喋るアンパンを食う度胸は無い

125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:38:56.34 ID:F3jISvOM0
「ドップラレーダの精度が著しく低下しています。スキャン可能半径、周囲一キロ!」

 索敵半径一キロメートル。それは他のモデルに較べて鈍重とはいえ、
亜音速で接近するカレーパンマンをレーダの識別圏内に補足してから、
たった三秒間の猶予も与えられないことを意味する。

「口の中がアドレナリンの味でいっぱいだ」

 ヴァイキンはレーダをカルビンに任せて全周囲に無限に拡がる夜空に目を走らせた。



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:44:13.76 ID:F3jISvOM0
 南の空に何かがチラリと見えた気がした。

「あれかな?」

 依然として闇には慣れない眼を凝らすと、確かにその方角から何かが飛来する。
 夜の空で一番目立つ色は白だが、その次は微かな月や星々の光から浮き立つ黒である。
灯火管制の敷かれた夜の街の上空に接近するその赤い機体は計算されつくされた夜間迷彩塗装を施されていた。

「来た来た!今度こそ間違いないぞ!」

 少年は三回ほど飛び跳ねると、斥候としての自らに課せられた使命を遂行する為に
屋上から階下に結ばれたその原始的な通信器を取り、数回、弦を引っ張った
 静かな校舎の遠くの方で鈴の音が鳴り、しばらくすると受話器に女が出る。

「カバオ君、またトイレ?」
「ミミ先生、来ました。ドキンちゃんです!」
「ご苦労様。すぐ行くわ」

 傍受される恐れのない、電磁波を介さないその通信は数秒で終わった。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:49:34.57 ID:F3jISvOM0
 ドキンの機体はヴァイキンのものよりも新しく、それ故に彼のものよりも進歩した技術が投入されている。
特に戦闘に必要である単純さや頑強さとは違う方向性にそのテクノロジは反映されているので、
バイキンUFOとは全く別物といっても過言は無い。
 その着陸時の無段階に制御された滑らかな機動は優雅でさえあった。
 キャノピーが開く。ドキンが降りる。

「待っていたわよ、ドキンちゃん」

 彼女を出迎えたのはウサギのような亜人の教師、ミミだった。

「ミミ先生、あの、わたし」
「いいの。バイキンマンさんから聞いているわ。早くこっちに」

 カービイは偽装(カムフラージュ)用のシートを素早く展げてUFOがパン戦士たちの飛翔する上空から、
視覚的にも電子的にも見えにくくする処置を施している。

「こっちこっち!」

 その屋上に繋がるドアを抑えているカバオがやや大きな声を上げた。
素早くミミが振り向き、唇に人差し指をあててそれを制する。
 掩体を構築し終えると彼女の腹心のカビルンルンは素早くドキンに歩み寄る。

「行きましょう」
「ええ」

 ドキンは執事が来るのを待ってから校舎に続くドアに飛び込んだ。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:54:37.89 ID:F3jISvOM0
 戦局は寄せ手から受け手へと傾き始めていた。全てのカビルンルンたちが連合し、
互いの死角を見張り、攻撃の観測、判定、必要な修正の各諸元を思念のネットワークによって
共有している彼らは、シームレスに次に必要な情報を収集し、
それをタイムラグ無しで組織全体に伝え、すぐさま実施することができる。

 量産されたパン戦士たちは一個一個の戦力は強力ではあったが、
統制という面においてはカビルンルンたちにアドバンテージがあった。

【もう二歩下がって主砲を撃とう】
【撃った。この一射はオトリ】
【これでアンパンマン号が少し後退したら射界が開ける】
【そこに全弾撃ち込んでみよう。3、2、1、今】
【弾着確認。ホバーを片方仕留めた】

 瞬間に数千の情報が交信される。その中から彼らは自分に必要な情報のみを
ピックアップして活用して戦う。その通信は満身創痍のバイキンUFO内にも
機付きのカルビンによってヴァイキンに要所要所が伝えられていく。戦術的勝利はもう近くに思えた。

