( ^ω^)がマジ切れしたようです
- 35: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:31:58.07 ID:E+udxsG90
- 街さん、グループ前編の投下乙です!
それでは本日は自分の番ですね、長くなりそうですがお付き合いよろしくお願いします。
のんびりまったりと投下していく予定ですので、
のんびりまったりと踊る大走査線でも見ながら支援していただけると感無量です。
それではラストAグループの一走目、投下を始めたいと思います。
推奨BGM
http://jp.youtube.com/watch?v=g5ES5wnvyR4
- 37: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:34:44.07 ID:E+udxsG90
- ( ・∀・ )「さて皆さんお久しぶりです、はじめましてもいますか?
おはこんばんにちわ、案内役のモララーです、以後お見知りおきを」
( ・∀・ )「突然ですが、あなたは幽霊を信じますか?」
( ・∀・ )「僕ですか? 意外と思われるかもしれませんが、信じませんね」
( ・∀・ )「だって、今日会う知り合いが幽霊でない確証が一体どこにあるのか?
昔からの旧友がそれでないとどうやって証明できますか?」
( ・∀・ )「だったら信じないほうが、知らないほうが幸せというものですよ」
( ・∀・ )「むしろ死んだ人間の心が……など非現実的この上ないですね」
( ・∀・ )「もしそれが生きる人間の心だというなら……そうですね、あるいはあり得るのかもしれませんね」
( ・∀・ )「死んだ人間の心が反映した幽霊などでない、生きた人間の心が作り出した類のものが……」
( ・∀・ )「おっと、お喋りが過ぎたようですね」
( ・∀・ )「ほらほら、そうこうしている内に、物語は始まっていますよ……?」
- 40: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:36:48.05 ID:E+udxsG90
休日の商店街、見上げるといつもと同じ蒼い空があった。
人々の心も知らず、常に青々しく清々しい素敵な空、嫉妬をしてしまう。
どこまでも永遠に透き通った、漠然の純粋さが無限に広がっていた。
そんな空が眩しすぎて、私はただ俯きながら歩くことしかできない。
心だって快晴とは程遠かった、ともすれば埋れてしまうような闇夜の豪雪だった。
今日だって知り合いと一緒に買い物を嗜んでいる最中だというのに、会話などそっちのけだ。
私の気分が晴れないことを知っていくれており、様々な話題を振ってくれるというのに。
雑誌、ニュース、番組……悲しいかな、それらはすべて右耳から左耳へと立ち止まる事無く流れていった。
元気な振舞いすらままならなかった。
そんな私自身に誰よりも嫌悪し、鏡の中の自分すら正視できなかった。
- 41: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:38:50.84 ID:E+udxsG90
川 ゚ -゚)「風羽(ふう)、ハンカチ落としたぞ」
(*ノωノ)「……あ、あひ!」
川 ゚ -゚)「ハンカチ落としたぞ」
(*ノωノ)「あぷー、すみません。先に行っていてください」
考え事をしながら歩くものではない、集中力は随分と散漫になっていたようだ。
ハンカチを拾おうと屈むが、瞬間に強い風が吹いてハンカチはふわっと宙を舞った。
慌ててハンカチを目視して、追いかけた。
蒼い空が見えた、私には眩し過ぎた。
顔を顰めた瞬間、隣から酷烈轟然に鋭い音が襲い掛かってきた。
そうか、私……飛び出したんだ。
- 44: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:40:57.25 ID:E+udxsG90
( ^ω^)ブーン達は街に生きるようです
Cross Over The
( ^ω^)ブーンが植物の世話をしているようです
(*ノωノ)が街で出会うようです
- 49: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:42:54.86 ID:E+udxsG90
( ・∀・ )「あなたはVIP街を知っていますか?」
( ・∀・ )「大昔、その街では奇怪な事件があり、それ以来不思議な現象が後を絶えないようです。
フフフ……いえ、少し小馬鹿しくなって参りまして。
ええ、僕は元気ですよ、今はここVIP街で様々な事象と共存しています」
( ・∀・ )「不可思議なVIP街ですが、今回はいささか今までと事情の違う事件が起こっているようですね。
何でもVIP街に変化が起きたのではなく、VIP街に何者かが引き寄せられたようです」
( ・∀・ )「さて、本日の物語は、ひょんなことからVIP街での怪奇に遭遇することとなった女性のお話です。
どうやら彼女は今、とても悲しい出来事の後のようですね、随分と晴れない顔をしています。
彼女が何に悲しんでいるのか……それは我々では知る由も無いのでしょうか?」
( ・∀・ )「彼女は一体この世界で、どんなことを経験するのでしょうか?
そして、怪奇に飲まれることなく元の世界へ戻れるのでしょうか?」
( ・∀・ )「皆様、くれぐれも……騙されないようにして下さい」
( ・∀・ )「だって、人形が生きているわけ無いのですから……ね」
- 53: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:47:14.96 ID:E+udxsG90
私に向かって迫る車。
お父さんやお母さん、今はもういないおじいちゃん。
響き轟くブレーキ音。
名前も思い出せない小中学校のクラスメート。
スローな世界。
おままごとやお人形遊び。
細部まで見渡せる、長い一瞬という時間。
蒼い空。
仕事仲間、上司に後輩。
認めた心。
そして……あの好きだった先輩の、笑顔。
- 55: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:49:11.71 ID:E+udxsG90
- 非現実的で形の無い死が、鮮明に目の前に広がった。
生きている私の印象が吹っ飛び、辺りに四散した自身の無数の肉片。
想像力に乏しい私には、ほとんど血を流さずにただ原形をとどめないほどグチャグチャになった生々しい物しか見ることができなかった。
気持ち悪さに吐き気を催す友人、病院で涙する家族、すまなかったと懇願するドライバー。
ここでふと思った、だったらこの光景を目の当たりにしている私は誰なんだろう?
今さっき四散した人間は私だ、だったらなぜ死んだ後を思い浮かべられるのだろう?
自分のいなくなった世界のことなど知る由もない、この世界は私の勝手な妄想なのだ。
死んだと思った私の作り出した虚構の世界なのだ。
そして、この光景を想像している私は私でありえるのだ。
私は……誰?
私は……私。
私は、風羽。
- 57: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:50:57.97 ID:E+udxsG90
- 強く閉ざされていた瞼を開くと、正面には快晴があった。
やはり眩し過ぎるそれから目を外し、あまりに静か過ぎるその世界を見渡した。
私に駆け寄ってきてくれる人たち。
道路に対し車体を斜め向けて止まった車。
黒い曲線を描くブレーキ跡。
私は、助かったのかな?
- 58: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:52:41.72 ID:E+udxsG90
- 川;゚ -゚)「風羽、大丈夫か?」
(;^ω^)「風羽さん、無事ですかお!?」
慌てて栖来(すくる)先輩と内藤先輩が駆け寄って来てくれた。
今日、元気のない私を遊びに誘ってくれた二人。
その手が私の肩に触れる、透き通らなかった事でようやく自分が生きているのだと実感した。
(*ノωノ)「あ、はい……すみません、でした……」
荒くも深い呼吸、体は肉眼で確認できるほど震えている。
きっと血の気は引いていて、酷い顔をしていることだろう。
(;^ω^)「風羽さん、よかったお! 怪我はないかお?
この人が助けてくれたんだお!」
内藤先輩の心配に嬉しく思いながら、誘導される方向の人を見た。
そう、私は間違いなく轢かれると思っていたのだが、誰かに肩を捕まれ、力任せに引っ張られたのだ。
私の方も走っていたので相当な力で引っ張られたのだろう、そのまま恩人と私は一緒に後ろへと倒れ込んだ。
間一髪、私は助かったのだ。
一連を理解していると同時、どこかで生きている事を疑っている自分もいた。
- 62: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:54:25.73 ID:E+udxsG90
- ミ,,゚Д゚彡「おうおう、まさかと思ったが本当に飛び出すとは……良かったな俺がいて、風羽」
(*ノωノ)「え」
誰だろう、その恩人は私の方を見て、穏やかな笑顔を浮かべてくれた。
そしてその名前を呼んでくれた。
(;^ω^)「風羽さん、知り合いかお?」
(*ノωノ)「えっ……あの、……」
ミ,,゚Д゚彡「はは、冗談だよ、さっきから風羽さんって呼ばれてるじゃねーか!
それで、体は大丈夫か、なんとも無いか?」
(*ノωノ)「……あ、はい……」
助けられて、突然こんな事を言うものだから私の頭が一層回転を鈍くした。
一瞬そういえば見たことが……なんて思いながら必死に記憶を弄ったのに。
そんなやり取りをしていると、車の運転手さんが慌てて駆け寄ってきてくれた。
- 65: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:56:18.85 ID:E+udxsG90
- (;゚Д゚)「おい! 大丈夫だったかゴルァ!」
ミ,,゚Д゚彡「ちょっと驚いているみたいだけど、大丈夫みたいです」
(;゚Д゚)「とりあえず病院で一応検査受けとけ、送ってくから!」
ミ,,゚Д゚彡「だって、どうするよ?」
(*ノωノ)「あ、はい……」
運転手はいい人だった、飛び出した私が明らかに悪いというのに、咎めるどころかわざわざ病院まで送ってくれるそうだ。
恩人方も私の命を助けてくれたのに恩着せがましくもなく、それを掘り返すこともしない。
内藤先輩もすぐに駆け寄ってきてくれて、尻もちついた瞬間に散らばった私の鞄を拾い上げてくれている。
私一人、頭の中で現状をしっかりと把握しながらも、ちゃんと言葉が出ないでいた。
こういうものなのだろうか、現状を理解できているのに、喋る言葉が思いつかず口から出ない。
内藤先輩がバラバラに散らかった私の鞄の中身をまとめて、渡してくれた。
- 66: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:58:03.74 ID:E+udxsG90
- ( ^ω^)「風羽さん、ご好意に甘えて一応検査を受けたほうがいいお。
鞄、適当に中身詰め込んだだけだからぐちゃぐちゃかもしれないけど……ごめんだお」
(*ノωノ)「あ、いえ、……大丈夫です」
一呼吸おいて、喋ることが出来るという当たり前のことを確認した上で言葉をつなげる。
(*ノωノ)「私のほうこそこの歳になって事故だなんて本当ご迷惑をかけて……
なんていうか、元気ない私のこと心配して今日は誘ってくれたんですよね、ありがとうございます」
川 ゚ -゚)「内藤に、二人じゃ恥ずかしいと誘われただけだ」
(;^ω^)「栖来さん、余計な事言わないでいいですお!」
嬉しい、内藤先輩はやっぱり優しくて、私に安らぎを与えてくれて。
だから私は先輩が好きなんだ、ずっと、ずっと。
(*ノωノ)「あぷー、なんだか恥ずかし過ぎます、私自身が。
本当ごめんなさい、たかだか美容室で失敗して、気落ちしていただけなんですが……」
川 ゚ -゚)「確かにそうだな、美容室で髪型を間違えて指定したばかりに車に轢かれたんじゃ笑えんな」
( ^ω^)「僕としては風羽さんが元気になってくれればそれでいいお!」
駄目だよ内藤先輩、そんなこと言っちゃ。
私の想い、ずっと胸に秘めておくつもりなのに、優しい言葉を向けられる度に決心が揺れ動いちゃうから。
- 68: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 21:59:47.97 ID:E+udxsG90
- (,,゚Д゚)「えーと、それで病院までは送らせてもらえるのかな?」
(*ノωノ)「あ、はい、すみませんがお言葉に甘えさせて頂きます。
内藤先輩、栖来先輩、すみませんがそれではここで」
川 ゚ ー゚)「ああ、検診で何もないといいな」
( ^ω^)「僕たちよりも自分の体を心配するお」
(*ノωノ)「はい」
内藤先輩と二人っきりになれる栖来先輩を少し羨みながら、私は待ってくれていた運転手と恩人方の二人に向いた。
(*ノωノ)「えと、改めて飛び出してしまって本当にすみませんでした。
そして、助けてくださりありがとうございました」
(,,゚Д゚)「ともあれ無事で何よりだゴルァ、でも一応病院へ行って検査だけうけてもらうぞ」
ミ,,゚Д゚彡「いやいや、本当無事でよかった」
そして車に乗り込むと、病院へと発進した。
- 69: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:01:32.15 ID:E+udxsG90
- 病院に着くとすぐに運転手の人は事情を説明してくれ、私と恩人方は普通の待合室とは異なる一室へ案内された。
運転手は仕事中だったのだろう、電話で謝りながら事情を説明していた。
(;゚Д゚)「……はい、はい。ですので申し訳ありませんが……」
ゆうに10分は平謝りを続け、ようやく安堵した顔で電話を耳から離した。
(*ノωノ)「あの……お仕事、大丈夫ですか?
ここまで送ってくださいましたし、良ければもう戻られても……」
(,,゚Д゚)「無茶いうなって、下手したらアンタの命奪うところだったんだぜ?
最後まで付き添うのが義務ってもんだ」
(*ノωノ)「でもその、今回の事故って私が一方的に悪いわけですし。
こちらこそそんなで仕事に支障をきたされてしまっては心が痛みます」
実際今回の事故は私が一方的に飛び出しただけであり、相手に非は皆無だ。
ただ法律でいうならば責任は自動車側にもある、日本人は実に仁義を大切にする。
しかし私の強弁に心動かされたのか、挙動がソワソワとし始めた。
きっと時間にシビアな事情の最中だったのだろう、そんな素振りを見せられては、本当に留まらせるわけにいかない。
(*ノωノ)「あの、やはりいつまでかかるか分かりませんし……」
ミ,,゚Д゚彡「携帯の番号だけ教えてもらっておけば大丈夫だろ。
気を使いあっちゃキリないし、ここは女性に優しく引いてやりなって」
恩人さんも相手の挙動を悟ったか、言葉を付け加えてくれる。
- 71: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:03:17.48 ID:E+udxsG90
私たち揃っての申し出もあり気が楽になったのだろう、相手がようやく折れてくれた。
一度病院から出ると携帯の番号を教えてもらい、登録を済ませる。
(,,゚Д゚)「試しに掛けてみてくれ」
(*ノωノ)「あ、はい」
通話ボタンを押すと、しっかりと相手に繋がった。
念のため名前を押さえ、免許証で確認まで取ると相手も納得した様子で病院を後にした。
事故に巻き込んでしまったと考えている私としても、これでようやく肩の荷が下り、一息つけるというもの。
いくら自分が危険に晒されたといっても、相手に迷惑を掛けるのは何とも心苦しいものだ。
怪我でもあれば状況は変わってくるのだろうが、今のところ特筆する外相も無いわけだし。
改めて恩人方と待合室へ戻る。
ミ,,゚Д゚彡「忙しそうだったな、あの人」
(*ノωノ)「そうですね、でもそれよりも優先して私たちに付き添おうとしてくれるなんていい人ですよね。
悪いのは飛び出した私なのに」
ミ,,゚Д゚彡「運が良かったな、俺が偶然いて、いいドライバーさんで」
(*ノωノ)「はい、本当にすみませんでした」
ミ,,゚Д゚彡「俺に言われても困るよw」
- 75: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:05:20.50 ID:E+udxsG90
- 命を救ってもらったと言っても決して過言ではないが、相手は如何せんマイペースを保っている。
私がどれだけ感謝しているのか……分かってもらえていない気がする。
ミ,,゚Д゚彡「そういえば俺の紹介まだだったか。
俺はフサって言うんだ、よろしくな、風羽」
(*ノωノ)「はい、えっと……私も一応改めて、風羽です。
本当にありがとうございました」
ミ,,゚Д゚彡「もうお礼はいいって、むず痒い」
そう言って笑いとばすものだから私の感謝なんて到底伝わっていないのだろう。
話をしていると、すぐにも看護婦さんから名前が呼ばれた。
軽く会釈をして先に私が診察室へと連れられる。
質問にいくつか答えると、状況説明をした後軽く打診される。
レントゲンも一応と言われたが、実際車にぶつかったわけではないのだ、お気遣いに感謝しながらも丁重に断らせて頂いた。
その分、助けるために私を引き寄せて下敷きとなってしまったフサさんの方を見てあげて欲しいと付け加えて。
診察室から出ると、入れ違いでフサさんが呼ばれた。
私は特に問題なかった、大丈夫だとジェスチャーすると満足そうに部屋へと入っていく。
待合室で一人残された私は、携帯を触ることもできずにぼうと先までのことを考えていた。
- 78: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:07:06.52 ID:E+udxsG90
- 本当に不思議なものだ。
ひかれる寸前まではもう死んだと思い、助かった後は命があることが不自然で堪らなかった。
しかし、ともすれば今のように「結果的に助かったのだから気にしないで」なんて本音で言えるものだから分からない。
人とはつくづく死とかけ離れている存在だななんて考えた。
そうでなければ津波が押し寄せる海岸や火事の民家へ野次馬に行くわけが無いのだから。
興味のほうが死よりも鮮明で実感があるのだ。
そういえばどこかの教授は「生」よりも「死」の方が価値あるとして自殺したとも聞いた。
その時々で死への恐怖を感じてしまう私には、からっきし分からない話だ。
特に問題は無かったのだろう、フサさんもすぐに診察を終えてやって来た。
(*ノωノ)「あ、大丈夫でしたか?」
ミ,,゚Д゚彡「全然平気だよ、レントゲンまで取るなんて言われたから慌てて断ったよw」
(*ノωノ)「私もです、そんなに深刻でもないのに……。
でもフサさんは私が乗っかってしまったのに、骨とか本当に大丈夫ですか?
私重いですし、一応確認した方がいいと思いますが」
ミ,,゚Д゚彡「風羽さんで重かったら、世界中関取だらけだな。
逆に軽かったから怪我一つ無しで助かったんだ、感謝なら自分の体にしてくれ」
(*ノωノ)「あ、すみません……」
ミ,,゚Д゚彡「すみませんって、何だそりゃ」
- 80: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:08:52.74 ID:E+udxsG90
- 軽く笑って、二人して受付へ向かう。
清算に関しては、後日ドライバーさんへ請求するそうだ、とりあえずは保険証を出すだけで終わった。
事後処理がすんなりと終わったことに呆気にとられ、フサさんと二人して病院を後にする。
(*ノωノ)「何事も無くて良かったですが、こんなにも簡単なんですね」
ミ,,゚Д゚彡「警察とか絡んでないしな、助けた拍子に逆に怪我させてしまったんじゃ笑えないし本当良かったw」
(*ノωノ)「すみません、わざわざ病院まで付き合って頂いて、お陰で助かりました」
ミ,,゚Д゚彡「いいって、付き合わされるのは昔っから慣れているし」
子供っぽい笑顔が頭の片隅に引っかかった。
(*ノωノ)「……」
ミ,,゚Д゚彡「ん? 思い出したか?」
(*ノωノ)「あぷー、すみません、思い出せませんが……やっぱりどこかで会っていますか?」
ミ,,゚Д゚彡「心外だな、小さい頃に田舎で遊びに付き合わされたのは今ではいい思い出なのに」
(*ノωノ)「……」
『小さい頃』『田舎』と言われてすぐにピンと来たのは母方の祖父母の家だ。
一面に田んぼが広がり、夜は虫の泣き声が五月蝿くて眠れなくなるような、ドが付くほどの田舎。
そこで時間を持て余していた私と、ずっと一緒に遊んでくれた人がいた。
- 83: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:10:38.55 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「……あ、あーあー、え、えと……」
驚きと申し訳なさ、そして事故を助けられたという気恥ずかしさが相俟って呂律が廻らなかった。
何を言ってもいいのか分からず、ただただ一語文にも満たない言葉しか出なかった。
そうだ、フサ君だ。
今まで気付かなかった自分の迂闊さにも驚くばかりだ。
(*ノωノ)「あ、ごめんなさい……その、今まで気付かなくて……」
ミ,,゚Д゚彡「いいよいいよ、俺も全然気付かなかったし。
名前聞いて思い出したんだ、風羽って。
もう完全に忘れられたのかと思ったよ」
(*ノωノ)「昔の頃にもすごく感謝しているのに、どうして忘れたんだろうってもう申し訳なくて……!
