川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 19:49:35.36 ID:vh5860pB0
- 第十話 『戦吼』
モララーは嘘を思っていた。
動揺がないと言えば、それが偽りになるからだ。
今から争いを行なおうというのに、その場に心惹かれている人が飛び込んで来て
しかしまったく気に掛けないほど自分は出来た人間ではない、と心で解っている。
だが、身体は解っていなかったようだ。
あの瞬間。
確かに驚きはしたが、それよりも思ったことがある。
――チャンスだ、と。
イレギュラーに対し、如何に早く対応出来るか。
戦闘、特に乱戦ともなれば必須事項ともいえる要素。
( ・∀・)「喰らえ――ッ!」
その重要さを、モララーは体現した。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 19:51:46.77 ID:vh5860pB0
- クックルは気付いていた。
( ゚∋゚)「……!」
そう、背中に自転車の直撃を受けたクックルは、しかしモララーの接近の気配に気付いていたのだ。
攻撃力強化を付加された自転車突撃を身体で受け止めつつ、視線は向かってくる敵を見る。
( ・∀・)「喰らえ――ッ!」」
寸隙を見出したモララーと、寸隙を埋めようとするクックルの動きが同時に重なった。
しかし、
ノハ#;゚听)「ひゃあああああ!!」
( ;゚∋゚)「ッ!?」
勝ったのはモララー。
ヒートの声に反応したクックルと、しなかったモララーの差が明確に出たのだ。
術式連合という『人のため』に動く組織に所属しているが故に、一般人の悲鳴に意識が誘導されるのは仕方のない話と言えよう。
そしてクックルの中で、その衝動を見事に抑えつけたモララーの評価が上がることとなる。
脇腹に衝撃が走ったのは直後だ。
気術符で強化した掌底が、穿つ勢いで突き刺さる。
(#・∀・)「おおぉ……っ!!」
踏み止まる間もなく、その巨躯が浮いたのをクックルは身体で知った。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 19:53:57.01 ID:vh5860pB0
- ドクオも動いていた。
モララーよりは遅い反応だが、それでも充分に早かった。
しかし振り向かざるを得ないツー達との差は、数秒にも満たない。
('A`)(だが、押さえるのには充分だぜ!)
クックルの下へ走ったモララーとは異なる方向へ。
結界を割って侵入したヒートを、信じられないという目で見ているツーをターゲットに定める。
(*゚∀゚)「ッ!」
しかし、流石と言うべきか、寸前で気付かれたようだ。
(*゚∀゚)「かく乱作戦カ!?」
('A`)「そんな大層なもんじゃねぇよ――!!」
刀を抜き放つ。
得意な唯一の技である抜刀術。
身体の重心を前へと傾け、その勢いを以って高速斬撃を見舞った。
確かな手応えが腕を走る。
('A`)「ちィ――!」
しかし予想以上に硬い衝撃が、無情にも防御されたのだと知らせた。
('A`)(クソったれが……!)
心中で悪態を吐くドクオ。
何故ならば――
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 19:55:48.51 ID:vh5860pB0
- ツーは迷っていた。
攻撃を受けたクックルを援護すべきか、今向かってきたドクオの相手をすべきか。
逡巡は瞬刻だが、しかし反応も瞬刻の内に実行される。
身を振るような形で放たれたドクオの刃を、
(*゚∀゚)「ッ!!」
構えた曲刀に直撃させたのだ。
('A`)「ちィ――!」
痺れるような痒い痛みが筋肉を走るも、ツーはそれを無いものと判断した。
本来ならば受け流して反撃を入れる場面だが、咄嗟の判断ならばこれで上出来。
痛みに顔をしかめる暇があるのならば体勢を整えねばなるまい。
体現する。
表情を微動すらさせず、ドクオにダメージを気取られることなく距離をとった。
彼女もまた術師――いや、戦闘のプロフェッショナルなのだ。
(*゚∀゚)(クックルは……)
ドクオが踏み込んでこないことを確認したツーは、素早く視界を動かす。
モララーとヒートが同じ場所におり、そしてあの巨体が目に入らないことにすぐ気付いた。
方角から見て、おそらく傍の雑木林に突っ込んでしまったのだろう。
(;*゚∀゚)(あの自転車に乗った女の直撃で、既にクックルの防御魔術が粉砕されていたネ……。
となると、モララーの一撃をモロに受けたことに――)
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 19:57:57.43 ID:vh5860pB0
