(´・ω・`)ショボンが悲しい夏を振りかえるようです

216: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:18:01.04 ID:AYIjeT/n0

僕がそう言うと、ジョルジュは下を向いてしまった。
ジョルジュの下になにか湿ったあとがある、と思ったら、それはジョルジュの額から流れている汗だった。
これはただならぬ事態かもしれない。僕は少し怖くなってきていた。
するとジョルジュは下を向いたまま僕のほうを見ないで、一言、言葉を発した。

( ゚∀゚) 「ショボンは今軽い恐怖を感じてるな……」

(´・ω・`;) 「え?」

まず僕は自分の感情が態度に出てしまっていたか、と考えた。
しかし、ジョルジュは―― 一切僕のほうを見ていない。
まさか、と僕は考える。その瞬間僕は確かにそれを裏付けるものを思い出してしまった。



220: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:20:50.61 ID:AYIjeT/n0

まずゲームセンターでUFOキャッチャーをしているとき、ジョルジュは少し不自然な発言をした。
調子にのって連続でUFOキャッチャーをやろうとした僕に対して、「これ以上やらないほうがいいみたいだ……。怒ってる人がいる」と。
あのときも思ったが、僕たちの周りの人だかりからは決して怒っている人はいるようには見えなかった。
そしてその後、恐らく僕たちからは見えない死角にいたであろうDQN達が、キレてカップルを襲った。
ジョルジュが止めなければ、きっと僕達が襲われていたことだろう。

これだけなら僕は偶然で済ませてしまっただろう。実際にありえないことでもない。
しかし、もうひとつ絶対的にジョルジュは不自然な発言をした。それはジョルジュが早退して、ジョルジュの家に行ったときのことだ。
バンドを組むかどうかを決めるときに、僕は父や周りのしがらみを気にしてなにも自分で決められないことを、情けない、と感じていた。
しかし、その後のジョルジュが言ってくれた言葉で、僕はバンドを組むことを決めた。その言葉とは――



225: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:23:01.42 ID:AYIjeT/n0

「情けないと思うなら、変わるチャンスだと思えよ」

僕はそのとき違和感を覚えながらも、「変わるチャンス」という言葉に刺激されて、前半の言葉はあまり意識していなかった。
しかし、今よく考えてみると絶対におかしい。
僕は情けない、と感じていたが、それを言葉にはしていなかった。仮に表情に出ていたとしても、情けない、という具体的な感情まではわかることはなかっただろう。

僕はジョルジュが今なにを言おうとしているか、なんとなくわかってしまった。
それはとても怖い――この感情もきっとジョルジュにはわかってしまっている。
僕は意を決して、自分からジョルジュに結論をもちだした。

(´・ω・`;) 「ジョルジュにはあるんだね――その力が」

( ゚∀゚) 「……ああ」

にわかには信じられなかった。そんな力――それとも一種の病気だろうか。
僕はそこで考える。そんな力をもっていると、どんな感じなのだろう、と。



230: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:25:37.90 ID:AYIjeT/n0

感情、といっても様々なものがある。
喜び、楽しみ、嬉しい、――それはあくまで正の感情だ。それに対して、苦しい、憎い、悲しい――負の感情も存在する。
それらの感情をごっちゃまぜに浴びながら、日々生活をすること――考えただけで吐き気がした。
しかし、ジョルジュはそんな毎日を生き抜いているのだ。僕は素直に偉い、と思った。
そしてきっと今ジョルジュは助けを求めている。僕にはそう感じた。

(´・ω・`) 「僕はそれを全然気にしないわけじゃない。だけど、それを知ったからといって君を避けたりもしない」

( ゚∀゚) 「……」

(´・ω・`) 「君が苦しいなら、僕はそれを助けたいと思う。君は僕が苦しいときに助けてくれたからね。友達ってそうゆうもんだろ?」

僕がそう言った瞬間、ジョルジュは泣き出してしまった。
多分今までの苦しみと悲しみが思い出されたのだろう、と思ったが、ジョルジュの言った言葉はそれとは全く違った。

( ;∀;) 「今のショボンの感情からは……偽りが全く感じられなかった……」



234: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:27:45.65 ID:AYIjeT/n0

僕はそう言われて思わず恥ずかしくなった。言った瞬間は意識していなかったが、ジョルジュには僕の言葉を見分けることができるんだった。
でも、それが逆に良い方向に出たみたいだったので安心した。