でも良かった、思い出せただけでも本当」
ミ,,゚Д゚彡「それにしてもすごい偶然だよな、俺ずっとまた会いたいって思ってたんだぜ?」
(*ノωノ)「私も」
ミ,,゚Д゚彡「さっきまで忘れてたヤツが何言うかwww」
(*ノωノ)「それはその……あぷー」
世の中がとても狭いと実感させられることは稀にあるが、今回がちょうどそれだ。
祖父母の家にいた頃など十年余も昔のことだというのに。
- 84: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:12:23.18 ID:E+udxsG90
ミ,,゚Д゚彡「偶然って言うよりも、すごく運命的に感じるな」
(*ノωノ)「……そっか、うん、運命だよ運命!」
童心に戻った気分に浸りながら歩いていると、すぐにもバス停に着いた。
時間はちょうど良いようだ、5分と待たずに所望のバスが来る。
ミ,,゚Д゚彡「そうか、せっかく会ったのにもう時間切れか」
(*ノωノ)「この辺りに住んでる……の、ですか?」
ミ,,゚Д゚彡「無理して丁寧に話さなくてもいいってw
一応電車で二駅くらいの団地にいるよ」
(*ノωノ)「だったらまた会える、会お」
ミ,,゚Д゚彡「おう、会おう!
それで、是非せっかく再会したんだし……いや、また会うんだったら連絡とか必要だし……
携帯のアドレス教えてもらってもいいか?」
(*ノωノ)「うん、全然大丈夫ですよ」
ミ,,゚Д゚彡「じゃあ赤外線で……」
(*ノωノ)「あぷー、私のヤツ古くて赤外線が無い……」
ミ,,゚Д゚彡「随分年代物だなww」
- 87: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:14:08.39 ID:E+udxsG90
- やっぱり携帯は新調した方が良さそう、前々から思いつつとうとう4年目の携帯を慌てて構えた。
(*ノωノ)「アドレス短いですか!?
私あまり打つの早くなくて、バスまでに間に合えばいいけど、その……」
ミ,,゚Д゚彡「はい、名刺」
(*ノωノ)「……あ、えっと、私からも名刺、財布に!」
名刺だなんて社会人の常識をすっかりと忘れている自分と、沈着なフサさんで余計にパニック状態に。
更にはバスが視界に入ってくるものだから冷静に頭が廻らない。
手の上で二三回財布を躍らせながら、何とか名刺を一枚、抜き出した。
(*ノωノ)「風羽です、よろしくお願いします」
ミ,,゚Д゚彡「フサだ、よろしく」
名刺を互いに受け取って、何年ぶりになるのだろうか出会いを噛み締め、笑い合った。
帰りのバスに揺られながら、私はフサさんを携帯のメモリにしっかりと登録した。
- 90: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:15:56.79 ID:E+udxsG90
昨日のフサさんとの出会いが私の落ち込んでばかりの気分を盛り上げてくれたのか、
今朝の体調は低血圧の私にしては良かった。
のんびりとテレビの占いコーナーなんか見ながら、朝食をとる。
(*ノωノ)「乙女座は……4位、思い切って行動すると吉か……」
結局昨日は内藤先輩や来栖先輩に誘ってもらったのに、迷惑を掛けるだけに終わってしまった。
そもそも髪型を間違えて指定しただけで落ち込んで、上司に気を使わせるなど聞いたことが無い。
恥ずかしすぎて今にも顔面沸騰しそうだった。
今日はどんな顔して内藤先輩や来栖先輩に会えばいいのだろうかなんて。
(*ノωノ)「思い切って行動か……」
迷惑かけたし、改めてこの日曜日に内藤先輩を誘っても大丈夫だよね?
でもどうかな、やっぱり迷惑だって、しつこいって思われちゃうかな?
のんびりしていると、うっかり時間が危なくなってしまい、慌てて家を出た。
いつもより一本遅いバスで会社へ向かうと、紙一重で出社規定時刻には間に合った。
オフィスへ入ると、傍目で内藤先輩の姿をチラリと確認して、タイムカードを切った。
内藤先輩がその音に気付き、私を見ると慌てて来てくれる。
- 93: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:17:40.50 ID:E+udxsG90
- ( ^ω^)「おはようございますお、風羽さん」
(*ノωノ)「おはようございます、内藤先輩。
相変わらずタイムカードはギリギリですね、危なっかしいですよ?」
(;^ω^)「風羽さんだって人のこと言えませんお。
それよりも昨日は大丈夫でしたかお?」
(*ノωノ)「はい、夜にメ−ルした通り、特に異常はありませんでした。
色々と迷惑をお掛けしてすみません、髪型が発端で会社を休むことはなさそうです」
(;^ω^)「仕事が降りかかってくるのは僕だから、それは勘弁だおw」
(*ノωノ)「大丈夫です、怪我しなくても降りかかっていっていますから」
(;^ω^)「おっおっ、笑えないお」
談笑し合い、長岡先輩に注意されて慌てて仕事につく。
そして昼、内藤先輩はやっぱりお母さんの所へ行かれたようで、結局話できないままに終わった。
- 95: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:19:24.88 ID:E+udxsG90
ダメだ、チャンスは幾度とあるのに後一歩が踏み出せなくて、結局は後回しにしてしまう。
つい自分への言い訳を作るために、別方向へと話を曲げてしまう。
(*ノωノ)(あぷー、私ってダメダメかも……)
以前頑張って映画館へ誘った私に拍手を送ると共に、もう一度その勇気が欲しい。
お礼だなんて理由はただの口実で、やっぱりデートだと意識しているのはこの私自身の後ろめたさが大いに表していた。
断られるのが怖い、私よりも……彼女のツンさんを取られるのが、それだけがこの上ない恐怖なんだ。
取られるに決まっているからこそ、行動に移せないのだ。
あの時はどうして行動に移せたのだろう?
それとも、以前の経験が私に警鐘を鳴らしているのだろうか?
以前と今、一体何が違うのだろうか?
(*ノωノ)「はぁ……」
次に出てくるのはため息ばかり、ため息で解決できる問題なんてありはしないのに。
- 97: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:21:10.62 ID:E+udxsG90
- ( ゚∀゚)「風羽、何ため息ついてんだ?」
(*ノωノ)「長岡先輩……いえ、何もです大丈夫です」
( ゚∀゚)「えらくおセンチだな、仕事行き詰まったか?」
( ^ω^)「何か問題ですかお?」
(*ノωノ)「あ、何もです大丈夫ですから内藤先輩!」
( ゚∀゚)「風羽が内藤にデート誘って欲しいってさ」
(*ノωノ)「あーもう長岡先輩、どっか行って下さい!!」
望みをズバリと言い当てられ、焦りばかりが先んじた。
この機をうまく使って内藤先輩を本当に誘えないかな、なんて打算が次には。
(*ノωノ)「あのですね、クライアントの要望をもう一度確認したいです」
( ^ω^)「そうかお、だったらちょっと用紙をコピーして渡すから待ってて欲しいお」
そう言って去って行く内藤先輩、よくよく考えるとコピーまでしてもらい余計な手間を取らせてしまった。
申し訳なくていっぱいになり、自己嫌悪。
内藤先輩を誘いたいがばかりに迷惑をかけてしまい、本当私って自分勝手だな。
改めて仕事に力を入れねばと、気合を入れていると内藤先輩がファイルを片手に戻って来る。
- 101: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:22:55.09 ID:E+udxsG90
- ( ^ω^)「この用紙だけでいいかお? ほかにも必要なら……」
バラバラとファイルを捲る内藤先輩を、慌てて止める。
(*ノωノ)「あ、もう大丈夫です!
本当わざわざありがとうございました、コピーまで本当にすみませんでした。
でも内藤先輩って物持ち良いですよね」
(;^ω^)「とんでもないお、心配性なだけだお!
それよりも今日こそ定時に帰れるよう頑張るお」
褒めると先輩は可愛く何百枚と閉じてあるだろうファイルを背中に隠す。
私へ早く仕事を終わらせるよう支持すると、すぐに自分の席へ戻って行った。
そうだ、もうこうなっては今日の帰り、内藤先輩に車で送ってもらう時しかない。
今日こそ定時に終わろうと自分に言い聞かせ、仕事へと集中して勤めた。
内藤先輩の手助けを受けながらも、頑張りのお陰か無事定時に仕事を片づけることができた。
そのままたまには……と、夕食を一緒することに。
車で近所の和食屋さんへ。
お蕎麦を食べながら、話す内容は何だかんだで仕事の話がほとんど。
それでも最近ご無沙汰だった二人っきりの食事は、とても楽しかった。
楽しさのあまり、この雰囲気を壊したくないなんて言い訳して、結局今週末を誘えずに終わった。
- 102: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:24:44.27 ID:E+udxsG90
- 帰りの車、先ほどのお店での話に花を咲かせながら、ラジオを聞いていた。
( ^ω^)「風羽さんは、麺類だと何が好きだお?」
(*ノωノ)「うーん、私はお蕎麦、ラーメン、うどんですね。
あ、パスタを2番目に入れてください」
( ^ω^)「おっおっ、一緒だお。お蕎麦が一番美味しいお」
(*ノωノ)「ですよねー」
こんな些細な共通点で喜んでいるなんて子供っぽいかな?
心が通じ合ってるなんて思っちゃ馬鹿みたいかな?
( ^ω^)「ここからちょっと離れているんだけど、この前テレビで紹介されていたお蕎麦屋さんがあるんだお。
この日曜でも時間あったら行かないかお?
昨日もいろいろとあって満足に羽伸ばせてないし、改めてどうかお?」
(*ノωノ)「はい、喜んでッ!」
(;^ω^)「おっおっ、返事早いお、驚いたお……」
(*ノωノ)「あぷー、すみません……」
思わぬ誘いについ過剰に反応してしまった。
これで以心伝心なんて言ったら馬鹿みたいだけど、それでもいい。
突然の誘いに驚きながらも、逃すまいとついつい矢継ぎ早に反応してしまった。
- 104: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:26:29.96 ID:E+udxsG90
- 浮き足立って良く分からないことを話しているうちに、とうとう私の家に到着した。
降りるとすぐに冷蔵庫からいつもの缶コーヒーを取り出して、先輩に手渡す。
( ^ω^)「この前気付いたけれど、風羽さんからコーヒーを貰いだしてから、ついいつも同じ銘柄買っちゃうお」
そんなこと言わないでください先輩、嬉しくて子供みたいになっちゃいますから。
軽い笑みを返しておくと、内藤先輩も大きな笑顔と一緒に手を振ってくれた。
(*ノωノ)「おやすみなさい、先輩」
( ^ω^)「おやすみだお」
先輩からはいつも「また明日」としか言ってくれない、だから機会があれば私から「おやすみなさい」と言うようにしている。
そうすると先輩からも「おやすみなさい」と返してくれる。
なんだか家族みたいに感じて……勝手なおままごとだけど。
車を見送ると嬉しさの前に孤独感が襲ってきた。
内藤先輩はこれからツンさんと会うんだろうな。
本当の家族とも言える、ツンさんと……。
このおままごとは、本当に私だけの一人よがりなものなのだから。
自分の部屋へ入るとカレンダーに大きく「デート」とメモ書きして、すぐにお風呂に浸かった。
- 106: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:28:15.36 ID:E+udxsG90
お風呂から出て携帯を見ると、一件の着信があって驚いた。
その主はフサさん、慌てて電話をかけ返す。
(*ノωノ)「フサさんごめんなさい、ちょうどお風呂に入っていて」
ミ,,゚Д゚彡『ああ、別に良いよこっちだって夜に女性に電話なんて常識知らずで悪趣味だしな』
(*ノωノ)「そんなことありませんよ、どうされたんですか?」
ミ,,゚Д゚彡『次の日曜時間あるかな、食事でもどうかなと思って』
(*ノωノ)「え……はい、今週はお仕事も余裕あるから大丈夫です」
ミ,,゚Д゚彡『おう、じゃあ詳しくはまた連絡するよ、ありがとう。
こんな夜中に本当すまんな、それじゃ体に気をつけて、おやすみ』
(*ノωノ)「あ、はい、おやすみなさい……」
もう電話は切れていた。
すごく早口だったけどどうかしたのだろうか?
いや、それよりもまさかのダブルブッキングに戸惑う。
内藤先輩とのデートは絶対中止できない、でもフサさんには命を助けて頂いたのだから断るだなんてとてもできない。
- 110: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:30:10.86 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「あぷー……」
ダメだ、今まで男性と縁の無かった私だというのにどうしてこうも都合悪く予定は重なるのだろう?
といっても、私だって人生で幾度か男性とお付き合いした。
一人目は中学時代、ちょっと悪ぶってた人だけど、初めての告白を断る度胸など私は持ち合わせていなかった。
自己権謀が出来ないのはそんな昔からの事のようで、三つ子の魂百までとは言ったものだ。
結局私は暴力を受けることとなり、その関係はたった2カ月で終わった。
二人目は高校時代、優しい人だった。
私のことを常に第一に考えてくれ、きっと私の初恋はあの人になると思う。
でもその人は私以外の女性にも優しくて、私は選んでもらえなかった、捨てられた。
そういえばこの時も死にたいなんて思ったな。
その時大変だと思った事は後からすると大したことない事だったりする、典型的な実例だった。
当時は盲目だったと思う、独欲心の強い私にとって、
あの人と一緒では安らぎを得られる事はなかっただろうから当然の顛末だ。
会社に入ってからは何もなかった。
簡単に言えば私が内藤先輩にだけ固執しているからだ。
- 112: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:31:59.79 ID:E+udxsG90
- 内藤先輩の気配りの良さ、そして後輩の私にも気を使ってくれる優しさ。
相手を傷つけない言葉選び、顔色を伺う鋭さ、他人の弱さを理解してくれる……その安堵感。
親や後輩を大事にしていて、そして彼女を何よりも大切に。
どんな人生を歩んできたんだろう?
きっと周りにも優しい人が多くて、素晴らしい環境で育ってきたんだろうな。
高卒でドロドロとした人生を歩んできた私なんかには分からない、すごく充実した人生なんだろう。
この日曜日は内藤先輩に色々と聞いてみよう。
内藤先輩のことをもっと知りたい、今までは上手にかわされていたけれど、今度こそ聞いてみよう。
フサさんとは朝から夕方にかけて会うことにした、これなら間違いは起こらないだろうなんて思いながら。
内藤先輩とはその後、夕方から会うことに。
随分変則な時間からで無茶かとも心配したけれど快諾してくれた、やっぱり内藤先輩は優しい。
期待と若干の不安を抱きながらの一週間は想像以上に早く過ぎ、すぐにも日曜日はやってきた……。
- 114: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:34:08.75 ID:E+udxsG90
フサさんとの待ち合わせ場所に、私は気合の入った服装でいた。
この後内藤先輩と会うのだからと自分に言い聞かせながら、ばっちりおめかしを決めこんできた。
待ち合わせ場所は駅前の噴水、時間きっかりに行くとすでにフサさんはいた。
ラフでありながらも随所をぴしっと決めた服装は、フサさん独自の雰囲気にとても合致していた。
(*ノωノ)「ごめんなさい、待ちました?」
ミ,,゚Д゚彡「ううん、それよりこの前は夜にいきなり電話して、すまんかった」
(*ノωノ)「全然大丈夫です、改めて事故の時は本当にありがとうございました」
ミ,,゚Д゚彡「はは、もう良いよ前の話は。それよりもどこ行く?」
(*ノωノ)「とりあえず商店街でも歩きますか?」
言って商店街を歩くも、気が気じゃなかった。
会社の人と会ったらどうしようか、それ以上に内藤先輩と会ったらどうしようなんて心配しながら歩を進める。
ミ,,゚Д゚彡「今日の服装似合ってるね」
(*ノωノ)「あ、ありがとうございます、ちょっと可愛さアピールしてきました」
ミ,,゚Д゚彡「うん、可愛い感じ良く出てる」
- 117: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:36:06.17 ID:E+udxsG90
- 面と向かって言われると恥ずかしいものだけれど、これで夕方からの内藤先輩との面会に自信が出た。
内藤先輩と仕事以外で会う時は、めいっぱい服装には気遣っている、この前フサさんと会った時は……あれ?
あの事故の時も内藤先輩はいたのに、どうしてそこまでおしゃれに気を回していなかったのだろう?
