( ^ω^)がマジ切れしたようです

180:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:31:48.99 ID:Y54Kj55K0

長々と続いている廊下。そこで俺は一人立っていた。

空から降り注ぐ太陽の恩恵。
その暖かい光は、気持ちを陽気にさせた。

窓の外を見ると、青々とした木々が風に煽られ揺れている。
葉と葉が風に吹かれ重なるたびに、音を奏でていた。


その光景を目に焼きつけた俺は、ゆっくりと視線を前に戻す。

自分はいったい、どこに行けばいいのだろうか。
おそらくこの建物のなかに、ブーンに求められたものがきっとあるはず。

ならば、自分の思うとおりに進めばうまくいくのかもしれない。


^^こっちに行ってみるか


自分を鼓舞するように、小さく呟く。
足が目的地に導いてくれているのだろうか、歩みは止まらない。

目の前に現れた扉。
その扉を開けるのに、躊躇なんてものはなかった。



186:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:33:20.46 ID:Y54Kj55K0

扉を開けると、心地よい風が頬を撫でた。
この白い部屋の持ち主であろう男は、開けた窓から外を眺めている。

自分が先程まで眺めていた空。
鳥が気持ち良さそうに羽ばたいている。

空を駆け巡る、二匹の鳥。親友なのか、恋人なのか。
恋人なら今すぐたたっ斬ろうとしたのは内緒の話だ。

皿の上に置かれているリンゴは、しばらく時間が経過したのか少しだけ黄ばんでいた。


気持いいねぇ。男はそう呟いたあと、顔をこちらに向ける。
その表情は、穏やかなものだった。


(´・ω・`)「さて、君は誰だ?」


これが、ショボンとの初めての出会いだった。



――( ^ω^)は魔女を狩るようです



191:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:34:48.63 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「そうか、君は他世界から来たのか」

^^あぁ
探し物を見つけにな


妖刀キビダンゴによって、新しく剥かれたリンゴ。
口に運ぶと甘酸っぱく、清らかな味が舌にひろがる。


(´・ω・`)「探し物か。見つかるといいね」

^^ああ


リンゴが無くなった皿の上に、爪楊枝を置く。
ふとショボンの顔を見ると、なぜか口元が緩んでいた。


^^どうした

(´・ω・`)「やはり、人生はおもしろいと思って」


まるで子供のように笑っているショボン。
不思議と、心が和んだ。



197:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:36:26.94 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「君は、僕のヒーローなのかもしれないね」

^^俺はヒーローなん
て柄ではない

(´・ω・`)「それを決めるのは僕自身さ。君に拒否権はないよ」


また、この笑顔だ。悪戯っ子のように、ニヤニヤと笑う。
どうやら彼は俺をからかうのが好きなようだ。

なにを言っても無駄だろう。
そう感じた俺は、小さくため息をつくのであった。


^^勝手にしろ

(´・ω・`)「そうさせてもらうよ」


起こしていた上半身を、横に寝かせる。
顔は、窓の外に向いていた。



203:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:38:33.82 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「人間は、どこまでいけば満足するのだろうか」


タオルケットを肩まで覆ったショボンは、ぽつりと呟く。
カーテンは風に吹かれ、ぱたぱたと揺れている。


そんな彼の様子とは裏腹に、俺は考えていた。


その問いに答えはあるのだろうか。
そもそも、何故そんな質問をしたのだろうか。


いつまで経ってもでない答え。
退屈そうに寝転がる男。

そんな時間が数秒過ぎたとき、扉が開いた。


川 ゚ -゚)「ショボンさん、窓を開けていたら身体が冷えます」


そこにいたのは、髪の長い綺麗な女性だった。



206:マカロン ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:41:00.85 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「クーか」


