三丁目の('A`)ドクオ達のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:20:35.14 ID:U//dxrHUO
子供の相手は得意じゃなかった。
テンションを合わせるのが苦手というか何というか、付き合い方が分からないというか。
離れて眺めている方が僕の性に激しく合っていると思っている。

(-_-)「あー……こら、あんまり走り回ると良くないよ」

足元で転がるようにじゃれている子猫に、そろりと手を伸ばす。
すると銀の毛並みの猫にいきなり手を掴まれ、ボコボコと腹に足で蹴りを入れられた。

Σ(;-_-)「おごごごご」

別に痛くはないけど、一応痛そうに転げ回る。チビ達はけらけらと愉快そうに笑い、また周囲を走り回る。
なかなかこざかしい連中だ。

(-_-)「……。忘れ形見、なのかな」

思わず零した呟きが、ちくりと自分の胸に刺さった。


第二十六話 六月十九日・正午(前)



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:22:32.83 ID:U//dxrHUO
(*゚ー゚)「ん。そこにいるのはヒッキー君、だったかな?」

(-_-)「あ、はい。しぃさん」

背後からゆっくり歩み寄る彼女に、小さく会釈する。
見えてはいないのだろうが、まあ一応。

(*゚ー゚)「面倒見てるんだ、えらいね」

(-_-)「いえ、ハインさんが仮眠してる間だけですよ。僕にはやっぱり向いてないと思います。
    ……散歩ですか?」

頭数が増えている事もあり、跡地の中は多少なりとも張り詰めた空気が漂っている。
その中にいて、彼女はいやに自然体だった。
のん気なもんだ、とまでは思わないが。

(*゚ー゚)「えへ。フサは甘やかしてくれるから、ついね」

しぃは怒られた女の子のように、照れ隠しに舌を出してみせる。
その白濁した瞳で僕の心中を見透かしてでもいるのだろうか。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:24:35.88 ID:U//dxrHUO
(-_-)「まあ、別に良いんじゃないですか。普段は不自由してるみたいですし」

(*゚ー゚)「お、そう言ってもらえると嬉しいなぁ」

しぃは近寄ってきたチビ達の顔をぺたぺたと撫でてやっている。
愛おしげに子猫へ顔を向けながら、呟く。

(*゚ー゚)「この子達、似てるよね」

(-_-)「……ですね。かなり元気ある感じですが」

(*゚ー゚)「シャキッとしてるからシャキンってとこかな? ねー?」

言って、雄の方にぐりぐりと頬をすり寄せながら微笑む。

(-_-)「ああ、良いですね。候補にリクエストしておきますよ」

(*゚ー゚)「絶対そう思ってないでしょ、すっごい棒読み」

(-_-)「はははこやつめ。あ、いやすいません」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:26:48.82 ID:U//dxrHUO
(-_-)「良かったら、しばらくコイツら見ててもらえませんか? ちょっとそろそろその辺り見て回りたいんで」

(*゚ー゚)「うん、やだ」

(-_-)「ありがとうございます、それじゃ──へ?」

(*゚ー゚)「やだ」

何故に。

(*゚ー゚)「だって私、君と話をしにきたんだもの。
     それにそう言って会話から逃げるのは昔のドクオ君の常套手段だったからねー」

(-_-)「……」

今回ばかりはドクオさんを恨んでおくか。

(-_-)「っていうか、僕と一体何を話すんですか。見ての通り話下手なんですが」

(*゚ー゚)「そうなんだろうね、君がそう思ってるみたいだし」

(-_-)「……まあ、事実ですからね」

自分の事は自分が一番分かっている。
影の薄い、留守番には似合いの猫だ。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:29:06.90 ID:U//dxrHUO
(*゚ー゚)「上手でも下手でも構わんよ、私は野営組の子達と話がしたかったんだもん」

(-_-)「忍びねえな、ってこれ逆じゃん。……あの、あなたの事は多少知ってますけど」

(-_-)「言っちゃなんですが、そんな大したもんじゃないですよ? 僕達。特に僕とか。
    ドクオさん達のおかげでなんとか運良くやっていけてますが」

彼女の旦那をのしたのはほぼショボンとブーンとドクオであり、今までの戦いを切り抜けてこられたのも同じく彼らのおかげだ。
果たして彼女の瞳には、僕はどんな猫に見えているのだろうか。

