( ^ω^)ブーンと('A`)は走りに生きるようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:22:22.19 ID:rWVIS7HPO
第七話
ブーン


パンッ

僕はスタートの音と同時に前出ようとした。
が、両脇の選手に押されて前に出れない。
最後尾を走らなきゃならなくなった。

まぁいい。前半は抑えて後半出てやるさ。

先頭はというと、スタートからかなり飛ばしてるみたい。
300M通過時点で僕と2秒くらい差がついている。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:24:20.32 ID:rWVIS7HPO

( ^ω^)(先頭は馬鹿かお。後半潰れるに決まってるお)

僕はそう思い、先頭の選手を確認する。

白いユニフォームに青とオレンジのライン。
しかも180cmはある長身。
あれは、間違いない。ドクオだ。

そうだな。
あいつならこのくらいのペースで行っても支障はないだろう。

僕はそのまま先頭のドクオを見ながら走ってたが、そのせいで400Mのラップを押し忘れる。
そしてぐだぐだと走りながら800M通過。

すでにレースの半分がすぎてるのに、僕はまだ最後尾についている。
このままだとまずい。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:26:40.63 ID:rWVIS7HPO

( ^ω^)(そろそろ仕掛けなきゃだお)

そう思って僕は序々に前へ出始める。

一人、二人、三人………遅い。こいつら止まってんじゃないのかとすら思えてくる。

( ^ω^)(こいつら、もう息が切れ始めてるお)

僕が抜いていったやつらはすでに呼吸が荒い。
対する僕はこれが気持ちいいくらいのペースに感じる。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:27:51.14 ID:rWVIS7HPO

そして僕はカーブを曲がり1000Mにさしかかる。
2分34秒。
あれ?こんなに速いの?

僕は自分のペースがこんなにも速かったことに驚いた。


だって、まだ全然余裕なんだもん。


そして自分の腕時計を確認し終わり、前を見ると、ドクオはもう目の前にいた。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:29:50.08 ID:rWVIS7HPO

「ブーン!まだついてくのよ!!」

ホームストレートに入り、スタンドからツンの大声が聞こえる。
甲高い独特の声。


ツン、ついいてけだって?
それは違うな。
ここからは、僕が先頭だ。

僕は第一コーナーの曲がりにさしかかる前に、ストレートでドクオを抜く。

カランカランカランッ!

1500Mのラスト1周を告げる鐘が競技場内にこだます。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:31:28.70 ID:rWVIS7HPO

僕はさっきよりも足の回転速度をあげ、スパート態勢に入る。

けれどもすぐ後ろからは、まだ足音が聞こえている。
ドクオがついてきてるんだ。

僕はその足音を若干不快に感じながら第二コーナーを抜け、バックストレートへと入った。

バックストレートは100M。
後ろの方にいると気づかないが、先頭だとまわりで応援してる人がよく見える。 
その中には僕の名前を呼んでる人もいた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:33:26.27 ID:rWVIS7HPO

( ^ω^)(すごくいい気分だお)

これだけの観客から、先頭である自分が見られてると思うと、なんとも言えない優越感が湧いてくる。

( ^ω^)(みんな、僕の走りを見せてあげるお)

ラスト200。
もうここからは僕の一人旅だ。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:35:00.03 ID:rWVIS7HPO

今までのピッチ走法からストライド走法へと切り替える。

広い歩幅で一歩、また一歩。

フォームは崩れない。
ここ二週間で体周りを鍛えたんだ。

僕は自分でも美しいと思うフォームを維持し、最後のホームストレートへと入る。

スタンドからは歓声の嵐。
もう何言ってるかわからない。
後は全力でここを走り抜けるだけだ。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:36:35.09 ID:rWVIS7HPO

( ゚ω゚)(うおぉぉぉぉっ!)

僕は少々前傾な走りになりながらも、そのままゴールラインを走り抜けた。



( ;゚ω゚)(タイムは!?)