クーと呼ばれた女性を見ると、ショボンは再びタオルケットのなかに身を包みこんだ。

彼女は窓を閉めたあと、椅子に腰を下ろす。
長い髪が、少しだけ揺れた。


川 ゚ -゚)「ショボンさん、こちらの方は?」

(´・ω・`)「彼の名はデスピーチ。僕の知り合いさ」

川 ゚ -゚)「ショボンさんに知り合いがいたなんて初耳です」


ショボンは空を見上げながら、気だるそうに頭を掻く。

彼の目にはなにが映っているのだろうか。
少しだけ、気になった。


(´・ω・`)「クー、僕にだって知り合いくらいいるさ」

川 ゚ -゚)「それはすみませんでした」


ぺこり、と小さく頭を下げる。
いやいや、いいよ。という声が虚しく部屋に響いた。



213:あだ名募集 ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:43:44.61 ID:Y54Kj55K0

川 ゚ -゚)「ショボンさんも大分、身体が動けるようになりましたね」


指を開き、握る。単純な運動を繰り返すショボン。
見てる感じだと、まだまだたどたどしいが、不自由なく動かせていた。

強く、自分の拳を握る。


(´・ω・`)「そうだね。リハビリもしてみるもんだ」

川 ゚ -゚)「あれだけ嫌がっていたのに……やけに肯定的になりましたね」

(´・ω・`)「生きているのもおもしろい。そう思っただけだよ」


気づくと、ショボンは俺の事を見ていた。

彼にとって、俺は一体なんなのだろうか。
本当にヒーローだと思っているようで、なんだか恐かった。


……






221:バトロリ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:45:36.91 ID:Y54Kj55K0

もう、辺りは暗くなっていた。

太陽は落ち、月が昇る。
弧を描いた、綺麗な三日月だ。


川 ゚ -゚)「もうこんな時間か」


彼女は腕時計を覗く。
短針は7を指している。面会時間は当に過ぎていた。


広げた資料とパソコンを鞄に詰め込む彼女。
試供品のラベルが貼られていない栄養ドリンクは、そのまま台に置かれていた。

座っていた椅子を片し、部屋を出ようとしたとき。
不意に後ろから声が掛けられる。


(´・ω・`)「明日も、来るよね?」


あぁ、と短く告げ、彼女と共に部屋を出る。
廊下は嫌なくらい静かだった。



226:童帝 ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:47:55.10 ID:Y54Kj55K0

街灯に照らされた、病院の近くにある公園。
そこに俺たちはいた。

公園には三人の人間がおり、ベンチに座っている男がやたらと俺を見ている。
奴は危険だ。長年培われた戦闘本能がそれを伝えていた。

ツナギの男の視線から逸らそうとしたとき、彼女が話しかけてきた。


川 ゚ -゚)「君は誰なんだ?私が知る限り、あの人には知人がいない。
     あのとき、魔女と戦ったメンバー以外は」

^^ふん
そんなことで俺を呼びつけたのか


綺麗な顔立ちをしているのに、まったく表情を崩さない。

なにが彼女を縛り付けているのだろうか。
そのせいでこんなにも無機質な顔をしているのだろうか。

鷹のような眼光が、俺を睨みつけている。


^^俺はこの世界の人間ではない


身を突き刺すような冷たい風が、この場を流れた。



232:ポポロン ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:50:52.24 ID:Y54Kj55K0

川 ゚ -゚)「なにを言っている……?」

^^言葉の通りだ
探し物があってこの世界に来たんだ

川 ゚ -゚)「………」

^^もっとも
ショボンはそのことを信じてくれたがな


まるで見定めるように、彼女はじっと俺のことを見据えていた。

永遠とも刹那とも思えるようなその時間。
ふと、彼女は微笑んだ。


川 ゚ ー゚)「ショボンさんが信じるのなら、私も信じよう」

^^あんがと



236:ゲルババ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:53:41.20 ID:Y54Kj55K0