その後僕とジョルジュは話し合った。
僕はこれからもジョルジュを支えていくと約束し、ジョルジュも僕を支えていく、と約束した。
そしてもうひとつ大事なこと――しぃ、そしてクーにも真実を言うべきか。
僕は正直に言ったほうがいい、と提言した。だが、ジョルジュはそれを否定した。クーに知られるのは本当に怖い、と。
ならばしぃには、と言おうとした。だが、知ってる人は少ないほうがいいと思い、僕は言葉を飲み込んだ。

その後ジョルジュと僕は、再度友情を確認しあって――そしたらジョルジュがものすごい勢いで泣き出した。僕も少しだけ泣いた。
ジョルジュが泣き止んだころには、既に昼の十二時を回っていた。



237: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:30:14.76 ID:AYIjeT/n0

( ゚∀゚) 「……昼飯でも食いにいくか」

(´・ω・`) 「どこで?」

( ゚∀゚) 「学生の味方といえば、サイゼしかないだろう!」

(´・ω・`) 「ミラノ風ドリア乙」

30分かけてサイゼに着いてからは、僕らはいつも通りの関係だった。
決して、ギクシャクして取り繕っているわけではない。お互いの本当を聞けてスッキリしたからこその関係だった。
その後もずっとジョルジュと僕は語らう。今日のライブのこと、お互いの彼女のこと。気づけば三時間が経過していた。

( ゚∀゚) 「やべ、そろそろ行かないとクー達との待ち合わせの時間に間に合わねぇ」

(´・ω・`) 「じゃあ出ようか……お会計560円だって」

なにを注文したかは想像に難くないだろう。
僕らはお会計を5秒で済ませると、待ちあわせ場所の市民ホールへと再び向かった。



242: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:33:19.00 ID:AYIjeT/n0

川 ゚ -゚) 「遅いぞ、ジョルジュとショボン」

(*゚ー゚) 「本当だよ〜、あと一時間でライブはじまるよ〜」

( ゚∀゚) 「ごめんよ〜、クー」

(´・ω・`) 「ごめん、しぃ」

僕らが市民ホールに着いたのは、約束の時間を三十分ほど過ぎたときだった。
出番まであと一時間というのは今初めて知って驚いたが、むしろワクワクさせてくれた。

川 ゚ -゚) 「じゃあ行こうか」

(*゚∀゚) 「あ、うん」

そう言うとクーさんはジョルジュの手を握って、市民ホールの中へと入っていった。
僕はジョルジュの赤面に思わず苦笑が出そうになった。さっきまでの話がまるでなかったみたいだ。
そこでしぃが自分を見ているのに気づいた。



246: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:35:24.50 ID:AYIjeT/n0

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`*) 「手、握ろうか」

(*゚ー゚) 「うん!」

僕らはしっかりと手を握って市民ホールへと入っていった。


僕達が市民ホールの控え室に押し込められてから、既に四十分が経っていた。
軽く合わせてみたものの、みんな緊張でいまいちしっくり来ない。その中で僕の演奏が一番ひどかった。
僕は別に緊張していたわけではない。ただ怖いのだ。全国コンクールのときのようになってしまうのが。

(´・ω・`;) (また失敗してしまったら……)

今日だけは失敗できない。
そう思うと余計にあの時のことを思い出してしまう。
僕は怖くて怖くて――



251: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:37:42.92 ID:AYIjeT/n0

( ゚∀゚) 「おいおい、いきなり支えなくちゃいけねぇか?」

(´・ω・`) 「……必要ないよ」

僕とジョルジュが笑っているのを見て、しぃとクーさんもつられて笑った。
一回笑ってしまうと、今までの雰囲気が嘘のように明るくなった。

とうとう僕らの出番が回ってきた。
それぞれの楽器をもって、ホールのステージへと向かう。
そしてそれぞれの位置につくと――

(´・ω・`;) 「すごい……」

(*゚ー゚) 「あらら……」



253: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:40:30.31 ID:AYIjeT/n0

観客の数はゆうに200人を越えていた。ざわざわと騒いでいる。
その人数はアマチュア、ましてやこのライブが初めての僕らにとってあまりに多すぎる数だった。
思わず呆気にとられてしまう、僕としぃとジョルジュ。クーさんは――すごく目を輝かせていた。

