川 ゚ -゚) クーは異境の地で暮らすようです

237: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 22:49:07.43 ID:yHTahav10
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「クーちゃんやっぱりすごいじゃないの〜」


スタッフルーム脇の更衣室に戻って着替えていると、
シャトリナさんが元気そうに歩いてきた。


……喰えない人だ。


川 ゚ -゚)「まあ今日は何とか無事に切り抜けられましたが」
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「明後日からもお願いね」

川;゚ -゚)「はあ?」
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「渋沢さんもクーちゃんの歌が気に入ったそうよ」

川 ゚ -゚)「……」
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「もうクーちゃんは歌手に専念してもらうわ。
      シフトの空きはあたし持ちでレッスン受けてね」

川 ゚ -゚)「はあ……」



238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 22:51:14.08 ID:yHTahav10
何だかよくわからないままに歌手にさせられてしまった。


まあボイストレーニングだの何だのを無料で受けられて
さらにその時間も給料が出るとなれば、いい話なのだろう。
……その道を目指す人からすれば。


別に歌が嫌いなわけではないが、
歌手になりたかった訳でもない。
ただ、本気で目指してる人間に失礼な気もする。





そう言えば、もう一つ特筆すべきことがあった。


こうやってドクオと暮らしているうちに、
いつの間にかコーヒーが飲めるようになっていた。



243: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 22:54:48.65 ID:yHTahav10


              ※


用意したご馳走ごと彼に平らげられてしまった夜、
私は腕枕に頭を預けて余韻に浸っていた。


ふと時計を見ると、11時50分。
あと10分ほどで今日が終わってしまうじゃないか。

まずいな。
名残惜しいが、余韻に浸ってる場合ではない。

私はベッドから身を起こし、クローゼットに向った。
どうも腰のあたりにドクオの視線を感じる。

もう元気なのか。
それはそれで嬉しいが、先に大切な用事を済ませてしまおう。
あとでゆっくりと、な?



246: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 22:56:45.24 ID:yHTahav10
('A`)「ん?どうした?」

川 ゚ -゚)「大変なことを忘れていた」

('A`)「忘れ物?めずらしいね」


あったあった。
私はラッピングされた箱を持って、もう一度ベッドにもぐりこんだ。


川 ゚ -゚)「危うくドクオの誕生日が過ぎてしまうところだった。危ない危ない」

(*'A`)「え?何?もしかしてプレゼント?」

川 ゚ -゚)「うむ。食事を終えてから渡すつもりだったんだが……」


ふふ。
さっき邪魔したのは誰だ?


川 ゚ ー゚)「誰かさんに押し倒されたせいで、こんな時間になってしまったよ」

(;'A`)「さいですか」

川 ゚ -゚)「順序は狂ったが、改めて。誕生日おめでとう」



249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 22:58:43.05 ID:yHTahav10
プレゼントを手渡すと、ドクオがすごく嬉しそうな顔をした。
その笑顔がすごく眩しい。
こっそりへそくりなんてしてみた甲斐があった。


('A`)「開けるよ?今」

川 ゚ -゚)「ああ」


ドクオが包みを破ると、革張りのオイルライターが箱から姿を現した。
気に入ってくれるといいんだが……


川 ゚ -゚)「できれば愛用して欲しかったんで、実用的なオイルライターにしてみた。
     革張りだと滑らないし、傷もつきにくいかなと思って」

('A`)「今使ってみるね」


ドクオはデスクに向かい、何やら引き出しを漁っている。
ライター用オイルを出してきた。

すまない、そこまで気が回らなかった。
でも持っていてくれて助かったよ。



252: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:00:43.26 ID:yHTahav10
ベッドに戻り、ドクオは煙草に火をつける。


川 ゚ -゚)「どうだ?使い勝手は」

('A`)「革張りの手触りがいい感じ」


ドクオは嬉しそうに指でライターを撫でている。

どうやら気に入ってくれたようで良かった。
だが、その手触りとやらは私も気になるな……


川 ゚ -゚)「ほお、ちょっと使わせてくれ」

('A`)「ダメ」

川 ゚ -゚)「何故だ」



255: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:02:07.61 ID:yHTahav10
ドクオは答えず、煙草を咥えたまま私に顔を近づけた。