- 補助的な術式と言われる気術ではあるが、その恩威を受けた攻撃は非常に強力である。
あの頑丈なクックルが未だに姿を見せないことから、復活は絶望的に思えた。
ただ、自転車の直撃ごときの衝撃で、クックルの防壁が破壊されるとは思えないのだが――
と、そこでドクオが口を開く。
('A`)「やるじゃねぇか」
(*゚∀゚)「……そっちも、あのイレギュラーな状況に良く動けたネ」
('A`)「運が良かっただけだ。 大したもんじゃねぇ」
そう、ただ運が向いていただけ。
たまたま結界を背後にしたのが、ツー達だっただけなのだ。
配置が逆であれば、やられていたのはドクオ達の方であったはず。
('A`)(だが、その運を嘗めたら――)
(*゚∀゚)(――手痛いしっぺ返しが来るヨ)
いわゆる『流れ』というものだ。
勝負事には必ず付き纏い、実力差さえも覆す、決して蔑ろには出来ない要素。
今、流れは確実にドクオ達の方へと向いている。
これを覆さない限り、勝利は薄いだろう。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 19:59:40.43 ID:vh5860pB0
- (*゚∀゚)(でも……)
目の前にいるブサイクは、確か弱いはずだ。
術式に対しては無敵とも言える能力を持っているが、接近戦に持ち込めば――
(*゚∀゚)「ふっ!!」
('A`)「……!」
そうと決まれば一瞬で勝負を決めねばなるまい。
今はまだモララーが遠くにいるが、時間を置けば置くほど状況が悪くなる。
二対一に持ち込まれる前にドクオを倒し、モララーと万全の状態で相対したいところだ。
身を振る勢いを以って、右手の刃で薙ぐ。
ドクオは間一髪で後退。
その服の一部を真一文字に切り裂いた。
('A`)「やっぱ降参する気はねぇみてぇだな……マンドクセ」
(*゚∀゚)「この後で御仕事が待ってるからネ!」
('A`)「……あのクーって女か」
(*゚∀゚)「二十一種は人類の敵! だったら消えてもらうしかないヨ!
アンタも人類なら、自分のしてること見直した方がいいネ!」
('A`)「嬉しいねぇ、俺を人類扱いしてくれンのかよ」
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:01:33.11 ID:vh5860pB0
- 攻める。 退がる。
攻める。 退がる。
攻める。 退がる。
(*゚∀゚)「この……ちょこまかとォ!」
ひらり、ひらり、と木の葉のように避け続けるドクオに対し、苛立ちを募らせる。
右手と左手に握った曲刀が大気を斬り、しかし目標を裂くことはない。
(#*゚∀゚)(ああもう! あの顔といい回避ばっかといい、ムカつくムカつくー!!)
そのリズムが、焦りと苛立ちによって少し崩れてきた時。
('A`)「なぁ――お前、彼氏いる?」
(;*゚∀゚)「はぁ!?」
('A`)「だから『彼氏いるの?』って。 もしかしてあのデカブツ?」
募ったムカつきと、否が応にも視界に入ってくる不快感を煽る顔。
相乗効果で苛立ちの頂点へ達しかけていたツーは、半ば叫ぶように
(#*゚∀゚)「そうヨ! ワタシにはクックルがいるヨ!! だからどうしたネ!?」
('A`)「そうかい」
ドクオの足が、止まった。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:03:23.99 ID:vh5860pB0
- (*゚∀゚)「諦めたカ……!? だったら楽に落としてあげるヨ!!」
チャンスとばかりに踏み込んでいくツー。
その手に持った得物が振るわれる直前、ドクオの手が納刀した柄に伸びたのを見る。
('A`)「だってよ――どう思うよ? あ? やっぱそう? 俺もだ」
途端、ゾクリ、と悪寒がツーの首筋を撫でた。
あらゆる敵と戦ってきた百戦錬磨の彼女が、一瞬で汗を吹く程。
危険だと悟った時には、既に前屈姿勢で曲刀を向けてしまっていた。
瞬間、ドクオの腕が動く。
(;*゚∀゚)(まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!)
だが一度前へと傾いた姿勢は、なかなか戻ってくれない。
もがき、しかし思うように動いてくれない身体は、夢の中の状態を彷彿させた。
('A`)「――喰いつけよモダントウ!」
声と同時、刃が走った。
鞘の口に火花が散り、人間としてあり得ぬ速度でツーに斬りかかる。
それはハッキリとした右切上の軌道だった。
(;*゚∀゚)(くぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!?)
