('A`)ドクオは故郷に帰るようです

71: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:58:29.90 ID:1Pp83ReT0
('A`)「…だが、断る」

( ^ω^)「なんでだお?今でも好きなんじゃないかお?」

('A`)「…」

( ^ω^)「だから、今日も見とれてたんじゃないかお?…『木漏れ日の詩』のラストシーンのクーに」

('A`)「…」

( ^ω^)「八年前のあの時と同じ様に。…違うかお?」

('A`)「…」





73: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 03:59:28.29 ID:1Pp83ReT0
『ふぉーーー!!編集が終わらんおーーー!!』

『だから言ったんだよ!ツンとクーにも手伝って貰おうって!!』

『女の子をそんな遅くまで残しちゃイカンお!』

『へんな所でジェントルマン振りやがって…』

『そうじゃないお。キャストとスタッフの努力の結晶を形にするのが、監督のつt』

『分かったから、手を動かせ!』

『こりゃ、すまんかったお』

『まったく、なにが監督の務めだ。主演の俺には付き合せてるくせに』

『それはそれだお。ドックンは僕の相棒だお』

『今度、ドックンて言ったらぶち殺す!』

『ちょ、分かったから、三脚を振り上げるのやめるお!!』

『  な  ら  、  手  を  動  か  せ  !  !  』

『把握したお』



77: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:00:37.26 ID:1Pp83ReT0
『…後はラストシーンを編集して繋げるだけだお』

『じゃ、ラストはお前に任せる。ちょっと購買の自販機でジュース買って来るわ。何にする?』

『奢りかお?』

『しょうがねぇ。完成祝いだ奢ってやるよ』

『おっおっお、言ってみるもんだお。ポーション頼むお』

『ねーよ!!!』

『冗談だお。コーラでいいお』

『ダイエットコーラな。了解』

『僕はピザじゃないお!!普通のコーラだお!』

『分かったよ。じゃあ、言ってくる』

『あっ!500mlのお徳用で頼むお』

『ピザ乙』

『ピザじゃねーお!』

『うるせーな。分かったから、編集やっとけ!!』

『把握したお』



79: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:01:39.75 ID:1Pp83ReT0
『ただいま』

『お?丁度終わったところだお』

『そうか、やっと終わったか』

『疲れたおー。こんな事ならもっとスケジュール詰めてやればよかったお』

『お前が、ラストシーンに丸一日使ったのが悪い』

『仕方ないお。どうしても狼の群れが疾走するような草原を撮りたかったんだお』

『こだわった甲斐はあったんだろうな?』

『バッチリだお。イメージ通りの画が撮れたお!』

『ならいいさ』

『早速、完成作品を見てみるお!』

『今、九時半だぞ?残ってくれてる荒巻先生の迷惑も考えろ』

『私は構わんよ』

『荒巻先生!居たんですか?』

『ああ、様子を見に来たのだが。完成したようだね?』

『たった今、完成しましたお!』



82: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:03:10.51 ID:1Pp83ReT0
『では、その試写会に私も招待してくれないかね?』

『でも、時間が…』

『ああ、構わないよ。それにお客さんはまだ居るのでな』

『お?』

『あんた達だけで試写会なんて許さないんだからね』

『お疲れ様。差し入れだ』

『ツンにクー!お前ら何でここにいるんだよ』

『言ったでしょ、あんた達だけで試写会なんか許さないって。安心して、ちゃんと親には許可を取ってきたから』

『帰りは荒巻先生が送る事を条件に荒巻先生も許可してくれた』

『というわけだ。私も君たちの作品が見たいのだよ』

『そういう事なら…』

『ちょっと待つお!』

『なによブーン。まだ、何か問題あるの?』



84: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:04:26.20 ID:1Pp83ReT0
『せっかくみんな居るんだし、まずは乾杯するお!』

