('A`)ドクオは故郷に帰るようです

1: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 02:55:16.68 ID:1Pp83ReT0
〜2014年5月3日(憲法記念日)〜

どこまでも広がる田園風景。その真ん中を貫くように伸びる線路。
窓から入り込む風は、春の独特の緑の匂いがした。

「まもなく、VIP。終点VIP駅に到着いたします。お忘れ物の無いようにお気をつけ下さい」

終点到着のアナウンスと共に各駅停車は少しづつスピードを緩め、定位置に停車する。

停車した電車の昇降口から一歩踏み出すとジャリという音が足の裏から聞こえる。
不意に吹いた春風に前髪撫でられ、うつむき加減の顔を上げると昔と同じ姿で出迎える駅舎が見えた。

('A`)「ふう、相変わらずのどかだなぁ」

まるで昔にタイムスリップしたかのような、錯覚を覚えつつドクオは改札をくぐる。
錆びた画鋲の刺さった掲示板。ところどころペンキのはげた駅舎の柱。他愛も無い落書きのされた待合室の伝言板。

('A`)「なにも変わってないな」

駅舎を抜け、申し訳程度に設けられた駅前のロータリーに出ると、
相変わらず暇そうに商売道具に腰を預け、食後のタバコを吹かしながら雑談するタクシーの運転手達が居た。

なんとなくドクオが腕時計を見ると時刻は午後の一時を回ろうとしていた。

('A`)「そうか、この時間じゃ当たり前か」

そんな事を呟くと背中のバッグを背負いなおしドクオは歩き出す。

ドクオの成人式以来5年ぶりの帰郷はそんな風景から始まった。



2: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 02:57:59.48 ID:1Pp83ReT0
事の発端は一月前の週末、一本の電話だった。

('A`)「…もしもし」

( ^ω^)「お?ドクオかお?」

旧友の内藤からの電話。会うことは少なくとも月に2.3回は電話を掛けてくる。

('A`)「俺の携帯に掛けて俺以外が出ることがあるのか?」

( ^ω^)「それもそうだお。ドクオに彼女が出来るなんて事はあるはずなかったお」

('A`)「…いい度胸だ。次に会うときがお前の命日になる。遺書の準備をしておけ」

( ^ω^)「次に会うときはめでたい席になるから、それは勘弁していただきたいお」

('A`)「…どういう意味だ?」

ドクオの問いかけに内藤は少し間を置き答える。

(*^ω^)「…実はツンと結婚することになったお」

内藤の発言にドクオは少なからず驚く。

('A`)「そうか、やっと決心したか」

( ^ω^)「それで来月の四日に結婚式代わりに、仲のいい友達だけで小さなパーティをするから、出席してほしいお」

('A`)「…もっと大々的にやれよ。約8年越しだろ?」



3: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 02:58:55.09 ID:1Pp83ReT0
( ^ω^)「ツンが恥ずかしいから嫌だって言うから仕方ないお」

('A`)「まぁ、あの性格じゃな。それに旦那がお前じゃ、俺なら紙切れ一枚出して済ませたいところだ」

( ^ω^)「嫉妬カコワルイお」

('A`)「はいはい、わかったよ。なら休暇取って三日にはそっちに帰るから、駅まで迎えに来いよ」

( ^ω^)「お安い御用だお。何時ごろ着きそうだお?」

('A`)「昼過ぎにはそっちに着くだろうよ」

( ^ω^)「把握したお」

('A`)「じゃあ、もう切るぞ」

( ^ω^)「ばいぶー」

ドクオは電話を切ろうとして慌てて思いとどまる。

('A`)「あ、そーだ」

( ^ω^)「お?」

ドクオは少し間をおき、一つだけいい忘れた言葉を口にする。

('A`)「結婚おめでとう。よかったな」

( ^ω^)「ありがとうだお」



5: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:01:53.15 ID:1Pp83ReT0
春にしては少し暑いくらいの陽気の中、歩くこと五分。駅から一番近いコンビニに入る。
程よく冷えたエアコンの風がうっすらと汗をかいた体に心地よく吹き付ける。
ドクオは雑誌コーナーで立ち読みを開始する。
今では殆ど知らない連載の中、知っている連載を流し読みしていたドクオの肩を誰かが叩いた。

