('A`)ドクオが現実をスクゥようです

21: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:11:17.31 ID:UusoYdpuO

 その日、俺はやはり悶々と、迫り来る敵に怯えていた。

('A`)「……」

 それでも、その日、俺は少しだけ期待していたんだ。
 薄汚れた制服に身を包まれて――

8th_RAT land.

 若い力、グラウンドの怒声、鳴るチャイム。
 その日、俺は「学生」だった。

「それでねー、マジ凄いの!」

「うっそーっ? それヤバくない?」

 一日の終わり、ホームルーム。
 馬鹿みたいにでかい声で騒ぎ立てる女子と、それに群らがる不良気取り。

('A`)「……」

 俺はそれらが嫌いだった。



23: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:12:38.62 ID:UusoYdpuO

 それは僻みだったのかも知れないが、とにかくそれらが嫌いだった。

「――以上。おい、係り?」

「起立、……礼」

 「さようなら」を挟んで教室は、再び喧騒に包まれる。
 俺は素早く支度を済ませ、教室を出た。
 一日中、寝た振りを続けるのも、意外と骨が折れる。

('A`)「うちの高校にも文芸部があればなぁ……」

 そんな事を呟いて、常日々を誤魔化していた。

「あっ、先輩! もう帰るんですか?」

('A`)「あ……」

 こんな日々の中、その実、希望は存在する。



24: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:14:19.20 ID:UusoYdpuO

 「高校生」という付加価値は、確かに存在した。
 俺の立ち居振る舞い一つで、日々を変える事が可能だった。
 そして、俺はその術を知っていた。

「また、ライブする時は呼んで下さいねっ! それじゃ!」

('A`)「……うん」

 ――ただただ、深く知っていた。

 同時に、それだけだ。
 その日――俺は「バンド」なんかを組んでいた。
 「何かを表現出来れば、こんな俺にも存在価値が生まれるんじゃないか?」、
そんな妄想に捕らわれて、バンドなんかを組んでいた。
 結局の所、それは間違っていなかったのかも知れない。



25: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:15:11.01 ID:UusoYdpuO

 友達ごっこの延長でメンバーを集め、適当な奴にチケットを売る。
 世間の俺を見る目が「暗い奴」から「何か凄そうな奴」に、ほんの一瞬変化した気がした。
 しかし、その一連の作業に、俺が求めた「何か」は存在しなかった。
 やがて、罪悪感にまみれた俺は「終わりにしよう」と結論を出し、
「どうでも良い」とメンバーが消えた。

('A`)「『友達ごっこ』、悪くなかったよ……でも、
   お前らはどうでも良かったんだな……」

 そんな風に、甘酸っぱい日々は確かに存在した。



26: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:16:12.80 ID:UusoYdpuO

 台無しにしたのは、加害者は、その日も俺だった。

「先輩、実は私っ、……先輩の事が――」

('A`)「何が? バンドが? そんな奴、世界中に腐る程いるよ。
   俺である必然性がまるでない……良いよ、そういうの」

「……すみません」

 そうして走り去って行く彼女の背中を、ただぼんやりと眺めていた。
 その後、彼女が泣いていた事も知っていた。

( A )「俺も……君が好きだったよ」

 そんな風に、甘酸っぱい日々は確かに存在した。
 台無しにしたのは、加害者は、その日も他ならぬ俺だった。



27: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:19:00.02 ID:UusoYdpuO

「やっと、来てくれましたね……先輩」

 ――そして、時間軸は「現在」へ。

 もうじき夜がやって来る。
 太陽は赤く燃え落ちて、西の空を微かに焦がしていた。

('A`)「ごめん……」

 錆びたブランコ、鉄棒、滑り台。
 この時間の公園は閑散として、何故か切なさが込み上げる。

(*゚ー゚)「『地元に戻った』って聞いて、いてもたってもいられなくて……
    迷惑でした?」

 彼女は――まだ俺を好いてくれている様だった。



28: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:19:53.04 ID:UusoYdpuO

 あの日以降も頻繁に連絡をくれたし、分かり易い程に、俺を好いてくれている様だった。
 ――俺は彼女さえも恐れた。
 その連絡はどうしたって途絶える事はなかった。
 逃げても、逃げても執拗に俺を追い回す。
 何の悪意も感じられない、ただ純粋なそれさえも、俺にはただ恐ろしかった。

('A`)「ごめん……『無理』なんだ」

 俺は人から好かれるべき人間ではなかった。
 「良い所」なんて一つも存在しない。
  俺は十分それを自覚していた。



31: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:21:44.29 ID:UusoYdpuO

 それを俺は、あの手この手で繕って、嘘ばっかりで塗り固めて、

(*゚―゚)「どうして……」

('A`)「……『無理』なんだ」

 騙しているんだ。卑怯者なんだ。

('A`)「嘘なんだよ……全部」

 ――どうしようも、ないくらいに。

( A )「……ごめん」

 彼女は俯いて、随分経ってから去っていた。小さく「最低」と残して。
 そして、それは二度目の事だった。

( A )「馬鹿だな……俺。全然成長しねぇ……
   なぁ、俺、どうしたら良いんだろうな?」

「……『うほっ』?」

 空気を読めない携帯電話は控え目に呟いた。



32: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:23:25.64 ID:UusoYdpuO

 実はそれが、こいつに取って最大限の配慮である事を知っている俺は、少しだけ笑って無意識のうちに呟いた。

( A )「どうしようもねぇよ……」

 そんな風にして今日は終わる。
 随分と悲しい事に思えたが、俺の目から涙が零れる事はなかった。

「なぁ、……どうしたら良いんだろ?」

 「そうして大人になるんだ」。
 そんなありきたりなフレーズが、やたらと廻る夜だった。

8th_RAT land...end.



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