川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:15:58.11 ID:twlSDasO0
第六話 『必殺』

心に浮かべるは一本の線。

それは真っ直ぐであったり、歪に捻じ曲がっていたりする。
それは白色であったり、赤色であったり、青色であったりする。

体調や気分、状況によって異なる一本の線がある。

( ・∀・)(活力……流入……)

その線の中に力を流し込むイメージ。
ホースを通る水に似た感触だ。
自分の胸から発し、腕を通り、握った数枚の符へと活力を流す。

今でこそ走りながらでも出来るようになったが、この修行だけで五年を必要とした。

集中。
八方目。
反射動作。

この三つを同時に行うとなれば、それほどの年月が掛かるのは当然だ。
別々の事柄を三つとも、頭の中で滞りなく進行させなければならないのだから。

(*゚∀゚)「そこネ!」

目の前の敵が、右腕を振るった。
放たれたのは曲刀だ。
ブーメランに似た軌道を描き、斜めからモララーの身を切り裂きに掛かる。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:17:48.31 ID:twlSDasO0
( ・∀・)「ッ」

軽く息を止め、倒れこむように前へ身を投げる。
符を握っていない左腕で体重を支え、右足で地を蹴り飛ばした。

曲刀はモララーの頭上を掠め、持ち主の手へ戻ろうとする。

( ・∀・)「そこだ」

構えた右手を振るった。
投擲されたのは一枚の符。
淡い光を纏ったそれは、宙を飛ぶ曲刀目掛けて走る。

活力を籠められた符が光の爆発を起こし、曲刀の回転を強制的に止めた。
結果、勢いを失って地面へと落ち、ツーの武器が一つ失われることとなる。

ど、という鈍い音が響いた。

( ・∀・)「思ったより簡単だな……この調子で二本目の曲刀も落とさせてもらおうか」

(*゚∀゚)「これだから気術師は面倒ヨ」

( ・∀・)「そう言うな。 直接の力的行使が出来んのだからな」

気術という術式は『流入』を属性とする。
魔術のように直接、力を放てるわけではない。

何かを媒体としてしか、その力を行使することが出来ないのだ。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:19:38.72 ID:twlSDasO0
その代わり、使い方は多岐に分かれる。

身体の一部を強化したり、先ほどのような力を持つ符を作ったり
盾や剣に力を流入させ、特殊効果を付加させることも可能だ。

『強化術式』などと呼ばれる所以である。
気術とは、攻撃的な魔術とは対極を為す補助系統の術式なのだ。

( ・∀・)「次は僕の番だな……!」

無論、補助系統などというのは基本形でしかない。
三種術式の中で、最も汎用性に富むのが気術なのだ。

ホルダーから四枚の符を抜き出し

( ・∀・)「一種目晦、二種足止、三種束縛、四種壊光――!」

四枚の符が、一列に並んで発射された。

(*゚∀゚)「ここで武器を投げるほど愚かじゃないネ!」

対してツーは不動。
一本になった曲刀を両手で構え、迎撃の姿勢に入る。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:21:41.14 ID:twlSDasO0
一枚目がツーの目の前で動きを止め、目晦ましの光を放つ。
二枚目は足元へ飛び掛り、地面を抉って足場を崩す。
三枚目がツーの身体へ張り付き、一時的な束縛光を発する。
四枚目はそのまま直進し

(*゚∀゚)「!」

動けないツー目掛けて、破壊の光を撒き散らしながら

( ・∀・)「む?」

真っ二つに散った。

(*゚∀゚)「ふぃ〜、危なかったヨ」

( ・∀・)「何をした……?」

束縛されていたはずのツー。
その目前まで迫っていた四枚目の符が、何かによって断ち切られたのだ。
彼女は足元に落ちた符を踏みつけ

(*゚∀゚)「切り札は隠し持っておくものヨ。 バレない程度に小出しするのは有効ネ」

( ・∀・)「見えなければ関係ない、か」

(*゚∀゚)「そゆことー」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:23:24.71 ID:twlSDasO0
( ・∀・)「ふむ……興味深いな」

