( ^ω^)がサイレンの鳴る雛見沢でわらべ唄を歌うようです
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:25:14.43 ID:YGoE3WQx0
八月十九日
三度目のサイレンが哭く
明るいやわらかな光をまぶたに感じて、ぼくは朝が来たことを知った。
ふとんの中でしばらくぼうっとしていると、昨日の夢がぼんやりとよみがえってきた。
はっきりと覚えているわけじゃない。
ただ、なにか、身体が、感情が、覚えていたのだ。
全身はぼろぼろで疲れきっていて、そうだ、とても悲しかった。とてもむなしかった。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:26:15.95 ID:YGoE3WQx0
そして、いまでも耳に残っているものがある。
( ^ω^)「みのむし ぶらりんしゃん …」
祭のときに歌ったわらべ唄。
夢の中でぼくはそれを歌っていた気がする。
なぜだろう。たしかに覚えやすいメロディーではあったけれど、夢に出てくるなんて。
それにぼくはその唄があまり好きではなかった。
なんだかすこし不気味で。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:27:11.48 ID:YGoE3WQx0
- わ
らべ唄が頭から離れなくなる前に、ぼくはふるふると頭を振った。
ふとんをたたみ、朝ご飯が用意されているであろうリビングにむかう。
「…ショボンさんが……だって、…村を出ていけるはずが……」
リビングから話し声が聞こえた。
渡辺さんの声だ。ほかに人がいるようすはないから、おそらく電話中なのだろう。
なんだか神妙な声色だ。
それに、ショボンさんが村を出ていけるはずがないとは、どういうことだろう。
彼は確かにきのう仕事があるといって、おそらく今朝早く出ていったはずだ。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:28:44.16 ID:YGoE3WQx0
从'ー'从「…そうだね、きっとだれかが石碑を……早くなおさないと…」
電話の邪魔にならないように、こっそりとドアをあけたつもりだった。
しかし彼女は勢い良くぼくのほうを振り返り、ひどく慌てた様子でぼくを見た。
その俊敏な動きに、ぼくはすこしたじろぐ。
き、聞かれちゃいけない電話だった、のかお…?
从'ー'从「ブーンくん、お、おはよー」
( ^ω^)「おはようだお。電話じゃましてすまんお」
ううん、いいの、ごめんねと早口で言ったあと、電話にむきなおり、短く言葉を交わしたあと受話器を置いた。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:29:33.23 ID:YGoE3WQx0
从'ー'从「ご、ごめんねブーンくん。ご飯、できてるよー」
( ^ω^)「おお、ありがとうだお」
ふたりで席につき、まだ作って間もない、あたたかい朝食を食べた。
トーストをかじり、甘めのコーヒーで流し込む。
( ^ω^)「なにかあったのかお?」
从'ー'从「へっ?」
( ^ω^)「いや、さっきの電話、なんか慌ててたみたいだったお」
从'ー'从「…え、うーん、ちょっとね。でも大したことじゃないから大丈夫ー」
( ^ω^)「そうかお。何か手伝えることがあったら言ってほしいお」
从'ー'从「うん……」
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:30:33.32 ID:YGoE3WQx0
彼女がぽつりと返事をしたのを最後に、会話は途切れた。
かちゃかちゃと食器のあたる音だけが響く。
なんとなく、重苦しい沈黙。
トーストをもうひとくち。サラダにフォークを突き刺す。
ハムエッグも食べる。コーヒーをすする。ああ、やっぱりちょっと甘い。またハムエッグを――
そこでぼくは、食器の音がぼくからしか聞こえないことに気がついた。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:31:53.46 ID:YGoE3WQx0
渡辺さんはもう、食べ終わったのだろうか…
ぼくはそろそろと視線をあげる。
从゜ー゜从「…………」
心臓がびくりと跳ね、のどの奥でヒッと情けない声がでた。
真正面に座る渡辺さんは、にごった目でぼくを凝視していた。
穴があくほど、じっと。
ぼくに目をむけたまま一時停止してしまったように、微動だにしない。
しかし、視線は生きていた。
彼女の目は、ぼくをえぐるように、どんどんぼくの中に入り込んでくる。
彼女はなにかを欲している。ぼくの中にある何かだ。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:33:19.81 ID:YGoE3WQx0
ぞっとした。彼女は動かない。ぼくは恐怖で手がふるえた。
がしゃん!
