の物流法則に関与する為のルールは、わかるか?」
('A`)「ああ。オレ達は、それが例え精神を持たぬモノであろうと、その身を借り受け自らの思うがままに動かす事が出来る。
そうして肉体を得て、初めて魔術を行使する事が出来るようになる」
('A`)「だがその代わりとして、一度借り受けた肉体の末路を最後まで見届ける義務が有る。
無機物だろうが有機物だろうが、その存在が物質として原型を留めておけるうちは、その寄り代を捨てて“時の墓標”へ戻る事は許されない」
川 ゚ -゚)「その通り」
- 43: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:08:50.45 ID:4BDEm/6uO
- ('A`)「それを踏まえた上で、肉体を持たぬままに物理世界に関与したいのならば、自らの“超越者”という権利を放棄し、一度だけ物質の創造を許される。だったか」
川 ゚ -゚)「……ああ、一言一句に致まで正しい」
('A`)「じゃあアレは……」
川 ゚ -゚)「うむ。……途方も無い昔の事だ。世界がまだ“無”であり宇宙には我々しか存在しなかった頃。ただ、ただ、悪戯に思考を繰っていた我々の中から、一人の異端者が現れた」
- 44: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:10:38.72 ID:4BDEm/6uO
- 川 ゚ -゚)「それは、世界に我々だけが居るのは些か退屈だと踏んだのだろう。“宇宙の創造”などというおおよそ荒唐無稽な暇つぶしを始めた。
もとより永劫不滅の身。永遠に無が続くのなら、不滅で居る意味も無いと奴は己が力の全てを収める為の肉体を形作った」
('A`)「それが、あの化け物のルーツってわけか」
川 ゚ -゚)「ああ。肉体を得る代わりに超越者としての力を失った奴は、物理世界の法則に縛られた。
ならば奴を打ち倒す事も出来ると思われるだろうが……何しろ、アレは“宇宙”を創造する為に作られた肉体。どのような外的ダメージにも耐えうるよう、決して滅びぬ再生力を有して創造された」
- 45: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:11:30.38 ID:4BDEm/6uO
- ('A`)「だから、オレ達が物理世界に居る以上、物理世界の法則に則った魔術では絶対に奴を滅ぼせない……と」
静かに頷く少女。
('A`)「それならば、因果魔術ではどうだ。奴が物理的に滅ぼせぬならば、その物理法則を……」
川 ゚ -゚)「無駄だ。奴の再生力は物理法則の中にあって外にあるようなもの。君も言っていたであろう。
アレは無から生み出された有。ならば、無に返したところで再生できぬ道理は無い」
- 47: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:12:35.44 ID:4BDEm/6uO
- 川 ゚ -゚)「破壊する度に再生する。消し去る度に現れる。下より奴の存在理念は創造。無から有を生み出す怪物。消えることなど無い」
('A`)「じゃあ、オレは五千年前に奴をどうやって封印したんだ?その話じゃ、地の底に封じようが次の瞬間には蘇っていそうだが……」
川 ゚ -゚)「……封印したのでは無い」
('A`)「それは?」
川 ゚ -゚)「アレは、自らの意志で活動を休止したんだ。君が、奴の再生力を上回る力をもって奴を叩きのめした結果、奴は自身の力の回復を図る為自ら地の底へと逃げ伸びた。その点では、物理法則に従う以上奴にも限界がある」
- 48: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:13:04.02 ID:4BDEm/6uO
- (;'A`)「ならば…!」
川 ゚ -゚)「周りを見ろ、オリジン」
言われて、改めて彼は自らが置かれた状況を理解した。
天を超越した世界樹。赤黒く染まった世界。闊歩する邪なる伝説。
響くのは聖母の巨大な心音と、母を呼ぶ幼子らの呻き。
そう、子供達は皆一様に母の下を目指していた。
人であろうが悪鬼であろうが……神であろうが、皆一様に母の胸の中に抱かれようと、世界樹を目指して行進していた。
- 50: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:14:38.01 ID:4BDEm/6uO
- (;'A`)「……っあぁ」
川 ゚ -゚)「……これで分かったか。今の君の魔力は無尽蔵に限りなく近い。全力を出せば、アレを一撃のもとに滅殺出来るだろう。そう、一度きりなら」
闊歩する神々が、咆哮を上げる。
川 ゚ -゚)「だが、次は無い。君はアレを殺す魔術を放ったらば、魔力切れで向こう一週間は魔術を一切行使出来なくなる。だが、アレは違う」
母は、天より手を差し伸べる。
川 ゚ -゚)「アレは、君の魔術で破壊された次の瞬間には、周りの邪神を吸収しこの世に再び顕現するだろう」
- 52: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:15:37.18 ID:4BDEm/6uO
- 差し伸べられた手は、触腕。
差し伸べられた先は、七つの海を統べし邪神━━蛸を冠に頂きしモノ、クトゥルフ━━。
