('A`)ドクオが現実をスクゥようです

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:06:00.12 ID:DqXwakWhO

1st_anchor.

「そうだ、京都に行こう!」

 ディスプレイに浮かぶ文字が、恨めしげに俺を睨む。

「あーあ、何してくれちゃってんだよ……糞スレばっか立てやがって……」

(;'A`)「いや、ちょっと……すみません」

 脳内でオート再生される声。
 それは俺が自分のパソコンに宿した声。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:07:28.12 ID:DqXwakWhO

 当初の設定では、「幼女の姿をしているが、実は幼なじみ。
その実、猫の魂を持った吸血アンドロイドで、しかも、メイド。
尚且つ、義理の妹で、更に多重人格」だった筈が、
気付けば胡散臭い、かつ説教臭い喋りをする奴になってしまった。
 大丈夫か? 俺の脳内。
 極めて深刻な自問自答は例によって、そのパソコンに遮られる。

「良いか? まずは自分で立てたスレのタイトル見てみ?
わかる? これな、ブーン系小説、って言うんだぜ?」

 自らのパソコンに促されるまま、再びモニターに目をやる。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:08:31.77 ID:DqXwakWhO

 そこには間違いなく、俺の立てた「('A`)ドクオが現実をスクゥようです」と言うスレが存在した。

(*'A`)「ふひひっ、わかる? この『スクゥ』な、『救う』と『巣喰う』を掛けてんだぜ?」

「いや、死ね。氏ねじゃなくて死ね。小さい『ゥ』がまた腹立つ」

(*'A`)「それは、アレですよ。某セールスマンへの敬意とも言うべき――」

「黙れ。じゃなくてな、何でまた『小説』よ? お前、文才ないだろ?
最近のブーン系小説は糞シビアなんだよ。」

(;'A`)「あー、いやー……何か伝えたいなぁ、と……」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:09:30.53 ID:DqXwakWhO

「はぁ? じゃあ、伝えてみろよ?」

(;'A`)「……え? あー、いや、ねぇ?」

 思いがけない一言に若干たじろぐ俺。
 とは言え、最近の「ブーン系小説事情」とやらは薄らと知っていた。
 誰かが「排他的」と称した現状は得てして言えている、かも知れない。

 たじろいでみたのは、言わば「ノリ」と言うやつで、
実際には何の問題もない。何の問題もない。

「ま、頑張れよ。って言うか、『op』の段階で微妙だけどな。チラシの裏にでも書いてろ」

(;'A`)「……うるせぇ」

 内容に関して突っ込まれると、今一反論する気になれない。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:10:23.26 ID:DqXwakWhO

 俺は、余り深く考えない様にして、キーボードに手を置いた。

「って言うか、俺、パソコンじゃないけどな。キーボードでもないし」

(;'A`)「『パソコン』って愛称なんだよ。じゃあ、携帯の、このボタンの所、なんて言うんだよ?」

「キー……プレート?」

(;'A`)「聞くなよ。しかも、キングダムハーツかよ」

 パソコンを黙らせて、俺は再び思考する。
 ――「伝えたい事」ってなんだ?
 空の青さ? 命の尊さ? それとも、練炭の入手先?
 いっそ、「萌え」について語り明かすか?

('A`)「いやいや……」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:12:59.95 ID:DqXwakWhO

 正味の所、「伝えたい事」は確かに存在した。
 ただ、それは実に不確かで、曖昧で、漠然とした、形のない「不安」包まれている。
 「伝えたい事」、それは、嘘ばっかりの現実だった。

('A`)「はぁ……分かんねぇよなぁ……」
 俺を含め、この世に存在する人間は大なり小なりの悩みを抱えている。
 実はそれも、長い目で見ると下らないものなのかも知れない。
 ――ただ、「今」不安なんだ。
 幸せな時間もいずれ終わる。悲しい過去もやがて癒える。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:17:04.84 ID:DqXwakWhO

 その先に構えている「未知」が俺は怖くて怖くて仕方なかった。
 例えば、思想家が、哲学家が、宗教家が、それを否定する。

「未来は希望に溢れている」

 例えば、ミュージシャンが、漫画家が、そして俺がそれを否定する。

「大丈夫」

 どれもこれもが、素晴らしかった。
 実に前向きで、俺は少し泣いた。
 ――そして、それら全てを「夜」が否定した。

「死ぬしかないよ。死ぬしかないね」

 聞こえるんだろう? 俺以外の全人類にも。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:18:27.00 ID:DqXwakWhO

 明るくて人気者のお前にも、トイレで飯食ってるお前にも。ひたすら「w」を連打するお前にも。

('A`)「なぁ、パソコ……聞こえるよな?」

「うるせぇ、厨二病。キメェんだよ。グダグダ言ってないで、早く書けよ」

 だから、俺はそれら全て――何故か無性に恐ろしい夜も、
息の詰まる教室も、偽物の希望も、生も死も――その全部を否定してやろうと思うんだ。
 勿論、俺は俺で弱小生物に他ならないさ。
 でもさ、お前らとならやれると思うんだ。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:19:19.58 ID:DqXwakWhO

 だから、ちょっと付き合ってくれよ。

「は? 『付き合ってくれよ』? 安価? バカ?」

(;'A`)「いやいや、悩んだ末の――」

「『うわーん! 書き込み一桁で落ちたよー! パソえもーん!』」

(;'A`)「不安、煽んなよ……」

 今更、何を言ったって、もう引けない。
 汗ばむ手をズボンに擦りつけて、俺はボタンを押した。

('A`)「『何となく不安になるもの、怖いもの、その他、お前らの絶望を書いてくれ』、と……」

 その文字列は瞬く間にパソコを通じ、仮想現実の世界へ飛ばされた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:21:00.19 ID:DqXwakWhO

「何となく不安になるもの、怖いもの、その他、お前らの絶望を書いてくれ
>>30」

 ――纏めて塗り替えてやんよ。

1st_anchor...end.

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 20:29:40.36 ID:drR8ODLF0
明日が来ること



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