ああ、思い出した、一週間前は美容院で間違えて髪形を指定したばかりにすごく凹んでいたんだ。
だからいっそのことと、服装にも気を使わずに……思い出すとすごく子供っぽい理由で恥ずかしい。
つい詰まらない自問をしてしまい、相手の服装を褒め返す機会を見失ってしまった。
ミ,,゚Д゚彡「なぁ、あそこへ行かないか?」
(*ノωノ)「え?」
フサさんが指差した先に目をやると……
(*ノωノ)「おもちゃ屋さん?」
ミ,,゚Д゚彡「そう」
目を輝かせるフサさんが途端に子供っぽく見えて、思わず笑いが出た。
ミ*゚Д゚彡「あ、今笑ったか?」
(*ノωノ)「ううん、全然。それよりも良いよ、いこ!」
いい年した男女が一緒におもちゃ屋さん、それを考えるだけで不意に笑いが出てくるから不思議だ。
- 118: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:37:59.73 ID:E+udxsG90
- 店内に入ると、まず真っ先にゲームソフトの陳列棚が飛び込んできた。
子供の声がたくさんにあり、ロマンティックな雰囲気には程遠い。
おもちゃ屋さんの時点で分かりきっていたことだけど。
フサさんはゲームに目もくれず、どんどんと突き進んでいく。
(*ノωノ)「フサさん? そこって女の子のコーナーだよ?」
私の声を振りきって着いた先には、人形が立ち並んでいた。
男の子が遊ぶようなロボットなどのフィギュアでなく、女の子用のバービー人形やリカちゃん人形だ。
ミ,,゚Д゚彡「覚えてるか、昔無理やり風羽に人形遊び付き合わされたの」
言われて途端に恥ずかしくなった。
子供の頃を持ち出すのは卑怯だ、誰しも昔の無邪気な自分を恥ずかしく思うに決まっている。
ミ,,゚Д゚彡「俺らって毎日飽きもせずに良く遊んだよな。
いっつも人形を使ってのままごとに付き合わされていたっけ」
(*ノωノ)「あぷー、昔のことは恥ずかしいから止めてよ……」
ミ,,゚Д゚彡「風羽、話し方が昔になってる」
(*ノωノ)「え、あ、ごめんなさい!」
ミ,,゚Д゚彡「いいよ、ようやくそうやって話してくれて嬉しいから」
笑いながら人形を手に取るフサさん、どこか和んで落ち着いている自分がいた。
すごく居心地がよかった、そしてとても懐かしかった。
- 121: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:39:48.66 ID:E+udxsG90
- 二人で昔のことに花を咲かせながら商品を見ていると、とある人形で目が止まった。
(*ノωノ)「これって……」
当時私が持っていた王子様とお姫様のセットが『復刻版』と題して置いてあった。
懐かしい、私は数ある人形の中でもこの王子様の人形が一段と好きだった。
(*ノωノ)「この人形、フサ君に似てるね」
ミ;゚Д゚彡「別に似てねーよ」
(*ノωノ)「すねないすねない、褒めてるんだから」
私はこの王子様ファッションが嫌いで、別の人形の普段着を着せていたっけ。
特別これといって着飾らない服装……
(*ノωノ)「あ、フサ君の今日のファッションも、昔私が着せていた服装に似てる」
ミ;゚Д゚彡「〜〜ッ!! そうかもな、俺が無意識にそいつをインスパイアしたのかもな!」
(*ノωノ)「怒らない怒らない、褒めてるんだから」
すねたそぶりが可愛くって、更に言うとフサ君も観念した。
頭を撫でてあげたくなって、そんな自分たちを想像してまた笑みが出た。
- 122: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:41:36.15 ID:E+udxsG90
- 昼食は界隈のパスタ専門店へ行った。
(*ノωノ)「ねえ、フサ君は麺類で何が好き?」
ミ,,゚Д゚彡「俺? 俺はスパゲッティだな、他はどうでも良いや」
(*ノωノ)「へー、さすが外国の王子様……」
ミ;゚Д゚彡「だからちげーって!」
食事後は洋服店を回った。
服を物色する私と一緒でも暇そうにせず、積極的に話し掛けてくれるからすごく居心地がよかった。
男の人は女性の買い物に付き合うのは苦手だって良く聞くから心配だったけれど、フサ君は例外みたい。
(*ノωノ)「どうかな、この服?」
ミ,,゚Д゚彡「風羽って黄色好きだよな、黄色と白」
(*ノωノ)「うん、黄色って可愛くて優しい色」
ミ,,゚Д゚彡「だからさ、たまには別の色でも良いんじゃない?
色一つで大人っぽくなれるぜ?」
(*ノωノ)「……それって遠回しに私のことを子供っぽいって言ってない?」
ミ,,゚Д゚彡「すねるなすねるな、褒めてんだ」
- 125: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:43:32.34 ID:E+udxsG90
- 私の些細な質問や反応にも受け答えしてくれて、すごく楽しい。
恥ずかしながらにも、ずっとこの時が続けばなんて望んだ。
女の人は、傍にいてるれる男性に弱いんだと思う。
私にはとても遠距離恋愛なんて無理だな、それを確信した。
そして夕方、後ろ髪を引かれながらも内藤先輩との約束が近づくといよいよお別れとなる。
(*ノωノ)「すみません、この後私用があって……」
ミ,,゚Д゚彡「気にしなくても良いよ、忙しいのに付き合ってくれてありがとう、楽しかったよ。
それで、これを今日のお礼に」
(*ノωノ)「?」
渡された袋を開けると、ハンカチーフが入っていた。
明るい紫地で少し派手な模様かなとも思ったけれど、買い物の時にフサ君が私に勧めてくれた色合いに良く似ている。
私にこの色が似合うと考えてくれたのだろう、そう思うと素直に嬉しくて、大切にしなきゃって思えた。
(*ノωノ)「ありがとう、でも私からは何もなくて……あぷー」
ミ,,゚Д゚彡「気にするなよ、半日風羽自身を借りたお礼だよ。
そう思うなら、代わりに今度また付き合ってくれな」
(*ノωノ)「うん、絶対」
- 127: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:45:17.26 ID:E+udxsG90
- 両手を大きく振って名残惜しく別れると、そのまま駅のロータリーで内藤先輩の車を待つことにした。
(*ノωノ)「フサ君か……」
懐かしさの余韻が私を包み込んでいた。
一緒にいる安堵感は昔から変わっていないのだろうきっと、悲しさや辛さを紛らわせてくれる、そんな存在。
温かく優しい、漆黒の夜だった私の心に光を当ててくれる太陽。
言葉遣いを崩して会話したのなんて本当に久しぶりだった。
社会人になってから幾度と(特に内藤先輩に対し)崩したいなと考えつつ、とうとうできなかったのに。
一気に距離が近づいた気がして、まるで本当に恋人同士だなんて思って。
すごく楽しくて、最高の一時だった。
もっと、一緒にいたいと本気で感じた。
フサ君の余韻に浸りながら、駅前のロータリーにいると見慣れた車がやってきた。
パールホワイトのコンパクトカー、内藤先輩の車だ。
両手を振って合図すると、恥ずかしそうに私の前に車をつけてくれる。
- 131: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:47:13.71 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「内藤先輩、えーと……こんにちは?」
午後五時という微妙に時間に、こんにちはかこんばんはかに悩んだ。
無難にこんにちはと言うと、内藤先輩もこんにちはと返してくれた。
(*ノωノ)「助手席失礼しますね」
( ^ω^)「むしろ後ろの座席に坐られたら地味に傷つくお」
(*ノωノ)「じゃあ、先客がいても……助手席取っちゃいますよ?」
フサ君の影響か、いたずらっぽい受け答えが頭に浮かんだ。
先輩への気持ちのアピールにと、つい途中で詰まりながらも口に出してしまった。
それでもこの私が内藤先輩にこんな事を言えるなんて……恥ずかしいかな、それでも最高の出だしだと思った。
(;^ω^)「お……お、でも助手席は事故の時危ないらしいお、後ろの方が安全だお……」
内藤先輩は反応に困ってか、なぜか事故の時の話に……調子に乗ってはいけないな。
前言撤回、出だしは少し気まずいものだった。
- 133: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:49:01.88 ID:E+udxsG90
( ^ω^)「風羽さんは仕事着と普段着って分けているのかお?」
(*ノωノ)「はい、一応仕事の時は服装自由といってもピシッと決まったのを着ますね」
( ^ω^)「それでかお、同じ『私服』だけど休みに会う風羽さんの方が何て言うか……」
「可愛い」って言って欲しかったけれど、残念ながら内藤先輩は言葉を濁してそこで止まった。
残念に思いながら、逆に内藤先輩の服装も褒める。
(*ノωノ)「内藤先輩こそ、今日はカジュアルですね、格好良いです」
( ^ω^)「ありがとうだお、でもこの突き出たお腹を引き締めないと、服装負けだお」
(*ノωノ)「いえ、今ぐらいがちょうど良いですよ、健康的で」
ここ数日の落ち込みようが嘘のように、今の私はとても積極的だ、フサ君の効果かな?
フサ君とは恩人と言うことで今日の買い物に付き合ったけれど、今から考えるととても酷い話だ。
あんなに優しくしてくれて、あんなに楽しませてくれて、プレゼントまでくれたのに……
私は深く考えることもせずに、恩人という理由だけで付き合ったのだから。
また後日、改めて私から誘わなきゃ。
今日の分の贖罪として、一日中付き合ってもらおう。
それでまた、おもちゃ屋さんで子供のようにはしゃごう。
(*ノωノ)(フサ君……)
- 135: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:50:52.63 ID:E+udxsG90
( ^ω^)「風羽さん?」
(*ノωノ)「あ、はい!」
自分の名前を呼ばれて、つい考え事に浸っていたことに気付いた。
最悪だ、せっかく内藤先輩が誘ってくれたのに、別の事を考えていて話を何も聞いていないなんて。
( ^ω^)「どう思うお?」
(*ノωノ)「えと……あぷー、ごめんなさい、ちょっとボーっとしていました……」
本当に最悪だ。
私が他所事を考えていたのを気にしてか、内藤先輩はその後も積極的に話をしてくれた。
きっと私が楽しんでいないなんて思ったのだろう、内藤先輩は必至に盛り上げようとしてくれた。
私はと言うとフサ君の余韻ももうない、ダメな自分の嫌悪しながらも、頑張って内藤先輩と話を続けた。
……頑張らないと、先輩とは話が続けられないのだろうか?
フサ君の時には考えもしなかった疑問が頭を掠めた。
今の私はすごく宙ぶらりんなのかもしれない。
- 136: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:52:42.98 ID:E+udxsG90
- 目的地のお蕎麦屋さんへ到着したのは18時前、食事時間としては少し早い目で然程混雑は無く、少し並んだだけで席に案内された。
座敷に連れられ、内藤先輩と相席で坐る。
(*ノωノ)「私普通のざる蕎麦が良いです」
( ^ω^)「僕もそれにするお」
トントンと注文を済ませると、お手拭を手にとって話をする。
(*ノωノ)「楽しみですね、話題のお蕎麦なんて」
( ^ω^)「僕も初めてだからwktkだお。
そういえば、この後はどうするお?」
(*ノωノ)「えと……特に考えてないです」
( ^ω^)「だったら僕のオススメの場所があるんだお、そこで少し話でもどうかお?」
(*ノωノ)「はい、喜んでお付き合いします。
先輩オススメの所だなんて、すっごく楽しみです」
こうやって休みの日に二人っきりで会うのなら、遊びも良いけどやっぱり一番には話がしたい。
私は内藤先輩のことを何も知らない、だから今日は……
そのオススメの所で色々と聞きたいな、内藤先輩の少年時代の事なんかを。
- 139: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:54:31.65 ID:E+udxsG90
- 運ばれてきたお蕎麦はとてもコシがあって、量は然程多くなかったのにお腹いっぱいになった。
ところで内藤先輩はワサビを沢山つゆに入れていた、ワサビが好きだとのこと。
思わぬ収穫と、頭のメモリにしっかりと焼き付けた。
食事を終えてから少しのんびりしたかったが、入り口では外にまで続く長蛇の列が出来ていた。
渋々と早々にお店を立ち去り、内藤先輩の運転で『オススメの場所』へと向かうことに。
向かう途中に何度か聞いてみるも、その場所は到着まで秘密だそうだ。
街のネオンが見える辺りまで来ると、コインパーキングに車を止める。
( ^ω^)「ここから少しだけ歩きだお」
(*ノωノ)「はい、分かりました」
まぶしい街を歩いていると、つい手を繋ぎたい衝動に駆られる。
これだけ沢山の通行人がいるのだから、誰にも気付かれないだろうなんて考えてしまう。
ここで腕を繋いだとしても、それは私たちだけが知る秘密。
まったく子供っぽい話だ。
( ^ω^)「到着したお、ここだお」
- 140: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:56:20.30 ID:E+udxsG90
- 目的地は少し明るさを抜けた先にあった。
「バーボンハウス」と大きく書かれた看板の下から店に入ると、オレンジ色の光で照らされた趣ある木造りの空間が広がる。
促されるままにカウンター席へ坐ると、流れでカクテルを注文した。
内藤先輩はミルクだった、車だからアルコールが飲めないのは当然だけれど。
(*ノωノ)「ここって、バーって言われる所ですか?」
( ^ω^)「そうだお」
内藤先輩はそう頷くと、何か言葉を続けようとして止めた。
私が話し掛けずに待っていると、決心したように続きを発した。
( ^ω^)「ここは僕とツンが付き合う切欠になったバーなんだお。
ここにいると不思議と、言い難いことも口に出せるようになるんだお」
一瞬内藤先輩がなんと言ったか分からず、頭が真っ白になった。
恥ずかしいくらい表情は悲しい顔をしていたことだろう、実際激しく悲愴し、虚しさが津波の如く押し寄せた。
まるで私という存在が内藤先輩から消されたのではないかという程の錯覚を覚えた。
どうしてわざわざ私にツンさんのことを言うのか、それが分からなかった。
その一言で私がどれだけ傷ついて、心を沈めたことだろう。
それとも……言い難いことがあるのだろうか。
内藤先輩が。
私に。
- 142: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:58:06.40 ID:E+udxsG90
- カクテルが来たので軽く口をつける。
とても美味しいけれど、あまり酔いたい気分ではなかったため、すぐガラスコップをコースターの上へと戻した。
(*ノωノ)「内藤先輩」
先輩はのんびりゆっくりと反応した。
( ^ω^)「なんだお」
今度は私がゆっくりのんびりとする番だ。
心を落ち着けると、言葉を繋いだ。
(*ノωノ)「内藤先輩とツンさんって、会社で出会ったんですよね?」
( ^ω^)「会社……の前から知ってるお」
のんびりと会話が続く。
( ^ω^)「ツンと僕は、小学校から同じだったお」
(*ノωノ)「……」
( ^ω^)「でも子供の頃は全然話なんてしなかったから、会社からと言っても誤謬ないお」
そんなことすら知らなかった自分にひどく幻滅した。
そうか、私とツンさんは根から違ったのだ。
記憶のずっと深くにまで張り巡らされた、綿密な関係が二人にはあったのだ。
- 144: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 22:59:53.75 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「内藤先輩の子供の頃って、どんなだったんですか?」
( ^ω^)「……」
次は内藤先輩が黙った。
そうだ、いつもこの話題になると内藤先輩は会話を曲げてしまい、結局私は先輩について何も知らないのだ。
自分を語ろうとしないのは先輩の悪い癖だ。
( ^ω^)「風羽さんはどうだったんだお?」
(*ノωノ)「私はそうですね、ちょっと陰気でした。
引っ越しが多くて、何度か祖父母の家へ預けられていたので友達も少なくて……
そうです、この前助けてくれたフサ君はその田舎での唯一の友達でした」
( ^ω^)「仲良かったんだお?」
(*ノωノ)「はい」
言うと内藤先輩は少し残念そうな、哀愁ある顔を見せた。
嫉妬じゃないことは明白だった、でも、それならばどうしてそんな顔をするのだろう?
私に先輩は理解し難い、そんな現実に押し潰されそうだった。
こうやって沢山話をしていく事で、まざまざとその事を思い知らされるのではないか、と。
- 147: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:01:42.99 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「内藤先輩、別の質問良いですか?」
( ^ω^)「なんだお?」
(*ノωノ)「言い難いことって、何ですか?」
内藤先輩は驚いて目を見開いたけど、次にはいつも通り優しく笑ってみせる。
( ^ω^)「風羽さんには敵わないお。
仕事をしてると感じないけど、こうやって話すると本当に思うお」
(*ノωノ)「あぷー、お仕事のことは勘弁してください」
こういった細かな事に気付くのは、内藤先輩が好きだから、これは絶対。
言動一つ一つがすごく気になってしまうのだから。
それらを深読みしてしまって、恥ずかしいほど一喜一憂してしまうのだから。
だから……私を特別のように言わないで。
私にこれ以上期待させないで。
これ以上、想いを強くさせないで。
( ^ω^)「風羽さんってすごく良く周りを見てて尊敬するお」
- 148: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:03:31.71 ID:E+udxsG90
- とんでもない、それはまさに私が内藤先輩に対して思っていることそのままだ。
きっと内藤先輩は、私が先輩を見る以上の視点や気配りで全体を見ているのだろう。
だからあんなにも気配りが上手く、優しいのだ。
(*ノωノ)「内藤先輩って本当、誰にも優しいですね」
(;^ω^)「おっおっ、買いかぶりすぎだおとんでもないお!」
聞き上手だし、意見もよく合わせてくれる。
でも褒められるのは苦手、とても不思議だった。
こんなに良い性格だったら小さい頃から褒められていそうなのに。
( ^ω^)「そういえば、そのカクテルはおいし――」
「ブーン?」
(( ゚ω゚))「!!」
突然後ろからかけられた声に、内藤先輩がビクッと震えた。
ブーンとは内藤先輩のあだ名だ、知っている。
そして女の人の声、まさかこの声の主は……
(;^ω^)「つ、ツン……」
ξ#゚ー゚)ξ「ブーン、女の子と随分楽しそうなことで」
まさに修羅場だろう、彼女のツンさんに見られてしまうとは……内藤先輩にひたすら申し訳なくなった。
どうなってしまうのだろうか、私は驚くばかりで、何一つと言葉を出せなかった。
- 152: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:05:18.76 ID:E+udxsG90
- (;^ω^)「いやいやいや、ツンこそどうしてここへ!?」
ξ#゚ー゚)ξ「あら、恋人との思い出の場所へ憩いを求めやって来るのはそんなに不自然な行為かしら?
恋人のいない夜を嘆き一人で感慨に浸りに来たのですが何か?」
(;^ω^)「いや、えと、こちら会社で僕直属の後輩の風羽さんだお」
まさか私に振られるとは予想だにしていなく、戸惑うばかり。
先輩を恨めしく思いながら、ツンさんへと会釈する。
(*ノωノ)「あ、はじめましてツンさん、風羽です……」
ξ゚ー゚)ξ「内藤から話では聞いているわよ、可愛い後輩がいるって」
(*ノωノ)「いえ、でも内藤先輩はとっても真面目で、私なんて女としてじゃなくてちゃんと後輩としてで。
その優しくしてくれますがそれは皆にそうで、えと、ごめんなさい何が言いたいのかわかんなくなっちゃいました……」
ξ゚ー゚)ξ「風羽ちゃん? 聞いていた通り、可愛いわね。
高卒ってことはまだ十代かしら? 若いって良いわ……ねえ、ブーン?」
(;^ω^)「え、いや二十代半ばにも半ばの美貌といいますかお、相応の魅力が……」
(*ノωノ)「ツンさん、あの本当に内藤先輩はツンさんが好きで、私なんか歯牙にもかけられないです!
仕事でしぶしぶ、無理言って付き合ってもらってばかりで」
私は突然何言っているんだろう?
どうしてわざわざ内藤先輩とツンさんの仲を仲介しているのだろう私は。
- 154: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:07:06.36 ID:E+udxsG90
- 弱いんだ。
好きな人一人奪う度胸も無い、そして好きな人が変わってしまうのを恐れているんだ。
私では ツンさんの 代わりになれない と 自分で理解しているのだ。
別の人を好きなあなたが好き、良く聞く言葉だけれど、その意味を今ようやく知った。
ξ゚ー゚)ξ「ぷ……風羽ちゃんって言ったっけ?