从'ー'从「…っ!」
フォークだ。ぼくの持っていたフォークが床に落ちた。
渡辺さんがおどろいてぱちりと瞬きをする。
彼女の目に光が戻っていた。
欲望に満ちた、えぐるような視線ではない。
(;^ω^)「ご、ごめんだお…」
从'ー'从「あっ…わたし……ごめんねっ、ブーンくん」
ぼくは落ちたフォークを拾おうと身をかがめた。
ああ、だめだ、まだ手がふるえて、うまくつかめない。
いったいなんなんだ。彼女はいったい、何者なんだ――
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:34:11.30 ID:YGoE3WQx0
从;'ー'从「あ、いいよ、新しいの、持って来るね」
いきおいよく席を立つと、キッチンへかけていく。
ぼくはやっとのことでフォークを拾い上げ、彼女の後姿を見た。
小さな背中だ。ただの、女の子じゃないか。だけど、あの目は…。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:35:00.73 ID:YGoE3WQx0
从'ー'从「はい」
渡されたフォークを受けとる。
从'ー'从「あの、ブーンくん。わたし、これから出かけなくちゃならないんだー、ごめんね」
やっぱり慌てたようすでそういうと、食器を持ってまたキッチンに消えていった。
残されたぼくは、まだ半分ほど残っていた朝食をながめた。
ながめているうちに、ばたんと玄関のドアが閉まる音がした。
冷め切った朝食を食べる気にはなれなくて、ぼくは申し訳ないと思いながらもそれを捨てた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:39:01.85 ID:YGoE3WQx0
食器を洗い終え、ソファにこしかけてぼうっとする。
遠くからひぐらしの鳴声が聞こえた。
ふいに、さっきの渡辺さんの目を思い出し、またびくりとする。
( ´ω`)「なんだっていうんだお…」
ソファにふかく座り込み、視線をおとす。
( ^ω^)「…ん?」
テレビの横、本棚の下に、一冊のアルバムらしきものがあった。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:39:58.58 ID:YGoE3WQx0
近づいて手にとってみると、それはやっぱりアルバムだった。赤い表紙のアルバム。
中をめくってみる。
写真が丁寧に張ってあった。
渡辺さんの家族。そういえばここにきて一回も見ていないな。
こんな顔をしていたのか。こうしてみると、渡辺さんはお母さん似だろうか。
しぃちゃんや、ツン、クーのうつってる写真もたくさんあった。
それから、知らない男の子もひとり。
女の子たちに囲まれながら、はにかんでいる一人の少年。
きっとこれがドクオだ。
比較的最近のものだろう。みんな今とあまり変わらない姿だ。
( ^ω^)「あれ…?」
ぼくは一瞬目を疑った。
そこにはぜったいにありえないものが写っていたのだ。
そんな。そんなはずがあるわけない。
今と変わらない姿――だって?