川 ゚ -゚) 「素晴らしい……」

そんなクーさんを見ていると、なんだが安心してきた。
ジョルジュはもちろん、しぃも僕の気持ちが伝播したようだ。二人とも笑顔を浮かべている。

川 ゚ -゚) 「みんな、このライブ楽しもうじゃないか」

( ゚∀゚) 「もちろん!」

(*゚ー゚) 「うん!」

(´・ω・`) 「……ああ!」



256: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:43:28.09 ID:AYIjeT/n0

僕らは演奏の態勢に入った。
それを見て騒いでいた観客のみんなも静かになる。
ところどころで、「ピアノなんであるの?」とか聞こえてくるが、逆にそれが僕を熱くさせた。

僕らは一曲だけしかやらないけど、この一曲はすごく自信がある。
そしてこの曲は、僕の前奏から始まる曲だ。

(´・ω・`) (みんないくよ……)

僕は静かに弾き始める。
ゆっくりとそして静かに、でも決して軽くはなく――完璧だ。
そこにしぃのギターとジョルジュのドラムが同じく静かに入る。それはまるで森の中の静けさのようだ。
そこで僕はチラッと観客を見る。みんな真剣に聞き入っている。つかみはOKのようだ。



260: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:46:25.28 ID:AYIjeT/n0

そして森の中に小さな光がさしこむ――クーさんの流麗な歌声だ。
さすがにクーさんの歌声が入ると、観客の反応も違う。観客から感嘆の溜息が多々聞こえてきた。

そして演奏と歌声はそのままメロディを保っていく。
そのメロディの希望の色に、観客の表情も明るくなる。
だが、この曲がサビに入ったとたん――静かな森に嵐がやってきた。
全体的に暗さを込めるが、どこか惹きつけるものがあるメロディ。そしてそれを表現してしまう歌声。
観客のテンションがかなりあがっているのを感じられた。

みんなここがこの曲の見せ場だと思っているだろう。だけど、この曲の本当の見せ場は――最後にさしこむ光だ。
やがて嵐はすぎさり、森に希望の光が舞い戻る。そしてそのまま――



266: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:48:46.11 ID:AYIjeT/n0

川;゚ -゚) (最後まで全力で――)

(*゚ー゚) (最高の演奏を――)

(;゚∀゚) (絶対にやり遂げてやる!)

(´・ω・`) (この四人で一生続けたいんだ!)

最後に僕の速弾。それがすべてを締める。
僕の指は――自分のものと思えないくらい素晴らしいエンドを弾き――僕らの舞台は終わった。



273: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:51:04.04 ID:AYIjeT/n0

川;゚ ー゚) 「みんなよくやった……」

(*゚ー゚) 「本当に嬉しい……」

( ゚∀゚) 「最高の演奏だったぜ!っておい、ショボン!」

(´;ω;`) 「みんな…うっ…ありがとう」

自然と涙が溢れていた。本当に嬉しくて、最高の演奏で。
今までなにもかも中途半端だった自分が初めて一生懸命になれた。それができたのも三人のお陰だ。

僕がしばらく泣いていると、ジョルジュがポンと肩をたたいた。

( ゚∀゚) 「前を見てみろよ」

(´;ω;`) 「え?」



279: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:53:28.55 ID:AYIjeT/n0

ジョルジュに言われたとおり前を見ると――そこには総立ちで拍手している観客がいた。
しかも最初は200人程度だった観客が、今は立ち見の人さえいるほどだ。それだけ僕らの演奏が届いてくれたのだろう。
しまいにはアンコールの声さえ出てきていた。