本当可愛いわねぇ、冗談よ冗談!」
(;゚ω゚)(いや、半分マジだった、十回死んだと思ったお)
ツンさんが笑顔を戻すと、内藤先輩もようやく安堵の息を吐く。
それにしてもツンさんとは初対面なワケだが、なるほど内藤先輩が惚れるわけだ。
頼り甲斐あるキビキビとした印象を受け、内藤先輩とはバランスがよく、とてもお似合いだと傍目からでも感じた。
その素晴らしさが悔しくて悲しくて、到底勝てる気などしなかった。
ξ゚听)ξ「風羽さん、始めまして。聞いてると思うけれど、私がツン」
(*ノωノ)「あ、はい、風羽です、始めまして」
ξ゚ー゚)ξ「挨拶ならもうしてもらったわよ」
- 156: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:08:53.34 ID:E+udxsG90
- 笑って言うツンさん、すごく良い人だ。
私と距離を近づけようとしてくれている、それが分かる。
警戒しなくても大丈夫だよって。
ξ゚ー゚)ξ「なるほどね、ブーンが好きになるわけね」
(*ノωノ)「え、ええっ!?」
得意げに笑って見せられるが、本当に私は焦ることしかできなかった。
まさか内藤先輩の彼女であるツンさんが、こんな事を私に言うなんて……予想外だった。
当然良く見られたい、気に入られたいと望んでいたけれど、突然そこまでの発言をされても覚悟ができていない。
内藤先輩は、黙ってうつむいていた。
ξ゚听)ξ「それでブーン、好きだったら……言わなきゃいけない、分かるわよね?」
( ^ω^)「……」
言う?
何をだろうか、真っ先に告白かとも思ったけれど、お門違いも甚だしい理想妄想だ。
ξ゚听)ξ「何のために今日は誘ったのよ、バカじゃない!?
そうやって逃げ続けるの、変わってないわね。
好きなんでしょこの子を、じゃあ言わないでどうするのよ!」
( ^ω^)「……」
- 158: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:10:39.86 ID:E+udxsG90
- ξ゚听)ξ「もういいわ、私から」
( ^ω^)「僕から言うお!」
ξ#゚听)ξ「言えてないじゃない!」
(#^ω^)「でも言うお、絶対、僕が言うおッ!!」
怒鳴り合い、次には互いに睨み合う。
ただの喧嘩にしては少々度が過ぎている、では何なのかこれは?
私の何が関係あるのだろうか、私のせいなのだろうか?
内藤先輩は私に何を伝えたくて、今日ここに誘ったのだろうか?
(`・ω・´)「ダンナたち、悪いね、店内は静かに頼むよ。
少ないなりにもほかのお客さんもいるもんでね」
( ^ω^)「……。マスター申し訳ないお、今日はもう帰りますお」
(`・ω・´)「そうかい」
お会計を済ますと、そのまま3人で車に乗りこみ、終始無言のまま家まで送って貰った。
そして内藤先輩と最後に約束した。
来週の日曜、またバーに行こうって、そこで話をするって。
- 161: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:12:34.76 ID:E+udxsG90
私たちの仕事場は、基本は毎週日日曜日と他一日が休みの週休2日制となっている。
イベント業務の補助がメインであり、イベントは日曜日に多い。
日曜日を明ける事で、自分の携わらないイベント業務の補助に行ける為だ。
当然自分たちが携わるイベントに関しては休日返上で業務となり、どこか別の日に代休を頂く事となる。
バーでツンさんと会ったその日は、自分が何をしたのかという自問でいっぱいとなり、なかなか寝つけなかった。
あの二人に何か言われることがあっただろうか?
心当たりがないからこそ、悩み苦しかった。
あんな喧嘩じゃない、仲の良い二人を見せ付けられたかったなんて言うと、調子のいい釈明なのだろうが。
月曜日、内藤先輩はいつもとなんら変わらない様子で、いつも通り私に接してくれた。
とても心の強い人だ、改めて尊敬した。
どんな人生を歩めばそれほど強い心を手に入れることができるのだろう?
火曜日、クライアントの要望で突然仕事が増え、この日は少し残業した。
仕事自体はそこまで切羽詰まっていなかったので、なんとかこなせて安心。
相変わらず内藤先輩とはいつも通り、会話はするけれど日曜のことは話しなかった。
水曜日、昨日増えた仕事を一気に片づける。
夜、内藤先輩から日曜日の待ち合わせについてのメールが来た。
- 162: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:14:00.85 ID:E+udxsG90
木曜日、内藤先輩は今週この日が休みだった。
金曜日、滞りなく仕事は終了、定時に帰れた。
土曜日曜と私は休みなので、自然と仕事もはかどった。
土曜日、私は思い立ってお昼前に繁華街へと乗り出した。
バスを乗り継ぎ、歩くこと十数分、「バーボンハウス」と書かれた看板は、昼の明るい世界では少し寂しい。
中に入ると、他にお客さんは数人いるだけだった。
(`・ω・´)「いらっしゃい……と、この前のお嬢さんかい」
(*ノωノ)「あ、先週はすみませんでした。
……お客さんの顔、一人一人覚えているんですか?」
(`・ω・´)「まさか。初めての人なら、一騒動でもない限りなかなか」
(*ノωノ)「あぷー……」
(`・ω・´)「はは、注文が決まったら呼んでくれ」
言うとマスターは別のお客さんの所へと行ってしまう。
薄暗いこの店内は、一人でいるにはすごく居心地が良かった。
- 168: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:16:20.04 ID:E+udxsG90
- 大きくため息をついた。
明日はいよいよ内藤先輩と会う日だ、だというのにどうしてこうも乗り気になれないのか。
(*ノωノ)「何があるんだろ……先輩、私に何か隠してたのかな?」
ボソボソと独り言をしていると、マスターが私の前にやってくる。
考えてばかりで注文の決定をなおざりにしていた。
(*ノωノ)「あ、すみません、まだ決まって……?」
(`・ω・´)「あちらのお客様から、あなたにだそうですよ」
目の前に置かれた、レモン色のカクテル。
驚いて言われた先を見ると、そこには見知らぬ人がいた。
( ・∀・ )
思い出そうと努めるが、まったく心当たりがなくピンと来ない。
どこかでお会いしたかと尋ねるには距離があり不自然だ。
ナンパというものだろうか、それともバーではこういった行為は日常茶飯事なのだろうか?
ドラマなどでは良く見かけるが、実際バーに来ることなど皆無な私では、結論は出せず終いだ。
私にはつい最近、フサ君の時もまったく思い出せなかったという前科がある。
しかし残念ながら、どれだけ悩もうと合致する記憶は回顧できなかった。
- 169: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:18:19.13 ID:E+udxsG90
- とりあえずカクテルを持って、会釈して口をつける。
少しの酸味が良いアクセントとなっており、爽やで飲み易い。
(*ノωノ)(お客さんも少ないし、こういうものなのかな)
そう結論づけ、ありがとうと再び軽く会釈をすると、男の人は満足したのかお勘定をする。
視線を送ったが、その人はこちらをチラとも見ずにバーから出ていこうとした。
その時だった。
( ・∀・ )「お嬢さん、あなた……少し自分勝手が過ぎるようですね」
ドアが閉まる寸前にその人は私の方へ振り向き、言葉を残してドアは閉まった。
すぐさま追いかけようと立ち上がったけれど、残ったカクテルや注文をしていない事が頭を掠めた。
いや、これは言い訳だろうか?
怖いのだろうか?
(`・ω・´)「いいよ、行ってきなよ。
そして戻っておいで、カクテルはその時改めて出すようにしよう」
(*ノωノ)「あ、ありがとうございます!」
マスターの言葉は、まるで私を後押してくれたように感じた。
一歩が踏み出せない私を見かねて、背中をポンッと。
- 173: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:20:23.66 ID:E+udxsG90
- バーから出ると、その人はちょうど路地裏へと消えてしまうところだった。
慌てて後を追い、路地裏に入り込むとそこには誰もいない。
煙のように、その人はいなくなってしまった。
(*ノωノ)「あ……れ?」
( ・∀・ )「誰かお探しかい?」
頭上から声がし、見上げれば廃ビルの2階の窓に腰かける、男の姿があった。
( ・∀・ )「狐につままれたような顔をしているね。
だがあいにく僕は狐ではなく、案内人のウサギだよ。
ウサギを追いかけてくるとは、ずいぶんと好奇心旺盛だね、不思議の国に迷い込んだアリスお嬢さん」
(*ノωノ)「……」
( ・∀・ )「風羽さんだね、知っているよ。
僕の自己紹介はまだだったか、僕はモララーというんだ、以後お見知りおきを」
バーにいた時からずっと、その人はほのかな笑みを止めなかった。
まるですべてを知っていて、私の行く末を娯楽として眺めているような、達観した視線。
( ・∀・ )「つかぬことですが、あなたは夢を見ますか?
ああ、夢と言っても自分の未来への希望ではなく、寝ている時に見るものですよ」
(*ノωノ)「……」
- 175: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:22:11.68 ID:E+udxsG90
- 唐突な、真意の図れない質問に返答できなかった。
未知のものに出会った恐怖、そしてそれとは違った第六感の知らせる危険。
喉が乾き、先刻のカクテルが恋しくなった。
黙り込んでいる私に向いて、「仕方ないな」とモララーさんは笑いを強めた。
( ・∀・ )「そうですね、質問を変えましょう。
たとえば、夢の中で知らない街にあなたがいたとしても、それに疑問を抱きませんよね。
夢でいつもの街がその景観を変えていても、疑問を抱かずに当然としてそれは存在していますよね」
(*ノωノ)「……」
( ・∀・ )「ここは、あなたが暮らしてきた、街ですか?」
(*ノωノ)「!!」
( ・∀・ )「あれは、本当にあなたの知り合いですか?」
『あれ』とはフサ君のことだろう、直感でそれが理解できた。
こめかみに銃をあてがわれた。
包み隠していたモノの外装を一気にナイフで切り裂かれた。
開けてはいけないパンドラの箱を、叩き割られた。
どんな比喩を持ってしても、今の心境を説明するには不十分なほどだ。
- 179: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:23:58.08 ID:E+udxsG90
- ( ・∀・ )「あなたはあの時、本当に3人でしたか?」
あの時、車に轢かれかけた時、私と栖来先輩と内藤先輩の3人だったのか?
止めて、止めて、ごめんなさい、だから開かないで、すべてを明かさないで。
知りたくなんてない、幸せに私はいたいの、楽しく皆と一緒にいたい、今のままでいたい。
何がいけないの、どうして知らせるの、これ以上望んでなんていないのに。
( ・∀・ )「あなたが塞ぎ込んでいた理由は、本当に髪型の失敗だったのですか?」
(*ノωノ)「止めて、もう本当に止めてお願いッ!!
違う、私は本当にあの時先輩と話していたから!
落ち込んだ私を先輩は優しく慰めてくれた、覚えている、ちゃんと記憶にある!」
落ち込み、服装、喧嘩……この上ない違和感が脳を覆いつくす。
自分が信じられなくなる事がこんなにも怖い事だったなんて。
その鮮明な記憶が嘘だなんて……考えた事などありはしない。
記憶だけは事実として私を形成してくれていた、いわば私の人生そのものだ。
そして今、それが崩されようとしているのだ。
成すがままに蹂躙されるしかないのだ。
( ・∀・ )「それではこれは……何ですか?」
- 183: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:25:53.66 ID:E+udxsG90
いつの間にか眼前にいたその人は、私の右手の袖をまくった。
真横一線の痕が映る。
ぞっと背筋を何かが駆け抜けた。
私がリストカットをした……何故?
内藤先輩。裏切り。電話。流れる血。
植物。
(*ノωノ)「いやあああぁぁあぁぁぁ!!」
- 188: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:27:51.76 ID:E+udxsG90
- 頭の中に様々な映像や記憶が混沌と雪崩れ込んでくる。
どれだけ抗おうと次から次に甦るそれらは、私を一瞬に蝕んだ。
気絶するかと思うほど痛烈な痛みが脳天を走り抜け、脳がパンクしそうだった。
頭が中から破裂しそうだった。
( ・∀・ )「ウサギを追いかけてきたお嬢さん、トランプの兵隊、女王様、ここはすべてが絡まったおもちゃの世界」
理解できない事象の数々に、ただ頭痛に耐えることしかできなかった。
これまでの人生は何か、自分が信じられない今、一体何を信じればいいのか。
( ・∀・ )「風羽さんでしたか、落ち着いてください。
何もとって食おうというわけではないのですから」
とって食われるだけならばどれだけマシだっただろうか。
とりあえず相手の言葉通り落ち着こうと努める。
気になることはあるが、頭痛に吐き気がすざまじく、これ以上考え続ければ間違いなく脳が壊れる。
考えていたよりも簡単に思考は停止した。
記憶を信じられない人間とは、まるで操り人形のようだ。
そして、助けてくれと懇願の目をモララーさんへ向けた。
- 190: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:29:36.91 ID:E+udxsG90
- ( ・∀・ )「そんな目で見られてもねぇ……。
つかぬことだが、君は童話『不思議の国のアリス』の最後を知っているかい?」
不思議の国のアリス。
痛い頭をなんとか回転させ、脳みそをえぐられるような痛みに耐えて記憶をまさぐった。
信じるに値しない記憶の数々を除けていると、まるでガラクタを漁っているような錯覚に陥った。
(*ノωノ)「あ」
思い出した瞬間、自分の上辺の記憶が全て剥がされる。
真と偽が綺麗に分割され、脳の痛みが嘘のように吹きとんだ。
次に来るのは、怒涛の悲しさの津波だ。
(*ノωノ)「……夢」
不思議の国で色々と事を起こしたアリス、その最後は木陰で姉と一緒に眠っていたのだ。
そう、全ては彼女自身の生み出した、『夢』だったのだ。
それが何を暗喩しているのかは考えるまでも無い。
- 193: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:31:21.61 ID:E+udxsG90
- 私は髪型なんかで気落ちしていたのではない、内藤先輩がいなくなってしまい、絶望に打ちひしがれていたんだ。
髪型は気分を一新しようとバッサリ切ったけれど、結局そんな簡単なことで心は元気を取り戻せなかったんだ。
あの日は栖来先輩がそんな私を気遣ってくれて、『2人』で買い物に出かけたんだ。
ドラマの話も雑誌やニュースも、反応しない私のために、必至に栖来先輩が話してくれたんだ。
(*ノωノ)「あの事故は……」
( ・∀・ )「そうだよ、実際に遭った事故だ。
今君は重体患者として病院にいる、分かるね?」
(*ノωノ)「これは私の夢なの? 街行く人たちも、先輩も、あなたも……」
( ・∀・ )「君にとって都合の良い世界であることは事実だが、残念ながら皆が皆君の創造物じゃない。
ここは君の夢でもあり、生と死の狭間の世界でもある。
君は今、単純に生と死を彷徨っているんだ、大好きな先輩たちのようにね」
(*ノωノ)「……」
涙が一気にあふれ出た。
(*ノωノ)「良かった……じゃあ、内藤先輩とツンさんは、本物なんだ……」
あの二人は私の作り上げたものではなく、植物状態である本当の二人なんだ。
今は現実にいない、それでも死んでもいない……本当の二人なんだ。
あの二人が本物で……いや、それでは合点いかない事がある。
- 196: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:33:32.13 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「それじゃあ……フサ君は……」
だって、鮮明燦然と甦った私の記憶に、フサ君と言う人間は存在しない。
だとすると彼は何なのだ、ここが生と死の狭間だというなら……
( ・∀・ )「残念だが、彼はトランプのジャックだ。
生と死の狭間とここを言ったが、彼は魂すらない。
当然生きてなどいない、君の作り上げた住民であり、いわば死の象徴だ」
体から一気に力が抜け、その場に坐り込んだ。
( ・∀・ )「フサと言う人間は存在しないよ」
(*ノωノ)「止めてよッ、違う、フサ君の事何も知らずに死だなんて言わないで!
違うよ、私は遊んだもん、フサ君と一緒におままごとして……遊んだ……」
( ・∀・ )「もう君自身気付いているだろう、何をそんなに強情になっているんだい?
そもそも本来であれば君がずっとここにいたいと願うならそれで良かった。
僕もわざわざ出向いて事実を打ち明ける必要が無かった」
(*ノωノ)「だったらなんで!?」
( ・∀・ )「そう、『先輩』もどうして君に話しようとしたんだと思う?」
一緒にいる最中、突然真面目になって私をバーへ連れって行ってくれた内藤先輩。
きっとこの事を私に話すためだったのだろう、ここまで言われれば私でも理解できる。
しかしどうしてだろう?
モララーさんも、関係のない話だから黙っていてくれればよいものを、どうして?
- 199: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:35:20.44 ID:E+udxsG90
- ( ・∀・ )「時間がもうないんだ。
車に轢かれた君の体は重体で、戻らなければ近日中に死んでしまい、ここにすらいられなくなる。
君は選ばなければならないんだ、生か死かを」
『生』か『死』、なんて馬鹿げた二択だろうか。
誰が死をとるというのか?
そう、誰が好き好んで死を取るというのか……
(*ノωノ)「フサ君……」
( ・∀・ )「私を信じて生きるか、フサ青年とともに死ぬか。
もう一つ、『先輩』と一緒に居続けるか……」
(*ノωノ)「内藤先輩と?」
( ・∀・ )「君ほぼ近日中に死ぬ、だがゼロではない。
『先輩』がいつか目を覚ますかもしれない、同じくらい儚いが君が生き続ける可能性だってあるだろうに」
つまり、私には選択権があるんだ。
内藤先輩を選ぶか、フサ君を選ぶか、モララーさんを選ぶか。
無茶言わないでほしい、誰を裏切れというんだ、ここで選ばない人間とはもう二度と会えないかもしれないというのに。
(*ノωノ)「それに、仮に戻ったとして、その世界が現実だって保証はどこにあるの!?
これは夢ですよね、痛みもあるし寝ていれば夢も見る世界なのに夢なんですよね、まだ信じられないのに。
もしかするとこの世界が夢のまた夢の世界の可能性だってあるんですよね!?」
- 203: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:37:50.94 ID:E+udxsG90
- ( ・∀・ )「どうしてそれを僕に聞くんですか?
参ったね、どれだけ僕はお人良しなんだい」
(*ノωノ)「……」
( ・∀・ )「今が夢か現実か、そんな君のことを僕が知るわけないだろう。
今の君を信じられるのは君だけだ、自分自身がそう、信じるしかない」
今さっき自分の全てが信じられなくなったばかりだと言うのに、次には信じろと?
無茶にも程度がある、元よりそんな重大な決断を決められるような気強さなど私には無いだろうのに。
( ・∀・ )「そもそもこれが夢と分かったところで、その世界の人を見捨てるのかい?
