('A`)ドクオは再び銃を手にするようです

230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:10:27.29 ID:m+C4YUrd0
('A`)「いや、チームリーダーはニダーがふさわしいよ」

<ヽ`∀´>(まさか、ドクオがウリの部下になるニカ?
      もう怖いものなしニダ。あとは署長が定年になれば……)


ニダーの脳内に、瞬く間に薔薇色の未来が築きあげられていく。
妄想にうっとりとするニダー。


('A`)「俺はもう錆付いちまったよ、ニダー。
    今さら貧乏人の味方も金持ちの犬も出来ないよ」

<ヽ`∀´>「ドクオ……」

('A`)「ニダー、逢えて嬉しかったよ。
    あ、署長、車のキー返して下さいよ」


ショボンはドクオにキーを放り投げる。


(´・ω・`)「もう帰るのかい?」

('A`)「ええ、ちょいと用事を済ませたらね」


ドクオは振り向かず階段へと向かう。



234: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:12:31.15 ID:m+C4YUrd0
(´・ω・`)「それじゃ、あとは消火班に任せて
       他のみんなは持ち場に戻ってよ」


その言葉を合図に、次々と階段を下りていく警官たち。


ショボンは消火活動を眺めながら呟く。


(´・ω・`)「……ドクオは昔から弱い貧乏人の味方だったよね」


ポケットから煙草を取り出すショボン。
炎上するヘリや消火班を眺め、何となく火を使うことをためらう。

ゆっくりと首を横に振り、煙草をポケットに戻す。


(´・ω・`)「悪い奴から弱者を救うのはもちろん素晴らしい事だよね。
       でも悪い奴を撃つ弾丸代やらみんなの給料やら、何もかもが
       お金持ちの皆様方の出資なんだ。その事は忘れないで欲しい」


ショボンは、月を眺める。



236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:15:09.08 ID:m+C4YUrd0

              ※



('A`)「もしもーし、失礼します」


約束どおりしぃの家を訪れるドクオ。
しかし、急展開した状況をどう説明したらいいものやら。


('A`)「しぃさん?どちらにいらっしゃるんです?」


初めてあがる他人の家なだけに、気が引けながらもうろうろするドクオ。


('A`)「しかしでかい家だな」


一見、素朴なデザインに見える年代物の高級家具。
ほのかに少女趣味が漂う英国式の家具。
上品さと高級さは共通するものの、微妙に感触の違う二種類の調度品。

いずれ二人で重ねていく年月の中、一つの暖かい雰囲気に溶け合っていくのだろう。


かつて、ドクオとクーが夢見た未来のように。



239: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:17:28.37 ID:m+C4YUrd0
('A`)「いないんですか?」


出かけるなら鍵くらい掛けるだろうし、携帯に連絡をくれてもおかしくない。
ドクオは携帯を見るが、最後の着信履歴はジョルジュの最期の電話だった。


('A`)「……」


さすがに今日は辛い事が多すぎた。
どこにいても何を見ても、鬱にしかならない。


('A`)「……何が大チャンスだよな」


本格的に鬱になるチャンスなら確かに大盤振る舞いされたかもしれない。
あながち占いも間違ってはいないのか?
皮肉な笑みを浮かべるドクオ。

他人様の家をうろつきまわる。

('A`)「もしもーし」

何の反応もない。



243: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:19:19.37 ID:m+C4YUrd0
('A`)(どう見ても不法侵入ですNE!)


何があったかは知らないが、どうやら留守のようだ。
ここはいったん帰宅して連絡を待とう。

そう決心し、玄関前のロビーにさしかかった矢先のこと。


電灯の消えた部屋から黒い塊がドクオに向かって飛び出す。
飛びのくドクオ。

回避に成功したドクオが見たのはまたしても人に擬態した植物だった。
相も変わらず何も見ていない瞳をした若い主婦の姿。
両手に包丁を握りしめ、こちらを向いている。

顔に見覚えがない分いくらか気が楽ではあるものの、
やはり人間の姿をされると人殺しをするような錯覚を起こす。


('A`)(頼むから室内で炎なんか吐いたりしないでくれよ)


