川 ゚ -゚) クーは異境の地で暮らすようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:00:48.08 ID:yHTahav10
幼い頃の記憶が、二週間ほど抜けている。
母によると、私はどうやらその頃誘拐されていたそうだ。
覚えているのは、以前は優しかったはずの父親が
それ以来私を避けるようになったこと。
不憫で顔を見ていられない、などと言っていたがそういうものなのか?
まあ理由はともあれ、アイツは私を避けるようになった。
謎は他にもある。
誘拐前に傾きかけていた、アイツの経営する会社が
なぜ誘拐されたら順調に軌道に乗ったのか?
しかし、どうでもいい。
アイツは生活費さえ送ってくれればそれでいい。
今さら逢いたいとも思わない。
何が不満か知らないが、向こうから出て行ったのだから。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:01:45.19 ID:yHTahav10
そういえばアイツはコーヒー党だったな。
お蔭様で出て行った日から、私はコーヒーの香りが嫌いになった。
家にあったコーヒーメーカーを叩き壊した。
J( 'ー`)し 「クーちゃん……」
川 ゚ -゚) 「すまない。驚かせてしまったようだ」
J(;ー;)し「ごめんねクーちゃん、ダメな母親でごめんね」
川 ゚ -゚) 「……そんな事は誰も言っていないと思うが?」
J(;ー;)し「ごめんねごめんねダメな母親でごめんね」
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:02:28.50 ID:yHTahav10
- その日から、母が泣きわめくようになった。
暇さえあれば泣いている。
……無駄なことをする。
泣いてどうなるものでもあるまい。
酒を呑んで、泣いて。また呑んで。
仕方がないので私が家事をすれば、
申し訳ないと言ってはまた泣く。
じゃあ私はどうすればいいんだ?
それを聞いても泣くんだろうな。
川 ゚ -゚) 「……そんなことを考えるのも無駄だな」
J( 'ー`)し 「ZZZ……」
母は泣き疲れて眠ったようだ。
私はサイズが合わなくなったランドセルを背負って、家を出た。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:04:45.78 ID:yHTahav10
※
仕送りだけはきちんと来ていたので、
中学や高校に通うことには問題がなかった。
ミセ*゚ー゚)リ 「ねえ、聞いたわよ?フサ君と付き合い始めたんだって?」
(#゚∀゚) 「はあ?何そのデマ」
ミセ*゚ー゚)リ 「誤魔化せると思ってんの?ネタは上がってんだから」
川 ゚ -゚) 「……すまない、ちょっと通してくれないか」
(*゚∀゚) 「あ、ごめんよクーさん。それというのもこのバカがさ〜」
ミセ#゚ー゚)リ 「あぁ?何で人のせいにしてんの?だいたいあんたが――」
川 ゚ -゚)「いや、気にしてないから」
ミセ*゚ー゚)リ 「ほんとごめんね、クーさん」
川 ゚ -゚)(……いや正直どうでもいいよ、どいてくれれば
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:06:25.26 ID:yHTahav10
- 彼女たちには彼女たちの人生がある。
馬鹿にするつもりは毛頭ない。
でも、彼氏ねえ……
どうせ妻と子供を捨てて出ていっちゃうんだろ?
君たちも朝から呑んでは泣きたいのか?
ああ、君たちの方が夫と子供を捨てて出て行くのかもしれないな。
聞くところによると、男女は平等だそうだからな。
君たちにとって大事なんだろうから、水を差す気はない。
でも、やっぱり君たちを理解は出来ないよ。
そんな風に勉強と読書、それに家事ですごした6年間。
お蔭様でそこそこの大学にストレートで入れたよ。
本は私を裏切らないし、泣いて寝たりもしない。
とりあえずいじめられなかったことだけでも、感謝しなきゃな。
……でも、いったい誰に感謝すればいいんだ?
