喋るアンパンを食う度胸は無い

163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:24:31.75 ID:F3jISvOM0
 急に照明が点いて教室が明るくなったのと、ミミに完全に気を取られていたのと、
そして音速を超えて飛来する物体の音を捉えることができないのとで、
とにかく食パンマンはその瞬間まで何も気づかなかった。

 気配を感じたのは、推力が最大になったままの、
質量二十トン重にも及ぶバイキンUFOが凄まじい音を上げながら
窓ガラスを桟や壁ごとぶち抜きつつ、その外周を取り巻くアダムスキー翼で彼の肩に触れた瞬間だった。

 もう、どうにもならなかった。



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:31:22.53 ID:F3jISvOM0
 城で受けたアンパンマン号の主砲の一撃よりも数段強力な衝撃が小学校全体を揺るがし、カバオは飛び上がったが、ドキンは意外と冷静だった。

「バイキンマンね」
「はい。今のでどうやら追跡者は倒したようです」
「バイキンマンは無事なの?」
「はい。もうすぐ屋上に着くようです。行きましょう」

 一通りの通信を終えて情報を整頓したカービイは、とりあえずの安全の確保を確信してドキンに促した。

「すぐにUFOを立ち上げる必要がある?」

 屋上に向かう途中、廊下を走りながら彼女は執事に訊ねた。

「はい。ヴァイキン様の機体は先ほどの一撃でもう……そしてこの場所は敵に掴まれています。
 先ほどUFOで来たばかりなのでエンジンはまだ冷えていないはずです。ヴァイキン様が降下してくる前に、準備を整えてしまいましょう」



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:36:50.88 ID:F3jISvOM0
 カービイは器用に触手を操って、ドキンの速度に合わせて走りながら答える。息の切れたカバオが遅れを取る。

「カバオ!あんた何でついて来るのよ!」
「そんなこと言わないでよ!ボクだって戦いたいんだ!お父さんとお母さんのカタキを取りたいんだ!」
「それはうちのバイキンマンがやるから、あんたはここで見てなさい!」
「そんなこと言わないでよ〜、うわ」

 階段の踊り場で蹴つまづいた少年はそのまま派手に転んで壁に頭をぶつけて気を失った。素早くカービイが近寄って様子を見る。

「気絶しているだけです。命に別条はありません。行きましょう」

 それだけ言うと、再び先頭に立って走り始める。

「ごめんね、カバオ」

 ドキンも走り始める。



168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:42:05.72 ID:F3jISvOM0
 屋上に続くドアをカービイが開け放つと、ドキンの顔に夜の涼やかな風が吹き込んだ。
すぐさま表に出て、彼女は降下してくるはずのパラシュートを求めてぐるぐると上空を探してみた。
上を見たまま回転して、軽い空間識失調に陥る。

「なにここ、ビキビキにひび割れてるじゃない」

 ドキンの足元はバイキンUFOが突入した衝撃でコンクリートがめくれ上がっている。 
そうこうしている間にカービイはドキンのUFOに被せられていた迷彩シートをとり払い、
風防を開けてエンジンを暖機運転させ始めていた。
 UFOの立ち上げ準備にかける人員はひとりで充分と判断したドキンは、再び夜の空を見上げて、
ヴァイキン探しの作業に戻った。

 その時、北の方から何かが飛んでくるような音が近づいてきた。
 一応、設計上は超音速でヴェイルアウトしても五体満足な状態でパラシュート降下をして
脱出は成功になることになっていた。一応、その設計思想はうまく実装できていたらしく、
ヴァイキンは随分と久しぶりのパラセイリングをしていた。



171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:48:15.74 ID:F3jISvOM0
「南風三メートルです。目標の小学校屋上、現地は東南東二メートルの風だそうです。
 とくに障害になりそうな電線などはありません。このままアプローチを続けて下さい」
「はい、了解」

 ヴァイキンは胸元にぶらさがる誘導員の指示に答えて、落下傘のロープを柔らかく操作して
軽く右旋回をかける。緊急脱出をして愛機を木っ端微塵にしてしまったとはいえ、夜空の散歩は気持ちのよいものだった。

「いい眺めだな。風も気持ちいい。なあカルビン」
「はい。カビルンルンの中でもこんなパラシュート降下を体験をしたものは居ないようです。みんなで楽しんでいます」

 ゴウゴウという風の音に負けないように、カルビンは少し語気を強めて言った。

「なあ、パン工場ってのはどっちかな?」
「ここからだと北になるので、あっちですね」

 カルビンは左の方角を指差した。

「どれどれ」

 再びヴァイキンは手綱を操り、今度はパラシュートを左に旋回させる。



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:53:18.14 ID:F3jISvOM0
「やっぱり暗くて……あの遠くのライトが点滅してるところ、そうかな?」