『…あんたねぇ。少しは空気読みなさいよ』

『しょうがねぇヤツだ』

『ああ、だがそれがブーンのいいところでもある』

『では、みんな飲み物はもったかお?』

『早くしろ。許可が出たって言っても早い時間じゃねーんだから』

『ドクオはうるさいお。では、かんぱーい!!』

『かんぱーい!』

『では、続きまして試写に入りたいと思いますお。…ホントは視聴覚室でやりたいところだお』

『すまんの、内藤君。さすがにそこまでは許可できんよ』

『いいんですよ、先生。こんな馬鹿の言うこと聞かなくても』

『ツン、いくらなんでも馬鹿はひどいお』

『いいから早くしなさいよ』

『…把握しましたお』



88: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:05:40.18 ID:1Pp83ReT0
……

………

川 ゚ -゚)『…いつ、帰ってきたんだ?』

('A`)『たった今だ。真っ先にここに来た』

川 ゚ -゚)『約束、覚えてたのか?』

('A`)『当たり前だ。誰よりもお前に会いたかった』

川 ゚ー゚)『…その言葉が聞きたくて私はここで待ってた』

そう微笑むと少女は青年に抱きつく。

川 ;ー;)『…おかえり』

微笑みながら涙を流す少女を青年は優しく抱きとめる。

('A`)『ただいま』

キラキラと輝く木漏れ日の中で二人はいつまでも抱き合っていた。



『…いい出来じゃない』



90: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:06:19.82 ID:1Pp83ReT0
『ツン、泣いてるのかお?』

『うるさい!見るな!』

『これは、素晴らしい出来じゃないか。内藤君』

『お?荒巻先生にそう言ってもらえると、僕も嬉しいですお』

『アンタだけで作ったみたいな言い方するの止めなさい!クーの脚本のお陰でしょ』

『…それじゃ、僕が能無しみたいじゃないかお』

『そう、言ったのよ』

『おっおっお。ドックン、ツンがいじめるおー!』



92: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:07:01.39 ID:1Pp83ReT0
『……』

『ドクオ?どうしたんだ?』

『ん?…あー、何でも無い』

『…ドクオ、ほんとにどうかしたかお?』

『いや、さすが俺様。カメラ映えする顔だなって思っただけだ』

『やーね、鏡で自分の顔見てから言いなさいよ』

『へっ!ツンに言われるようじゃ、俺も終わりだな』

『なんですってーー!!』

『なんだなんだ?ツン。図星突かれて悔しいのか?』

『ドクオ!アンタいい度胸してるじゃない』

『ドドドド、ドクオ。その辺にしといたほうがいいお』

『ツン、ドクオ。そこまでにしておけ。荒巻先生もいるんだぞ』



95: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:08:06.51 ID:1Pp83ReT0
『楽しそうでいいじゃないか』

『ドクオ、荒巻先生の許可がでたわよ。アンタとは一度白黒つけようと思ってたのよ』

『俺は勘弁だね。虎も裸足で逃げ出すような猛獣を、素手で相手するほどMじゃない』

『はいはい、時間切れ。ツン、もう遅いしそろそろ帰ろう』

『分かったわよ。ドクオ、命拾いしたわね』

『安心しな、逃げ足には自信がある』

『内藤君と弄内君も送ろうか?』

『いえ、大丈夫です。俺ら家まで自転車で15分くらいですから』

『そうかね。では片付けて施錠したら職員室まで鍵を持ってきなさい』

『分かりましたお』




96: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:08:49.10 ID:1Pp83ReT0
肌寒くも穏やかな夜風に吹かれながら、二人は無言で夜景を見ていた。

( ^ω^)「…」

('A`)「…まさか、あの時から気付かれてるとは思わなかったな」

( ^ω^)「その前からなんとなくは気付いていたお。それであの時、確信したんだお」

('A`)「それなのに、何も言わなかったのか?」

( ^ω^)「ドクオから話さないなら聞くべきじゃないと思っただけだお」

風で乱れた前髪をかき上げ内藤は笑う。

( ^ω^)「だから今度はドクオの番だお」

('A`)「そいつは無理だな」



98: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:09:48.61 ID:1Pp83ReT0
ドクオは表情を変えず、無感情な声で否定する。

