('A`)ドクオが現実をスクゥようです

34: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:26:46.39 ID:UusoYdpuO

 物語は加速する。
 静かに、存在する物質全てに気付かれぬ様、スローに。
 そして、例外なく見逃されたストーリーがそこには確かに存在した。
 「彼」は静かに瞑想する。
 ただ、「ハッピーエンドであるように」と。

9th_Jade&Lapislazuri.

 俺の人生は退屈で平凡で、恐らく、明日も明後日も、十年後もそれは変わらない。
 平均寿命から察するに、まだ人生の三分の一程度も生きていない俺にも、
それは十分に推理できた。
 推理、と呼ぶからには、まだこの「問題」を掘り下げて行く必要がある。

「下らねぇな」



35: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:27:34.39 ID:UusoYdpuO

 それこそ最高に下らない。
 それすら最低に下らない。
 行き着く果てはいつだって同じだ。

('A`)「はいはい。どうせ下らない、退屈な人間ですよ」

 それは、自己卑下。
 心理学的に、これは現実逃避であり、自己擁護であり、そして未来保険。
 更に言えば、物事に結論を求める事すら、
人間が持って生まれた逃避本能でしかないらしい。
 つまり、俺の人生は退屈で、それは俺自身が退屈だからで、その結論は間違った逃げ口実らしかった。

('A`)「でも、まぁ……」

 そこまで。



36: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:28:43.15 ID:UusoYdpuO

 精々そこまで。
 ここに至るまでの、自分が間違っている、と気付かせてくれるまでの「手」は腐る程に存在した。
 書店に行けば、そんな感じの哲学書が並んでいたし、
ネットで「ググれば」そんな感じの資料には事欠かない。

「そっから先は逃げらんねぇぞ。お前は『試される』のさ」

('A`)「大層な神様だな」

 さて――どうしよう?
 退屈凌ぎに悩んだ挙げ句、無闇に足掻くと「試される」と来たもんだ。
 残念ながらクイズに正解した所で、賞品も旅行も、タワシすらも贈呈されない。