確実に魔術だろう。
しかし、彼女が身体の何処も動かしていないという点が気になる。

術式の行使にはどうしても『動作』が必要だ。
引き金、とでも言えば良いのだろうか。
行使するにあたって、不可視のトリガーを引く必要がある。

それは例えば詠唱であったり、指鳴らしであったりと、人によって様々であるが
無動作での術式行使などは聞いたことがない。
つまり

( ・∀・)(彼女は既に魔術を発動している……)

不可視である以上、それが何なのかは解らない。
一つだけ言えるのは、迂闊に彼女に近寄るのは危険だということだ。
そしてツーも同じことを思っているはずで――

(*゚∀゚)「じゃあ、近付いちゃうヨー!」

相手の嫌がることをするのが戦闘の定石だ。
曲刀を振りかざしたツーが、近寄れないモララーへの接近を開始する。

( ・∀・)「チッ」

今のツーには近寄れない。
モララーは後退するしかなかった。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:25:43.83 ID:twlSDasO0
(*゚∀゚)「でもそれを逃がすほど、ワタシはノロマじゃなーい!」

速い。
トラップのことを考えていないかのように、ツーは全速力で迫った。
いや、トラップがあったとしても切り抜けられる自信があるのだろう。

(*゚∀゚)「ふぃヤッ!」

曲刀が迫る。
身の回転を交えた横薙ぎだ。
黒色の符を取り出して眼前にかざすと同時、曲がった刃が弾かれる。

(*゚∀゚)「バリア術式……抜けがないネ」

( ・∀・)「お前達『魔術師』と違って、僕達『気術師』は常に頭を使わなきゃならないからな。
     ただ攻めれば良いという単純な理屈じゃないんだよ、気術というのは――!」

余った左手にも符を握らせる。
上空へばら撒くように投げ

( ・∀・)「行け!」

指示を出した次の瞬間、ツー目掛けて矢のような光が降り注いだ。

(*゚∀゚)「嘗めてるカ!」

しかし、全て弾き返され回避される。
力を失った符は、ひらり、とツーの周囲に墜落することとなった。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:27:40.66 ID:twlSDasO0
( ・∀・)「これだから魔術師は嫌いだ……全て力任せで解決しようとする」

(*゚∀゚)「アンタが言ったんヨ。
    魔術ってのは『ただ攻めれば良いという単純な理屈』なんだってネ」

猛攻が再開される。
もはや手がないのか、モララーは逃げに徹し始めた。
最小限の数の符で防御しつつ、右へ左へとステップを織り交ぜながら後退していく。

(*゚∀゚)「さっきまでの威勢はどしたネ!?
    逃げてばかりじゃ何も出来ないヨー!」

( ・∀・)「『攻め』しか頭にない野蛮な術師に言われたくない」

(*゚∀゚)「攻撃は最大の防御ってネ!」

( ・∀・)「攻撃は最大の隙だとも言うがな」

追撃の合間を縫うように符を投げる。
一瞬の足止めを根底とし、当たれば僥倖といった攻撃だ。

しかし、その役目をこなす前に断ち切られてしまう。
ツーの周囲にあると思われる不可視の何かによって、だ。

( ・∀・)(自動防御の類か……?)

やはり見えないことには判断が出来ない。
防御だけでなく、攻撃も行うタイプであったら接近は尚更危険である。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:29:33.44 ID:twlSDasO0
(*゚∀゚)「ははは! もう打つ手はないのカ!?」

更なる追撃を開始するツー。

そうだ、それでいい。
もっと調子に乗れ。

( ・∀・)「くっ……」

少しわざとらしいか、と思いつつも舌打ち。
しかしこうやって『演出』しなければ、動きでバレてしまうことも考えられる。

(*゚∀゚)「ほらほらほらぁ! どんどん追い詰めちゃうヨー!」

……単純過ぎないか。
そう思わせるほど単純な女だった。
こちらとしては動かしやすくて助かるのだが。

そして遂に気付かれることなく、当初から決めていた地点へと辿り着くことに成功する。

( ・∀・)(ここで――!)