風が入るので少し目を薄くしたまま彼はカビルンルンに聞いた。

「ヴァイキン様、あの点滅する赤と黄色のライトは、こちらに高速で接近しています!
 間違いありません!あれは、アンパンマンとカレーパンマンです!」
「何だと!下に着くまであとどれくらいかかる?」
「もう一分は!おそらく奴らより先に小学校の屋上にランディングできます」
「よし、急ごう!」

 そう言いながら、ヴァイキンは亜音速で迫る二機のパン戦士の飛来音を聞きながら
時速十キロメートルほどで降下を続ける。



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 23:59:04.07 ID:F3jISvOM0
「ドキン様!お乗りください!」
「待ってカービイ!まだバイキンマンが来ないの」
「ヴァイキン様なら西です!あっち!あと二十二秒ほどで着陸します。離陸の用意を!」
「あ!ほんとだ!むらさき色って、ほんとに見えないわね」

 ドキンUFOは既にアイドル状態だった。あとはヴァイキンをピックアップするだけである。
定員の二倍の乗員を積んでも、足の速いこの機体なら相手が食パンマンでもない限り、充分振り切れるはずである。

 もうパラシュートがかなり大きく見えてきた。ランディングまであと少し。
ドキンはちょっと久しぶりに会うヴァイキンがうまく着陸したら「ナイスランディング」ぐらいの事を言ってみるつもりだった。
 東風が吹いた。この凪の時間帯に吹くということを誰も予測できない不思議な風が、
小学校の屋上に着地しようとするヴァイキンとカルビンをぶら下げたパラシュートに向かってしたたかに吹き付けた。
大きく煽られる落下傘。急いで体勢をリカバリするヴァイキン。無意識に大きく開いてしまった口を手で覆うドキン。

 ヴァイキンは失速しかけたパラシュートに運動エネルギーを与えるべく、
キャノピの頂上を開き空気を抜いて落下エネルギーを得る。そしてワイヤを操作してその力を推進力に変える。
何とか墜落は免れたが、速度はかなり落ちてしまった。そのままふらつきながら、どうにか屋上のフェンスを乗り越えて汗だくになりながらもランディング。

「っと、なんとか到着……と」
「おつかれさま」

 着地の為に注視していた防水処理が施された屋上の床から視線を上げると、
そこにはほぼ同時に着陸した二人のパン型戦士が腕組みをして待ち構えていた。



176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:04:20.27 ID:zjLycoRG0
「待たせたな」

 ヴァイキンは無視してアンパンマンとカレーパンマンの向こう側の
赤い航空機に乗っているドキンとカービイに声をかけた。

「さて、どうする?バイキンマン」

 最初に声をかけたのはカレーパンマンだった。

「どうするもこうするも無いよ。どいてくれ」

 ヴァイキンは手慣れた動作でハーネスからパラシュートのジグを外し、
パン戦士の方に歩みを進める。
 ずい、とアンパンマンが一歩左足を踏み出す。やや腰を落とし左手を伸ばして右手を引き寄せ、
アンパンチの構えを取る。

「撃つなら撃て」

 ヴァイキンは構わずに近づく。



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:09:35.92 ID:zjLycoRG0
「やめて!」

 あと半歩の間合いで叫んだのはドキンだった。足を止めるヴァイキン。

「お願いバイキンマン、止まって!アンパンマンは本気よ!死んじゃう!」
「ドキンちゃん、行くんだ。おれはどうやらここまでだ。カービイ!」

 声をかけると、カービイはパネルを操作して離陸させる。

「おい、アンパンマンどうするんだあのガキの方は?」
「……特に指令は受けていない。私が受けた命令はバイキンマンをパン工場に連れて帰るということだ」
「ああ、生死問わずで、ね」

 アンパンマンはパンチの構えをしたまま、カレーパンマンにヴァイキンを拘束するように指示する。

「ちょっと、カービイ!このまま逃げる気?冗談じゃないわ!」

 カービイはその言葉に反応せず、無言でパネルを操作して機体に浮力をかける。
そして、大きく舵を切りUFOを二人のパン戦士の方に傾け、エンジンを吹かした!