君が考えている以上に、ここが夢か現実かなんてどうでもいい話なのさ。
そうでなければ、今君がこんなにも悲しんでいる理由はないだろう」
そうだ、ここが夢と分かって割り切れるのであれば、私はフサ君の事など心に留めずにスッパリと切り捨てられるハズだ。
とんだ見当外れの質問をしていた、まったく思慮の浅はかさに嫌気ばかりがさす。
(*ノωノ)「その通り……です」
( ・∀・ )「これは君の夢で、僕たちはただの登場人物だと思っていないかい?
この街は実在し僕たちは僕たちとして個々に存在する、少なくとも僕たち自身にとってはね。
君こそ僕の夢の登場人物かもしれないし、戻った先こそ誰かの夢かもしれない」
複雑に入り乱れた話に混乱する私へ、モララーさんは今までと同じ、しかしどこか優しい笑みを浮かべてくれた。
( ・∀・ )「安心しておくれ、この街の住民は貴方の味方ですから。
あとは、他のお二方に任せるとしましょうか……と、そうだ」
- 207: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:39:41.03 ID:E+udxsG90
- モララーさんは時計と封筒を取り出すと、私へと差し出す。
( ・∀・ )「時計をあなたに授けましょう。
ウサギは時計を持っているものですよ、辛くなったら文字盤を見て、心を落ちつけて下さい」
私は男の人用の太くて大きい腕時計を受け取った。
( ・∀・ )「そして……その痛々しい腕首を隠しなさい。
女性がそんなもの、露わにするべきではありませんよ」
横に真直ぐに引かれた切り跡、痛々しい記憶と傷痕。
もういない内藤先輩、存在しないフサ君。
(*ノωノ)「……すみません」
( ・∀・ )「泣いているのですか?」
言葉を発することも出来ず、首を振るとモララーさんは笑いを和らげた。
( ・∀・ )「そしてもう一つ、手紙を。
少しでもあなたの手助けとなれば幸いです」
(*ノωノ)「はい」
渡された封筒を開けて中身を見た瞬間、私は驚愕のあまり目を白黒とさせた。
- 209: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:41:27.71 ID:E+udxsG90
- 『 あなたにとってこれは、きっと突然のお手紙となっていることでしょう。
以下には私が経験から得た事実を認めます、助けになれば本望です。
あなたは今、どこにいますか?
明確な返答は、恐らく でしょう。
ただ、自分 界ではない、どこか別の場所に迷い込んでいることは分かって頂けるでしょう。
結論を言いましょう、あなたは
自身はまるで のでしょうか、私も初めはまったく理解できませんでした。
様々な るのです
居心 なものか、私に知る術はありません
ただ、その世界は ことを理解して下さい。
そこにいる人たちは 、あなたの ではないことを把握して下さい。
そう、それは夜寝ている時に見る、束の間の、それでいてとても長い時間です
あなたがどのように帰結するの せんが、しっかりと現状を捉え、結論を出して下さい。
心が固まり誠の決意が定まれば、おのずと元の世界へ戻るないしその世界へ留まれることでしょう。
あなたが は個人によって異なるのでしょうが、』
- 214: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:43:16.43 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「……。あの」
( ・∀・ )「勘違いしないでくれ、僕が描いたものではないし、元から汚れていたんだ。
だから言ったんだよ、『少しでも助けになれば幸い』だって。
まぁ僕も物持ちが良い方でないし、少なからず要因の一端を担ってもいるけれどね」
(*ノωノ)「下の方が破れて……」
( ・∀・ )「うん、元から元から、気にしちゃいけないよ」
一番大切な所がないじゃないか、そんな風に考えていたら口元が緩んでしまった。
ヒントになんか到底ならないこの手紙、実際なら絶望に打ちひしがれでもしそうなものだけれど。
( ・∀・ )「いいね、やっぱり女性には笑顔が一番似合うよ」
言われてつい表情を引き締めてしまった。
実際は笑っていられるような状況ではないのに、不謹慎だなんて考えてしまって。
次には現実に改めて押し潰される自分が、やはり私は強い心と無縁だ。
モララーさんは残念だと言いたげにため息をついた。
( ・∀・ )「さて、それでは僕には帰りを待つシャム猫と帽子屋がいるのでね。
案内役のウサギの出番はこれにて終わりですよ。
これ以上の案内は不要でしょう?」
(*ノωノ)「……はい、後は私が決めなくちゃいけないって、私でも分かります」
- 216: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:45:02.73 ID:E+udxsG90
- 涙が遅れて出てきたけれど、気付かないふりをしてモララーさんは手を振ってくれる。
( ・∀・ )「それでは、あなたの出す結論を楽しみにしています」
私は本当に不思議の国のアリスなんだ。
これはたった夢、そんな自身の夢に振り回される……アリスなんだ。
モララーさんがいなくなってからしばらくは、思考が止まった。
現状をまとめようという決心に反して、脳がそれを拒絶する。
防衛本能が、律義にもこんな自分勝手な人間を守ってくれている。
思い出したように歩き始め、焦点の合わない虚ろな面持ちだろうままバーへ戻ると、客は一人もいなかった。
私を確認するやマスターはカクテルを出してくれる。
頷いてそれに口をつけた。
(`・ω・´)「おいしいかい?」
(*ノωノ)「しょっぱいです」
(`・ω・´)「そうかい」
そんな私に、ナッツチョコを出してくれる。
やっぱりしょっぱかった。
- 218: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:46:52.17 ID:E+udxsG90
- (`・ω・´)「顔を隠さなくても良いよ、ここではすべてを吐き出しても良いんだ。
涙がどれだけ出ていようと、鼻水がどれだけ出ていようと、どれだけくしゃくしゃな顔だろうと構わない。
ここは我慢する所じゃないんだよ、風羽さん」
(*ノωノ)「え、名前……?」
驚いて顔を上げると、マスターは手を伸ばし、その涙をぬぐってくれた。
(`・ω・´)「俺も昔、君と同じで車に痛い目をみせられてね、死の直前まで行ったんだ。
笑われるかもしれないが、三途の川近辺にバーがあって、生きていた時の色々な話を聞いて貰ってね。
生きているとプライドが邪魔をする、死との狭間で初めて俺は素直になれたんだ」
(*ノωノ)「……マスター、それって今と一緒じゃないですか」
(`・ω・´)「ああ、だから俺はこうやってバーを始めたんだ。
君のような人を、助けるために」
マスターはどこかから椅子を持ってくると、のんびりと腰かける。
カウンター越しに私たちは向き合った。
(`・ω・´)「別に君に現実世界へ戻れと言う気はない、そこは勘違いしないでくれ。
俺の望みは一つ、君が本当に自分の納得できる結果を出すことさ。
存在しない者を選ぶか、狭間の者を選ぶか、生きる現実を選ぶか」
(*ノωノ)「……どうして、フサ君は現れたのでしょうか?
ずっと昔のことなのに、どうして今になって……」
- 221: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:49:05.56 ID:E+udxsG90
- 私がフサ君を生み出したのは遠い昔だ。
小学校の頃父親の転勤を切欠に、私は二年間ほど田舎のおばあちゃんの家へと預けられた。
当然友達なんていない、都会者というだけで迫害された。
元々都会にいた私にとって、田舎での遊びはとてもではないが内輪に入れるものではなかったから当然だろう。
田んぼに浸かったり、イモリやカエルを捕まえたり。
沢山の虫がいるだろう野山を駆け回ったり。
性格が内気となった事もあり、完全に相手にされなくなったんだ。
そんな私は、いつも一人で人形を使い、おままごとをしていた。
フィギュアさん、フとサをとってフサ君。
王子様人形に安直にもそう名をつけて、ラフな普通の格好に着替えさせていた。
お姫様人形は大人の私、子供ならではのベタな設定、いっつも同じ展開ばかり飽きずによくやっていたものだ。
お姫様の私はいつも孤独で寂しかったんだ。
独りの寂しさから、とうとう私は城を抜け出して街に出る。
そこで野蛮な人たちに襲われた私を助けてくれた人こそが異国の王子様であるフサ君だった。
そんな何の捻りも無い、ごく単純な子供染みた設定だ。
(`・ω・´)「君がそう望み、それを望んでいたんだ、違うかい?」
- 222: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:50:44.95 ID:E+udxsG90
そうだ、その通りなんだ。
大人で独りっきりの私。
寂しい私。
助けだしてくれた人。
まさに子供の頃の設定をなぞらえた、私の王子様なんだ、フサ君は。
(*ノωノ)「なんで……子供の時だよ、私だって忘れていた大昔だよ?
どうすればいいのよ、なんで私を助けるの?
どうして、私はどうすればいいの!?」
一気にカクテルを飲み干すと、私の前に改めて違う飲み物が出てくる。
その些細な優しさにすごく救われた、涙は次々に出溢れた。
(*ノωノ)「ごめんね、ごめんね……」
(`・ω・´)「また、結論を出したら是非教えてくれ。
どうであれ、俺は君を応援するよ」
- 225: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:52:47.29 ID:E+udxsG90
家に帰ると、電気もつけずにベッドにダイブして携帯を手にとる。
メモリからフサ君を出すと、通話ボタンに指をあてた。
不思議と心は落ち着いているも、指を動かす勇気は出なかった。
(*ノωノ)「フサ君……」
繋がらない気がした。
電話をかけて繋がらなかったらもう二度と会えない、それを何となしに確信していた。
一度メール画面に切り替えて、フサ君から貰ったいくつかのメールを見る。
消えてなんていない、やっぱりフサ君は存在するんだ。
でもどうしてこんなに電話をかけたくないのだろう。
どうして繋がる気がしないのだろう。
胃がキリキリと痛み出した。
(*ノωノ)「本当弱いな、私……弱くてバカだ」
「もし」フサ君がいなくなっていたとしても、それを認めたくないんだ。
確認さえとらなければ、どこかにいるなどとふざけた考えに固執することで自分は苦しまなくて済むんだ。
次会ったら昔の事やフサ君の存在についてちゃんと話をしようなんて、その気もないのに考えて自分を納得させるんだ。
(*ノωノ)「フサ君、分かるよ、まだ存在してくれていることくらい分かるよ。
なのにどうしてこうも渋っているんだろうね」
- 228: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:54:31.92 ID:E+udxsG90
- ゴロンと横に転がると、自分の髪の毛を枕にして携帯の通話ボタンを押した。
ピッピッピッと電子音が鳴り響く。
嫌な間だった、寝る前の秒針音のように、ずっと私の耳に残り続けそうな音だった。
プルルルル プルルルル
(*ノωノ)「!!」
心臓が飛び跳ね、私自身も飛び上がりそうだった。
電話は私の心なんて考えてもくれず、あっさりと繋がる。
携帯を耳に当てることすら怖かった。
ミ,,゚Д゚彡「もしもし?」
(*ノωノ)「……なんで?」
なんで出るの、なんでいるの?
- 230: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:56:14.28 ID:E+udxsG90
- やっぱり私は弱くて卑怯なままだ。
フサ君に出て欲しくなかったんだ、話をしなくちゃいけないけれど、怖くて止めたかったんだ。
自分の夢だったら……望めばその通りになるなどと勘違いして、傲慢にフサ君を消そうとしていたんだ。
フサ君のことを心配している振りをし、何よりも一番に自分を擁護していたのだ。
ミ,,゚Д゚彡「ん、どうかしたのか、風羽」
(*ノωノ)「フサ君……、うん、ゴメンねいきなり電話して」
深呼吸をし、覚悟を決めて電話へ話す。
(*ノωノ)「昔、私と何して遊んだか覚えてるかな?」
ミ,,゚Д゚彡「……人形遊びだろ?
人形を使ってのおままごとに付き合わされたな、今となっちゃいい思い出――」
その記憶は私にもある、嫌がるフサ君を無理やり私が付き合わせた記憶。
偽りの記憶。
(*ノωノ)「私が聞きたいのはそんな答えじゃない。
私の、本当の、記憶の方」
一気に緩みかけた涙腺を引き締め直す。
電話越しに強い決心を伝えた私に、フサ君はずっと黙っていた。
- 235: ◆7at37OTfY6 :2007/10/12(金) 23:58:26.50 ID:E+udxsG90
- (*ノωノ)「明日、会えるかな?」
ミ,,゚Д゚彡「ああ、俺はいつでも会える」
(*ノωノ)「じゃあ明日、正午におもちゃ屋さんで」
ミ,,゚Д゚彡「ああ」
約束も早々に、強い決心を見せたまま電話を切ろうとする私をフサ君は止めた。
ミ,,゚Д゚彡「おやすみ、健康に気をつけろよ」
私は何も言い返せなかった。
勃興する感情に涙腺が緩み、虚勢が一気に剥がれ去って弱い自分が露呈する寸前だったから。
電話は、フサ君の方から切られた。
明日、私は平気でいられるのかが心配で堪らなかった。
いられないことが、手にとるように分かったから、こそ。
- 241: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:00:58.77 ID:HiuDdhYs0
次の日、昼からはフサ君と、夕方からは内藤先輩との対面が私の気分をひたすらに重くさせた。
気乗りしない怠惰な体に鞭を打ち、約束のおもちゃ屋さんへ移動する。
到着したのは1時間以上前だ、当然フサ君はまだいなかったけれど、もしかして……と少し怖かった。
どれだけ臆病なんだろう、バカみたい。
迷わず人形の並ぶコーナーへ行くと、フサ君とそっくりな人形を見て、また昔を懐古した。
(*ノωノ)「……だから、か」
当時の人形セットはすべて海外のログハウスなんかが主流で、和らしいものなどまったくなかった。
おままごとに使っていたセットも同様だ。
だから登場人物の好きな食べ物はすべて、私の持っていたグラタンやスパゲッティだった。
王子様の好きな食べ物は、スパゲッティにしたっけ。
(*ノωノ)「忠実すぎるよね、本当」
男の人用の腕時計を見ると、集合時間まではまだ40分以上あった。
(*ノωノ)「早いね、フサ君」
ミ,,゚Д゚彡「風羽の方がな、どもこんちは」
(*ノωノ)「こんにちは」
皮肉なほど自然な笑いができる自分がいた。
こんなに辛いというのに、自分で自分が分からなくなるほど気分も上向いた。
- 245: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:02:33.54 ID:HiuDdhYs0
- 挨拶ついでに、手に持ったフサ君似の人形も一緒にお辞儀をさせる。
フサ君は恥ずかしそうに頭をかいた。
可愛いって言ったら怒られそうだな。
ミ;゚Д゚彡「もうその人形は勘弁してくれ」
(*ノωノ)「だーめ」
その場で少し話をして、食事に移ろうとおもちゃ屋さんを出た。
そして洋食屋さんを探し、特に選別もせずに入る。
(*ノωノ)「カルボナーラ二つ」
ミ,,゚Д゚彡「え?」
(*ノωノ)「今日は、一緒にカルボナーラ食べたい気分」
無理やり注文を決めると、そのまま仕事の話で盛り上がる。
頼んだものはすぐにも来た。
(*ノωノ)「美味しいね」
ミ,,゚Д゚彡「うん、うまいな」
この楽しいひと時は、すぐに過ぎていこうとする。
本題を恐れながら、私は相当せわしく口を動かしていたことだろう。
逃げているといわれるかもしれない、それでも本当に……楽しかった。
- 246: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:04:04.31 ID:HiuDdhYs0
食事を済ますといよいよだろうか、フサ君が真面目な面持ちを見せ始めた。
次第に私の口数も減っていき、缶ジュース片手に最寄の公園へ行き着くと、ベンチに腰かけた。
フサ君が、いつもにも増してのんびりな口調で話し始める。
ミ,,゚Д゚彡「風羽、どこまで聞いたんだ?」
いきなり本題だ、前ふりもないのは不器用なフサ君らしかった。
(*ノωノ)「ほとんど全部だと思う」
私もゆっくりと答えて、ここでいったん話が止まる。
色々と思うところがあるのだろう、フサ君も、私自身も。
ミ,,゚Д゚彡「俺、正直今日もこの前もすっごく楽しかった。
おもちゃ屋さんに行っただけかもしれないけどさ、それだけでその一時をとても満足満喫していた」
私も頷いた。
それは一緒だ、塞ぎこんでいた自分なんてさっぱり忘れてしまうほど、強烈で最高の楽しさ一色だった。
ミ,,゚Д゚彡「多分、俺はおまえが好きなんだろう。
だからなんてことなくたって、あれだけ楽しくいられたんだと思う」
私も頷いた。
それも一緒だ、私だってフサ君が好きだ。
懐かしくて優しい感じ、一緒にいるとすごく安心できるその包容力。
- 248: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:05:52.24 ID:HiuDdhYs0
- ミ,,゚Д゚彡「俺さ、思うんだ。
本当に風羽のことが好きなのなら、きっと俺について来るなって言うべきなんだって。
俺は空想物であり、死の象徴だから」
頷けなかった。
フサ君は死の象徴じゃないと否定したかったけれど、それもできなかった。
ただ黙って、言葉の続きを待つことしかできなかった。
ミ,,゚Д゚彡「『俺のことを忘れないで』なんて約束しながら、『好きな人が幸せに生きるのが一番だ』なんて言うべきなんだろう。
だからこれは間違いなく自分本位なんだ、分かってる」
フサ君は何度も頷きながら、自分に確認をとっていた。
そして大きく一度、最後の決心の確認として、頷いた。
ミ,,゚Д゚彡「でも、やっぱり俺は風羽が好きなんだ、一緒にいたいんだ。
だって、俺の存在理由は、存在価値はそれだけなんだから」
私だって一緒にいたい、ずっと、ずっと。
相思相愛なのに、なんで……どうしてこんなに辛く悲しいのだろうか。
- 252: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:07:37.04 ID:HiuDdhYs0
- 『フサ君の存在価値』。
これは私が幼い頃に作った物語の登場人物なんだ、知っている、覚えている。
夢見がちにも私は飽きもせず、いっつも同じ設定で物語を作り上げていたんだから。
だからフサ君がこうして私を迎えに来てくれるのだって、私自身による設定なんだ。
そして彼は私にこうやって告白してくれるんだ。
ミ,,゚Д゚彡「お姫さま、あなたに自由を……俺は与えます。
だから、ついてきてくれ」
って。
臭いセリフを堂々と、恥ずかしげもなく、真剣に。
私の答えもいつも決まっていた、「私を自由にして下さい」って返答するんだ。
独りぼっちで寂しかった私を、彼は自由の世界へと手を取り連れ出してくれるんだ。
でも、答えられないよ。
(*ノωノ)「私は、先輩が、好きだから……。
無理でも、無謀でも、そして二度と話し掛けてくれることがなくても……好きだから。
私が守らなくちゃいけないから」
ごめんなさい、私が勝手に設定を作って、勝手に私の事を思わせて、勝手に具現化させて……。
本当に自分勝手なのは私だよ、でも、やっぱりダメだよ。
- 255: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:09:47.28 ID:HiuDdhYs0
- ミ,,;Д;彡「ははは……そんなの無理に決まってるだろ。
なんだよ死の世界ってよ……そんなの不利に決まってるだろ、無茶言うなよ……」
(*ノωノ)「ごめんなさい……本当に、ごめん……なさい」
そう言いながら、私はプレゼントに貰ったハンカチを差し出した。
信じたくない想いがフサ君の表情からひしびしと感じられたが、私は決して引かなかった。
観念しておもむろにハンカチを奪うと、足元に投げつけた。
ミ,,;Д;彡「俺は今あんたが憎いよ!
