('A`)ドクオは淫靡に溺れてしまったようです

5: ◆KUIMWbIYTk :2007/06/24(日) 02:04:40.50 ID:lYP/PE5p0

ドアを開いた。

一歩中に入れば、生ゴミが腐ったような不快な匂いが鼻を刺す。
足元も散々だ。
食べかけのコンビニ弁当と衣類、煙草の灰と埃が隙間なく埋め尽くし、歩ける場所も無い。
だが、片付ける気はしなかった。

どうせ誰もうちにはやって来ない。
それに、どれほど散らかろうが気にはならないからだ。

('A`)「……よっこらセックス」

電気を付けると、俺は数少ない足の踏み場を器用に渡り部屋の奥まで入っていく。
六畳一間のワンルームの一角。
ここが、俺の住処だ。

数年もの間、敷きっぱなしの茶ばんだ布団を中心に、巣が形成されている。
手の届く範囲には、灰皿とペットボトル、リモコンにティッシュペーパーが置かれ、
さらにその奥にはテレビにDVDレコーダー、ゲーム機にパソコンだ。
これだけあれば大概のことはできる。

俺は布団の上に腰を落ち着けると、上着のポケットから煙草を取り出した。
部屋を締め切って吸っているせいで、壁紙はすっかり黄色に汚れている。
だが、そんなことはどうでもよかった。
夜勤のバイトを終え、帰宅してからの一服は至福の時間であるからだ。



7: ◆KUIMWbIYTk :2007/06/24(日) 02:06:36.48 ID:lYP/PE5p0
('A`)「……ん?」

呑気にくつろいでいると、不意にジーンズのポケットが震えた。

携帯だ。
恐らくメールでも来たのであろう。
だが、友人ではない。
人付き合いが煩わしく、避けているうちに俺にメールを出す奴はいなくなった。

('A`)「『約束通り ぁたしの写メ送ったよ☆ 恥ずかしいな(≧∇≦)』か。
    ……おいおい、文面と顔が一致してないぜ」

俺は、携帯のディスプレイを眺めながら溜息をついた。
そこに映っていたのは、明らかに俺の体重の倍はあろうかと思われる巨漢であった。
あ、男じゃないか。
生物上は一応女のようだ。

('A`)「バイバイ……みゆき」

俺は迷わず、みゆき(20歳女子大生)のアドレスを消去した。
話題が豊富でノリも良く好感触だったが、残念ながら守備範囲内だ。
これで美女だったら、間違いなく燃えたのだが。

実は、俺は今『出会い系』にハマっている。
とは言っても、女を捜すのには少々古いのかもしれない。
巷では、mixiだとかいう『SNS』が流行っているようだが、
生憎やっている友人も知り合いも存在しない。



8: ◆KUIMWbIYTk :2007/06/24(日) 02:08:29.76 ID:lYP/PE5p0
そこで辿り着いたのは、出会い系だ。
mixiが流行ってからは廃りを見せ始めていたが、まだまだ女は居る。
余程理想の男を見つけたいのだろうか、書き込みの件数は割と多いようだ。

だが、逆に男の数はその数十倍にも膨れ上がる。
女がメル友募集の書き込みをしようものならば、
男達は自分のプロフィール付きのメッセージをハイエナの如く送信してくる。
ネカマをやったことがあるからよく解る。

('A`)「……また次を探すか。マンドクセ」

女とメールに漕ぎ着けるだけでも大変だ。
現実世界はどうかは知らんが、この仮想空間では女の方が圧倒的に立場は上だ。
コイツはつまらない男だ、と一旦レッテルを貼れば、もう返事はこない。
そして代わりに、違う男とメールの遣り取りを始める。

みゆき(20歳女子大生)を見つけるのも大変だった。
月9ドラマが好きだと言えば、話を合わせる為にようつべで探して見たり、
オレンジレンジが好きだと言えば、P2Pで落としてきたりと、
涙ぐましい努力をしてきた。