しかし、あまりの速度に思考も反射も追い付かず――
(* ∀ )「ッッ!?」
冷風が右腹部から左胸を駆け抜けていったのを、ツーはハッキリと感じた。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:05:20.15 ID:vh5860pB0
- だが、
(;*゚∀゚)「……って、え? え?」
思った衝撃はいくら待っても来なかった。
それどころか痛みも何も感じない。
何が起こったのかと言わんばかりの表情で、ツーは己の身体を触り見る。
しかし皮膚が裂けているわけでもなければ、内臓や骨に異常が出ているようにも思えない。
――斬られる前と、斬られたと思った後の差がまったく解らない。
頭にはいくつもの『?』が浮かび、不思議そうに首を傾げるツーにドクオは
('A`)「何だぁ? まるでバッサリ斬られたみてぇな顔して」
(;*゚∀゚)「え、いや、だって、今……」
('A`)「どうなってんのか知りたい? ん?」
(;*゚∀゚)「やっぱり何かしたネ!? な、何したヨ!?」
('A`)「斬ったのさ、お前を」
ただし、と言い
('A`)「お前の身体じゃなく……お前の中に満ちてる活力の方をな」
(;*゚∀゚)「え"――」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:07:09.97 ID:vh5860pB0
- 思わず変な声が出てしまうほどの衝撃だった。
活力を用いて術式を生み出す術師にとって、身体の中の活力は生命線である。
外部からの補給は可能ではあるが、それでも使用する時は身体の中を通して使う。
('A`)「術師ってぇのは、一般人が使えない活力を変換して戦う奴らのことだ。
当然ながら内臓器官も、それに伴って変化してるらしいな。
だから突然、活力が無くなったりしたら身体がショックを受けるだろうよ」
確かに、身体の中の何かが物足りない気がする。
大切な一部を無くしてしまったかのような喪失感だ。
遅れてくる恐怖に後押しされたツーは、慌てて真偽を確かめようとする。
(;*゚∀゚)「テン? テン!? ワ、ワタシの雷……!」
('A`)「無駄だ。 魔術で作られた生物は活力の供給が無けりゃ存在出来ねぇよ」
それは彼女の中の活力が空になっている証拠であった。
つまりドクオの言うことは真実で、ツーは絶体絶命の窮地に立たされていることになる。
(;*゚∀゚)(そ、それが本当なら、気絶級の衝撃が襲ってくる……!?)
('A`)「あー、普通ならすぐにショックを受けて気絶するんだろうが、アンタはまだ大丈夫だ。
切り裂いた時に活力を絡め取ってるからな。
今、刀身とアンタの身体は活力の糸で辛うじて繋がってるが――」
後は言わなくても解るだろう。
接続を断たれてしまえば活力を失ったショックが身体を走り、遂には気絶してしまう。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:08:46.84 ID:vh5860pB0
- (;*゚∀゚)(うぐぐぐぐ……術式を解除する能力を持ってるってのは聞いてたけど
活力まで狙えるとは思わんかったヨ……!!)
('A`)「だが助かる方法がある。 未だアンタの活力は俺の刀身に纏わりついてるからな。
条件によっちゃあ、もう一度斬って活力を戻してやってもいい」
(*゚∀゚)「……じょ、条件?」
('A`)「俺にキスしてくれたら助けてやる。 もちろん唇に、濃厚なの。
はい残り五秒ー」
(;*゚∀゚)「なっ、ななななな!?」
('A`)「四秒ー」
(;*゚∀゚)「ちょ、おま、それ、ひきょ――!?」
('A`)「三秒ー」
どうやら本気らしい。
考えてみれば、ドクオにとってツーは敵そのもの。
本来ならば速攻で気絶させて縛り上げねばならないはず。
つまり
(;*゚∀゚)(ワタシを捕らえるよりもキスのが重要なのカー!!?)
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:10:47.42 ID:vh5860pB0
- ('∀`)「二秒」
――何か笑い始めたぞこの野郎ぉぉぉぉ!?
更に醜くなった表情のドクオに対し、ツーはじっとりとした汗を浮かべる。
死活問題、というやたら重い言葉が心に圧し掛かった気がした。
(;*゚∀゚)(キス!?ありえないありえないありえないそんなことするくらいなら潔く気絶を選ぶけどもそんなのが本
部に知れたらワタシの給料とか地位とか諸々が下がって嫌だしだったらアイツと唇を合わせるくらいなら
いやしかしクックルもいるしでも負けたくないでもキスしたらそれも負けじゃね?とか思っちゃったりする自
分がなかなか負けず嫌いかなぁとか自己評価してる間にも刻々と時間が過ぎていくわけでうわこれ絶対
に満足いく選択なんて出来ないヨってそれはアイツも承知っていうかおそらく見越してちゅーなんてふざけ
たものを要求しているわけでこれを断っても断らなくてもアイツにとっちゃお得な展開へ持ってい――――)
('∀`)「ほらほら、あと一秒だよ?」
(;*゚∀゚)(メチャクチャ良いキメェ笑顔しやがってぇぇぇぇぇぇチクショォォォォォォ!!!)
