( ^ω^)机は繋がり僕らは出逢うようです。
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:11:46.78 ID:h/Werarj0
- 《そのじゅうに 曙光がみえるか。》
从 ゚∀从 「先輩たちとの出逢いは中学一年の事だった」
老人が息を吸うみたくゆったりと、そんなリズムでハインリッヒは語りだした。
横にあった机をなぞり、スカートを翻して僕に背を向ける。
( ^ω^)「…………」
相槌を打つ事さえ僕には出来ないように思えた。無言のまま、ハインリッヒを見る。
空中を舞い、ゆるやかに落下して行く埃が煌きながら教室を満たしていた。
あの時のように、その光が希望の灯なのか判断出来ない。
ただ僕はあの時のように、もたらされる絶対的な過去を受け止めるしかない。
从 ゚∀从 「忘れたいモンでもあるけどな」
酷く懐かしく大切な物を、納屋から取り出して来たみたいに。
壊れ物を扱うような口調でハインは続ける。
箱一杯に詰めた宝物に触れる。それは何よりも暖かい記憶。
/
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:14:00.66 ID:h/Werarj0
他人との距離のとり方が解らない。
それはいつだって私に縋り付いて来た悩みだった。
近づきすぎれば相手に拒絶される。遠すぎれば自分が寒さで震える事になる。
距離の計り方、私が生きていく上での一番の厄介事。
ξ゚听)ξ 「……んで、遠くに飛ばしゃーいい砲丸選んだの?」
从 ゚∀从 「はい」
私の返答にツン先輩はからりと笑う。
それから何の前フリもなく伸ばされた腕で首周りを固定された。
从; ゚∀从 「何すん……っ」
抗議の声は聞こえていないはずはないのに、
拘束力を挙げた腕を肌は感じる。ぞわり、と背筋が栗毛立った。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:17:53.87 ID:h/Werarj0
- 从; ゚∀从 「っちょ、やめ――!」
ξ゚听)ξ 「はい、異議は却下」
そのままぐしゃぐしゃと手で髪をかき混ぜられる。
片目を瞑り、思う。何なんだこの人……!?
部活の休憩時間、ポツリと悩みを打ち明ければこの仕打ちだ。
オマケに外周を走り終わったツン先輩は少し汗臭い。
从; ゚∀从 「ちょっ、ちょっと待っ……!」
ξ゚听)ξ 「ったく、何ていうか悩みの割には単細胞ね」
从 ゚∀从 「…………」
ξ゚听)ξ 「図星でしょ。それに『他人との距離が測れない』ってね、凄く贅沢な悩みよ?」
从 ∀从 「…………何が、」
ξ゚听)ξ 「それって結局さ、自分が傷つきたくないだけの話じゃない?」
从# ゚∀从 「先輩に何が解るって言うんですか……!」
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:19:18.90 ID:h/Werarj0
- 首を固定されたままの姿勢で声を張り上げる。
きっと私は目を見て言えないから、せめて。
正論を振りかざす彼女の強い光に当てられれば、きっと私は折れてしまうから。
ξ゚听)ξ 「痛い所突かれたからって逆切れしないの。肯定してるようなモンよ?」
从; ゚∀从 「ぐっ…………」
ξ゚听)ξ 「いっそ当って砕ければいいじゃない。ビクビクしてるだけ無駄」
从 ゚∀从 「………………」
「……ツン、本人にはもう聞こえてないと思うぞ」
ξ゚听)ξ 「へ?」
从 ∀从 「…………」
ξ>ー<)ξ 「強く絞めすぎちゃった♪」
遠のく意識の中で聞こえるその声。
いきなり首周りに覚えた開放感、そして落下して行く視界。
どしゃ、音を立ててグラウンドに沈む体。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:22:31.76 ID:h/Werarj0
「「………………」」
感じる二人分の視線と無言。
私も同じように言葉を発することなく起き上がり、一度歯軋り。
从# ゚∀从 「っ死ぬかと思ったわ!!!!」
生理的に出た涙を拭いて、相手を睨む。
ツン先輩はそれでも朗々と笑っていた。本当に、なんなんだこの人。
ξ゚ー゚)ξ 「そうそう、そう言う感じ」