「ヴァイキンさま。撤退を具申します」

 カビルンルンからの申し出というものはまず間違いだったことはない。
この惑星全体にひろがる膨大な数に及ぶ知性が相談して出した結論である。



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 21:59:54.17 ID:F3jISvOM0
「アンパンマン号は思ったよりもうまくいったかな。確かにもうこのUFOで浮かんでても何にもならないね」
「ヴァイキン様が前線に出たのでダダンダンに群がるパンが70パーセント近く減りました。そのおかげですよ」

 若いカビ兵は相変わらず周囲の視界と送られてくる情報に目を通し続けながら言った。

「ところが城まで帰れるか、ちょっとあやしいぞ」
「カレーパンマンですか。そうですね、かなり不利かも知れません」

 カビルンルンは気休めの嘘をつかない。少なくともヴァイキンはそういう場面を見たことが無い。
彼が言うなら、間違いなく不利なのだろう。

「どうしたら勝てるかな」
「僕たちカビルンルンはあなたと共闘していますが、『道具』にすぎません。
 この漸減戦で大量のパン戦士を撃墜して、あの機動要塞を潰しても、
 戦術的には勝ちですが、ヴァイキン様の生存無しには戦略的な勝ちはありません」
「『道具』ね」
「完全な比喩ではないのは分かりますよね」
「……うん。じゃあ『意志』を示すよ。『勝つ』ぞ!」
「了解しました。アンパンマン号はもうじき墜ちます。対パン装備のダダンダン一機をこっちに回します」



135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:04:54.58 ID:F3jISvOM0
 強力な水圧砲を備えたパン型戦士を攻撃することに特化したダダンダンが一機、
アンパンマン号を攻撃するチームから離脱を始めた。

「どうしたんだろう」

 ダメージの蓄積してきた地上機動要塞を仕切る女士官が疑問を提示する。

「バイキンマンの掩護に向かったんだろう」

 基地から超思考力を持ったスーパーコンピュータ『J.A.M.』が応答する。

「バイキンUFOを落とし、生死は問わずとしても奴を確保することはできそうか?」
「ネガティヴです。この森の上空で彼のUFOを撃墜しても、生存したまま脱出される可能性は完全に否定できません」

 直接ヴァイキンと接敵しているカレーパンマンから回答が届く。

「ではプランBで行こう」

 それだけ言うとジャムの通信は終了した。バタコはそれを聞き届けると全パン戦士に撤退命令を下した。

「おやおや、もう帰りかよ。もうちょいだってのに」

 指令を受けたカレーパンが、直属の上官にわざと聞こえるように毒づく。

「帰投よ。基地に向かって」
「はいはい」



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:09:57.35 ID:F3jISvOM0
「カレーパンマンを見つけました」
 カルビンから報告が入る。正確には、
いまヴァイキンのサポートに回るべく湖の方から向かってくるダダンダンの索敵要員からの報告だった。

 複数名の補足情報により立体的に測距された情報が送られてくる。

「我より方位ヒト―サン―フタ―ロク、高度マイナス二十五、距離二千若。空中静止中」
「よく見つけた!……にしても、奴ら、撤退しはじめていないか?」
「はい。白っぽい奴らはパン工場の方に飛んで行っていますね。
 あっアンパンマン号も戦線から離脱していきます!追わせますか?」
「すぐにはとどめを刺せないだろう。深追いは禁物だ」

 カルビンがその指示を聞いた瞬間、ジャム側の大型兵器に対する砲火が若干緩やかになる。
牽制と威嚇を目的とした射撃のみが夜空に伸びる。

「カレーパンマンはどうしましょう。私もここから目標を確認できました。
 ダダンダンの方の測距儀と併せた演算の結果、こちらのチェーンガンでも充分、有効射程内です」
「…………やめよう。彼らは撤退をしている」
「ヴァイキン様。彼らが基地に戻って引きこもっているとは思えないのですが」
「叩けるうちに叩こうってことか。それでも叩かずに済むのなら、叩きたくない」
「……その『意志』を了解しました」