踵に力を入れ、後退していた身体を敢えて踏みとどまらせた。
それと同時に符を両手に握りこみ、前方へと突き出す。

(*゚∀゚)「!?」

突然の行動に、ツーが一瞬だけ躊躇を見せた。
その隙を穿つようにモララーは身を前へと飛ばす。
曲刀の攻撃範囲ギリギリの外境を、彼女を追い抜くようにして走った。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:31:41.31 ID:twlSDasO0
(*;゚∀゚)「何を……?」

首を少しだけ傾げ、その後を追ってくるツー。
今度は背を見せて逃げるモララーに対し、不信感を募らせたようだ。

しかし、もう遅い。

( ・∀・)「王手――!」

振り上げた腕を地面へと叩き付ける。
先ほど取り出した符が握りこまれている右手だ。

(*゚∀゚)「おぉ!?」

瞬間、ツーを中心とした半径十メートルほどの地面が、円状に光を生み出した。
まるで彼女を閉じ込めるかのように展開された光は、続いて甲高い音を響かせる。

( ・∀・)「まったく」

わざとらしい溜息。

( ・∀・)「お前は戦闘慣れしているのかしていないのか、どっちなのだ」

(*;゚∀゚)「……!」

否が応にも高まる悪寒に一筋の汗を流すツー。
光に束縛効果があるため、彼女は身体を動かすことが出来ないのだ。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:33:40.92 ID:twlSDasO0
( ・∀・)「僕はただ闇雲に逃げ回っていたわけじゃあない」

見ろ、と言わんばかりに指を差す。
円の端である東西南北の四点の地面に、光り輝く符が打ち込まれていた。

(*;゚∀゚)「これは、陣……!?」

( ・∀・)「お前から逃げ回っているフリをしつつ準備させてもらった」

(*;゚∀゚)「しかも『四方陣』て……乙以上の陣を、東派の人間が扱えるわけないネ!」

ツーが驚くのも無理はない。

気術四派の技術は 『甲乙丙』 と三段階に分かれる。
専門とする派以外の技術は、乙以上が使えないのだ。

モララーは東派気術師である。
専門とする気術ならば『丙』レベルまで使いこなすことが出来るが、他派の式神や符陣は『甲』レベルまでしか扱えない。

今行った四方陣は『乙』レベル。
普通の東派気術師では使えないはず。

( ・∀・)「これはいつも回りの奴に言われることなんだが、僕は『ガリ勉』に分類されるらしくてな……」

やれやれ、とモララーは肩を竦める。

( ・∀・)「人より少し頑張ってみたら、乙レベルまで使えるようになった」

(*;゚∀゚)「なっ……」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:35:34.44 ID:twlSDasO0
ありえない。
あんな簡単に口に出せるほど、安易な練習ではなかったはずだ。
身体的にも精神的にも多大なストレスを課せられ、その上で血を吐くほどの厳しい訓練が必要だろう。

そもそも術式は、才能に由る部分が大きい。
逆を言えばどんなに技術を磨いても、才能に勝ることなど出来ないのだ。

( ・∀・)「長々と語るのも無粋――」

光円から出たモララーが右腕を振るう。

( ・∀・)「見せてもらおうか、お前の魔術の正体を」

次の瞬間、強烈な光と共に仕掛けた気術陣が発動した。
発せられた光は天高く昇り、まるで一つの塔を思わせる形となる。

爆発などのエフェクトはない。

光自体に攻撃力があるため、陣の中にいるだけでダメージが入る仕掛けだ。
追加として、『隠蔽』や『気配』などといった補助系術式を打ち消す効果もある。
純粋な攻撃力は低いものの、ツーの魔術を見破る術式としては最適なものだった。

( ・∀・)(準備の手間や効果範囲を考えると、あまり効率は良いとはいえない術式だがな)

それが符陣術式系統の中での乙レベルに認定されている理由だろう。
だからこそ、今回の戦闘で役に立ったのだが。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:37:29.84 ID:twlSDasO0
光が消える。

すぐに解るであろう魔術の正体を逸早く見極めるため、モララーは目を細めた。

舞い散る光の残滓が晴れる。
中心部には、片膝をついて光に耐えた抜いた人影。
そしてその傍らには

( ・∀・)「……成程、それがお前の魔術か」

生物がいた。

『子狐』という言葉がピッタリとくる格好で、黒色を基調とし、その目は赤く輝いている。
主人を守ろうとするように、その身を丸めて彼女に覆い被さっていた。

(*;゚∀゚)「アイヤ、バレたカ……」

( ・∀・)「しかし不思議なものだな。
     魔術で式神紛いのことが出来るなど、初めて聞いたぞ」

己の活力を形にしたのが『式神』だ。
いわば粘土で作ったようなもので、主人が存在する限りは在り続ける。
ちなみに式神は、普段は透明化させるか符の中に収納することで隠すのが普通である。

