喋るアンパンを食う度胸は無い

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:07:40.23 ID:F3jISvOM0
 薄暗がりの中に一軒家ほどもある大きな機械が見えてくる。壁のパイプや配線は全てここに集中していた。

「えっと、ジャムンセン中将はこの中にいるのかな?」
「はい、大佐」
「なるほど」

 と言うと、ベーキングはその外壁が少し霜がかっている機械のまわりをぐるりと一周、
やはり周囲との温度差で結霜して薄く雪が降ったようになっている床にブーツの足跡をつけながら回ってみた。

「バタコンナ准尉」
「はい」
「この機械なんだが、ハッチというかドアというか、あーつまり入り口はどこなのかな?」

「ハッハッハッハッハ!」

 その質問にはバタコの代わって再び部屋全体に響くスピーカを通したジャムの笑い声が応えた。

「ジャムンセン将軍!そろそろ、お姿を拝見したいンですがね!」

 痺れを切らせたベーキングが居場所のつかめないジャムの代わりに
目の前の機械に向かって大声を上げた。しかし相手が巨大でどうにも落ち着かない。

「バタコンナ准尉!私を早く中将に会わせるンだ。このクソいまいましい貯水槽の化け物みたいな代物から
 ジャムンセン中将を呼び出して……」

と言いかけたところでふとベーキングは目の前のバタコに違和感を覚えた。
彼が士官学校を出てから見続けてきた、三十年近くデザインの変わっていない
宇宙海兵隊女性士官第一種制服姿のどこかに妙なところがある。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:09:55.80 ID:F3jISvOM0
「お探しのモノはこれですか?ベーキング さ ん 」

 それを察したバタコは掌を開く。
 そこにはベーキングもまた着けている、
青い宇宙海兵隊の襟章が壁の吹き出し口から流れる白い冷気を通した
天井の蛍光灯の光を鈍く反射していた。反射的に本来それがあるべき場所に目を移すと、
そこには、彼の徽章と同じインディゴブルーながら彼のものとは異なる
『J.A.M.』
の文字がデザイン化されたピンが留められている。

「准尉…」
「ベーキング大佐、私はもう、宇宙海兵隊准尉のバタコンナ准尉ではないのです」

 哀しげな表情でバタコは真っ直ぐ自分に刺さるベーキングの視線から逸らすと、
その大型機械の方に歩く。そして正面のプレートについた霜を袖口でガリガリと落とした。

『J.A.M.』

彼女のエンブレムと同じマークが現れる。さらにその下の部分をも丁寧に拭う。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:11:36.54 ID:F3jISvOM0
 JUSTICE AND METHOD  (正義 と 秩序)

「紹介します。我がジャム連合共和国の国家元首、ジャム総統です」

 バタコは巨大なマシンに向けて、しなやかに上を向けた掌を差し出した。

「馬鹿な!」

 ベーキングはゆっくりと、バタコを見据えたまま左腹に
クロスドロウ式に装着してあるホルスタの覆いを左手で外し、そして素早く右手で拳銃を抜いた。

「裏切ったというのか?バタコンナ准尉……
 というより、この機械そのものがジャムンセン将軍だというのか?うぬぬ馬鹿な!」

 バタコに向けられた銃口の後ろで撃鉄が起こされる。

「ご理解が早く、助かります」
「ふン、たかだかこんな辺境の惑星を牛耳ったところで、
 強力とはいえ数体のパン戦士とやらだけで独立戦争をやらかそうってのか。
 それにお前らは致命的なミスを犯したな!」

ベーキングは腰のポーチから無線機を左手で取り出す。



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:13:08.31 ID:F3jISvOM0
「自分らで呼んだ応援部隊が、鎮圧部隊の先遣隊になっちまうってことさ」

 刹那、赤と黄色のまだらの影が走り彼の無線機を貫いた。
何が起きたか分からないうちにベーキングが右手で持つ将校用ピストルも奪われる。

「ご苦労さま、アンパンマン」

 アンパンマンは無言で会釈だけバタコに返すと、
左手で握った拳銃の弾倉を抜いて、スライドを引き初弾を薬室から排出させ、
マガジンとともにバタコに渡す。そしておもむろに銃身を飴細工のように握りつぶした。