おそらく、彼女は自分でも笑ったのに気づいていないだろう。
それくらいの小さな笑みであった。

気兼ねなく笑いかけてくれるその日まで、俺はその微笑を胸のうちにしまうことにした。


川 ゚ -゚)「ところで、異世界からの来訪者さんは寝床があるのか?」

^^ない

川 ゚ -゚)「しょうがない奴だ」


小さく手招きをするクーに、俺はついていく。
公園に、ツナギの男を残して。


阿部さん「やらないか?」



239:パパドプロス ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:54:53.03 ID:Y54Kj55K0

  デスピーチ……ここだ……

                   そうだ……

     もっと優しく……
              あっ……


 ゆ、ゆっくり……            あんっ……

          はぁ……はぁ……


   っく……       
                   いっちゃう……

   あぁ……
          気持ちよかったぞ……


                   です……ぴーち……



248:ババ専 ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:57:37.34 ID:Y54Kj55K0

となるはずもなく、今日も俺は病院に来ていた。

扉の先にいるショボンは、今も俺のことをまだかまだかと待っているだろう。
ふふ、可愛いやつめ。いま行くからな。


^^ノおいすー

(´・ω・`)「ん?……あぁデスピーチか。忘れていたよ」

;;

(´・ω・`)「泣くなよ……」


心底迷惑そうな顔しながら、ショボンは読んでいた本を横に置く。
古ぼけた本。手垢にまみれ、色褪せた表紙が年季を感じさせた。

ベッドの横に備わっている椅子を出し、腰を下ろす。


(´・ω・`)「君はまるで、本の世界から出てきたみたいだ」


何か確信めいたものがあるのだろうか、やけに強い口調だ。



250:プスタポンテ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 22:59:49.17 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「僕は、君がいた世界のことを聞いてみたい」

^^俺の世界か

(´・ω・`)「事実は小説より奇なり。まさにこのことだ」

^^ふん
まぁいいか


そこから俺は、自分の世界のことを話した。

父親の桃たろおのこと。鬼神退治に出かけたこと。
犬と猿に裏切られ、雉が殺されたこと。犬と猿を殺したこと。
鬼神のトップは実はババァだったこと。

こうして話せば、たくさんの出来事が起きたものだ。
語りながら、俺は感傷に浸っていた。


(´・ω・`)「それはもしかして、桃太郎の世界じゃないか?」

^^桃太郎?
俺の父の名は桃たろおだが


ショボンは小さく頷き、引き出しからひとつの本を取り出し俺に渡す



256:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:02:32.65 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「この世界にある、おとぎ話のひとつさ。君の世界に似ていると思ってね」


渡された本を、一枚ずつ丁寧に捲っていく。
色採られた可愛らしいキャラクターが物語を進め、鬼を倒す。
たしかに、似ていた。


^^肝心の俺がいないが
要所要所は似て
いるな

(´・ω・`)「不思議なものだ。他世界の物語がこの世界で本になっているなんて」


なにやら関心深く、本を見つめていた。

頭がいい彼のことだ。
きっとなにか考えているのだろう。

窓の外を見ると、空が朱色に変わっている。
もうそろそろ帰る時間だ。



261:ババンババンバンバンハービバノンノ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:04:47.08 ID:Y54Kj55K0

^^ショボン
そろそろ帰るわ

(´・ω・`)「もう帰るのかい?」

^^ああ
門限が近づいているのでね

(´・ω・`)「……門…限………?」


椅子を片付け、扉を開ける。
別れの挨拶をしようと振り向いたとき、先に声を掛けられた。
妙に重苦しく、かつ真剣な顔をしながら、ショボンは口を開けた。


(´・ω・`)「昨日の質問の答え、待ってるよ」

^^あぁ


完全に言いそびれてしまった。
タイミングを逃した俺は、そのまま静かに扉を閉めた。



262:ペロペロキャンディー! ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:06:31.26 ID:Y54Kj55K0