しかし魔術ではそう簡単にはいかない。
『放出』を属性とする魔術では、その魔力の形を維持することが出来ないのだ。
いわば、ホースから垂れ流している水に等しい。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:38:56.76 ID:twlSDasO0
( ・∀・)(不可能ではないが、な……)

もし擬似的に形を維持したければ、常に魔力を放出し続けなければならない。
ただそれは解るとは思うが、非効率的な方法である。

しかしメリットがないわけではない。

魔術は非常に攻撃的、そして単純だ。
気術のように罠や陣を仕掛けることが出来ないし、式神や符のように力を具現することも出来ない。
ただ己の魔力を放出して、対象を破壊することしか出来ないのだ。

逆を言えば、それのみの特化である。

そんな中、式神紛いの魔術を操る魔術師がいたらどうなるだろうか。
同じ魔術師同士で、しかしタイプの異なる魔術を使用された場合、適応力がない者は確実に主導権を奪われるだろう。

( ・∀・)「対魔術師の魔術師、というわけか」

(*゚∀゚)「……別にそういうつもりじゃあないけど、結果的にはそうなるネ」

くるる、と喉を鳴らす黒色の生物。
その頭を丁寧に撫で、ツーは笑みを浮かべる。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:40:30.05 ID:twlSDasO0
(*゚∀゚)「この子の名前は『テン』。
    知ってるカ? 雷を操る幻獣と同じ名だヨ」

( ・∀・)「人に害を為すと考えられ、恐れられていた妖怪か。
     ちなみにテンは木の上や根元に生息する動物でな。
     落雷のあった木の下でテンなどの動物が、黒こげになって見つかる事があったために
     『雷と共に落ちてくる生物』という説が一般的になったらしいぞ」

(*;゚∀゚)「そんな要らん豆知識は言わなくていいネ……」

( ・∀・)「となると、お前の魔術属性は『雷』というわけだな」

(*゚∀゚)「『力』と『速』の象徴ヨ。 油断すると速攻で昇天ネ」

テンと呼ばれる黒色の子狐が牙を剥く。
自身が雷獣だと証明するように、その身体には微弱な紫電が明滅している。

彼女自身の身の素早さ+式神紛いの自動攻防。

YF−19レベルの運動性を持つ、ラムダドライバ搭載機と同じようなものだ。
嗚呼、何という解り難さ。

つまり厄介というか、厄介過ぎる相手であるというわけだ。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:42:27.49 ID:twlSDasO0
( ・∀・)「ふふ、式神使いと相対するのはツンの時以来だな」

攻略法はある。
一年ほど前に行った、気術師の中でも最高レベルの式神使いであるツンとの戦闘訓練は
確実にモララーの戦術の幅を増やしていた。

戦闘で重要なのは型ではなく、柔軟性である。

気術を気術として捉えるな。
式神を式神として捉えるな。

形としての技術に捉われるのは素人がすることだ。
慣れた者は、その側面や裏を勘案する。

( ・∀・)「さて、お互いの手の内を見せ合ったところで……戦闘再開だ」

モララーは符を両手に持ち、構える。

(*゚∀゚)「こうなったら全開バリバリで瞬殺ネ」

ツーは片手に曲刀を持ち、傍らにテンを置いて構える。

あとは技術と経験の差が勝敗を決めるだろう。
互いの手の内を知った今、魔術師と気術師の本当の戦いが始まろうとしていた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:44:03.64 ID:twlSDasO0
巨大な拳が迫る。
たったそれだけであり、しかしそれ以上の恐怖もなかなかない。
ただ『大きい』というだけで威圧感は充分に出せる。

