普通の人がエロゲーっぽい世界の主人公になったようです

161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:41:00.95 ID:ufRg5Jdv0
もうやだ。
なんか、毎日がやってらんない。
最近、変な人間に遭遇しまくる。すっげぇ憂鬱だ。

こっちは両親いねぇから、精神的に不安なのに。
心労と疲労で机につっぷせば、接着剤が声をかけてくるし。こいつ、空気って字が読めねぇのか。


授業を消化する。ちょっと分からないところがあった。
先生に聞きたかったが、なんか優等生ぶっていると思われるのが怖くて出来ない。
成績よりも社会的外聞。実際、学校なんてそんなもんだ。

自分が異端になりたくないから、皆、同じ行動をする。
異分子排除は基本的な行動だ。
いじめ、なんてくだらん言葉だが、まあそういうのがあることを知ってて、生徒たちは通っているんだ。

チキンな俺は、分からないところを教科書見て調べた。
やっぱ分からなかった。ちょっと泣きたくなった。



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:47:44.76 ID:ufRg5Jdv0
昼休み。
頼んでもいないのに、接着剤と金髪と円谷がこっちに来て、一緒に食うことになった。
食堂で食べてたら、なんか抹茶がひとりでカレーうどん食ってた。
接着剤はそれを見るなり、「ひとりで食べているなんてかわいそうだ!」なんて言い出した。

あれよあれよと話が進んでいって、気付けば、なんか抹茶と一緒に飯を食うことになった。
なんか、金髪とかが抹茶に話しかけているけれど、基本的に無視されている。

だからさ、行き過ぎた好意とかは迷惑だし、こういう偽善精神の対象にされることって、他の何にも増して屈辱なんだっつーの。
つーか、接着剤たちの考えはわけ分からん。普通にほっときゃいいのに。


なんか一緒に飯を食べることすら、超絶的な苦痛を感じてきた。
仕方ないので窓の外を眺めていたら、なんかあの電波幼女が見えたような気がした。
幻覚を見てしまう辺り、俺の疲れも相当なもんだと思う。



昼休み終わり前に、抹茶と円谷の食っていたカレーうどんが跳ねて、俺の服についた。
もうやだ。精神的に理不尽な思いしてきたけれど、物理的なのはマジ勘弁してください。

もう、怒るとか怒らないとか許すとか許さないとかどうでもいいから、俺のこと放っておいてくれ。



173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:54:04.19 ID:ufRg5Jdv0
そろそろ精神的に磨耗してきたので、なんか気晴らしのようなことをしてみようと思う。
学校が終わり、接着剤がこちらのことを見てきたが、こいつと一緒にいるとパントテン酸の減少が著しい。
ストレスのせいでハゲになりたくないんで、無視して教室を出て、廊下を歩く。

その途中、金髪がこっちの姿を見るなり、そっぽを向いて

「あ、アンタがいいなら、一緒に帰ってやってもいいけど……」

なんてことを言いやがった。


あー、もうね。ウザいとかそういうレベルの話じゃないね。
つーか、俺、ひとつ疑問なんだけれどさ。



どうして、こいつら、自分のやることなすことに疑問をもたないの?
普通、自分が間違っていることしているかそうじゃないかって、相手の反応見て決めるもんだろ。
そうやって手探りの術でいって、少しずつ相手が不快に思っちゃう態度とか理解して、ゆっくり関係を築くもんだろ。

どうしてこいつらは、自分のことをそこまで正しいって認識出来るんだ?

自分という存在って、自分が思っている以上に無能なのに、何故にこんな自信がもてる?
もうわけ分からん。こいつら気が狂っていやがる。同じ空間の空気、吸いたくない。



178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:00:49.22 ID:ufRg5Jdv0
俺は、金髪のことを見て見ぬふりして通り過ぎ、廊下を走った。
ぶっちゃけた話、逃げたってことだ。

やだ、もう嫌だ。
なんで俺の周りには、こんな一方通行人間しかいないんだ?
マジで憂鬱になってきた。



学校を出て、俺はぶらぶらと歩く。
やはり散歩はいい。柔らかい日差しを浴びながら、適当に闊歩するだけなのに。
散歩というのがいかに偉大か分かった気がする。うるせぇのがいないのも原因のひとつなんだろうけれど。

なんつーか、俺はもう疲れた。
歩いている時は感じないんだけれど、円谷とか接着剤とか金髪とか抹茶とかと一緒にいると、頭の中がおかしくなる。
あの電波幼女もおっそろしいし。

あれか? 俺は誘蛾灯か? 人の話を聞かないやつばかりを集め寄せる道具か?
そう考えるとすごい憂鬱になったので、とりあえず道を歩くアリを五匹ほど踏み潰した。
あ、靴が汚れる。アリってうざい。



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:08:48.15 ID:ufRg5Jdv0
適当にぶらぶら歩いていると、俺はいつの間にやら、森の中にいた。
風にさやぐ枝葉の音が気持ちよく、思わず眠ってしまいそうになるも、自粛。
こんな場所で寝ていたら、虫とか口の中に入りそうで怖い。