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:41:16.02 ID:YGoE3WQx0
(;゜ω゜)「ど、…どういうことだお…」
もういちどしっかりと写真を見る。
目の錯覚ではない。
じゃあ、なぜ。
なぜ、写真の日付が20年も前なんだ――
おかしい。こんなことぜったいありえない。
写真の右下には、たしかに今から20年前の日付がプリントされている。
どの写真もそうだった。
これは5月5日、5月24日、6月12日、6月21日、……
今とほとんど変わらない姿で微笑む彼女たちの写真には、しっかりと日付が入っている。
これが20年前の彼女たちだというのなら、いまの彼女たちは一体――
アルバムは、あと半分を残して、8月19日で終わっていた。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:44:16.95 ID:YGoE3WQx0
ぼくはひどい寒気を感じた。
20年前から、彼女たちはまったく成長していない。
写真と同じ顔で、ぼくに微笑みかけていたのだ。
彼女たちがおかしいのか?いや、もしかしたら、この村全体が。
ごお、と風のふく音が聞こえた。
木がゆれている。
そしてぼくは見てしまった。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:45:34.85 ID:YGoE3WQx0
揺れていたのはミノムシの木。渡辺さんの家の庭にも生えていたのだ。
その下にたわわに実ったミノムシたち。
それをむしりとり、皮をはぎ、実をとりだし、むしゃぶりつく、ひと、人、ヒト。
人々がミノムシを求めてむらがっていた。
口もとが赤く染まる。まるで血のように。
いや、ちがう。
あれは、蟲だ。
小さな赤い蟲がいくつもいくつも、蠢いているのだ。
実にぎっしりと詰まった蟲たち。
彼らは、それを喜んで食べていたのだ。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:46:50.14 ID:YGoE3WQx0
(;´ω`)「うっ…おええ…っ」
実ノ蟲 ぶらりんしゃん
どこからかそんな声が聞こえた。
从'ー'从「どうしてミノムシ食べなかったの?」
(;゜ω゜)「…えっ」
ぼくは固まった。背後から聞き覚えのある声がしたからだ。
そしてその声は、突き放すように冷たい。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:47:47.77 ID:YGoE3WQx0
ξ ゚听)ξ「ねえ、 。なんで食べないのよ」
(*゚ー゚)「おいしいのですよ」
川 ゚ -゚)「ああ、おいしい。それにすごくいい気分だ」
从'ー'从「食べなよー、 くん。食べないなんてかなしいなあ」
いつもの四人だ。楽しい楽しい、部活のメンバー。
彼女らも、口もとを真っ赤に染めて。
从'ー'从「食べなってばー、 くん」
ξ ゚听)ξ「ほら。おいしいよ」
そういって差し出されたのはどろりとした赤い実。いや、蟲たち。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:49:44.24 ID:YGoE3WQx0
(;゜ω゜)「い、いやだお!こんなもの、絶対食べるかお!」
川 ゚ -゚)「なぜだ、 。わたしたちの友達だろう」
(*゚ー゚)「ぼくらはともだちなのです。だから、食べてくださいです」
ξ ゚听)ξ「 ってば!」
あれ、おかしいな。
ぼくの名前だけすっぽり抜けている。
編集でもしたみたいに、そこだけ聞こえない。
从'ー'从「 くんー?」
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:50:51.29 ID:YGoE3WQx0
そうか。ちがうんだ。
これはぼくを呼んでいるんじゃなくて――
「ねえ、ドクオ。」
ドクオの記憶だ。
おそらくは20年前の。
彼はぼくと同じように、ミノムシを食べなかった。
食べなかったから――。
(*゚ー゚)『転校。したんですよ』
転校じゃない。きっとちがう。
彼は、ドクオは、ミノムシを食べなかったから、…殺された?
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:54:00.14 ID:YGoE3WQx0
なら、ぼくも。
ぼくも殺されるのか?
いやだ。いやだいやだいやだ!
だめだ、一刻もはやくここを出ないと!
次に瞬きをしたときに、彼女たちは消えていた。
庭の木にも人はむらがっていない。
澄んだ青空が広がっているだけだった。
(;^ω^)「ここを出るお!もうこんな不気味なとこにはいられないお」
ぼくは立ち上がり、荷物をまとめた。
急がないと。急がないと渡辺さんが帰ってくる。
玄関を出る。ガレージ横にとめていた自転車に鍵を差し込む。
がちゃり。よし、いける。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 21:56:44.61 ID:YGoE3WQx0
(;^ω^)「あ、あれ?」
ふたつのタイヤは、無残にもぺしゃんこだった。
来るときにはこんなふうになっていなかった。
誰かが故意に空気を抜いたんだ。
なぜ?ぼくをここから逃がさないためだ。
いやな汗が流れた。
だけど、こんなことでくじけてたまるか。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:00:17.59 ID:YGoE3WQx0
( ^ω^)「走るお!」
村を抜ける道は覚えていない。だけど感覚でいくしかない。
真っ直ぐ、真っ直ぐ。ひたすら走る。
道路だ。国道が見えてきた。
そろそろ出口は近い。
誰かがうしろから追ってきている気がして、ぼくは何度もうしろを振り返った。
大丈夫、だれもいない。
ああ、やっとだ、やっと国道だ。これを真っ直ぐ歩いていけば、街へ出れるだろう。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:03:31.77 ID:YGoE3WQx0
(; ω)「……痛っ!?」
ゴツン。
ぼくの額はなにか厚い壁にでもぶつかったような音を立てた。
もちろんそこに壁なんかない。
目の前には道路。進みたいのに。
(;゜ω゜)「な、なんでだお?なんで行けないんだお?」
それは透明な壁だった。
手でふれる。たしかに感触がある。壁だ。
なんで?場所をかえる。だめだった。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:05:31.13 ID:YGoE3WQx0
( ゜ω゜)「にげ、られない…?」
逃げられない。村から抜け出せない。
目の前が真っ暗になった。
ショボンさんは、村を出て行けたのに。ミノムシを食べたから?
