( ^ω^)ブーンと('A`)は走りに生きるようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:10:54.40 ID:2KKyPbW/O
- 最終話
8月3日
僕はまたこの地に帰ってきた。
まだあれから一ヵ月しか経ってないんだ。
僕が走り、ドクオが追う。
ドクオが走り、僕が追う。
それが、すごく前のことのように思えてくる。
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:12:35.47 ID:2KKyPbW/O
互いに意識し合えた。
互いに理解し合えた。
ドクオはもう、かけがえのない親友だ。
だけど今日、僕にとってドクオは敵だ。
邪魔な存在なんだ。
勝つのは僕だ。
さぁ、最速を決めようか、ドクオ
〜Final Stage〜
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:13:46.04 ID:2KKyPbW/O
- ブーン
梅雨が明けると、夏に入る。
じめじめして、気分もどんよりとした季節から、身も心も解放されて自然と明るくなる。
しかし、暑さはどうにもならない。
気温36度。
8月の上旬なんてこんなもんだろう。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:14:44.48 ID:2KKyPbW/O
今僕は、サブトラックに場所を取って張ったテントの中で休んでる。
近くの木々からはアブラゼミの鼓膜を突く声が、休みなく聞こえてきて、
レース前だというのにろくに集中もできない。
先生はもうちょっと場所を考えるべきだっただろう。
ξ゚听)ξ「ブーン暑くない?大丈夫?」
僕がシートの上で寝転がってると、ツンが僕を心配して氷を持ってきてくれた。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:16:07.14 ID:2KKyPbW/O
( ^ω^)「ありがとうだお、ツン」
袋に入った氷を受け取り、額に当てる。
ひんやりして気持ちいい。
ツンは、僕の専属マネージャーとして来てくれている。
先生は連れていくつもりなんてなかったらしいけど、
ツンが毎日しつこく頼み込んできたから、しょうがなく連れてきたとか。
でも、僕としてはうれしい。
そりゃ、自分の彼女がこんなところまで来てくれれば、誰でもそうでしょ。
ξ゚听)ξ「ブーン、決勝まであと1時間ちょっとよ?」
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:17:57.99 ID:2KKyPbW/O
僕がまだぐーたらしてるから、ツンはちょっと苛立ってる。
インハイの予選といっても、ここまで力をつけてきた僕には余裕の通過だっだ。
3分51秒で組1位。
余力を残してのゴールだけど、ベストタイムだった。
でも、僕がタイムを出せば、当然のようにドクオもタイムを出してくる。
僕の手動で3分50秒くらい。
こんぐらいしてくれないと、わくわくしてこないけどね。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:19:17.95 ID:2KKyPbW/O
( ^ω^)「よし、じゃあよろっとアップ行ってくるお」
僕は、ツンがうるさく言ってこないうちに、テントを出ていった。
外に出ると、やはり暑い。
日陰があると無いとでは大違いだ。
こんなんだったらまだテントにいてもよかったかな。
レース一時間前と言っても、この気温だったらそれほど動かなくても大丈夫。
体は予選ですでに動かしてるし、動きすぎると脱水症状の危険もある。
夏のレースって、以外と大変なんだね。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:21:37.94 ID:2KKyPbW/O
僕はまだ夏のレースを経験したことがない。
だって、思えば僕が陸上を始めてからまだ半年しか経ってないのだから。
他の人は5年、6年と陸上を経験してきた人たちだから、暑さには慣れてるのかも。
それを考えると、やっぱり僕は才能があるんじゃないだろうか。
人の何倍もの速さでここまで上り詰めてきたんだ。
本当に、僕は走るために生まれてきた人間なのかもしれない。
そんな自惚れたことを考えながら、並木道を歩いていると、
前から全身真っ黒なウォームアップスーツを着た人が走ってくる。
このくそ暑いのにあの格好はアホだ。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:23:41.38 ID:2KKyPbW/O
最初こそあれは変人だと思っていたけど、その人間が近づいてくるにつれ、僕は納得する。
('A`)「よっ、久しぶりだな」
ドクオが手をあげて話しかけてきた。
( ^ω^)「おっおっ、久しぶりだお」
僕も手をあげて返事をする。
ドクオはもともと汗をかかない体質らしい。
合宿の時も背中がちょっと湿ってる程度にしかかいてなかった。
だから、この暑さでも平気なのだろう。
( ^ω^)「調子はどうだお?」
僕は、ドクオの調子を聞く。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:26:13.99 ID:2KKyPbW/O