「なるほど。大した戦闘力じゃないか。速く、そして強い。
 自信を持つのも理解できる。しかしそれだけでは、個の力では戦争は勝てないのだよ。コンピュータおじいちゃん!」
「だから君達を呼んだのだ」

 ジャムの声だけが部屋全体にこだまする。姿の無い妙な威圧感に、ベーキングはわずかに後ずさりする。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:14:40.10 ID:F3jISvOM0
「ジャムンセン中将……いや、こうして叛旗を見せた今は、ジャムンセン『元』中将というべきか」
「どちらも正確ではない。『元』ジャムンセン中将あたりが妥当だろう。
 私はご覧の通り、今やこの星で発掘されたこの機械と一体化した、言わば意思だけの存在だ。
 もはや人ではなく、『J.A.M.』というひとつの惑星管理システムなのだよ。
 まあ詳しい話は君達、宇宙海兵隊員をパン戦士に改造した後にでもしてやろう」
「なんだと!」

 この場はあきらめてアンパンマンに大人しく手錠をかけられていたベーキングは
 その言葉を聞くや、全身の力を振り絞って抗ったが、赤い強化スーツを来たパン戦士は淡々と彼を拘束した。

「言っただろう、その為に君達を呼んだと。君の言う通り、個の力では戦争に勝てぬから
 パン戦士の集団を作るべくその材料を調達したというわけだ」
「うおおぉぉっ!」

 ベーキングの憎悪を孕んだ絶叫が地下に響いた。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:16:41.50 ID:F3jISvOM0
「はぁあ」

 パン工場で大きな異変があった数週間後、
そんなことは露知らずに少女は窓辺の桟についた肘の上に顎を載せて
深く、息を吐き出していた。何が今、自分を縛り付けているこのフラストレーションの原因なのか分からず、
とりあえず身体の中の鬱屈したものを全て出し切ってしまおうと、
先刻から肺の中身を大気に放出する努力をしているのだが、どうにもうまくいかない。

「あ〜ぁ、食パンマンさま……じゃなかった!あいつはトンだ悪党だったんだわ!ふぅ」

 溜め息をつきすぎて喉が渇いた彼女が、既に空になった水差しを持って部屋を出ようとするとノックの音が響いた。

「どーぞ」

 ティーセットを乗せたワゴンを押して入って来たのは執事だった。

「カービイ、グッドタイミング!」

 ドキンは水差しをナイトテーブルに戻すと勢い良くベッドに座った。



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:18:14.96 ID:F3jISvOM0
「オレンジペコーのいいところが入りまして」

彼はいたずらっぽく、茶葉の入った缶を振ってシャラシャラと音をさせた。

「オレンジ?アップルティーのみかん版みたいなのかしら」
「いえ、葉束の先端の小さい葉だけを使った高級茶葉でこしらえたお茶です」

 それはヴァイキンが街でドキンの為に仕入れてきたものだった。

「ふーん、ねえカービイも一緒に飲みましょうよ」
「残念ですが」

 白磁のカップに湯だけを注ぎ、適温になるのを見計らっているカービイは少し悲しそうに微笑みながら辞退する。

「私どもカビルンルンは紅茶に含まれるカテキンが苦手でして」
「御相伴に与れず、申し訳ございません」

 カップの湯を捨てながらもう一度彼は寂しそうに笑った。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 20:19:53.26 ID:F3jISvOM0
「あら、それじゃバイキンマンもよく、アルコール飲んでるけど平気なのかしら。
 お腹の中から消毒されたりしないのかな…」
「今のところ大丈夫のようで。砂糖は二杯ですな」

 屈託の無い、しかし実は難しいその質問に、カービイは淀みなく答えた。
ヴァイキンがこの星の外からやってきた人間であり、
改造に失敗したイースト菌戦士であることを彼女に話すのはまだ早かった。

