('A`)ドクオが現実をスクゥようです

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:21:31.84 ID:clvHdcaUO

5th_tuka.

 息を吐いて、吸って吐いた。
 擦りむいた腕からは赤い血が滲む。
 「それが、生きるって事さ」。誰かが、そんな事を言った。
 ――それで、何?
 それを知れば、明日からも生きていけるのか? そうなのか?
 「お前は明日も生きてるよ」。誰かが、そんな事を言った。
 俺は俯いて、必死に言葉を探していた。

「いつまで黙ってるの?」

 眼前からの声に、ゆっくりと顔を上げる。
 そこにいたのは、所謂「教師」だった。

('A`)「……すみませんでした」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:23:22.26 ID:clvHdcaUO

ξ゚听)ξ「『謝れ』って言ってるんじゃないの。
    どうして、卒業生の君が体育館の上にいたのかを聞いてるの」

 プレハブの質素な部屋には重く暗い空気が。この問答は何度目だ?
 教師は高圧的な態度をもって、執拗に俺を睨みつける。

 ――そうだ、帰ろう……。

 眼下に絶望が広がった。
 ここは「屋上」ではなく、飽くまでも「体育館の上」。
 人が登る事など想定されていなければ、当然、転落防止のフェンスも存在しない。
 俺は足元に目をやる。正に「後、一歩」だった。

「もう少しで全部、終わりだな」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:25:00.68 ID:clvHdcaUO

「また逃げるのか」

 二つの声が、どこか遠くで重なった。
 ――そして、更なる声が、全てを霧散させる。

ξ;゚听)ξ「ちょっとッ! そんな所で何やってるの!」

 俺は、何かが遠ざかる気配を感じた。それは喜ばしい事で、同時に悲しい事だ、そんな気がした。

ξ゚听)ξ「あなた、去年の卒業生よね……職員室まで来なさい」

 何故か、ぼんやりと白く歪んだ意識の中、気が付けば俺はここにいた。
 灰色の机、重なる資料、飾りと化した竹刀。いるのは俺と教師だけ。
 ここは「体育職員室」。六畳ほどの、言わば「見張り台」だ。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:26:12.57 ID:clvHdcaUO

 俺は自らの状況を思い出し、視線を教師へと戻す。

('A`)「ちょっと登ってみたくて……」

ξ゚听)ξ「バカね……危ないから駄目です。分かった?」

 俺は「はい、すみませんでした」と言って、頭を下げた。
 教師は「反省してるのなら宜しい」と笑って、腰を上げた。

 ――こいつ、誰だ?

 目の前の女は、どうやら二十代に見えた。
 俺の記憶にはやはり、登場しない人物で、ともすれば最近、余所から来た教師だろう。

('A`)「ふぅ、それじゃあ……」

 俺は、そこで思考を放棄して、回れ右。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:28:32.47 ID:clvHdcaUO

 昔から「職員室」だの「教師」だのは苦手だった。
 明らかに違う階級をひけらかし、横暴に理不尽に振る舞う、その態度が気に食わなかった。

('A`)「失礼しました」

 教師がこちらを見て、何かを言おうとしていた。
 俺は静かにドアを閉めて、校門までの道を急ぐ。
 そうだ、俺は帰らなくてはならない。
 俺は極めて「現代人」だった。携帯電話の電池が切れるだけで、そわそわと落ち着かない。
 無意識の内に、機能しないそれをポケットの中で握り締める。

('A`)「……?」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:32:59.66 ID:clvHdcaUO

 そして、それは「振動」した。
 慌てて取り出すと、サブディスプレイが点滅している。

('A`)「あれ……電池切れてたのに……」

「俺は電池じゃ動かねぇよ。出ろよ、電話」

 携帯電話は呟いて、より一層強く揺れる。
 画面に表示されている名前を見て、俺は再びそれを閉じた。
 静か過ぎる学校に、その音が一際立つ。

「出ないのか?」

('A`)「まぁな……今、授業中なのか」

「さぁな」

 門を抜けると、霧は晴れて、どこまでも平凡な景色が続いていた。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:35:58.49 ID:clvHdcaUO

 こうなると実に退屈な景色だ。

「贅沢だな……夜は怖いが、昼は暇、と」

('A`)「……まぁな」

 投げやりに答えて、反芻する。その言葉は、限りなく的を射ていた。

('A`)「……本当だな」

「本当だ」

('A`)「本当に……」

 何度も繰り返し再生される声を聞きながら、俺は帰路に着いた。

5th_tuka...end.



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