母の涙と酒量が少し減った。
だからといって何をするわけでもなく、ただ遠くを見ている。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:08:22.00 ID:yHTahav10
※
他人と関ることが減った分、楽にはなった。
しかし大学というのも、入ってしまえば大したことはない。
ろくに出席もせず遊んでばかりの連中を否定は出来ない。
図書館で読書をするのもカラオケに行くのも、
どちらもサボりには違いない。
そして、ある夏の日――
( ^^ω)「クーさん、ちょっといいホマ?」
川 ゚ -゚) 「何の用だ」
誰だったかな……
多分同じゼミの同級生だったと思うが、名前が思い出せない。
( *^^ω)「ちょっとクーさんに見て欲しいものがあるホマ。
ゼミ室までついて来てほしいホマ」
川 ゚ -゚) 「ふむ」
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:10:27.64 ID:yHTahav10
- ゼミ室に着くと、彼は二人分のコーヒーを用意した。
( ^^ω)「今PC起動するのでちょっと待って欲しいホマ」
コーヒーの臭いは嫌いなんだ。
何の用だか知らないが、早く済ませて欲しい。
彼はPCをいじると、私を呼んだ。
( *^^ω)「フヒヒヒ、これを見て欲しいホマ」
川 ゚ -゚) 「どれどれ……」
PCの画面を覗くと――
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:12:10.20 ID:yHTahav10
薬で眠らされたらしい全裸の少女が、男達に弄ばれていた。
あられもない格好にされた幼き日の私が、
見知らぬ中年の手でなすがままにされる。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:14:14.56 ID:yHTahav10
- なるほど。
アイツは誘拐を装って双方の実家から
身代金を融通させただけではなかったんだ。
娘をどこぞの金持ちに売り渡していたのか。
それは見るのも忍びないだろうよ。
なにしろ己の犯した罪の証だからな。
……そこまでして何を守りたかったんだ?
( *^^ω)「この画像をばら撒かれたくなかったら……」
コーヒーの臭いに吐き気がした。
目の前の画像に吐き気がした。
男のにやけた顔に吐き気がした。
吐き気を催すコーヒーを吐き気を催す相手にぶちまけた。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:16:45.71 ID:yHTahav10
- ( #^^ω)「な、何するホマ!」
川 ゚ -゚)「……好きにすればいい」
( *^^ω)「じゃあまず服を――」
こいつは本物の馬鹿だな。
川 ゚ -゚)「ばら撒きたければばら撒け。私も好きにする。
お前のような下種を訴えるのか殺すのか、
それとも自殺するかは私が決める」
(;^^ω)「ク、クーさん!」
振り返りもせずに駆け出した。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:18:34.99 ID:yHTahav10
※
家に帰ると、母は珍しくきちんと自分のベッドで寝ていた。
しかし、相変わらずTVはつけっぱなし。
何もかもが馬鹿馬鹿しくなった。
もう生きているのも煩わしい。
川 ゚ -゚)「しかし樹海というのもありきたりで情けないな」
などと呟いて、ふとTVの方を向いた。
よくある、くだらないワイドショー。
海外旅行での様々な危険が今日のテーマらしい。
何でも、今世界で一番危険なのはVIP島だそうだ。
ビザが不要なので旅行に行く者も多いそうだが、
素人はそこで攫われたり人肉ステーキにされたりするとのこと。
馬鹿馬鹿しい話だ。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:20:19.60 ID:yHTahav10
- 川 ゚ -゚)「……それも面白いな」
馬鹿馬鹿しいワイドショーのゴシップが
馬鹿馬鹿しい私の人生にふさわしい気がした。
どうせ死ぬなら地獄見物にでも行こうか。
片道切符で楽しんでこよう。
万が一生きていけたとしたら、それはそれで楽しそうだ。
危険な街では忌まわしい記憶にひたる暇もないだろう。
私は電話で飛行機のチケットを予約した。
運良く?翌日のチケットが取れたので
安心して部屋の整理と旅行の支度を始めた。
翌朝、バックパックを背負った私は
母親への簡単な書置きを残して家を出た。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:22:12.90 ID:yHTahav10
川 ゚ -゚) クーは異境の地で暮らすようです
('A`)ドクオは再び銃を手にするようです 外伝
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:24:08.71 ID:yHTahav10
※
さすがに空港は綺麗で安全だった。
市街地へ、雑踏へ、歓楽街へ。
私は少しずつ危険そうな場所へと進んでいく。
さすがに歓楽街でも昼間はそう大したことはないのか?
