( ^ω^)がマジ切れしたようです
- 49: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:16:14.54 ID:Z+GEqtdc0
- 【4.僕は溺れた】
校舎の時計台の短針は真下を、長針は真上を指していた。
地の底から吹き付けるような冷ややかな風が、僕の頬をなでる。
否応なしに晩秋の到来を肌で感じ取れた。
初秋までは、まだ辺りも白んでいた時刻であったが、この時期ともなるとすっかり日も堕ちていて、
身の回りの輪郭が、暗く、おぼろげなものに変わっていた。
でも、そんなことはどうでもよかった。
日々はただ過ぎていくだけだ。
そこに意味などない。
静かに暮らすことができて、唯一の楽しみさえ残っていれば、それでいい。
校門から一歩出れさえば、一日のなかで至福の瞬間がおとずれる。
目指すは、白いアパート。
そして、二階左側の部屋。
その空間に、女神が棲んでいる。
僕はそっと目を閉じた。
胸は歓喜に震え、高鳴っている。
支配するものといえば、至高なる甘美。
理性にしがみつくことを止めてしまえば、たちまち僕は発狂し、地面をのたうち回り人目もはばからず絶叫するであろう。
だが、それがいい。
僕をまともな人間にしたらめる虚像にしがみつくくらいなら、壊れてしまったほうがいい。
そして、僕は目を開く。
網膜にその姿を焼き付けんと。
髪の一筋さえも鮮明に残そうと。
- 51: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:17:56.14 ID:Z+GEqtdc0
- (;・∀・)「……え?」
僕は呆けたように、声をあげた。
僕の目に映ったものは、半分ほど開かれた窓だった。
そして、その奥に見えるものは、古ぼけた蛍光灯がぶらさがった天井だけだ。
彼女の姿は、ない。
僕は瞼をこすり、再度、状況を確認する。
……いない。
やはり、いない。
例のごとく、テレビの声と青白い光だけは確認できるのだが。
(*゚∀゚)「ねえアンタさ、いつもアタシの部屋をのぞいてるでしょ?」
突然のこと、僕に落胆を与える隙間もなく、横から喧々しい声が飛んできた。
(;・∀・)「――ッ!!」
僕は思わず、目を閉じ、身をすくめた。
つかつか、とハイヒールの音が近づいてくる。
しまった。
僕は、このときほど、自分の行動の浅はかさを後悔したことはなかった。
どうしようか。
このまま逃げてしまおうか。
いや、それはよくない。
なにしろ、学校の制服を着て毎日ここを歩いている。
ならば、どうする。
いや、どうしようもない。
もう、僕の平穏はここで終わってしまうのだから。
- 52: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:19:48.95 ID:Z+GEqtdc0
- (*゚∀゚)「アンタさあ、あそこの中学の生徒? 名前は?」
(;・∀・)「……」
目の前に立ちはばかったのは、あの部屋の女性だった。
何百回も繰り返して洗濯したようなよれよれのTシャツに、太ももの上まで短く裾が切られたショートパンツ、
そして、甲の部分にディ○ニーのネズミの顔があしらわれたサンダル。
相変わらずだらしのない格好だ。
しかし、僕は彼女を目の当たりにして、答えることができなかった。
ただ、怖かった。久しぶりに他人の逆鱗に触れ、戦慄した。
嘘をつく余裕などなかった。
あのアパートと同じだった。
ぼろぼろの中身を隠し通していたペンキが、剥がされたのだ。
(;・∀・)「……」
顔に血の気が引いていく感覚がした。
見えもしないのに、自分の唇が青ざめていくのがわかった。
脂汗がにじみ出た。ワイシャツがべっとりと背中に吸い付いていた。
視界が歪んだ。まばたきをすれば、涙がすぐにこぼれてしまいそうだった。
(*゚∀゚)「……まあ、いいわ。ちょっと来なさいよ」
僕の様子を知ってか知らずか、彼女は僕の腕を強引にわしづかみにした。
僕はなすがままに、アパートの中に引きずり込まれていく。
これから、どんな刑が言い渡され罰せられるのだろうか。
僕は、終焉の到来を覚悟した。
- 55: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:21:06.83 ID:Z+GEqtdc0
- アパートの外見にも劣らないほどに、散らかり放題の部屋だった。
まずドアを開ければ、足の踏み場もないほど靴が散乱していた。
そして、その横にはそれらが元々入っていただろう箱が山積みになっている。