どうして俺を死の象徴なんかにしたんだ、どうして俺に心なんて与えたんだ!
どうしてその気もないのに……俺にあんたをこうも好きにさせたんだよ……」
私は一気に出てきた涙も拭かずに、ただただ自分の身勝手さが憎く、厳烈に胸を焦がしていた。
勝手に設定を作って、私に惚れさせておいて……なんて自分勝手なんだ。
なんて自己満足の、一人っきりのおままごとなんだ、くだらない。
ミ,,;Д;彡「俺はもう辛いよ、分かってたよ、俺じゃぁ無理なんてことは始めっから。
それでも俺は……風羽が好きなんだ、風羽と同じなんだよ。
かなわぬ恋だって知っていて追いかけて、ここまで来たんだよ、俺の辛さ分かるだろ?」
顔に両手をあて、さらに出てくる涙を押さえつけながら何度も頷いた。
私も内藤先輩を愛している、でも完全な一方通行で、奪いたいなんて考えないんだ。
私はあなたが好き、ただそれだけで良い、この上ない自己満足なんだ。
- 257: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:12:09.27 ID:HiuDdhYs0
- フサ君の体は、少しずつ消えていた。
透明になっていくわけでもない、ただぼやけて、不思議と視界に映らなくなっているのだ。
ミ,,;Д;彡「絶対に化けて出てやる、何度でも夢で風羽に会いに行って、何度でも告白してやるよ!
ちゃんと覚えておけよ、もう俺に惚れても手遅れだからな、二度と手の届かない場所に行くんだからな!」
(*ノωノ)「うん、分かった。
だから、絶対にまた、会いに来てね。
私待ってるから、ずっと、ずっと……!」
ミ,,;ー;彡「ああ、絶対ったら絶対だ、約束する!」
(*ノωノ)「うん、約束破ったら、針千本だからね?」
ミ,,;ー;彡「じゃあ、またな」
(*ノωノ)「うん、……また」
さようならは言わなかった、次が無いみたいだから。
消えたフサ君のいた場所に、紫地のハンカチが悲しそうに落ちていた。
私には不似合いなそれを手にすると、溢れる涙を我慢し切れなかった。
- 260: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:13:56.84 ID:HiuDdhYs0
一体どれだけ長い間咽び泣いていただろうか、とうとう目元は枯渇した。
きっと飲んだジュース以上の涙を流したことだろう。
照りつける太陽が大きく斜めに傾く頃に、ようやく私はベンチから重い腰を上げた。
公園のくずかごに空き缶を入れると、モララーさんから受け取った時計へと目をやる。
その秒針の動きは弱々しかった。
時刻は正午を示しているが、そんなわけは無い、昼食をフサ君と一緒にとってからしばらく経ったというのに。
携帯電話で確認すると今の時間は15時、3時間ほど遅れているのはゼンマイ式時計だからか?
違うのだろう。
心臓の音が次第に早くなった。
無意識にも感じ取っていた、この時計が残り時間を記していることが分かったから。
この時計が止まったとき、それが私の制限時間なのだろう。
- 264: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:16:30.49 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「なんで、時計なんだろう……」
時計とは常に動き続ける、そのくせいつ止まるのか分からない。
カウントダウンはできないのだ、一体私がどれだけここに存在でているかを、卑しくカウントアップしているのだ。
もっとも秒針がこの調子では、本日中存在しきれるかどうかすら危ういのだけれど。
(*ノωノ)「急がないと……」
内藤先輩とはいつもと同じ駅で18時に待ち合わせだ。
時間はまだまだあるが、私のリミットがどれだけ残っているのかわからない。
できる限り早くに待ち合わせ場所に着いておきたかった。
頭はモヤモヤとし、先輩とあっても正常に話が出来る自信などとてもない。
そこでいくらでも考えることなど出来る、善は急げと街中を駆け出した。
駅までそこそこ距離はあるが、30分もあれば余裕で到着できるだろう。
そう、何事もなければ。
- 267: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:17:48.61 ID:HiuDdhYs0
駅へ向いて走っているというのにどうしてだろうか。
行き着いた先は間逆のデパートだった。
(*ノωノ)「……はぁ、はぁ」
そんなに焦っているのか、そんなわけはない、ちゃんと分かっている、この町の構造は頭に入っている。
夢で道が違っていても違和感を覚えないと言われたが、これが気のせいなわけが無い。
違和感は確固としてあるのだから。
(*ノωノ)「急がなきゃ、……!」
自分を鼓舞するも、今にも泣き出してしまいそうだった。
駅へ向かって走り出したが、気付くと駅とは別方向の商店街に足を踏み入れている。
肩で息する私へ向かって、両脇の商店街からはひんやりと冷房が流れ込んできた。
先のデパートに比べればいくらか駅へは近付いただろうか、だからどうだと言うのだ。
既にそういう問題ではない。
まるで私の知っている道や建物がパズルのように入り混じり組まれていた。
街そのものが姿を変えた。
- 269: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:19:19.61 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「なんで……」
時計へ目をやると、相変わらず力無くゆっくりと秒針を刻んでいた。
もう時間が無いと言うのに、どうして邪魔をするのだろう、何が私の行く手を阻むのだろう。
内藤先輩に会わなくてはいけないのに。
会って、私が結論を出さないといけないのに。
(*ノωノ)「なのになんで……」
目淵に溜まる涙を頬にまで流して泣き崩れそうになったが、すんでの所で感情の波を食い止めると気丈に構えた。
夢だから、私自身の記憶が捏造されているのだ。
だからこうも目的地に着かないのだ。
何が邪魔をするわけでもない、フサ君のときと同じで、内藤先輩に出会うことを渋る私の深層心理が都合よく想いを操っているのだ。
結論の出ていない私自身が、自らを束縛しているのだ。
街が姿を変えるはずなどない。
もっとも、その想いも来た道を折り返した事で脆くも崩れ去ったが。
- 272: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:21:00.67 ID:HiuDdhYs0
- 折り返した先には先刻のデパートではなく、小さな河原が広がっていた。
デパートは遠目に望めた。
(*ノωノ)「どうして、……こんなに、滅茶苦茶なの?」
息も絶え絶えに、とうとう私はその事実を認めた。
内藤先輩へ会おうとする私を、街が全力で阻止している。
目の前の大きな川が、三途のそれにすら見えた。
街行く人々や建物がハリボテにしか見えない、界隈の景色がすべて蜃気楼のように写って。
五里夢中な中で、存在しない物を追いかける徒労感だけが現実味を帯びるばかりだった。
待ち合わせの駅は予てより、すでに先ほどのデパートさえ本当に存在したのかと疑問に思えるほどだ。
走ったこと以上に恐怖で体は震え、息切れを起こし、目の前が黒一色に染まろうとする。
果てしなく広く深い虚無空間へひたすら突き進んでいる錯覚すら覚えた。
(*ノωノ)「……ッ!」
刹那に突き刺すような視線を感じ、臀部から後頭部にかけての背筋を恐怖が這い上がった。
体が一瞬で空っぽになったような冷たさを感じる。
怖くて後ろを振り返ることすら出来ない。
目視せずとも分かる、誰かが獣のような目線で私を凝視している。
目を合わせたなら魂ごと引き抜かれてしまうことだろう、その気配。
霊感などからっきしの私が感じられる、この世のものではないと思われる不気味な気配。
- 273: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:22:36.00 ID:HiuDdhYs0
すぐにも足を動かし、私は駆け出していた。
徒労や喉の痛みより何より、その異形の者から逃げたい一心だった。
向かう先など考えなかった、考えられる余裕などなかった。
元よりどれだけ考えようと、そこには辿り着けやしないのだどうせ、無駄なことだ。
ふと意識を戻すと、その獲物を見定めるような鋭い視線は増えていた。
2つ、3つ……もしくはそれ以上か。
地獄から這い上がってきたような、生々しく鋭い、そのくせ意思の感じられない視線。
(*ノωノ)(私が……何をしたの!?)
涙がとうとう目の縁からこぼれた。
フサ君を断り、内藤先輩へと辿り着く事無く、こうしてどことも着かぬ場所から死の国へと運ばれてしまうのだろう、きっと。
どうせ死ぬのならばフサ君と行きたかった、そんな考えだけが心を占めた。
フサ君、助けて、と。
都合のいい、我が侭な女だ。
子供のような可愛げも無い、自分本位の、情けない大人の我が侭だ。
- 276: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:24:11.10 ID:HiuDdhYs0
感じられる視線の数は増える一方で、気付けば数えることすら億劫なほどまで膨れ上がっていた。
10や20でもまだ少ない、幻聴だろう幾つもの規則正しい足音が耳に纏わりついた。
目先の電柱の後ろ、看板の物陰、通行人の一人一人……いずれかがこの足音の主であれば、私はもうとっくに諦めていただろう。
人数を倍増させながら少しずつ距離を詰めてくる、次第に大きくなる足音に怯えながら必死に逃げるばかりだった。
心のどこかで無駄だと悟りながら。
呼吸音はとっくにおかしくなっている。
スピードも全然落ちきっていて、早足と変わらないくらいだ。
それでも卑しく無様に、必死に逃げ続けた。
(*ノωノ)「あっ……!」
つまづいた瞬間世界はスローになり、死んだことを確信した。
ヨロヨロの私はスピードの無いまま、少し足を詰まらせただけでヘタリとその場に座り込んでしまった。
車に引かれた時のように、天を仰いだ。
- 279: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:25:47.12 ID:HiuDdhYs0
自分勝手で自分本位な人間相応の最期だなんて思いながら、その目へ抗う気力すら失っていた。
これがこの世界においての私自身の設定だったのだろう。
フサ君へ付いて行く事無く、そして内藤先輩に会えずに終わるのだ。
そんな終幕を認めてしまった。
皮肉に笑おうとしたが、顔は笑顔を作ることが出来なかった。
当然だ。
笑顔を作れないのも当然だが、こんな最期を迎えるのも私にとっては当然なのだろう。
笑いたかった、こんな惨めな自分なんて笑い飛ばしてやりたかった。
そして、茫と座りつくす私は、肩を叩かれた。
「どうしたんだ?」
- 281: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:27:52.46 ID:HiuDdhYs0
- どうしただなんて馴れ馴れしい、私を死の国へと迎えに来ておきながらどの口がそんな事を言えるのか。
悔しかった、こんな己の最期を認めていても、納得なんて出来なかったから。
優しそうな言葉が、恐怖に打ちひしがれているばかりだった私を鼓舞し、一層の悔しさを募らせた。
そんなに私は惨めで、情けない存在なのかと。
いっそ一思いに有無を言わさず連れ去って欲しかった、こんな哀れみや同情なんていらなかった。
そうすれば私だって潔く連れ去られただろうのに。
窮鼠猫を噛むとはよく言ったものだ、私は今までの気弱さを隠しながら、振り返るとその声の主を睨み返した。
(*ノωノ)「……、あ……」
どんな未知の人物が立っているだろうと覚悟していた私は早々に出鼻を挫かれることとなった。
(,,゚Д゚)「風羽って名で良かったよな、もう体は大丈夫か?」
(*ノωノ)「……」
言葉が口から出てこなかった。
視線の犯人は、私がここへ来る発端となった事故のドライバーさんだった。
いや、すでにそんな鋭い視線などどこにも無い、困惑した瞳だけが私を捉えていた。
- 287: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:32:34.91 ID:HiuDdhYs0
- (,,゚Д゚)「なぁ、気分悪いのか? 病院まで送っていこうか?」
(*ノωノ)「……なんで、邪魔……するの?」
(,,゚Д゚)「……ん、チャネリングとかそんな感じの事でもやっていたのか?
なんていうかそういった非現実的なものはもっと人目を忍んだほうが」
(*ノωノ)「どうして私の邪魔をするの!?
お願い、私は行かなきゃいけないの!
駅に行かなきゃいけないのに……見えているのに、どうして……」
(;゚Д゚)「……」
この人を怒鳴りつけても無駄なことくらい私でも分かる、それでも我慢できなかった。
誰かに話を聞いて欲しい、その欲求と同じなのだろう、ずいぶん傍迷惑だが。
(,,゚Д゚)「! そうか、もしかして」
突然何を思い立ったのか、その人は私の手を引っ張って足を進める。
その先には見覚えのある車が止まっていた。
以前私が死の間際に目視し、その後病院まで送ってもらった車だ。
(,,゚Д゚)「タバコ買いに来ただけだったが、まったくどんな偶然だよ。
ほら、助手席でいいだろ、乗れ」
- 289: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:33:48.82 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「あの、え……」
(,,゚Д゚)「ああ、この前は駆け足だったから自己紹介はまだだったか?
俺はギコだ、改めてよろしくな。
アンタは風羽で良かったよな?」
(*ノωノ)「はい……」
ギコさんは話をしながら車のキーを回す。
エンジン音と同時、私も慌ててシートベルトを締めた。
(*ノωノ)「それで、あの、どちらへ?」
(,,゚Д゚)「アンタを送ってやるんだよ、駅ってVIP駅でいいんだろ?」
(*ノωノ)「そうですが、でも、行けない……」
(,,゚Д゚)「街が入り乱れている、違うか?
気付くとまったく別の場所にいたり、来た道なのに戻れなかったり」
(*ノωノ)「え、そうです、はい!」
(,,゚Д゚)「あるある、気にすんなってのも無理だろうけれど許してやってくれ。
猫ってのは気紛れなんだ。
とりあえず軽く車走らせるぜ?」
そんなことを言いながら笑い飛ばすギコさん、とても心強く感じ、心境は幾分和らいだ。
先までたった独りでワケも分からない状況下に置かれていたのだ、今の状況がどれだけ安心か。
- 291: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:35:21.91 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「あの、この現象は一体何なんですか?
頻繁にあることなんですか?」
(,,゚Д゚)「頻繁にか……分からないな、統計とっているわけでもなし。
ただ俺も昔経験していてな、その時は二日間も迷い続けた」
(*ノωノ)「二日もですか!?」
ここでギコさんに出会ったことはこの上ない幸運だった。
時計に目をやるとやはり秒針の動きは頼りなく、とてもではないが後二日も動いている気配はなかった。
(*ノωノ)「本当に、ありがとうございます」
(,,゚Д゚)「いいっていいって、これもなんかの縁だ気にすんなよ。
この前の侘びが出来て俺も嬉しいわ」
(*ノωノ)「私、ギコさんに話し掛けられた時はすごく怖かったんです。
無数の目線が私を凝視してきて……その主だと思ったから」
(;゚Д゚)「……無数の目?」
(*ノωノ)「はい、だから私ギコさんを見たときすごく嬉しくて。
死んだって本当に思っていたきゃッ!」
突然車はブレーキし、体がガクッとつんのめった。
エンストか何かかと思ったけれど、ギコさんを見るとそうでもなさそうだ。
- 293: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:37:10.94 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「どうか……されましたか?」
(;゚Д゚)「今、目がなんとかって言ったな」
(*ノωノ)「はい、幾つもの目が私の跡をつけてきて……あ、でも確認したわけじゃないので気のせいかも……ギコさん?」
ハンドルに頭を押さえつけるギコさんへ声をかけると、「参ったな」といいながら顔を向けられた。
(;゚Д゚)「見誤った、そりゃ悪戯好きなシャム猫の仕業じゃないな、帽子屋の仕業だ」
(*ノωノ)「帽子屋……ですか?」
(,,゚Д゚)「そうだ、こりゃ俺が闇雲に行動起こさないほうがいいかもな。
風羽だったか、アンタ……何に悩んでんだ?」
厄介そうにそんな事を聞いてくる。
『何に悩んでいるのか』、その質問はあまりに数多の要点を突き過ぎていた。
心当たりが無数に思い浮かび、眉間に皺が寄ったのが自分でも分かった。
フサ君、内藤先輩、この世界、現実世界……そして一番は、『これから』。
これから内藤先輩と会うことで、一体私はどうしたいのか。
結論を後へ後へと回しながら、こうやって足掻いているのが現状だ。
きっと内藤先輩は私に現実へ帰るように勧めるだろう、それなのに本当に会いたいのか?
目的地を求めながらも、一番そこへ到着して欲しくないと望んでいるのは私自身なのでは?
- 294: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:38:49.74 ID:HiuDdhYs0
私の望みは何なのだろうか。
この世界に、この世界で内藤先輩と一緒に居続ける事じゃないのか?
だから私はモララーさんと出会った時に後悔したのじゃないのか?
ギコさんは運転席側の窓を開けると、タバコに火をつけた。
(,,゚Д゚)「待っててやるよ、だから考えろ。
この街はお前の味方なんだから、焦る必要なんてどこにもないぞ」
そんなことをモララーさんも言っていた。
この『街』は、私の暮らすこの『街』は味方なんだって。
この街に住む人々は……という意味の比喩かと思ったが、今その意味が分かった。
この街そのものが味方と言いたいのだろう、真実か否かは別として。
(*ノωノ)「でも、時間が……」
(,,゚Д゚)「落ち着けよ、そんなに焦ることじゃないさ。
この世の中で、本当に一分一秒の早さが大切な時なんて考える以上に少ないものさ。
ただ、一分一秒考えることが大切な時は意外に多くあるもんだぜ?」
(*ノωノ)「……でも」
- 299: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:40:12.88 ID:HiuDdhYs0
- (,,゚Д゚)「もし俺がこの街だったら、アンタを止めると同時にアンタの待ち人も止めてるよ。
何に追われているのか知る由も無いが、もうちょっと落ち着いてみろって」
のんびりとタバコをふかすギコさんを見て、心を落ち着けようとする。
時計は焦りを生むかと思って見なかった。
私はどうしたいのだろう?
