('A`)ドクオが現実をスクゥようです

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 23:30:56.09 ID:DqXwakWhO

3rd_i.

('A`)「……鳴んねぇな」

 ――ゆっくりと流れる雲。俺は空を見ていた。

「鳴る筈がない。お前の携帯だぞ?」

(;'A`)「うっわ……お前、うっわぁ!」

 穏やかな九時過ぎ。初夏を思わせる風が、汚い網戸を抜けて空気を揺らす。
 ――まぁ、つまり、「風が吹いた」だけなんだけど。
 しかしながら、俺は気付いてしまった。それは、遅過ぎたのかも知れないが、とにかく気付いてしまった。

('A`)「ペロ……これは脳内麻薬!」

 こいつを上手く操れば、俺は――無敵。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 23:31:45.35 ID:DqXwakWhO

 そうと知れば、ただの風も「優しい空気の流れ」、「気流」、「繋がり」、そして永遠に――

「いやいや、キメェから。風だから」

('A`)「なぁ……『こなた』やって?」

「悪いっ! 『ハルヒ』なら行けるんだが……」

(;'A`)「そっちでも良いけど……」

「あ、今、無理になった」

(#'A`)「……」

 詰まる所、俺は満たされていた。
 友達がいなくても、職がなくても、もし、明日死んでしまっても良い様な気がした。

(*'A`)「つまりさ、全部妄想なんだよね」

「……っ!?」



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 23:32:42.48 ID:DqXwakWhO

(*'A`)「ようやく気付いたよ。世界の中心は俺だったんだ」

「……」

(*'A`)「だからさ、世の中が腐り切ってるのも俺のせいなんだよね。
   つまり、俺が死ねば全部解決!」

 俺が高らかに叫ぶと同時、パソコは控えめに声を上げた。

「まぁ……座れよ……」

 促されるまま、俺はベッドに腰掛ける。
 気分は至って晴れやか、もしかすると、これが「悟り」と言うやつかも知れない。

「なぁ……それ、『躁』……じゃね?」

 部屋の空気は一瞬にして停止した。
 たっぷり三秒の間を置いて、パソコは話し出す。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 23:33:35.28 ID:DqXwakWhO

「良いか? お前は『世界の中心』なんかじゃない。脇役だ。エキストラだ。路傍の石だ!」

(;'A`)「そこまで言わなくても……」

「いや、聞け! 死ね! マジで」

('A`)「イジメ、カッコ悪い」

「それ、『イジメられる奴が格好悪い』って意味なんだぜ?」

('A`)「あ、俺、用事思い出した。ちょっと死んでくる」

「ちょ、待てよ!」

('A`)「待て、と言われて待つバカはいない!」

「待ってんじゃねぇか」

('A`)「何でも良いよ。どうでも良いや……たまには散歩でもどうよ?」

「数年振りだな……娑婆の空気は」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 23:34:24.81 ID:DqXwakWhO

('A`)「通報した」

 そして、家を出て、道に出る。
 そこでは、よりリアルな風が感じられた。
 パソコを後ろのポケットに入れて、俺は適当に歩き出す。

('A`)「なぁ、『路傍の石』は生きるべきなのか?」

「……そんなの、石が勝手に決めるさ」

 今、俺の足元には数え切れない程の石が転がっている。
 こいつらは何が悲しくて、こんな所に、転がってるんだ?

('A`)「……お前らは死にたいのか?」

「喋んねぇだろ……常識的に考えて……」



100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 23:36:28.07 ID:DqXwakWhO

(;'A`)「『常識』を語る携帯の存在が非常識な件……」

「誰のせいで喋ってると?」

('A`)「知らないよ、っと……」

 俺は、目に付いた石を拾い上げて、その場を後にする。
 ――そして、気が付けば自室。

「短い散歩だったな」

('A`)「……聞こえないぜ」

 物置と化した学習机に石を置き、俺は対面に腰を下ろす。
 何の個性もない、あり触れた灰色の石。

('A`)「俺、今日からこの石、大事にするわ」

「バカだろ。石の恩返し狙いか」

('A`)「うっせ。洗って来る」



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 00:05:45.72 ID:clvHdcaUO

 何の個性もない、あり触れた灰色の石。
 いつだったか、それが俺の宝物だった時期があった。
 登下校中、俺はいつもそいつを握り締めていた。

('A`)「(三六五日、毎日続けたら願いが叶う……叶う)」

 一人ぼっち、そんな愚かな自分ルールの下に。
 そういえば、あの石はどこに行ったんだっけ? あれから、願いは叶ったんだっけ?

('A`)「あれ? 俺……何を願ったんだ?」

 手中にある石に問い掛ける。

「返事はない。屍のようだ」

('A`)「……」



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 00:06:48.84 ID:clvHdcaUO

 無機質な石は、輝く事もなく黙り込んでいた。
 それは、酷く儚い。凄く儚い。

('A`)「あーあ、……忘れちゃった」

 俺はそれを念入りに拭いて、机に飾ってみた。立派に見えなくもない。

('A`)「なぁ、何とかして、こいつ喋んねぇの? お前、喋るじゃん」

「愛だよ」

(;'A`)「うわ、あれ……お前、そんなキャラだっけ?」

「うっせ。名前でもつけろよ」

 そんな事を言って、パソコは黙り込んだ。どうやら照れている様だ。

「うっせ」

('A`)「うっせ。名前か……」



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 00:10:09.60 ID:clvHdcaUO

 数分間、悩んだ末に、その石の名前は決まった。
 ついでに「願い」も新たに決めてみた。
 馬鹿馬鹿しい事は知っていたが、誰が見ている訳でもない。

('A`)「なぁ、佐々木……?」

「なぁ、それ、やっぱキモイぞ?」

('A`)「うっせ。今なら壁抜けも容易いぜ」

「突っ込んで死ね」

('A`)「はっ、上等」

 ポジティブのススメ。
 いつもより穏やかな夜が来た。
 なぁ、あの頃の石。
 あの頃の俺は、今より少しは純粋だったのか? 素直に笑えてたのか?
 今の俺は、もう全くダメだよ。何もかも全部が話しにならないよ。

「何、ニヤニヤしてんだよ」

('A`)「……はっ」

 そして、街にはいつもより穏やかな夜が来た。

3rd_i...end.



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