箱にはでかでかとブランドのロゴが印刷されており、なんとなく、贅沢なものであることがわかった。
ドアのすぐ右手にはキッチンがあった。
流し場も、玄関同様に山ができていた。
茶碗やコップや皿、橋、フォーク、スプーンがうず高く重なっている。
中にはカップラーメンの容器もごちゃ混ぜになっていて、そこから発せられる生臭さが僕の鼻をつんざいた。
部屋の中もひどいありさまだ。
パンツやブラジャー、靴下などの下着と、ジャケットやスカート、フリルの付いたゴシロリ風のワンピース、
料理用の白衣、中には何の衣類であるかがわからないぼろ切れが区別もなく床を覆っており、
唯一、布団が敷いてある部分だけが申し訳なさそうに空間を取っているだけだ。
一応棚や机なんかの収納家具も置かれてはいたのだが、そこも容量を超えており、
小瓶や口紅や眉墨などの化粧品、その他わけのわからない小物がはみ出しているありさまだった。
ともかく、『世間一般的』な女性の部屋としては、汚い部類にあることはわかった。
女兄弟もいないし、このときまで女性の部屋にも入ったことはなかったので、確信はできなかったが、
少なくともテレビや映画なんかで見る女性の部屋とはかけ離れていたため、僕はそう判断した。
(*゚∀゚)「まあ、狭い部屋かもしれないけど座りなよ」
(;・∀・)「……」
彼女は、床に散らばった衣服を、無理やり部屋の隅のほうに押し込みながら言った。
僕は言われるがままに座る。
というよりも、そうせざるをえない状況だ。
彼女が裁く立場で、僕が罰せられる立場であり、力関係は一目瞭然である。
- 56: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:22:52.09 ID:Z+GEqtdc0
- (*゚∀゚)「でさ、毎日見てたわよね、アタシの部屋。どうして、そんなことしたの?」
(;・∀・)「……知ってたんですか?」
最初に出た言葉はこれだった。
これが僕に残された最後の抵抗だ。
質問を質問で返すことで、結論を後回しにする。
つまりは、断罪のカウントダウンを伸ばす行為。
そもそも、彼女はそれを知っていたからこそ僕を捕まえたわけだし、
本来ならば、僕の方もそんなわかりきったことを無駄に聞かない。
(*゚∀゚)「ええ。そりゃあんなふうに毎日見られてたらイヤでもわかっちゃうわさ。
毎日、午後6時5分きっかりにね。
それに平日だけじゃなく、休日までやってくる熱の上げっぷり。呆れちゃうわ」
そして、僕の思惑どおり彼女は答えた。
言うまでもなく、全てが割れていた。
六時五分に時間を合わせてここに通りがかることも、休日にもこのアパートの前に来たことも事実だ。
最初は自然な演技であったはずが、いつのまにか我も忘れて、堂々と彼女に魅入ってしまったのがいけなかった。
僕は、再び後悔した。
(;・∀・)「はい。まさに言う通り。一言一句間違いありません。……ですが、間違えないでほしいです。
僕が6時5分かっきりにここの前を通るのは、僕が几帳面な人間で、
決まった時間に帰宅しないと落ち着かないからで、また、休日にもそうしないと落ち着かないからです」
(*゚∀゚)「……ハア?」
- 60: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:24:30.54 ID:Z+GEqtdc0
- 我ながら、見えすいた嘘だった。
まず、そんな人間などめったにいない。
そんな習慣が自然にできるのは、仕事や学業などの変則的な事情に影響されないような、
例えば、一日中暇をもてあましているような剛直な老人くらいだ。
だが、僕はあえて言いわけをした。
もしかしたら、万が一つにも、奇跡に近い確率で信じてくれる可能性があると思ったからだ。
それに、信じてくれなくても時間稼ぎにはなる。
もはや僕の言葉に理路整然など存在しなく、ただこの重苦しい空気から逃れるために口八丁を並べるしかできなかった。
(*゚∀゚)「……ふぅん」
彼女は、布団に腰を落ち着け、怪訝そうなまなざしを投げかけつつも、
いかにも納得したかのような生返事をした。
そして、
(*゚∀゚)「まあ、そんなことはどうでもいいわさ。
覗きに関しては別にとがめるつもりもないし、そもそも、何の被害をうけたわけでもないからねっ」
(;・∀・)「え? じゃあ……」
(*゚∀゚)「――問題は、アンタが何を見ていたかってこと」
彼女は痛んだ髪の毛先を、指でくるくるともてあそびながら、訊いた。