 すまない。と言いそうになってヴァイキンはその言葉を飲み込んだ。
仮にも彼はカビルンルンたちのリーダーである。
 一番最初にパン工場の地下の牢獄から助けられる際に交わした『契約』を思い出す。謝るわけにはいかなかった。



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:15:09.61 ID:F3jISvOM0
「やれやれ、今回はどうかと思ったけれども、どうやら一難去った感じなのかな?」
「……また一難のようです。ドキン様の居る学校が危ないかも知れません」
「! カービイからか?」
操縦桿を握るヴァイキンの手袋の中の湿度が一気に上がった。
「急ぎましょう。湖の直上を突っ切るコースが『空いて』いるようです」
「分かった」

 コントロールスティックを前に大きく倒しこむ。エンジンが低く唸る。



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:20:25.63 ID:F3jISvOM0
「ジャム連邦共和国政府統合司令本部の者だ」

 深夜の学校の正面玄関の扉が軽く、手袋の下で折り曲げられた指の甲で叩かれる。
宿直室の明かりが灯り、しばらくすると寝巻にカーディガンを羽織ったミミが
スリッパのかかとをぱたぱたと鳴らしながら現れる。
 白い当局の制服に身を包み、赤いマントを垂らした食パンマンだった。

「食パンマンである」
「御苦労さまです。お待ちしていました」

 そう言うと亜人の教師はガラスのはめ込まれた
扉にかけられた二つの鍵をはずしてパン戦士を校舎の中に招き入れる。

「首尾は?」
「こちらの思う通りに進んでいます」

 非常用通路を示す緑色の照明以外は落とされた暗い廊下を、
スリッパとブーツのふたつの足音が並んで歩いて行く。



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:25:40.09 ID:F3jISvOM0
「ドキンちゃんは、あの部屋です」

 やや先に立って歩いていたミミが、一つの教室を指さして囁くように言った。

「もう寝ているようです」
「分かった。御苦労」

 そう言うと食パンマンはミミを制止して、一人で廊下を進み、その教室の前に立った。

「お迎えにあがりましたよ、お姫様ァ!」

 と少女を威嚇するかのような大きな声を上げながら、
その引き戸を勢いよく開ける。暗い部屋の中を素早く見渡す。
机が不自然に積み上げられた一角に、ゆっくりと近づく。

「ドキンちゃん!私だ。食パンマンだ。ちょっと一緒に遊ばないかい?」

 声のトーンを落としながらも、有無を言わせぬ口ぶりで暗闇に話しかけながら
白いパン戦士は、教室の後ろの角にバリケードのように積み上げられた学習机を一脚ずつ取り除いていく。
取り除き終わる。

「ミミ先生、ここにドキンちゃんは居ないじゃあないか」

 食パンマンは不服そうな表情を浮かべながら廊下の方に振り返った。
乾いた発砲音が連続して十回、小学校中に轟く。食パンマンの腹部に数発の銃弾が食い込む。

 振り向いた先には政府から特殊な任務―――彼女の場合はプロパガンダの任務に就く者に支給される、
弾倉内の弾丸すべてを発射し終えて遊底が後退したままになって硝煙を燻らせている
小型の拳銃が握られていた。



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:28:14.80 ID:F3jISvOM0
「驚いたな。どういうことか説明してもらおう」

 それ以上の攻撃は無いと判断した食パンマンは、
裏切りを示した彼の側の体制に帰属するはずの工作員への事情徴取を開始する。

「どういうことも何も!こういうことよ!」

 ミミ先生は空になった拳銃をパン戦士に投げつけ、そのまま素手で躍りかかった。



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:33:23.14 ID:F3jISvOM0
「この輝点(ブリップ)はバイキンUFOです。高速で街の方に向かっています」