从 ゚∀从 「は……?」
「ショック治療と言う奴だ。許してやってくれ」
从; ゚∀从 「はぁっ!?」
声をした方向を睨む。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:23:56.25 ID:h/Werarj0
从 ゚∀从「…………須田部長」
目に焼きついた繊細な黒髪。やんわりと半月を描く口元と、落ち着きを払った雰囲気。
まるでそこにある事だけで、世界から他の色を奪ってしまうと感じる程の――
いやいや、それよりも。
从 ゚∀从 「ショック治療?」
川 ゚ -゚) 「ツンはツンなりにお前の事を気にかけてたんだよ」
ξ∩゚听)ξ 「あーあー、聞こえなーい」
両耳に蓋をして首を振るツン先輩と、それを見やり呆れ気味に笑うクー先輩。
なんなんだ、この人たちは。
ξ*゚听)ξ 「別にアンタの為とかそう言うんじゃなくて、ただ私が、一人でいるのを
見るのが嫌だっただけなんだからね。私自身の都合だから勘違いしないこと! わかったわね、高岡っ」
川 ゚ -゚) 「このように、究極レベルで不器用だから伝わり難いけどな」
从; ゚∀从 「は、はぁ…………」
前面に出る楽しさを押し殺した笑い声。
ただし顔がニヤついてるから効果ないけど。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:26:05.26 ID:h/Werarj0
- 反対側のグラウンドで活動するサッカー部のホイッスルが鳴る。
茜雲と、まだ青さの残る西の空。
ξ゚听)ξ 「ま、何て言うの。殻に閉じこもってるだけじゃ世界は変わんないわよ」
从 ゚∀从 「…………」
ξ゚听)ξ 「いい加減、その殻割ってみたら? 案外外は楽しいかもしれないじゃん」
从 ゚∀从 「先輩、それはきっと強い人の意見ですよ」
ξ゚听)ξ 「んん?」
ツン先輩の考え方に理解は出来るけど、今の私じゃ共感は出来ない。
手負いの獣の一撃は無様だけれど強力だ。最後の悪態を、漏らすようについた。
綺麗な造形の顔を眉間にシワを寄せる事で歪ませながら、
私が投げつけた言葉を真摯に受け止めるツン先輩。バツの悪そうに掛かれた頬。
クー先輩はこちらを何も言わずに見つめている。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:29:34.62 ID:h/Werarj0
- ξ゚听)ξ 「じゃ何、アンタは弱者のままで良いの?」
从 ゚∀从 「…………それは、」
そうじゃない。
そうじゃないんだ。
近づきすぎて相手に拒絶される事が嫌で、
遠すぎて自分が寒さで震える事も嫌で、
でも、そのまま何もしない自分が一番嫌で。
的確に弱さを露呈させられたのに、図星だからと言って腹を立てる自分は気にいらなくて。
強くなりたいと、思う。けれど
川 ゚ -゚) 「では、強くなればいい」
クー先輩が言う。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:30:35.29 ID:h/Werarj0
- 从; ゚∀从 「そんな、簡単なことみたいに」
ξ゚ー゚)ξ 「簡単じゃないの」
ツン先輩が言い、それからぐしゃぐしゃとまた髪をかき混ぜられる。
頭に触れられる事は嫌いだったけど、その乱暴だけど私を思いやる手を振り払う事は出来なかった。
ξ゚听)ξ 「知ってる? ハードルって、高いほど潜り易いのよ」
頭上から降ってくる声色は、力強い。
またサッカー部のホイッスルが鳴る。自適に泳ぐ赤みを帯びた雲が目に入る。
少しだけ汗臭い、そして何よりも大切な、彼女たちとの思い出。
( ^ω^)「…………ちょっとストップしてくれお」
从 ゚∀从 「何だよ今いい所なのに。話の腰折るな殴るぞ」
(#)ω^)「殴ってから言わないで欲しいお」
相変わらず奮闘して音を外すトランペットの音が冴える放課後。
ジト目でこっちを見る暴行罪の現行犯の拳は今だ固められたままだ。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:31:28.97 ID:h/Werarj0
- 一つ咳払いをして、僕は一番に上がって来た疑問を問う
