喋るアンパンを食う度胸は無い

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:23:30.49 ID:F3jISvOM0
そしてその遺跡群を探査した我々は、ついにその技術を入手。

副主任研究員であるマリア・バタコンナ准尉らを中心とするチームは、

遺跡のデータ解読に成功しパン型戦士type-01「アンパンマン」を完成させた。

この後、そのテクノロジーの応用により、type-02「カレーパンマン」、type-03「食パンマン」等、

パン戦士シリーズの開発にも成功を収める。

また、今日では更なる発掘調査が進み、

旧世界の遺物である人造兵士、(ライスを動力源とする「ドンシリーズ」等)を復活させ、

我々の支配下に置いている。

人造兵士の多くが我々に対して好意的なのは復活させた事と共に、

補給、それ以上にメンテナンスを賄い得るのか我が勢力のみであることに起因する。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:25:31.56 ID:F3jISvOM0
パン戦士シリーズ及び人造兵士の復活に成功した我々は、

ほぼ惑星内の軍事警察権を収攬するに至った。

警察権の行使は当然、民事にまで及ぶことさえしばしばであり、

先住民の我が支配に対する抵抗運動は未然に摘発され、鎮圧されていった。

現在では当植民地暫定政府直轄の秘密警察を深く市民社会に浸透させることにも成功している。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:27:32.08 ID:F3jISvOM0
また、ここで先住民についても報告しておかなくてはならない。

本星の先住民は、動物に近似した形態をとる種族(以下、亜人と呼称)

及び、知能を持つ大型菌糸類(以下カビルンルンと呼称)の2種類に大別される。

平野部に住む亜人たちは、その生活も決して高水準と言えない。

ただし、彼等はこの惑星に偉大な文明を築き上げた人々の末裔である。

我々が母星より持ち込んだ地中探査犬である「チーズ」は

知能強化手術を受けているとはいえ動物に過ぎないのに対し、

惑星の住人が二足歩行と会話が可能なのは、そのような事情に起因すると推察される。

植民支配初期にはこれらの人々による抵抗運動が多発したが、詳細に関しては先の報告書の通りである。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:28:48.87 ID:F3jISvOM0
もう一方の原住種族であるカビルンルンであるが、

こちらは未開地帯で繁殖する1メートル程の大型菌糸類であり、

一応の人語を解するようではあるが、亜人たち程の生産能力も認められず、

さしたる脅威勢力にもなり得ないと判断し、現在のところ放置しているが、

体制が安定すれば更なる分析を試みる予定である。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:30:50.21 ID:F3jISvOM0
さて、本官は一時期、主に亜人たちによって熾烈に惹起された抵抗運動に対し、融和政策を執ることにした。

その一つが「食糧分配」である。

それは我々のパン工場において製作された依存性のあるパンを無償で供給するというものである。

これは惑星内の食糧生産の一元化を画策したものであり、

我が勢力に依存しなければ食糧自給すら満足に行なえなくなるという側面が存在する。

本政策により、かなりの数の抵抗分子を減らす事に成功した。

また、同時に先住民の中に「親体制派」の扶植を実行。

目下、優秀なのは「ミミ先生」(サンプルJRDSA00416426)こと、

亜人を徴用した女性秘密工作員ある。

彼女は亜人たちの初等教育を担当すると共に、愚民化政策を実行。

その成果は「カバオ」(サンプルJRDAPS000656573)らの愚昧振りを見るに明らかである。

結果、亜人たちの民族精気と当事者能力を挫くことに成功した。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:32:51.73 ID:F3jISvOM0
そして現在、唯一残っている抵抗分子が元来、

我が勢力の一員でありながら我々に叛旗を翻して一部の先住民らを煽動し、

当植民政府を手中にせんとする元主任研究員ナインハルト・ヴァイキンである。

我々の植民政策及び、テクノロジーに関して第一級の知識を持つ彼が突如として錯乱し、

我が母星の統轄部である植民政府に宣戦を行なった事に関しては

本官の監督不行き届きである事は否めないが、

彼を制御できる範囲の分かり易い敵勢力「バイキンマン」として亜人たちに示し、

その求心力維持に一役買ってきたのもまた事実であり、いつしかこの植民政策に欠かせぬファクタとなってきた。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:34:22.66 ID:F3jISvOM0
しかし今日、反逆者ヴァイキン陣営が本惑星の古代遺跡より

未知なる技術を入手しつつあるとの報告もあり、

長年維持してきたバランスオブパワーが崩壊するという憂き目に遭っている。

先の政策群により我が植民政府は先住民たちを効果的にコントロールしつつ統治してきたのだが、

それを現在に至って覆されるわけにもいかず、

ついては1個大隊の戦闘部隊を増派されたくここに要請するものである。



                  太陽系外第77方面新資源惑星探査隊隊長 ヨアヒム・G・ジャムンセン中将



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:36:23.14 ID:F3jISvOM0
「やれやれ…」

