(´・ω・`)ショボンが悲しい夏を振りかえるようです
- 5: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:42:18.27 ID:JUWRz7gi0
【希望編】
あれは6年前、僕が高校一年生のときだった。
その頃の僕はマジメで優秀な生徒――を演じていた。そうしていないと医者である父からは怒鳴られるし、お嬢様育ちの母からは泣き叫ばれるから。
そんな僕の毎日は、勉強と習い事ばかり。勉強は嫌いではないが、そのとき習わされていたピアノは大嫌いだった。
英才教育とは名ばかりの、母の自己満足。その為に僕はピアノを3歳のときからやっていた。
当然13年間も続けていれば、それなりのものは弾けるようになり、少々名のあるコンクールでの入賞も度々あった。
すべてを親に決められた生活。当然ストレスも半端ではなかった。しかし、そんな生活の中にも僕を支えてくれるものはあった。
――6年前
うだるような暑さの中、僕は、毎朝決められた登校時間より二十分早く学校へ行く。
僕の学校はバリバリの進学校なので、みんなそれくらいの時間に登校しては、黙々と勉強をしているんだ。
しかし、その中にもやっぱり一人や二人は例外もいる。
- 6: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:44:22.15 ID:JUWRz7gi0
(; ゚∀゚) 「遅刻ぎりぎりセーフのエブリデイ!!」
それがこの男、長岡ジョルジュであった。
今、本人が言ったとおり、ジョルジュは毎日遅刻ぎりぎりで登校してきていた。そんな彼に冷ややかな視線を浴びせるクラスメイトは多い。
しかし、それでもジョルジュがいじめられたりすることはなかった。その理由は、至って簡単である。
(´・ω・`) 「やあ、ジョルジュ。今日も騒々しいね」
( ゚∀゚) 「おっす! ショボン! そこは賑やかと言ってほしいな!」
僕と友達であるから。
成績は常にトップ、スポーツも万能で、ピアノも優秀。そしてなにより、有名な外科医である父。それらの肩書きが、自然と僕をクラスの中心人物へとのし上げていった。
しかし、僕は正直そのポジションが嫌いであった。
僕についてくるブランドばかりを気にして、近づいてくる友達。反吐がでる。
それに対して、ジョルジュは本当の僕を見てくれている、と思う。そう思えたから、ジョルジュとは仲良くやっていた。
- 8: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:46:23.73 ID:JUWRz7gi0
放課後になると、この学校の8割の生徒は塾へと向かう。残りの2割の生徒は部活へと向かう。部活に入っている生徒のほうが少ないという珍しい学校だった。
僕は当然前者で、ジョルジュは少数派の後者であった。
(´・ω・`) 「じゃあ僕は塾があるから先に帰るよ」
( ゚∀゚) 「ああ、俺は今日もサッカー部員の勧誘だ」
(´・ω・`) 「いつも大変だね。健闘を祈るよ」
( ゚∀゚) 「お前が入部してくれれば楽しくなるんだけどなー」
(´・ω・`) 「フフ、僕もできればそうしたいんだけどね。それじゃあバイバイ」
ジョルジュが入部しているサッカー部は、他の部活よりも圧倒的に部員が少なかった。その数3名。ジョルジュと、二年の先輩と、三年の先輩だけだ。
そのため、一年のジョルジュはいつも部員勧誘のビラ配りをしていた。そのほとんどは、ゴミ箱いきであったけど。
しかし、ある日ジョルジュが興奮気味に僕のところへやってきた。
- 10: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:48:24.79 ID:JUWRz7gi0
(*゚∀゚) 「くぁwせえdrtgふじこlp;」
(´・ω・`;) 「まず落ち着こうか」
興奮しすぎて、ものすごい早口のジョルジュ。よく聞いてみると、新入部員が入ったらしい。といってもマネージャーで、一年C組のしぃ、という女の子であった。
(´・ω・`) (一年C組……。同じクラスじゃないか)
そのときは大して気にもとめなかった僕だったが、次の日早速、僕はしぃの顔を知ることになる。
今日もいつも通りに二十分前に登校し、自分の席に着く。そしていつも通りジョルジュが来るまで、ボーっとしてる。しかし、そのときいつも通りではないことが起きた。
視線を感じる。それもものすごく凝視されている感じだ。僕は、恐る恐る視線の感じる方向へと目を向けた。
(*゚ー゚) 「……」
(´・ω・`*) (可愛い……)
- 15: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:50:30.71 ID:JUWRz7gi0
かなり離れた席から僕を見ていた。
しかし、そんなことはどうでもいいくらいにその子は可愛かった。
透き通るような白い肌。白い頬がほんのりと赤くなっているところも良い。目もパッチリしていて、小柄で――
なにもかもが僕のストライクゾーンであった。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう。こんな可愛い子の存在に。しかし、その謎はすぐに解けた。
彼女が座っている席は、いつも空席の席であった。
登校拒否、ではない。入学時に担任が、長期の入院と説明していた。
きっと最近退院したのだろう――僕がそんなことを考えながら、彼女のほうを見ていると、不思議なことに彼女が段々と大きく――
(*゚ー゚) 「はじめまして、ショボン君」
(´゜ω゜`;) 「わっ!!」
いきなりのことに僕は慌ててしまった。
あまり女の子に免疫のない僕にとって、女の子から話しかけられることはもちろん、こんな可愛い子から話しかけらることなど、一大事であった。
しかし、僕はすぐに冷静になる。なぜ、この子は僕の名前を知っているんだ。今まで学校に来ていなかったのに。もしかして、僕のことを――
- 17: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:53:02.87 ID:JUWRz7gi0
(*゚ー゚) 「ジョルジュ君から話は聞いてるよ〜。この度、サッカー部のマネージャーになった、椎名しぃです。よろしくね」
(´・ω・`;) 「ああ、よろしく」
期待はいつも外れるものだ。なんてことはない、彼女が新しくサッカー部に入部したマネージャーであった。
しぃが言ったとおり、僕のことはジョルジュから聞いたから知っていたんだろう。まぁ、それでも少し嬉しいけど。
しかし、それからの学校生活は以前よりも少し楽しくなった。
学校へ行けば、ジョルジュとしぃがいる。
( ゚∀゚) 「よお! ショボン! 例のDVD……ウワップ」
(´・ω・`;) 「その話はやめてくれ!しぃに聞かれたら……」
(´ ・ω・`)
(*゚ー゚) 「……」
(´・ω・`) (オワタ\(^0^)/)
(*゚ー゚) 「なんの話〜? いやらしいことでしょ〜」
( ゚∀゚) 「YES! Iamおっぱい!」
(´・ω・`) (*゚ー゚) 「あははは」
以前ではあり得なかった話題もどんどん話せるようになっていた。
女の子が一人いるだけで、全く雰囲気も変わってくる。いや、女の子だからではない。しぃだから、といったほうが正確だろう。僕は段々としぃに惚れこんでいった。
しかし、そんな楽しい時間も放課後になれば一変した。
- 19: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:55:16.32 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「じゃあ、サッカー部の練習いってくるわー」
(*゚ー゚) 「じゃあね、ショボン君」
(´・ω・`;) 「ばいばい」
ジョルジュとしぃは部活へ。僕は塾か習い事へ。
(´・ω・`) (僕だけ蚊帳の外、か……)
塾や習い事をさぼろうと思ったことは何度あっただろう。しかし、僕にはその勇気がなかった。父が怖かったのだ。
ましてや、ピアノに関しては全国コンクールの直前で、とてもさぼろうと思うことができなかった。
ジョルジュとしぃが段々と仲良くなってきているのが、日々の生活で見てとれる。周りから見れば、付き合っているようにも見えるだろう。
だが、付き合ってはいないらしい。ジョルジュが以前、しぃがメールで「好きな人がいる」と送ってきたことがあったそうだ。
でも、僕はジョルジュならしぃと付き合っても全然問題はなかった。むしろ、幸せな気分になれるだろう、とまで思っていた。
- 21: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:58:21.13 ID:JUWRz7gi0
それから2週間経ち、ピアノの全国コンクールの前日となった。
家族、同級生、先生、ピアノのコーチからのどんな励ましも僕にはなんの価値もなかった。
レッスンが終わり、家に帰っても、ただただ二人からのメールを待った。
(´・ω・`) 「まだ来ない……」
携帯の時計を見ると、もう11時になっていた。
明日のことを考えると、そろそろ寝なければならない。しかし、そんな心配より二人からのメールがくるかどうかが重要だった。
(´・ω・`) (一応、コンクールのことは言ってあったんだけどなぁ)
もうそろそろ12時になる、という時に、僕も諦めて寝ようとした。そのときになってやっと携帯からメールの受信音が鳴り響いた。
07/04 23:47
From 長岡ジョルジュ
Sub 明日のコンクール
頑張れよ! 俺もかげながら応援してるぜ!
コンクール終わったら、しぃも入れて三人でパーっと打ち上げでもしよう!
嬉しかった。
来ると思ってはいたけど、実際メールを見るとすごい嬉しい。一瞬泣きそうになってしまった。
僕は急いで、返信する。
- 22: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:00:38.09 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`) (ありがとう。打ち上げ楽しみにしてるよ、と。送信)
僕がジョルジュに返信をしてから一分後、再び携帯の受信音が鳴り響いた。
ジョルジュにしては、早すぎるな、と疑問に思いながら携帯を開いた。
07/04 23:52
From 椎名しぃ
Sub 件名なし
ショボン君明日はコンクールだね(・∀・*)
プレッシャーとか大変だと思うけど、ショボン君なら大丈夫だよ(0^v^0)
それじゃぁおやすみなさい(−。−)zzz
(´・ω・`*) (ktkr!!!)