( ^ω^)б 「从 ゚∀从 ←これ誰?」
从 ゚∀从 ∂「俺」
( ゜ω゜)∴∵「商品表示に偽りあrフゴォ!?」
今度はミゾオチを殴られた。
武装解除されていない状態での口答えはいささか軽率だったかも知れない。
峰打ちだ。とハインリッヒ。きっとこいつは峰打ちの意味を理解していないに違いない。
今すぐ辞書を持てと心から思う。
从 ゚∀从 「殴るぞ」
( ^ω^)「だから殴ってから言う言葉じゃないお……」
从 ゚∀从 「アン?」
( ^ω^)「何でもございませんお」
将軍に仕える家臣を見習って崇める。
いや、それよりもコーランするイスラム教徒って方がしっくり来るかもしれない。
モーション的にもぴったりだし。……どうでもいいか。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:33:15.89 ID:h/Werarj0
- 从 ゚∀从 「今の俺が在れるのは、先輩たちのおかげってもいい」
あれ、これいつか聞いたような台詞だわ。
そう言いながら机に腰掛けて、回顧する視線で窓の方を見るハインリッヒ。
まるでそっちにあの日があるとでも言いたげだった。
( ^ω^)「…………?」
从 ゚∀从 「ああ、お前と知り合ったのはその後だから、知れないわな」
確かに。
僕がハインリッヒとあった時は、もう彼女の一人称は『俺』だった。
黙っていれば百合の花か柄杓か、そんな雰囲気の子が
まったく可愛げのない、それ所か漢気さえ感じる言葉遣いだったもんだからよく覚えている。
もっとも、時が立つに連れて百合と柄杓のオーラが桔梗と鉄鍋になって行ったけど。
多分そう言う素質あったんだろうお。そう思う。
从 ゚∀从 「ま、これツン先輩を見習っただけだけどな」
( ^ω^)「……ツン先輩ってどんな人なんだお」
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:35:25.75 ID:h/Werarj0
- 从 ゚∀从 「何だお前、そんな事も忘れたのかよ」
呆れと哀れが混ざった、そんなため息がハインリッヒから出た。
( ^ω^)「恐縮ですお」
从 ゚∀从 「誉めてねぇ」
張っていた肩を下ろして、彼女はまた天井を仰ぐ。
釣られるように僕も肩の力を抜く。ふっ、と一瞬重圧。それでもそれは直ぐに頭から突き抜けていく。
从 ゚∀从 「……いいから次は黙って聞いとけ」
小さく笑い、双眸を一度震わして伏せた。
/
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:36:07.49 ID:h/Werarj0
他人との距離のとり方が解らない。
それはいつだって私に縋り付いて来た悩みだった。
近づきすぎれば相手に拒絶される。遠すぎれば自分が寒さで震える事になる。
距離の計り方、私が生きていく上での一番の厄介事は、
やがて私が生きていく上での楽しみになって行った。
人と触れ合うのも悪くない、そう思うようになった。それはきっとあの人たちのおかげで――
从 ゚∀从 「ツン先輩、クー先輩」
川 ゚ -゚) 「ん?」
ξ゚听)ξ 「はいよ」
从 ゚∀从 「更衣室の前で拾ったんですけど、これらはどうしますか」
ξ;゚听)ξ 「拾ったって、高岡アンタ……」
从 ゚∀从 「はい?」
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:36:51.04 ID:h/Werarj0
ξ゚听)ξ 「元あった場所に捨てて来なさい」
ボロ布を引き釣りながらいつものグラウンド。
開口一番指示を仰いでみれば、帰って来たのは親っぽい一言だった。
何事かと他の陸上部員も集まってくる。
川 ゚ -゚) 「そんな犬みたいに言うか……で、ハイン、これは?」
ξ゚听)ξ 「そう言うクーは物扱いするのね」
从 ゚∀从 「覗きかと思って、皆で袋だったんですけど、ちょっとやりすぎました☆」
手を加えた一年の女子部員が一斉に、元気よく両手の人差し指を突き出す。ゲッツ坂本。
支えられる重心を失った『これら』が鈍い音を立てて地面に落ちる。
( ♯ω`)「ん……お…………」
('A`)「ぐぅ……ぁあ……」