もはや決断のための猶予はない。
覚悟を決めたツーは唇を引き締め、目を瞑り、そして――
('∀`)「ゼロ!!」
(* ∀ )「くそぉ……」
カウント終了と同時、その身を崩れるように落としていった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:12:31.58 ID:vh5860pB0
- ('A`)「…………」
(* ∀ )バタンキュー
('A`)「……えー」
明らかに落胆した表情を浮かべるドクオ。
肩をすくめ
('A`)「いやまぁ、ある意味予想通りだったけど。
しかし……これやって一度もキスされたことないってどうよ?」
キスと気絶。
この二つの選択を迫れば、必ず相手は敗北を選ぶ。
つまり常勝無敗のドクオ流奥義というわけだ。
('A`)(虚しい勝利だぜ……)
( ・∀・)「ドクオさん、無事ですk――って泣いてます?」
(ぅA`)「泣いてないっ、泣いてないもんねっ!」
(;・∀・)「あ、あぁそうですか」
涙をぬぐいながら嘘泣きするという超人技を見せつけるドクオに
モララーは何とも言えない表情を返した。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:14:20.33 ID:vh5860pB0
- ( ・∀・)「しかし……あのツーさえ倒してしまいましたか」
足下には中国魔術師がうつ伏せに倒れている。
微かに硬い唾を呑みこんだモララーは、ドクオの腰へ目をやった。
( ・∀・)「流石と言うべきですかね、モダントウの威力」
('A`)「おいおい、使い手は俺だぜ」
( ・∀・)「使い手とは言いますが、もし仮にドクオさんに彼女が出来たり童貞卒業なんかなったら、
すぐさま刀は別の人の所へ行きますけどね」
モダントウ。
それがドクオの持つ刀の名だ。
見れば解る通り、ただの刀ではない。
漢字で表記するならば『喪男刀』――ありがちな『呪われし武具』だ。
昔、生涯童貞で過ごした伝説の侍が持っていたとされ
彼が孤独死した後は行方不明となっていたが、数年後、いつの間にか別の侍が持っていたとか。
その後も様々な者達の手を渡っていったわけだが、誰もが『どうやって手に入れたか』を覚えていないらしい。
そして、喪男刀が選んだ使い手達には一つの共通点があった。
超絶的にモテず、童貞であること。
その条件さえ満たしていれば、喪男刀はいつまでも使い手と共に在り続ける。
しかも敵対した者が彼女・彼氏持ちで幸せ一杯ならば、漏れなく刀の呪いで使い手の剣術レベルがシャキーン!と上がるらしい。
( ・∀・)(無茶苦茶だよなぁ……もしかしてこれも二十一種じゃないのかなぁ)
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:16:45.36 ID:vh5860pB0
- ('A`)「で、アレはどうするんだ?」
親指で指す先には、呆然とこちらを見る視線がある。
ノハ#;゚听)「え、えっと……ッ?」
(;・∀・)「まずいですよね、この状況」
('A`)「ってか、あの女はどうやってここに入ったんだ?」
( ・∀・)「先ほど自転車を確認したところ、攻撃力強化用の符が貼られていました。
おそらく速度と相成った突撃が、クックルの防壁を破壊してしまったのかと。
今は安全確保のために彼女自身に持たせてありますが」
('A`)「何で符なんて持ってんだよ」
( ・∀・)「確かギコに渡したはずなんですけどねぇ。
とりあえず状況を説明するか、それとも連合に連絡して記憶を消してもらうか――」
どちらにすべきか、と悩んだその時だ。
ノハ#;゚听)「!!」
雑木林に大きな動きがあった。
小気味良く枝葉が折られる音が響くのは、おそらくそこに何かが居て、動き始めたからだ。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:18:10.23 ID:vh5860pB0
- (メ゚∋゚)「…………」
現れたのは、モララーの強化した攻撃によって吹っ飛んだはずのクックル。
身体中に傷を負った巨躯は、しかしあまりダメージを受けているように見えない。
(;・∀・)「しまった!? まだ動けたのか!」
言葉が吐かれるよりも前に足が動いていた。
今、クックルはモララー達よりもヒートに近い位置に立っている。
加えてクックルの防御魔術を破壊した彼女が目の前にいるとなれば、狙われる可能性が非常に高い。
(メ゚∋゚)「…………」
巨腕がゆっくりと動き、ヒート目掛けて伸びていく。
ノハ#;゚听)「うわ、わ……ッ」
(;・∀・)「この――!!」
符を足に展開し、走る速度を底上げした。
痺れるような痛みが筋肉と筋を巡るも、歯を噛んで前だけを見る。
だが、届かない。
このままでは間に割って入る前に、クックルの腕がヒートを握り潰してしまう。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:19:49.70 ID:vh5860pB0
- (#・∀・)(ならば遠距離攻撃で、何とか時間を稼ぐしか……!)
走る速度が落ちるのを承知で懐に手を入れる。
防御を司るクックルに通用するとは思えないが、目晦ましくらいにはなるはずだ。
投擲の姿勢を生み出し、その腕を全力で、
ノハ#゚听)「う――おおおぉぉぉぉぉああああッ!!!」
(メ゚∋゚)「!?」
(;・∀・)「!?」
突如として高鳴る轟音――いや、ヒートの咆声。
弾けるように広がった気迫が、クックルの腕を止めた。
(;・∀・)「な、な……!?」
ノハ#゚听)「それ以上近付いてみろおおおおおッ!!」
怒声と共に、背負っていた細長い袋から中身を取り出す。
それはよく手入れされている木刀で
ノハ#゚听)「牙猫流の技が貴様を叩きのめすぞおおおおおッ!!」
(;・∀・)「ええぇぇぇぇ!?」
(;'A`)「何だ何だぁ?」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:21:56.95 ID:vh5860pB0
- あまりの衝撃発言に、モララーとドクオは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
驚くのも無理はない。
確かにヒートの家の敷地内に道場は存在しているが
弟のギコ曰く『姉の趣味で建てた』という設定だったはず。
(;・∀・)(ギコが僕を騙した?