海神は頭を垂れ、甘い声を出し。
その身が、一瞬にして融解した。
どろどろに、ドロドロに、泥々に溶けて。
海神は。海神であったモノは、その身を尊大なる母の腕に委ねる。
母は愛しき我が子の帰還を喜び、呑む。
子を呑む。触腕で呑む。
一滴たりとも無駄にはしない。愛しき子ならばと啜り呑む。慈しむよう、愛でるよう、喉を鳴らして呑み干す。
- 55: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:17:20.08 ID:4BDEm/6uO
- 川 ゚ -゚)「私も力を取り戻せばアレを滅ぼせよう。だがやはりそれは一度きりだ。二人合わせても二度。だがアレは、二度殺したところでは足りない。
アレは私達のリソースの十倍のリソースを持って蘇生する」
(;'A`)「単純に、火力不足だって事か……」
川 ゚ -゚)「……だから奴らも、この時を狙って私達を引き合わせたのだろう。アレが目覚め、この世の全ての邪神が母の下へと集う“約束の時”をな」
- 57: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:18:19.65 ID:4BDEm/6uO
- ぎりり。奥歯を噛むは、救世主。
('A`)「用意周到な事だ。今頃あの世でチェックメイトなどと戯れ言を抜かしていることだろうな」
川 ゚ -゚)「……」
オンナの話が真実ならば、ここで奴らのリソースである邪神を潰していったところで、今度はアレを消す為の魔力が不足するだろう。
自分の体だ。限界ぐらいはわかる。
となると。
('A`)「打つ手無し……か」
その言葉が、驚く程すんなりと自分の口に登ったのが意外だった。
川 ゚ -゚)「ああ。こうなった以上、人類を救う手段は……」
だが、別にそれは口にしたところでただの言葉でしか無い。
なるほどだからこうもあっさりと口に出来たのか。
- 58: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:19:44.47 ID:4BDEm/6uO
- ('A`)「……いいや」
そう。
('A`)「まだだ」
別に、諦めてなどいない。
川 ゚ -゚)「何を……」
やれる。いや、やれない。
けれども。
('A`)「やるしか無い」
可能性はゼロだ。
不可能で、無理で、論理的に出来ない事なのだ。
だけれど。
川;゚ -゚)「オリジン、今まで何を話ていたか理解出来なかったのか?」
- 60: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:20:34.58 ID:4BDEm/6uO
- “人間には『感情』ってのがあるんだ。こいつは、自分ではどうする事もできねぇ厄介なもんでな、時折理性を押しのけてまでオレ達の体を動かしやがる”
('A`)「感情……か」
飛翔の為の魔力を、足底へ回す。
川;゚ -゚)「無駄だ!止めろ!いくら君の寄り代が“マリアの子”の物だろうと、アレの前では泥人形と同じだ!」
飛龍に成る準備は、整った。
('A`)「今のオレを動かすのがそれだとしたら……」
後は、この地を蹴るのみ。
(#'A`)「嬉しいね!」
川 >口<)「止めろオリジン!」
- 61: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:22:33.79 ID:4BDEm/6uO
翼は、はためか無かった。
- 64: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:23:47.99 ID:4BDEm/6uO
- (#'A`)「おいオンナ、貴様何のつもりだ!」
足に巻きついたのは魂を縛る茨。
翼に絡むは魔力の網。
オンナの魔術が、救世主を地に縛り付けていた。
(#'A`)「これ以上邪魔をするならば貴様も殺す対象と見る!」
明らかな殺意。
それだけで人を殺める憤激を撒き散らし、彼は背後の魔女を振り返る。
- 66: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:25:30.61 ID:4BDEm/6uO
- が、逆鱗に触れられたのは龍神だけでは無かった。
川#;口;)「ならば私もこれ以上進むというならあなたを殺すぞオリジン!」
誰が、百合の花が火を噴くと思っただろうか。
誰に、湖が津波を立てると予想出来ただろうか。
つまりはその手の意外性。
(;'A`)「何、だと……」
川#; -;)「無駄なんだ。もう無駄なんだ。どう足掻こうが、絶対に奴らを止める事なんか出来ないんだ」
オンナは、魔女の顔に怒りを、少女の顔に涙を浮かべていた。
川 ; -;)「何をしても無駄、もう間に合わない、そんなのは今日という日が訪れた時点で決していたことなんだ。もう誰にも覆せないことなんだ……」
- 67: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:26:38.39 ID:4BDEm/6uO
- (#'A`)「そんなもの、やってみなければ……」
川#;口;)「分かるさ!分かるとも!絶対だ!この世そのものを賭けてもいい!絶対だ!君が魔術を放った後の光景まで生々しく想像出来る!徒労に終わるに決まってる!」