連行して来た二つの『これら』がほぼ同時にうめく。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:38:09.85 ID:h/Werarj0
- ⌒*(・ω・)*⌒「生きてる? ねえこれ、ちゃんと生きてる?」
静観していた2年の先輩が、どこかから拾って来た小枝で突付いた。
黒の塊が小さく身じろぎする。
『これ』とは即ち、学ランを着た男子だった。
クラスは違う物の、襟章から判断して2人とも同じ一年生だ。
ξ゚听)ξ 「知り合い?」
从 ゚∀从 「いや、違います。別のクラスですよ。
……やめて下さいこんな犯罪予備軍と知り合いとか」
( ^ω^)「「…………お、ぉぉ……!?」」('A`)
意識を取り戻したらしい一人の男子が、片腕をついて上体を起き上がらせた。
部室からここまで地面をズルズルとひいて来たためか、
黒の学ランは既に茶色のコーティングがされている。
ちっ、もうちょっと強くやってればよかったな。俺を含めた一年の女子部員が舌打ち。
やる、の漢字変換はこの際しないで置く。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:39:17.61 ID:h/Werarj0
- 起き上がった覗きの男子の第一声は、
( ^ω^)「り、陸上部に入部させて欲しいんですお!!」
ポケットから取り出した、くしゃくしゃになった入部届。
「「「「………………」」」」
一斉に押し黙るVIP中学陸上部員。
犯罪者から被害者へのランクアップの瞬間でもある。
ξ゚听)ξ 「でもなんで今の時期に……?」
( ^ω^)「陸上大会の中継見て――たかとび、高飛びの人を見て、
鳥みたいだって、僕もそうなりたいって思ったんですお!!」
そうして被害者から変質者微妙にランクダウンの瞬間でもあった。
円形状に取り囲んでいた陸上部員たちが一歩下がる。
その中で、後退しない人が一人だけいた。
その人は、明るい苦笑をしてみせ、男子に一、二歩歩みより、目の前に座り込む。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:40:10.65 ID:h/Werarj0
川 ゚ -゚) 「入部届がある以上、私たちに拒否権はないが――キッツイぞ?」
クー先輩こと須田空部長が言う。
握手するために伸ばされた手を男子は掴み、
(*^ω^)「よろしくお願いしますお!!」
まったく、とシンクロした陸上部員全員のため息が春空に溶け出していく。
春の大会終わり、皆よりかは一足遅い4月の電撃入部。
それがブーン、内藤ホライゾンと藻川ドクオとの出逢いだった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:44:38.92 ID:h/Werarj0
- /
从 ゚∀从 「これも、覚えてないか?」
( ^ω^)「………………」
僕は小さく頷く。ああ、バツが悪い。空気が重すぎる。
ハインリッヒの口からため息は出ない。変わりに届けられたのは頭をかく音だけだった。
……ため息を吐かれる方がよっぽど救いがある。
从 ゚∀从 「じゃあ、藻川の話は本当だったって訳か」
( ^ω^)「ドクオからは、なんて?」
アレルギー患者の過剰反応、冷静な目で見ればそれだけとしか
僕の食いつきようは捕らえられないだろう。事実、そうなんだ。
ドクオの言葉に追われ、逃げるようにして僕はハインに話を促したのだから。
从 ゚∀从 「別に。お前が記憶を忘れた事と、先輩の事話してやって欲しいってだけだよ。
確か、『諦めさせるな』だったっけな?」
(; ^ω^)「な……」
突如としてリフレインするドクオの声。
それはハインリッヒから出された言葉とは、全くもって真反対の、僕を攻め立てる言葉。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:45:27.58 ID:h/Werarj0
『これ以上逃げ続けるつーんなら、諦めないって言うんなら、
俺はブーン、お前を絶対に許さないからな』
(♯^ω^)「なんだお、それっ!」
从 ゚∀从 「どうしたんだよブーン」
(♯^ω^)「アイツは、ドクオは、諦めないんなら僕を許さないって言ったんだお!?」
何だよ、その心変わりは!!!!