僕はものすごく有頂天になった。しぃとはいつもメールしているが、このメールは格別な感じがした。
有頂天になりすぎて、僕は携帯を握ったまま眠りに落ちてしまった。それからすぐに鳴った受信音には気づかずに。
- 24: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:03:06.74 ID:JUWRz7gi0
次の日、目が覚めて目覚まし時計の時間を見たらギリギリの時間だった。
僕は急いで、朝の支度をして、家を出る準備をした。途中で携帯を見たが、一晩握り締めていたせいで電池切れしていた。
家をでて、駅へと向かう。そこから約一時間電車に揺られて、目的の駅へ。そこからバスに三十分乗り、会場へと着く。
会場に着いたときには、既に開会式の直前であった。
急いで控え室で着替えをすませ、演奏のイメージトレーニングに入る。いまいち集中できない。
(´・ω・`;) (僕の出番は5番目か……)
早い。今の僕には早すぎる。全く準備もできていないし、なにより心が落ち着いていない。
落ち着け、落ち着け、と僕は自分にいい聞かせる。このままでは本番でいい演奏ができなくなってしまう。僕はかなり焦っていた。
そうこうしているうちに控え室の扉が叩かれる。
どうやら僕の出番らしい。さきほどから僕を呼ぶ声がする。
だけど、もうちょっと待ってくれ。まだ、準備ができていないんだ。頼むからもうちょっとだけ――
- 25: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:05:09.96 ID:JUWRz7gi0
(´‐ω‐`) (……)
それはかつてないほどひどい演奏だった。まるで自分の指が自分の意思とはうらはらに鍵盤を叩き続けているようだった。
僕は悔しくて、涙を流した。
僕が今まで頑張ってきたものはなんだったんだろう。ジョルジュとしぃとの時間を削ってまで、練習してきたものはなんだったんだろう。
結局答えは出なかった。
トボトボと家路につく。きっと家に帰れば、両親からは怒鳴られ飯抜きにされることだろう。ピアノのコーチからは見限られてしまっただろう。家に帰るのがとても怖かった。
地元の駅でおりて、ゆっくりと家へ向かう。
皮肉なことに、家は駅から近くて、あっという間に家の門の前まで来てしまった。
僕は無駄だと知りながらも、インターホンを鳴らさないように、音をたてないように気をつけて玄関をあける。
そしてゆっくりと顔をあげると――そこには鬼の形相をした父がいた。
(`・ω・´) 「ショボン、結果はもう知っている」
(´・ω・`) 「情報が早いですね」
(`・ω・´) 「コーチの先生から聞いた。そして先生はもう家には来ない、と言っていた」
(´・ω・`) 「そうですか」
(`・ω・´) 「……どうやらショボンには練習量が足りなかったようだな」
(´・ω・`) 「それでどうされるんですか?」
(`・ω・´) 「新しいコーチを雇った。毎日塾の後に5時間の練習だ。わかったな」
- 28: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:08:43.48 ID:JUWRz7gi0
僕の我慢は限界まできていた。一回もコンクールを見に来ないくせに。僕がどれだけ努力をしたか知らないくせに。
僕はもうピアノなんてやりたくない!
心の中でそう叫んだつもりだったのだが、自然に言葉としてでていたらしい。父の顔が激昂しているのがわかった。
(`・ω・´♯) 「いい加減にしなさい、ショボン! お前は誰のお陰で今の生活ができていると思っているんだ!」
(♯´・ω・`) 「僕が望んで今の生活をしているわけじゃない!」
(`・ω・´♯) 「なんだと! じゃあお前は今の生活に満足していないというのか!」
(♯´・ω・`) 「ええ、してませんよ! 勉強もピアノもお金もすべて糞くらえだ!」
僕はそう叫ぶと、強引に父を押しのけて、一階にある自分の部屋へと閉じこもった。
遠くからなにか父の叫び声が聞こえたが、すべて無視していた。
(´・ω・`) (初めて父さんに口答えしたな……)
初めての親子喧嘩に、僕の心臓は未だにドクドクいっている。やっぱり僕って度胸ないんだね。
きっと明日からも結局、勉強とピアノをひたすらやるのだろう。僕は自分の未来に絶望して、枕を濡らしていた。
どのくらい時間が経ったのだろう、僕はいつの間にか寝ていたらしい。
目覚まし時計を見ると、もう夜の8時になっていた。
- 30: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:11:39.58 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`) (なんで目が覚めたかなぁ)
僕は疑問に思いつつ、トイレに行こうと起き上がった。
と、そこで携帯が光っているのに気づいた。部屋に入るとき、つい習慣で充電していたのだ。
僕は携帯を充電器から外して、開く。
(´・ω・`;) 「メール20件……」
そこにはジョルジュとしぃからおびただしい量のメールが届いていた。しかもどれも件名のみだ。
一番新しいものは、つい2分前に届いたばかりだった。僕は、新しいものから順に10件ほど開いていった。
(´・ω・`) (窓!……気づいて! ……ショボン!! ……しぃだよ! ……あけろー! ……おっぱい!)
どのメールも超短文で、要領を得ていなかった。
しかし、そのひとつひとつを繋げていくと――
(´・ω・`) (しぃだよ! おっぱい! 気づいて! ショボン! 窓あけろー! )
(´・ω・`;) (しぃだよ! おっぱい!ってちがぁぁぁぁぁぁう!!!)
僕は急いで、部屋の窓を開けた。
するとやっぱりそこにはジョルジュとしぃがいた。
- 34: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:14:53.69 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`;) 「なにしてるんだよ。こんなところで」
( ゚∀゚) 「おいおい、迎えにきてやったんだぞ。感謝しろ」
(*゚ー゚) 「そうだよ〜。昨日ジョルジュ君から打ち上げやるって聞かなかった〜?」
(´・ω・`) 「あっ」
僕は急いで、昨日のメールを見直す。そこには確かにジョルジュからの打ち上げの誘いと、僕の了承した送信メールがあった。
しかし、昨日だって僕はそれを本気にしていなかった。まさか本当にやろうと思っていたなんて。
僕は嬉しくて、思わず顔が火照るのがわかった。二人にばれないように下を向いていたけど。
(*゚ー゚) 「じゃぁ行こうか〜」
(´・ω・`) 「え、でも……」
( ゚∀゚) 「だいじょーぶだって! さっさと行くぞ! 駅で待ってるから急いで着替えろ! なるべく大人っぽい格好でな!」
そう言うと、ジョルジュとしぃは窓を閉めて行ってしまった。
残された僕はどうしようか、と考える。
今から家を出たりして、もし父にばれたら大変なことになるだろう。飯抜きじゃ済まされないかもしれない。
しかし、今ジョルジュたちについていったら――とても楽しそうな気がする。
僕は無意識のうちに着替え始めていた。滅多にきることのない私服に。
そして、音を立てないように玄関に靴を取りにいく。そして、部屋にもどると窓を開けて――僕は家から飛び出した。
- 37: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:17:27.18 ID:JUWRz7gi0
そこからの時間は夢のようだった。
二人は僕がいったことの無いような場所へ連れて行ってくれた。
ファッションショップ、カラオケ、ちょっと危ない本屋――すべてが新鮮だった。
そして最後にゲームセンターに行くことになった。僕が行きたかったから、二人にお願いをしたんだ。二人は快くOKしてくれた。
ゲームセンターについた僕らは最初に太鼓の達人、というゲームをやった。
僕とジョルジュで、トレイントレインの曲を選んだ。
( ゚∀゚) 「うぉぉぉぉぉ! 俺の太鼓の達人っぷりを見ろぉぉぉ!」
(*゚ー゚) 「……」
(´・ω・`;) 「すごい……」
気づけば回りに人だかりができていた。その原因を作ったジョルジュ。彼の鉢さばきは神だった。
終わってみればジョルジュは一番上のクラス、対して僕は一番下のクラスだった。
(´・ω・`) 「ショボーン」
( ゚∀゚) 「ふっ……相手が悪かったな」
(*゚ー゚) 「次はUFOキャッチャーやろうよ!」
- 41: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:20:41.20 ID:JUWRz7gi0
しかし、UFOキャッチャーで僕は意外な才能を発揮した。
初めてやったのだが、なんだが面白いようにとれる。
(´・ω・`) 「よっ……」
僕が狙ったのは、モナー人形。今流行のキャラクターだ。ノマネコとは別ものさ。
そして、クレーンがモナー人形を掴み――ポトリと穴へ吸い込まれていった。
(*゚ー゚) 「すごーい!!」
(; ゚∀゚) 「またとりやがった……」
(´・ω・`) 「10個めだね。今日は調子がいいなぁ」
気づけばまた人だかりができていた。さきほどから百発百中の僕に気づいたらしい。
僕は調子に乗ってもう一回やろうと、財布から100円とりだした。すると、ジョルジュに止められた。