いや、ちがう。
( ^ω^)「せきひ…?石碑をなおす…」
渡辺さんの朝の電話。
それはショボンさんが村を出たという話しだった。
出れるはずないのに、出たと。
その原因は。
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:06:57.32 ID:YGoE3WQx0
( ^ω^)「石碑だお!」
そういえば、祭りの晩、ぼくは何かを蹴飛ばした。
ごとん、と重い音をたててそれは倒れた。
それはちょうど、小さな石碑ではなかったか?
石碑が倒れたことで、この結界がやぶれたのだとしたら。
もういちど倒すしかない。
石碑のあった場所は、祭具殿の階段前。
よし、そう遠くない。
走れ。走るんだ。もっと早く。もっと早く。
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:09:18.93 ID:YGoE3WQx0
(;^ω^)「はあ、はあ…あった、あったお…」
これだ。背の高い草に埋もれていたが、たしかにこれだ。
ぼくはそれを思い切り蹴飛ばした。
今だ。
結界がとかれたことを悟られるよりはやく、逃げ出さなければ。
思い切り走った。ひゅうひゅうと咽喉が鳴る。
大丈夫、まだ走れる。
そしてようやく、国道が、村の出口が見えてきた。
(;^ω^)「つ、ついたお…やった…ぼくの、かちだお…」
ぼくは足をとめることなく、道路へむかって駆け出した。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:10:33.90 ID:YGoE3WQx0
「残念だね。」
ドンッ!
ぼくの身体は思い切り壁にぶつかった。
結界だ。結界が張られていた。
(; ω)「ちくしょう…なんで…なんでだお…っ」
从'ー'从「ブーンくん、どうしたのー?」
ξ ゚听)ξ「あれ、ブーンじゃん。なにやってるのよ、こんなとこで」
うしろには、ドクオの記憶と同じ顔をした四人が立っていた。
(;゜ω゜)「…!!おまえら…寄るな!こっちに来るなお!」
(*゚ー゚)「ブーン、何を言ってるですか?」
川 ゚ -゚)「真っ青だぞ。なにかあったのか」
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:12:14.80 ID:YGoE3WQx0
( ^ω^)「何を言ってるって…ぼくをここから出せお!ぼくを閉じ込めて、一体何がしたいんだお!」
ξ ゚听)ξ「はあ?どーしたのブーン、ついにアタマおかしくなった?」
从;'ー'从「ふええ…ブーンくん、ちょっと落ち着いてよお」
(;゜ω゜)「おかしいのはお前らのほうだ!あんな…ミノムシなんてあんな気色悪いもの、
ぼくは絶対食べたりしないお!!」
川 ゚ -゚)「ミノムシ…おまえ、…」
クーの表情が変わる。
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:13:16.91 ID:YGoE3WQx0
ξ ゚听)ξ「食べなかったのね。」
ああ。あの目だ。
全員が、あの目だ。
( ^ω^)「ああ…そうだお。食べなくて正解だったようだお」
从'ー'从「うそ、ついたんだね…?」
( ^ω^)「わ、悪いかお」
ξ )ξ「なによそれ。なによ。なんなの。どういうこと。蟲が、せっかくの蟲が、食べられないなんて」
ツンが地を這うような低い声で呟いた。
背筋が凍る。
顔をあげたツンは、鬼のような形相でぼくを睨んでいた。
口元からは赤い何かがしたたり、皮膚は黒ずみひび割れている。
綺麗なツンは、もうそこにいなかった。
佇むのは、化け物だった。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:15:37.94 ID:YGoE3WQx0
