('A`)ドクオが現実をスクゥようです

136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:46:33.80 ID:clvHdcaUO

4th_at F.

 夜が来た。
 それは暗い、静かな夜だった。
 迂闊にも、俺は現実を見た。
 浮かれていた。ただ、ほんの少しの希望が見たくて、余りにも迂闊に顔を上げた。

「もう、死ぬしかないね……」

( A )「止めろよ……」

「気付いてるんでしょ? ちゃんと自分を見てみたら? ……終わってるよ」

( A )「気付いてるさ」

「それは良かった。君、気持ち悪いもんね」

( A )「……」

 更に、迂闊にも俺はあっさりと呑まれた。
 死にたい、と思った。誰かが殺してくれたら、と思った。



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:47:35.06 ID:clvHdcaUO

 ――最期まで他力本願な俺は、やはり死ぬべきだ、と思った。
 そして、やはり朝が来た。

「おい、朝っぱらからどこ行くんだよ」

 深くて濃い霧が、幻想的に朝を包む。
 ここに、「夜」は存在しない。

「おいって! なぁ?」

('A`)「……」

 俺は答える事なく、歩いた。目的地は決まっている。
 六月とは言え、朝方はまだ少し寒い。

「それが『生きてる』って事だろ?」

('A`)「……下らねぇんだよ」

 携帯電話はそれきり黙り込んだ。



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:48:40.92 ID:clvHdcaUO

 もう、目的地は見えている。徒歩五分、高校生活、三年間を過ごした母校。
 この界隈は酷く廃れていて、一番高い建物がここだった。
 三階建ての校舎は静まり返っていて、まだ誰も来ていない事を裏付けている。

('A`)「懐かしいな……」

 実際の所、まだ卒業してから一年しか立っていない。
 卒業後、俺は五年間過ごした故郷を出て、就職した。
 そこは酷くつまらない、夢も希望もない世界だった。

('A`)「笑えるよな。甘えんな、ってだけの話だ」

 一人呟いた声は、朝の空気に溶けて消えた。



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:49:29.71 ID:clvHdcaUO

 静けさを壊さないように、校門を乗り越える。着地の音がしつこく、しつこく響いた。

('A`)「なぁ……?」

 尚も響いて、何故だか視界が少し曇る。
 ――静かだ。
 妙に現実味に欠ける世界だった。

('A`)「聞いてる? 俺さ、昔は早く大人になりたかったんだ」

 校舎の裏手を目指して歩く。

('A`)「独立って言うの? 子供って、色んなこと規制されるじゃん」

 左右に植わるパンジー達が不気味に俺を睨みつけた。



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:51:15.18 ID:clvHdcaUO

('A`)「わかる? 親にフルボッコされんのも楽じゃねぇんだ……わかんねぇか」

 校舎の裏、体育館の手前、そこには梯子があった。
 そして、屋上はいつだって、封鎖されていた。
 ありとあらゆるフィクションで神聖化された、そこは、俺の世界には存在しない。
 目の前の梯子に手を掛ける。
 この先に待つのは、体育館の上。
 屋上と呼ぶには余りに貧相な空間。

('A`)「それで、小学生になった。この頃から親は空気になった」

 半分程、登った所で下を見る。
 霧のせいか、既に地面は滲んでいた。



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:54:22.51 ID:clvHdcaUO

('A`)「幼稚園児が小学生になったって、自由度は変わんねぇのな。
   だから俺は中学生になるのを待ったんだ……」

 屋根の縁を掴んで、体育館の上に上がる。目の前がやけにフラフラした。

('A`)「中学生になりました。いじめっ子がパワーアップしました」

 膝を付いて下を見る。恐らくは、そこそこ高いんだろう。見えないけど。

('A`)「終いには、何事もなく大人になりました……次は何を目指せば良いんだ?」

 遠くで太陽が燃えていた。
 空、全体が虹色に染まる。
 ますます全部が嘘みたいだ。



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:55:32.38 ID:clvHdcaUO

 ポケットから携帯電話を取り出す。
 昨晩、充電するのを忘れていたのか、電池は切れていた。

('A`)「ずっと憧れてたんだ、屋上……」

 物語の中で、そこはいつでも光に満ちていた。
 ――ただ、俺にはもう、縁すらないんだけど。

('A`)「なぁ……」

 ひたすらに静かな時間が流れた。
 空は完全な水色に、下では学生がやる気なさ気にはしゃいでいる。

('A`)「自殺ってムズイのな。何もかも、やる気失せたわ……」

 立ち上がって伸び、背骨が愉快に鳴った。
 ――帰ろう。
 帰って、こいつと話をしよう。



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 01:57:22.48 ID:clvHdcaUO

 手の中の携帯電話を見た。
 未だに剥がせずにいる画面の保護シールは、どうしようもなくボロボロだった。

('A`)「……」

 そうだ、早く帰ろう。
 それはきっと、愉快な時間だった。
 ただ、俺の意志は尊重されず、俺の足は淵へと向かうのだけど。
 あぁ、――

 ――そうだ、早く、帰らなくちゃ。

4th_at F...end.



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