内藤先輩のいない現実、いる夢。
私は、内藤先輩にいて欲しい。
一緒に居たい、ただそれだけでいい。
内藤先輩が好きだから。
それが例え一夜の夢だとしても構わない。
私は、内藤先輩に、居て欲しい。
- 302: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:41:38.49 ID:HiuDdhYs0
だから、内藤先輩に会うのだ。
だから、内藤先輩に会いたいのだ。
このまま夢の世界に居座るか、現実へ帰るか。
私の望みがどちらに帰結するかは、ほんの少し立ち止まって考えれば明白だった。
それぞれがどういった結末を迎えるのか、どういった未来を描くのか。
内藤先輩と一緒にいたい、私のこの想いがどちらに該当するのか。
どういった結果を出せば、その想いを行動として表せられるのか。
それは火を見るより明らに、私の頭に浮かび上がった。
(,,゚Д゚)「……どうだ、さっぱりしたか?」
(*ノωノ)「はい、本当少し考えただけですが、しっかりと自分の考えが分かりました。
一分一秒考えることが大切な時、ですね」
(,,゚Д゚)「繰り返すな恥ずかしいだろww
それじゃ、改めて発進するぜ?」
- 305: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:48:04.58 ID:HiuDdhYs0
- ハンドブレーキをおろすと、車は一気に加速した。
慌ててシートベルトをする私を見て、ギコさんは笑った。
窓を流れる街の景色は一定で、特に構造が変わる様子も無い。
私の心が固まったからだろうか?
心が固まった今の私には、内藤先輩の待つ駅へ行く資格がある、そういう意味だろうか?
いくら邪推をしたって結局は結論なんて出ない、『神のみぞ知る』だ。
(,,゚Д゚)「街、変化無いな」
(*ノωノ)「そうですね、ギコさんが私に時間を与えてくれたお陰です」
(,,゚Д゚)「経験者は語るってなwwおう、もう駅についたな」
(*ノωノ)「あ、もうここで大丈夫です、本当にありがとうございます」
駅に隣接するホテル前で降ろしてもらうと、ギコさんが呼び止める。
(,,゚Д゚)「きっと俺とお前がこうして再会できたのも、この街の筋書きだったのかもしれないな。
まぁなんだ、いい結論を出せたみたいで良かったよ。
せっかくここまで送ってやったんだ、頑張れよ」
(*ノωノ)「そうですね、始めの事故からすべてがこの街に翻弄されていたのかもしれませんね。
でも今では感謝しています、こうやってギコさんを含む皆と私とを出会わせてくれたことに。
また会いましょう、お礼をしたいです」
(,,゚Д゚)「また会えるもんならぜひ、な」
- 307: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:49:37.89 ID:HiuDdhYs0
ギコさんと別れてからすぐに時計を確認すると、時間は待ち合わせを10分程度過ぎていた。
急いでいつものロータリーへ向かうと、窓から手を振ってくれるパールホワイトの車が目に入った。
遠目にこちらからも手を振ると、カチカチッとライトの光信号で合図してくれる。
(*ノωノ)「内藤先輩!」
( ^ω^)「おっおっ、ちょうど電話しようか悩んでいたところだお」
(*ノωノ)「あ、遅れてすみません……」
( ^ω^)「これぐらいなんてことないお。
助手席どうぞだお」
(*ノωノ)「はい、それとこんにちは」
( ^ω^)「こんにちはですお」
車内へ入ると、内藤先輩はすぐにも車を発進させた。
ロータリーで車を旋回させると、本道へ出て沢山の車の中へと入り込む。
休日はやはり車が多い、夕方だから余計だろうか。
- 309: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:51:09.98 ID:HiuDdhYs0
- ( ^ω^)「どこ行くお?」
(*ノωノ)「内藤先輩こそ、話したいことがあるんじゃありませんでしたっけ?」
( ^ω^)「それは後でいいお、まずどこかでゆっくりとしたいお」
(*ノωノ)「そうですか、それじゃぁ……」
深呼吸をした。
ここで一秒の間を置くことは何の不自然もありはしない。
ここで一秒考えることが重要なんだ。
本当にいいのかと自問する事こそが大切なんだ。
震える唇で、私は確かにこう口にした。
(*ノωノ)「おもちゃ屋さんへ、行きたいです」
運転席の内藤先輩のほうをしっかりと見向き、言い切った。
- 312: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:52:36.19 ID:HiuDdhYs0
- 内藤先輩はまったく表情を変えなかった。
私の声が震えていて上手く聞き取れなかったのか、間接的で通じなかったのかと考えたがそうではなかった。
信号で車を止めると同時、内藤先輩の目はようやく私へ向いた。
( ω )「いつから、知っていたんだお」
静かな声がすごく怖かった。
私の知っている内藤先輩には無い、黒く深い声。
いつもの笑顔などそこにはない、初めて見る先輩の無表情。
平謝りしそうな感情を抑えることに精一杯だった、目線を内藤先輩から離せなかった。
( ω )「ツンと喧嘩までしたのに……僕から言いたかったのに、残念だお」
そう言って内藤先輩は目線を前方へ戻す。
まだ信号は赤だ、それでももう私の方は向いてくれなかった。
( ^ω^)「……ゴメンだお、ちょっと昔思い出してしまったお。
僕一人だけ除け者にされたみたいで、正直ちょっと悔しかったお」
正面を見ながらそう言って笑う内藤先輩は、もう私の知っている先輩だった。
一瞬見せた、陰湿で禍々しい先輩は、もう霧散していた。
信号が青になると、車は焦る事無くゆっくりと発進した。
- 313: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:54:09.95 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「……ごめ……さぃ」
なんと酷い事をしてしまったのだろうか、嫌いにならないで欲しい、悲しみ。
先ほどの陰険な先輩を、私には永遠に知ることは出来ないのだろうという、悲しみ。
私はずっと、内藤先輩を勘違いしていたのかもしれない。
先輩は温厚で、思い遣りがあって、自分よりも周りを常に優先して考えていて。
違う。
優しい周りに囲まれて、他人を疑うことを知らないような暖かい環境で育ってきて。
違った。
内藤先輩を見る度、嫉妬や邪心を抱いている自分に嫌気がさしていた。
こんな私じゃ内藤先輩なんかと釣り合わないなんて思いながら、ずっと美化してきたのかもしれない。
違うんだ、私がツンさんの代わりになれないのは、何も知らなかったからだ。
私は自分のことだけで、結局は内藤先輩の何を汲み取ることも出来ていなかったんだ。
私は内藤先輩から安心を貰うばかりで、何一つとして与えず、そのくせ与えているつもりになっていたんだ。
- 315: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:55:43.80 ID:HiuDdhYs0
- 「内藤先輩は優しいからこれくらいは大丈夫だろう」とか、「本当に嫌ならちゃんと断ってくれるだろう」とか。
なんだ。
先輩にとって私は、感情を出すことも出来ない程度の仲だったのだ。
普段も、仕事も、全てにおいて気を遣う存在でしかなかったのだ。
そんなこと考えるまでも無い、私たちの関係から誰でも気付くだろう事なのに。
……本当、私はどれだけ自惚れていたんだろう。
(*ノωノ)「でも、それでも……先輩にとってはただのお荷物かもしれません、それでも……
やっぱり私は内藤先輩が好きです」
車を発進させてから一向に先輩は私のほうを振り向いてなんてくれない。
力強く口を閉じ、頷くように僅かに首が上下するだけだ。
(*ノωノ)「フサ君の事をすぐに知らせるべきだったのに、黙っていてごめんなさい。
そして今まで迷惑しかかけなくて、与えてもらうだけで……ごめんなさい。
今更そんな事に気付くなんて鈍感で……ごめんなさぃ」
反応をしてくれない、どうして否定すらしてくれないのだろう。
話しかけて欲しい、内藤先輩から、安らぎを与えれたい、ただそれだけ。
- 317: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:57:51.89 ID:HiuDdhYs0
(*ノωノ)「こんな馬鹿な私ですけれど、まだ安心を与えてくれますか?
迷惑ばかりかけますけど、笑って許してくれますか?
今まで以上に私のことを、好きになってくれますか? 何でも言い合えるまでに」
再び信号で止まると、内藤先輩はようやく顔を動かしてくれたけれど、何も言ってくれなかった。
悲しそうな目を向けるだけで、酷く哀れな私をただ見ているだけで。
(*ノωノ)「それが……答えですか?」
( ^ω^)「……」
(*ノωノ)「内藤先輩の……バカ。
大バカ、イジワルで、ケチで、ズルくて……バカ。
気遣いがあって、優しくて、いつも笑ってくれて……まだ私好きですから!」
( ^ω^)「風羽さん」
(*ノωノ)「何しんみりとしているんですか先輩、笑ってくださいよ!
私の知っている、私の好きな先輩はいっつも笑顔ですよ?」
こっちを向く先輩の顔に両手を当て、口の端を無理やり引っ張る。
辛そうな顔とその口のギャップが面白かった。
つい笑ってしまった私を見て、先輩も笑ってくれた。
頬を涙が伝ったが、そんなに簡単に出てくるものを今更拭うことはしなかった。
- 318: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 00:59:53.19 ID:HiuDdhYs0
- (;^ω^)「運転中危ないお! 信号青、青!」
(*ノωノ)「うん、それでこそいつもの先輩ですよッ」
照れて「参ったお」なんて言いながら、先輩は頭を掻いた。
既に私は何が言いたいのか、何を言っているのかが分からなかった。
きっと内藤先輩も理解できていなかっただろう。
でも、『今』は仕方ないのだろうな。
普通に会話しろというほうが無茶にさえ感じる。
(*ノωノ)「……こうして先輩とまた話できるなんて、思ってもいませんでした。
私、幸せ者なのかもしれません」
( ^ω^)「風羽さん、僕も嬉しいお」
そう言って、運転しながら優しい横顔を見せてくれる。
先輩はやっぱり笑顔が素敵だ。
( ^ω^)「それじゃあ、そろそろちゃんと話するお。
この前のバーでもいいかお?」
(*ノωノ)「はい」
車を転回させる内藤先輩。
ここからだと到着までは、おおよそ10分くらいだろうか。
- 320: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:01:45.65 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「それじゃあ先輩、話……始めましょうか」
( ^ω^)「? バーに着いてからでいいお」
(*ノωノ)「私、バーの主人と約束しちゃいましたので。
次出会う時は、結論を出した時だって」
(;^ω^)「こんなに攻撃的な風羽さんは初めてだお」
なんて言いながら先輩ははにかんだ。
( ^ω^)「風羽さんは、結果はもう出しているのかお?」
(*ノωノ)「はい」
( ^ω^)「……そうかお」
結論なら出した。
絶対に曲げたりしない、先輩に歯向かおうとも、私の結論は決まっている。
(*ノωノ)「先輩、やっぱり私は先輩が好きです。
フサ君よりも、誰よりも」
( ^ω^)「……」
(*ノωノ)「例え先輩が私のために自分の過去を隠し続けて嫌わせようとしても無駄です。
どれだけ疎外感を感じようと、ツンさんの代わりは私には無理だと何度挫折しようと……
先輩のいない世界なんて、ご勘弁こうむりたいです」
- 324: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:03:53.92 ID:HiuDdhYs0
- ( ^ω^)「……風羽さん、勘違いしているお。
僕は風羽さんが思うような善人でもないし、嫌わせようなんてしていないお」
(*ノωノ)「だったら聞かせてください、先輩は私にどうして欲しいですか?
これからどういった行動をして欲しいですか?」
( ^ω^)「僕は風羽さんには一緒にここにいて欲しいと思うお、これは本当に思うけど、でも――」
(*ノωノ)「言い訳はいりません!
私を馬鹿にするのもいい加減にしてくださいッ!」
( ^ω^)「……」
一喝すると、内藤先輩は黙り込んだ。
でも悔し過ぎた、上辺の言葉で取り繕うとする様が見て取れたからこそ。
だからいけないんだ、だから私はこんなにも好きになってしまったんだ。
逃げようとするからこそ、掴もうとする瞬間にするりと手の隙間から落ちていくからこそ。
優しくされるからこそ、私はこんなにも惹かれ続けたのだ。
(*ノωノ)「内藤先輩はどうして人に厳しく出来ないんですか!?
もっと私を割り切って欲しかった、無理だって分かっているけど優しくされたら期待しちゃうよ……
先輩の優しさは、私にとってはすごく辛かったんだから……」
(;^ω^)「……」
- 327: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:05:27.72 ID:HiuDdhYs0
- 先輩が顔を歪めた。
本当に辛そうで、でも絶対謝るもんか。
私の出した結論は絶対に曲げない。
(;^ω^)「……昔の、苛められた時を思い出すお。
それと、ツンにも似たことを言われたことを思い出したお。
優しさで人を傷つけている……僕には難しいお」
腸がキリキリと痛むのだろう、片手をお腹に当て、気持ち悪そうにしている。
(*ノωノ)「私は、譲りませんから」
( ^ω^)「分かってるお、ゴメンだお」
信号でまた止まると、内藤先輩はハンドルにもたれ掛かった。
いつも笑顔で強がって見せる先輩の、これまた初めて見せる姿だった。
( ^ω^)「質問の答え、僕は風羽さんに戻って欲しいお。
本当に、心から願うお、ここに残るなんて馬鹿なこと望まないで欲しいと。
風羽さんが、好きだから」
ミ,,゚Д゚彡『俺さ、思うんだ。
本当に風羽のことが好きなのなら、きっと俺についてくるなって言うべきなんだって』
ああ、やっぱりそうなんだ。
やっぱり優しいんだ、私の好きな内藤先輩こそが本当の内藤先輩なんだ。
他の人のことしか考えられない、本当に自分勝手で自己満足ばかりの。
- 328: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:07:00.79 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「私の気持ちなんて考えてくれないんですね」
自分勝手って……自己満足って何なのだろう?
私の自己満足と先輩の自己満足、その違いは何なんだろう?
どうしてこんなにも、意味が違うのだろうか?
( ^ω^)「……ゴメンだお」
(*ノωノ)「ううん、良かったです、先輩と意見が同じで」
恐る恐る顔を向ける先輩へ、私は笑顔を返した。
今自分の出来る最高の笑顔を。
( ^ω^)「風羽さん、同じって……」
(*ノωノ)「私は帰ります、現実に。
最後に内藤先輩と面向かって話が出来て良かったです」
最後という言葉を放った途端、一気に表情が崩れた。
駄目だ、意識しないようにしていたけど言葉に出すと駄目だ。
『最後に』って……。
(*ノωノ)「私、駅に到着するまでに不思議な現象に遭遇したんですよ。
街が入り組んで、どれだけ頑張っても待ち合わせ場所に到着しないんです。
あ、待ち合わせ遅れた言い訳なんかじゃないですよ?」
笑って言うも、内藤先輩は少しの笑みのまま真面目な顔だった。
- 330: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:08:32.15 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「そこで私、ある人に出会って、よく考えろって言われたんです。
街が入り組まれていて、どうして焦ったのかって。
それはここに居留まるつもりがないから、帰ろうという思いがあったからじゃないかって」
私はひたすらに口を動かして、悲しみを胸の奥底へしまいこんだ。
そう、ここに私が居てしまっては、現実で内藤先輩とツンさんは安楽という道を歩むことになるのだろう。
現実で安楽に至れば、二人はこの世界にもいられないのだろう。
そうなっては……私は先輩もフサ君も居ないこの世界に何を見出そうというのか。
私はやはり帰らなくてはいけないのだ。
先輩たちを、守るために。
全ての想いを口にしてしまうと、また先輩が心配するだろうから、あえて詳細には口を噤んだ。
もしかすると薄々感ずいているかもしれない、私は先輩たちのために戻るんだって事を。
それでも、先輩だって私が戻る事を望んでいる、結果はなんら変わりはしない。
戻った先が現実であるか夢であるか、モララーさんと話したけれどその確証はどこにも無い。
それでも私は、内藤先輩がいるならそれだけでいい。
会話など無くとも、二度と会えないくらいなら、一抹の希望に照らされて暗闇を駆けてやる。
一緒に居れば、それだけで幸せだと胸を張って言い切ってやる。
きっと、内藤先輩のツンさんに対する想いも相似していたんだろうな、今の私と。
敵わない訳だ。
- 333: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:10:13.56 ID:HiuDdhYs0
- ( ^ω^)「そうかお……サヨナラ、だお……」
止めて、違う、サヨナラなんかじゃない。
だって、だって私は――
(*ノωノ)「止めて下さいよ先輩、私はサヨナラする気なんてありませんから」
先輩に会いに行くんだから。
先輩を守りに行くんだから。
私はそう言ってどれだけ最高の笑顔を浮かべただろうか。
どうして先輩は悲しそうに私を見るの。
どうして同情のような笑顔なの。
( ^ω^)「風羽さん、ありがとう、すごく嬉しいお。
でも、それで風羽さんは幸せなのかお?
もういいんだお、もう……」
(*ノωノ)「何がですか?」
( ^ω^)「もう、僕なんかに縛られなくてもいいお。
僕は植物なんだお、もうお世話しなくてもいいんだお」
(*ノωノ)「……。……何言っているんですか先輩?」
- 336: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:12:41.38 ID:HiuDdhYs0
- お世話って、そんなつもりは毛頭無い、一度たりともそんな風に考えたことなんてない。
私が好きでやっているだけだ、勝手にやっているだけなのに。
( ^ω^)「あの日、風羽さんはツンの事を花って比喩したお。
家で花を育てているのと似ているって」
あの夜、私は先輩へツンさんの事を聞いた。
そして確かに私はそう言った。
(*ノωノ)「……先輩? 何が言いたいのかはっきりしてください」
( ^ω^)「もう僕のことはいいお」
(*ノωノ)「勝手に私の考えを強制しないで下さい」
( ^ω^)「死人に口無しかお?」
(*ノωノ)「そうじゃありません、ただ私の考えを勝手に定める権利は先輩にだってありません。
先輩だってそうだったじゃないですか、ずっとツンさんのことを想って……
なのに今更調子良すぎますよ、私と先輩は一緒じゃないですか!?」
人の言葉に耳を貸さず、ずっと一途にツンさんを想い続けた先輩。
自分の結論を信じ、先輩を想い続けると決めた私。
何が違うものか、胸を張って言える、同じだけ強い思いが私にはあるんだって。
- 337: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:14:42.23 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「都合良過ぎじゃないですか?
同じ想いを経験したからこその一言だなんて言い切るつもりですか!?
同じ想いをしていた内藤先輩だからこそ、私は先輩から何か言われる筋合いはありません!」
(#^ω^)「一緒にするなお!」
(*ノωノ)「……ッ!」
(#^ω^)「僕とツンは互いに分かり合えて、そして本当に心を通じ合えたんだお。
僕と風羽さんとのように何も知らない者同士じゃないお!
こんな浅はかな関係だなんて揶揄されたくないお!」
どうしてそんな事を言うの?
何も話してくれないのは先輩の方なのに、何も聞いてくれないのは先輩の方なのに。
私の独りよがりなの?
違うよね、何で先輩怒るのか全然分からない。
(*ノωノ)「先輩……それって本心じゃないですよね?