一瞬、僕は罪を許されたことを確信し肩の力を落としかけたが、再び愕然とする。
これまでのことが帳消しになったどころか、もっとも痛いところを突かれたのだ。
- 62: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:26:01.61 ID:Z+GEqtdc0
- はっきりいえば、僕は彼女を見ていた。
ただ見るという行為そのものに罪はないのだろうが、どこか僕の中で後ろめたいものがあった。
少なくとも、花を愛でるような感覚で、無邪気な子供を見守るような感覚で見ていたわけではなかった。
その動機として、崇高で、神格視したような、まるで信仰とも呼ぶべき部分からきたものであると同時に、
僕の中の蝿が、悪魔が生贄の血肉を欲するかのような、生々しい本能からきたものでもあるわけだ。
(;・∀・)「それは……あなたの部屋が気になっt」
(*゚∀゚)「嘘よ」
それでも僕はごまかそうとしたが、それは彼女の言葉に一蹴されてしまった。
迷いも、戸惑いもなしに、きっぱりと。
そこまで断言されては、ぐうの音も出ない。
(*゚∀゚)「ああ、それにしても蒸し暑いね」
追い詰められる中でどう返そうかと僕が考えあぐねている中、彼女は唐突に、手をぱたぱたと扇がせはじめた。
僕自身、そのとき汗が止まらなかったのは事実だが、決して暑かったわけではない。
むしろ、軽く鳥肌がたつほどの寒さを覚える外に比べて、
この部屋の中は生々しい暖気が充満しているように感じられ、決して身をやつすほどの暑さではなかった。
だが、
(*゚∀゚)「ああ、暑い暑い。まったくこんなぼろアパート、住むんじゃなかった。
不動産屋にだまされちゃったのかしらね」
(;・∀・)「ッ!!」
- 63: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:27:42.98 ID:Z+GEqtdc0
- 次に彼女は着ていたTシャツの裾を上下にたくしあげるように扇ぎはじめたのだ。
上に腕を振るたびに赤いブラジャー、そして、窮屈そうに押さえつけられた双丘が見える。
あられもない、下品な涼みかただったが、それでも僕の視線は彼女から離れることはなかった。
気がつかぬうちに、僕の口元は笑みを含み、僕の目は恍惚を見せはじめる。
(*゚∀゚)「そうよ。その目」
と、そんな醜い顔をしていた僕に、彼女は言った。
(*゚∀゚)「そのいやらしい目。アタシの体を舐めるようにして眺めていたの。
アタシの店の客とまさに同じ……いえ、もっと、あなたからは醜いものを感じるわ。
中学生とは思えない変に大人びたような、大人の汚さを悟りきってそれに甘んじているかのような、そんな雰囲気を」
(;・∀・)「ッ――」
彼女の鋭い言葉に、ここではじめて、はっとした。
ナイフを喉元に突きつけられたような錯覚に陥り、背筋に冷たいものが走った。
(;・∀・)「べ……別に、そんなつもりじゃ……」
僕は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われながらもなお、否定した。
彼女の言ったことが、かなり的確であったにもかかわらずだ。
もはや、僕の失態を完全に見抜かれているといってもいい。
しかし、それでもまだ逃げようとしていた。
自分がまっとうな人間であるよう見せかけることに、自分の虚偽の姿にしがみついていたのだ。
だが、彼女は僕の言葉をさえぎり、そのナイフで僕の胸を貫いた。
(*゚∀゚)「認めなさい。アンタは欲望にまみれた、最低の人間」
- 65: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:29:24.60 ID:Z+GEqtdc0
- 彼女の唇がにい、と歪んだ。
くすくす、と吐息を漏らした。
そして、さらに奥深く、心臓まで届きそうなほどに刃をくぐらせた。
(*゚∀゚)「かわいいわさ。むきになって、無駄な虚勢をはりたがるところなんか。
ぜんぶバレバレなのに、おかしいったらありゃしない。
本当は、アタシのことを見ていたんでしょう?
胸とか、お尻とか、太ももとか、へんなところを見ていたんでしょ?
男は見てないふりをしているのかもしれないけど、当の女からしてみれば完全にわかっちゃうのさ」
僕は、思わず視線をそらした。
罵倒と、軽蔑の嵐にさらされているにもかかわらず、僕はおろかにも彼女の言葉そのままに、
胸を、尻を、太ももを、じっと食い入るように見つめずにはいられなかったからだ。
(*゚∀゚)「いやらしいことを想像していたんでしょ?