怒号に任せて僕は隣りにあった机に拳を叩きつける。
ガンッ、と鈍い打撲音。その振動が金属製の引き出しに伝わって、また僕の拳に戻って来る。
神経が発する鈍痛と、良くなる拳の血流。思考が空回りして、目頭の奥が熱くなってくる。
从 ゚∀从 「落ち着け、ブーン」
(♯`ω´)「これが落ち着いてられるかってんで――!」
高岡の方を振り返る。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:48:23.05 ID:h/Werarj0
- 目に飛び込んで来たのは、僕を捕らえるハインリッヒの真っ直ぐな視線。
反論は全てこの視線に絡みとられて行ったのだろう。
睨み返すことも出来なければ、瞬きする事でその視線を逸らす事も出来ない。
从 ゚∀从 「諦める事を、忘れる事を諦めない、忘れ続けるならって言う意味だと思うぞ」
( ^ω^)「なん、どういう意味だお……」
从 ゚∀从 「――忘つづける事を、諦める事を、諦めろって言う意味だろ」
( ^ω^)「それって、つまり」
从 ゚∀从 「諦めないって事だ」
ハインリッヒが笑う。
从 ゚∀从 「俺の話はこれで終わり。……あともうちょっとだけ待っといてくれ、
そうすりゃきっと俺はツン先輩の模範やめて、私自身になれるだろうからさ」
だから、
( ^ω^)「待たないお」
ハインリッヒの言葉を遮って、僕は言う。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/08(日) 19:56:36.94 ID:h/Werarj0
- 从 ゚∀从 「なぁっ!?」
あんぐりと口を空けて、こっちを見るハインリッヒ。
この解らず屋め。
グラウンドから鳴ってくるホイッスル。
( ^ω^)「きっと、俺だろうが私だろうがそれは紛れもない高岡自身だって、
ツン先輩は言いたかったんじゃないかお?」
ある意味僕のこれは八つ当たりだった。
僕の言葉は独り言みたく空中に投げ捨てられる。そしてそれを律儀にもキャッチするハインリッヒ。
( ^ω^)「だから僕は待たないお。どうなろうが高岡は高岡に変わりないんだから」
从 ゚∀从 「……お前、なあ」
笑う唇から漏れる細いため息。それでも瞳は震えている。
いつだってコイツは遠まわしだ。
図星が嫌ならやめろと静止すればいいのに、それをいつまでも愚図ってるんだ。
大会見に来て欲しいんなら別に前フリなんて必要ないし、
呼び出したいなら口で言えばいいもののそれをやろうせず手紙使うは。
从 ゚∀从 「うるせーうるせぇ。そんならお前だってそうじゃねぇか、ブーン」
( ^ω^)「……自分の事棚にあげますかお」
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:04:52.19 ID:48Ar4+9M0
- 从 ゚∀从 「クー先輩のこと聞きてーのは解るよ。でも何でそれがネット経由で、藻川と来て俺なんだよ。
弟のショボンに聞きゃぁ一発じゃねーかこの野郎」
高岡の眉根にシワが寄る。
从 ゚∀从 「臆病者は、どっちだ」
紫煙を吐くように、ハインリッヒの口から深い息が出た。眉間の渓谷が更に深くなる。
僕とハインは教室の前後でちょうど真正面に向き合っていた。
僕らの間に流れるのは、場違いに明るい廊下の喧騒と隣の校舎からの金楽器の音。
落陽の光が強くなり始め、黄昏時が近づいてくる。
从 ゚∀从 「なあ、ブーン」
教室の廊下側最後列、僕の机に寄り添うハインが呼ぶ。
……ハインリッヒ?