私の決心のために、嫌われようと思って……ですよね?」
(#^ω^)「訂正して欲しいお」
(*ノωノ)「どうして、だってそうじゃないですか。
私すごく思いましたもん、絶対に先輩と同じ状況なんだろうって。
だから安心したのに、分かって欲しかったのに……どうしてですか?」
( ^ω^)「……」
- 340: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:16:42.07 ID:HiuDdhYs0
- (*ノωノ)「何か言ってください、私を……見捨てないで下さい」
( ^ω^)「……」
私は先輩と最後に出会う事が出来た。
そして最後に互いに理解し合えない事が分かった。
本当になんて馬鹿らしくくだらない顛末だろう、一体何のための一会だったのだ。
(*ノωノ)「……先輩、私は現実世界へ帰ります」
( ^ω^)「……それがいいお」
(*ノωノ)「最後となりますが……私、納得していませんから。
本当悔しいですから、それだけは覚えておいてください。
この悔しさ、そして先輩のことは絶対に忘れやしませんから」
( ^ω^)「光栄だお」
(*ノωノ)「はい、……あり、がとう……ございました」
胸苦しさのあまりお礼を言いたくないとも感じてしまったが、そんな子供みたいな事は止めた。
それでも悔しくて悔しくて、泣き出してしまいそうな感情に身を焦がしながらではあったが。
皮肉たっぷりのお礼しか口から出す事は出来なかった。
今のこの心情はどのように表現できるのだろうか。
悔しくて、好きで、もどかしくて、嫌いで。
矛盾に満ちて自分ですら制御しきれない数多の感情の混沌。
どうして、先輩はこんな酷い仕打ちをしてくるのか。
- 341: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:18:15.28 ID:HiuDdhYs0
車内が無言になってすぐ、車はバー最寄の駐車場に到着した。
私はドアを開けると、体を外へ出してくるりと振り向いた。
先輩は相変わらず心の読めない笑顔を顔に貼り付けていた。
私は結局最後まで、先輩を理解する事が出来なかった。
勇気も度胸も無い私には、相応の結末だ。
(*ノωノ)「先輩」
相手の笑顔は一瞬たりとも崩れなかった。
私と先輩の、決して埋まる事の無い距離だ。
(*ノωノ)「さようなら」
( ^ω^)「風羽さん」
先輩が一層笑顔を強めて私の事を呼んだが、かまわず車のドアを閉めようとした。
どうしてここで何か言葉をかけようとするのか。
このまま無言で見送ってくれれば私はどれだけ幸せだった事だろう。
決心が鈍るじゃないか。
( ^ω^)「お幸せに」
ドアが閉まるか閉まらないか、そんなギリギリだったが、先輩の声は鮮明に私の耳へと飛び込んできた。
- 342: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:19:45.71 ID:HiuDdhYs0
- 「お幸せに」。
先輩は意地悪だ、本当に意地が悪い、無闇矢鱈に意地が悪い。
どこまで私を好きにさせたら気が済むのだろう、どれだけ私を傷つければ気が済むのだろう。
先輩の車は直ぐにも転回すると、その場を後にしていった。
これが私と先輩の最後なのかと思うと、どれだけ可笑しくて馬鹿らしい最後なんだと悲観に暮れた。
私は意地を張ってばかりで、何一つと素直になんかなれずに結局は喧嘩別れだ。
本当はもっと感謝や嬉しさを伝えたかったのに。
先輩とこうして会えた事や、現実で言えなかったいくつものお詫び、そしてお礼を。
結局この世界に来て私は何が変わったのだろうか。
自分の事ばかりを考えて、周りの沢山の人に迷惑をかけて、フサ君や内藤先輩を裏切って。
その結末がこの有様だ。
惨めな事この上なかった。
- 345: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:21:17.74 ID:HiuDdhYs0
- 重い足取りで繁華街を歩き、ようやく目的の場所へ達した。
『バーボンハウス』
大きな看板の下を虚ろに跨ぐと、その先は今までと違い、照明が明るく照らしていた。
(`・ω・´)「ようこそ、バーボンハウスへ」
(*ノωノ)「……皆、どうして……」
まるで私を待っていたかのように皆が揃い踏みだった。
(*ノωノ)「マスター、ギコさん、モララーさん」
(,,゚Д゚)「よ、しっかりと決意固められたようで良かった」
( ・∀・ )「やぁ、もう二度と顔を出すまいと思っていたがね。
君に会いたいと言ってきかない人を連れてきてね」
モララーさんがそう言って指した先には、黄色いカールの素敵な女性がいた。
(*ノωノ)「……ツンさん」
ξ゚听)ξ「風羽ちゃん、ごめんね突然」
(*ノωノ)「いえ、私もぜひ最後にお話したく思っていました」
- 348: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:22:52.03 ID:HiuDdhYs0
- 内藤先輩と結局喧嘩別れしてしまった今、こうしてツンさんに会えた事はとても幸運だ。
もう私には何も出来ないのだから。
ツンさんに、すべてを任せる事しか出来ないのだから。
ξ゚听)ξ「この前せっかく会えたのに言えなかったから。
風羽ちゃん、私がいなくなってから、ブーンを支えてくれてありがとう」
(*ノωノ)「……」
ξ゚听)ξ「半分嫉妬交じりだけどね、でも貴女がブーンの毎日の楽しみになっていたんだろうなって思うの。
ただの仕事中の手伝いや、仕事帰りの送りだけかもしれないけれど」
(*ノωノ)「でも、やっぱり私なんかじゃ無理でした。
内藤先輩にはツンさんが必要でした」
ξ゚听)ξ「謙遜しないで。
私でも分かるわよ、ブーンは本当に貴女の事を好きだったんだって。
私たちの同情やすれ違いから始まったものとは違う、本当の男女の意味で貴女が好きだったのよ」
本当にそうなのかな、内藤先輩は私のことを好きだって言ってくれるのかな?
ああやって互いの意見を否定しあった挙句、食い違って喧嘩別れとなってしまったけれど。
私は、内藤先輩へ何か「意味」を残せたのかな……。
ξ゚ー゚)ξ「だからね、風羽ちゃん。ありがとう」
(*ノωノ)「違います、違うんです本当に。
私なんて何も出来なくて、先輩に迷惑をかけてばかりでここでも……」
- 351: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:24:24.75 ID:HiuDdhYs0
- ξ゚ー゚)ξ「違わない、絶対に。
そうじゃなきゃ以前会った時、あのブーンが私に怒鳴ったりなんてしないわよ。
まだ私のほうがブーンを知っているみたいで安心したわ」
そう言ってツンさんは笑った。
やっぱりこの人には勝てない。
内藤先輩の事を自信を持って分かっている、私みたいに上辺だけの言葉に一喜一憂する事も無くて。
最大の理解者だ、本音も語り合えない私たちの関係とは違う、まさに言われた通りだ。
(*ノωノ)「ツンさん、先輩を……よろしくお願いします」
ξ゚ー゚)ξ「うん、よろしくされるわ、可愛い後輩の頼みだから」
もう俯くだけの私を優しく撫でてくれる。
対して弱い私は黙って涙を流した。
ξ゚ー゚)ξ「ここで貴女と会えて本当に良かったわ」
言葉を出さずに、そのまま首を縦に振った。
ニッコリと笑うと、その人は頭を撫でる手を止め、「それじゃ」と言った。
完敗した私は、ずっと黙り込む事しか出来なかった。
- 355: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:26:00.04 ID:HiuDdhYs0
( ・∀・ )「さて、それじゃ決心は出来たようだね」
(*ノωノ)「はい、皆様のおかげです、本当にありがとうございます」
(`・ω・´)「俺こそむしろ感謝している、ありがとう。
君を微力ながらも支えられた事で、件のマスターに少しでも恩返しできたかなって」
(,,゚Д゚)「まぁ俺は暇だし気にすんなよ」
(*ノωノ)「皆様、そして……この街に感謝が絶えません」
この街は私に心の強さを教えてくれた。
独りぼっちで進む先すら見えず放浪している私を救ってくれた。
死へ追いやられる淵で、私を救済してくれた。
(*ノωノ)「私、現実に戻っても頑張ります。
この街での事を糧に、これからを自分らしく頑張って生きていきます」
( ・∀・ )「残念だね、夢とは儚いものなのさ。
君はその日見た夢をいつまで覚えていられる?
僕たちの事なんて直ぐにも忘れてしまうよ、後は君次第だ」
(*ノωノ)「いいえ、忘れません!」
- 357: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:27:45.37 ID:HiuDdhYs0
- ( ・∀・ )「おや、随分と自分の意志を貫くようになったものだね。
安心して見送れそうだ」
モララーさんは依然として皆目理解し難い、最後まで掴み所の無い人だった。
( ・∀・ )「それでは、最後の……肝試しといきましょうか」
(*ノωノ)「えッ……!?」
突然の目眩、空気が紫一色に染まる。
あまりの苦痛に膝をついたハズなのに、痛みどころか感覚すらない。
無数の目に見られ、一瞬にして気が狂いそうになった。
意識が遠ざかる。
モララーさんの声が一言だけ響いた。
「時間は消えるものではなく、残るものだよ」
- 358: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:29:40.67 ID:HiuDdhYs0
私の生まれは、最寄り駅まで1時間もかかるような、中国地方の田舎町だった。
そしてすぐにも引っ越した先は、今の仕事場と同じ都会近郊だった。
小さい頃はそれでも明るい性格だったと思う、友達とプールで遊ぶ写真などはアルバムに沢山ある。
小学校高学年にもなっていたか、転機は父親の仕事の都合で実家へ預けられた時だ。
おおよそ二年だが私を孤立した存在に仕立て上げるには十分だった。
標準語の私では会話が成り立たず、暮らしぶりや文化は都会のものと違いすぎた。
奉納儀祭や神檀などといった常識を私は知らない。
転校という事で控え目となっていた自分は、追い討ちをかけられるように孤立した。
川で遊ぶと、虫やカエルを捕まえて投げられる。
私には我慢できないほどの苦痛だった。
「都会モンは外行かなくて、中で一人で遊ぶんだよな」
私は明くる日も明くる日も家の中で人形遊びをしていた。
そんな最中、私に新しい友達が出来た。
この二年間の間で、片時も離れる事無く毎日一緒に遊んだ男の子。
まだ……私の事を覚えてくれているかな?
- 362: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:31:33.14 ID:HiuDdhYs0
- 二年の後都会近郊に戻った私は、今度は田舎の方言がネックとなり思うように意思疎通を図れなかった。
それでも特にイジメがあったわけでもなければ省かれていたという事も無い。
ただ、私には決定的に足りないものがあったのだ。
言葉を次第に標準語に戻していくも、決して埋まる事の無い亀裂。
ずっと独りだったが故の積極性の無さ。
せっかく話をされても、愛想笑いを返す事しか出来ない私。
止まる話、固まる場の空気。
直ぐに興味を尽かされるばかりだった。
当然だろう、でもそれで良かった。
私は周りから皆を見ているのが楽しいのだから。
私に話しかける暇があればもっと別の人へ話しかけて、その場を盛り上げて欲しい。
話すのが苦手な私は、皆が話ししているのを傍から見るのが本当に楽しいのだから。
それが嘘だと言う事は誰よりも私自身が知っていた。
私だって皆と楽しく話したい、私に気付いて欲しい。
でも話しかけられると駄目なんだ、話を続ける事なんてできないんだ。
話を振って貰えると、感謝しながらもただ相槌だけを返す事しか出来ないんだ。
そんな人間に興味なんて沸くわけが無い、当然だ。
- 365: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:33:15.22 ID:HiuDdhYs0
( ^ω^)『風羽さん』
私の上司は違った。
必要最低限の返事しかしない無礼な私を気遣って、怪訝な顔一つ見せずに頑張って話し掛けてくれた。
相槌すら間に合わなくほど沢山話し掛けてくれて。
二人っきりなんて気紛くて仕方ないだろうのに、家まで車で送ってくれて。
食事なんかも積極的に誘ってくれて。
飲み会だって私が独りでいると必ず隣に来て、話してくれた。
褒められてもからかわれても、謝る事や否定する事しか出来なかった私。
( ^ω^)『風羽さん、すみませんやごめんなさいはいらないお。
ただ、ありがとうって一言あれば嬉しいお』
私は変わった。
そしてあの人を好きになった。
ずっと独りで誰とも思うように話できなかった私の辛さを、誰よりも分かってくれた人。
- 367: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:34:50.44 ID:HiuDdhYs0
ふと気付いた時、バーで私は眠りこけていた。
先ほどは随分と煌びやかだったそこは、従来のようなオレンジ色の光が灯っているばかりだった。
そして、隣には――
( ^ω^)「おはようですお」
先輩がいた。
(*ノωノ)「先輩、ずっと、好きでした、今でも……」
(*ノωノ)「それと……」
(*ノωノ)「すみませんでした、それ以上に……ありがとう、ございました」
( ^ω^)「風羽さん、さようならだお。お幸せに」
- 370: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:36:21.31 ID:HiuDdhYs0
(*ノωノ)「さようならです。先輩こそ、ツンさんとお幸せに」
喧嘩別れなんてする必要なかったのだ。
私が素直になっていれば良かったのだ。
ただの自己満足ではいけない、相手の事を考えた、自己満足でなければ。
自分を含めた皆が幸せになれる、自己満足でなければ。
先輩。
私、笑えていましたか?
私、素直になれましたか?
私、成長しましたか?
次会う時は、約束通り幸せになっていますね。
だから……絶対また、会いましょう。
- 372: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:37:54.07 ID:HiuDdhYs0
時間は元には戻らない。
けれども消えるわけでもない。
私は先輩と出会って変わった。
先輩がいなくなったからといって戻ってしまってはいけない。
だから先輩、絶対にまた、会いましょう。
- 378: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:43:12.08 ID:HiuDdhYs0
「おやおや、大きくなったねぇ」
(*ノωノ)「お正月に会ったばかりじゃない、おばあちゃん」
「怪我は大丈夫だったのかい?」
(*ノωノ)「うん、特に気になるところはないかな?
大事をとって療養しているだけ」
軽く祖母と話をして、畳の上にごろんと寝転んだ。
幾重にも重なる虫たちの合唱は心地良い、緑から吹く風は時折肌寒さを感じるくらいだ。
光に当たって萌黄色に輝く畳を見ていると、独りっきりだった昔を回顧してしまう。
まるでつい最近まで私自身がそうであったように。
いや、そうであったのだろう。
先輩を失ってから、私はずっとそうだったのだ。
(*ノωノ)「車に轢かれるなんてね……」
当然こんな現世がいやになったわけではない。
もういっそ死んでしまいたいなどとは考えたが、本当の死を目の前にして私は命乞いしていた。
恥ずかしいけれどやはり私は生きる道を選ぶしかなさそうだ。
- 379: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:44:45.87 ID:HiuDdhYs0
ふと、昔遊んだ人形を思い出した。
友達もろくに出来なかった私がいつも遊んでいた、王子様とお姫様の人形。
お姫様は当然私、王子様にも名前をつけていつも同じ物語を演出していた。
押入れから色々と箱を取り出すも、残念ながら見つけ出す事は出来なかった。
この歳になって人形を探している自分に半ば呆れながらも、在り処を祖母に尋ねてみる。
(*ノωノ)「おばあちゃん、私が昔遊んでいたお人形って物置?」
「何言っているんだい、あれならもうずっと昔に捨てたよ」
(*ノωノ)「……そっか、ありがとう」
それは見つからないわけだ、ずっと昔からもう人形はなかったんだ。
知らない内に、人形は黄泉の国へと旅立っていたのだ。
既に人形は必要無くなっていたんだろう、そう思いたいものだ。
独りっきりで弱い自分との決別として。
- 381: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:46:17.04 ID:HiuDdhYs0
「本当久しぶりだねぇ、しばらくここには居るのかい?」
(*ノωノ)「ううん、明日には帰ろうかなって思ってる。
特に体調が悪い事もなかったし」
「そうか、家に大切な花がいるんだもんねぇ」
(*ノωノ)「うん、大切な……。家と……病院にね」
「病院?」
(*ノωノ)「色々と……ね」
- 382: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:47:53.68 ID:HiuDdhYs0
川 ゚ -゚)「おお、風羽。もう大丈夫なのか?」
(*ノωノ)「はいお蔭様で。
それよりもすみません、せっかく来栖先輩に気を遣って頂いたのに、事故してしまって……」
川 ゚ -゚)「さすがの私とて事故を責めるのは憚られるな。
本当に良かったよ、こうしてまた一緒に仕事が出来て」
(*ノωノ)「とんでもありません、でもありがとうございます嬉しいです。
しっかり恩返しできるよう、今日からバリバリ頑張りますので!」
( ゚∀゚)「よお風羽、何日ぶりだ? 相当危なかったらしいな」
(*ノωノ)「長岡先輩、あぷー……」
( ゚∀゚)「ま、無事で何よりだよ。お前がいない間大変だったからな、猫の手よりは使えるだろ」
(*ノωノ)「失礼しちゃいます、遅れは取り返しますよ! だから改めてよろしくお願いします」
- 383: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:48:45.79 ID:HiuDdhYs0
(*ノωノ)「先輩、今日からいよいよお仕事復帰です。
相変わらず長岡先輩や来栖先輩と一緒なので本当に助かります。
でもやっぱり何か足りないなって思っちゃいますね……」
(*ノωノ)「やっぱり私には先輩が必要です。
私待っていますから、いつまでもいつまでも」
(*ノωノ)「いつか……絶対に話してくれますよね。
いつかまた出会えますよね?
私にとっての上司は、やっぱり内藤先輩だけです」
(*ノωノ)「私、泣きませんから。
信じてますから、ずっと待っていますから。
だから……」
「ね、先輩」
(*ノωノ)が街で出会うようです・END
- 390: ◆7at37OTfY6 :2007/10/13(土) 01:54:00.44 ID:HiuDdhYs0
- あとがき
せっかく街さんの作品をお借りできる機会を頂けたのでミステリー色の強い作品に仕上げたつもりです。
今まで避けていた分野の作品だけに出来は粗末かも知れませんが、頓挫する事無く無事作り上げられて良かったです。
オリジナルキャラを出すという卑怯な手も使いましたが、他グループの後では二番煎じですねw
『フィギュア』や『自己満足』などちょっとシニカルは入りましたが上手く使えて良かったかなと(マジ切れは無理でしたが)。
街さんが使っていた『不思議の国のアリス』も上手に絡ませられたかなと自分では思っています。
とても楽しく書けました。
この作品は植物の後の話ですが、植物はあれにて完結です。
植物と街のアンソロジーと捕らえて頂きたく思います。
マジ切れの皆様に応えられたかどうかは分かりませんが、これにて作品は終了です。
エアーでは一番手で比べられる事無くのびのびと出来ましたが、後発は中々に辛いですね。
まだひと段落するつもりはありませんが、自分のターンは終わりました。
作品を貸してくれた街さん、こんな夜中まで支援下さった皆様、本当にありがとうございました。
投下してから地の文の多さに気付いて……読み難かったことと思います。
そしてこちらの方で、まとめのオムライスさんにブーンノベルさん、ありがとうございます。
それでは引き続き、Aグループをお楽しみ下さい!
戻る