なるほど、そういうことか。
私もイブサンローランを咥えることにした。
そのままドクオに頬をよせ、ドクオの煙草で火をつける。

ドクオが照れくさそうに頭を掻いた。
ドクオかわいいよドクオ。


('A`)「ごめん、一度やってみたかったんだ」

川 ゚ ー゚)「奇遇だな。私も一度やってみたかった」


ドクオが笑った。
私も笑った。

この島に来てドクオと出会う前には、
他人と気持ちがひとつになるなんて想像もできなかった。



259: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:04:00.63 ID:yHTahav10
('A`)「……あのさ」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「クーは何が欲しい?誕生日に」

川;゚ -゚)「うーん……今の生活に何の不満もないんだ。
      何か欲しいものか……」

('A`)「まあ急がないけどね。誕生日までに思いついてくれれば」

川 ゚ -゚)「急がないものなら一つ思いついた。
     ただ、まだ私にその資格がないんだ」

('A`)「???」

川 ゚ -゚)「資格が出来たら伝えるよ」

('A`)「え、車か何か?」

川 ゚ ー゚)「そのときまでは秘密。しかもノーヒントだ」

('A`)「えー、全然わかんねえよ」



261: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:06:13.04 ID:yHTahav10
……いつになるかはわからない。

でも、こんな私でも子供を慈しむ母親になれる日が来たら、
ドクオとの子供が生みたい。

いつか、ドクオと子供達とで幸せに暮らしてみたいんだ。

でも、幸せな家庭なんてものをよく知らないんだが、
本当に私にそんなものが作れるのか?

正直自信はまったくない。


ふと、泣き顔の母が目に浮かんだ。
テーブルに横たわる空き瓶。


でもきっと大丈夫。
ドクオはアイツとは違うから。
あとは私が、母と違うようになればそれでいい。



264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:08:14.91 ID:yHTahav10


              ※


なりゆきで歌手なんてものをやらせてもらっているうちに、
おかげさまで店を訪れるお客様が増えた。

増えたのは喜ばしいことだが、シャトリナさんは何故か困り顔だ。

 //ヽヽ 
彡;゚ー゚)「実はね、クーちゃん」

川 ゚ -゚)「何でしょうか?」
 //ヽヽ 
彡;゚ー゚)「最近、お得意様のクレームが増えてるのよ」

川 ゚ -゚)「そうなんですか?」
 //ヽヽ 
彡;゚ー゚)「そうなのよ、それがね……」


シャトリナさんは何か言いにくそうに、指先でテーブルをつついたりしている。



268: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:10:31.81 ID:yHTahav10
私が何かしたんだろうか?
それならそれで、はっきりと言って欲しい。
私が尋ねようとしたところに、トソンが入ってきた。


(゚、゚トソン「おはようございます」
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「おはよ〜」

川 ゚ -゚)「おはよう、トソン」


昼過ぎに「おはよう」と挨拶する、この店の習慣にも慣れた。

そうだ、トソンに聞いてみよう。
私は制服に着替えるトソンに話かけた。


川 ゚ -゚)「トソン、すまんが聞きたいことがある」

(゚、゚トソン「何?クー」

川 ゚ -゚)「最近、お得意様のクレームが増えたらしいな。
     でもシャトリナさんがはっきり理由を言わないんだ」

(゚、゚トソン「……ああ」



270: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:12:25.31 ID:yHTahav10
トソンは手を止め、こちらを向いた。


(゚、゚トソン「確かにクーには言いづらいかもね」

川 ゚ -゚)「私に何か問題が?」

(゚、゚トソン「そういうんじゃないのよ。せっかくクーが大人気なのに
     それを叱るわけにもいかないじゃない」

川 ゚ -゚)「???」


シャトリナさんがこそこそとスタッフルームを逃げ出した。


(゚、゚トソン「最近クーの歌を聴きに来るお客さんが増えたじゃない?」

川 ゚ -゚)「ああ、ありがたい事だな」

(゚、゚トソン「つまみと安いグラスワインでねばってるようなお客さんも増えてさ。
     それはそれでいいんだけど、以前からのお客様は不満なのよ。
     新しい客層のせいで店のふいんきが変わったって」