('A`)「あの頃の俺には自信がなかった。お前みたいにうまくいくなんて思えなかった」

( ^ω^)「…」

('A`)「お前みたいに何か誇れるものを、俺は持っていなかった」

( ^ω^)「…」

('A`)「だから大学も別にしてお前から離れたんだ。俺も何かを成し遂げれば
   お前みたいに自信が持てるんじゃないかって思って」

( ^ω^)「…」

('A`)「そうしたら、俺も胸張ってクーに気持ちを伝えられるかもしれない。そう思ってた」

( ^ω^)「…」

('A`)「結局、その自信も手に入れられないまま7年が過ぎた。…もう手遅れなんだよ」



101: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:10:35.53 ID:1Pp83ReT0
自嘲気味に笑うドクオを内藤は無言で殴りつけた。

('A`#)「いきなり何しやがんだ!」

( #^ω^)「うるせーお!何が手遅れだお!なんでクーに言ってやらないんだお!!」

('A`#)「いまさら何を言うっていうんだよ!!」

( #^ω^)「まだ好きなんだお?ならその気持ちを伝えたらいいお!!」

今度はドクオが内藤を殴り飛ばす。

('A`#)「馬鹿かテメーは!!いまさら言ったって迷惑だろ!!」

( #^ω^)「馬鹿はドクオだお!!なんでクーの気持ちに気付いてやれないんだお!」

('A`#)「テメーはクーの気持ち知ってるとでも言うのかよ!!」

( #^ω^)「『木漏れ日の詩』のラストシーン見て気付かないのはドクオくらいだお!」

('A`#)「アレは演技だろうが!頭沸いたこといってんじゃねーよ!」



105: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:12:02.13 ID:1Pp83ReT0
ドクオの言葉に内藤は拳を返す。

( #`ω´)「ふざけんじゃねーお!あんな迫真の演技、高校生に出来るわけねーお!」

珍しく激昂する内藤の勢いにドクオは気圧されて黙り込む。

( #`ω´)「どうみたってクーの本心だお!!!なんで気付かないんだお!!!」

('A`)「あれが、クーの本心?」

( ;ω;)「ドクオは自分で言うほどダメな男じゃないお。僕もツンも、もちろんクーだって知ってるお」

('A`)「…」

( ;ω;)「クーにちゃんと伝えてあげて欲しいお。クーだってきっと待ってるお」

二人の間に先ほどとは違う無言の時が流れる。
心地よい無言ではなく、何かに圧迫されるような気まずい沈黙。



その沈黙に耐え切れず、口を開いたのはドクオだった。

('A`)「…帰ろうか」

ドクオは携帯を取り出すと運転代行業者に連絡を入れる。

( ;ω;)「…」

その後、二人は口を開くことはなかった。



108: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:13:11.50 ID:1Pp83ReT0
家に着いたドクオはベッドに大の字になった。
普段からカーチャンが掃除しているらしくドクオの部屋は綺麗だった。
物置代わりにされているせいか、荷物がやたら増えたことを除けばだが。

('A`)「…」

無言のまま内藤の言った言葉を思い出す。


『まだ好きなんだお?ならその気持ちを伝えたらいいお!!』



『どうみたってクーの本心だお!!!なんで気付かないんだお!!!』



『クーにちゃんと伝えてあげて欲しいお。クーだってきっと待ってるお』


('A`)「…今更、どのツラ下げてそんな事を言えってんだよ」

ドクオはそのまま目を閉じる。
開けっ放しの窓から吹き込む夜風が、殴られて火照った頬を優しく撫でていた。

優しい夜風を感じながらドクオは徐々に深い眠りに落ちていった。


まるで全ての答えから逃げる様に。



112: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:14:20.49 ID:1Pp83ReT0



その夜ドクオは昔の夢を見た。



117: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:15:47.86 ID:1Pp83ReT0
('A`)『クー、何でここにいるんだ?』