川 ゚ -゚) 「アンコールか、どうする?」

(*゚ー゚) 「う〜ん、逃げようか」

( ゚∀゚) 「よっしゃ! ダッシュだ!」

(´・ω・`) 「ああ!」

僕らは観客のアンコールの声を無視して、楽器を持ちそのまま会場の外へと飛び出した。
先頭を走るジョルジュの勢いは止まることなく、気づけば学校まで来てしまっていた。



285: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:56:14.45 ID:AYIjeT/n0

( ゚∀゚) 「入っちまうぞ」

(´・ω・`;) 「まじか」

そのままの勢いでフェンスを乗り越えていく。目指すはもちろん音楽室だ。
一番乗りはジョルジュで、二番、三番はクーさんとしぃ。実は僕、長距離走だけは苦手で、ダントツのビリだった。

(´・ω・`;) 「はぁはぁ、みんな早すぎ……」

僕が音楽室についたときにはみんな既にいつもの位置についていた。
ああ、なるほど。そうゆうことか。みんなの意図を理解した僕は、ピアノの前に座り、ゆっくり前奏を弾き始めた――



290: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:59:05.58 ID:AYIjeT/n0

( ゚∀゚) 「いや〜、しかし今日のライブは大成功だったな〜」

(*゚ー゚) 「観客がアンコールしたときは思わず泣きそうになっちゃったよ〜」

(´・ω・`) 「ああ、本当によかった。これもすべてこのショ 川 ゚ -゚) 「みんなのお陰だな」

(´・ω・`;) 「はい」

四人でゆっくりと語り合う。なんて素晴らしい時間なんだろう。
ライブの話、学校の話、これからの話、それらはすべて希望に満ちていた。
僕はこれ以上ないくらいに幸せな時間を過ごした。

川 ゚ -゚) 「それじゃあそろそろ解散するか」



299: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:02:36.33 ID:AYIjeT/n0

クーさんがそう言ったとき、音楽室の時計は既に夜の十時を指していた。
みんな本当は帰りたくないのだが、そうも言ってられない。僕もゆっくりと立ち上がる。

( ゚∀゚) 「また必ずライブやろうな」

(´・ω・`) 「ああ、もちろん」

(*゚ー゚) 「やっぱこの四人最高だよ」

川 ゚ -゚) 「私達の友情は、永遠だな」

クーさんの言葉に僕は照れくさくなるが、やっぱりすごい嬉しい。
かつてこれほどの仲間ができたことのない僕にとって、この三人はかけがえのない存在となっていた。



307: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:05:12.51 ID:AYIjeT/n0

( ゚∀゚) 「じゃあそろそろ帰るか」

ジョルジュがそう言って、音楽室から出て行く。クーさんもそれに続く。

(´・ω・`) 「じゃあ僕らも――」

僕がドアの取っ手に手をかけた途端、後ろから袖を引っ張られた。
後ろを振り返ると――しぃが顔を赤らめながら僕のシャツの袖をもっていた。

(*゚ー゚) 「もうちょっとここにいようよ……」

(´・ω・`*) 「え、でも――ん」



312: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:07:15.59 ID:AYIjeT/n0

僕が口を開いた瞬間、しぃが強引に僕の唇を塞いだ。
それはもちろん――しぃの唇で。初キスだ。
そしてそのまましぃが舌を入れる。僕もそれにつれらるように舌を入れて絡めあう。
そして僕はそのまましぃをゆっくりと寝かせて――お互いに探りあいながら、初めての体験を過ごした。
そのとき僕はただただ――しぃが愛しくてたまらなかった。



323: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:12:08.86 ID:AYIjeT/n0

ジョルジュとしぃとクーさん。
この三人と出会ってからの僕の人生はとても充実して、楽しい。
でもこんな毎日が続くと、ふと思うんだ。

こんな幸せがいつまでも続くわけがない――ってね。

ただ、今しぃを一生懸命愛し、しぃに一生懸命愛されている僕には、この幸せが消えてなくなることなど全く想像できなかった。
だけど時間の流れって残酷なんだ。僕としぃが果てた頃には――その状態が想像できなくもなかったからね。

僕はそんな日が来るのが怖くてたまらなかった。僕が想像したものは――思ったより現実的で残酷なものだったから。


【希望編】 完 

【絶望編】 へ続く



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