( ^ω^)机は繋がり僕らは出逢うようです。

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:06:16.82 ID:vib3Us1k0
《そのじゅう 隘路とつづく。》

扉を開け、吹き込んで来た冷気に目を細め、部屋を見渡す。

( ^ω^)「……失礼しますお」
扉が開く音に反応してか、モニターにやっていた顔を上げ、
こちらを向いた彼女に軽く会釈する。

川д川「……内藤、くん?」
( ^ω^)「パソコンを借りたいんだお」

小首をかしげながらも、やんわりと首を縦に振った貞子さん。
気づかれないように息を吐いたつもりだけど、勘繰られたのかもしれない。
彼女は小さく、マッチ棒が折れる位の声量で「大丈夫」と告げてきた。


四階の情報処理室。
コンピューターの起動音だけが、ただか細く響いている。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:07:17.01 ID:vib3Us1k0
川д川「……何か調べごと?」
( ^ω^)「まあ、そんなものだお」
川д川「……そう」
机の横に備え付けらたれた、コンピューターの電源ボタンに彼女が手を添えた。
そのまま押せば、コンマの差で電子音が響く。

川д川「内藤君。ひとついい?」
(^ω^ ) 「お?」
僕の隣にあった椅子に座る彼女が言う。
背もたれに体重をかければ、キィと安物のデスクトップ椅子が軋んだ。


川д川「内藤君、私のこと嫌い?」


は……?

ピコン。
パソコンが立ち上がり、見覚えのある青一面のログイン画面。
僕のアカウントとパスワードは確か……
っていやいや、それは今特に重要じゃなくて、



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:08:58.15 ID:vib3Us1k0
(; ^ω^)「なんでだお?」
川д川「私、微妙に避けられてるような気がする」

(; ^ω^)「そんなことは全然ないお?」
むしろ君の方が僕の事を嫌いなのだと思ったくらいだ。
ログインしようとしていた右手がとまり、
ギチギチと油の切れかかった機械のように鈍く僕の首は曲がる。

川д川「私が近づくと何歩か後ずさりもする」
(; ^ω^)「はい?」

川д川「だから、机の返信を聞きに来た時みたいに」
( ^ω^)「……あれは、」
君が僕から身を逸らしたんじゃないのかお?

言葉は遮られ、かわりに

川д川「ねえ、内藤君。髪の長い人にトラウマでもあるの?」

その声。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:09:57.27 ID:vib3Us1k0
( ^ω^) 「……解らないお」
川д川「……そう」
それっきり、貞子さんは黙り込んだ。
二人っきりの情報処理室、プラスチックを叩く音が聞こえる。


川д川「……私はこの資料、先生に出しに行かなきゃならないから」
鍵をよろしく、とばかりに彼女はそれを差し出してきた。


( ^ω^) 「大変だおね、文化祭実行委員」
川д川「……好きでやってること」
( ^ω^) 「お見逸れしたお」
川д川「それに文化祭が近い、から」
( ^ω^) 「……あと、3日かお」
川ー川「うん。じゃあ、これ」

( ^ω^) 「解ったお」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:11:49.51 ID:vib3Us1k0
鍵を受け取り、軽く頷く。

前髪に隠れた彼女の口元が、小さく微笑むように笑う。
……笑ったように、僕には見えた。それから覗く瞳の純真さに数秒固まる。
何回か瞬きする。視界はクリア、異常ないと言う事はあれは幻などではなく、
そこでかぶりを振り、パソコンの画面と向き合った。


からからと扉が開く音、そして閉じる音。



一人になった。







14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:13:12.10 ID:vib3Us1k0
( ^ω^) 「………………」
从 ゚∀从『交通事故で亡くなったんだよ……!』

( ^ω^) 「……あったお。ニュースサイト」
从 ゚∀从『私たちが中三の時に、』

( ^ω^) 「今から、三年前……飲酒運転のトラック……」
カチリ、カチリとキータイプする音が嫌に耳についた。
やがて自分の呼吸の音さえも煩わしくなる。
それを振り払うように僕は言葉を入れ、検索ボタンを押す。


画面が白く染まり、


( ^ω^) 「…………」
从 ゚∀从『須田クー先輩。須田ショボンのお姉さんだって!』


それにたどり着く為のキーワードはそれだ、と表示される言葉は、


ヒット数――1件



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:14:04.85 ID:vib3Us1k0
( ^ω^) 「…………」
マウスを持つ手が、小さく震えた。

希望の灯を灯したいのか、絶望の淵に身を投げたいのか。
僕自身でも良く解らなくなって来ていた。

けれどもただ一つだけはっきりしている事があって、
それは指先一つ動かすと言う行為が、僕と彼女の、
あるいは過去と未来との決定的な距離と溝を決めると言う事。

( ^ω^) 「…………」

――――ぼくは、


カチリ。


画面が再度白く染まる。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:15:25.08 ID:vib3Us1k0

飲酒運転で追突事故のトラック運転手逮捕 /ニュー速

2004年 6月 20日、VIP市で高校生須田空さん(18)をひき逃げし死亡させたとして、
トラック運転手の少年(19)を業務上過失致死などの疑いで逮捕した。
朝日の昇る午前6時、早朝に起こった悲劇だった。
被害者の須田空さん(18)は、その場に居合わせた藻川毒男さん(15)の連絡により、
救急車で搬送されるも、その6時間後に息を引き取った。
またトラックを運転していた少年には、酒気帯び運転の疑いもあり、警察は慎重に捜査を進めて行く方針……