そして、自分の部屋なのか、トイレなのか、アナタがどこでしているかはよくわからないけど、
とにかく、人の目に触れないようなところでアタシを思い浮かべながらマスターベーションするの。
そうね、アンタくらいの年頃だったら毎日していても……いえ、下手したら一日に何回もそれをするのかもね」
(;・∀・)「……」
(*゚∀゚)「それでも、アンタは満足できない。あくまでそれは妄想であって、
自分の手で性欲を事務的に処理しているだけの、単なるひとりよがりの行為だから。
アンタはきっと思ったはずよ。
私を抱きたい。べちょべちょに、唾液だらけになるまでアタシの体を貪りつくしたい。
そして、存分に汚しきったあとで、今度はアタシの中にアンタのあそこを入れたくなる」
- 67: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:31:09.91 ID:Z+GEqtdc0
- 彼女はナイフを突き刺すだけでは飽き足らず、深々と押し込まれた刃をかき回し、肉をえぐりはじめた。
(*゚∀゚)「アタシとひとつになったら、それはもう素晴らしいほどの感触がアンタを襲う。
ちょっとでも腰を動かしたら、すぐに果ててしまいそうな快楽だよ。
アンタは必死に耐えようとするわさ。だってもったいないもの。だから、最初はゆっくりとアタシを犯す」
筋繊維がぷちぷちと音をたてて、引きちぎられていく。
傷つけられた血管からは、とめどなく血液がこぼれ落ちる。
ナイフの刃が左右に動くたびに傷口が広がり、
僕の胸には黄色い脂肪の層が覗くほどにまで大きな穴ができあがっていた。
(*゚∀゚)「想像の中のアタシは、官能的なあえぎ声をだす。隣の部屋に聞こえるほど大きな声でね。
それに気をよくしたアンタは、徐々に腰を振るスピードを速める。
いわゆる征服欲ってやつかしら? あなたの思うがままに犯されるアタシに昂ぶるのさ。
そうこうしているうちに、絶頂の波が押し寄せてくる。ひとりでするときよりもはるかに高い絶頂。
それで、とうとうアナタは」
( ∀ )「――やめてください!!」
僕は、叫んだ。
もはや、耐え切れなかった。
僕がひた隠しにしてきた想いを、一言一句紛うことなくあらわにされることが我慢ならなかった。
……いや、少しばかり違う。
彼女は、僕がわけもわからずに抱いていた願望を具体的に形にしたのだ。
僕は当時、性交とは具体的にどのような行為をするのかを知らなかった。
彼女を想像しながら毎日のようにマスターベーションをしていたのは事実だが、
それがセックスをするための予行であることすら、わからなかった。
だから、どのように妄想すればいいのかもわからず、猿のようにただひたすら快楽に身を溺れさせていただけだ。
なにしろ、僕はポルノビデオや成人雑誌を見ることはおろか、映画のラブシーンさえ見ることができなかったのだから。
- 69: ◆foDumesmYQ :2007/10/16(火) 23:32:51.25 ID:Z+GEqtdc0
- (*゚∀゚)「ふふ、赤くなっちゃって。けっこうウブだね。
最近の子はこういう知識があるのが当たり前だと思ってたけど、アンタはそうじゃなかったみたいだね」
僕の剣幕にたじろぐこともなく、むしろ、そんな僕がほほえましいといわんばかりに、彼女はただ、笑った。
(;・∀・)「……」
抵抗はすべて無駄におわったことを悟り、僕はがっくりと肩を落とした。
もはや、完全に見透かされている。
これ以上嘘で塗り固めたところで、一笑に付されるだけだ。
それに、僕の道化もこの状況では役に立たない。
こういうものは相手が僕の心中を知らないからこそ、効果を発揮するのだ。
抵抗も、嘘言もできない。
どんなに壁をはりめぐらせても彼女はそれをくぐり抜けて、いとも簡単に僕のいちばん奥深くまで入り込んでくる。
だから彼女の前では、僕はもう、ただの赤子と同じだ。
意思を隠し通すことができない、感情を素直に表現することしか能のない、ちっぽけな存在と同等なのだ。
僕の生涯でもっとも重い絶望の時間だった。
地平線の終わりがない砂漠をさまよい続けるような、エッシャーのだまし絵の中に閉じ込められたような、
果てしなく永遠に広がる閉塞に縛り付けられたような、そんな感情にさいなまれた。
僕は三度後悔した。
いや、後悔という言葉では表しきれるものではない。
わけのわからない甘美に酔いしれ、思うがまま欲望に支配されたあげくに、
この世で僕を正常に存在したらめる、生命線とも呼ぶべき『演技』という防衛行動を怠ってしまった結果がこれだ。
まさにこの感情は、自己に対する嫌悪と、否定と、怨憎と呼ぶにふさわしい。
そして、とうとう僕は羞恥のあまり彼女を見ることができず、うつむいてしまった。
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