( ゚∀゚) 「これ以上やらないほうがいいみたいだ……。怒ってる人がいる」
(´・ω・`) 「そうなの?」
僕は周りを見るが、みな羨望の眼差しで僕を見ている気がする。
怒ってる人などいるようには見えないが、ここはジョルジュに従うことにした。
僕らがUFOキャッチャーから離れて、次の人が入った瞬間のことだった。
「キャー!」
- 43: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:22:44.51 ID:JUWRz7gi0
女の人の叫ぶ声がする。僕らがさきほどいたUFOキャッチャーのほうからだ。
ジョルジュと僕は慌ててもといた場所に向かっていった。
するとそこには男女のカップルとそれを囲む数人の男たちがいた。
(♯)^ω^) 「な、なにするんだお!」
ξ;凵G)ξ 「そうよ! ブーンがなにをしたっていうの!」
DQN 「うるせー! 俺らがずっとやろうと思ってたんだよ!」
(♯)^ω^) 「僕らはちゃんと並んでたお!」
DQN 「うるせーんだよ!」
そう言うと男たちは、ブーンと呼ばれた青年を殴り始めた。
ブーン青年は頭だけをガードしてうずくまっている。そして、それを見て泣き叫ぶ彼女と思われる人物。
僕はどうしようかと迷ってるうちに、ジョルジュが勢いよく飛び出していった。
(♯゚∀゚) 「てめぇら! 一人に多勢で恥ずかしくねぇのか!」
そう言って、ジョルジュが一人の男に飛び掛ろうとした瞬間――僕はとっさに叫んだ。
「なにをしている! 警察だ!!」
DQN 「やべ、逃げろ!」
警察、の声に反応した男たちは急いでゲームセンターから逃げてしまった。
ジョルジュは危機一髪、輪に入らないですんだ。これも僕の機転のおかげかな。
- 46: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:26:10.29 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「助かったぜ、ショボン」
(*゚ー゚) 「ショボン君、すごいじゃん!」
僕は二人から褒められて、少し誇らしかった。
それからもう少しだけゲームセンターで遊んで、僕たちはここをあとにした。
三人でゆっくりと歩く。学校のことや、今日のこと、色々話しながら。こーゆー時間は意外と嫌いじゃない。
そしてとうとうジョルジュとしぃとわかれる道まできてしまった。
( ゚∀゚) 「それじゃあ、ここでお別れだな」
(´・ω・`) 「……ああ」
(*゚ー゚) 「うん、ショボン君帰ったらメールするね」
(´・ω・`) 「……うん」
僕は帰りたくなかった。
この夢のように楽しい時間を捨てたくなかった。あの苦しい現実に帰りたくなかった。
だけどそれは許されない。時間の流れというのは時に残酷なんだ。
ジョルジュとしぃに手を振って、僕は二人に背を向けゆっくりと歩き出す。
二人は同じ道だ。僕はまた一人ぼっちだ。
だけど、今日ほど一人じゃないと感じたことはない。僕は二人に対する感謝の気持ちを我慢しきれなくなった。
僕は急いで振り返り、大きな声で叫んだ。
- 49: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:28:16.03 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`*) 「ジョルジュ! しぃ! 今日は楽しかった!! 本当にありがとう!!」
二人はだいぶ遠くまで歩いていたが、なんとか僕の声は届いたようだ。二人はこっちを振り向き手を振ってくれた。
僕はそれを確認すると、手を振りかえして、全速力で家へと帰った。
次の日、目が覚めるとそこはいつもの現実だった。なにも変わらない現実。
いつものように着替えをすませて、朝の準備をする。朝食のときの両親の様子からすると、昨晩のことはばれていないようだった。
そして、今日も二十分前に学校に着くよう家をでた。
(´・ω・`) 「いってきます」
誰も返事をするわけでもない。ただの習慣。
このつまらない習慣が、自分がいつもの日常を過ごしていることを感じさせる。このことが僕を欝にさせる。
学校へ到着し、教室へと向かう。途中で廊下の時計を見ると、やはり登校時間の二十分前だった。
やっぱり僕は変わらないな、と心の中で僕は自分に皮肉を言い、教室に入る。
その教室ではやっぱりみんな勉強をしている。昨日まではなんとも思わなかったこの風景が、今はとてつもなく鬱陶しくてたまらなかった。
- 51: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:30:45.25 ID:JUWRz7gi0
それから十分ほどたって、しぃが教室に入ってきた。
しぃが僕に向かって手を振ってきたので、僕も慌てて振り返す。こんなときが僕の日常で唯一の幸せかもしれない。
そして、次の幸せは登校時間ぎりぎりにやってくるだろう。僕はジョルジュが来るのをいまかいまかと待っていた。
(´・ω・`) (あれ……。もうチャイムなっちゃったぞ)
ジョルジュはいつもの時間にやってこなかった。
そして、担任がやってきて出席を取る。すると担任が思わぬ言葉を口にした。
担任 「ジョルジュは、ちょっと遅れてくる。部活のことでなんか呼び出されているらしい」
(´・ω・`) (部活のこと?)
僕はしぃのほうを見た。彼女の表情から驚きの色が見えることから、彼女もこのことは知らなかったのだろう。
朝のSHRが終わると、僕は慌ててしぃのところに向かった。
(´・ω・`) 「ジョルジュは一体どうしたんだ。部活のことってなにか聞いてない?」
(*゚ー゚) 「ううん、なにも聞いてないよ。どうしたんだろう」
僕らがそんなことを話しているうちに、一時間目の先生がやってきてしまったので、僕は一旦席にもどった。
それからもずーっとジョルジュは来ない。二時間目も、三時間目も。僕は段々と不安になっていった。
- 55: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:33:06.81 ID:JUWRz7gi0
そして4時間目に入った。
この学校の生徒はみなマジメなので、静かな授業時間がしばらく続いていた。
しかし、その雰囲気は突然乱暴に開けられたドアの音で壊されてしまった。
みんなが一斉にドアに注目する。僕はみんなにつられてドアのほうを見た。
(♯゚∀゚) 「……」
そこにいたのはジョルジュだった。
ジョルジュはなにも言わないで、自分の席に着き、そのまま顔を伏せてしまった。
僕は何度もジョルジュのほうを見たが、ジョルジュは結局僕のほうを向いてくれることはなかった。
4時間目が終わると、僕はすぐにジョルジュの席へと向かった。
(´・ω・`;) 「ジョルジュ、どうしたんだ。心配したんだぞ」
しかし、なんの反応もない。
その様子を見ていたしぃが、慌ててこっちに向かってきた。
(*゚ー゚) 「ジョルジュ君。部活のことってなんだったの?」
やはりなんの反応もない。
しばらくの間沈黙が続いたが、僕は微妙にだがジョルジュの肩が震えているのに気がついた。
もしかして――
- 56: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:35:10.45 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`) 「泣いているのか……? ジョルジュ」
どうやら図星だったようだ。ジョルジュの肩がはっきりと震え始めた。
しかし、それでもジョルジュは僕の言葉を無視している。僕はどうすればいいのかわからなくなった。
そのとき、しぃがゆっくりと口を開いた。
(*゚ー゚) 「部活のことなんでしょ? 私には教えてくれないの?」
ジョルジュは答えようとしない。
(*゚ー゚) 「どうして!? 私だってマネージャーなのよ!? 同じ部活の仲間なのよ!」
しぃは言い終わると、息を荒げながら泣き始めてしまった。僕はそんなしぃをただ見ることしかできなかった。
ジョルジュはやっぱりまだ震えている。が、そのジョルジュがくぐもった声で一言いった。
- 63: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:38:15.42 ID:JUWRz7gi0
( ∀ ) 「ごめん……。サッカー部終わっちゃったよ……」
ジョルジュの言ったことはある程度予想できたことだった。
だけど、僕は予想以上にダメージを受けていた。それは、サッカー部のことについてじゃない。泣いてるジョルジュとしぃを見てだ。
二人はこれほどサッカー部に思いをかけていたということと、自分がこれほど思いをかけれるものがない、という事実。
結局二人はずっと泣いていて、僕はそれを眺めているだけだった。そして5時間目に入ると、ジョルジュは早退した。
結局その日は、しぃとは別々に帰った。
僕はすることもないので、急いで家へと帰りしぃにメールをする。
(´・ω・`) (大丈夫? 部活のことショックだろうけど、頑張って……、送信)
それから10分ほどしてしぃからメールが返ってきた。
僕は携帯を開いて、メールを確認する。
07/06 16:02
From 椎名しぃ
Sub 件名なし
私は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。
それよりジョルジュからメール返ってこないんだ。
悪いけど、ショボン君のほうからもメールしてくれない?