ξ )ξ「あんたも、ドクオや、渡辺の両親と一緒ね。クズよ、クズだわ」
从;'ー'从「…ツンちゃん……!」
ξ# )ξ「うるさい!蟲の巡ってない血なんて要らないのよ!!」
川 ゚ -゚)「まあ。ショボンには逃げられたしな。久々だったのになあ」
(*゚ー゚)「要らないのです。殺しちゃっていいのです」
ξ#゚听)ξ「殺そう。殺そう。もういい。殺しちゃおう」
やっぱり、やっぱりだ。
こいつらは狂っていた。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:18:05.05 ID:YGoE3WQx0
ぼくを捉えようとする無数の手をすりぬけ、なんとか逃げ出そうと必死で走り出した。
彼女たちが追ってくる。
殺される。だめだ。負けてたまるか。死んでたまるか。
そうだ、武器を手にいれなければ。あいつらは丸腰だ。武器さえあれば…
田んぼに放りなげられているクワ。錆びたカマ。くそ、こんなものしかない。
あたりを見渡す。
家だ。見慣れた家。渡辺さんの家だ。
鍵はかかってない。ドアをあけて飛び込み、鍵をかける。
心臓が飛び出しそうなほど脈打っていた。
(;^ω^)「武器を、…武器を探さないと……」
カッターナイフ。ハサミ。いやもっと使えそうなもの。
包丁だ。
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:19:10.52 ID:YGoE3WQx0
キッチンへ向かう。
積み重なった皿が見えた。
立てかけられた箸やフォーク、スプーン。
だけどおかしい、どこを見ても包丁が見当たらなかった。
(;^ω^)「なんでだお!!!」
「探してるのはコレかなあ、ブーンくん。」
(;゜ω゜)「……渡辺、さん」
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:20:06.42 ID:YGoE3WQx0
从'ー'从「ねえ、ブーンくん。わたしのお父さんとお母さんね、ミノムシを食べなかったの。
だから帰ってこないんだ。わたし、後悔してる。
なんでむりやりにでも食べさせてあげなかったんだろう、って」
彼女が握っているのは包丁。
しっかりと、指がくいこむほど。
从'ー'从「ブーンくん、わたし、もう後悔したくないの。
もう大事なひとと離れ離れにはなりたくないの。
ミノムシを食べればずっとここにいられるんだよ、だからね、ブーンくん」
( ^ω^)「ふ、ふざけるなお…だれがこんなところにずっと…!」
从'ー'从「…ミノムシってね、本当においしいんだよ、それにすごく」
( ^ω^)「うるさいうるさいうるさい!黙れ!!ぼくはミノムシなんて食べないお!!」
从'ー'从「ブーンくん…そう、そっか…」
――それなら。
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:20:57.94 ID:YGoE3WQx0
从゜ー゜从「 殺しちゃって、いいよね? 」
刃先が。
ぼくの頬をかすった。
(;゜ω゜)「ひっ…」
彼女はちいさく舌打ちをして、ぼくを見た。
開いた瞳孔。つりあがった眉。水分のふくまない髪の毛。
奇声をあげて、再びぼく目掛けて包丁をふりかざしてくる。
恐怖で足がすくんで動けない。
動け、たのむから。走って、走って、逃げるんだ。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:22:03.60 ID:YGoE3WQx0
ぼくはやっとの思いで彼女をかわし、震える足で床を蹴った。
窓が開いている。生暖かいい空気が頬をたたく。
从゜ー゜从「どこにいくの?ここから逃げられるわけないのに!」
アは ハハは ははハは は はは はははははハは !