いや、彼は嘘を吐ける男ではないはず……)
となれば、おそらく
(;・∀・)(彼女は、実の弟さえも騙していたのか――!?)
あの気迫は本物だ。
厳しい訓練を積んだ者だけが出せる、戦士としての咆哮。
更に邪悪にすれば『殺気』、更に清涼にすれば『剣気』となる、全ての気の元。
(メ゚∋゚)「……!!」
モララーと同じものをクックルも感じ取ったのだろう。
一瞬だけ躊躇する動きを見せるが、改めて戦いの構えをとる。
しかし、
ノハ#゚听)「そこおおおおおッ!!」
その小さな、あまりに小さな隙に、ヒートが無謀とも言える勢いで地を蹴った。
正眼に構えたまま前屈姿勢で跳び込んでいく姿は猫を連想させる。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:23:38.30 ID:vh5860pB0
- (;・∀・)(けど、無茶過ぎる――!)
あのタイミングでは間に合わない。
彼女の剣先が届くよりも、クックルのカウンターの方が速いだろう。
事実、既にクックルの腕は振りかぶられていた。
そこでモララーは、投擲を中断していた己の手にようやく気付く。
(;・∀・)(くそッ! 僕は何を呆けて!!)
予想外の展開に停止していた思考は秒に満たない。
だが、その小さな空白こそが、時に大きな結果を生み出すことをモララーは知っていた。
まさに今その大きな結果が、クックルの拳によって――
ノハ#゚听)「――ったああああッ!!」
(メ゚∋゚)「!?」
ぼ、という空気を割る音が響いた。
同時に、クックルの攻撃がヒートに届かなかったことを示す。
(;・∀・)(いや、届かなかったんじゃない!)
モララーは見ていた。
正面から向かい来る拳に対し、ヒートが左腕を掲げたのを。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:25:06.46 ID:vh5860pB0
- ノハ#゚听)「おおおおおおおッ!!」
そのまま体勢を捻って攻撃を弾いた結果、顔の真横を肉の塊が突き抜けていく。
('A`)(だがアレじゃあ――)
今、ヒートは回避のために左手を使用した。
よって右手に木刀が握られているわけだが、片手で行なう打突の威力などたかが知れている。
手を放した時点で、ヒートの危機レベルは更に上昇――
ノハ#゚听)「牙猫流片腕術ッ!!」
(;メ゚∋゚)「!?」
ノハ#゚听)「右回転燕返し斬りいいいいいいいッ!!!」
それはまさに飛燕の如きの瞬速動作。
左へ傾きかけた重心を戻すのではなく、敢えて利用しての右回転。
半円以上の距離を描いた剣線は、遠心力を最大に受けて疾走した。
一直線に狙うは、振るった右拳が開けた無防備な脇腹――――!!
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:27:05.78 ID:vh5860pB0
- 激突する。
(;メ゚∋゚)「ガっ――!!?」
それは、もはや打突や剣撃の威力ではなかった。
少し離れたモララーの目にも、あの巨躯が腹から『く』の字に折れる光景が飛び込む。
同時、あの威力の高さの原因を見る。
それは飛沫。
クックルの脇腹に食い込んだ木刀から、赤色の光が小さく噴き出ているのだ。
(;・∀・)(そうか……あれはさっき僕が持たせた攻撃力強化の符――!)
ならば、あの無茶苦茶に痛そうな攻撃も頷ける。
もちろんヒート自身の技量もかなりのものだが、
それだけで、クックルにあれほどのダメージを入れることは出来なかっただろう。
(;・∀・)(運が良かった、と言うべきか)
強烈な衝撃に気を失ったクックルが、その巨体の支えを失っていく様を見つつ思う。
そして同時に、どうしてギコに渡したはずの符をヒートが持っているのか、という疑問が浮かぶも
ノハ#゚听)「……ふぅッ」
(;・∀・)「――――」
しかし、汗をぬぐう戦乙女の姿の前には、もはやどうでも良いことであった。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:29:08.81 ID:vh5860pB0
- 連射音が響いていた。
それは不断の波として、正面にいる敵へ襲いかかる。
連想するは、一つの音楽。
ど、という重厚な音がメインで
が、という破砕の音が単純な一重奏を補強している。
そして
(;,,゚Д゚)「おわぁぁぁぁぁ!!」
ギコの叫び声が、まるで打楽器の連奏のようにして放たれていた。
それは音の連鎖――つまり追撃のBGMとして、誰もいない住宅街に反響していく。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:31:10.45 ID:vh5860pB0
- 彼は逃げていた。
背後から迫る何かから、だ。
ギコを早足で追いかけながら、不可視の弾丸を連射する死神の正体とは