今までよりは幾分気が楽になったドクオの油断を見澄ましたかのように、
女性の姿を取った嫌がらせは手に持った包丁を繰り出す。



247: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:22:14.44 ID:m+C4YUrd0
身をよじって包丁を避けるドクオ。
しかし2本目の包丁が再びドクオに襲いかかる。

再び凶刃を避けるも、体勢を崩すドクオ。
臥せていられる余裕はない。
体勢を崩しながらも床を蹴って飛び、受身を取って転がる。

ハニャーン邸がいくら豪邸とはいえ、ロビーがそこまで巨大なわけではない。
当然のごとく壁にぶつかり、年代物の調度品に傷がついた。


('A`)「おいおい二刀流かよ」


立ち上がるドクオ。
続けざまに間合いを詰め、2本の包丁を巧みに繰り出すエプロン姿の木偶。


体をひねって包丁を避けるも、突き出した包丁が横薙ぎに襲い掛かる。
飛び、転がって二撃以降をよけるドクオ。


(;'A`)(……1.5倍×二刀流で計3倍のスピードですか)


跳躍するドクオを追いかける家庭用の刃が調度品を破壊する。
飾られた壷が床に落ちて割れる。



249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:24:30.96 ID:m+C4YUrd0
ドクオと包丁女が微妙な間合いでにらみ合う。
包丁の支配領域よりは遠く、かといって銃を抜く余裕はない程度の微妙な間合い。
くるくると巡るお互いの立ち位置が、ちょうどいい場所に落ち着く。

ドクオの背には玄関のドア、敵の背に廊下。


('A`)(たぶん、これが唯一のチャンス)


逃げ回っていたドクオが初めて自分から踏み込み、女に前蹴りをくらわす。
鳩尾に蹴りを喰らい、後ろに転がり倒れる木偶。

一瞬動きが止まったかのように見えた。
しかし隙に乗じるほどの時間は取らず、すっと立ち上がる。

再びにらみ合い、堂々めぐりのように見えたが、先程とは異なる点が一つ。
間合いがほんの少し広がった――包丁よりも拳銃に有利な間合いに。

相手が間合いを詰めるより早く、ドクオはデザートイーグルを抜いて
エプロン姿の悪意に鉛弾を叩き込む。


('A`)(へえ、この辺が弱点か)


先程前蹴りを入れた、鳩尾のあたりを撃つ。
廊下へ吹き飛び、動かなくなった人形。



255: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:27:22.32 ID:m+C4YUrd0
(#'A`)「何度も何度もけっこうなものをお贈り頂き、誠にありがとうございます。
     つまらないものではございますが、こちらをお納めください」


すでに動かなくなった木偶に、腹いせのように銃弾をぶち込むドクオ。
弾丸の衝撃で、植物性の死体が痙攣を起こしたように跳ね回る。

エプロン姿の愛らしい主婦の姿をした木偶人形がズタズタになる。
右腕が吹き飛び、左脚もちぎれかけた無残な姿。


('A`)「……」


実際の中身が何であれ、人間の姿をしてるだけにどこか後味が悪い。
血や臓物がないことだけが救いだ。

命を奪うことによる、罪悪感と嗜虐の快感。
生き延びることが出来た安心感と、生き延びてしまった背徳感。
ここに血の臭いが加われば、間違いなく血に酔ってしまっただろう。

一服して高ぶった心を落ち着かせようと、ドクオはポケットをまさぐる。
指先が煙草の箱に触れる。
ふと、ここが室内であったことを思い出す。



256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:29:11.89 ID:m+C4YUrd0
正気に返ったドクオは辺りを見回す。

割れた壷の破片が散乱し、傷だらけになった床。
大破した台。
額ごと壊れ、破れた油絵。


かつては上品な、高級品に満ちたロビーだったことを偲ばせる廃墟。


(;'A`)「あれれー?なんだかえらいことになってるよー?」


俺のせいじゃない。
きっと俺のせいじゃない。
多分俺には何の責任もないはず……


(;'A`)(……成功報酬で相殺できるのかな、これ)