- 陸上をしている人間は、知り合いに会うとまずこういう話題を振ってくる。
僕もその例外ではない。
午前中の予選では近くにいたけれど、お互いに知らんぷりをしていた。
予選から相手を意識すると、ついつい熱くなってしまうかもしれなかったから。
だから、これが久しぶりの会話になるわけだ。
('A`)「ま、普通かな」
普通。なんとでも誤魔化せるセリフだ。
特に期待もしていなかったけど。
所詮レース前のあいさつ。
もうこれ以上は話す必要もなかったから、 「またあとで」 と言って僕は歩き始める。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:28:15.34 ID:2KKyPbW/O
「ちょっと2人、待つ!」
だが、僕の足は一つの声によって止められることになった。
僕とドクオがその声の方を向くと、一人の黒人がこっちに走ってくる。
軽やかなバネのある走りだ。
)^o^(「ナイトウ、ウツダ?」
片言な日本語。
外人は、日本語の助詞が苦手だから「の、は、」とかいうことばを使いたがらない。
日本人がof、on、atの使い分けができないのと同じことだ。
僕達の名前を知ってて、外人ってとこからおそらく、ランキング一位のセイジン。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:30:23.30 ID:2KKyPbW/O
)^o^(「アサのレースみた。ボクレースでる。ガンバロウ」
そう言って、セイジンは握手を求めてくる。
いきなり馴れ馴れしいやつ。
とりあえずかたちだけ握手をして、僕はまた歩き始める。
)^o^(「でもニホンジンオソイネ。キミタチモ」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:33:48.01 ID:2KKyPbW/O
あまり友好的ではない僕たちが気にくわなかったのか、セイジンはいやみったらしく言葉を放った。
僕は聞こえないふりをして、彼を無視する。
('A`)「あ?んだとてめぇ」
だが、短気なドクオはそうもいかないようだ。
( ^ω^)「ドクオ、やめとけお」
僕がそう言うと、ドクオはセイジンを睨んで走り去っていった。
ドクオは、自分が見下されているようでいやだったのだろう。
大丈夫、僕たちにこいつは勝てないよ。
わかるんだ。
もうだれも僕たちにはついていけないって。
そしてドクオ、君ももう僕にはついていけないよ。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:34:59.36 ID:2KKyPbW/O
- ドクオ
空は、青い。
雲一つない、快晴だ。
この空は、最初の大会を思い出させてくれる。
俺と、内藤が出会った日。
俺が内藤に勝った日。
ゴムが焼けた独特の匂い。
あの日と同じ匂いがする。
このトラックは、俺に勇気を与えてくれる。
俺は負けない。
誰にも前を走らせない。
みんな俺がぶっちぎってやる。
勝つのは、俺なんだ。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:37:08.31 ID:2KKyPbW/O
俺は今、スタート地点に立っている。
やっと、やっとこの場に立てたんだ。
400Mトラックの、第二コーナー。
ここからは、スタジアム全部を見渡せる。
緑の芝生と、茶色の走路を覆うかたちでスタンドが階段状にそびえ立つ。
すごく広い。
ここにいると、この競技場に飲み込まれてしまいそうだ。
俺は自分の胸に手をあてる。
ドクッドクッドクッ
心臓の鼓動が速い。
きっと俺、緊張してんだな。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:38:48.36 ID:2KKyPbW/O
この競技場には、何千人もの観客がいて、そいつらみんな、今か今かと俺たちのスタートを待っている。
その光景を目の当たりにした俺が、緊張しないわけがない。
インターハイ。
すげぇとこだよ、ここは。
スタートまであと少し。
俺は第二コーナーのスタンドにいるクーの方に目をやる。
クーは、一番前の列で脚を組みながら、こっちを見ていた。
あいつは、インハイに出れなかった。
出れなかったというより、出なかった。
すべては俺のせいだ。
だから、俺は負けられない。
自分のためにも、クーのためにも。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:40:24.36 ID:2KKyPbW/O
この2週間で、俺は体を完璧な状態に仕上げることができた。
もうこれ以上はない。
だから、不安という感情は、持ち合わせていない。
あるのはこの場にいる喜び、そして闘志だけだ。
あとは、がむしゃらにやるしかねぇんだ。
役員の合図が入り、1500に出る選手はスタートラインにつく。
俺は茶色の地面をスパイクで2、3回蹴り、感触を確かめてから、白い白線の上に足を添えた。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:42:12.71 ID:2KKyPbW/O
('A`)(よし………………っ!)