(*゚ー゚)「大したもんじゃないって、それじゃあドクオ君とかは大したもんなの?」

(-_-)「そりゃ……そうでしょう、僕は逆立ちしたってかないませんよ」

(*゚ー゚)σ〃「えい」

Σ(;-_メ-)「あいたッ!? え、いきなり鼻引っ掻いた!! 何で!?」

(*゚ー゚)「ちょっとイラッとしたから」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:32:44.59 ID:U//dxrHUO
(;-_-)(意外と旦那に似てんのかな……)

(*゚ー゚)「皆何やかやと凄い猫みたいに言われてるけどさ。
    別にそんな変わりゃあしないのよ、尖ったとこがあれば、むしろそれが重荷になってたような連中ばかり」

(-_-)「でも、彼らは現に英雄です」

僕は人知れず河原に生まれ、不特定の団体の中で辛うじて生き延びながらも、
競争に勝てず──いや、競いもせず──はじき出され放浪した末、野営組に拾われた。
顔を知る猫はほとんどいない。河原の知り合い達も、恐らくはもう一匹も生きてはいないだろう。

そんな猫は野営組でも僕だけだ。

元々広場を取り仕切っていたプギャーや、各地を渡り歩き交友も広かったミルナ、そしてビロード。
涼しい顔して広場を影から管理していたショボンと、彼に見込まれ次期リーダーと目されているブーン。
そして豊富な知識を持ち、それを生かせるだけの胆力と判断力を持つドクオ。

しかし僕には何も無かった。
いつも広場の隅で、静かに彼らを眺めていただけだった。

(*゚ー゚)「確かに、そう言われることもあるかもね。何でか分かる?」

(-_-)「…………」

(*゚ー゚)「生き抜いてきたからだよ。今まで」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:35:31.05 ID:U//dxrHUO
(-_-)「……」

(*゚ー゚)「ドクオ君もショボン君も、ギコ君も。戦って苦しんで逃げ延びて、何とかここまで来れた。それだけだよ」

(-_-)「……これからどうなるんでしょう」

僕の声は少し、震えていたかもしれない。
その彼らの時代はまもなく終わるのだろう。
少なくとも大きく揺れ動く。
とすれば、僕の居ることの出来る場所は恐らくは無くなってしまう。
あの小さな広場の片隅で、ぼんやり周りを眺めているだけではいられなくなる。

(*゚ー゚)「駄目だよ、子供を見て震えてちゃ。この子らは君達を見て育つんだから」

(-_-)「僕は臆病者なんで」

(*゚ー゚)「無謀になれとは言わないけれど、自信持ってよ。君には──」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:37:31.49 ID:U//dxrHUO
(*゚ー゚)「こんなにちゃんとした眼があるんだからさ」

ぺたりと、横っ面に肉球を当ててくる。

(-_-)「……あなたに言うのは心苦しいんですが、皆大体ありますよ、コレ」

(*゚ー゚)「そーいうことじゃないの。同じ目玉だからって同じ物を同じように見通してるとは限らないよ?」

にっこり笑って、先程引っ掻いた鼻先をちょんちょんと撫でてくる。
ここまで来て、ようやく気付いた。

(-_-)「励ましてくれてるんですか? 何故?」

(*゚ー゚)「励ましっていうか、こんなことでも無ければ君達とは会えなそうだしなぁ。彼の子供だもの」

(-_-)「え、僕の父を知ってるんですか?」

(*゚ー゚)「んーん? 全然」

(-_-)「……??」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:40:02.29 ID:U//dxrHUO
(*゚ー゚)「ともかくさ、ポジティブポジティブ! 元気出して!」