 ヴァイキンは力無く読み終えた書類をデスクに放った。

「一年前にこれと同じ内容の通信が打たれていたなら、
 そう遠くないうちにこの『増援』が到着するはずです。もしかすると、もう来ているのかもしれません」
「まさか故郷の連中にまた会えるとはな。嬉しくて涙が出そうだ」

 カービイは黙っていた。いや、正確には掛ける言葉が見つからなかった。

 ヴァイキンもまた、ジャムの犠牲者である。
人間をベースに改造するパン戦士の一モデルとして、
バクテリオファージに似たこの星の古代生化学技術でイースト菌との融合を試みられたのだが、
実験は失敗し、この忌まわしい「バイキンマン」としての姿をあてがわれていた。

 彼は絶望の日々をパン工場の湿っぽい、地下牢としか形容の仕様が無い狭い部屋で
データを採取されながら生き長らえていたが、ある日に部屋の隅から現れたカービイの助けを借りて脱出し、
半ば復讐ともいえるこの戦いに身を投じてきたのだった。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:38:29.36 ID:F3jISvOM0
 カービイはこの悲劇の男が人間に戻りたがっていて、
故郷である自分の星に帰りたくも思っていて、しかしそれらの感情をすべて殺し、
この星に骨を埋めるつもりで自分たち先住民族の解放戦線の先頭に立ってきたことも知っていた。

 最早、避けられ得ぬことになりそうだが、
その優しい性格から彼が彼の母星から来るかつての同胞たちと銃火を交えたくないのも容易に想像がついた。

「すまん、カービイ。急ぎの課題なのは重々承知なんだが、少しだけ一人にしてくれ」
「かしこまりました」

 今のやりとりはカービイの意識を通じて、この星に散らばる全てのカビルンルンたちが聞いていた。
彼は冷静で、あまり感情を表には出さない個体だったが、
そのネットワーク網のどこかに篤心家が居たのであろう。
部屋を辞したところで流れ込む感情の波に抗いきれず、一筋の涙がカービイの頬を伝った。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:40:30.22 ID:F3jISvOM0
 夜更け過ぎ、ジャム連邦共和国の亜人街に空襲警報が鳴り響く。
もっともこの週の初めから「活発な破壊活動を続けるバイキンマンを警戒するため」との理由で
夜間外出禁止令が敷かれており、時おり哨戒中のパン戦士が低空を飛行する以外に、街路には人影は居なかった。

 住民たちはそのサイレンの音を聞くと急いで窓のカーテンを引き、
照明を消して灯火管制に入る。もし領内へ侵犯してきたヴァイキンに目をつけられて、
言葉を交わしたり何かを奪われたりすればパン工場地下での再教育が待っている。

「あれぇ?」

 災難を防ぐべく、窓にブラインドを下ろそうとしたカバオは素頓狂な声をあげた。

「なんだろう、あれはバイキンマンのユーフォーじゃないぞ?今まで見たことのない機械だなぁ」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:42:31.69 ID:F3jISvOM0
 パン工場の方角に降りていく大型の船影をしばらく見送っていた。

「何やってんだいカバオ!早く外から見えないようにするんだよ!」

 後ろから彼のたった一人の肉親である祖母の金切り声が響く。

「はーい」
「返事は短く『ハイ』だろ?全くこの子は……お前にはしっかりしてもらわないと困るんだよ!
 お前を父さんや母さんみたいにさせるわけにはいかないんだ……」

 というと老婆は孫を強く抱きしめた。

「おばあちゃん、今ね、見たことのない飛行機がパン工場の方に行ったよ。明日学校でみんなに教えたげるね」
「駄目だ駄目だ駄目だ!サイレンが鳴ってる間の事はしゃべっちゃいけないよ」
「うーん、わかった」

 早口でまくし立てる祖母の緘口令をカバオは仕方なく受諾した。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:44:01.86 ID:F3jISvOM0
「タワー、揚陸艇。ファイナルランディングアプローチ」
「揚陸艇、タワー。支障無し」

 バタコはヴァイキンとの戦時には司令室としても使用される広い管制室で、
一人で管制を行なっていた。この星に着任してから、自分の生まれ育った星の人間と話すのは、
文言の決まりきった着陸管制とはいえ、彼女を少し昂揚させていた。