川 ゚ -゚)「なるほど……」



272: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:14:11.71 ID:yHTahav10
確かに最近お客様が増えたが、
そのせいでお得意様を不快にさせてたとは思わなかった。

しかし、つまみ1つで粘ろうとお客様なんだよな。
どちらを取るか、という考えもあまり好きではない。

その辺はオーナーのシャトリナさんが決めることだ。
しかしあの様子だと、本人も複雑なんだろう。


川 ゚ -゚)「お得意様のことを考えたら、私はウェイトレスに戻るべきだろうか?」

(゚、゚トソン「それはそれでクレームが来るわね。どっちのお客さんからも」

川;゚ -゚)「それは困ったな」

(゚、゚;トソン「だからみんな困ってるんだってば」


ふと、スタッフルームの外から大声が聞こえた。

 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「そう、そうなのよ!なんで思いつかなかったのかしら?」



274: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:17:04.50 ID:yHTahav10
シャトリナさんが、ものすごく嬉しそうな顔で戻ってきた。

 //ヽヽ 
彡*゚ー゚)「ふっふ〜、いいこと思いついちゃった」

川 ゚ -゚)(゚、゚トソン「???」
 //ヽヽ 
彡*゚ー゚)「ねえ二人とも、お休みほしくな〜い〜?」

川 ゚ -゚)「そりゃ欲しいですが」

(゚、゚トソン「お給料の事を考えると……」
 //ヽヽ 
彡*゚ー゚)「有給扱いにしたげるわよ〜」

川 ゚ -゚)「え?」

(゚、゚*トソン「
本当ですか?」
 //ヽヽ 
彡*゚ー゚)「あったりまえじゃない。明日からしばらくお休みね〜
      うふふふふふふふふふふ」

川 ゚ -゚)(゚、゚トソン「???」


シャトリナさんの微笑みに何か邪悪なものを感じたが、まあいい。
しばらく有給扱いで休みがもらえるんだし。
その日私は機嫌よく歌い、トソンは人一倍働いた。



276: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:19:13.00 ID:yHTahav10
それからしばらくして、シャトリナさんから電話があった。
二日後から仕事を始めるとのこと。

そして二日後、店に向かった私とトソンは驚いた。


川 ゚ -゚)「え?何があったんだ?」

(゚、゚;トソン「いや、まさかこの手に出るとは……」


ひっそりとした地下のレストランだったはずが、
いつの間にか一階にも店が出来上がっていた。

一階は良く言えば家庭的、悪く言えばややチープな造り。


川 ゚ -゚)「どういうことなんだ?」

(゚、゚;トソン「これからが本当の地獄、ってことよ」

川 ゚ -゚)「?」



279: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:21:21.54 ID:yHTahav10
トソンは何か感づいたようだが、私には意味がわからない。
二人で立ち尽くしていると、シャトリナさんが店から出てきた。

 //ヽヽ 
彡*゚ー゚)「あら、お久しぶり〜。ゆっくり休めたかしら?」

(゚、゚;トソン「ええ……」

川 ゚ -゚)「それはもう」
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「今日はまだ地下だけしか開けないけど、 明日からは一階もオープンだから」

川;゚ -゚)「え゙」

(゚、゚;トソン「やっぱり」
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「トソンちゃんは一階のチーフに昇格よ。おめでと〜
      クーちゃんは一階と地下を交互に歌ってもらうからシフトは倍。     
      しばらくは皿洗いなんかも手伝ってもらうからね〜」

(゚、゚;トソン「あんまりめでたくないです……」

川;゚ -゚)「まあ洗い物は嫌いではないが……」



シャトリナさんは私たちの心の叫びを無視した。



283: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:23:07.69 ID:yHTahav10
 //ヽヽ 
彡 ゚ー゚)「じゃあ今日も一日がんばりましょ〜」