がっくりと肩を落とすドクオ。


今日はもう限界だ。
何も考えずに眠りたい。
ドクオはうなだれながらその場を立ち去る。



260: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:31:14.59 ID:m+C4YUrd0


              ※



最悪の一日から一夜明けて……
大家から借りたキーで、ドクオはジョルジュの事務所兼住居のドアを開ける。

5年前のドクオは半狂乱だったため、
クーの遺族への連絡やその他の雑務はジョルジュが行ってくれた。
その借りを全く同じ形でジョルジュの遺族のために行うことになったわけだ。


遺族の連絡先を探すため、家捜しを始める。


デスクを漁っていて、ふと『ご褒美』と書かれた自分宛の封筒を見つける。
封筒の中には日本語で書かれたジョルジュ宛の手紙と、2種類の住所が書かれた別紙がある。


日本 ――クーの生まれ育った国――

思わず中身を読む。



263: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:33:21.20 ID:m+C4YUrd0
   拝啓


 こちらではご連絡を頂いてから四度目の桜が舞い散る季節となりました。

 そちらではこの時期、どういった花が咲くのでしょうか。




 娘の件では大変お世話になりました。

 即座に御礼を申し上げなければならなかった所、冷静に筆を執るのに四年の歳月をかけてしまったこと、

 愚かな母親の振る舞いとして、どうかお許しくださるようお願いいたします。



266: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:35:23.67 ID:m+C4YUrd0






('A`)「クーのお母さんからの手紙か……去年の春に来たんだな。
    しかしなんでこれが俺宛の封筒に?」


読み進めるドクオ。



271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:37:09.85 ID:m+C4YUrd0
 小さな小さな骨壷に納められた娘を見た際にはすっかり気も動転してしまい

 事故とは伺いましたものの、ドクオ様を恨みも致しました。



 しかし今にして思えば、もうとうに亡くしていたはずの娘に

 死ぬまでの四年――奇しくも私が冷静さを取り戻すのと同じ期間ですが

 人としての悦び、幸せを与えてくれたことを感謝すべきなのではと

 今更ながらに思い至りました。



 本当に愚かしい母で、お詫びの言葉もございません。



 娘がかつて日本におりました頃、あの子は何があっても笑顔も涙も見せぬ子でございました。

 母親の私が至らぬからではございましょうが、決して誰にも頼ることなく生きて参りました。

 顔や声に出すことがなかろうとも、人に頼ることがなかろうとも、あの子は木石ではございません。



273: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:39:11.63 ID:m+C4YUrd0
 おそらくあの子は日本にいる間、ずっと”ひとり”だったのでしょう。

 そばに母親の私がいるときも、学校でクラスメートに囲まれているときも。



 そちらの島であなた方にお世話になる直前、何の恨み言も理由も記さず、ただ一言

 「さようなら」

 とだけ書き残して娘は失踪致しました。



 それが何ということでしょう、自暴自棄になっていた娘を”優しくて、頼もしい刑事さん”が保護してくれたと。

 そして”優しくて、頼もしい刑事さん”ドクオ様の勧めとはいえ、

 生まれてこのかた頼りもしなかったこの母を気遣うように手紙をよこしてくれたのです。

 その後も不定期とはいえ、たびたび手紙をよこすようになってくれました。



275: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:41:08.67 ID:m+C4YUrd0


 確かに生物としてのあの子を産み、育てたのはこの私ではございますが、

 あの子を人として育ててくださったのは、ドクオ様なのかもしれません。




 あの子はどうも粗忽な娘でして、送ってきた手紙にはいつも本人の住所が載っておりませんでした。

 ドクオ様のお宅にお世話になっていることは書いておりましたが、

 肝心のドクオ様のお宅の住所がわからずじまいなのでございます。

 恐縮ですが、同封いたしました私の住まいと娘の瞑る墓地、二つの住所を記したメモを

 ドクオ様にお渡し願えませんでしょうか。



 いつの日か、ドクオ様のご都合のよろしいときに、幸せだった頃のあの子のことをお伺いしたく存じます。

 そして、私からもドクオ様にぜひ直接お話したいことがございます。



277: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:43:21.00 ID:m+C4YUrd0
 私の知る限り、あの子が他人に”優しい””頼もしい”などという表現を使ったのは