――――パンッ
スタジアムに反響してこだます試雷管の音を聞き、俺たちは地面を蹴って飛び出した。
まず俺は先頭に立つ。
最初は、先頭に立たねぇと気が済まない。
ずっと人の背中を見て走るなんてまっぴらごめんだ。
そのままコーナーを曲がり、直線に入る。
今日2本目のレースだけど、体は軽い。
腕は振れるし、脚も自然と前にでてくる。
いける。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:44:46.36 ID:2KKyPbW/O
1周目通過、59秒。
軽く流しながら入ったつもりだが、いつもより2秒近く速い。
俺が飛ばすもんだから、後ろは長い列になってきた。
けどぴったり俺についているやつもいる。
足音は二つ。
一人は走りのリズムと足音でわかる。
ストライドの広い、力強い音。
内藤だ。
もう一人は後ろを見て確認する。
そこには、真っ黒な脚が見えた。
黒人、セイジンだ。
こいつ、今日のレース前に挑発的な態度をとってきやがった。
自分が一番速い、だとよ。
どうにも気にくわねえやつだ。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:46:20.79 ID:2KKyPbW/O
だがな、お前は俺についてくることはできねぇ。
頭にイメージが浮かぶんだよ。
お前が俺についていけなくて、離れていくイメージが。
でも、なぜか内藤が離れていくのをイメージできない。
むしろ、俺が離れていきそうな気がする。
('A`)(っ!?)
俺が考えごとをしながら走っていたせいか、ちょっとスピードが落ちてたみたいだ。
セイジンが前に出てくる。
だが、ここでムキになっても疲れるだけ。
ここはセイジンに先頭を譲る。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:47:53.68 ID:2KKyPbW/O
2周目、60秒。
大してタイムは落ちていない。
まだまだ余裕だ。
勝負は1000Mを越えてから。
そっから仕掛ければいいんだ。
俺は内藤を半歩前に出し、第三コーナーに入っていく。
こいつもまだ勝負には出ないみたいだ。
力みのない、やわらかなフォームでコーナーを曲がっていく。
1000Mを通り越した。
2分30秒。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:49:44.43 ID:2KKyPbW/O
('A`)(―――――いくぞっ!)
俺は頭の中でギアをチェンジし、一気に2人を超して前に出る。
そのままホームストレートを走り抜け、ラスト1周の鐘が鳴った。
あと400Mだ。
俺は体の全エネルギーを脚に集中し、爆発させてスピードをさらに上げる。
カーブを抜け、バックストレートに入ると、もう足音は遠ざかっていた。
俺は勝利を確信する。
ラストの数百メートルで離れていくと、もうついてくることは不可能に近いのだ。
あとは残りのすべてを出し切るだけ。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:53:28.82 ID:2KKyPbW/O
俺は最後のコーナーを丁寧に走り、大歓声のホームに入ろうとしてた。
だが、そこで俺の耳が、後ろから歓声ではない、一つの音をとらえる。
あるはずのない音。
スパイクで地面を蹴りつける音。
(;'A`)(―――うそだろ!?)
最初はただの雑音だと思ったが、だんだんその音は大きくなり、
ラスト50Mあたりでは俺に並んでくる。
そしてそれは、内藤だった。
(;'A`)(くそっ!!)
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 21:57:07.39 ID:2KKyPbW/O
俺は必死に脚を動かす。
ここまできて抜かれるわけにはいかねぇ。
だが内藤のスピードは、俺と変わらない。
そして、ほぼ同時にゴールラインを踏んだ。
俺はそのままその場に倒れこむ。
もう立てる余力もない。
脚が、ガクガクしている。
俺は記録を見る。
トラック内のタイマーは3分45秒で止まっていた。
そして内藤がいつもの笑顔で近寄ってくる。
俺は負けたのか?
視界がぼやけてきた。
もう、何も聞こえない。
何も見えない。
何も、わからなかった。
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