目の前の人は、本当に、ハインリッヒなのかお?
たそがれどき、なるほど。誰そ彼時ってこの事だったのか、と、妙な所で関心する僕がいた。
間もなくして夕闇が忍び寄ってくる。僕の机の周辺は、深い影になっている。
影の中から、声がする。誘われるように一歩、僕はそちらへ進む。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:05:25.65 ID:48Ar4+9M0
- ( ^ω^)「なんだお」
「覚悟は、あるか?」
( ^ω^)「かくご? なんのだお?」
さらに二歩、僕は影へ行く。
「背負う覚悟だ。……お前なら多分、クー先輩を救える。助けられる」
クー先輩。声が発したその単語に、思わず肩が触れる。
僕が忘却した人。僕の机向こうにいる人。僕に手を差し伸べてくれた人。
僕は――――、
向こう岸の相手は、僕の返答を待たずに続ける。
「あれからの事も、これからの事もお前は背負えんのか、って言ってるんだ。ブーン」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:07:58.92 ID:48Ar4+9M0
『私は、君の方こそ――』
僕も影に入った。目が慣れて来る。
暗闇の中にいたのは、まぎれもなく昔馴染みのハインリッヒだ。
僕を射抜いた時のように澱みない、愚直なまでの視線と顔つきでこちらを見ている。
ふるふると瞼が震えた。
周りの喧騒は、今ばかりはその喧しさを控えているようだった。ここは、静かだ。
嘘など言えない。いや、言わせない無言のエネルギーが今のハインにはある。
( ^ω^)「僕は。僕は――」
ハインリッヒの視線を受け止め、その上で応えるように彼女を見た。
耳の奥で規則的に心臓が脈打つのが聴こえる。
偽る事なく着飾る事なく心情を届ける為に息を吸う。ハインが小さく頷いたのが見えた。
( ^ω^)「そんなのわかんないお」
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:09:54.65 ID:48Ar4+9M0
- 喧騒が戻ってくる。
猫目のハインリッヒがその双眸を更に広げる。
酸素を欲する金魚よりも鈍い仕草でわなわなとハインリッヒの唇が震える。
从; ゚∀从 「はっ…………はァ!?」
愕然。形容詞的にはこれがぴったりな感じでハインが僕を二度見する。
その様子を見ながら頬を掻く。
ハインの拳が来る前に言わなきゃいけない事がまだあった。
( ^ω^)「だけど、多分僕はクー先輩の事が好きなんだと思うお。
だから、助けたい。覚悟とかそう言う難しいのはとりあえず二の次だお!」
愕然。形容詞的にはこれがぴったりな感じでハインが僕を二度見する。
その様子を見ながら僕はもう一度頬を掻く。
あ、やべ、拳、来るかお、来ちゃうのかお?
胸元にあった手をハインが頭まで振り上げたのが見えた。
上段の構えですか、と言う事は顔に……ッ?
反射で目を瞑る。
暗転。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:11:07.28 ID:48Ar4+9M0
从 ゚∀从 「『今は二の次』なぁ……つっーくづくお前らしいわ!!」
聴こえて来たのは、豪快な笑い声だった。
自分の周りにある全部が愉快だ、そう言いたげな馬鹿笑い。ハインリッヒの声で。
それから両肩にくる衝撃。目を開ける。ハインリッヒが抱腹絶倒しながら僕の両肩を叩いていた。
バシィバシィバシィバシィッ!
手加減……は、期待できない。
加減と言う文字すら知らない子だコイツ。まあいいか、今日くらいは。
ひりひりと肩が痛んでくる。まあ、いいんだ。我慢しよう今日くらいは。
バシィバシィバシィバシィッ!
……無理!