僕はゴール横に置いてあるSEIKO製の大型タイマーを見る。

[3分52秒21]



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:39:08.89 ID:rWVIS7HPO

( ^ω^)「はえぇ…」

僕のタイムを見た観客からは驚きの歓声があがる。


このタイムには僕自身もびっくりだ。

県大会より全然余裕を感じてたのに、この記録だ。
自分自身に何が起こったのか、実際まだよくわかってないかも。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:40:58.28 ID:rWVIS7HPO

( ^ω^)「そうだ、ドクオ……」

僕は2位であるドクオとの差を確認するために後ろを確認する。
実際まだゴールからこの間、2秒くらい。

僕は直ぐ様後ろを振り向く。

(;^ω^)(あれ?)

しかし、僕の後ろにいたのはドクオではない、どこかの知らない選手だった。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:44:40.06 ID:rWVIS7HPO
ドクオ



結果、惨敗。


( A )「ハァ……ハァ……ハァ……」

今日のレース、記録を狙うために前半からかなりぶっ飛ばした。
1000まではよかったんだ。
でもそれからはもう脚がぜんぜん。

ラスト1周でまず、チビマッチョな野郎に抜かれ、そこからどんとん抜かれていく。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:46:25.15 ID:rWVIS7HPO

あと200Mってとこではすでに7位。
これはまずい。
なんとかインターハイの切符だけは確保しておかないとならねぇから、あとはもう根性で1人抜いて6位。

ギリギリだったぜ。まったく。

タイムはもうカスすぎて見る気にならねぇ。
内藤とは6秒くらい離れてたから、ひどいタイムだろ。
くそっ、あの時内藤の味噌汁飲んどけば……



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:47:29.75 ID:rWVIS7HPO

( A )「ちっくしょう……」

俺がゴール地点でうなだれてると、誰か前に立ってるのに気づいて、俺は顔をあげた。

川 ゚ -゚)「ドクオ、おつかれ」

タオルを持ちながらクーが、俺を見下ろしてた。

なんだよ、そんなに馬鹿にしてえのかよ。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:51:01.78 ID:rWVIS7HPO

川 ゚ -゚)「ドクオ、あまり気にするな。まだインハイがあるじゃないか」

は?何言ってんだよ。俺はレースで勝たなきゃ意味がねーんだ。偉そうなことを言うな。

( A )「っせえんだよ」
川 ゚ -゚)「なに?」

クーは聞こえなかったみてえだな。じゃあ、ちゃんと言ってやるよ



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:53:58.03 ID:rWVIS7HPO

(#'A`)「うっせーんだよ!あん?そうやって敗者を見下してるんですか?あぁ、そうだよなぁ。あんたは余裕で優勝だもんな!はいはい、俺なんかに構ってないでさっさとアップ行けや!」

スタンドのやつらがこっちを見てるけれど、そんなのどーでもいい。
タオルをクーが俺に向かって差し出しているけど、それを払い除けてやった。

川 - )「そうか………すまない」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:55:56.25 ID:rWVIS7HPO

クーは俯き加減で俺から離れてった。

('A`)「………なんだってんだよ」

 その後俺は着替えて、テントにいる顧問のとこに報告を入れに行った。
「よくやった。まぁ次はインターハイで頑張れ」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:57:33.32 ID:rWVIS7HPO

はんっ、ありきたりな言葉だな。
このままここに居てもむなくそ悪いから、俺は競技場のスタンドの方に行った。
ここの競技場、ドーム型の超でっけえ競技場だから周り全部がスタンドになってる。
だから、すげえ見渡しがいい。今ならいやな気分を忘れてレースを観戦できそうだな。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 21:59:14.68 ID:rWVIS7HPO

「連絡をします。男子1500Mの入賞者は表彰を行いますので、至急本部までお越し下さい。」

俺が気持ち良くスタンド周りを歩いてると、呼び出しの連絡が入る。
ふんっ、俺はいかねぇな。あんな順位で表彰されてもしょーがねぇ。内藤にも会わせる顔がねーよ。

俺は放送を無視してまた歩き始めた。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:01:14.60 ID:rWVIS7HPO