川 ゚ -゚)「遅いぞ。とっくに門限は過ぎている」

^^悪い悪い


草履を綺麗に並べる。
昨日乱暴に脱ぎ散らかしたらクーに右こぶしを食らわせられたからだ。
ショボンの苦労が身に染みてわかったような気がした。


川 ゚ -゚)「なんか言ったか?」

^^なんも


居間に向かう。
この世界の三種の神器といわれるテレビを見ようとするが、目の前に彼女が立ちはだかる。
うぜぇ。


川 ゚ -゚)「手を洗え」


まるでカーチャンだ。
やれやれ、先が思いやられるぜ。



266:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:08:32.92 ID:Y54Kj55K0

それからしばらく時間が過ぎ、食事の時間になった。

器用になんでも作る彼女は、カルボナーラというものをつくっていた。
香ばしい匂いが鼻に入り、食欲を注ぐ。


川 ゚ -゚)「待たせたな」


皿に丁寧に盛り付けられたそれを見て、まるで料理人のようだと思った。
あたたかい湯気が部屋を包みこんだ。


^^いただきます

川 ゚ -゚)「いただきます」


両手を合わせ、小さく頭を下げる。これがこの世界のマナーらしい。
飯が目の前に在ればがっつく俺にとって、このマナーの意味がよくわからなかった。



273:ペペロン ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:10:49.91 ID:Y54Kj55K0

^^うめぇー

川 ゚ ー゚)「そりゃ良かった」


昨日に比べ、笑顔をみせる回数が比較的増えてきた。
大分俺に心を開いたということなのだろうか。

それはそれで嬉しいが、いつも天涯孤独の身だった俺にはそれがなんだかくすぐったかった。


^^むしゃむしゃ


礼儀作法を無視する俺の額に、フォークを刺す彼女。
それはマナー違反ではないのか?と思いながら流れ出る血を拭く。


^^いてぇーよ

川 ゚ -゚)「君が悪い」


再びフォークを動かす。

優雅、といえばいいのだろうか。なにをするにも様になっているクー。
食事をしている姿も、見とれてしまうくらい美しかった。



279:神奈川県在住ギアス大好きっ子 ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:13:14.90 ID:Y54Kj55K0
川 ゚ -゚)「ショボンさんはどうだった?」

^^元気だったぞ

川 ゚ -゚)「……そうか」


元気なく、もくもくと食べる彼女。明らかに先程と様子が違っていた。
不機嫌……いや、その表情は不安という言葉が一番合っていた。


^^どうしたんだ

川 - )「私は……私はショボンさんに必要とされているのだろうか…?」

^^なぜそう思う

川 - )「ショボンさんは……いまだ私に心を開いていないからだ…」

^^お前はショボンに必要とされている
気にすることは
ない

川 - )「ならッ!!」


突然、拳をテーブルに叩きつける。皿の上に乗ったフォークが、からからと揺れた。


川 ; -;)「なら……なぜショボンさんは私に笑顔を見せてくれない…」



287:エビアン ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:15:30.08 ID:Y54Kj55K0

彼女の頬から、雫が零れ落ちる。

初めてみる、クーの泣き顔。
気丈を装っていた彼女の声は、わずかに震えていた。


^^お前はショボンのことが
好きなのか

川 ; -;)「……わからないんだ」

^^なぜだ
自分の気持ちくらいわかるだろう

川 ; -;)「私は…私は……」


くらだない女だ。自分の気持ちを隠し続け、自分を傷つけるなんて。
自分の想いをちゃんと打ち明ければいいのだ。

相変わらず女々しく泣いているクーの横に座る。


^^お前はいつまで亡霊に付き纏われる気だ

川 ; -;)「……なに…?」



290:ハロウィン ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:17:11.79 ID:Y54Kj55K0