世界は色を失っていた。
残るは白と黒。
空はどす黒く曇り、なまぬるい風にのって腐臭が漂う。
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:24:09.28 ID:YGoE3WQx0
この世界は、本来存在してはいけないものだった。
おそらくは20年前に滅びた、あってはいけない世界だった。
「ころせ 殺せ… コロせ …コ、ろせ」
「殺せ、殺せ、コロセ、ころセ、殺せ」
ずる、ずる、ずる。
鎌をクワを引きずり、村人たちが溢れてきた。
腐臭が強くなる。
「ころ…せ、」
鎌が振り下ろされた。
肩にするどい痛み。
(;゜ω゜)「うっ…、い、痛いお…」
- 69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:26:57.49 ID:YGoE3WQx0
溢れ出る鮮血。
手がありえないほど震えている。
ああ、だめか。やっぱり、逃げられないのか。
ぼくは死を覚悟した。
その時だった、ぼくの耳に届く音があった。
サイレン。
だが、なにかおかしかった。
これまで聞いていたサイレンとはどこか違う。
いままでのは、そう、どこから聞こえてくるのか分からなかった。
けれどこれは。
どこか、一方の場所から聞こえてくる。
- 70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:28:59.99 ID:YGoE3WQx0
気がつけばぼくは走り出していた。
痛む腕をかばって、地を蹴っていた。
音を追って。まるで音に引き寄せられるように。
行かなくちゃいけない。
何が待っているのは分からない。
嫌な予感も、いい予感もしなかった。
ただ本能のまま、ぼくは走った。
たどり着いた先は、祭具殿だった。
あのときと同じように、わずかに開いた扉。
確かにそこから音が聞こえている。
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:29:53.47 ID:YGoE3WQx0
(;^ω^)「はあ、はあ…はあ、」
とびらを開け、中に入る。
サイレンはどんどん大きくなっていく。
警告しているのか?
ここに来てはいけないと?
だけどぼくは進むのをやめなかった。
いまさらどうなってもよかった。
ミノムシの木。
この村を狂わせた、悪魔の木。
その奥にあるのは。
( ^ω^)「………」
一振りの、日本刀。
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:31:00.95 ID:YGoE3WQx0
ぼくはそれに触れる。
その瞬間、サイレンは止んだ。
『行け。』
はっきりと聞こえた声の主を、ぼくは知っていた。
( ω )「―――ドクオ!」
日本刀をぎゅっと握り締めた。
そして、駆け出す。
逃げるために。生きるために。
- 77 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [>>75 そうだよ!] 投稿日: 2007/06/09(土) 22:33:14.42 ID:YGoE3WQx0
石碑を蹴飛ばす。これで結界はやぶられた。
あとは走るのみ。そして、――
( ω )「来るなああああああ!!!!」
襲いかかってくる村人たちにむけて、刀を振り回す。
しかし彼らはひるまない。
カキン、と刃と刃がぶつかる音がする。
( ゜ω゜)「ああああああああああああ!!」
刃は肉を切り裂いた。
ぐにゅり、という生々しい感触が伝わってくる。
生暖かい何かがぼくの頬に付着した。
- 78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:34:41.14 ID:YGoE3WQx0
( ゜ω゜)「うわあああああああああっっ!!!」
襲いかかってくる村人たちを次々と殺していく。
ぼくの目にうつるのは、薄汚い灰色と、赤。赤。赤。
( ^ω^)「ドクオ…、ぼくは、絶対っ…生き残って、やる…!」
日本刀を振りまわす自分が、過去のドクオと重なった。
20年前の、きょうのドクオと。
( ´ω`)「はあ、っ、はあ、はあ…」
刃先から血がしたたる。
服にも血が染み付いていた。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:35:40.11 ID:YGoE3WQx0