( ^ω^)「おまたせだお」

('A`)「よう、久しぶり」

内藤と合流を果たしたドクオはレジでタバコを買いコンビニを出た。
駐車スペースでアイドリング中の内藤の車に目を向けると、助手席と後部座席に見知った顔が二つ。

ξ゚听)ξ「よっ、久しぶり」

川 ゚ -゚)「元気そうだな」

ツンとクー、同じ思い出を共有する大切な仲間たちがドクオを出迎えた。

('A`)「なんだよ、今日はVIP高映画研究部の同窓会か?」

ドクオは皮肉を漏らしながら後部座席に乗り込む。

川 ゚ -゚)「いつも同窓会に顔を出さないくせに何を言ってるんだ」

ξ゚听)ξ「そーよ、あんた盆と年末くらいはこっち帰ってきなさいよ」

( ^ω^)「おばさんも心配してるお。電話くらいしたらどうだお?」

ドクオの皮肉に地元組の非難が集中する。



7: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:03:06.52 ID:1Pp83ReT0
('A`)「あー、分かった分かった、三人してしゃべるな。暑苦しい」

相手にするのも面倒だと言わんばかりに、強引に話を打ち切る。

('A`)「で?何でまた全員集合してんだよ?」

内藤には迎えに来いと言ったが、全員で出迎えろと言った覚えは無い。そんな意味を込めてドクオは内藤に質問する。

( ^ω^)「ちょっと、探し物をするためだお」

内藤はドクオの質問に答えながら車を発進させる。

ξ゚听)ξ「物探しは人手が必要だからね」

('A`)「何を探すんだよ」

川 ゚ -゚)「『木漏れ日の詩』。私たちが三年の時、撮ったやつだ」

('A`)「あー、あれか。何に使うんだよ」

( ^ω^)「明日、上演するんだお」

内藤の答えにドクオが動揺する。

Σ('A`;)「な、なんでそうなる?!」

ξ゚听)ξ「私が見たいから」

ドクオの言葉に今度はツンが反論する。



8: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:04:42.79 ID:1Pp83ReT0
('A`;)「だからなんで『木漏れ日の詩』なんだよ!お前らの結婚式なんだからお前ら主演のヤツ使えよ。
    二年の夏に撮った『砂浜のメモリーズ』があるだろ?」

(;^ω^)「僕もそう言ったんだお。だけどツンが…」

ξ゚听)ξ「やーよ、あれ失恋の話じゃない。結婚式に縁起悪い」

川 ゚ -゚)「それにあれはギコ先輩の作品だからな。内藤の結婚式なら内藤の監督したやつの方がいいだろう」

女性陣二人の意見にドクオは言葉に詰まる。

('A`;)「だからって、主演の俺に一言も言わずに決めるのはどうかと…」

ξ゚听)ξ「あら、もう一人の主演と監督は快く承諾したわよ?」

川 ゚ -゚)「うむ」

('A`;)「ちょ、クー!何、承諾してんだよ!」

川 ゚ -゚)「いいじゃないか。女の子にとって結婚式は一生に一度の事だ。好きにやれば」

ドクオの抗議に対し、クーはさらっと流すように答える。

('A`;)「おい、ブーン!てめぇは何で承諾してんだよ!」

(;^ω^)「し、仕方ないんだお。ツンのお願いは絶対なんだお」

ξ゚ー゚)ξ「ふふーん。そういうことよ」



10: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:07:34.58 ID:1Pp83ReT0
内藤の言葉にツンは得意そうに微笑む。まるでイタズラが成功したいたずらっ子のようだ。

('A`)「やれやれ、もう尻に敷かれてんのか?お前の行く末はもう見えたな、ブーン」

決定が覆せないと悟ったドクオはせめてもの仕返しとばかりに内藤に皮肉を吐いた。

(;^ω^)「そ、そんなことないお!僕は亭主関白になるんだお」

('A`)「その程度のお願いを断れないようじゃ、無理だな」

川 ゚ -゚)「うむ、絶対無理だな」

内藤の関白宣言にドクオとクーは脊髄反射で否定する。

(;^ω^)「ふ、二人ともツンのお願いの仕方を知らないから、そんな事が言えるんだお」

ξ;゚听)ξ「ちょ」

内藤の言葉に今度はツンが反応する。

(*^ω^)「目を潤ませて、上目遣いで『おねがい』なんて言われt…」



11: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:08:15.94 ID:1Pp83ReT0
その瞬間ドクオの目の前を閃光が横切った。