^^ショボンから聞いた
過去の戦いのことを
魔女のことを

川 ; -;)「……ショボンさんが?」

^^あぁ
ジョルジュという男のこともだ


魔女を倒すためにつくられた組織、討伐隊。
その討伐隊で、クーと共に魔女と戦ったジョルジュ。

彼は魔女との戦いのさいに、命を散らしてしまう。
他でもなく、彼女たちを護るために。

クーは、そいつのことを未だに忘れられないのだ。


^^ジョルジュはお前を苦しめるために死んだのではない
それくらいわかれ

川 ; -;)「貴様になにがわかるッ!?」


頬に、痛みが伝わる。
叩かれたのに気づいたのは少々時間がかかってしまった。



295:( ゜ω゜)ギアス!! ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:19:12.90 ID:Y54Kj55K0

川 ; -;)「貴様に……なにがわかるんだ………」

^^わからねぇよ
わからねぇから言ってるんだ

川 ; -;)「……?」

^^お前はジョルジュという男の背中しか見なかったのか?
違うだろ。ジョルジュの生き様を、心をその眼で見たんだろ?

川 ; -;)「デスピーチ……」

^^お前はそのことを
忘れずに自分の幸せを願うんだ


クーの瞳が、乾いていく。
涙を拭ったあとの彼女は、いつもの凛とした表情になっていた。


川 ゚ -゚)「ありがとう、デスピーチ。少し考えさせてくれ」


食器を片付け、クーは自分の部屋へ戻る。

それから数日間、俺はショボンのところへ行かなかった。
それは、彼女も同様だった。



300:ハローキティ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:21:08.69 ID:Y54Kj55K0

この世界に来て、幾日が経った。

初夏が訪れたようで、蝉たちが音楽を奏でている。
額から流れる汗を拭きながらテレビを見ていたとき、扉が開く。

玄関には、仕事に行っていたはずのクーが立っていた。


^^どうした

川 ゚ -゚)「私は、私は決意したよ」

^^そうか

川 ゚ ー゚)「あぁ。一緒に来るかい?」


それは、今まで見たなかで一番良い笑顔だった。

優しく微笑み、車のキーを指先でまわす彼女。
そのあとを、俺はついていくことにした。



305:バンバンビガロ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:23:13.51 ID:Y54Kj55K0
この世界の技術は凄まじい勢いで進んでいるようだ。

この車というものも俺の世界にはなかったものだ。
人間には出せないスピードを出し、目的地にたどり着ける便利な乗り物。
だが、俺にとっては素晴らしいの一言に尽きるこの乗り物も、これから更なる進化を遂げるだろう。

人間とは欲望深き生き物だ。自分たちの利便性を掲げ、決して妥協しない貪欲な生き物だ。
だからこそ、いまのこの世界があるんだろう。貧しいという言葉が見つからないこの世界。
全て、上を目指したものだけが成す得るこの偉業。感服することしかできない。


――――人間は、どこまでいけば満足するのだろうか。


そんなことを考えていたら、ふとショボンの質問が脳裏に浮かぶ。
もう、俺の答えは出ている。この答えを、お前に届ける。


窓の外は、流れるように景色が変化していく。
まるでいまのこの世界のように。


川 ゚ -゚)「ついたぞ」


車を止め、ショボンの病室へ急ぐ。

目の前の扉を開けるのに、彼女に躊躇なんてものはなかった。
あのときの俺のように。



311:植物? けちょんけちょんにしてやるよ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:25:32.82 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「どうしたんだい?それにデスピーチも」


目を丸くしながら、読んでいた本を横に置く。

そんなショボンを無視し、クーはベッドに座り話し出す。
クーの心には、迷いなんてものはなかった。


川 ゚ -゚)「ショボンさん、私はこれからもあなたの手助けをするつもりです。
     あなたが一人で『歩ける』ようになるまで、ずっと」


少し驚いた素振りを見せるショボン。しかし、すぐに表情を元に戻した。


(´・ω・`)「やはり、僕を死なせるつもりはないんだね?」

川 ゚ -゚)「自分の足で歩けるように、前に進めるようになるまで……。
     私はあなたを見守ります」


小さく、ショボンはそうかと呟いた。
それは否定的なものではなく、肯定的なもの。

ゆっくりと、顔を俺に向ける。



323:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:27:46.75 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「デスピーチ。質問の答えはでたかい?
       長らく待たせたのだから、それなりの答えは出してくれよ」