「……なにそれ、ブーン。」
振り返ると、ツンがいた。
しぃちゃんがいた。クーがいた。渡辺さんが、いた。
ξ ゚听)ξ「なによそれ。なんであんたがそれを」
(*゚ー゚)「ブーン、なんでそんなもの、持ってるですか…?」
川 ゚ -゚)「………」
( ω )「…そこをどけお」
从゜ー゜从「忌々しいもの持ってるね。それでわたしたちを殺すの?」
( ω )「…どかないなら、殺すお」
ξ ゚听)ξ「ふーん、そう。大した自信ね」
( ^ω^)「さっさとそこをどけお!!」
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:37:31.63 ID:YGoE3WQx0
川 ゚ -゚)「いやだ、と言ったら?」
( ^ω^)「な、なにを言ってるんだお!早くどけ!!」
刀をつきつける。それでも彼女たちはそこを動かなかった。
( ^ω^)「どけおっ……!」
ξ ゚听)ξ「嫌よ。悪いけど、死ぬのはあんたよ、ブーン」
鉈が振り下ろされる。
ぼくの頭上めがけて。
とっさにそれをかわし、刀を構える。
(;゜ω゜)「なんでこんなことするんだお!ぼくの中に蟲はいない!殺したって意味ないお!」
从'ー'从「この村を、私たちを知ったからには、生きて帰すわけにはいかないの」
- 84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:38:48.77 ID:YGoE3WQx0
きらりと光る包丁。鉈。鎌。短刀。
いやな笑みを浮かべて。
それらがいっせいにぼくを切り裂こうとしていた。
( ω )「やめてくれお…たのむから……やめてくれ…」
日本刀は、彼女らを突き刺した。
( ゜ω゜)「うわああああああああああああああああ!!!!」
みんなの笑顔がよみがえる。
しぃちゃんの幼い笑顔。
クーの得意げな笑顔。
ツンのいじわるそうな笑顔。
渡辺さんの、やわらかな笑顔。
それは偽りのものだったのかもしれないけれど。
でも確かにぼくは、楽しかったんだ。
みんなといる時間が、好きだったんだ。
- 86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:39:59.36 ID:YGoE3WQx0
(*゚ー゚)「アハハ!!!あははは、っぐ、あははは!!」
从゜ー゜从「あはは!!ッ、げほ、あははは!!痛くなあ、い、ッ痛くないよおおおお!」
視界を彩るのは鮮やかな赤。
ドクオ。ドクオ、お前も泣いたのか?
この赤をみて、泣いたのか?
川 ゚ -゚)「っがあ、あはッ、ははは!あははははは!!」
咽喉を刺し、腹を刺し、ああ、だめだ。視界がゆがんで、もう、赤しか、
( ;ω;)「うあああああ!あああ!!!どいてくれおおおおお!!どいてくれええええ!」
彼女たちは、ひゅうひゅうと咽喉を鳴らしながらも、なお笑い続けようとする。
血塗れになりながらも、踊り狂う。
そんなかつての友達を、ぼくは、ぼくはひたすら、
- 88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:42:12.73 ID:YGoE3WQx0
ξ ゚听)ξ「ア、はは、はあ、…げほ、ッ、ううう…げ、ホッ…」
やがて穴だらけになった肉体は、立ち上がることすら出来なくなった。
がくりとその場に崩れ落ちる。
殺してしまった。いや、正確には彼女たちは死なないのかもしれない。
それでも、涙が止まらなかった。
この涙はきっとぼくだけのものじゃない。
( ;ω;)「ひ、ッ、あう、うう、ちくしょ、…っちくしょう…!」
日本刀を持つ手ががたがたと震えている。
- 90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/09(土) 22:43:23.87 ID:YGoE3WQx0
遠くから足音が聞こえてきた。
「ころせ」という声も。
逃げなければ。ぼくは血だらけの手で涙をぬぐい、固まった足を動かした。
結界はやぶられていた。
ぼくは道路を踏みしめる。
ああ、ぼくは生きてる、やっと逃げ出せたんだ――
道路をがむしゃらに駆け下りる。
肩に負った傷さえも痛いと感じない。
心臓が跳ね上がる。大きく息を吸う。
何度も何度も後ろを振り返る。
大丈夫、だれもいない。
悪夢は終わった。
ぼくは生きている。生きているんだ。
戻る/八月十九日 午後