『その場に居合わせた藻川毒男さん(15)の連絡で』


( ^ω^) 「な……な、」
文字が目の前で踊っている。
画面ではマウスカーソルが心細げに震えている。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:16:27.67 ID:vib3Us1k0
ああ、きっと信じられない、と言う感情はこう言う事なのだろう。
飛んでいく頭のナットとは裏腹に、どこか底冷えするような思惟。
か細く出る息につられるように喉の奥が萎縮し、


( ゜ω゜) 「なんだって!!!!??」


弾けた。



コンピューターの起動音だけが、ただか細く響いている。







22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:17:30.13 ID:vib3Us1k0
( ^ω^)「どういうことだ、お」
('A`)「………………」

能面のような面をして、親友は黙り込んだままだった。
ドクオは最早定位置となっているデスクトップ椅子から動こうとしない。
ただ彼はごく緩慢な動作で机の上にあったコーラを取り、
同じような速度でそれを嚥下するだけだった。


歯を食いしばる。


(♯^ω^)「どう言う事だって言ってるんだお!」

立ち上がり、出来るだけ鋭い視線でドクオを射抜いた。
親友は、微動だにしない。それが余計厭わしく思える。


――なあ、何でそれまで狼狽してる?

僕の思念を跳ね返す彼の視線が言う。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:19:30.61 ID:vib3Us1k0
('A`)「俺は人を信じない。なあ、ブーン」
( ^ω^) 「………………」
今度は僕が黙る番か。
ドクオがブリキの目で僕を見、そして言う。
けれどその言葉は僕に伝える為ではないように思えた。これは、独白だ。


('A`)「覚えるか、あの三年前の出来事を」
( ^ω^) 「6月20日……交通事故」

('A`)「ああ、そうだ。俺、アレで見ちゃったんだよ」

何かを諦めたように、ドクオは笑う。
それにあるのは自嘲や自虐ではなくて、一点の虚無だった。


『さあ? ぜんまいでも切れたんだろ』

もう彼方にあるドクオの言葉。
ぜんまいを回すカギを壊したのは、一体誰だ?



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:20:21.47 ID:vib3Us1k0








('A`)「ツン先輩が、クー先輩を突き飛ばす所をさ」







僕の為に用意されたコップの氷が滑る。
飲み込んだ生唾の味が解らない。どう言う――?



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:21:35.17 ID:vib3Us1k0
( -ω-) 「ツン先輩って誰だお……?」
('A`)「お前――……そうか。ツン先輩はクー先輩の親友だよ。
   二人とも、すっげー仲良かったなぁ……ほら、認めあってる、って感じで」
( ^ω^)「なんで、でも新聞の記事にはそんなの一言も! それにそんな親友を殺すなんて……」



('A`)「推薦」



ドクオが言う。
言葉の意味が解らなければ、ドクオの意図も解らない。だから聞き返す。


絡まりあった糸は決して解けることなく、
僕が梳こうと努力する度にまたややこしくなっていく。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:22:57.06 ID:vib3Us1k0
( ^ω^)「それは、どう言う、こと、だお?」
('A`)「ツン先輩とクー先輩は同じ大学のスポーツ推薦を取ろうとしてて、
クー先輩だけがそれに受かったんだ。……だけど、ツン先輩は落ちた」

( ^ω^)「んな、そんな、そんなものの為に……!」
('A`)「でも見たもんは見たんだからしかたねぇだろ!!!!」

ドクオの怒声。
大げさに肩が震え、僕は一層尖った視線を親友の彼に配る。



('A`)「俺は、俺はもう人を信じない! 溝がある、距離がある! 触れない、触れさせない。
これが一番安全なんだよ! 裏切りや嫉妬なんてもう沢山だ!!」


ドクオの拳が机に沈む。
降りてきた痛々しい沈黙のかやが、僕らに距離を、溝を作る。

喉の奥が痛くて。
言葉は魚の骨のように飲み込む事と出る事を渋っている。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:24:17.88 ID:vib3Us1k0
( ^ω^)「……じゃあ、なんで僕を受け入れたんだお?」
声は震えていないだろうか。
部屋のフローリングが、視界が緩む。

( ^ω^)「本当は、ドクオ。お前は受け入れて欲しいんじゃないのかお?」
('A`)「…………」


( ^ω^)「僕をこの部屋に、ほの暗いこの部屋に招き入れてたんだお?」

ほんとうは、


('A`)「違う」


声がした。
声量が大きい訳ではない。何かしらの強い感情が宿っているわけでもない。
それは純粋な否定だった。
それだけで僕の言葉は摘み取られる。挙げた視界に入るドクオは、
薄ら笑いを浮かべながら、やはり何かを諦めているんだ。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/26(火) 20:25:05.97 ID:vib3Us1k0
('A`)「なんで他人事みたいに言ってんだよ、なあ。お前は俺だろう?」
( ^ω^)「――――違う、僕は」


――なあ、何でそれまで狼狽してる?

僕の思念を跳ね返す彼の視線が言う。

彼は、ドクオは、小さく息を吸いそれを吐くのと同時に、僕へ届けた。


('A`)「お前だって、あの事故現場いたくせに」


迷路へと続く扉の取っ手に、手を添えさせた。
あきらめたような笑いが部屋を満たす。
それはドクオの声だったのだろうか? それすらもよく、解らなくて。

《そのじゅう 隘路とつづく。》 終
         そのじゅういちに続く!



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