(-_-)「……」

ふと足元を見やるといつの間にかチビ達が二匹集まり寄り添っていた。
僕の懐で気持ちよさそうに寝こけている。

(*゚ー゚)「ね、悪くないでしょ?」

(-_-)「……、そうですね」


ミ,,゚Д゚彡「ああ、こんなとこにいたんだ」

(*゚ー゚)「む」

ミ,,゚Д゚彡「そろそろ戻ろう、いい運動になったでしょ」

(*゚ー゚)「だからそのお婆さんみたいな扱いやめてっつったでしょーが、殴るよ」

ミ,,;゚Д゚彡「ちょ、やめ、ほらよその子が見てんじゃん止めてって痛い痛い痛い」

(-_-)「……」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:42:33.35 ID:U//dxrHUO
じろじろ見るのも気がひけて、なんとなく空を見る。
相変わらずの曇り空は──


(-_-)「!」


空を越え、鳴り響く金属音。
事前に打ち合わせておいた、緊急時のサインだった。

ミ,,゚Д゚彡「今のは?」

(-_-)「緊急の合図です、まず間違いなくヤツでしょう。しかしまさか、こんな真昼に」

(*゚ー゚)「今日、行ってるのはネーノさんの所だよね」

ミ,,゚Д゚彡「あいつのとこか。チッ、数多いぞ……遠いし」

(-_-)(ほぼ神社の真裏、か)

野営組の間ではドクオ指揮の元、ゴーグルが現れた際の作戦を幾つも練ってあった。
そのうちの神社付近での作戦は──かなり無理やりというかギリギリ、と評されたものだった。
しかも戦う環境はほとんど整っていない。出たとこ任せも良いとこだ。

ミ,,゚Д゚彡「……。今から行って間に合うとは考えにくい、移動中のグループもいる。
      警戒を促しつつ、まずはそちらを回収しましょう。ここがバレるとマズい」

(-_-)「……分かりました」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:44:46.55 ID:U//dxrHUO
ミ,,゚Д゚彡「ヒッキーさんは俺と来て下さい、こちらから偵察と守備を回しておきますから」

(-_-)「了解です、行きましょう」

(*゚ー゚)「気をつけてね」

(-_-)「ええ」

足元のチビ達をしぃさんに預け、フサギコの後を追う。

(-_-)(みんな……お願いだから、無事でいてよ)

やはり怯えてしまう僕は後ろ向きなのだろうか。
それでも祈りは祈りだ、こんな僕の神頼みでも、何も無いよりはマシかもしれない。
多分。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:46:11.61 ID:U//dxrHUO
※    ※    ※


('A`)「出来れば、あんたとは別の機会に出会いたかったです」

昼過ぎの街中を、一匹で走る。
というのは嘘だ。
背中には黒いひょろけた猫がのさばっている。
しかしこれが何というか、びっくりするほど軽かった。
上から滑り降りてくる言葉も、熱にうかされているようで、それでいてやけに穏やかで。
まあ、要するに気味が悪かった。

▼・ェ・▼「こんな妙な事でもなけりゃ、犬と猫がくっちゃべる機会なんかねぇだろ」

('A`)「それはそうですけど。何となく」

('A`)「あ。ところで、ちょっと聞いていいすか」

▼・ェ・▼「……? なんだよ」

('A`)「お兄さん、飼い主好きでした?」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:47:50.88 ID:U//dxrHUO
▼・ェ・▼「は?」

('A`)「いや、ちょっと聞きたいなって」

どうでもいいことを。
口には出さず悪態をついて、鼻を鳴らす。

▼・ェ・▼「別に。世話してもらってたから、尻尾振ってたってだけだわ」

('A`)「ははあ。言いましたっけ、俺、今は飼い猫なんですよ。一応」

▼・ェ・▼「へェ」

気の無い返事。
白い豚がそんなような事を言っていたような気もする。

▼・ェ・▼「お前みたいのを飼うなんて、変な奴もいるもんだな」

('A`)「そうっすねえ」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:51:41.96 ID:U//dxrHUO
▼・ェ・▼「で? それがどうした」

('A`)「ん、いいや。おかげで気付けて良かったな、って。変な話ですけど」

含みを持たせて、言葉を切る。
一呼吸置いただけなのか、それとも話すのにも苦労する状態なのか。

('A`)「あいつらって、全員が全員、野良が憎い訳じゃなかったんですよね。
    他にもっと色々苦しい事とか悲しい事とか、嬉しい事とかあんだよなって。
    分かってはいたし、知ってはいたはずなんですけど」