(#'A`)「だからどうした!オレが行くのは結果や可能性の為じゃない!人として、行かずには居られないから行くのだ!冷血風情が口を出すな!」
その瞬間。
オンナの中で、今まで抑えていたものが弾けた。
- 68: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:27:36.07 ID:4BDEm/6uO
- 川 - )「れい、けつ…だと?」
(#'A`)「何だ、何が……」
川 ; -;)「れいけつ……レイケツ…ああ冷血、冷血か。ははは、冷血か…」
ぱりん、と。
何かが砕ける音を、確かに聞いた。
川 ;∀;)「ははははは!ははは!ははは!冷血!冷血か!私が冷血だと?冷血!あははははは!」
- 69: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:29:04.35 ID:4BDEm/6uO
- (#'A`)「何を、笑っている……」
川 ; -;)「可笑しければ笑うのは道理だろう」
(#'A`)「何が、可笑しい」川 ; -;)「冷血だと、言ったな」
(#'A`)「ああ、違いない。貴様はヒトの在り方を否定した奴らの考えを受け入れ、時の墓標への扉を開く事こそが救いだと言った。ならば、それを冷血と言わずして何を冷血と言う」
ぷっ、と魔女は吹き出し。
- 71: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:30:19.60 ID:4BDEm/6uO
- 川 ;∀;)「ははははははは!あはははははは!」
再び哄笑を上げた。
(#'A`)「貴様、オレを馬鹿に……」
川#;口;)「馬鹿にするなオリジン!」
(;'A`)「……っ!」
川#; -;)「そんなもの、どうだっていい。……人類を救うなど、下らない」
(#'A`)「貴様……」
川 ; -;)「そんな目的、君を前にしたらどうでも良くなった」
ゆらり、陽炎が揺らめいた。
川 ;ー;)「確かに、“扉”は開く。開くとも。だが、それをくぐるのは私と君の二人だけだ」
つう、魔女の口元が三日月に歪んだ。
(#'A`)「……何を言っているのか、分かっているんだろうな」
川 ;ー;)「勿論だ。私はなオリジン、君と二人で生きようと言っているのだ」
そうして魔女は、凄絶な笑みを救世主へ向けた。
- 72: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:31:41.87 ID:4BDEm/6uO
- (;'A`)「気狂いめ……今がどんな状況か分かって……」
川#;口;)「それなら君は私がどんな思いでここまでやって来たのかが分かるのか!?」
三度目。魔女は憤激した。
川 ; -;)「……五千年、だ。君を救えず、野へ逃れてから五千年。
いつかやって来るこの日の為に、ただ、ただ、何も出来ずに淡々と遅すぎる時の流れの中をただ、ただ、歩いてきた。いつか君に会える。その一心でただ、ひたすらに」
(;'A`)「何が助けられずだ……」
川 ; -;)「ふふ……ほら、な。だというのに、愛した男は記憶を失い、相対すれば私を裏切り者だと責め立てる……」
- 73: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:32:11.33 ID:4BDEm/6uO
- (;'A`)「違う、と……?」
川#;口;)「もう我慢の限界だ!堪えられない!愛してる!私は君を愛してる!こんなにも愛してるのに!」
(;'A`)「っ……」
川#;口;)「……なのに。……なのに!君は私を……」
(;'A`)「それは……」
川 ; -;)「冷血、と言ったな。ははは……これほどの激情を持った私が、どうして冷血か」
川 ; -;)「そして君は、欲望こそ美しいとも言った。……もう一度問おう、オリジン」
- 74: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:33:29.72 ID:4BDEm/6uO
- 川 ; -;)「君を求める今の私は……美しいか?」
じり、と魔女が一歩踏み込んだ。
すっ、と魔女が手を差し伸べた。
ふるふる、と魔女の肩が震えていた。
(;'A`)「……ぁっ」
そこに、闇を見た。
果てしなく暗い、闇を見た。
川 ;ー;)「醜いだろう?どうあっても美しいなんて言えない筈だ。私を美しいなどと言ってしまえば、君は自らの志を否定する事になる」
黒い。黒い。黒い。
他の色など塗り潰す、真の黒。
- 76: ◆cnH487U/EY :2008/07/26(土) 01:35:24.37 ID:4BDEm/6uO
- (;'A`)「……ぁぅ」
川 ;ー;)「他者を踏みにじり、己の欲望を優先しようとする……それが人間なら、私はこの上なく人間らしいイキモノだろうよ」
真っ黒で、真っ暗で、最も深い闇。
それは深淵、底無しの黒。
川 ;━;)「だが、自己嫌悪なぞするものか。どこにそんな必要が有る。これが、人間なのだから」
呑み込まれる。
塗り潰される。
このまま、溶けていく。
真っ黒に、漆黒に。
どこまでも……。どこまでも……。
ミセ;゚口゚)リ「オリジン様ぁぁぁぁあ!」
どこまで、も。
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