('A`)「ってか、お前は殴る蹴るしか能がねぇのか?」

ドクオは、振るわれる拳に対して後退を決め込んでいた。
円状に回り、逃げ場が無くならないように慎重に回避していく。

刀は鞘に収められたままだ。
反撃する気配はまったく無く、ドクオはただただ回避に専念している。

(゜∈゜)「…………」

それがまた、クックルの激流といえる攻撃に拍車を掛けていた。

合間を縫って、ドクオはクックル目掛けて石を投げつける。
しかし身体に当たることなく弾け飛んだ。

('A`)「バリア術式、か。
    しかも無駄に頑丈な局地タイプ……結界ってよりも鎧っつった方が早ぇな」

バリア術式は広域に渡って張られることが多い。
この敷地を囲う『察知結界』や、内部の物体を見えなくする『不可視結界』などが代表だ。
広域結界の総称として『フィールド術式』などと言われることもあるが、ドクオにとってはどちらでも大差ない。

とにかくここで注目すべきは
広域に張るべき術式を自身の周囲にしか展開していない、ということだ。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:45:26.26 ID:twlSDasO0
解るとは思うが、その分だけ密度も濃くなる。
おそらく防御力はかなり高いものだと判断出来た。

('A`)「っと」

バックステップしつつ、ドクオは更に思考を進める。

ただ、それだけの厚い壁を作るのに力を消費しないわけがない。
その証明として、クックルは先ほどから自身の肉体を使用した攻撃しかしてこない。

いや、『してこない』ではなく『出来ない』のだ。

つまりこの目の前で暴れる大男、実は攻撃魔術を使えない状態というわけである。
魔力全てをバリア術式に注いでいるのだから仕方ない。

('A`)(まぁ、別に悪い方法ってわけじゃねぇんだよなぁ……)

普通の人間が、この方式を選択するのは愚かである。
『攻撃』という手段が極端に弱まるからだ。

しかしこの大男に限れば、一概に決して愚かな選択とは言えない。

その鍛え上げられた肉体自体が既に強力だからだ。
彼は魔術無しでも、その筋力だけで充分に戦える。

そしてそこに完璧な防御力を備えてしまえば、ある意味での無敵にも見えるだろう。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:47:17.21 ID:twlSDasO0
('A`)「無敵、ね」

『向かうところ敵無し』という言葉から生まれた最強の称号の一つ。
今のクックルは、そう呼ぶに相応しい厨性能を誇っている。

('A`)「しかしなぁ、敵ってのは何時何処にでもいるもんだぜ」

軽い音と同時、ドクオの右手が刀の柄を掴んだ。
しかし抜かずに口だけを動かし続ける。

('A`)「聞け、デカブツ」

突如としてブサメンから放たれた威圧感。
ギャップに気圧されたのか、クックルは攻撃の手を止めた。

('A`)「俺は、人を斬るのが苦手だ」

それは自虐か。

('A`)「俺は、木や草を斬るのも苦手だ」

それとも別の何かか。

('A`)「俺は、試合で勝ったことなど数えるほどしかない」

それがどうした、と言わんばかりに首を捻るクックルを睨み

('A`)「それは俺に『斬撃』の才能がまったく無いからだ。
   しかし俺はこの刀を捨てたりはしない……何故か解るか?」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:48:51.01 ID:twlSDasO0
答えは無い。
答えなど、モララーと師しか知らないことだ。
だから言う。

('A`)「俺には……いや、この刀には、たった一つだけ無条件で斬れるものが存在する」

構える。
前へ出した右足を曲げ、左足を沈め、重心を思い切り下げ、腰を捻り、前屈姿勢で、
全身の力を下半身に集中させ、左手は鞘に添えるように構え、右手は柄を握りこみ、
目はクックルを見据え、息はリズムよく短く吐き出し、心に思うはたった一言。

――斬る。

それを皮切りに、ドクオは身を前へと飛ばした。
構えは、剣術の中でも最速を誇る抜刀術『立合』だ。

本来、抜刀術とは『誘い』『不意打ち』に使われる技術である。
決して、対峙した相手に向かって自ら駆け込みつつ放つ技ではない。
抜刀のタイミングが丸解りな上、相手に迎撃の思考を与えてしまう。

だが、ドクオは敢えて飛び込んだ。
クックルが防御に絶対の余裕を持っていると判断したが故に。

('A`)「俺の剣は――」

(゜∈゜)「!?」

余裕が疑念になった時には、既に遅かった。

('A`)「――魔力を断つ」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:51:06.23 ID:twlSDasO0
横薙ぎ気味の一閃。