季節は冬。午後四時を回ると空は赤く染まる。夕焼けに染まる昇降口で、ドクオはクーと会った。

川 ゚ -゚)『放課後の昇降口に生徒がいるのは当たり前だろう』

('A`)『テスト前で部活も無いのに、こんな時間まで残ってる生徒はいないぞ』

川 ゚ -゚)『既に私の目の前に一人いるじゃないか』

('A`)『…担任に呼び出されたんだよ。今回の英語50は取らないと、来年も一年生だって脅迫された』

川 ゚ -゚)『意外だな。ドクオは成績いいほうだと思ったんだが』

('A`)『まぁ、悪くは無いんだがな。英語だけは中学から苦手でな』

クーは興味があるのか無いのか分からないような態度で「ふーん」と返事をしただけだった。

('A`)『で、クーはなんでこんな時間まで残ってるんだ?』

川 ゚ -゚)『委員会の仕事でな』

('A`)『そりゃ、難儀だな』

川 ゚ -゚)『まぁ、誰かがやらなきゃならないんだ。仕方ないだろう』

('A`)『…テスト前に随分余裕だな』

川 ゚ -゚)『誰かさんと違ってな』



122: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:16:43.02 ID:1Pp83ReT0
ドクオのささやかな皮肉もクーはさらっとスルーした。

川 ゚ -゚)『なぁ、ドクオ。これから暇か?』

('A`)『いや、これから勉強だよ。クー先輩なんて呼びたか無いからな』

川 ゚ -゚)『なら都合がいい。私が英語を教えてやろう』

('A`)『マジで?!』

川 ゚ -゚)『マジだ。ドクオにクー先輩なんて呼ばれたら精神衛生上よろしくないからな』

('A`)『なんでもいいさ。マジ助かる』

川 ゚ -゚)『その代わりマック奢れ』

('A`)『それで進級できるなら安いもんだ』

川 ゚ -゚)『なら、駅前のマックで勉強しようか』

('A`)『いいぜ』

そう言って二人は昇降口を出る。



127: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:17:45.62 ID:1Pp83ReT0
ドクオは自転車を押しながら駅前まで、クーと二人並んで歩く。

('A`)『そういえば、二人で帰るのは初めてだな?』

川 ゚ -゚)『ドクオとブーンは自転車通学。私とツンは電車通学。
     ドクオたちの家は駅と反対方向なんだから一緒に帰らないのは当然だろう』

('A`)『そういわれりゃ当然だな』

川 ゚ -゚)『うむ』

('A`)『…』

川 ゚ -゚)『…』

('A`)(やべぇ、話が続かねー)

いつもはやかましいブーンやツンがいる。
そこには当然のように話の流れが存在し、ドクオはそれに乗るだけだ。

クーも自分から話の流れを作るほうじゃない。
どちらかといえばブーンやツンが振った話題に乗るほうだ。

別に仲が悪いわけでは無い。
だが、話の流れに乗るだけの者同士では話の流れが発生しないのは当然の結果だ。

川 ゚ -゚)『…』

('A`)(何か話題無いか?)



131: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:19:04.38 ID:1Pp83ReT0
ドクオがそんな事を考えていると、コツンとつま先に何かが当たった感触を覚える。

('A`)『ん?』

川 ゚ -゚)『どうかしたか?』

ドクオは無意識に蹴ったソレを、拾い上げる。

('A`)『なにか蹴ったなと思ったらビー玉か』

道に落ちていたビー玉。
別に何処か特別なわけじゃない。どこにでもあるような普通の赤いビー玉。

川 ゚ -゚)『みせてくれないか?』

そう言われドクオはクーにビー玉を手渡す。

クーは手渡されたビー玉を沈みかけた太陽にかざす。
太陽にかざされたビー玉は光を反射してキラキラと光っていた。



137: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:20:11.31 ID:1Pp83ReT0
川 ゚ー゚)『綺麗だな』

('A`)『…』

その瞬間ドクオは言葉を失った。
いつも大人びた表情を浮かべるクーからは想像できない、無邪気な笑顔に言葉が出なかった。

川 ゚ -゚)『どうかしたか?』

('A`)『…いや。確かに綺麗だな』

………

……



それから先、何を話したかなんて覚えていない。

一つだけ確かなのは留年はせずに済んだ事だけだった。



141: ◆DyhKUHe1jM :2007/06/17(日) 04:21:12.59 ID:1Pp83ReT0
('A`)「…」

外から差し込む朝日に目を細めながら、ドクオは体を起こす。

('A`)「…随分と懐かしい夢を見たな」

ポツリと呟くとドクオは立ち上がって大きく伸びをする。
背中でパキッと骨が鳴る。

('A`)「…今日もいい天気だな」

窓から見える空はどこまでも高く、透き通るような水色。



その空は、ある決意をしたドクオの心のように晴れ晴れとしていた。






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