今、トラックでは男子の110MHの決勝やってる。

('A`)「ってかとは次は、女子のハードルか」

女子ハードル決勝、つまりクーのレースだ。

('A`)「………あんなやつ、もうどうでもいい。最初っから関わらなきゃよかったんだ……」

俺は独り言みたいにつぶやく。でも、なんか、これは本心と違うような気もする。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:03:02.24 ID:rWVIS7HPO

男子のハードルが終わり、役員のやつらがハードルを並べ直す。
そして、ゲートからはクーが出てきた。
だけど俺はあえてクーだけを見ないようにしてハードルを観戦する。あんまり、今は凝視する気になれねぇ。

ハードルの練習をし終わった選手たちは、ゆっくりとスタート地点に付く。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:04:54.18 ID:rWVIS7HPO

いちについて、よーい、ぱんっ

お馴染みの合図とともに、女の子たちが走りだした。
ハードル1台目まではみんな一直線。でも2台目からだんだん差がつき始めてきた。
3台目にはもう差が明らか。クーが他のやつを引き離してる。
ハードルのことはよくわかんねぇけど、クーがすごい選手だってことぐれえは俺も知ってる。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:06:22.69 ID:rWVIS7HPO

('A`)「こりゃ、決まりか」
クーは一台ハードルを飛ぶごとに差を広げて、ついに最後のハードルでは後ろとハードル一台分の差がついた。
クーはそのまま直線を走りぬけ、優勝。


の、はずだった。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:08:40.72 ID:rWVIS7HPO

クーは一位でゴールラインを踏むとはずだったが、最後の最後で足をつまずかせた。
てーかわざとだろって言うようなつまずき方だ。
そしてクーはよろけながらゴールして、結局8位。


(;'A`)「おい、何やってんだよ!」

俺はすぐさまスタンドから下へ駆け降り、クーのもとに向かう。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:09:59.39 ID:rWVIS7HPO
ゴール地点へと繋がるゲートを抜けると、クーは電光掲示板を見ながらつっ立っていた。

(;'A`)「おい!お前何してるんだよ!」

川 ゚ -゚)「スパイクが、地面に引っ掛かってしまった」

何を言ってやがる。あんなの、誰が見てもわざとだろ。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:12:01.42 ID:rWVIS7HPO

('A`)「嘘、つくなよ。何でなんだ?」

俺が少し優しい口調で聞くと、クーの可愛い顔が次第にくしゃくしゃになっていく。

川 ; -;)「だって、ドクオはさっきヒック、私がドクオのことを見下してると言ったじゃないか!だからヒック、こうすれば私の方が下になるだろう?」

俺はその言葉を聞いて、どこまで俺が自分勝手な最低野郎かってことに気づいた。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:14:55.80 ID:rWVIS7HPO

俺はこのむしゃくしゃした気持ちを、クーにぶつけてしまった。
俺を気遣ってくれたクーのレースを台無しにしてしまったんだ。

('A`)「クー…………本当に、本当に済まなかった」

これは謝って許されることじゃない。でも、俺はもう謝ることしかできない。

川 ; -;)「何を言っている?私はドクオのことが、好きだからこうしたのだ」

今度はクーが優しい口調で俺に話す。もう、泣きくずれそうだぜ。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 22:18:24.20 ID:rWVIS7HPO

( A )「クー、俺…………俺も、クーのことが好きだ」

俺は下を向き、涙を見られないようにする。
そしてクーに近づき、クーを抱き寄せる。
クーの胸、お腹、太ももが俺に密着する。
競技用セパレートを着たクーを抱いた感覚はほとんど生に近い。
優しく、強くクーを抱きしめる。
周りのやつから冷やかされようと、野次が飛ぼうとかまわない。
俺は、このままクーを抱きしめていられればいい。



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