鞘走りによる摩擦抵抗と反復作用によって爆発的に加速した刃は、あまりにも速かった。
バリア術式のど真ん中を見事に捉える。

振り抜いた後、ワンテンポ遅れて『キ』という甲高い音が響いた。
続いて

(゜∈゜)「!?」

ガラスが砕け散る音に似た音が、クックルの周囲で喚き立てる。

('A`)「俺は人も木も鉄も斬れねぇ……が、一つだけ必殺技みてぇなもんがあってよ」

一歩二歩、とゆっくり後退しつつ納刀する。

('A`)「魔力が作り出した空間に『断層』を作り出すことが出来るんだわ」

つまり魔力を切ってバリア術式を破壊したのではなく
構成空間を切り裂くことによって、バリアがバリアとして存在出来なくした、ということだ。

これは通常の人間が行える所業ではない。
もはや術式や、そういったモノを超越する『インポッシブル・テクノロジー(不可能な技術)』といえる。
どうやら秘密はドクオの持つ刀にありそうだが――

('A`)(ただまぁ、どんなモンにも使えるってわけじゃねぇのがネックなわけだが。
   断層の切り口が見えるのは、何故か対魔術の時だけなんだよなぁ)



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:53:19.94 ID:twlSDasO0
は、と自虐的な笑みを発する。

('A`)「だが、必殺技は一つで充分。
   絶対に破られることのない技があれば、それを突き詰めるだけで良い」

たったそれだけのことだ。
役目を複数も担う必要は無い。
ただ、自分に出来る一つのことを完遂出来ればそれで良いのだ。

(゜∈゜)「…………」

('A`)「まだやるか? 何度でもテメェのバリアを崩してやるぜ?」

余裕ぶった口調ではあるが、内心は冷や汗を掻いている。

魔力を断つことにおいては誰にも負けない。
しかし戦闘ともなれば誰にも負けるだろう。

回避は出来るが、攻撃に自信がないわけだ。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:54:42.95 ID:twlSDasO0
彼の心情を正確に言うならば『早く帰ってくれ』が正しいだろう。
そしてその願いは、意外な形で叶うこととなる。

ピピ、とクックルの懐から電子音が鳴り響いたのだ。
こちらを警戒する様子さえも見せず、クックルは携帯電話を手にとる。

(゜∈゜)「…………」

何やら声が耳に入るが、男の声という以外の情報は聞き取れない。
相手が一方的に喋るだけで終わったのか、クックルは終始無言のまま通話を切った。
そのままドクオを一瞥し

('A`)「お?」

その巨体を闇に紛らせるように、背後の木々の中へと消えていってしまった。
一人取り残されたブサメンは頭を掻き、溜息を吐く。

('A`)「勝ったっつーか、助かったっつーか……」

一人で納得するように頷き

('A`)「ま、これが俺の勝ち方よ」

と、誰に言うでもなく呟いた。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:56:26.90 ID:twlSDasO0
雷とは『力』と『速』の象徴である。

問答無用で天から降り落ち、落下点にある物体全てを焼き払う光。
そこに生物がいれば高確率で命を奪い去る無慈悲な力。

人々はその様子から雷を、『神の声』『神の怒り』『裁き』などと言うようになった。

そこから生まれたのが『雷獣』だ。
神のペットとまで言われ、その俊敏さや獰猛から、古くからの神話にも姿を見せる。

そして今。
その雷獣を真似た擬似的な神獣を、肩に乗せて使役する女性がいた。

(*゚∀゚)「んふふふ……正体が知れたからといって、不利になるような弱さじゃないネ」

自信満々な笑みを浮かべるツー。
その傍らに、黒を基調とした雷獣『テン』が睨みを利かせている。
魔力で作られた存在とはいえ、プログラムされた生命を持っているようだ。

( ・∀・)「ふむ」

符を握り、しかし踏み込めないのはモララー。

あの獣は見た目以上に賢いらしい。
攻撃が来れば尻尾から発する電撃で焼き払い、敵が近付けば角から飛ばす電撃で威嚇してくる。
威力自体は低いのだが、やはり邪魔である。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:58:03.35 ID:twlSDasO0
更に、用意した符を燃やされるという危惧すべき問題もある。