 彼はその実験の失敗により、体内で細胞分裂に必要な酵母を
アルコール摂取によって賄わねばならない不完全な一面をも持っている。
しかし今はまだドキンと同じ、進化の道を模索するかの如く多様な形質をとる亜人の
ひとりということにしておいた方が良い。

「うん、おいしい」

 ドキンが笑顔をこぼし、カップをソーサに置いた。

 その瞬間だった。窓の外に閃光が煌めき、轟音とともに部屋全体が激しく揺れた。
ワゴンの上に乗っていたポットが落ちて、床のカーペットに作った染みから湯気が上がる。

「ドキン様!」

 執事は頭上で揺れる照明器具が不安定に点滅をする中、怯えるドキンに駆け寄った。

 低く垂れ込めた重い音の警報サイレンが辺りに響き渡り始めた。



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [連続投稿規制・・・] :2007/05/25(金) 20:55:15.52 ID:F3jISvOM0
「何があった?」

 ヴァイキンは司令室に入ると息を切らせて肩を上下させながらも、
あくまで平静を装って手近な当直のカビ兵に尋ねた。

「敵襲です!こちらの防空識別圏外から未知の兵器にて射程範囲外攻撃されています!
 現在、第三から五、及び七区画より出火中!」

 それだけヒステリックに告げると、そのカビルンルンは走って自分のブースに戻り、
慌ただしくキーボードを叩き始めた。すぐに違うカビ兵から報告が入る。

「ダメージコントロールですが、カービイ様の指示で第三、四区画は破棄。
 第五及び第七区画の消火に集中させています!現場からの報告では、鎮火まで十五分!」
「いい判断だ。迎撃シフトは?」

 現場のユニットと交信をしていたまた違うカビ兵が応える。

「第二波攻撃に向けて展開中です。ダダンダンを、
 対パン戦士仕様と対地上兵器仕様にて一機ずつ準備中です。あと八分で出せます!」
「もう一機、対パン装備で出すんだ!ダダンダン、全機出撃だ。四分で準備させろ!
 皆、いいか?今回は出し惜しみ無しで行く!」

 その指令を受けたカビルンルンは「一緒に」話を聞いていた、格納庫のメカニックのかわりに「了解」と答える。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [5分おきぐらいに投下] :2007/05/25(金) 21:00:16.98 ID:F3jISvOM0
「……非戦闘員の退避は?」

 このヴァイキン城に、戦闘に参加しない要員は一人しか居ない。

「ドキン様はカービイ様と共に地下出口からドキン様の機体にて脱出済です。既に安全圏に到達しています」
「よし、私も出る。UFOは?」

 ヴァイキンの眼に一瞬、安堵の色が浮かぶがすぐに戦う男のそれに戻る。

「武装を対パン水圧砲、千八百ミリ半誘導対装甲打撃鉄槌に換装済。
 副砲には三十ミリの徹甲焼夷弾を乗せてあります。エンジンアイドリング中。すぐ出られます!」
「いいぞ!迎撃に関してはオールウェポンズフリー全火器使用自由。
 ただし、押し返せても深追いはするな。この拠点だけを守ってくれ。それじゃ、ちょっと行ってくる」
「お任せ下さい!お気をつけて!」

 一同が声を揃えて送る中、彼は手を振ってハンガー格納庫に向かう。



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:05:29.53 ID:F3jISvOM0
 涼やかな風のような音を立てて彼のマシンは待機していた。

「既に各チェックは済んでいます」

 ヴァイキンはその機付き兵を信用しなかったわけではなかったが、
ぐるりと機体のを外周部をチェックした。こんな時だからこそ確認を怠らない、
そのパイロットとしての性を知っているカビ兵は何も言わず、Gスーツを持ったまま彼の点検を待った。