_、_
( ,_ノ`)「おいおい、坊主。 逃げてばかりじゃ何も変わらねぇぞ。
そうやって嫌なことから逃げ続けるから、ゆとりか何とか言われるんだ」
(;,,゚Д゚)「だったら手加減しろオッサン!!」
_、_
( ,_ノ`)「惜しい。 『素敵なお兄さん』だったら一割くらいの減が望めたな」
(;,,゚Д゚)「対して変わンねぇよ! 氏ね!!」
と言うのも、渋澤から放たれる魔力弾の群の数がとんでもないからである。
それは一つのビームのような勢いでギコに迫っていた。
渋澤の魔術――魔力連射。
本来は『炎』や『水』として生み出す力を、『そのまま』の状態で打ち出す術式である。
見たことも触ったこともないモノを渋澤のように操れる術師は、彼以外に存在しない。
かの二十一種さえも打ち倒したと言われる、生ける伝説。
そしていわゆる天才と呼ばれる存在。
更に言えば、あの不死身のクーでさえも恐れる天敵。
それが、不敵な笑みを以ってギコに迫っているのだ。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:33:02.31 ID:vh5860pB0
- (;,,゚Д゚)「ッ! だらっしゃ!!」
汗も拭わず全力で走る。
当初いた地点とは少し離れた住宅街で、しかし渋澤から逃げ続けていた。
左右は相変わらず塀が続いている。
時折姿を見せる十字路以外、ただ前にしか道はない。
だから、出来るだけジグザクに移動しながら走った。
その道筋を追うように、連射弾が来る。
地面を容易く破壊しつつ、まるで蛇のように追跡してくるのだが――
(;,,゚Д゚)(あの野郎……完全に余裕だなチクショウ)
本来ならば、最初の一瞬で身体中を打ち抜かれても良かったはず。
それだけの実力差はあったし、ガチの戦いならばそうすべきだ。
だが、ギコは未だ動いている。
しかも五体満足のままだ。
最初の対峙を回避し、今尚、渋澤から逃げ続けている。
示唆する事実は一つしかない。
(;,,゚Д゚)(遊んでやがるってことかよ……!)
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:34:26.63 ID:vh5860pB0
- _、_
( ,_ノ`)「ほらほら、可愛いお尻がノーガードだぜ?」
(;,,゚Д゚)「だっ!?」
弾けるような衝撃が背中を襲った。
最小限に手加減されているのか、それは上着を破る程度の力しか出ていない。
しかし最大の問題は威力ではなく、その速さと鋭さだった。
まさにガトリングの如く吐き出される攻撃は、視認出来ない速度で走る。
これを人間の目で避け続けるのは不可能だ。
だが、再度言うが、ギコは未だ動いている。
原因は彼の持つ特殊能力『危険の視覚化』だった。
例え背後からの攻撃であろうと察知出来るが故に、今まで逃げ続けられたのである。
ただ、いくら攻撃を察知出来たとしても体力が続かない。
徐々に機敏性を失っていくギコが倒されないのは、渋澤が遊んでいるからに他ならない。
かくして、事実と真実がイコールで結ばれた。
(;,,゚Д゚)(やっぱ後はクーに任せるしかねぇか……!)
それまで、
_、_
( ,_ノ`)「さぁ、次は何処へ逃げる?」
あの天才魔術師に、絶対倒されてはならないのだ。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:36:25.91 ID:vh5860pB0
- (;,,゚Д゚)(タイミングはクーが勝手に図る――ってことは、後は俺の体力次第ってことだ)
となれば全力疾走を止めるわけにはいかない。
おそらく、体力が尽きた瞬間が遊びの終わりである。
(;,,゚Д゚)(このまま走り続けるのは無理……。
何処か、奴の気を引ける場所があればいいんだけど)
荒い息を吐きながら、ギコは思考を巡らせる。
ここは通学路に近い場所だ。
地理感なら、あまり自信はないが確かにある。
要は、奴が飽きなければいい。
つまり鬼ごっこから、別の遊びに切り替えれば何とかなるかもしれない。
となれば、現状から考えてギコに出来ることと言えば――
(;,,゚Д゚)(――『かくれんぼ』しかねぇよな)
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:38:08.66 ID:vh5860pB0
- そして、それが出来る場所となると
(,,゚Д゚)(そうだ、この近くに公園があったはず!!)
全てが合致した。
あそこならば木々も多いし、隠れよう思えばいくらでも可能だ。
クーも同時に、渋澤の隙を見出しやすくなるはず。
そうと決まれば公園に向かって走るだけとなる。
現金なもので明確な目標が見えると、心なしか足が軽くなったような気がした。
_、_
( ,_ノ`)「む?」
(,,゚Д゚)「オッサン、こっから本気で行くぜ!