それでは何をしに来たのかわからない。
夜まで待つのもな……
口寂しさに、持っていた紅茶味の飴を口に放り込んだ。
そんな私の油断を見透かすように、いきなり後ろから襟首を捉まれた。
ν(・ω・ν)「――――――――!!」
その男はこちらに怒鳴りつけてきたが、意味が全くわからない。
響きからすると、中国語か?
さすがにそれ以上のことはわからない。
騒ぎを聞きつけてきたのか、ぞろぞろと男達が集まってくる。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:26:15.57 ID:yHTahav10
- (´・ω●`)「――――――?」
ν(・ω・ν)「―――!」
( `ハ´)「―――!―――――!!」
<ヽメ∀´>「――――。――――?」
( ∵) 「……」
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:28:15.12 ID:yHTahav10
- あっという間に5人の男達に囲まれた。
何を言っているかよくわからないがたぶん命の危機。
私もこれで人肉ステーキのようだ。
私の人生もずいぶんあっさりと終わってしまったみたいだな。
気分はどこか晴れやかだったが、
体の方はそうもいかない。
足が震えた。
( *`ハ´)「――――――――」
近づいてきた男が私を見て舌なめずりをした。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:30:13.73 ID:yHTahav10
- ふと、中国人らしき男が振り返る。
( `ハ´)「!?」
薄いジャケットを羽織った貧相な男が、謎の中国人の肩を掴んだ。
('A`)「――?」
( #`ハ´)「―――!―――――!!」
やる気のなさそうな痩せっぽちが私の方を向いた。
('A`)「危ないからちょっとどいてて」
英語だ。おかげで意味が通じた。
ひょろっとした男は中国人達に向かって叫んだ。
(#'A`)「――?―!――――!!」
ν(#・ω・ν)「――?――――!!」
冴えない男の瞳に、力が宿った。
肉食獣の眼差しに変わる。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:32:16.15 ID:yHTahav10
- 5人の暴漢がいっせいにナイフや拳銃を抜いた。
肉食獣の瞳をした男が、暴漢の一人に飛び掛って
ナイフを持った手を捻り上げる。
捉えた暴漢の顔を壁に擦り付け、
そのままかんなで削るように進んだ。
顔を血だらけにした暴漢を、拳銃を持った中国人に向けて突き飛ばした。
その横にいた眼帯の男の膝を蹴り下ろし、
姿勢が崩れた相手の顔を蹴り上げた。
しなやかに飛び跳ねる野生の獣のような姿に、つい目を奪われた。
気がつけば、ジャケットの男は5人の暴漢を倒していた。
ポケットから携帯電話を取り出し、どこかに電話をする。
電話をしている最中、倒れた中国人が拳銃を拾おうとすると
痩せた男はその手を無造作に踏みつけた。
( ∵) 「……」
何故か、ついでに無言の男も蹴られた。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:34:32.53 ID:yHTahav10
- 3分もしないうちに、サイレンが鳴り響いた。
わらわらと警官らしき集団が路地にやって来る。
貧相な男は警官たちと短く会話を交わすと、こちらに歩いてきた。
('A`)「大丈夫?」
川 ゚ -゚)「ああ、助かった」
死にに来たはずだったが、それでもやっぱり怖かった。
私は感謝の言葉を伝えようと、彼の方を向いた。
先ほどの美しい野生の獣が、冴えない痩せっぽちに戻っていた。
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「???」
川 ゚ -゚)「いや、すまない。命の恩人を前に考え事をするとは、
私も相当の恩知らずだな」
('A`)「そんな事は別にいいんだけど、ケガはない?」
川 ゚ -゚)「おかげさまで」
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:36:17.84 ID:yHTahav10
- 貧相な男は一度こちらを見て、頭を掻いた。
('A`)「この辺は危険だからね。少し移動しようか」
川 ゚ -゚)「うむ」
私は彼に連れられて歩いた。
どうしてもさっきの雄姿と目の前のキモ男が結びつかない。
貧相な男はキョロキョロと辺りや私を見る。
('A`)「どこまで送っていけばいい?」
川 ゚ -゚)「……」
私のほうが知りたい。
('A`)「無事だったみたいだけど、一応警察に行く?」
川 ゚ -゚)「だが断る」
(;'A`)「……」
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:38:15.42 ID:yHTahav10
- 命の恩人に対する態度ではないのはわかってる。
ただ、どうしても警察には行きたくない。
日本に送還されたりしたら今度こそ樹海行きじゃないか。
しかもついさっきから、死ぬのが怖くてたまらない。
そのくせ日本で生きていくのも、考えただけで虫唾が走る。
いっそ、この島で暮らしていけたらな……
(*'A`)「……」
川 ゚ -゚)「?」
何故チラチラとこちらを見るのだろう?