「馬鹿な真似を!」

 アンパンチの姿勢を素早く解除し、アンパンマンは迫りくる真っ赤なドキンUFOを両手で受け止めた。

「だーから言わんこっちゃない!」

慌ててカレーパンマンも加勢に回る。



180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:14:51.58 ID:zjLycoRG0
「今ですヴァイキン様!乗って下さい!離陸します!」

 カービイが珍しく大きな声を上げた。

「いいぞ!」

 それに応えてヴァイキンも叫ぶと必死にドキンUFOに押しつぶされまいと踏ん張る二人のパン型戦士を尻目に、
その機体にカルビンを抱えて飛び乗った。その瞬間にカービイは推力スラストのベクトルを真上に向けようとする。

「そうはぁ……いくかあ!」

 アンパンマンが絶叫した。

「カレーパンマン、私がUFOの上昇を抑える!その間に機体を破壊しろ!」
「あいよっ!」

 アンパンマンが浮力をかけようとするドキンUFOの翼を渾身の力で抑え込もうとする。
カレーパン翼のエッジから離れるタイミングを伺っている。

「させるか!クソクソクソ!どうにか」

とその時、ヴァイキンは手首に装着されたリストウォッチの赤い光点が目に入った。

「そんなまさか……いや、そういうことか!よし」

 ドキンとカービイはそれぞれのコクピットで今までにない強大な外力のかかる機体を必死に制御しようとしている。
ヴァイキンは左腕に巻いた腕時計の中の大きくデザインされたひとつのボタンを、右手の親指で強く押して、そして強く叫んだ。

「来い!バイキンUFO!」



184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:20:04.16 ID:zjLycoRG0
 小学校の屋上のコンクリートが、激しい振動を伴って地響きのような音を上げながら隆起し、
その裂け目からバイオレットカラーの一機のマシンが現れる。バイキンUFO。
推力最大、落下加速度最大でこの建物に突入して無残に、ボロボロに壊れた機体が、最後の力を振り絞って主の呼びかけに応じる。
足下から突然現れた二機目の大きな金属塊のせいで、カレーパンマンはバランスを崩した。

「こっちだ!」

ヴァイキンが竜頭を回転させて最後の指令を飛ばす。もう推力偏向フラップもズタズタになっているはずのバイキンUFOが、
それに応じてカレーパンマンが支えているコンクリートの地面の方に、その質量と膂力をかけた。

 ドスン!大きな音が一度だけ響いた。それだけだった。
カレーパンマンは声も上げずに自分の身体と比べると巨大な二機のUFOに挟まれて跡形も無くなった。
 ドキンUFOの羽根の縁にこびりついたのは、死力を尽くして最期の機動を描いたバイキンUFOのオイルなのか、それとも―――

「悪いわねアンパンマン」

衝撃から立ち直る前に、ドキンは機体に内蔵された水圧砲を半自動で照準し、
至近距離にいたアンパンマンの頭部を撃った。最後の正規パン戦士は大きな力をまともに受けて、
バックリと裂け目の入った校舎の屋根を、激しく転がり、金属製のフェンスに全身を激しく打ち付けてその動きを止めた。



185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:25:07.42 ID:zjLycoRG0
「行こう」
 スマートな機体に四人で搭乗するのはいささか窮屈ではあったが、ヴァイキンは一同を促した。
兎も角も、戦力も体力も消耗が激しすぎる。一度、バイキン城に帰る必要があった。

「待ちなさい!」

 離脱しようとしたところで、何者かに呼び止められる。廃墟のような屋上を見やると、
そこにはジャム連邦共和国軍の白い軍服を着た士官が、大型の軍用拳銃で真っ直ぐ彼らを狙っていた。バタコだった。

「行くぞ」

 銃声。カービイの体が、大きく傾く。

「カービイ!」

 ドキンが操縦桿から手を放して執事に飛びつく。

「次はドキンちゃんを撃つ。投降しなさい」
「バタコ少佐!」

 ヴァイキンは半ば浮き上がったUFOから、再び屋上に飛び降りた。

「パン戦士たちは全滅した。もう今日のところはおれたちの勝ちだ!あきらめろ!」
「何を馬鹿な!この引き金を引いてお前を撃てば私たちの勝ちだ!ナインハルト・ヴァイキン!
 お前を始末すれば、この世界は完全な調和を持つ『完全な管理』の体制ができあがるのだ!」
「『完全な調和』だと?『完全な管理』だと?そこに生きる者たちを駆逐して、
 圧倒的な力で抑えつけて、それが平和だとでもいうのか!」



189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:30:25.71 ID:zjLycoRG0
「カービイ!目を開けて!」

 バタコの銃口が、ヴァイキンの眉間からゆっくりと下ろされ、鳩尾のあたりを狙ったところで停止する。
これで撃てば、多少の動揺を持って銃口が大きく跳ねてもその距離ならば胸、もしくは頭から外れることは無くなった。

「では聞こう、ヴァイキン元主任研究員どの。あなたはなぜ戦うのですか?
 自分の姿を、そんな醜い格好にされた憎しみがまずあって我々の邪魔をしているのではないのですか!?」
「え……元主任研究員?」