ついて来れるもんなら来やがれ!!」
_、_
( ,_ノ`)「?」
一目散に駆けていくギコを、渋澤は早足で追いつつ思う。
_、_
( ,_ノ`)(……なーんか企んでやがるなぁ)
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:39:35.93 ID:vh5860pB0
- (;,,゚Д゚)「ぜはぁ! ハァ、ハァ……!」
公園に辿り着いたギコは、傍にあるベンチの背に手をついて深い息を吐いた。
ここまで一度たりとも止まらずの全力疾走だ。
身体中が休憩を欲しがっているし、心臓だって破裂しそうに動いている。
むしろ、よくここまで持ったと言えるだろう。
肺が脈動し、新たな酸素を欲しがっている。
吸えば次を、更に吸えば更に次を、といった貪欲な動きに痛みさえ感じた。
(;,,゚Д゚)「って、休んでる場合じゃねぇ。
さっさと隠れねぇと……」
だが、ただ隠れるだけでは駄目だ。
出来るだけ渋澤の位置を足止め出来て、尚且つクーが攻撃しやすい位置を探さねばならない。
駆け足で公園の中央へ。
そこは公園と銘打たれながらも、かなりの広さを持っていた。
合計三段にもなる広大な敷地には、木々や草花がふんだんに植えられている。
段の間は階段、滑り台で繋がっており、上の段へ行けば行くほど視界が広がる仕組みだ。
既に陽は傾き、その身の三分の一ほどを山の向こう側に沈ませている。
あと一時間もすれば、ここは暗闇に包まれるだろう。
状況は、徐々にギコ達の方へと傾きつつあるようだ。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:41:26.01 ID:vh5860pB0
- (,,゚Д゚)(そういや――)
少し懐かしい、と思い出す。
ここは初めてクーと出会った場所だった、と。
出会いとしては右腕切断という最悪のものであったが、
今にして思えば、不思議な日々はここから始まったのだ。
(;,,゚Д゚)(っつかクー、俺の右腕を本当にどこやったんだろ……)
この騒動が終わったら問い出さねば。
まさか失くしたとは思いたくないが、大事そうに持っている、というのも問題がある気がした。
人体をコレクションするマニアもいるらしいが、それがクーだとは思えない。
しかし、消えたままだと何か気持ち悪いのも事実。
一抹の不安と疑問を抱え直し、ギコは公園内を疾走する。
(,,゚Д゚)(急がねぇと……って、一応言っておかなきゃな)
中央の段――ジャングルジムやブランコがある空間で、ギコは小さく
(,,゚Д゚)「クー」
と、呟いた。
しかし返事はない。
それどころか生物の気配すらしない。
周囲では相変わらず風がざわめき、それによる木々の囁きが響くのみだった。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:42:49.59 ID:vh5860pB0
- (,,゚Д゚)「…………」
だが、ギコには何となく解っていた。
おそらくクーは既に公園内に潜んでいて、ギコの声を聞いている、と。
『気配隠蔽』の符を使い、息を殺して攻撃の時を待っているのだ、と。
だから、言った。
(,,゚Д゚)「お前が攻撃しやすい位置に、必ず渋澤を誘き寄せる。
だからそれまで何があっても動くなよ」
思った通り反応無し。
しかし小さく頷きの気配がした――ような気がした。
信憑性など皆無に等しいが、それでギコは満足だった。
(;,,゚Д゚)「……さぁて、命賭けのかくれんぼの始まりだ」
段々と近付いてくる殺気。
言うまでもなく渋沢のものだと判断したギコは、唇を少し舐めて言った。
その表情が、既に少年とは言えなくなっていることに
果たして本人は気付いているのだろうか。
(,,゚Д゚)「――――」
それは、覚悟を決めた、駆け出しの戦士の顔であった。
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:44:38.56 ID:vh5860pB0
- 気配で解っている。
この公園内に、ギコが潜んでいることなど。
そしておそらく罠が待っていることも、だ。
何を思ってかは知らないが、何も考えずに動いているとは思えないのだ。
_、_
( ,_ノ`)「そう、あれは――」
既に覚悟を決めた者の表情。
大事な女を護り通す誓いを立てた男の顔。
並の事象や言葉では折れぬ心を持つ、大の大人でもなかなか持ち得ない極めて稀有なものであった。
渋沢が憶えている限りで、あの表情を、あの年齢層で見せてくる男はギコが初めてである。
_、_
( ,_ノ`)(血筋か偶然か、元々から素質はあったはず……だが、適応が爆発的過ぎる。
契機があったのだろうな。
少年を戦士へ急変させる、大きな出来事が――)
おそらく一週間前の事件だろう。
ツーとクーの戦闘を目撃し、その巻き添えを食ってしまった夜だ。
突如として非日常へ突き落とされたギコは、
右腕を失い、その代わりとして非日常へ適合する資質を手に入れてしまった。
普通ならばショックで寝込むか、特殊な病院の厄介になるところを、だ。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:46:33.25 ID:vh5860pB0
- そして異常の根源であるクーと接し、心に触れたはず。
何を知ったのかに興味は無い。
ただ、どういう思いで彼女の味方をしたのかが気になった。
恋愛感情が最も近いとは思うが、たかが一週間ほどで、あれほどまでの思い入れを持てるとは思えない。