- 66: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:40:31.51 ID:JUWRz7gi0
僕は、了解の旨をメールに添えて返信する。どうやらしぃは大丈夫のようで安心した。
そして、僕はすぐにジョルジュにメールをする。内容はさきほどのしぃと同じようなものだ。
しかし、三十分たってもメールは返ってこなかった。僕は仕方がないので、携帯を閉じて、ベッドに寝転がる。
だが、そこで大事なことに気づいた。
(´・ω・`;) 「塾とピアノ……」
僕は急いで着替える。
塾は四時からなので、本来は学校から直で向かっているのだが、このままでは一時間の遅刻だ。
僕は塾用のバッグを抱えて、教材をつめこむ。しかし、乱暴にやっているのでなかなか入らない。
そこで不意に僕は虚脱感に襲われた。
(´・ω・`) (なんで僕はこんなことをしているんだろう。未だに父の言うことに従うなんて馬鹿馬鹿しいじゃないか)
僕はそう思うと、バッグを放り投げてベットへと再び寝転ぶ。
今日は全部さぼろう。ジョルジュとしぃが傷ついてるときに僕だけいつも通りなんて。
僕は母に、塾にいく、と声をかけると家から飛び出した。
自転車に乗ると、僕はジョルジュの家に向かう。そこで、再び僕は重要なことに気づく。
(´・ω・`) (ジョルジュの家なんて知らんがな)
- 70: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:42:56.94 ID:JUWRz7gi0
僕は急ブレーキをかける。急いで、携帯をとりだしてしぃに電話する。
数回の呼び出し音の後、電話がつながった。
(*゚ー゚) 「もしもし?」
(´・ω・`) 「しぃ! 突然だけどジョルジュの家知ってる!?」
(*゚ー゚) 「知ってるけど、これから行くつもり?」
(´・ω・`) 「ああ! 頼むから教えてくれ!」
(*゚ー゚) 「じゃぁ私も行くから、駅で待ち合わせしよう!」
(´・ω・`) 「わかった!」
僕は電話を切ると、急いで駅へと自転車へこぐ。
5分ほどして駅についたときには、まだしぃは着ていなかった。
僕は色んなことを考えた。ジョルジュは会ってくれるだろうか。会ってくれたらなんて声をかけようか。
僕はジョルジュを友達だと思っている。だが、ジョルジュは僕のことをどう思っているだろうか、など。
そうしているうちにしぃはやってきた。自転車にまたがったしぃは、まだ制服のままだった。
- 72: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:45:00.88 ID:JUWRz7gi0
(*゚ー゚) 「ごめん、待たせたね。すぐ行こう!」
しぃはものすごいスピードで自転車をこいでいく。僕はしぃを見失わないので精一杯だった。
自転車をこぎはじめてから十分ほどすると、しぃは少し小さな一軒家の前でブレーキをかけた。僕もそれに続いた。
(*゚ー゚) 「ここがジョルジュ君の家だよ」
確かにそこには「長岡」の表札がかかっていた。僕はその表札の下にあるインターホンを押す。
「……はい」
女の人の声だ。きっと母親かな。
僕は、ゆっくりと返事をする。
(´・ω・`) 「ジョルジュ君の友達です。ジョルジュ君はいらっしゃいますか?」
「ちょっと待っててね」
女の人がそう言うと、インターホンは切れた。
それから5分ほど待ったが、なんの動きもない。僕としぃはお互いの顔を見合わせながら、ひたすらジョルジュを待っていた。
更にそれから5分ほどして、もう帰ろうかな、と思ったときに、ゆっくりと玄関のドアが開いた。
- 75: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:47:08.02 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「ショボン、しぃ……。あがれよ」
ジョルジュはそう言うと、僕らを手招きした。
僕としぃは黙ってそれに従う。ジョルジュは二人が入ったのを確認すると、ドアを閉めて二階へとあがる。
( ゚∀゚) 「ついてこいよ」
ジョルジュはそう言ってどんどん階段を登り、階段の目の前にある部屋に入っていった。
しぃと僕も続けてその部屋に入る。
その部屋は狭いが、サッカーで溢れた部屋だった。
世界各国の有名選手のポスター、いくつもあるサッカーボール、恐らく宝物であろう誰かの直筆サイン。
それらすべてがジョルジュのサッカーへの思いを感じさせた。
ジョルジュがいつ持ってきたのか、僕らにお茶を出す。
そして布団の上にどかっと座った。
- 77: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:49:13.85 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「二人とも来てくれてありがとう。もう俺は大丈夫だ」
(´・ω・`) 「そうか、よかったよ。でも無理はしないでくれ」
とりあえずジョルジュが大丈夫そうで良かった。
僕が安心した矢先、しぃがジョルジュに尋ねる。
(*゚ー゚) 「どうしてサッカー部は廃部になったの?」
( ゚∀゚) 「……先輩二人が部をやめた。進学を目指すって。そしたら部活動総括部の先公が、二人じゃ部活として認められない、だと」
(´・ω・`) 「恐らく、経費削減の口実だろうね……」
うちの学校は、部活動には全く力を入れていなかったため、部活動にかけるお金は最小限に抑えるようにしている、と聞いた。
そのため丁度部員の減ったサッカー部が狙われてしまったのだろう。なんとも不条理な話だ。
- 80: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:51:34.83 ID:JUWRz7gi0
僕が心配そうにジョルジュを見ると、ジョルジュは乾いた笑い声をあげる。
( ゚∀゚) 「小学校からサッカー続けてきて、ずっとサッカーやろうと思っていた。勉強はそこそこできたから、記念にこの進学校受けたらたまたま受かっちゃって。
ついつい有頂天になっちゃってさ、サッカーやりたくて受けようと思ってた高校を蹴って、こっちへ入学したら、このザマさ」
ずいぶんと軽く話しているように見えるが、僕にはとても悲しみがこもっている言葉に聞こえた。
ジョルジュはなにか失ったように、ぼっーと空をみつめている。ちょっと危ないな、と僕は思った。
それからずーっと沈黙が続いた。
この三人でいるときはあまりこうゆう空気を体験したことがない。とても居づらい。
なんとかこの状況を打破しようと思って、僕は適当に話題をふってみた。
(´・ω・`) 「あのさ、この間遊んだときジョルジュすごく太鼓のゲーム上手だったよね」
( ゚∀゚) 「……」
食いつきが悪い。これは失敗か。
だが、僕は頑張って話を続ける。
- 82: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:53:36.92 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`;) 「だからさ、サッカー諦めて新しいことをやってみたら?太鼓の技術生かしてドラムとか」
( ゚∀゚) 「あんま適当なこと言うなよ。俺がどれだけサッカーに打ち込んできたと思ってんだ」
ジョルジュは静かに言ったが、微妙に語気を荒げている。
やっぱりサッカーに変わるものはなかなかないのだろう。
しかし、そこでしぃが思わぬことを言った。
(*゚ー゚) 「いいじゃない、ドラム。やりなよ」
( ゚∀゚) 「だから無理だって言ってんだろ」
(*゚ー゚) 「やってもいないのに無理無理言うんだ」
ジョルジュはそこで黙ってしまった。
しぃはどうしてこんなに挑戦的なのだろう。ジョルジュを挑発しようとしてるとしか思えない。
いつジョルジュが切れるかわからない。僕はハラハラしていた。
しかし、次にジョルジュが言った言葉は意外な言葉だった。
- 87: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:57:52.66 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「二人が一緒にやってくれるなら、やる」
(´・ω・`;) 「え?」
予想外です。本当に(ryとか言ってる場合じゃない。
さすがにしぃは嫌で――
(*゚ー゚) 「いいよ。むしろ私もやりたい」
またまた予想外です。本当に(ryって二人とも僕のほうを見てるじゃないか。
どうしよう。僕は一旦相手の出方を見てみることにした。
(´・ω・`;) 「僕バンドの楽器なんてできないよ」
(*゚ー゚) 「私もできないよ」
( ゚∀゚) 「俺だって」
問題解決。そっこう論破されてしまいました。
僕だって本当はやりたい。けど、塾やピアノはどうすればいい? 父になんていえばいい?
僕って本当に自分でなにも決められないんだ。情けない。
- 89: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:00:00.78 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「情けないと思うなら、変わるチャンスだと思えよ」
(´・ω・`;) 「え?」
ジョルジュに思っていることを言い当てられてドキッとした。そんな顔に出ていたのか。
だがそれよりも――
(´・ω・`) (変われるチャンス……)
いつも親にしたがうことしかできない自分。
なにをやっても一生懸命になれない自分。
だけどこの二人といるときは、自由な、自然体の自分でいられた気がする。
僕は思わずフッ、と微笑んだ。
(´・ω・`) 「変われるチャンスがあるなら、喜んで受け取るよ」
(*゚ー゚) 「ふふ、決まりね」
( ゚∀゚) 「半端はなしだぞ、やるからには徹底的にな」
- 95: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:02:28.81 ID:JUWRz7gi0
三人で指きりをした。絶対中途半端にはやめない、と。
そのあと、担当を決めた。当然ジョルジュはドラム。しぃはボーカルとエレキギター。僕はベースをやることに決まった。
そして最後に迷ったのが――
(*゚ー゚) 「バンド名どうしようか」
(´・ω・`) 「うーん」
( ゚∀゚) 「俺つけたい名前あるんだけど……いい?」
意外にもジョルジュから意見がでた。
なにも決まらないよりはましだが――
(´・ω・`;) 「カカ……?」
(*゚∀゚) 「ああ! 往年のサッカーの名選手だ! なかなかセンスよくね?」
正直僕は勘弁してほしかった。
しぃもきっと嫌がるだろうな、と思い、しぃのほうを見るとなにかを書いていた。
(´・ω・`) 「しぃ、なに書いてるの?」
(*゚ー゚) 「部員勧誘用のポスター」
そこには、女の子特有のセンスの感じられるポスターがあった。
ちょうど完成したみたいで、バンド名の横には――「KAKA」
- 103: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:05:55.01 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚)b 「GJ!」
(´・ω・`) (……/(^0^)\フッジサーン)
まぁでもジョルジュが立ち直ったみたいだったから、僕はそれだけで満足していた。
僕らはそのあと、馬鹿な話をして盛り上がった。それからもう遅くなっていたので、僕たちはジョルジュの家をあとにした。
最後にジョルジュの部屋を見る前に見たのは――カカの直筆サインだった。
家に帰った僕は、二日連続の親子喧嘩をした。昨日のよりもひどくて、母は泣き出してしまった。
まあ、塾とピアノをさぼった僕が悪いのかもしれないけどね、でも僕はいつまでも親のいいなりじゃないんだ。明日からももちろんそうだ。
(´・ω・`) 「変われるチャンス、か」
僕はベッドに入ってからもずっとジョルジュの言葉について考えていた。そしてそのまま眠りに落ちてしまった。
その晩、僕はしぃと楽しく話している夢を見た。もちろん起きたら忘れてしまうけどね。
- 106: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:08:15.70 ID:JUWRz7gi0