簡易な攻撃やバリアに使う符は、即興で活力を流し込むことによって作ることが出来るわけだが
先ほどの四方陣や高威力の攻撃となると、それなりの時間を掛けて作らないといけない。

つまり戦闘中に作り上げるなど論外なわけで、そうなると決め手となる攻撃数に限りがあることになる。

これこそが気術師の弱点であった。

気術を行使するには媒体が必要となる。
逆を言えば媒体が無い場合、その能力はかなりの制限を受けてしまうのだ。

最悪、己の身体を強化しての格闘戦を強いられるハメになる。
モララーが気術師にも関わらず武術を習っていたのは、こういう理由からだった。

( ・∀・)(しかし格闘は避けたいところだ。
     見たところ、あの女は接近戦を得意とするらしいしな)

足捌きや動きを分析しての勘案である。
彼女は極力こちらを近付かせないようにしているが、その実、格闘戦を誘っているのだ。

(*゚∀゚)「さぁて、ライジングサザエさんはー!?」

直後、雷獣が吠える。
四本もの稲妻が発生し、モララーの下へ身を歪めながら走った。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 18:59:33.07 ID:twlSDasO0
( ・∀・)「考える時間は与えてくれないか……!」

サイドステップで二本を避ける。
残る二本を、ホルダーから取り出した符のバリアで防いだ。

しかし終わらない。
モララーの行った動作の間にも、ツーの攻撃は続く。
それを出来る限り回避し、漏れたものは符で対処し続けた。

こうなると、深い思考をしづらくなってしまう。

雷獣の特性やツーの動きを勘案し、もっともベストな戦略を編み出したいものだが
咄嗟の回避防御に使われる思考に邪魔され、思うように進められない。

(*゚∀゚)「とったッ!」

俊敏な動きでのサイドステップ。
右へ、と思った時には左へ移動しているような八双跳びだ。
単純なフェイントではあるが、今のモララーには効果的だった。

(;・∀・)「しまっ――」

(*゚∀゚)「とりゃぁあ!」

曲剣が、モララーの首を刎ね飛ばそうと

(*゚∀゚)「!?」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 19:01:09.89 ID:twlSDasO0
その時だった。
まるでタイミングを計ったかのように、ツーの懐から電子音が鳴る。

それを合図として彼女の動きが止まった。
証明として、刃はモララーの皮膚を切り裂く直前で止まる。

(;・∀・)「っ」

慌てて距離をとるモララー。
その様子を片目で追いつつ、ツーは携帯電話を取り出した。

(*゚∀゚)「……あのネ。 だから仕事中に電話するのよしてヨ」

明らかに不機嫌な声で電話先の相手に文句を言った。
しかし相手は意に介さないのか、無機質に用件だけを伝えてくる。

(*;゚∀゚)「あー、あいあい。 またですかヨ。
     っていうかまぁ……術師同士が争うってのも変な話よネ」

( ・∀・)「?」

やれやれ、と肩を竦めて通話を切る。
携帯を懐に収めつつ、モララーの方へ振り返り

(*゚∀゚)「というわけで、今日はこれで勘弁してやるネ」

( ・∀・)「……どういう風の吹き回しだ?」

(*゚∀゚)「今この状況で気術師と戦うのは得策じゃないってことネ」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 19:03:04.39 ID:twlSDasO0
術式連合という組織・規約がある限り、術師同士が戦うことはあってはならない。
おそらく上層部からの圧力が掛かったのだろう。
父であり東派当主であるモナーか、それとももっと上の人物か。

(*゚∀゚)「運が良いネ……連合なんてものが無ければ殺せたのニ」

( ・∀・)「運も実力の内だと言うだろう?」

(*゚∀゚)「日本人ってのは強欲ヨ。 偶然さえも実力の一つにしたがるなんテ」

( ・∀・)「はは、それはもっともだ」

(*゚∀゚)「何か拍子抜けたネ。 アンタ面白いヨ……けど」

少し眉尻を落とし

(*゚∀゚)「次に会うことがあれば、もう容赦しないネ。 誰が止めようとも決着だけはつけるヨ」

( ・∀・)「望むところさ」

ツーが軽い笑みを見せ、モララーも同じような表情を浮かべる。
直後、彼女は木々の間へ身を飛ばして消えた。

( ・∀・)「ふぅ」

それを見送ったモララーは溜息を吐き

( ・∀・)「何とか凌げたようだな。 まったく……厄介な女だ」

と、忌々しく呟いた。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 19:05:03.47 ID:twlSDasO0
翌日。