(゚、゚;トソン「がんば……りま……ιょぅ……」

川;゚ -゚)「はあ……」




一階のシェフはスオミーさんになった。

私に専用の控え室が出来た。
一階と地下の両方にすぐ出られるように、ということらしい。


収入が多少増え、休みが大幅に減った。


ちょうど同じ頃、ドクオが特殊部隊のチームリーダーに出世した。
やはり彼も同じように収入が多少増え、休みが大幅に減った。



284: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:25:14.42 ID:yHTahav10
……まあ、いい事もあった。

一階フロアでは気軽に安く食事が出来るので、ドクオが同僚を連れてくるようになった。


ドクオの一番の親友らしい、ジョルジュ。
うちの本棚に大量にある日本のマンガの持ち主だ。

うちに転がってる日本語のCD、とくに変な曲に関しては
話を聞くとだいたい彼のものであることが多い。

二人で店に来るとだいたいお互いに相手を罵り合う。

  _
( ゚∀゚)「それにしても冴えねえツラしてやがんな、お前。
     俺より給料多いのになんでそんなに貧乏くせえの?」

('A`)「いいんだよ別に、クーが嫌じゃなきゃそれで。
    俺はお前と違って相手がいるの。画面の外にね」
  _
( #゚∀゚)「あ?」

川 ゚ -゚)「言っておくが、私はドクオに何の不満もないぞ?」

(*'A`)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」



287: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:27:26.84 ID:yHTahav10
まあ、何だかんだ言って仲がいい。
私もジョルジュは気に入っている。

相手の性格を熟知した上で、それぞれに絶妙の距離を取る。
人を見る目がないとこうはいかない。


彼はよく一人でも来店しては、トソンにちょっかいを出している。

  _
( ゚∀゚)「何でトソンちゃんは俺にだけ冷たいのよ?」

(゚、゚トソン「あんたは人の胸ばっかり見ててキモいから」
  _
( ゚∀゚)「キモさじゃドクオには勝てねえな」

(゚、゚トソン「クーに言いつけちゃおうかな?」
  _
( ;゚∀゚)「……調子に乗ってました。ほんとすみません」


そうは言いながらもまんざら仲は悪くもない様子。
一度、その辺をトソンに聞いてみたことがある。


(゚、゚トソン「あいつ、絶対本気じゃないもの。いっつもあんな調子だけど
     本当に人を好きになった事なんてないんじゃないかな……」


私を見ていたはずのトソンが、いつのまにか下を向いていた。



289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:29:08.21 ID:yHTahav10
ドクオの副官、モナー。
部下のニダー。

彼らは二人セットでやって来ることが多い。

穏やかな顔立ちそのままに、おっとりとしたモナー。

二人の娘さんを育てながら、実は童貞だというニダー。
上の娘さんは捨て子で、下の娘さんは亡くなった弟さんの忘れ形見だそうだ。
まあ、娘に「キムチ太郎」「キムチ次郎」と名づけるセンスではそれも無理はなかろう。


<#`∀´>「今日もモナーのせいでさんざんだったニダ。
      謝罪と賠償を要求するニダ」

( ;´∀`)「あれはどうみてもモナのせいじゃないモナ……」

<#`∀´>「ファビョーン!じゃあウリのせいだって言うニカ?
      モナーもしょせんチョパーリの一員ニダ!!」

( ;´∀`)「ここのお代はモナが持つからそれで勘弁してほしいモナ」

<ヽ`∀´>「そうはいかんニダ。でも今度、太郎と次郎も連れて来て
      全員分モナーが奢るって言うんなら勘弁してやってもいいニダ」

( ;´∀`)「もうそれでもいいモナ……」


毎度揉めてるくせに、それでも一緒に行動することが多いようだ。



291: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:31:15.27 ID:yHTahav10
ふと、妙なことに気付いた。

ドクオを筆頭に、ジョルジュ、モナー、ニダー。
年齢が若い順に、階級が高い。

死亡率の高い危険な職種で、なおかつ中途採用が多いとはいえ
年功序列という発想が全くない。


まったく奇妙な島だ。


でも、この島に来てよかった。

この島が、私にドクオを与えてくれた。
他のみんなとの出会いも、何もかも。



どんなに危険で野蛮でも、私はこの島が大好きだ。


もしこの島で生まれ育ち、もっとましな男にめぐり合えていれば
母もああはならなかったかもしれない。

久しぶりに、母に手紙を出した。



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