とりあえず、俺は散歩を続けることにする。
すると、深い深いしげみの中に、あるひとつの山小屋があることに気付いた。
木製の、ログハウスみたいな感じのやつだ。

思わず感嘆の息が漏れた。
こんな深い場所にあるのならば、他の人は気付かないだろう。
どこか貧乏くさいつくりだが、それも情趣を醸しているからよしとする。

俺は、その小屋に足を進めていた。
何を考えていたわけでもない。ただ、そのログハウスみたいな家に、興味をもっただけのこと。



187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:14:20.95 ID:ufRg5Jdv0
小屋の中は、くもの巣とほこりばっかりだった。
机とか椅子とか、白いほこりで彩られていて、とかくとかく酷いったらない。
ただ、そこで俺が着目したのは、台所。

そこだけ、ほこりがはがれていた。つまりは、最近、誰かが来たという形跡の証左。
俺はその場所に近寄った。

そこにあったのは、日記のようなものだった。
いや、A4用紙に書かれていたものが束になっていただけだから、簡易的レジュメのようなものかもしれない。

こういうものを見た際、男は少なからず、その謎やらを追及してみたい、と思うものだ。
多分に漏れず、俺もそう。

すぐさま、その紙の数々を見た。
あと、くもうぜぇ。踏みつけた。内臓出た。ざまあみろ、死ね。



193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:21:36.72 ID:ufRg5Jdv0
レジュメの内容は、なんつーか、論文というよりかは、小説みたいなものだった。


『私は、記録する。
 この、不思議な少女のことを。
 いささか興奮気味なので、文体がくずれにくずれているかもしれないが、それは我慢してほしい。
 願わくば、この文が、良心的な人間に見られることを願って。

 寒い、夜のことだった。
 私は、ひとりの赤子を拾った。
 赤子は、衰弱していた。だから私は赤子を庇護した。

 戸籍も何もない、よく分からない少女。されど、ひとりで暮らす偏屈者の私には、一服の清涼剤になった。

 数年が経過しても、私は、この娘を、この少女を、警察に突き出さなかった。
 否、突き出せなかった。


 この少女を、皆、視認することが出来なかったのだから。


 まるで、その少女の存在がはじめからなかったみたいに。
 誰も、誰も、その少女に着目しない。



198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:26:38.94 ID:ufRg5Jdv0
……私は気付いた。
 この少女は、人間の知覚領域の埒外を歩む…いや、難しい話は置いておこう。

 とにかく、この少女は、皆に、認識されない存在だったのだ。
 皆、この少女の方を見ても、誰も誰も、彼女の存在に気付かない。


 当初、私は、この少女の運命を呪った。
 私が支えてあげなくては、そう思った。
 女だてらに、この少女に、母性のようなものを与えていたことは否定出来ない。




 ……体が重い。
 もともと、私は、体が強くなかった。
 仕方ないことだ。いつか人は死ぬ。

 ただ、この少女はどうするべきだろうか?
 誰にも視認されぬ、透明の女。
 たったひとりの理解者たる私が消失する際、彼女の困惑はいかばかりか、語るべくもなかろう。

 だが、ある日、彼女は言った。



201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:30:31.69 ID:ufRg5Jdv0
 「おかあさん、おかあさん! 私と話してくれた男の子がいたんだよ! すごく優しいの!」


 涙が出た。
 悲しくなった。
 彼女は、愛を知らなかった。
 だから、小さな愛でも、ひたすらに、ただひたすらに喜んだ。


 ……もう、ペンを、うまく、にぎれない。
 かんたんに、かく。


 大衆に、認識 されない   彼女は
 愛が   愛を  もと め      


 しあ わ せ     に   な   て』


俺は、レジュメもどきの文を読み終えた。
これは、これはなんという……。



205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:35:20.98 ID:ufRg5Jdv0

…なんという。

なんという、サナトリウム文学のような、ライトノベルなのだろうか。

大衆の心をつかむ、エンターテインメント性もさることながら、人の感心を誘ってやまない描写。
うん、すべてが勉強になる。小説とか、やってみたくなる。

こんな廃屋にライトノベルを置くなんて、なんて偏屈な人だろう。
その意思を受け継ぎ、作家になるのも良いかもしれない。いばらの道だろうが。

俺がそんなことを考えていると。


「……うふふ、見たのね? そのレジュメ」


あの電波幼女が、俺の、背後に、いつの間にかいた。



210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:40:36.09 ID:ufRg5Jdv0
俺は、恐怖に身を震わせた。
何が怖いかって、俺のあとをつけていたように現れる、この女が。
もしかしてストーカーか? そう考えると、体が震えて震えて。

とかく怖い。震えに震えて、何も言えない。



「うふふ、そう。他者に視認されえぬ存在、それが私」

「誰にも見られないのに。ママは、私の存在を認識してくれた。……嬉しかったわ」

「でも、ね? 小さい頃、本当に小さい頃、あなたと出会って。私のことを、『見て』くれた」

「……好きよ。一緒にいたいわ。私を、見て。私を見て、見て、見て!
 ママ以外なの! 私を見てくれる人は! もう死んじゃった、ママ以外なの!
 ね? ……そいとげ、ましょう? ずっと、学校で、あなたのことを見ていたんだから!」