「勉強は自分の為にするんだぜ?」



38: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:29:40.85 ID:UusoYdpuO

('A`)「小学生ん時に聞き飽きたよ」

 さて、あの日俺は何て答えただろう。
 素直に頷いたかも知れないし、「御国の為です」と、宣ったかも知れない。

 ――いや、それは「今」、関係ない。

 俺は深く空気を吸って、再び画面に目を落とす。

『もう死にます。さようなら』

 それが。
 今。
 唐突に、不意打ちに、
 託された問題だ。

('A`)「あるある……」

 吸った息を吐き出すついで、呟いて、時計を見た。
 時刻は四時を少し回った所。

「……どうするよ?」

 ふぅ、と更に吐き、俺は部屋を飛び出した。



39: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:32:57.03 ID:UusoYdpuO

 午後二時。憂鬱なる月曜日。
 それは残酷なまでの現実となって、携帯電話を揺らした。
 すぐに鳴り止んだ所を見ると、どうやらメールらしい。

「流石にもう鳴んねぇと思ってたが……」

 誘われる様にメールを開く。
 メールは昨晩、再会し、そして別れた女からだった。

『昨日はごめんなさい』

 素っ気ないまでに短い文章。
 彼女は元々、一切「絵文字」などを使わないタイプの人間らしかったし、
然したる違和感もなく思う。
 多分、きっと、恐らく。

「今回も無視か?」



40: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:33:45.90 ID:UusoYdpuO

 ――俺は彼女に返信した事がなかった。
 大した理由はない。
 ただ、漠然とした「利害」と、本当に些細で、微妙な「恐怖」。

「ビビんなよ。これが『釣り』に見えんのか?」

('A`)「まさか……」

 正味の所、俺にはそれが十分「釣り」に見えた。
 それを口にしなかったのは、同時にその疑いが、自分の歪み、愚かさ、怯えである事も知っていたからだ。

「今回も勝ち逃げ――いや、逃げ勝ちか。それで茶を濁すのか?」

 「彼女は二度も、チャンスをくれたのに」、そう言った矢先、再びケータイは鳴った。



42: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:35:34.84 ID:UusoYdpuO

「これが、三度目かもな。言うだろ? 仏の顔も、なんとやらってな」

 「二度あることは、なんとやら。三度目のなんとやら」、携帯電話は曖昧に唄う。
 聞こえないふりをして、メールを開いた。

『いま、学校の屋上にいるよ』

 たったそれだけ、書かれていた。

('A`)「それが……どうしたって言うんだよ」

 どうしようも、ないのだけど。
 どうも、しないのだけど。
 正味の所、返信するだけの理由は十分に、十分過ぎる程にあった。
 本来なら謝るべきは俺なのだから。



43: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:36:44.54 ID:UusoYdpuO

「何だ? 一丁前に反省でもしてんのか?」

('A`)「まぁ……」

 ただ、漠然とは反省していた。
 しかし、「あれ」が俺の嘘偽りない本音であり、それを「最低」だと称したのは彼女だ。

「可愛気のねぇ……」

 それでも俺は反省していた。
 例え嘘でも、そんな気持ちが存在する事実は認めよう。

('A`)「でも、まぁ……返信は良いや」

「逃げたな」

 口うるさいケータイを半ば放り投げ、時間が過ぎて行くのを見ていた。
 時計の針が四時を指す。

 ――こうして一日は終わる筈だった。



44: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:38:57.35 ID:UusoYdpuO

「へぇ――ヤケに必死じゃねぇか」

 言われて気付く。
 呼吸はずいぶん乱れていたし、五月の中途半端な日差しに、汗も酷い。
 何をこんなに必死になっているんだ?

「しかし、まぁ、ずいぶんとフィクションじゃねぇか。好きだろ? こういうの」

 「病む少女とヒキコモリ」? 余りに陳腐だ。

(; A )「ハァ……何、やってんだろうな」

 俺は家を飛び出し、そして、校門の前にいた。
 つい先日、訪れたばかりの校舎は平日であるせいか、活気に溢れている。

 ――何をやっているんだろう?



47: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:40:27.06 ID:UusoYdpuO

 それは、正に「今更」だ。笑える程に、何もかもが、今更だった。
 今まで散々無視して来たメールに、今回たまたま「死ぬ」と書かれていただけの事。
 今まで散々疑って、傷付けて、振り回して来た彼女が、今回たまたま「死ぬ」という言葉を使っただけの事。

「下らない。実に下らない。なぁ、そう思うだろ?」

 それは――その通りだった。
 こんな事は、いかにも何でもない。
 何がどうであれ下らない。
 俺は彼女が死んだ所で、何一つ困らないし、
今回に限って真に受けるのも下らない。

( A )「とんだ偽善だ」



49: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:41:40.58 ID:UusoYdpuO

 それでも俺は考え得る最短時間でここに来た。
 無様にも、必死で。
 ――それがまた、実に滑稽だ。

「……で? ここまでは良いさ。次は?
散々フラグへし折って来たお前は、次に何をする?」

 ――何を?

「しかし、なかなか悪くない。遂に下らないテメェが主人公面かまそうってんだ」

 主人公?

「なかなかに悪くない。それでいてリアルだ」

 リアル?

「今まで散々『主人公』とやらを見て来ただろ?」

 あぁ、



53: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:43:24.37 ID:UusoYdpuO

「奴らは『エンターティナー』さ。成長しないと『話』にならない」

 知ってるさ。

「所がここは現実……お前の言う通り、誰が死んだって関係ない」

 嫌と言う程に知っている。

「格好付けたって誰も見てねぇ。格好良くたって――直に忘れる」

 だって、ここは、

「被害者も加害者も似たり寄ったり、正義も悪も仲良し小良し……」



55: ◆9M2jQ1rhT. :2007/06/22(金) 19:45:08.05 ID:UusoYdpuO

 いつだって現実だった。

「それで――お前は何なんだ?」

 俺は、何なんだ?

('A`)「何でも、誰でもねぇさ」

 嫌になる程、簡単だ。

「――そうだ」

 俺は、所詮、俺だ。

9th_Jade&Lapislazuri....end.



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