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:12:46.74 ID:48Ar4+9M0
- ( ゜ω゜)「ま、真面目に痛いっスお! 堪忍や! 堪忍やぁぁあ!!」
耐え切れなくなって叫んだ。後退しようにもがっちりと両肩が拘束されている。
カラスの鳴き声がどこかからか聴こえる。笑い声は時間の経過と一緒に収まっていった。
沈黙が来る。夕日がその強さを増す。
地平線へ落ちる間際の、一瞬の輝きと言う物かも知れなかった。燃やし尽くされる刹那の反流。
目をしばめ、僕はハインを見る。
从 从 「っとに……お前らしすぎて涙が出てくるね」
胸元にハインリッヒの額がつく。じんわりと伝わってくる熱と言葉。
手持ち無沙汰な僕の両手がぶらりと下がった。どうすんだ僕。
……悩んでもポケットからライフカードが出てくる訳はないし、
これからの選択肢を誰かが囁いてくれる訳でもない。
( ^ω^)「高岡」
从 从 「…………ちげーよバカ面。勘違いすんなよアホ面。
これはアレだ、今唐突にすっげー眠気に襲われたんだよ」
( ^ω^)「そうですかお」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:13:45.66 ID:48Ar4+9M0
- 从 从 「…………」
ぐしぐしとハインリッヒが僕の胸元で首を振った。
今絶対カッターシャツに鼻水ついたな。心の中でうな垂れる。
ハインが顔を離す。目が合うけれど、その目に涙は一滴も浮かんでない。
从 ゚∀从 「ブーン、受け取れ」
そう言って彼女は制服の胸ポケットから何かを取り出した。
口元にはスマイル、手にはよく見るとシャーペンとメモ用紙一枚。
拳を突き出すように、僕に向けて。
( ^ω^)「わかったお」
軽く頷き、僕はそれを受け取る。
シャーペンは多分机へ、クー先輩へメッセージを書けって事だろう。
メモ用紙に軽く目を通す。やはり何かを切り倒しているような字で、地図と住所らしいもの。
( ^ω^)「瀬川院……?」
从 ゚∀从 「お墓の場所だよ。クー先輩の」
ハインリッヒが言う。
从 ゚∀从 「明日、ちゃんと伝えられたか確かめて来い、自分の目で。
…………先生には俺から上手く言っておくから安心しろ」
それから小さく微笑む。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:14:46.41 ID:48Ar4+9M0
- 普段のハインリッヒには程遠い、優しい微笑。
少しドギマギしたりした心臓を気付け代わりに手でどん、と叩いた。
ハインリッヒにはそれが了解の意に取れたらしい。
またその笑みを深めて、じゃあな。と一言。
そんないつも通りの動作で、後方にあった出入り口から廊下に出て行こうとする。
( ^ω^)「っあ、高岡!」
从∀゚ 从 「あんだよ」
振り返り際の奴に、ニカ、と笑い、
( ^ω^)「ありがとう、大好きだお!」
一言。返って来たのは、
从∀゚ 从 「知ってるよ」
苦笑いとその言葉だった。
/
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 18:15:19.26 ID:48Ar4+9M0
- 自分の机と向き合い、改めて思う。
( ^ω^)「多分僕はクー先輩の事が好きなんだと思うお」
復唱。理解してから言ってみる事だってあるのだとしみじみ感じた。
何気なく外を見れば、やりとりしている間に日は完全に落ちていたらしく、
西向きの窓に広がるのは底の知れない宵闇だけだった。
ハインリッヒから渡されたシャーペンを一回転させる。
その勢いを落とすことのにないように、僕は机にシャーペンの先を向けた。
書くべき言葉はもう決まっている。
『明日の午前6時、トラックに十分気を付けて欲しいお。出来れば交差点には近づかないで。
絶対、僕らは逢えるお。三年後に、絶対に!』
( ^ω^)「絶対に、逢えるお――」
その声音は、きっと祈りにも似ていた。
《そのじゅうに 曙光がみえるか。》終
そのじゅうさんに続く!
戻る/そのじゅうさん