そろそろ昼飯だという時間だ。
道場で符の手入れをしていたモララーの頭に、甲高い音が響く。

( ・∀・)「来たか」

昨日は一度追い返したギコだろう。
やはりクーのことが心配なのか、モララーが思っていたよりもだいぶ早くに来たようだ。

活力流入を打ち切って腰を上げる。
そのまま、板張りの道場を横断して外へと出た。

( ・∀・)「あれ、ドクオさん?」

客人を迎えるため正門へ向かっていると、同じく正門へと歩くドクオと合流した。

('A`)「うーん」

彼は考え事をしていた。
腕を組み、それでもやはり気の毒なほどのブサメンで。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 19:06:28.36 ID:twlSDasO0
('A`)「今、確かに鳴ったよなぁ」

( ・∀・)「察知結界ですか? 確かに反応しましたけど」

('A`)「でも前回は鳴らなかったことねーか?」

( ・∀・)「……そういえば」

昨日、ギコが来た時のことを思い出す。
クーを背負って現われた彼の姿に驚き、すっかり失念していたが

( ・∀・)「確かに反応がありませんでしたね。
     まさか結界に不具合があった……?」

('A`)「ありえねぇな……それはお前の方がよく知っているはずだ」

術式には、いわゆる『エラー』が存在しない。
構成上完成しなければ発動しないからだ。

もし不具合が生じるとすれば、外部からの力の影響を受けてのことだろう。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 19:07:52.25 ID:twlSDasO0
( ・∀・)「あの時に誰かが結界の力を弱めた、と?」

('A`)「メリットがねぇだろ。
   別にギコってガキを秘密裏に侵入させようって魂胆なわけじゃなかろうし」

( ・∀・)「そうですね……」

となると、ギコ自身に何らかの原因があるのかもしれない。
しかしドクオは首を横に振った。

('A`)「だが今回は、前回と違って察知結界がギコってガキを捉えた」

( ・∀・)「何が違うんでしょうか……まさか、あのクーって女性ですかね?」

前回はクーを担いで、結界が反応しなかった。
今回はクーを連れず、結界は反応した。

クーの存在が条件になっているのかもしれない。

( ・∀・)「しかし彼女に憑いている二十一種はbP7『NNN』……能力は不死処理です。
     二つ以上の能力を有す二十一種はいないはずです」

('A`)「ま、それはいずれ解るだろうよ。 慌てなくてもな」

( ・∀・)「……そうですね。
     それが幸運なのか、残念なことなのかは今は解りませんが」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 19:10:14.63 ID:twlSDasO0
( ,,゚Д゚)「クー!」

川 ゚ -゚)「……ギコ」

やって来たギコを客間に通し、一晩で何とか復活したクーと会わせる。
ギコの方は素直に喜んでいるようだが、対するクーは何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。

('A`)「師とモララーに感謝しろよ、ガキ」

( ,,゚Д゚)「もちろんこの恩は必ず返すぜ。 ありがとうなモララー」

( ・∀・)「役に立てたのなら幸いだ」

うんうん、と腕を組んで仰々しく頷く。

('A`)「んじゃ、さっさと帰れ。 俺達もそこまで暇じゃねぇんだ」

( ,,゚Д゚)「おう、解った」

('A`)「……なーんか妙に素直じゃねぇか?」

( ,,゚Д゚)「モララーは、俺が勝手に持ち込んだ問題を片付けてくれた。
     そしてお前もそれを手伝ってくれた。 だったら、お前は良い奴だ」

('A`)「何この短絡思考」

( ・∀・)「そこが良いんじゃないか」

呆れ顔のドクオに対し、何故かモララーが胸を張って答えた。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/07(火) 19:12:55.38 ID:twlSDasO0

――――――――――――――――― To be Continued ――――



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