( ゚ω(#)「ひでぶっ!」

ξ////)ξ「何を口走ってんのよ!!!」

川 ゚ -゚)「見事な右ストレートだな」

('A`;)「冷静に言ってる場合か!ツン、運転中に何してんだよ!」

殴られた内藤の心配より事故の心配をするドクオに、クーが冷静に解説をする。

川 ゚ -゚)「いつもの事だ。心配するな」

('A`)「へ?」

クーの言葉通り車は蛇行することなく、きちんと走ってる。

(;^ω^)「今日のはいつもより痛いお」

ξ゚听)ξ「当たり前でしょ、グーで殴ったんだから」

そして二人は何事もなかったように会話している。



12: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:09:05.51 ID:1Pp83ReT0
('A`)「うぇ、とんだバカップルだな」

川 ゚ -゚)「毎度付き合わされる身にもなってみろ」

('A`)「この5年帰ってこなくて正解だったわ」

川 ゚ -゚)「お陰で私の苦労は2倍だがな」

('A`)「そいつは悪かったな。…おい、ツン。この車禁煙じゃねーよな?」

ξ゚听)ξ「窓さえ開けてくれればね。ブーンも吸うし」

('A`)「そいつぁ、助かる」

ドクオは窓を5p程開けてタバコに火を着けた。

(;^ω^)「この車は僕のなのに、なんでドクオはツンに聞くんだお?」

('A`)「だまれ、尻に敷かれマン」

(;^ω^)「それなんてテイルズ?」

そんな他愛も無い会話を続けているうちに車は、私立VIP高等学校と書かれた門をくぐり敷地内に入っていった。



13: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:11:52.54 ID:1Pp83ReT0
職員用昇降口から入り事務所受付にいた事務員に用件を告げると、すぐに内線で目的の人物を呼び出してくれた。

/ ,' 3「やあ、みんなご無沙汰だな。元気にしていたかね?」

来客用のスリッパに履き替え昇降口で待つこと5分。目的の人物は昔と変わらぬ佇まいでやってきた。

( ^ω^)「荒巻先生、おいすー」

ξ゚听)ξ「あんたは25にもなって、挨拶もまともに出来ないの?…荒巻先生、ご無沙汰してます」

('A`)「荒巻先生、お久しぶりです」

川 ゚ -゚)「荒巻先生もお元気そうで何よりです」

(;^ω^)「なんか、僕だけ馬鹿みたいだお」

ξ゚听)ξ「馬鹿みたいじゃなくて、馬鹿そのものよ」



14: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:13:55.30 ID:1Pp83ReT0
/ ,' 3「みんな元気にしていたようだね。変わりがなくてうれしいよ」

高校時代から変わらないやり取りを見て荒巻は、笑みをこぼす。

ξ゚听)ξ「それで早速なんですけど、昨日連絡していた件なんですが…」

/ ,' 3「わかっておるよ。ホレ」

荒巻はポケットから二つのカギを取り出す。

/ ,' 3「視聴覚室と映研の部室の鍵。視聴覚室の使用許可も取ってある。
    機材は変わっとらんから使い方は分かるな?今日は映研の部活動は休みだから好きに使うといい」

ξ゚听)ξ「荒巻先生、お手数かけます」

/ ,' 3「可愛い教え子の頼みだ、大したことではないよ。私は職員室にいるから、終わったら鍵を持って来ておくれ」

( ^ω^)「わかりましたお」



15: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:16:19.77 ID:1Pp83ReT0
荒巻は「それじゃ、また後でな」と声を掛け職員室に戻ろうとして、思い出したように立ち止まる。

/ ,' 3「ああ、そうだ。一つ忘れていたよ。内藤君、玲川君」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「はい?」