 撤退中のアンパンマン号内部から、基地最深部の『J.A.M.』のもとに最新の情報が送られる。

「奴は居城に何かあった時に、あのドキンとかいう娘を匿うべく、
 街の小学校と話を進めていた。そして先程、小学校に食パンマンを向かわせた」

 またバタコンナの知らない情報だった。そこまでの情報収集能力がありながら、
ジャムはあまり彼女に生きた情報を回さない。軽く歯噛みをしてから尋ねる。

「本機は動力系に大きなダメージを受けています。バイキンマンの機体にもかなりの損傷があるとはいえ、
 その速度を追跡するのは不可能です。食パンマン一名でも迎撃任務は遂行可能だとは考えますが、
 バックアップがあった方が盤石であるとも考えます」
「アンパンマンを向かわせた」

 総統は面倒臭そうに答えた。

「……了解しました。私は、学校の方は彼らに任せて基地に戻りますか?」
「いや。アンパンマン号自体も、今夜バイキンマンをどうにかすれば当面は不必要な機材になる。急いで修理する必要もない。街の入り口に停車させて君も学校に向かいたまえ」
「了解しました」

 もう勝った気でいる。彼女はそう思った。間違いなく『J.A.M.』という存在は
その思考力において圧倒的にバタコを超越している。
今回の予見も、間違いなく彼女の予測よりも確度の高いはずだった。

「もう少し。もう少しよ」

 彼女はそのパワートレイン部に損害を受けたマシンの動力部と、
そして自分にそう言い聞かせながらクラッチを繋ぎなおしてアンパンマン号を前進させた。



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:38:39.53 ID:F3jISvOM0
「なにが起きてるのカービイ!」

 校舎に何回かに渡って響き渡った火薬の炸裂音を耳にしてから
ずっとうずくまって震え続けるカバオに触発されるかのように、

 自然に恐怖が込み上げてきたドキンは、落ち着き払ったように見える頼もしい彼女の執事に質問した。

「……敵の方が、一枚うわ手だったようです。この場所は安全ではありません」

 その静かながらも、恐らく確かであろう話を耳にしたカバオは過呼吸ぎみになった。
手を口に押し当てて懸命に回復を図っている。

「どうするの?逃げるの?」

 状況を察したドキンは、今度はかなり声のトーンを落として尋ねる。

「いまのところ、まだ追っ手はひとりのようです。もう少し様子を見ましょう」
「大丈夫なの?」
「大丈夫です。現在、ヴァイキン様もこちらに急行しています」
「『急行』ってことは、私たちみたいにコッソリ飛んでるわけじゃないのね」

 カービイは少し後悔した。言葉を選び損ねた。嘘はつきたくなかったが、
もう少しだけこの思っていたよりも少々頭の回るお姫様を安心させる言葉があったはずだ。

「状況は刻々と変わっているようです。ちょっと失礼します」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:43:47.21 ID:F3jISvOM0
 そういうと老カビルンルンは何か思念を仲間に送り、数秒してから突如として分裂を開始した。
ドキンも永らく付き合いのあるカビルンルン一族だが、
その分裂の様子は初めて見る。数十秒で終わる作業のようだが、かなりの苦痛を伴うようにも見えた。

 そして分裂した二つのカビルンルンが、それぞれもう一度、分裂を始める。
そうして都合四体のカビルンルンが、ドキンの目の前に現れた。
 その様子を見てカバオの過呼吸が収まった。

「どうも失礼しました。状況が状況なので……」
「カービイ、これはバイキンマンに聞いたんだけれども、あなたたちは全体でいつも同じ人数が居て、そのバランスをまもっているっていうお話なんだけど」
「はい。この場に応援を呼ぶために、基地のカビルンルンが三名、自決をしました」
「それって……」
「それで、その定数割れを補うために、今ここで新たなカビルンルンが生まれたのです。我々は生まれた瞬間に仲間の記憶や認識を全て共有します。死ぬ時に持っている情報は、残らず仲間が持っていてくれるのです。『死』という概念自体が無いとも言えます」
「でも、苦しそうだった」
「お優しい方です。でももう大丈夫。ではヴァイキン様が到着するまでに、少々段取りを整えておきましょう」