「よし、スーツを」
「どうぞ」

 スーツを渡すと、今度は乗機用ラダ−を押さえる。
何度か飛び跳ねながらタイトなツナギ状のGスーツに身体を押し込んだヴァイキンが
勢い良くハシゴを登る。そしてそのカビ兵も一緒にUFOに乗り込み、
ベルトで専用のシートに自分を固定する。

 今回のような長引きそうなフライトには、必ずカビルンルンが一名同乗することになっている。
彼らの理論的には傍受もされず妨害もできないテレパスは軍用無線として最適であり、
かつ単独行動中のユニットからリアルタイムで司令室や、
他の全カビルンルンユニットに情報をフィードバックできるからである。

「今回、機付きになりましたカルビンです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。さぁ行くぞ!」

 まだ若いカビ兵に簡潔に挨拶をするとヴァイキンは機体に揚力をかけながらキャノピーを閉じた。
そのロックがかかる瞬間にハンガー格納庫の防火扉が最低限、ヴァイキンUFOが通れるだけの隙間を作る為に
重い音を立ててスライドする。

 彼の機体は少し朱く染まっている夜空に、静かに滑り出した。



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:10:33.16 ID:F3jISvOM0
「カービイ、あたしのUFOはどこにむかっているの?」

 ドキンの流線型の機体は、自動操縦であらかじめ設定されたポイントまで、
地表スレスレを飛んでいるのだが、カムフラージュの為か先程から何度も方向転換をしていて、
元来いわゆる方向音痴である彼女はすっかり自分の現在位置が分からなくなっていた。

「もうすぐ見えて来ます。ほら」

 と、機付員席のカービイが指し示した方角には、うっすらと街の明かりが見えてきた。
この、ほぼ大半の陸地が水没してしまった惑星にある街。それはひとつしかない。

「え〜っ?あれ、ジャムおじさんの、パン工場の街じゃない!敵の本拠地じゃないの!」

 あわてふためくドキンは、寄りかかっていたシートから跳ね起き、
とりあえず機体を停止させようとコントロールスティックを引くが、
エラーメッセージがウインドウに表示されるだけで機体の意志は全く変わらなかった。

「ドキン様、ご安心を。このルートの安全は既に確保されています。もちろん我々の受け入れ先も、です」



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:15:38.09 ID:F3jISvOM0
 彼女が物心つく前から世話をしているこの老カビルンルンの自信に満ちた今の一言で、
不思議とドキンの気分は落ち着いた。彼らの種族は気休めの嘘などつかないということは、
ドキンの半生を通して得た経験則のうちのひとつだった。

「わかった。それで、どこに行くの?」

 リラックスして再び座席に身を沈めて尋ねる。

「小学校に」

 カービイはシンプルに答えた。

「小学校?あの小学校よね……って、あの街に小学校はひとつしか無かったわね。
 あの、マヌケのカバオなんかが居る小学校よね?」
「はい」
「隠れ先なんだから、もうちょっと秘密っぽいところかと思ったわ」
「木を隠すなら森、いやこの場合は灯台元暗しといったところでしょうかな」

 ドキンは隠遁するのが、自身も幾度となく訪れてはちょっかいを出して遊んでいた、
あまりに馴染みのある場所であることを知るとさらに気分が落ち着いてきた。
ヴァイキンもなかなか味な事をすると感心してみたりもした。

「カービイ、ヴァイキンは無事?」

 思い出しついでに、聞いてみる。

「はい、今のところご無事のようで」

 彼は初めて彼女に嘘をついた。



117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:21:49.37 ID:F3jISvOM0
 その特筆すべきヴァイキンUFOの主機の長所である静粛性は、
副砲として積んでいる古式ゆかしいチェーンガンの豚の断末魔のような発射音で全くその特性を失っていた。
もっとも、今回のような邀撃でその特徴を活かす場面があるかどうかは別問題だったが。

「二時方向下方、敵機!」

 返事の代わりに彼は機体を右方向に旋回させながら加速しつつ機首を下げ、
一瞬だけトリガーを引く。短い火線が空中に走り、
五発に一発の割合で装填されている曵光弾がそのパン戦士に命中して
青白い炎の尾を引きながら地面に向かって落下していく。