荒巻は内藤とツンに声を掛けると上着の内ポケットから祝儀袋を取り出す。
そこには国語教師らしく、見事な楷書体で【御結婚御祝】と書かれていた。

/ ,' 3「本来は挙式の一週間前までに渡すのが作法なのだが…。ご結婚おめでとう」

(*^ω^)「ありがとうございますお」

ξ////)ξ「……ぁ、ぁ」

( ^ω^)「ツン、こういう事はちゃんとお礼言わなきゃ駄目だお」

ξ////)ξ「わ、わかってるわよ!…あ、ありがとうございます」

/ ,' 3「ほっほっほ。ではお幸せにな」

そういい残して荒巻は職員室に戻っていった。



18: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:18:37.87 ID:1Pp83ReT0
卒業以来7年ぶりに足を踏み入れた校舎を歩き、4人は映画研究部の扉の前に立つ。
荒巻から預かった鍵で開錠し扉を開けると、そこには懐かしい光景が広がっていた。

ξ゚听)ξ「うわー、懐かしいね」

普通教室の半分程度の広さの部室。隅に置かれた大型テレビにダビング用のDVDレコーダーとビデオデッキ。
真ん中には長机が置かれ、壁際に置かれた大きな本棚には、歴代の先輩たちの残した作品と台本が整然と収められている。

('A`)「いつの時代も高校生は似たようなもんだな」

雑誌や台本が乱雑に置かれ、開きっぱなしのノートパソコンの脇に、捨て忘れた空き缶の放置された机を見ながらドクオは苦笑する。
その目に映る光景は正に7年前の光景と変わりはしなかった。

ξ゚听)ξ「ねー、みんな。こっち来て」

不意にツンが窓際で手招きをする。

('A`)「なんだよ?なんかあったか?」

( ^ω^)「お?まだ、これ残ってたのかお?」

川 ゚ -゚)「懐かしいな」

三人の視線の先、ツンの指差した場所。

窓のすぐ下の位置に懐かしいものを発見する。



20: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:20:11.36 ID:1Pp83ReT0


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━【 第13期映研部・卒業メンバー 】 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃                                                                            ┃
┃ ( ^ω^)  部長・内藤  地平線(通称・ブーン)           ξ゚听)ξ  副部長・玲川  律子(通称・ツン)         ┃
┃   ↑                                    ↑                                 ┃
┃僕こんなにピザじゃないお! ←うそつきwwwbyツン       我ながらよく似てるわね                      ┃
┃       ↑      ↑                            ↑                             ┃
┃ 嘘は良くないbyクー  │                            美化しすぎwbyドクオ ←後で覚えときなさいbyツン    ┃
┃          そっくりじゃねーかwwwbyドクオ                                                  ┃
┃                                                                            ┃
┃ 川 ゚ -゚)  看板女優・砂尾  久琉美 (通称・クー)        ('A`)  宴会部長・弄内  毒雄(通称・ドクオ)        ┃
┃   ↑                                           ↑                          ┃
┃  そっくりだな、気に入った                  ( ^ω^)ノ→おい!これ書いたの誰だ?!             ┃
┃          ↑                           ↑                                   ┃
┃     でしょ?自信作よbyツン               ぶち殺すぞ!byドクオ ←濡れ衣だお!犯人はツンだお!byブーン  ┃
┃                                                                            ┃
┃                祝 ・ 『VIP市主催・映像コンクール(高校生の部)』優秀賞初受賞!                 ┃
┃                                                                            ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛



21: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:22:59.90 ID:1Pp83ReT0
油性ペンで書かれた落書き。
7年という年月に少し色あせてはいたが、それはしっかりとそこに存在していた。

まるで、4人がここに帰ってきた時に『おかえり』を言うために存在しているかのように。

( ^ω^)「もう、とっくに消されてると思ってたお」

('A`)「まったくだ」

後輩たちが掃除をサボった結果なのか、それとも顔も見たことのない先輩たちに敬意を払った結果なのかは定かでは無い。
それでも、自分達が確かにそこにいた証が残っている事がなんだか誇らしく思えた。

川 ゚ -゚)「さて、感傷に浸るのもいいが、そろそろ目的の物を探そうか?」

ξ゚听)ξ「そうね、急がないと日が暮れちゃう」

クーの言葉を合図に4人は目的の物の捜索に取り掛かった。



戻る次のページ