 ドクオ様についての事がはじめてであること。



 あの子が微笑みながら人と写真に写るなどというのは、

 貴方と出会う以前には考えられなかったこと。



 そのことを私の口から直接”優しくて、頼もしい刑事さん”にお伝えしたく存じます。




                           敬具



282: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:45:31.17 ID:m+C4YUrd0
(;A;)「ふふ……あははは……」

(;A;)「そうだよな。クーが頼りにしてた”優しくて、頼もしい刑事さん”宛の内容を
     このふぬけた生きる屍になんか渡せないよな。資格がねえよ資格が」


そういえばジョルジュが俺の尻を叩き始めたのは去年の春からだ。
俺が”優しくて、頼もしい刑事さん”に戻らない限り住所のメモは渡せなかったってことか?



   ――それで、俺に気合を入れ直させなきゃいけなくなって――


   ――それで、VIPガーデンに関わらせなきゃいけなくなって――


   ――それで、あいつもVIPガーデンに関わることになって――


結局このざまかよ。


ジョルジュが死んだのも俺のせいみたいなもんじゃねえか。



284: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:47:14.09 ID:m+C4YUrd0
('A`)「……『ご褒美』ねえ。成功報酬を前渡しで受け取っちまったんじゃ、逃げるわけにもいかないな」


それから家捜しすること30分。ジョルジュの遺族の電話番号を見つける。
何とか連絡を取り、諸手続の軽い打ち合わせを済ます。


仇討ちなのか、ただの八つ当たりに過ぎないのかはわからない。
何であれ決着はつけて来るよ、ジョルジュ。

ドクオは封筒を持ち、ジョルジュの事務所兼住居を出る。



287: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:49:30.25 ID:m+C4YUrd0

              ※



ドクオはタクシーに乗り込み、カーオーディオのボリュームを上げる。
「空車」ランプを「予約」モードに、接客用のBGMを個人用に切り替える。


ゆったりとしたリズムに乗って歪んだギターが響く。

イントロが終わり、訛りのある日本語の歌声が流れてきた。




   光届かぬ道標(しるべ)ない道を

     俺は手探り当てどなく歩く

   いつからなのかどこから来たのか

     問わず語りに雷鳥が謳う



    善男善女は出られるが

      悪人悪女は犬になる



293: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:51:32.13 ID:m+C4YUrd0
('A`)「……縁起でもねえ歌だ」



……犬になろうが何になろうが、別に構わねえよ、
クーさえ幸せでいてくれるんならな。


ずっとそう思っていた。
今もそう思っている。


できることなら今すぐ逢いたい。
でも、どのツラ下げて逢えるっていうんだ?
こんなクズの命ごときじゃ何の詫びにもなりゃしねえ。


気の利いた手土産でも用意しなけりゃ、後追いすらする資格がない。


ドクオは”約束の地”へと車を走らせる。



295: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:53:12.39 ID:m+C4YUrd0


              ※



厳重に施錠されたVIPガーデンの入口。
無造作にデザートイーグルを抜き、巨大な南京錠を破壊する。
錆びついた扉を蹴り破り、奥へと進んでいく。


そこは、5年前と変わりもせず邪気を放つ草花の迷宮であった。
相変わらず、なぜかガーデンの外よりもずっと蒸し暑い。
どこか南国を思わせる暑さ。

熱気が体にこもり、集中力を奪う。


ドクオの脳内で過去がリフレインする。



297: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 02:55:36.10 ID:m+C4YUrd0


              ※



暴漢に襲われかけていた綺麗な女性を助けたものの、
連絡先どころか名前すら話そうとしない。

ラフな格好と背負ったバックパックから考えて、
おそらく旅行者だろうとは思うのだが……


ドクオは署に連絡して殴り倒した暴漢を連行させた後、
とりあえず寡黙な美女を自宅に案内する。


('A`)「すまんね汚い家で。お茶でも淹れるからちょっと座っててくれる?」


椅子を薦め、「日本語で」語りかけるドクオ。


川 ゚ -゚)「!」

('A`)「あれ?たぶん日本人か日系の人だと思ったんだけど……違った?
    俺は日本語もしゃべれるから日本語で構わないよ」



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