次の日の放課後、僕たち三人は空き教室に集まった。
「KAKA」一番最初のミーティングだ。
話題はとかく新入部員についてだった。しぃはポスターを貼ったので、絶対来ると言い張り、ジョルジュは絶対来ないと言う。僕はそれを見守る。
二人とも本気で口論しているわけではない、この雰囲気を楽しんでいるのだ。
( ゚∀゚) 「絶対こない!」
(*゚ー゚) 「くるから〜」
(´・ω・`) 「じゃぁうまい棒100本かけてみればいいじゃないか」
( ゚∀゚) (*゚ー゚) 「のった!!!」
川 ゚ -゚) 「じゃぁそこの彼はうまい棒100本だな」
( ゚∀゚) 「なんでだよ! まだきてない……」
目の前にはナイスバディの黒髪美人。ジョルジュはそのまま卒倒してしまった。
- 110: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:10:34.70 ID:JUWRz7gi0
名前は須名クー。二年生の合唱部部長。「KAKA」のポスターを見てきたそうだ。
ジョルジュはさきほどからクーさんの質問役をかってでている。ジョルジュの態度からは下心丸見えだっていうのに。
( ゚∀゚) 「二年で部長なんてすごいですね〜」
川 ゚ -゚) 「部員が一人しかいなかったからな」
( ゚∀゚) 「どうして「KAKA」に入ろうと思ったんですか? いや、大歓迎ですけど」
川 ゚ -゚) 「廃部になった」
そこでジョルジュの質問がぴたっと止まった。
恐らく、廃部になったサッカー部のことを思い出したのだろう。
僕にはジョルジュが悲しそうな顔をしているように見えた。恐らくクーさんにもそう見えたのだろう。クーさんが逆に質問した
川 ゚ -゚) 「君も廃部の煽りを受けたのか」
( ゚∀゚) 「……はい」
川 ゚ ー゚) 「なら安心した。私が廃部になったから来た、と思われたくなかったのでな。本気だということを君なら理解してくれるだろう」
( ゚∀゚) 「……はい!」
僕はなぜか急にこの二人がお似合いのカップルに見えてしまった。きっと目の錯覚だろう。
しぃもニコニコしている。仲間が増えて嬉しいんだろう。
- 115: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:12:40.68 ID:JUWRz7gi0
それから四人で馬鹿な話で盛り上がった。クーさんは気さくな人で、どんな話題にもついてきた。そして冷静なツッコミを入れる。
クーさんが加わることによってさらに、「KAKA」は盛り上がりをみせていた。
(´・ω・`) 「ところで、担当どうするの?」
( ゚∀゚) 「あー、そういえば決めなおさなくちゃな」
(*゚ー゚) 「クーさんはもちろんボーカル頼みますよ! 元合唱部の名にかけて!」
川 ゚ -゚) 「わかった」
( ゚∀゚) 「じゃあしぃはどうする?」
(*゚ー゚) 「私はギターだけでいいよー」
(´・ω・`) 「じゃあ、クーさんがボーカル、しぃがギター、ジョルジュがドラム、僕がベースでいいね」
もちろん僕は、さんせーと返ってくるのだと思っていた。
しかし、一人から予想外の答えが返ってきた。
- 116: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:14:45.94 ID:JUWRz7gi0
川 ゚ -゚) 「ちょっと待った。ショボンがベース? 君はピアノに決まってるだろう」
(´・ω・`;) 「え?」
川 ゚ -゚) 「関東コンクールの君の演奏聞いていたぞ。とても素晴らしいものだった。あれだけのものを生かさないなんてもったいないじゃないか」
まさか関東コンクールをクーさんが聞きに来ていたなんて。たしかにあの時は会心の演奏ができたときだった。
しかし、バンドにピアノはどうかと思う。僕がそのことをみんなに伝えると、見事に反論された。
( ゚∀゚) 「いいんじゃねーの?型にとらわれないところとか、俺たちらしくて」
(*゚ー゚) 「ピアノがあるバンドなんて素敵じゃない」
川 ゚ -゚) 「ピアノ大好き」
かくして僕の担当はピアノとなってしまった。正直ピアノは弾きたくなかったが、周りの雰囲気を読むこととしよう。
結局僕らは今週の土曜日に初練習の約束をした。クーさんとメルアドを交換したとき、ジョルジュがすごい喜んでいたなぁ。
- 122: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:17:10.24 ID:JUWRz7gi0
僕は土曜日が待ち遠しくて仕方がなかった。
正直ピアノは嫌だったけど、みんなと会えると思えば問題ない。
土曜日まで僕は塾だけはさぼり続けた。ピアノは腕がなまらないようにもレッスンだけは受けた。
父は、そんな僕を見てなにも言わなくなっていた。恐らく呆れてしまったのだろう。だが、僕にとってもそっちのほうが好都合だった。
そして、とうとう当日がやってきた。
僕は制服をきて、約束の時間の十分前に着くようにでる。
(´・ω・`) (十分しか違わないけど、これは僕の意思なんだ)
そしてきっかり十分前に学校に到着。目指すは三階の音楽室。
音楽室の前まで来ると、僕は深呼吸をした。これから僕の新しい生活がはじまるんだ――僕は思い切り音楽室の防音ドアを押した
(´・ω・`) 「やあ、みんな。集まってるかい」
思い切りドアを押してもローテンションの僕。朝は低血圧なんだ。
音楽室を見渡すと、ちゃんと全員きていた。いつ揃えたのかジョルジュとしぃは楽器までもっている。
- 125: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:19:15.33 ID:JUWRz7gi0
川 ゚ -゚) 「やあ」
(*゚ー゚) 「おはよー!楽器、バイト代はたいて買っちゃったー」
( ゚∀゚) 「やっと来たな!俺もローンで買っちゃったぜ!じゃあさっそく始めようぜ!」
みんなのハイテンションぶりを見て、僕も思わず嬉しくなる。やっぱり来て良かった。
僕はみんなに促されるまま、ピアノの前に座らせられる。鍵盤を少し叩いてみた。心地よい音がする。ちゃんと調律はしてあるようだ。
センターにボーカルのクーさん、その右にギターのしぃ、クーさんの左にピアノの僕、みんなの後ろにドラムのジョルジュ。
このフォーメーションで僕らの記念すべき初練習は行われた。
(; ゚∀゚) 「……」
(*゚ー゚) 「……」
(´・ω・`;) 「……」
川 ゚ -゚) 「これはひどい」
- 129: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:21:26.49 ID:JUWRz7gi0
クーさんの一言にジョルジュとしぃが、がっくりと項垂れた。
クーさんの歌唱力は半端なく、流石合唱部と言わざるをえなかった。
僕のピアノも一応全国コンクールに出ている。クーさんにひけをとらないつもりだ。
だが、ジョルジュとしぃは素人同然の実力。
「かえるの歌(アレンジVer.)」で合わせて演奏してみたが、かえるが踏み潰されたような演奏になってしまった。
結局そのあとは、各自それぞれ独学で練習。
僕はクーさんと何回か合わせてみたけど、彼女の流麗な声には何度も聞きほれてしまうほどだった。
かくして第一回目の練習は、予想通り期待はずれの結果となってしまった。
- 134: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:23:30.73 ID:JUWRz7gi0
それから夏休みに向けて、僕らは毎日放課後も土日も集まった。
僕はそのために、最近顔色の良くない父に、塾とピアノのレッスンをやめることを伝えた。
予想に反して、父は「ああ、そうか」と一言言っただけだった。
夏休みに入る直前になると、ジョルジュもしぃもそれなりに上達してきていた。
期末テスト期間を除くと、四人で毎日練習していたから、そりゃ上手くもなるだろう。
なんとかバンドとして形をなしてきたところで、また新たな問題に直面した。
川 ゚ -゚) 「オリジナル曲を作りたい」
( ゚∀゚) 「そりゃまたどうしてですか?」
川 ゚ -゚) 「既存の邦楽では、ショボンのピアノを生かすことはできない」
(´・ω・`) 「……」
たしかに今の邦楽バンドでピアノが主体で扱われているものは少ない。
そのためにオリジナル曲を作るのは賛成だった。しかし、誰が作曲・作詞をするのだろうか。僕にはそんな才能はない。
- 138: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:25:40.10 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「作詞はかわりばんこでやろーぜー。別に作る曲は一曲じゃないだろうし」
これには僕をはじめ、全員が賛成した。すると残る問題は作曲だけ。
これには意外な人物が立候補した。
( ゚∀゚) 「俺やってもいい?」
(*゚ー゚) 「できるの?」
( ゚∀゚) 「ああ、なんとなくできそうな気がする」
川 ゚ -゚) 「じゃあ頼もうか」
(´・ω・`;) (そんな適当でいいのか……)
ジョルジュは7月中にオリジナル曲を作る、と宣言した。
そして作詞を担当するのは、しぃになった。ジョルジュは不安要素満載だなぁ。
その日の練習は結局、作詞と作曲の時間にあてられることになった。暇な僕は一人でずっとピアノを弾いてた。そりゃもう飽きるくらいに。
- 139: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:27:46.72 ID:JUWRz7gi0
結局、夏休みに入るまでに曲は完成しなかった。そりゃ作詞や作曲は半端なく難しい。かといって半端なものは扱いたくない。
終業式を終えたしぃとジョルジュと僕は、音楽室に集まって雑談をしていた。
(*゚ー゚) 「テストどうだったー?」
(; ゚∀゚) 「十教科で、420点……。下から二番目でした」
(´・ω・`) 「880点くらいかな。ぎりぎり十番目に入れたよ」
( ゚∀゚) 「てめー! なんでそんな頭良いんだよ!」
(´・ω・`) 「これでも落ちたんだけどね。しぃはどうだった?」
(*゚ー゚) 「380点」
(; ゚∀゚) 「まぁ、そういう時もあるよ……」
(*゚ー゚) 「なによー! ジョルジュとあんま変わらないでしょー!」
(´・ω・`) 「やれやれ、五十歩百歩だ…あぶっ!」
しぃの鉄拳が僕の腹にめりこんだところで、音楽室のドアが勢いよくあけられた。
そこには、息を切らせて小さな紙切れをもっているクーさんだった。
- 142: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:30:29.62 ID:JUWRz7gi0
( ゚∀゚) 「お、クーさんじゃないですか〜。遅いですよ〜」
(*゚ー゚) 「その紙切れ、なんですか??」
僕は、クーさんの尋常じゃない様子になにか胸騒ぎを感じた。
まさか、また廃部? いや、部活動申請はしていない。なら、なんなんだろう。
僕らがクーさんに注目していると、クーさんはゆっくりと口を開いた。
川 ゚ -゚) 「残念なお知らせがある」
(´・ω・`;) (; ゚∀゚) 「!?」
- 148: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:34:30.55 ID:JUWRz7gi0
川 ゚ -゚) 「君たちはあと2週間で――すべてを完成させなければいけなくなった」
クーさんはそう言うと、手にもっている紙切れを僕に渡した。
僕はそれを受け取り、ゆっくりと声にだして読む。
(´・ω・`) 「VIP市祭り……祭りを盛り上げてくれるバンド募集中……先着3組まで……実施日8月8日」
僕は音楽室にあるカレンダーを見た。7月25日。
僕はここで、冷静に考える。まだオリジナル曲はできていない、そして当然それを合わせることもしてない、というか無理。
つまり残り二週間で、曲を完成させ、かつ全部覚えて演奏できるようにしなくちゃいけない、って……
(´・ω・`;) 「えぇぇぇぇぇぇ! それは無理でしょ!!!」
川 ゚ -゚) 「私の広辞苑から不可能の文字は消してしまいました」
(*゚ー゚) 「先着3組までって……」
川 ゚ -゚) 「さきほど連絡を入れたら、快諾していただきました」