「くそっ、キリが無いな…」

 雲霞の如く彼の機体に群がる量産型パン戦士。
彼らが二十日ほど前にジャム領内に降りた懐かしき故国の
宇宙海兵隊の揚陸艇に乗っていたはずの海兵隊員たちがジャム総統の、
いや『J.A.M.』の手によって改造されたものであることを彼は知っていた。

 最初のうちは水圧砲の薙射によるエネルギー源たる
頭部のパンの無力化という戦法をとっていたが、
数で押されては機動力を最大限に活用した立体的な攻防をする必要があり、
彼は覚悟を決めて重い貯水タンクを捨て、先程から実弾による射撃を行なっていた。

「パンらを全部相手にしていたら勝負にならない!それよりも城を狙い撃ちしてるアンパンマン号を探すんだ!
 湖岸の森のあたりに間違いなく居るはずだ」
「はい。あ、後方敵機!ほぼ直上!」

 必死に地上に目を凝らすカルビンの反応が少し遅れた。
その上空の、オリジナルより少し白っぽい量産型カレーパンマンは既に必殺のカレーパンチの体勢に入っている。



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:27:41.14 ID:F3jISvOM0
「ぬうぅええい!」

 ヴァイキンはキャノピ越しに敵を見据えながら、
機体を急上昇させた。鈍い炸裂音が響く。パンチのエネルギーが一番乗り切る、
腕を伸ばし切る直前の瞬間に二十トン以上あるバイキンUFOの体当たりを
顔面に受けたそのパン戦士は四散した。超硬化テクタイト製のコクピットカバーには、カレーがべっとりとついている。

 すぐさま自動制御の超音波洗浄装置が作動して視界は元に戻るが、ヴァイキンの心までは晴れなかった。

「湖畔の森林、北西部に熱源発見!熱核ホバー!アンパンマン号を発見!」

 僚機であるダダンダン二号機から通信が彼を現実に引き戻す。

「一号と三号は二号の掩護!二号は全火力をアンパンマン号に!さぁ、正念場だ!」
「了解!」

 各ユニットの指命受領確認を、機付員シートのカルビンが代弁する。

「さて、いよいよボス戦だな!」

 そして機首をダダンダン達の方に向けた時だった。
 機体に尋常ではない衝撃が走る。様々な色の警告灯がコントロールパネルに灯る。

「その前に中ボス戦だよ」

 振り向くと、彼のUFOから毟り取った太いアンテナを握りしめる、
黄色いスーツのオリジナルカレーパンマンがホバリングしていた。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:33:32.04 ID:F3jISvOM0
「カレーラスか。久しぶりだな」

 ヴァイキンは人差し指を操縦桿のトリガーにかけたまま機外スピーカで
目の前に浮かぶ重火戦型パン戦士に、かつて同僚だったころのパーソナルネームで呼びかける。

「ヴァイキン、昔のよしみだ。悪いようにはしないから降伏しろ」

 瞬間、かつての記憶がヴァイキンの脳裏に過ぎる。
仲良しなどという言葉からは程遠かったものの、互いの才覚を認め合い
研究に勤しんでいたラボ内の同志。気難しい秀才の多い研究員の中で
このお調子者はいつも下らないジョークを飛ばしていたな……

 しかしこいつはもうあの陽気なカレーラスではない。

「敵の握力が高まっています!パンチに気をつけて!」

 半分近くの警告灯が瞬くパネルの中から情報を見て取ったカルビンが
絶叫にも近い声で警戒を促す。ヴァイキンはそれに応えるようにスティックを押し込み、
機体を急制御させる意志を示す。そのインプットを受けたコンピュータが、
失った片方の大型アンテナの重量を加味した演算を行ない、
最適な出力をエンジンに与えて動翼を制御する。

 離脱。すぐさまカレーパンマンのいるはずの空域に機関砲を向ける。
 がしかし、そこには既に何者も存在していなかった。



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