 レーダにも各センサ類にも外敵の反応がないことを確認すると、
大型のドックのゲートを開けるスイッチを押す。

 ほぼ同時に自動着陸システムの基地側と船側の信号が互いに握手したことを告げるランプが点灯する。
大きな窓の向こうには、自動操縦に切り替わってドックに向けて一定のスピードで降下する大型宇宙揚陸艇が見える。

 パネルに目を向けると、着陸までは3分足らず。

 全てが、レールの上に乗っていた。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:45:32.03 ID:F3jISvOM0
「来ましたよ、バタコ少佐」

 すでにドック内部に降りている食パンマンから通信が入る。

「了解。私もすぐにそっちに向かうわ」

 何気なく、彼女はコンソールからの立ち上がり際に、モニタに映った自分の顔を見た。

「こんなにバッチリ化粧をしたのなんて何年ぶりだろう。もうオバサンて言われてもおかしくない歳よね。
 でも大丈夫、まだキレイよ。大丈夫、イケる!」

 すっと立ち上がると、管制室の大きな窓にスラリと背筋の伸びた細身の白い軍服が似合う美しい女士官が映る。

「行くわよバタコ」

 彼女は颯爽と部屋を後にする。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:47:02.28 ID:F3jISvOM0
 重い音が響いて上部扉が閉まり、人工的な光に照らし出された四角い揚陸艇はドックの接舷装置にロックされた。

「第一から第八ガントリーロック、接続確認。全着陸行程クリア」

 パネルの間に立つカレーパンマンが装置を見てコクピットに連絡する。
その合図とともに、ドック内に轟いていた甲高い反重力エンジンのノイズが段々と低くなっていった。
船体のあちこちに灯っていた夜間飛行用の赤と緑のランプが、次々と光を消す。

 カレーパンマンはコンソールの一番隅にあるタラップのスイッチを押し、
食パンマンとアンパンマンの並ぶ揚陸艇の乗船用ハッチの下に向かう。

 低い作動音を伴って階段型のタラップが、逆噴射によって発生した陽炎の中をせり上がっていった。
やがてそのハッチが開く。内外の微妙な気圧差からか三人のパン戦士に向かって船内から一陣の風が吹き、
彼らのマントを靡かせた。



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:48:38.02 ID:F3jISvOM0
 最初に現れたのはバタコと似たデザインの白い軍服を身に纏った中年の士官だった。

「さすがにブラスバンドまでは期待しちゃいなかったが、何とも味気ない出迎えだなっ」

コツ、コツと顔が映るくらいに磨き上げられたブーツの踵で音を立てて彼はタラップを降り、
一番近いところで直立する食パンマンの前に立つ。

「これが噂のパン型戦士ね」

と呟くや、唐突に彼の顔の側面のパンの耳の部分を摘まむと
スナップで引きちぎり、口の中に入れた。食パンマンは姿勢も表情も変えない。

「ふム……なんと本物のパンじゃあないか。おいフレーク、こいつぁ船内食のパンよりよっぽど上等だぞ」

と、ハッチから続いて出て来た筋骨逞しい男の方を向いて言った。

「話によると、そいつらモノ凄い戦士だそうじゃないですか。しかも緊急時に食糧になるってんなら、
 俺達、宇宙海兵隊は全員お払い箱ですね、ベーキング大佐!」

ワッハッハとフレーク隊長に続いて重い装備類を背負って船を降りてきた海兵隊員たちが豪快に笑った。

「我が国の財産をいきなりむしり取って食べてしまうとは、とんだ援軍ね」

ハッチの扉が開き、バタコが入ってくる。フレークが小さく口笛を吹いた。

「これはこれは、バタコンナ准尉。いや、こちらではバタコ少佐でしたな」
「ようこそ太陽系外第七十七新資源惑星へ」

 二人は挙手の敬礼を交わした。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:50:08.87 ID:F3jISvOM0
「まずはジャムンセン将軍にお会いしたい」
「了解しました。こちらへ。海兵隊員の皆さんは、食パンマンとカレーパンマンが宿舎に案内します」

 バタコとベーキングが連れ立って歩き、
その後ろに食パンマンが海兵隊員たちをエスコートし、しんがりをカレーパンマンが続く。

「なんだか俺達、囚人みたいスね。フレーク隊長」

 若い隊員が最後尾のカレーパンをちらりと見てフレークにこぼす。

「お前さ、この前の任務で最初に植民基地に降りて案内された時も同じコト言ってなかったか?」
「あの時はちゃんとたくさんの人間のお迎えがあったじゃないスか。
 それで先導してた奴が『デモリッションマン』の看守長に似てるっていう冗談だったじゃないスか」
「今回はなかなかファンシイな看守じゃないの。なぁに、メシ食って清潔なベッドで一晩眠りゃ忘れるよ」
「いや、別に自分はビビってるわけじゃ」