言いたいことがあるなら、堂々と言えばいいのに。
さっきは美しい、と言えるくらいの身のこなしだった。
もう少し堂々とすれば、そう悪くもないと思うぞ?
('A`)「何か食べてるの?」
川 ゚ -゚)「飴だ。食べるか?」
何だ、空腹だったのか。
その身に荒々しい獣を飼う、冴えない細身の男。
私はそいつの餌付けに成功したようだ。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:40:14.08 ID:yHTahav10
※
彼の自宅だというマンションに案内された。
中に入って椅子に座ると、ようやく彼が堂々とこちらを向いた。
('A`)「すまんね汚い家で。お茶でも淹れるからちょっと座っててくれる?」
川 ゚ -゚)「!」
え?日本語?
どういうことだ?
こちらの驚きに彼も驚く。
('A`)「あれ?たぶん日本人か日系の人だと思ったんだけど……違った?
俺は日本語もしゃべれるから日本語で構わないよ」
川 ゚ -゚)「……すごいな。すぐわかるものなのか」
('A`)「なんとなくさっきの英語に日本っぽいなまりがあったような感じがしてね。
あとはカンかな」
男は紅茶を淹れたティーポットを持ち、向いに座った。
マグカップに紅茶を注ぎ、こちらに手渡した。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:42:14.27 ID:yHTahav10
- ('A`)「あ、砂糖とミルクはあるけどレモンがないな……」
川 ゚ -゚)「構わんよ。気を遣わせてしまってすまない」
ちゃんとした紅茶はストレートでも十分楽しめる。
私は紅茶を口に含んだ。
あ……
ちゃんとしてない方か……
マグカップの時点で判断すべきだったな。
不味そうに飲むよりはましだろう。
私はあわてて砂糖とミルクを足した。
彼は自宅だというのに、どこか所在なげに煙草を吸った。
煙が私に当たらないよう、天井の換気扇に向かって吐き出す。
川 ゚ -゚)「だからそんなに気を遣わなくても構わんよ、別に煙くらい。
もっと気軽に吸ったらどうだ?」
('A`)「……」
なぜそんなに気を遣う?
先程の戦いぶりからは考えられないほど気弱に。
自分の家でくらい、くつろげばいいと思うが。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 20:44:24.34 ID:yHTahav10
- 川 ゚ -゚)「一つ聞きたい。ずいぶん日本語が達者だが日本人なのか?」
('A`)「いや、この島で生まれ育ったよ。まあ、この島は色々あるからね。
一応英語が公用語ってことにはなってるけど……
日本語、韓国語、中国語くらいは喋れないと仕事にさしつかえるんだ」
川 ゚ -゚)「それはすごいな。で、何の仕事をしてるんだ?」
('A`)「ん?警察」
川;゚ -゚)「……」
家出少女として補導か……少女って年でもないがな。
何のことはない。
ただ業務をこなしてただけだったんだな。
あれ?私は何にがっかりしてるんだ?
('A`)「???」
川 ゚ -゚)「なるほど、警官か。この島では自宅で事情聴取をするのか?」
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