('A`)「さてと、新規で誰か書き込んでいないかな……」

しかし、それも儚く散った。
流石に人外相手はキツすぎる。
まあ、俺も人のことを言えないが、辛うじて人間という範疇には収まっているはずだ。



9: ◆KUIMWbIYTk :2007/06/24(日) 02:10:18.54 ID:lYP/PE5p0
しかし、相手を見つけるまでの過程が煩雑だ。
もし俺がイケメンだったら、ケツの軽い女達はこぞって押し寄せてくるのだろうが、
悲しいかな現実はパッとしない陰鬱な顔をしている。

だが、逆にメールの文面は上手くなった。
人に応じて、フランクな口調にしてみたり、真面目なキャラを装ったりと、
人格のバリエーションは増えてきた。

('A`)「しかし、馬鹿そうなのしかいないな」

『友達探し中\(≧▽≦)丿
 かなり最近暇ちんだから楽しくメールしたりできる人募集\(≧▽≦)丿
 おはよからおやすみまで言える仲になれたらいいなぁ♪
                                       ぁみ 女 22歳』

『ピンチなので、これから会ってくれる人いませんか?
 希望が合えば、即決で決めたいです。
 歳はハタチですスリサはB98(Gcup)W64H90 です。 よろしくお願いします
                                       エリ 女 18歳』

大体が前から同じ書き込みがある暇つぶしか、援交相手募集の書き込みだ。
ああ、くだらない。
俺が探しているのはきちんとした関係の恋人だ。
冒頭の書き込みだけで、半分は振るいに掛けられる。

('A`)「……今日は不作だな。ロクなのがいねえや」

今日の書き込み分を遡って目を通したが、気になった女は居なかった。
そして、ツールバーは下まで差し掛かり、諦めて携帯を閉じようとした瞬間、
俺の目に一つの書き込みが入った。



13: ◆KUIMWbIYTk :2007/06/24(日) 02:12:05.71 ID:lYP/PE5p0
『      彼女をレンタルします。    
       詳細はメールにて。       
                    M&W 女 25歳』


('A`)「……? なんだ、この書き込みは?」

一言で言えば、異様であった。
今俺は女性書き込みのページを見ている。
しかし、文面からそれが女ではない事が伺えた。
いや、そもそも書いている内容が尋常ではなかった。

('A`)「新手の業者か? しかし、変わった書き込みをするな」

最初に考えたのは、業者の可能性だ。
こういうサイトには一般の書き込みに紛れ込んで、
業者が自分のサイトに誘導する為に書き込んでいることも多々ある。

そういう書き込みには特徴がある。
大抵はセックスを餌に書き込むパターンだ。
欲求不満だとか旦那が浮気しているだとか、
男が付け込み易いようなあからさまな文面だ。

普通なら、こんな書き込みには返事はしない。
どうせバイトで雇われたサクラがメールを返すのだから。
出すだけ、時間の無駄だ。

だが……



15: ◆KUIMWbIYTk :2007/06/24(日) 02:13:57.37 ID:lYP/PE5p0
('A`)「……とりあえず、出してみるか」

何を思ったのか、俺は『返信する』のボタンを押した。
軽い気持ちだった。
丁度めぼしい相手も見つからず、退屈していたところだ。
それに、相手が誘導する時はメールの文面にURLを貼り付けるため、すぐに気が付く。

どうせ業者であったところで、実害はない。
精々迷惑メールが増える位だろう。
ドメイン指定はしているし、何の問題も無いはずだ。
俺は文章入力の画面に移り、次々と文字を打ち込んでいく。

今回の返事には頭を捻った。

なんせ相手の意図が掴めないからだ。
とりあえず、こういうときは無難に返事をするのがいい。
しかも、極丁寧に。
俺はビジネス文書並に言葉を選んで一つ一つ文字を打つ。

『初めまして。私はドクオと申します。
 年齢は22歳、大学生です。
 貴方の書き込みの内容が気になりましてメール致しました。
 彼女を貸し出す、とは一体どういうことでしょうか?」

('A`)「……さて、と寝るか」

文章を書き終え携帯を閉じると、布団に身体を預けた。
この時までは、そんなに深く考えてなかった。
単純な好奇心が起こした気まぐれだ。
こうして、俺は目を閉じると、すぐに深い眠りについた――



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