一体何だ。
何が、あの少年を突き動かすのか。
_、_
( ,_ノ`)「…………」
しばらく歩いたところで、渋沢は足を止める。
広場の中心に近い場所だ。
周囲には砂地が続き、更にそれを囲うようにして木々や草が茂っている。
日常の中ならば、ここで球遊びに興じる子供の姿が見れるだろう。
非日常の中ならば、ここで武器や術式を持って戦う異常者の姿が見れるだろう。
だが、今はそのどちらも存在しない。
隔絶された結界の中、この公園に近付こうと考える人間はいないからだ。
もしいるとすれば同じ術師か、結界を無効化することの出来る存在か。
つまり自分以外の気配がするならば、それは敵に他ならないのだ。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:48:24.58 ID:vh5860pB0
- _、_
( ,_ノ`)「…………」
軽く目を瞑り、意識を尖らせる。
それを周囲に放るようにして展開し、引っかかるものを探すために走査。
だが、思ったほどの成果は挙がらなかった。
_、_
( ,_ノ`)(既にここにはいないか、それとも隠れるのが上手いのか……)
考え、すぐさま前者の選択肢を潰す。
ギコがここに逃げ込んだのは気配で知っている。
更に何処かへ行こうとするならば、その動きによる風の流れが知らせてくれるはず。
それが無かったということは、ギコは確実に公園内に身を隠している、ということだ。
_、_
( ,_ノ`)(こちらから探すのも一つだが……時間が勿体無い、か)
あぶり出す方が早いだろう。
相手の動揺を誘い、揺れる気配を掴み取れば勝負が決まる。
何せギコには迎撃手段が皆無なのだ。
一度発見さえしてしまえば、後はどうにでもなる。
_、_
( ,_ノ`)「――さて」
一息。
_、_
( ,_ノ`)「いるんだろう?」
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:50:27.66 ID:vh5860pB0
- 風と木々の音しかない公園に、その声はよく響いた。
だが未だ引っかかる感覚は無い。
_、_
( ,_ノ`)「返事がないのならば一人で語らせてもらおうか。
二十一種について、お前の考えが変わるように」
と、少し動きが見えた。
細かい方角は解らないが指針にはなるだろう。
気付いたことを悟られないように、続けて語る。
_、_
( ,_ノ`)「お前は二十一種の内の一種、bP7『NNN』を護ろうとしているな。
それがどれだけ危険で、無謀で、愚かなのか。
一度でも考えたことがあるか?」
空気が少しずつ尖っていく。
単純だな、と思いつつ
_、_
( ,_ノ`)「アレらは、この世界を溶かしていく病原菌だ。
放置しておけば文明が崩れ、人は滅亡し、混沌の星となる」
半分は嘘で、半分は本当だ。
詳しく言えば前半が事実で、後半が偽りである。
二十一種は確かに病原菌に近い存在だが、それはこの世界だけの問題ではないのだ。
平行世界すら蝕む、人知を超えた存在。
これ以上の情報は渋澤レベルの位にいる人間しか知らされていない。
あのツーやクックルでさえ、平行世界の危機など夢にも思っていないだろう。
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:52:32.85 ID:vh5860pB0
- _、_
( ,_ノ`)(だが、それで良い……)
危険は危険だからこそ隔離されるべきである。
そして、知られずに終われるのならばそれで良い時もある。
この世界に残っている二十一種は三種。
その内、確実に存在が確認されているのはbP7『NNN』――つまりクーのみだ。
他にいると言われている残った二種は、本当に存在しているのか怪しい現状であり
_、_
( ,_ノ`)(bP7『NNN』さえ捕らえれば、それで終わるかもしれんのだ)
もしそうなれば、術式連合の意味はなくなるだろう。
監禁しておくための少数組織は残すとして、大部分の術師は自由の身となるはず。
上からの命令を聞く必要はなくなるし、その命令で戦い、理不尽な死を見ることもなくなる。
都合の良い、一抹の希望である。
だが、希望を持つのは悪いことではないのだ。
_、_
( ,_ノ`)「解るか? お前が一体何をしようとしているのか」
息を吸い、トドメの一言を放つ。
_、_
( ,_ノ`)「――たった一人の悪のために、大勢の人間を不幸へ追いやるつもりか?」
言葉を皮切りとして気配が動く。
いや、膨らんだ、という表現が正しいか。
抑え切れぬ怒りが、人としてのアトモスフィアを濃密に染め上げていく。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/04(金) 20:54:25.43 ID:vh5860pB0
- それは、ギコが潜んでいる位置を容易く周囲に知らせる結果となった。
_、_
( ,_ノ`)(若いな……)
右腕を軽く掲げ、見つけ出した気配の先へ向け
_、_
( ,_ノ`)「悪くはないが、それが命取りだ小僧」
逃げる暇すら与えぬよう、瞬速の魔力弾を放った。
直後、
川#゚ -゚)「貴様の方がな――――!!」
真上から降るようにして落ちてきた言葉と殺気に、薄めていた目を見開くこととなった。
――――――――――――――――― To be Continued ――――
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