( ゚∀゚) 「じゃぁやるしかねぇな」
川 ゚ -゚) 「さすがジョルジュ。話がわかる」
(´・ω・`;) (最近ツッコミのポジションが僕になってきてるよ)
こうして僕らはVIP市祭りの盛り上げ役として出場することになってしまった。
- 154: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:37:30.86 ID:JUWRz7gi0
それからの日々は地獄だった。
毎日練習、練習、練習。作詞、作曲をしてない僕でさえ辛かったのに、作詞のしぃ、なにより作曲のジョルジュはどれだけ大変だっただろう。
夏休みに入ってから、二日目にしぃの作詞完成。五日目にジョルジュの作曲完成、と忙しいスケジュールでことは進んでいった。
しぃの作った歌詞は四人の仲間を歌うものだった。恐らく、僕らを模して作ったのだろう。心に染みる歌詞だ。
一方の作曲は――
川 ゚ -゚) 「これは……素晴らしい」
(*゚ー゚) 「信じられない……」
(´・ω・`*) 「すごいよ、ジョルジュ!」
( ゚∀゚) 「そうか〜? そんなに良かったか〜?」
ピアノの静かな前奏から始まり、そこにエレキギターの旋律が重なり、ドラムも静かに入っていく。
そこでソプラノから入るボーカル。そして、メロディはその状態を保っていき、サビに近づくにつれ徐々にテンションをあがていく。
そして、サビに入った瞬間――爆発した。それは、軽く人間の悲壮が入ったような音楽で、前半とは対象的だ。
例えるならば、前半は【希望】でサビは【絶望】。しかし、最後にもやがて新たな希望がさしこみ――そこで音楽は止んだ。
- 158: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:40:13.93 ID:JUWRz7gi0
聞き終わった瞬間の僕は、鳥肌たちまくりで、まさに名曲と巡り合った感じがした。
それは他の二人も同じようで――
(*゚ー゚) 「これはいけそうだね!」
川 ゚ -゚) 「ああ、これは是非歌ってみたい」
(´・ω・`) 「じゃあさっそく練習だ!」
その日の練習はかつてないほど盛り上がった。僕も指が壊れるんじゃないかと思うくらい弾き続けた。
練習が終わったのは、夜の八時くらいで、いつも通りみんなで一緒に帰った。今日の感想で盛り上がりながら。
( ゚∀゚) 「いや〜、我ながら本当いい曲だわ〜。おっと、俺こっちだから、じゃあの」
川 ゚ -゚) 「私も早く祭りで演奏したいと思っている。私もここでさらばだ。流れ的に、じゃあの」
ジョルジュとクーは同じところで曲がっていってしまった。僕らは二人に手をふって、そのまま歩き続ける。
気づけば、このシュチュエーション。しぃと二人きりだった。
- 163: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:45:38.25 ID:JUWRz7gi0
(*゚ー゚) 「……」
(´・ω・`;) 「……」
気まずい。非常に気まずい。なにを話していいかわからない。
しかし、近くでみるとやっぱりしぃは可愛い。それが余計に喋りにくくさせる。
そこで突然しぃが口を開いた。
(*゚ー゚) 「ねぇ、夏の夜ってなんか怖いよね」
(´・ω・`) 「そ、そう? 僕は別に思わないけど」
そこでしまった、と思った。
せっかくしぃが話題を振ってくれたのに、一行で終わらせてしまう。僕の馬鹿。
しかし、しぃは構わず続ける。
(*゚ー゚) 「私、今すごく怖い。だから……手握ってていい?」
え? 今なんて言いました? つまり、そのあの、フラグ?
とりあえずチャンスは掴まなきゃ、と僕は急いで返事をする。
- 166: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:47:42.71 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`;) 「 うん、いいよ」
(*゚ー゚) 「ありがとー」
しぃはそう言うと、そっと僕の手を握った。僕もその手を握り返す。
冷たい。そして小さい。それがなんか気持ちいい。対する僕の手はすごく熱くて、汗ばんでいた。
(*゚ー゚) 「……」
(´・ω・`*) 「……」
信じられないような状況。まるで夢のようだ。
僕はこの時間がずっと続いてほしい、と願った。しかし、やっぱり時の流れは残酷で――とうとう分かれ道まで来てしまった。
僕はそこで、そっと手を離す。そして、笑顔でしぃに言う。
- 168: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:50:43.85 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`*) 「祭りの演奏、頑張ろうね。バイバイ」
(*゚ー゚) 「うん、ショボンと一緒に帰れて、怖くなくてすんだよ。ありがとう。バイバイ」
そこで、僕はしぃに手を振ってダッシュで帰った。
(´・ω・`;) 「家まで送ればよかった……」
時すでに遅し。僕がそれに気づいたのは、自分の部屋に戻ってからだった。
さきほどまでの時間を思い返すと、ついついにやけてしまう。僕は習慣どおり携帯を充電器に接続して――新着メールがきている。
僕は急いで携帯を開いた。
(´・ω・`) 「新着2件……。ジョルジュとしぃからだ」
お楽しみはあとに残しておいて、まずはジョルジュのメールから見よう。
そのメールに件名はなく、なにか異様な雰囲気をもっていた。
07/31 21:24
From 長岡ジョルジュ
Sub 件名なし
ショボン、実は俺……
そこから長い空白。何回も下へスクロールするが、なかなか本文がでてこない。
- 172: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:52:45.99 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`;) 「一体なんなんだ……」
僕が汗をかくほど下へスクロールしたところで、やっと本文がでてきた。
僕はその内容を見て――驚いた。
ショボン、実は俺……
クーさんと付き合うことになったぜぇぇぇえええええええい! いやっほっううう!次回もVIPクオリティ!
(´・ω・`;) 「mjd?」
- 176: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:55:17.89 ID:JUWRz7gi0
答える人などいないのに、僕はついつい問いかけてしまった。それほど驚きの報告だった。
ジョルジュがクーさんに気があるのはわかっていた。しかし、クーさんもジョルジュを好きだった、いや、まず彼氏がいない、ということが信じられなかった。
僕は焦ってうまく動かない指を精一杯駆使して、ジョルジュに返信をする。
(´・ω・`) (おめでとう! ちなみにどっちから凸したの? ……よし、送信)
07/31 21:35
From 長岡ジョルジュ
Sub それはもちろん
俺に決まってるだろーが!!!
クーのキャラを考えろ!!
予想通りの返信に、僕は少し安心したが、たった一回のやりとりで「クーさん」から「クー」に変わっていることが、ちょっとうざくてちょっと可笑しかった。
- 177: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:57:54.95 ID:JUWRz7gi0
(´・ω・`) (明日から少しやりにくくなるかもな……)
僕はそんなことを考えながら、ジョルジュに適当に返信する。
すると一分とたたずにメールが返ってきた。
07/31 21:40
From 長岡ジョルジュ
Sub お前も
頑張れよ(´▽`)
A,B,C!B,C!C,C,C!
(´・ω・`*) (こいつわかっていたのか……)
僕は自然と頬が赤くなるのがわかった。やっぱり僕はしぃが好きなんだろう。
そういえば、しぃからもメールがきてたはずだ。僕は急いで、メールを確認した。
そこには――
(´・ω・`) 「……」
(´゜ω゜`) 「くぁzwせrtgyhぶじこlp;」
- 183: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:00:00.93 ID:AYIjeT/n0
07/31 21:23
From 椎名しぃ
Sub 件名なし
私気づいたんだ。
さっきショボン君と一緒に帰ってすごく安心した。
私多分、いや絶対……ショボン君のことが好き。
私と付き合ってくれませんか?
(´・ω・`;) (落ち着け、これは孔明の罠だ)
僕はあまりにタイミングの良すぎるメールに焦った。
一旦冷静に考えよう、そうしよう。
(´・ω・`;) (こうゆうときは素数を数えて落ち着くんだ。A,B,Cってこれアルファベットだぁぁぁぁぁぁ)
僕は多分かなり舞い上がってるんだと思う。今すぐにOKの返事をしたくてたまらなかった。
しかし、あまりにジョルジュとのタイミングが良すぎる。これは一体どうゆうことなんだろう。
僕は考え――るのをやめて、神速でメールを打ち、返信をした。
- 189: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:02:46.64 ID:AYIjeT/n0
それから十分ほど待っただろうか、携帯が軽やかに鳴り響いた。
その十分が一時間ほどに感じたような気がする。僕はそれほど返信を待ちわびていたんだろう。
すぐに携帯を取り出し、手を震わせながらメールを確認した。
07/31 22:00
From 椎名しぃ
Sub ありがとう!
じゃぁこれから「ショボン」って呼ぶね!
ショボンは私のことなんて呼びたい?
僕はもちろんOKした。ああ、当たり前だろう。
OKしたので、このメールの内容はやや予想通りの返信だったが、やっぱりすごく嬉しかった。
(´・ω・`*) (やっぱり今まで通り、しぃ。いや、しぃちゃん、しぃぽん、C−R75……)
僕は色々迷ったあげく、やっぱり現状の呼び方をすることにした。
呼び方をいきなり変えるのは抵抗あったし、ちゃん付けは一歩遠くなるような感じがした。
- 192: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:05:23.21 ID:AYIjeT/n0
- 僕は、それからずーっとしぃとのメールを楽しんだ。
いつもと内容は変わらないはずなのに、楽しさも嬉しさも全然違った。
気づけば全部で100件くらいしたんじゃないかと思う。ジョルジュに返信も報告もするのを忘れていたくらいだから、かなりうつつをぬかしていたんだと思う。
しぃからメールを終わらせたときには、既に三時になっていた。
僕は明日からの生活に淡い期待を抱き、急速に眠りに落ちていった。その日は疲れていたせいか、全く夢は見なかった。
- 199: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:07:54.12 ID:AYIjeT/n0
高校一年生の夏休み、気づけば大事な仲間たちが出来ていた。
それを得るために捨てたもの。
塾、勉強、親、才能、それは他人から見ればある程度羨まれるものだろう。
しかし、僕はそれらを引き換えに得たものに――全く不足は感じていなかった。
むしろそれを得たことによって、以前は感じられなかった、充実した日々を送れるようになっていた。
そして今日は「充実」だけでなく「最高」の日となるだろう。そう、今日の日付は――八月八日だ。
(´・ω・`) (まさか市の祭りごときで市民ホールを使わせてもらえるとは思わなかったよ)
僕は早朝から、今日のライブ会場である市民ホールを視察にきていた。
祭りといえば、屋外で二段矢倉を囲みながら踊りを踊ったり、たくさんの出店を人の流れに従いながら見て回ったり、というイメージしかなかった。
なので、果たしてどこでライブをするのか疑問に思っていた。ましてや僕のピアノなんて屋内じゃなきゃ音も響かない。
その疑問を解決するためにここまで足を運んだのだが、この市民ホール思ったより大きい。
- 204: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:10:28.20 ID:AYIjeT/n0
(´・ω・`;) (これ400人は入れるんじゃないか?)