俺は。
俺は……。



219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:45:39.97 ID:ufRg5Jdv0
俺は、この幼女を、蹴りたくなった。
電波にも程があるだろ、常識的に考えて……。
なにこいつ、ここにあるライトノベルみたいな内容のこと語っているんだ? ンな展開は現実的にねーだろ……。

ああ、それがいわゆる厨二病ってやつか。
自分を崇高な存在に見せたいことは分かるけれどさ。そういう発言、どうかと思う。
つーか、ゴスロリ着ていることに意味あんの? そろそろ俺も怒りたくなる。つーか、話しかけんな。

なんか、この幼女は円谷とか接着剤よりもたちが悪い。
自分の発言に絶対の自信をもっている。そこの辺りがマジで怖い。
もう少しバッシングされて、世間を知った方がいいと思う。だのに、この幼女は自信まんまん。

俺がそんな幼女の態度に絶句していると、幼女はいきなり悲しそうな顔をした。
そういう顔、やめれ。PTAにうったえられたらどうすんだっつーの。


「お、覚えてないの…? ひどい、わたし、学校であなたのことを見ていたのに!
 ずっと、ずっと見ていたのにいぃぃぃぃっ!」


幼女は何故かいきなり地団駄を踏み始めた。
なんてこったい。これがいわゆる、ヒステリー、というやつだろうか。
だから女は怖いんだ。特に若い世代は。もうちょっと論理的に怒りの意味を証明してくれ。



224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:51:07.87 ID:ufRg5Jdv0
後先のことを考えないのは、若い世代にありがちだ。
刹那的な快楽ばかりを優先する。そういう人って、いわゆる『馬鹿』なんだろうけれど。
まあ、若者って基本的に馬鹿だから仕方ないのかもしれない。
俺も若者だから、大人たちにバッシングされそうな行動をしたかもしれない。

つーか、この電波は一体、なんなんだ?
押し付けの愛をやって、本気で相手が自分に向いてくれると思ってんのか? だからストーカーは怖いんだ。
まったく、最近のガキの考えることはよく分からない。それがストーカーならなおさらだろう。

俺が沈黙を保っていると、幼女はいきなり決意したような表情で、俺のことを見た。
すっげぇ美人だけれど、俺は電波に興味ない。


「ねぇ、いいのよ? あなたになら、全てを捧げられるから。そう、すべてを……」


そんなことを幼女が言えば、やにわに彼女は服を脱ぎ始めた。
俺は、それを見て、とてもとても恐ろしくなった。

いや、だって、外見幼女に変なことしたら、児童ポルノ法とかうっせぇだろ。
それ以前に、体で男を引きとめようなんて、なんてサノバビッチな考えなんだろうか。

でも、それよりも、俺が怖かったのは別のこと。



228: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:53:34.68 ID:ufRg5Jdv0
大体、今の若者って、セックスの重要性を知らないよね。
セックスすれば子供が出来るかもしれないのに。中学生とかそういうのをしているところ見ると、マジで怖くなる。

もしも子供が出来たら、どう責任とんのさ?
親に庇護されている立場なのに、子供出来たとか……自分で稼げもしないくせに、何やってんだよ。
もうちょっと社会的に地位が安定してから、そういう行動に走るべきじゃないのか? そう思う。
だって、子供出来たりしたら、色々と金がかかるじゃないか。
そんなところまで、親のすねをかじってなんとかするのか? そういうのってひどくないか?

仮に、子供が出来たとして。
中絶手術するのは、悪くないけれどさ。
人殺ししているって自覚、ある? 中絶って人殺しじゃん。

どんな理由とかがあっても、人殺しは人殺しだっつーの。
殺したくない、と言って人を殺すのと、殺してやる、と言って人を殺すのと、一体どんな違いがあるのさ。
とかく、赤子をおろすことは、人殺しと同義です。そして、俺は人殺しになんてなりたくないです。

そりゃ、眼前に女が裸、というのは欲情するかもしれないけれどさ。
俺はロリコンじゃないし、社会的外聞を尊ぶの。

だからセックスなんて出来ないんだよ。怖くて出来ねぇよ。
やっぱり就職してから、だよね。



235: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:58:23.24 ID:ufRg5Jdv0
というわけで、俺はその幼女の行動を無視し、そこにあったレジュメもどきをもって、小屋を出た。
ロリに興味はない。それよりかは、このライトノベルみたいなレジュメもどきに、俺の興味は向いていた。



「ひどい……。あなたが、あなたが見てくれないのなら、わたし……もう、生きるの、やだ……」




背後で肉の潰れるような音したけれど、俺はレジュメもどきに興味むいていたので、そんなの関係なかった。



うん、ちょっと不安定な職業だけれど、小説家というのも悪くないかもしれないな。
らんららーん、ひゃっほおいっ。

俺は、気分良いままに、家へと帰った。




(あっさりとおわり。エピローグに続く)



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