▼・ェ・▼「当たり前だろ。何言ってんだ、馬鹿か」

('A`)「そうですね、当たり前ですよ。でも、俺達はそんなことも忘れてたんだ」

▼・ェ・▼「……。ま、その方が気が楽なんじゃね」

横断歩道にさしかかった。
車の気配も無い小さな道だが、念の為に足を止める。

('A`)「多分、俺を育ててくれた猫も同じことを考えたんだと思います」

黒いのは小さく首を振ったらしい。
髭の先が毛並みにかすめる。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:54:24.66 ID:U//dxrHUO
('A`)「あいつは知るのが怖いと言っていた……いいや、本当は知ってたんだ。
    知ってしまったことを後悔していた。だから俺達には教えなかった」

▼・ェ・▼「……」

('A`)「きっとそれだけが、あいつが俺達に対して遺さなかったものなんだ。
    どんなに言葉を尽くしたところで、俺達は奴らを敵以外の何者とも思わない。
    所詮は野良だから」

黒いのはうわごとのように呟き続ける。
俺の足はとうに歩道を抜け、次の区画へと進んでいた。

▼・ェ・▼「それの何が悪いんだ? 良いじゃねえか、奴らを化け物だと思っても」

奴らは俺達の頭上を跨いで生きていく。
それに疑問を挟む余地も無いだろう。

('A`)「そうだとしても。愛想をつかすかつかさないかは、各々が決めるべきなんだ、でなければきっと──」

▼・ェ・▼「まどろっこしい物言いしやがるなァお前。要するに、ひでぇ目見ても人間好きな馬鹿がいりゃあ何か変わるとでも言いたいのか?」


('A`)「………………」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:56:15.65 ID:U//dxrHUO
('A`)「そっか。なるほど」

▼・ェ・▼「んだよ」

('A`)「……いや、つくづくショボンにはかなわんな、と思って」

▼・ェ・▼「ああ? 黒ブチ?」

('A`)「なんでもないす」

それきりぷっつりと黙り込んでしまった。
えんえん頭上で喋られるのも鬱陶しいが、静かになったらなったでそのまま死にそうなので怖い。
怖いというかウザい。

▼・ェ・▼「何でもないじゃねェだろ、おい」

顔を上げかけたところで、俺の耳が異音をとらえる。
出どころは遠い。
しかし犬猫にとっては、東区中に響かんばかりのけたたましい金属音だ。ガードレールでも殴ったか?
同じく聞いたであろう黒いのが、小さく吐き捨てる。

('A`)「チッ、くそ」

▼・ェ・▼「何だよ、合図か?」

('A`)「ええ。奴が出たみたいです……早すぎだろJK」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/26(日) 23:58:55.50 ID:U//dxrHUO
▼・ェ・▼「神社の向こっ側か? おめーらの縄張り分布はよく分かんねェ、案内しろよ」

('A`)「…………」

▼・ェ・▼「……おい、どうした。死んだか」

('A`)「死んでません。……予め作戦を立ててあるんです、そっちには行きません」

▼・ェ・▼「んじゃどこ行くんだよ。神社か? 馬鹿女使ったら逃げられるだけじゃねえのか」

('A`)「その神社に行きましょう。そしてそこで決着をつける。俺達の手で」

▼・ェ・▼「……」

黒いのの声音は血の巡りの悪さに震えてはいたが、いたって平静だった。
だが、良いのか?それは──

▼・ェ・▼「ツレを見捨てるってことになるぞ」

('A`)「違う」

('A`)「信じるんです、あいつらを」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/09/27(月) 00:00:29.69 ID:Quvr++7WO
('A`)「俺もじきにいなくなる。それでも奴らは生きていく──それを信じます」

▼・ェ・▼「……へぇへぇ、大層なこった」

重苦しい吐息と共に、俺は一歩、大きく足を踏み出した。

なにか物凄く鬱陶しいものに巻き込まれている気がするが、ひょっとして今更なのだろうか。今更だな。
ともかく俺は足を進める。
小難しい事は考えずに。


▼・ェ・▼(化け物、ね)

▼・ェ・▼「得体の知れてる化け物ってのもおかしな話だよなァ」

('A`)「……なんか言いました?」

▼ーェー▼「いいや、別に」


第二十六話 終



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