^^ああ
そのつもりだ


――人間は、どこまで進めば満足するのだろうか


ショボンは俺に会った日、そう質問した。
そのときの彼の顔は、悲愴感溢れる顔をしていた。

だがいまは違う。
心のつかえが取れたような、清々しい顔をしている。

彼は、長年迷っていた答えをやっと導き出したのだ。
その答えが合っているかどうか、答え合わせをしようとしているのだ。


ショボン、これが俺の答えだ。
念じるように心の中で呟き、ショボンの顔を見据える。



329:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:29:46.22 ID:Y54Kj55K0

^^人間は、永遠に満足することはできない


俺たちは数秒間見つめあった。
そして笑いあう。長年の友人同士のように大きな声を上げながら。


(´・ω・`)「やはり、君は僕のヒーローだ」

^^それはどうも


(´・ω・`)「クー」

川 ゚ -゚)「……なんでしょうか」


不意に声を掛けられたか、少し驚いていた。
ショボンは右手で握り拳を軽くつくり、優しく微笑んだ。


(´・ω・`)「僕は、一人で歩きたい。そのためには君が必要だ」



332:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:31:21.83 ID:Y54Kj55K0

(´・ω・`)「僕は、満足することは止めた。この世界を納得するまで謳歌することにしたよ。
       平和を取り戻した、この人間の世界で」

川 ゚ -゚)「ショボン…さん……」

(´・ω・`)「まずは歩けるように。次は車の運転ができるように。
       次は……そのときに考えよう。僕はまだ満足したりないんだ」

川 ; -;)「はい……頑張りましょう……ショボンさん………」


泣いているクーの髪を撫で、笑いかけるショボン。


そう、人間は永遠に満足することはないのだ。
人間の欲は無限だから、ここまで世界が発展することができた。

人は物を美味しく食べたいと願った。人は速く移動をしたいと願った。
人は空を飛んでみたいと願った。人は人に勝ちたいと願った。

だからこそ、良くも悪くもここまできた。
願いという欲を糧に。

これからも人間は歩むのを止めないだろう。
そこに願いがあるかぎり。ずっと。



335:バトロワ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:32:36.12 ID:Y54Kj55K0

^^おっと
次の世界に行かないと駄目なようだな


指先がちりちりと、粒子状になって空気中に溶け込んでいく。
そこからゆっくりと、確実に身体を蝕んでいた。

俺は自分にない強さを手に入れたのだろうか。見ることができたのだろうか。

絶対に会うことができない人物に巡り会わせてくれたことを、ブーンに感謝した。
この世界に導いてくれたことを。


(´・ω・`)「いってしまうのか」

^^あぁ

(´・ω・`)「次は、僕が君の世界に行かせてもらうよ」

^^楽しみにしている


もう、視界が定まらない。ショボンがそこにいることさえわからなくなっていた。
そんな俺の耳に、ひとつの言葉が聞こえてくる。

ありがとう、と。



339:料理人? 中出しして……ぐふぅ ◆I40z/j1jTU :2007/10/02(火) 23:34:28.76 ID:Y54Kj55K0
ショボン、お前はそこにいるのか?

俺には、もうお前のことが見えない。
だからその声を頼りに信じてみるよ。


完全に視界が白に染まっていた。
彼らの世界に、自分という存在はもういないのかもしれない。
いまさら、言葉を伝えても遅いのかもしれない。


だけど、俺もお前と同じく伝えたいたい言葉あるんだ。
ショボンの心に届くと信じて、願いを込めて呟く。



――――ありがとう。



想いをのせた紙飛行機が、ゆっくりと飛び立った。



――続――



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