このライブ企画自体、意外と目玉なのかもしれない。少なくとも張り紙の量からして期待はされているようだった。
僕はしばらくぼんやりと市民ホールを見上げていた。
視察のために来たのもあるが、流石の僕もそれだけの用事でわざわざ早起きしたりしない。
もうひとつの用事、それは待ち人だ。相手がわざわざ僕を朝っぱらから呼び出したのだ。
そして今、指定の時間より三十分遅れて、悪びれる様子もなく手を振りながらやってきた。
それはもちろん愛しのしぃ――だったら許せたのに。
( ゚∀゚) 「わりぃな、ショボン! ちょっと寝坊しちまった!」
(´・ω・`) 「ぶち殺すぞ」
( ゚∀゚) つ[] 「粒粒オレンジ100%」
(´・ω・`*) 「それは予想してなかったわ」
- 211: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:12:46.54 ID:AYIjeT/n0
心の広い僕はジュース一本で、ジョルジュの大遅刻を許してやった。
まあ流石に僕の大好きな粒粒オレンジ100%を出されたら、これは許さざるをえない。
ジョルジュは僕にジュースを渡すと、「少し散歩でもしよう」と言って歩き出した。
僕もプルタブに指をかけながら、ゆっくりとジョルジュの横を歩く。
( ゚∀゚) 「……」
(´・ω・`) 「……」
歩き出してから、すでに30分経っていた。
その間ジョルジュは全くの無言で、僕はずっとジュースを飲んでいた。あまりに気まずいので、ジュースが無くなっても飲んでるふりをしていた。
そしてそろそろ40分経過するぞー、と言うところで、ジョルジュがいきなり僕に問いかけてきた。
( ゚∀゚) 「なあ、ショボン。人の感情がわかることってあるか?」
(´・ω・`) 「え、ちょっと待って……」
- 213: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:15:03.01 ID:AYIjeT/n0
僕はなにも答えを用意していなかったので、あたかもジュースを今飲み終わってかのようにふるまい、ゴミ箱へ捨てることで時間を稼いだ。
しかし、ジョルジュもおかしなことを聞いてくる。まさかこれのために呼び出したのではあるまい。
僕は考えながら、ジョルジュの顔を見る。その表情は真剣そのものだ。僕も真剣に返事をしたほうがいいのだろう。
(´・ω・`) 「今この人は怒っているだろうな、とか、今この人は悲しいだろうな、とか表情とか雰囲気でなんとなくわかる時もある」
( ゚∀゚) 「……」
ジョルジュは僕の答えを聞くと、考え込むように手を額にあてはじめて、近くのベンチに座った。僕も慌てて隣りに腰を下ろす。
ジョルジュは手を額に当てたまま、僕のほうをゆっくりと向き、更におかしなことを口にした。
( ゚∀゚) 「表情とか雰囲気を一切無視して、その人の近くにいるだけで感情がわかったりすることはあるか?」
(´・ω・`;) 「そんなことあるわけないじゃないか、そんなことできたら超能力者だよ」
- 216: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:18:01.04 ID:AYIjeT/n0
僕がそう言うと、ジョルジュは下を向いてしまった。
ジョルジュの下になにか湿ったあとがある、と思ったら、それはジョルジュの額から流れている汗だった。
これはただならぬ事態かもしれない。僕は少し怖くなってきていた。
するとジョルジュは下を向いたまま僕のほうを見ないで、一言、言葉を発した。
( ゚∀゚) 「ショボンは今軽い恐怖を感じてるな……」
(´・ω・`;) 「え?」
まず僕は自分の感情が態度に出てしまっていたか、と考えた。
しかし、ジョルジュは―― 一切僕のほうを見ていない。
まさか、と僕は考える。その瞬間僕は確かにそれを裏付けるものを思い出してしまった。
- 220: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:20:50.61 ID:AYIjeT/n0
まずゲームセンターでUFOキャッチャーをしているとき、ジョルジュは少し不自然な発言をした。
調子にのって連続でUFOキャッチャーをやろうとした僕に対して、「これ以上やらないほうがいいみたいだ……。怒ってる人がいる」と。
あのときも思ったが、僕たちの周りの人だかりからは決して怒っている人はいるようには見えなかった。
そしてその後、恐らく僕たちからは見えない死角にいたであろうDQN達が、キレてカップルを襲った。
ジョルジュが止めなければ、きっと僕達が襲われていたことだろう。
これだけなら僕は偶然で済ませてしまっただろう。実際にありえないことでもない。
しかし、もうひとつ絶対的にジョルジュは不自然な発言をした。それはジョルジュが早退して、ジョルジュの家に行ったときのことだ。
バンドを組むかどうかを決めるときに、僕は父や周りのしがらみを気にしてなにも自分で決められないことを、情けない、と感じていた。
しかし、その後のジョルジュが言ってくれた言葉で、僕はバンドを組むことを決めた。その言葉とは――
- 225: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:23:01.42 ID:AYIjeT/n0
「情けないと思うなら、変わるチャンスだと思えよ」
僕はそのとき違和感を覚えながらも、「変わるチャンス」という言葉に刺激されて、前半の言葉はあまり意識していなかった。
しかし、今よく考えてみると絶対におかしい。
僕は情けない、と感じていたが、それを言葉にはしていなかった。仮に表情に出ていたとしても、情けない、という具体的な感情まではわかることはなかっただろう。
僕はジョルジュが今なにを言おうとしているか、なんとなくわかってしまった。
それはとても怖い――この感情もきっとジョルジュにはわかってしまっている。
僕は意を決して、自分からジョルジュに結論をもちだした。
(´・ω・`;) 「ジョルジュにはあるんだね――その力が」
( ゚∀゚) 「……ああ」
にわかには信じられなかった。そんな力――それとも一種の病気だろうか。
僕はそこで考える。そんな力をもっていると、どんな感じなのだろう、と。
- 230: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:25:37.90 ID:AYIjeT/n0
感情、といっても様々なものがある。
喜び、楽しみ、嬉しい、――それはあくまで正の感情だ。それに対して、苦しい、憎い、悲しい――負の感情も存在する。
それらの感情をごっちゃまぜに浴びながら、日々生活をすること――考えただけで吐き気がした。
しかし、ジョルジュはそんな毎日を生き抜いているのだ。僕は素直に偉い、と思った。
そしてきっと今ジョルジュは助けを求めている。僕にはそう感じた。
(´・ω・`) 「僕はそれを全然気にしないわけじゃない。だけど、それを知ったからといって君を避けたりもしない」
( ゚∀゚) 「……」
(´・ω・`) 「君が苦しいなら、僕はそれを助けたいと思う。君は僕が苦しいときに助けてくれたからね。友達ってそうゆうもんだろ?」
僕がそう言った瞬間、ジョルジュは泣き出してしまった。
多分今までの苦しみと悲しみが思い出されたのだろう、と思ったが、ジョルジュの言った言葉はそれとは全く違った。
( ;∀;) 「今のショボンの感情からは……偽りが全く感じられなかった……」
- 234: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:27:45.65 ID:AYIjeT/n0
僕はそう言われて思わず恥ずかしくなった。言った瞬間は意識していなかったが、ジョルジュには僕の言葉を見分けることができるんだった。
でも、それが逆に良い方向に出たみたいだったので安心した。
その後僕とジョルジュは話し合った。
僕はこれからもジョルジュを支えていくと約束し、ジョルジュも僕を支えていく、と約束した。
そしてもうひとつ大事なこと――しぃ、そしてクーにも真実を言うべきか。
僕は正直に言ったほうがいい、と提言した。だが、ジョルジュはそれを否定した。クーに知られるのは本当に怖い、と。
ならばしぃには、と言おうとした。だが、知ってる人は少ないほうがいいと思い、僕は言葉を飲み込んだ。
その後ジョルジュと僕は、再度友情を確認しあって――そしたらジョルジュがものすごい勢いで泣き出した。僕も少しだけ泣いた。
ジョルジュが泣き止んだころには、既に昼の十二時を回っていた。
- 237: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:30:14.76 ID:AYIjeT/n0
( ゚∀゚) 「……昼飯でも食いにいくか」
(´・ω・`) 「どこで?」
( ゚∀゚) 「学生の味方といえば、サイゼしかないだろう!」
(´・ω・`) 「ミラノ風ドリア乙」
30分かけてサイゼに着いてからは、僕らはいつも通りの関係だった。
決して、ギクシャクして取り繕っているわけではない。お互いの本当を聞けてスッキリしたからこその関係だった。
その後もずっとジョルジュと僕は語らう。今日のライブのこと、お互いの彼女のこと。気づけば三時間が経過していた。
( ゚∀゚) 「やべ、そろそろ行かないとクー達との待ち合わせの時間に間に合わねぇ」
(´・ω・`) 「じゃあ出ようか……お会計560円だって」
なにを注文したかは想像に難くないだろう。
僕らはお会計を5秒で済ませると、待ちあわせ場所の市民ホールへと再び向かった。
- 242: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:33:19.00 ID:AYIjeT/n0
川 ゚ -゚) 「遅いぞ、ジョルジュとショボン」
(*゚ー゚) 「本当だよ〜、あと一時間でライブはじまるよ〜」
( ゚∀゚) 「ごめんよ〜、クー」
(´・ω・`) 「ごめん、しぃ」
僕らが市民ホールに着いたのは、約束の時間を三十分ほど過ぎたときだった。
出番まであと一時間というのは今初めて知って驚いたが、むしろワクワクさせてくれた。
川 ゚ -゚) 「じゃあ行こうか」
(*゚∀゚) 「あ、うん」
そう言うとクーさんはジョルジュの手を握って、市民ホールの中へと入っていった。
僕はジョルジュの赤面に思わず苦笑が出そうになった。さっきまでの話がまるでなかったみたいだ。
そこでしぃが自分を見ているのに気づいた。