 銃弾を受けたカービイの止血をしていたドキンが動きを止める。ヴァイキンは舌打ちをした。

「……ああそうさ。民族解放だとか、そんなお題目を今さら持ち出すつもりもないよ」
「その憎しみが、我が『J.A.M.』の『管理』によってもたらされる『平和』を脅かしているということについて、ひとことお願いします」

 バタコの口ぶりが静かになった。ヴァイキンはこの女がこういった慇懃な口調になるときは、怒りを秘めている傾向があることを知っていた。

「答えろ!ナインハルト・ヴァイキン!お前は私怨に駆られてこの体制づくりを邪魔しているだけだろう!」
「だから、そうだと言っただろう!おれをこんな身体にしてくれたジャムのじじいに
 今さら何を言えってんだ。だけどな、それだけじゃないぜバタコンナちゃん」

 耳に馴染みのない二人称を使われて、一瞬バタコの視線が揺れる。がしかし、すぐに真っ直ぐ刺すような眼差しを取り戻して、
拳銃の引き金に掛けられた人差し指の第一関節より先の部分が、血行を失った白さを取り戻す。

「他には何があるというのだ!」
「受けた恨みを返せぬ者は、受けた恩を返すこともできない。復讐は平和の為にある」
「何を!」
「あんたも気付いているはずだ。この星の上で人間のままでいるのはもう、あんた一人なんだろバタコンナちゃん」



191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:35:37.72 ID:zjLycoRG0
「黙れ!」

 引き金が真っ直ぐ後ろに引かれる。シアが落ちる。拘束を解かれた撃鉄が、
スプリングの力によって固定軸を中心に回転運動をし、
その先端がチェンバ内に装填された弾丸の尾部の雷管に当たり、
プライマパウダが発火してその炎は瞬時に発射薬に引火した。
銃腔内を高圧の燃焼ガスが走り、弾頭を銃身の螺旋線条で薄く削りながら前へ前へと運ぶ。
 銃声が銃口と排莢口からほどばしる。飛翔。ザップ!命中。

「な!アンパンマン!」

 一番驚いたのはヴァイキンだった。間違いなく彼の正中線上に命中するはずだった銃弾は、
突如として駆け込んだアンパンマンの手刀によって軌道を曲げられ、ヴァイキンの脇腹に突き刺さった。

「なにをするの!アンパンマン!」
「……もう、やめましょう。少佐、いえ、バタコンナさん」
「は!あなた」

 先ほど水圧砲を食らって激しく転げ回ったせいで、そのパン戦士の頭部燃料タンクでもある顔面はひどく損傷していた。

「チップね。チップが外れたのね……」
「はい。おかげで何もかも、思い出してしまいました」



193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:41:18.94 ID:zjLycoRG0
 パン戦士たちを、その統率システム『J.A.M.』の手足のように運用するために、
彼らの頭部には指令を受信するための小さな機械がインプラントされている。
それが外れてしまうような衝撃を受けたりした際には、通常は新たなチップを埋め込まれた
新しい頭部に交換することで、彼らパン戦士は制御を受けていた。

「バタコさん、もう終わりにしましょう。ジャムおじさんは、ちょっとやりすぎてしまったようだ……」
「もう、私は戻れないところまで来てしまったのよ」

 バタコは一瞬閉じた目を再び、開いた。
 今一度、ほぼ水平に持ち上げられた拳銃。その重さは女が腰に下げるには少々重いが、
発砲時に跳ね上がる銃身や射手の手首にかかる衝撃を吸収するという禍々しい優しさをも秘めているものだった。
 ずしり。
 その重さが唐突に自然律に反した質量を発揮する。バタコは拳銃をその小さな手で保持することができなくなり腕を下ろす。そこには一人の亜人の子供がぶら下がっていた。

「君はカバオくん!危ないからどいて」
「ダメなんだよバタコさん!撃ったらだめだ」

 少年は華奢な十本の指で抱えられたバタコの拳銃から手を離さない。

「ミミ先生だって戦ったんだ!ぼくだって!」

 カバオはその大きな口を開け、女士官の腕に噛み付こうとした。そして銃声。



199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/26(土) 00:47:06.54 ID:zjLycoRG0
 UFOの底部から伸びた、人間の手首から先を模したマニュピレータに拳銃は握られていた。
オペレートを終えた少女は大きなため息をつく。

「ごめんなさいねバタコさん。急いでやったから」

 武器を失ったことに気づき、何本か骨が折れて意志を失っている自分の指に気づき、
そして自らの目的を達成することも恐らく永久に折られてしまったことに気づいてその場にしゃがみ込んだバタコに
ドキンは一応声をかけた。

「いい腕だ。おれよりも上手かも知れない」
「機械の性能がいいのよ」

 赤い胴体に素早くアームを仕舞い込みながらドキンは珍しく謙遜した。



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