 カービイはそう言ってウインクをすると、
新たな同胞と無言の指示をして部屋から出ていく若いカビルンルン三人を見送った。



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 22:49:08.57 ID:F3jISvOM0
「ヒュー、ヒュー、ヒュー……」

風切音が暗い教室に響き渡る。ミミは咽喉を白いパン戦士に掴まれて宙に浮いていた。

「いい加減にしないと、死にますよ?このグローブの握力の調整が難しいのは知っているでしょう。」

 そう言うと食パンマンは、少しだけその戒めを解いた。

「ドキンちゃんはどこですか?どうして私を撃ったんですか?
 ……なんならこの校舎をまるごと瓦礫の山に変えてもいいんだぞ」

 それを聞いた女教師は肩を震わせた。笑っている。

「だから言ったのよ『思い通りに進んでいます』ってね。あの最後の報告だけは本物。
 アンタみたいな馬鹿が、この校舎を粉々にして
 そこから女の子の遺体ひとつ探す羽目になるかと思うと、笑えるわ!」

 食パンマンは表情を変えずに、またその右手に握る細い首を扼る力を段々と増やした。
食い込んだ指に血が滲み、骨の軋む音がする。そしてまた力を弱める。

「ドキンちゃんはどこですか?どうして私を撃ったんですか?」

話そうとすると、教師は口の中に鉄分の味が広がるのを感じる。
と、そこで涙がにじんで更に脳に送られる酸素が少なくなったため、
かなり霞んだ視界の隅に、拷問者の背後の教室の出入口に見慣れないものを捉えた。



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:14:06.68 ID:F3jISvOM0
―――確か、あれは、カビルンルン。バイキンマンの

 カビルンルンは食パンに気取られないように素早くその触手を使って彼女に現在の状況を伝える。
―――バイキン アト イップンデ クル

「分かったわ。話します。だから降ろして頂戴」

 食パンマンは無造作に放したので、頭がふらつくミミは
そのまま受け身も取れずに床に転がり落ちた。そして咳き込みながら、
ゆっくりと立ち上がり、教室の前の方におぼつかない足取りで歩く。

「ドキンちゃんはどこですか?どうして私を撃ったんですか?」

 もう一度、千鳥足で歩くミミを真っ直ぐ見据えながら食パンマンは聞いた。
 部屋の壁までたどり着くと彼女はライトのスイッチを入れた。
教室の中が明るく照らされる。髪が乱れ、口から血を滴らせたミミの顔が露わになる。
その顔には、美しい笑顔があった。

 そして擦れた声で叫んだ。

「ここよ!バイキンマン!」



162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:19:25.55 ID:F3jISvOM0
 最大戦速で飛行するバイキンUFOは、目標の小学校の校舎に高速で接近していた。
 先に潜り込んでいるカビルンルンから、大体の情報は掴んでいた。

「脱出装置異常なし」
「自動操縦に切り替えてください!」

 カルビンが叫ぶ。

「駄目だ!まだはっきりした場所が分からない!もう少し引き付けるんだ!」
「潜入しているカビルンルンたちも、似たような教室が並んでいるので、
 絶対座標を掴みかねています!何より時間がありません!」

 その時、米粒大から豆粒の大きさまで迫った小学校のシルエットに、ひとつだけ明かりが灯った。
そしてすぐさまカビルンルンから通信が入る。

「あの部屋です!いま照明がついたあの部屋に食パンマンが居ます!」

「了解!インプット完了!……ごめんな、バイキンUFO。バイバイキン!」

 ヴァイキンは意を決して座席背もたれの上部にあるワイヤを強く、引いた。



戻る次のページ