- 246: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:35:24.50 ID:AYIjeT/n0
(*゚ー゚) 「……」
(´・ω・`*) 「手、握ろうか」
(*゚ー゚) 「うん!」
僕らはしっかりと手を握って市民ホールへと入っていった。
僕達が市民ホールの控え室に押し込められてから、既に四十分が経っていた。
軽く合わせてみたものの、みんな緊張でいまいちしっくり来ない。その中で僕の演奏が一番ひどかった。
僕は別に緊張していたわけではない。ただ怖いのだ。全国コンクールのときのようになってしまうのが。
(´・ω・`;) (また失敗してしまったら……)
今日だけは失敗できない。
そう思うと余計にあの時のことを思い出してしまう。
僕は怖くて怖くて――
- 251: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:37:42.92 ID:AYIjeT/n0
( ゚∀゚) 「おいおい、いきなり支えなくちゃいけねぇか?」
(´・ω・`) 「……必要ないよ」
僕とジョルジュが笑っているのを見て、しぃとクーさんもつられて笑った。
一回笑ってしまうと、今までの雰囲気が嘘のように明るくなった。
とうとう僕らの出番が回ってきた。
それぞれの楽器をもって、ホールのステージへと向かう。
そしてそれぞれの位置につくと――
(´・ω・`;) 「すごい……」
(*゚ー゚) 「あらら……」
- 253: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:40:30.31 ID:AYIjeT/n0
観客の数はゆうに200人を越えていた。ざわざわと騒いでいる。
その人数はアマチュア、ましてやこのライブが初めての僕らにとってあまりに多すぎる数だった。
思わず呆気にとられてしまう、僕としぃとジョルジュ。クーさんは――すごく目を輝かせていた。
川 ゚ -゚) 「素晴らしい……」
そんなクーさんを見ていると、なんだが安心してきた。
ジョルジュはもちろん、しぃも僕の気持ちが伝播したようだ。二人とも笑顔を浮かべている。
川 ゚ -゚) 「みんな、このライブ楽しもうじゃないか」
( ゚∀゚) 「もちろん!」
(*゚ー゚) 「うん!」
(´・ω・`) 「……ああ!」
- 256: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:43:28.09 ID:AYIjeT/n0
僕らは演奏の態勢に入った。
それを見て騒いでいた観客のみんなも静かになる。
ところどころで、「ピアノなんであるの?」とか聞こえてくるが、逆にそれが僕を熱くさせた。
僕らは一曲だけしかやらないけど、この一曲はすごく自信がある。
そしてこの曲は、僕の前奏から始まる曲だ。
(´・ω・`) (みんないくよ……)
僕は静かに弾き始める。
ゆっくりとそして静かに、でも決して軽くはなく――完璧だ。
そこにしぃのギターとジョルジュのドラムが同じく静かに入る。それはまるで森の中の静けさのようだ。
そこで僕はチラッと観客を見る。みんな真剣に聞き入っている。つかみはOKのようだ。
- 260: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:46:25.28 ID:AYIjeT/n0
そして森の中に小さな光がさしこむ――クーさんの流麗な歌声だ。
さすがにクーさんの歌声が入ると、観客の反応も違う。観客から感嘆の溜息が多々聞こえてきた。
そして演奏と歌声はそのままメロディを保っていく。
そのメロディの希望の色に、観客の表情も明るくなる。
だが、この曲がサビに入ったとたん――静かな森に嵐がやってきた。
全体的に暗さを込めるが、どこか惹きつけるものがあるメロディ。そしてそれを表現してしまう歌声。
観客のテンションがかなりあがっているのを感じられた。
みんなここがこの曲の見せ場だと思っているだろう。だけど、この曲の本当の見せ場は――最後にさしこむ光だ。
やがて嵐はすぎさり、森に希望の光が舞い戻る。そしてそのまま――
- 266: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:48:46.11 ID:AYIjeT/n0
川;゚ -゚) (最後まで全力で――)
(*゚ー゚) (最高の演奏を――)
(;゚∀゚) (絶対にやり遂げてやる!)
(´・ω・`) (この四人で一生続けたいんだ!)
最後に僕の速弾。それがすべてを締める。
僕の指は――自分のものと思えないくらい素晴らしいエンドを弾き――僕らの舞台は終わった。
- 273: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:51:04.04 ID:AYIjeT/n0
川;゚ ー゚) 「みんなよくやった……」
(*゚ー゚) 「本当に嬉しい……」
( ゚∀゚) 「最高の演奏だったぜ!っておい、ショボン!」
(´;ω;`) 「みんな…うっ…ありがとう」
自然と涙が溢れていた。本当に嬉しくて、最高の演奏で。
今までなにもかも中途半端だった自分が初めて一生懸命になれた。それができたのも三人のお陰だ。
僕がしばらく泣いていると、ジョルジュがポンと肩をたたいた。
( ゚∀゚) 「前を見てみろよ」
(´;ω;`) 「え?」
- 279: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:53:28.55 ID:AYIjeT/n0
ジョルジュに言われたとおり前を見ると――そこには総立ちで拍手している観客がいた。
しかも最初は200人程度だった観客が、今は立ち見の人さえいるほどだ。それだけ僕らの演奏が届いてくれたのだろう。
しまいにはアンコールの声さえ出てきていた。
川 ゚ -゚) 「アンコールか、どうする?」
(*゚ー゚) 「う〜ん、逃げようか」
( ゚∀゚) 「よっしゃ! ダッシュだ!」
(´・ω・`) 「ああ!」
僕らは観客のアンコールの声を無視して、楽器を持ちそのまま会場の外へと飛び出した。
先頭を走るジョルジュの勢いは止まることなく、気づけば学校まで来てしまっていた。
- 285: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:56:14.45 ID:AYIjeT/n0
( ゚∀゚) 「入っちまうぞ」
(´・ω・`;) 「まじか」
そのままの勢いでフェンスを乗り越えていく。目指すはもちろん音楽室だ。
一番乗りはジョルジュで、二番、三番はクーさんとしぃ。実は僕、長距離走だけは苦手で、ダントツのビリだった。
(´・ω・`;) 「はぁはぁ、みんな早すぎ……」
僕が音楽室についたときにはみんな既にいつもの位置についていた。
ああ、なるほど。そうゆうことか。みんなの意図を理解した僕は、ピアノの前に座り、ゆっくり前奏を弾き始めた――
- 290: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:59:05.58 ID:AYIjeT/n0
( ゚∀゚) 「いや〜、しかし今日のライブは大成功だったな〜」
(*゚ー゚) 「観客がアンコールしたときは思わず泣きそうになっちゃったよ〜」
(´・ω・`) 「ああ、本当によかった。これもすべてこのショ 川 ゚ -゚) 「みんなのお陰だな」
(´・ω・`;) 「はい」
四人でゆっくりと語り合う。なんて素晴らしい時間なんだろう。
ライブの話、学校の話、これからの話、それらはすべて希望に満ちていた。
僕はこれ以上ないくらいに幸せな時間を過ごした。
川 ゚ -゚) 「それじゃあそろそろ解散するか」
- 299: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:02:36.33 ID:AYIjeT/n0
クーさんがそう言ったとき、音楽室の時計は既に夜の十時を指していた。
みんな本当は帰りたくないのだが、そうも言ってられない。僕もゆっくりと立ち上がる。
( ゚∀゚) 「また必ずライブやろうな」
(´・ω・`) 「ああ、もちろん」
(*゚ー゚) 「やっぱこの四人最高だよ」
川 ゚ -゚) 「私達の友情は、永遠だな」
クーさんの言葉に僕は照れくさくなるが、やっぱりすごい嬉しい。
かつてこれほどの仲間ができたことのない僕にとって、この三人はかけがえのない存在となっていた。
- 307: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:05:12.51 ID:AYIjeT/n0
( ゚∀゚) 「じゃあそろそろ帰るか」
ジョルジュがそう言って、音楽室から出て行く。クーさんもそれに続く。
(´・ω・`) 「じゃあ僕らも――」
僕がドアの取っ手に手をかけた途端、後ろから袖を引っ張られた。
後ろを振り返ると――しぃが顔を赤らめながら僕のシャツの袖をもっていた。
(*゚ー゚) 「もうちょっとここにいようよ……」
(´・ω・`*) 「え、でも――ん」
- 312: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:07:15.59 ID:AYIjeT/n0
僕が口を開いた瞬間、しぃが強引に僕の唇を塞いだ。
それはもちろん――しぃの唇で。初キスだ。
そしてそのまましぃが舌を入れる。僕もそれにつれらるように舌を入れて絡めあう。
そして僕はそのまましぃをゆっくりと寝かせて――お互いに探りあいながら、初めての体験を過ごした。
そのとき僕はただただ――しぃが愛しくてたまらなかった。
- 323: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 01:12:08.86 ID:AYIjeT/n0
ジョルジュとしぃとクーさん。
この三人と出会ってからの僕の人生はとても充実して、楽しい。
でもこんな毎日が続くと、ふと思うんだ。
こんな幸せがいつまでも続くわけがない――ってね。
ただ、今しぃを一生懸命愛し、しぃに一生懸命愛されている僕には、この幸せが消えてなくなることなど全く想像できなかった。
だけど時間の流れって残酷なんだ。僕としぃが果てた頃には――その状態が想像できなくもなかったからね。
僕はそんな日が来るのが怖くてたまらなかった。僕が想像したものは――思ったより現実的で残酷なものだったから。
【希望編】 完
【絶望編】 へ続く
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