「こちらへどうぞ」

一同が大きなドアの前に案内されたところで食パンマンの張りのある声に、会話は中断された。
バタコとベーキングは更に奥へと廊下を歩いていく。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:51:40.08 ID:F3jISvOM0
 観音開きの頑丈そうなドアを開けると、広い部屋に隊員分のベッドと生活用品が整然と並んでいた。

「設備は自由にお使い下さい。食事は明朝八時です。
 その時にまた、カフェテリアまでご案内に参ります。ではごゆっくり」

 食パンマンは簡潔に述べるとドアを閉じ、外からロックを掛けた。

「やれやれ、ホントに囚人みたいだな」
「まぁま隊長、俺らみたいなペーペーの兵隊には
 見せられない植民地政府の機密みたいなモンがあるんでしょうよ。それより、こっちはどうですか?」

 副隊長が部屋の隅のビリヤード台を指しながら、壁から外したキューを渡す。

「よし、俺は棒とタマを使って穴になにかを入れるって競技は得意なんだ」

 フレークは不敵な笑みを浮かべながらキューを受け取った。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:53:11.44 ID:F3jISvOM0
 エレベータに乗ってから、既に5分は経っていた。

「随分と深いな」

ベーキングはその言葉をつい先程も漏らした事に気づいて小さく笑った。

「私もまア、随分と色々な植民星を回って来たがね、これほど立派な基地を築いていたのは初めてだよ」
「たまたま、この星に眠っていた遺跡がアタリだっただけです。大佐」

 バタコは冷静にその見え透いた世辞を切り返す。この次にはズバッと直球を投げてくるのは目に見えていた。

「その『アタリ』のテクノロジ群を持ってしても、反逆者であるヴァイキン博士を抑えることが難しかったのかな?」
「ヴァイキンは主任研究員でした。発掘した技術に対する理解は、
 それを持っていた遺跡の主たちが滅んでしまった現在、この星で彼の右に出る者はありません」

 エレベータが止まる。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [サルヨケタノム] :2007/05/25(金) 20:03:38.68 ID:F3jISvOM0
「それで我々がトラブル解決に呼ばれたって訳だ」

 バタコに続いてベーキングも、ジャムの執務室への深いカーペット敷きの廊下を進む。
 突き当たりに重厚な扉が見えてくる。

「バタコです。本部からの増援部隊長をお連れしました」
「入ってくれ」

 レディファーストの原則を無視してバタコが扉を開いた。ベーキングは少しだけ背すじを伸ばす。

「うん?」

 当然、ジャムンセン中将が座っていると思っていたデスクの向こう側の豪華な革椅子に人影を見つけられず、大佐は訝しげな顔を作って准尉に向ける。

「バタコンナ准尉、将軍はどちらに?」
「……奥の部屋にいらっしゃいます」
「奥の部屋は私室ではないのか?私は公務でここに来ているのだが」

 ベーキングは憮然たる表情で机の裏手にあるドアに向かい、少し乱暴にノックをした。

「入ってくれ」

 その扉の向こう側から先程と変らないジャムの声が届く。

「失礼します」

 彼はノブに少し力を込めて重いドアを押し開けた。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:05:39.03 ID:F3jISvOM0
 奥の部屋から流れ込む冷たい空気が戸口に立つベーキングの顔を舐めた。

「な、なんだこれは…」

 執務室の奥は、部屋というよりも巨大な冷蔵室という形容の方が合っている空間だった。
海兵隊員を運んできた揚陸艇が一機がまるまる入る程のスペースに低い、
強力な室温調整装置の音が響き渡っている。

「ジャム総統はこの奥です。参りましょう大佐」

 意表を突かれて立ち尽くすベーキングをバタコは軍服の襟を立てながら促す。

「うム。あのアンティーク趣味の部屋からまたガラッと雰囲気が変ったから驚いたよ」

白い息で話しながらベーキングは慌てて足を前に出す。

「将軍は研究作業中なのか?仕事熱心なのは結構だが、
 ご自分で呼んだ我々海兵隊の出迎えにぐらい出てきても良さそうなもンだがね」

 バタコにも聞こえるか聞こえないかぐらいのトーンでベーキングは悪態をついた。

「そう言うな。少し手が離せなくてな、ベーキング大佐。遠路はるばるご苦労だった」

 歩く二人のすぐ横にあったスピーカからジャムの声が轟き、
またしてもベーキングは立ちすくむが、今度はすぐにまた歩き始めた。
壁に張り巡らされた配管類が共鳴して少し震えている。ベーキングはきまり悪そうな表情をバタコに見せる。



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